激突
前半 ミルス側
後半 アルト側
の構成になっています
前に本格的な戦いはこれからと言いましたが、まだ激戦に入った訳でもありませんし、私自身あまり熱を感じるような表現をするのは得意ではありません
直感で受けた印象を感想としてぶつけていただければ、勉強になります
魔法使い同士の戦いとは、当然使える魔法の種類、持ち魔力の容量によって勝敗が決まる。
例えば、火の魔法だけが得意でその類いの魔法を主力とする者は、水の魔法を得意とする者に高確率で負ける。作り出した炎が水で消火されてしまうためだ。この時火の魔法を使ったものが、雷を操る魔法を使えば勝算はある。
しかし場合によって、持つ魔力の量の差によっても勝敗が左右される。
例えばその火の魔法を得意とする者が、水の魔法を得意とする者とぶつかり合う際に、大量の魔力を注ぎ込んで火力を強めた炎を出せば、相手の魔法の水を、蒸発させて攻撃をすることも可能である。
そのため、実力に差がほとんど無い魔法使い同士の勝敗を決めるのは、相手との駆け引きになる。
相手の戦法の特徴を分析し、得意とする魔法を知り、特に上級者の戦いでは如何にして相手の隙を作るかが重要な点となる。
言葉を巧みに利用し、心理戦に持ち込むのも手であり、魔法を組み合わせたり本来の用途とは別に使うなど、相手の想像のできないような攻撃を仕掛けるのもありである。
そして実力、もしくは駆け引きの上手い下手を決める経験に差がある場合、下の者が最も恐れるべきものは長期戦。
魔力切れだったり、相手の思う壺にはまったりすると隙を見せてしまい、そこを一瞬で突かれてしまうのだ。
だからこそミルス フィエルは積極的に攻撃を仕掛けていた。
「『ホーリーショック』!!」
「軽い!!『影鞭』!!」
空中を羽ばたき駆けるディアスの背中に立ちながら、ミルスは光の魔法を黒い影を操りながら飛行するイグニスへと向けて放つ。
迫る光の衝撃に対し、黒い魔法剣士は剣に影を纏わせ、鞭のようにしならせて『ホーリーショック』を霧散させた。
しかし影の鞭はそのまま延びて、翼で風を叩く黒色の竜へと襲いかかる。
「っ、まずい!!ディアス!!」
「チィッ!!掴まれ!!!!」
バハムートはイグニスの周りを旋回するように、宙を打ちながら迫ってくる影の鞭を避けていく。
「!!危ない『バリアフォース』!!」
ちょうど飛んで避けた先に鞭が延びてきているのを確認して、ミルスは咄嗟に周りに浮かんでいた光の球八つを集めてシールドを作り出した。
バリィィィンッ!!!!
「っ…!!」
硝子のようにバリアは砕かれ、散った破片が光の粒子となり消えていく。
正面からたった一撃、黒い影の鞭で叩かれただけで、レベル100の魔法使いが唱えた上級魔法が破られた。
そして鞭の雨のような攻撃が止むと、ディアスは死霊使いを向き直す。
「あの一撃はまともに喰らったら危険だ……」
「……また黒い影を使った…」
先程から勝負の流れは変わらない。
魔法は放ってはかわされて、反撃を避けてはまた魔法で攻撃。ミルスとディアスの戦法はヒットアンドウェイで、時間のかかる戦い方をしていた。
しかしそれはまだミルスが、イグニスを分析している段階だからである。
そしてようやくイグニスの戦法を理解できた。
「あの影を使った攻撃は異常なパワーだった。それに比べて最初の影を使わない剣による一撃……、普通に男性が振る剣と変わらなかった……」
「おそらくあれが『死霊使い』の能力。怨霊か悪霊の類いだろうが、あの男は人間の魂を力の糧にしている」
「よく貴様らの頭で理科いてきたな。褒めてやろう」
目で竜を見下ろしながら、イグニスは叫ぶ。
「本来、『死霊使い』が人間の霊魂を操るのは禁忌とされている。その強力さ、そして力を求めてまた人を殺そうとするがためだ」
殺人を犯した数だけ強くなる。
嫌なフレーズがミルスの頭に流れた。
「私の場合、殺した人間の数は十、百では済まない。おまけにその霊魂全てに憎しみや怨みを覚えさせ、怨霊悪霊と言う形で保管している。負の感情を持っている霊の方が、マイナスのエネルギーを多く産み出してくれるからな」
「外道…。あなたの勝手な望みで犠牲になった人達の事は考えないんですか!?」
罪を感じさせていないように思わせるイグニスの言葉に、ミルスは憎らしげに訴える。
されどイグニスの口調は変わらず、
「どうでも良い。霊魂どもは弱肉強食の摂理に従ったまでだ」
その言葉にミルスの怒りは倍増するが、イグニスはむしろそれを期待しているように薄く笑みを浮かべていた。
「許せない………」
「フハハ、私の言葉を聞いた者はみな同じことを抜かす」
「あなたは何の目的で人の命を奪っているんですか!?強くなって何がしたいんですか!?」
「何がしたいか?別に何も目的はない。弱者の命をこの手で散らすのが快いからやっているだけだ」
「そんな事で……、そんな事で罪のない人達を殺したって言うの!?」
目の前のこの男は、本当に人間なのか疑いわれそうなくらいに狂っていた。目的もなく、娯楽の一貫として殺戮を行っているのだ。
残虐なイグニスに対する怒りで、ミルスは奥歯を強く噛み締める。
「ふむ…。罪の無い……か…」
その時初めてほんの僅かに笑顔だったイグニスの表情が変わった。
「貴様の言い方は、罪人ならば殺して構わないと言うことだな?」
「なっ…!?違います!!私は…………」
「否定しても無駄だ。感情的になって口走った今の貴様の言葉は本音だった。聞こう。もし私の殺した人間どもが、今の私のような何人も人を殺めている大罪人ならば、私は罪人か?それとも正義の制裁者か?」
「……っ…!!」
不意を突くようなイグニスの言葉に、ミルスは即答どころか答えることすらできないでいた。
「結局はそう言うことだ。そこから私が何を言いたいかわかるか?罪と言うのは人間が決めた基準と言う量りで決まっているのだ。だから人間が人間自身に白黒つけることなど不可能なのだ」
ミルスにはこの瞬間、イグニスがジャッジマンのように見えた。自分も人間でありながら、同じ人間をアウトサイドから見ているのだ。それは正義の審判であり、同時に残酷なエゴイストだった。
この男は正しいことを言っているようで正しくはない。それは頭で理解できてはいたが、ミルスには言い返せる言葉が思い浮かばなかった。
何と言えば良いのか。何と言えばこの男は理解してくれるのだろうか。
ミルスはどんな相手だろうと、言葉が通じるのならなるべくは話し合い等の平和的な解決を望む人間である。魔王を倒すと言う目標も、本来は魔王と言葉で和解できれば良いと思っている。
ディアスの時の事件も、人間に牙を剥いていた筈の召喚獣に手を差し伸べて、最後は平和的に解決させた。
だが時には即断で、平和的に済ませる事ができないとする時もある。
悪魔、ガルガデス等に襲われた時は、標的がアルトだったため介入する余地が無かった。そのため師であるアルトの戦うと言う選択に従う。
だからイグニスには、何を言えばいいのかわからなかった。
自分はこの男とぶつかり合っている本人ではあるが、直接関わっているわけではない。介入すべきなのはこの男の心。
本来ならば何かしらはあるはずなのだ。イグニスが殺人鬼になった理由、人を殺す理由が。例えばバーサーカーであるラルファのように、人種の違いで人間から差別を受けた事への憎しみなどが。
しかしイグニスにはそんな理由自体が存在していない。そもそも何を考えているのかがわからない。
よって共感すらできていないイグニスに対し、『あなたのしていることは悪いことだから止めて』等と言っても、変わらず残忍な道を歩んで行くのは目に見えていた。
(どうすれば…いいの…、こう言うとき、マスターなら…なんて言うの…?)
レベルが100と言えどもミルスはまだ15歳の少女だ。心はまだ未成熟である。だからこんなときは師の存在に頼るしかない。師ならどう考えるかを基準にしなければ、彼女にはまだ行動が選択できなかった。
(マスターなら…マスター…なら…!!)
「っ!!そっか…!!」
長い沈黙を経てミルスはようやく考えるのを止めて、口を開いた。
「…人間が人間自身に白黒つけることが不可能…?確かにそうかもしれない…」
「ミルス フィエル…?」
「ふむ…。中々理解が早いな」
ミルスの意外な発言にディアスが怪訝な顔をし、イグニスが満足したような笑みを浮かべた。
心優しい主の事をよく知っているディアスは、まさかそんな男の言葉に同意するとは思ってなかった。
ディアスはミルスを知っている。
感情的になれば誰にでも自分の意見を堂々と言えるミルス フィエルを知っている。
バハムートである自分が召喚されアルト オーエンに破れたとき、彼女は危険を顧みないで接触をし、敵であるのにも心配をしてくれた。その時、師から危険だから止めろと言われ、彼女は反発し自分の意思を貫いた。
彼女は正体に気がついてはいないが、リブラントで魔王であるキリアと話したときも、上の人間であったキリアに真っ正面から立ち向かった。内容はアルト オーエンがどうのこうので本人たちには関係はなかったものの、彼女は恋心だろうと隠さずに打ち明けた。
そんなミルスが同調するとは全く想像していなかったのだ。
「私の考えを納得してくれたのなら戦う必要はない。むしろどうだ?私と手を組む気は無いか?」
「っ!?何を馬鹿なっ!!ミルス フィエルは貴様とは組まない!!」
「貴様には聞いていないぞバハムート。手を組むと言っても、手始めに私が貴様の仲間ごとこの町を吹き飛ばす手伝いをしてくれればいい」
「っ!!」
つまりそれは仲間を裏切れと言う事だった。同じ考えを持つのならば、そのくらいの事はして見ろと言うイグニスからのメッセージだった。
それを聞いたディアスは、目をくわっと開く。
少しまずいと宙に浮くバハムートは感じていた。その理由は自分達とイグニスを囲む空間。果てしなく広い空に見えて、実はその空間はさほど広くはない。そしてそこには薄暗い嫌な感覚が広がっているのだ。
本来は闇の召喚獣であるディアスだから気づいた。知らず知らずの内にイグニスの攻撃が始まっているのだ。
イグニスによって相手の精神に干渉する結界を産み出す魔法が張られていた。いつからかは分からないが、途中から攻撃が病んだ事からするとおそらくそれ以降。術者と対象のみに作用するなら、範囲から脱け出さないようにしなければならないため、飛んで大きく動かないようにイグニスは武器を言葉に持ち変えたのだろう。
最初は薄くから少しずつ濃くしていったため、ディアスも今になるまで気がつかなかった。
ミルスの発言の可笑しさから、おそらくミルスは術にかかっている。こうなったら範囲から逃げても、本人が自分自身で術を打ち払わなければならなかった。
だからディアスは内心で焦っているのだ。
イグニスの魔法は強力だった。ディアスがそれに気がつかないように魔法を使用するのもさながら、やはり天才としか言いようがなかった。おまけに精神系の魔法を今まで受けたことがなく、耐性も対処法もわからないミルスがイグニスの魔法に操られる確率は高い。
もしミルスが堕ちたら、作戦は失敗し全員やられる。
ほんのわずかな希望をかけることしか、ディアスにはできなかった。
「さぁ。私と共に来い。人を殺す楽しみを味わおう」
純粋な少女を悪の道へと引きずり込むかのように、イグニスは手を伸ばす。
「でもあなたのしていることは間違っている」
流れ良く少女はその手を払うようにイグニスを否定した。
「つ!!」
「……む………?」
ディアスとイグニスの予想に反したあげく、あろうことかその少女は笑顔だった。
「手を組め?それは本気ですか?だとしたら笑えないジョークですね」
悩み苦しみに吹っ切れたかのような爽快な表情で笑っていた。
「私はあなたの言うことには従いません。理由は何回もくどいですけど、あなたは間違っているから」
「何故そこまで誇らしげなのかは置いておくとしよう。私が間違っている理由はあるのか?」
イグニスはまだ手を引っ込めずに、ミルスに尋ねた。
その笑いと少しバカにしたような言葉、最強であるこちらにそれほどまでの態度をとると言うことは、よっぽど筋の通った理由があるからだとイグニスは想定した。
「そんなものはありません」
「何……?」
しらばっくれたような言い方をするミルス。
とうとうイグニスは拳を作り手を引っ込めた。
「だから理由なんてありません。あなたは間違っている。私の善悪の量りで決めたことです」
「いささか横暴ではないか?勝手に私を悪と判断して、勝手に裁く権利が貴様、人間にあると思うのか?」
苛立たしげに剣を握る黒い魔法使いが、少し上からミルスを見下した。
「そんなのはその人間なんですからわかりません。ですがきっと私の師匠ならこう言うでしょう。『仲間を傷つけようとした、それだけで戦う理由には値する』って」
ミルスの言葉はイグニスと少し似たような事である自覚はあった。明確な理由もなく武力で交わる事は、理由もなく人を殺すイグニスと何ら変わりはない。
それでもミルスは自分に挫折させた。
イグニスは絶対に間違っている。それ以前にまずどこから悪か悪でないかと言う話になっていたのだろうか。
そもそも人の命を平気でたくさん奪っている時点でおかしいではないか。まるで魔法で操られていたような気分だったが、今はハッキリとしている。
イグニスを倒して、その間違いをハッキリとさせる。それがミルスの出した結論だった。
「私の師匠、アルトさんなら理由なんか用意しなくてもあなたに立ち向かいます!!」
「ミルス…フィエル…」
術から完全に解放されたミルスを確認して、ディアスは初めて感動と言うものを感じていた。人の心の成長、という場面に出会ったからか、イグニスの魔法に操られなかったと言う事実から彼女の強さを実感した。
そして空を見上げ、
(やはりこの人間は格が違う…。であろう?キリアよ…)
遠くにいる知り合いに向かって、口に出さないで語りかけた。
「……アルト………。フフ…フフハハハハハハハハ!!!!」
ミルスが言い放ってから数秒間して、イグニスは竜に乗る少女の口から出た人物の名前を一度口にしてから、最後はいつか分からないくらいに腹の底から大きな声で笑った。
「アルト…。それはアルトオーエンのことか!!女よ!?」
「っ!!マスターを知っているんですか!?」
今までの会話で見せなかった最高のテンションで、イグニスはその名前をフルネームで言った。
聞いた瞬間、ミルスは突発的にそこに食いついた。
「フハハ!!やはりアルトオーエンか。どうりでどこかで感じた懐かしい魔力を感じたわけだ。……そうかそうか、貴様はあの男の弟子だったのか女よ」
「質問に答えてください!!あなたはマスターを知っているんですか!?」
行動前にイグニスと知り合いだと、アルトは一言も言っていなかった。そのためミルスは好奇心、と言うよりも不信感を抱いて、イグニスに叫んだ。
「知っている…?まぁ間違ってはいない。かといって知り合いでもなければ、他人でもない…」
「ハッキリ答えてください!!あなたはマスターの何なんですか!?」
「ふむ…。どうやらあの事について、貴様は師から何も聞かされていないようだな」
「あの……事……?」
「どうせ知る必要もない。貴様があの男の弟子ならば、これ以上に無い最高の展開だ。貴様を殺して、その生首をあいつの前に投げてやり、貴様の魂を使ってあの男の息の根を止めてやる」
「っ!!来るっ!!」
殺意を示す宣言をしたと同時に、殺気に満ちた表情でイグニスはミルスを睨み、剣を握った。あからさまな敵意を受け取ったミルスは瞬間的に構えた。それに続き、ディアスもイグニスに向き直り体勢を立て直す。
「苦も感じさせず、一思いに殺してやろう」
「絶対に…負けない!!!!」
そして再び、白と黒の魔法使い同士の衝突が始まった。
―――――――――――――――――――――――
その頃、捕らえられた少女を救いだすために動いているアルトたちはと言うと…………
「さて……。ルナは返してもらうけど、文句は……あるわけないよな?」
ラルファの背中に乗りながら、アルトは一人だけの独裁者を嘲笑っていた。その下のラルファは、その手に優しくアザや擦り傷だらけのルナを両手に抱き抱えていた。
「大丈夫ですか?ルナさん」
「はい。ありがとうございます…」
助けが来てくれた事がすごく嬉しく、ルナはラルファの暖かさにくるまるように体を丸くしていた。
それに対して、アルトに心の中で『擬人化卵』と変な名前をつけられた支配者ブルドは。
「ぐおお…オノォレェェェェェェェ!!!!」
発狂に近いような叫び声をあげながら、頭を掻きむしっていた。
その理由はようやく捕まえたルナに逃げられた事だけではない。
部下が誰一人周りにいないのだ。普段なら柱の影に数人、この下の階に何十人も常駐させており、呼べばすぐに駆けつけられるようにしている。しかし先程から呼んでも、誰一人表れないのだ。それに対して、ブルドはさらに怒りを増幅させているのだ。
その部下が誰もいない原因が、黒髪の少女から告げられた言葉、『反乱』によるものであった。
それはアルトが作戦を始める前に、ヒナタに頼んだあることによるものだった。
ブルドに退けられた町の主要人物全員にかけより、シーナとハルキィアの援護をする形で、ポリスに対して暴動を起こすと言う要求だった。
エリクの町の住人だって、いつまでもこんな男の独裁下に居たくはない無いと思っているだろうと考えての話だった。
しかし当然彼らもその決断には悩まされるはずだ。反乱と言っても、命を落とす人物が現れるかもしれない。そのリスクを考えると、手を貸してくれないかも知れないのだ。
そこでアルトは反乱を起こさせるために、2つの手を使用した。
1つ目は、ゴルドとブルドさえいなかったら町のトップだったアレクサンドリア家の、長男直々の要請であることだ。
聞けば、ヒナタとルナの父親は生前、町のNo.2だったらしい。そのトップが今の無能な独裁者の父親のゴルドであったため、人々の胸の中ではアレクサンドリア議員がトップなのだ。
そこで使用したのが、その息子ヒナタアレクサンドリアによる話の持ちかけ。『父の仇を討ちたい』『無罪の姉を救いたい』等とトップの息子から誘われれば、当然主要な者達の心も動く。
2つ目は約束。アルトが顔を会わせて直接、主要人物達に約束したのだ。
内容は『絶対にこの町をブルドから解放する。だからルナ アレクサンドリアを取り戻す力を貸してほしい』。
まず彼らの心が動いた点は、慕われていた議員の娘が冤罪でブルドに酷いことをされていると言う事実だった。
この2つ、ポイントはみんなから愛されていたアレクサンドリアの息子と娘が関わっている事を利用して、人々に反乱を起こさせる事に成功したのだ。
「本当に好かれてないんだねエッグマン」
「黙らんか!!だれがエッグマンだぁ!!」
「エリクの住人全員が何らかの形で、この反乱に参加している。工場に強制労働させられていた屈強な男性陣は武器を取り、寂しく家に残されていた女性陣は町にあったお前のポスターを燃やしたりしている。悪でないポリスも男達に混ざって戦い、小さな子供たちはポスターに落書きとかしてる。お前…ボッチなんだな」
「黙れと言っておる!!!!そいつらは皆殺しだ!!考えてみろ!?ポリスは銃をもった最強の部隊じゃぞ!?銃の所有を許可されていない平民に、勝ち目は無いはずだぁっ!!!」
「だから僕の仲間も参加してんの。銃が最強とかって言うけど、それはエリクシティの中だけの話だ。冒険者には通じない」
まるで卓球のように、ブルドの緩い言い分をアルトは完璧なスマッシュで打ち返していく。
そうしている間に、ビルの外からは銃声と地響き、そして歌が聞こえてきた。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!貴様あっ!!絶対に許さんぞぉっ!!」
「それはこっちの台詞だ。よくもルナの綺麗な顔と体に怪我をさせてくれたね。縄できつく縛ってボンレスハムみたくしてやろうか?」
「先程から嘗めおって…!!公開させてくれるわ!!」
そう叫ぶとブルドは赤い高級そうな玉座にどっかりと深くまで腰を下ろす。
するとその床が開いて、ブルドは玉座ごと下に降りていった。
「なんだ逃げたのか。臆病なやつだな、どこに逃げても逃げられないのに」
外に出たのならば、村人が血眼で縄を振り回して追いかけてくるだろう。エリクシティから出て逃げたとしても、魔物に食い殺されておしまい。つまりもうブルドにはバッドエンドな未来しか見えていなかった。
「オーエン君。私達もシーナちゃん達の手伝いに行こう。早く反乱を終わらせて、ブルドが逃げたことを伝えないと犠牲者が出るかもしれないし、ミルスさんもイグニスと戦ったままだよ」
「そうだね。ひとっ走り頼むよラルファ」
「あの……アルトさん、ラルファさん…」
ラルファに抱き抱えられながら、ルナが内気そうに声を出した。
「どうしたのルナ?」
「もう大丈夫ですよ。あの男はどこかへ行きましたから」
「いえ…そう言うことじゃなくて…。……その…ありがとうございます……。助けていただいて」
「気にしないでいいさ。記憶がなくても、ルナはルナなんだし」
「そうだね。ルナさんが無事だったからそれでいいんだよ。たぶん他のみんなも同じことを言うから、お礼なんていいよ」
「皆さん…。ありがとう…………、ございます……」
胸に込み上げた熱が、涙となってルナの少し青く腫れた頬を流れた。
「よし。それじゃあ行きます…………よ…、って、わ、わ……!?」
ラルファがアルトとルナを持ち上げながら歩き出そうとした足を上げた瞬間。ビルを大きく揺らす振動が伝わってきた。
ラルファは倒れそうになるのを堪えて、体勢を持ち直した。
「なんだこれは……!?」
「地震では無さそうです……。何かが建物を揺らしてる!?」
明らかに自然なものではないその揺れは、グラグラと玉座の間を揺らす。
「っ!!下です!!皆さん!!!!」
「「っ!!」」
ルナが咄嗟に叫んだ直後、下の階から突き上がってきた何かにはね飛ばされる形で、女子二人の体重を持ち上げているラルファの体が宙に舞った。少し青くずつ離れていき、3人はバラバラにビルの外へと投げ出される。
「くっ…!!」
落下を始める前にアルトは黒い翼を発現させる。次々と降ってくる瓦礫をかわしながら、他の二人を探す。
「ルナ!!ラルファ!!」
「キャァァァァァッ!!!!」
ルナの悲鳴が聞こえた。アルトは視界の隅にルナを捕らえると、彼女はまさに落下の最中であった。
「まずい!!」
大急ぎで彼女が地面に落ちる前に受け止めようと飛ぶ。
ギリギリ間に合うか間に合わなそうな間一髪のタイミングでアルトはルナを受け止め、そのまま彼女を抱いて護りながら地面を転がった。
「……けほっ!!大丈夫かルナ!?」
「ア、アルトさん!!ご、ごめんなさい…、アルトさんは大丈夫ですか!?」
「このくらいはどうってことない………、っ!!ラルファは!?」
もう一人の仲間がいないことに気がつき、首あげると
「私は大丈夫だよオーエン君!!」
金髪の剣士は電灯にぶら下がっていた。どうやら無事のようだ。
「一体何が……?」
「っ!!アルトさん!!」
背後に指差して叫んだルナの目線を追う。
するとそこ、金色のビルがあったところには巨大なメタルボディの怪物が、砂煙を巻き上げながら姿を見せていた。
「なんだよあれ!?」
その怪物は蠍のような姿をしていた。大きな鎌と鋭い尻尾が、ギラリと鈍い輝きを発する。
ラルファはそれを以前見たことがある。
「っ!!あれはジェノサイドスコーピオン!?」
「ジェノサイドスコーピオン?」
数日前にリブラントを襲った兵器、ジェノサイドスコーピオン。
それは本来なら自動で魔物を倒すためにエリクシティが開発した、全長100メートル程のロボットの名前である。しかしジェノサイドスコーピオンは暴走をして勝手に町の外に出ていき、商業が発展していて人が多く集まるリブラントを襲撃した。
その日、ちょうどを集合をした四人の少女とその他のたくさんの冒険者の力により、犠牲者を出す悲劇がなく機械の大蠍は破壊された。
今アルト達の目の前にいる機械の蠍は、その小型版のような感じで、ビルの中に体が収まりきっている事からすると、機体の全長は30メートル程と見られた。そして異なる点が、その腕が鎌であったこと。リブラントを襲ったスコーピオンの手は、鋏であった。
「確か数日前問題になってたあれか…」
「とにかく硬さがうりの兵器です!!」
「硬さ……………ね、」
ラルファの叫んだ言葉の内の1単語、アルトの胸に深く染み込んだ。
『ヌワーッハッハッハッハッハッハァッ!!!!』
突如、瓦礫の山の中の巨大兵器のスピーカーから、聞いただけで不快になりそうな笑い声が鳴り響いた。
『もう許しを請うても遅いぞぉっ、貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!!!その細い腹をこの鎌で引き裂いてくれるわ』
「……ったく、腹も態度もでかいやつだな」
誰が中にいるのかなどすぐに分かる。
アルトはどちらかと言えばスコーピオンではなく、中で反乱を起こしていた住人が無事かどうかを気にしていた。
どうやら中には誰もいなかったと見える。崩壊に巻き込まれた人物もいなさそうだった。
『さぁ今殺してやるぞ!!!!』
「…………オーケーオーケー…」
「っ…、アルトさん?」
鎌の手を大きく開いて挑発をしてくる蠍を一瞥し、アルトは怪我した足でゆっくりと立ち上がった。
「とにかく硬い。別に僕は少年漫画の主人公ではないけど、そんなこと言われたらワクワクすっぞ。僕の魔法とどっちが硬いか確かめようエッグマン」
硬い、と言う言葉に何かライバル心を燃やしたアルトは、足が使えず、飛ぶことしかできないのにジェノサイドスコーピオンを挑発する。
「ごめんルナ。ちょっと避けてて」
「え?きゃあっ!?」
被害を受けないようにするため、アルトはルナを抱き上げて、それを思いっきりラルファのいる方へ放り投げた。
「ラルファ!!キャッチして!!!!」
「ええっ!?ちょっ、ちょっと待って…!?」
急な黒髪少女の行動に動揺しつつ、ラルファは掴んでいる電灯を鉄棒のように駆使して跳び、落下しているルナを捕まえて綺麗に着地した。
「……もう。女の子をそんな乱暴に扱うなんて…。…………だったら私をもっとひっぱたいてほしいのに………」
「え?」
「っ!!何でもない!!」
おそらく本人は乱暴に扱ったとすら思ってはいないだろう。アルトはそういう人間だ。防御魔法の事となると前が見えなくなる、防御魔法オタクだ。
『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!』
ノイズ混じりの爆音と共に、首輪を外された番犬のごとく、ブルドの乗る巨大金属蠍は大きく跳び上がった。
「宣言する!!お前は僕の硬さには敵わない!!!!」
落下の勢いといっしょに五メートル程の鎌が振りおろされるようとしている頭上に、アルトは右手を広げて迎え撃った。
「アルトさん!!!!」
「っ!!オーエン君!?」
二人はその瞬間、張り裂けそう声で叫んだ。
何トンあるのかわからないあの巨体から振り下ろされた鎌。しかも落下によってより巨大なエネルギーをもつ一撃だ。
ルナはアルトの力を知らないため、受け止められないと思った。
しかし、アルトの防御魔法の凄さを知っていながらも、ラルファは叫んだ。ラルファはリブラントでジェノサイドスコーピオンの一撃を受け止めた事がある。大型の方は自分で受け止められる程の威力だと知っている。
なのにラルファが心配をした理由は、小型と言えどあの蠍が大きく飛び上がっての一撃だと言うこと。さらに剣術で受け止められる威力だとしても、それは力をある程度受け流せたものだ。アルトの魔法は主に守るための壁を展開するもの。つまり、アルトは真っ正面からあの強撃を受け止めなければならないのだ。
そしてその二つの力がぶつかり合う瞬間。
現実はラルファの予想外の展開へと繋がった。
「………………え?」
アルトの手から透明な壁が展開されなかったのだ。
あの魔法使いが立っていた場所には振り下ろされた鎌と、アスファルトを砕いてその下の地面から舞い上がった砂煙だけが漂っていた。
最悪な想像がラルファの頭に浮かぶ。
まさか間に合わなかったのか?衝突の直前に魔法を使おうとしていたのだろう。しかしウォール系の魔法の展開は、バーサーカーの並外れた動体視力を持つ目で確認できなかった。
「イヤァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ルナの叫びがただ虚しくビルの合間に響いた。
アルトとイグニスの関係がすごく気になります
後から使う伏線ですので今は関係ありませんね
それでもその謎がミルスの動力となっているので、一応使っていることになるんでしょうか、微妙な点ではありますね
当の壁好き魔法使いはぺしゃんこにされましたね。
しかしネタバレになるのであまり話せませんが……、
これってエッグマンがすでにフラグ建ててますね
機動戦士だったり、パワードスーツ系だったり、機械を使ったもの同士の戦いならそんなこと無いかもしれませんが、この話みたいに敵だけがロボットを操縦するとなると大体そんな感じになっちゃう気が…………………………………………………………………………………………………………………………
とりあえずフラグ回収を楽しみに待ちましょう




