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閑話 勇者と忍び寄る影 前

 深淵の森攻略が失敗し、ヘプシミンに戻る軍に同行し、ロンタたちもテンション低くヘプシミンの地を踏む。

 ツアは用事があるということですぐに軍から離れ、ロンタたちは任務が失敗したとはいえ手を借りていたことは事実なので、その礼を言おうと軍と一緒に王都へ向かう。

 凱旋といった雰囲気ではない兵たちを、民は近頃の不安定な治安のこともあって、穏やかとはいえない視線で見ている。

 城に上がったビュートたちやロンタや傭兵の代表者はやるべきことをやろうと動く。ビュートと副騎士団長は王に失敗の報告を、直属の配下は報告書提出や傭兵たちに払うお金の支払いに、傭兵たちは森で得たものを提出し賃金を得る。


「命令に反して帰ってきたと」


 若き王は、ビュートたちの報告を聞きだしてすぐに玉座の肘掛を指でトントンと叩き出し、聞き終わると苛立ちを隠せない表情でビュートと副騎士団長を見る。

 王のそばに立つ者は親王派で固められている。だがこれは王を甘やかすというわけではなく、諫言を躊躇わない者たちが集まっているということで、日々の小言に王のストレスは溜まり気味だ。


「森の抵抗は思いのほか強く、援助がないとなれば続行は不可能と判断しました」

「物資援助はすると指示を書いて送ったはずだが?」

「足りません。物資が万全の状態で届くならばともかく、道中の吸血鬼どもをどうにもできていないあの状況では物資不足でした」

「足りないならば足りないなりにどうにかするのが、お前たちの仕事だろうっ」

「そんな状態はとっくに過ぎていました。初日に奇襲を受け、物資不足となった時から兵たちには節制を強いていました。そんな状況では士気は維持できません」


 だがっと声を荒げようとする王を宰相が嗜める。


「戦のことは、実戦を経験していない我らには理解できない部分があります。ここではなんとでも言えますが、実際に動くのは兵たちなのです。彼らが無理と判断したのなら、無理なのでしょう」


 なにかを言いたそうな表情を浮かべた王だが、怒鳴り散らすわけにはいかず、ぐっと言葉を飲み下す。

 ビュートは視線を寄越した宰相に、僅かに頭を下げ感謝の意を送る。それに宰相も頷きを返し、感謝を受け取ったことを示した。


「兵たちを休ませよ! お前たちも報告書を提出した後は休め。失敗の処分はその間に決めるっ」

「はっ」


 一礼したビュートと副騎士団長は謁見の間を出て行く。

 その背を見送り、王は玉座の肘掛に強く拳を叩きつけた。


「はしたないですぞ」

「巨額の費用が無駄になったのだっ。これくらいは見逃せ!」

「たしかに無駄になった費用は痛いですな。それに関してはタンター家とハーベリ家から助力を得られるようですが」


 だろうと宰相が視線を送る先に、ヨムルンゾがいる。


「例の薬師に関しての評価を改めてもらえるならば」


 一礼をしながら言うヨムルンゾを見た王は、苦虫を噛み潰したような表情となる。


「妥当なところですな。こちらでヨムルンゾ殿と詳細を話しておきますが」

「好きにしろっ」


 苛立ちが募る王に、勇者たちの来訪を知らせる声が聞こえた。

 王の苛立ちはまだまだ続く。


 お世辞にも良いとはいえない王との謁見をすませたロンタたちは、与えられた部屋で今後の行動を話していた。この部屋にオロスはいない。エイスベルクのところに行っているのだ。


「魔王の暴走について調べてみろってことだったか」

「心当たりは占い神殿くらいだなぁ」


 カルマンドの言葉に、兄の太腿を枕にソファーに寝そべったレラが頷く。


「だねぇ。あいつの言うとおりに動くのはしゃくだけど。次の目的地は神殿かな」

「その次はセジアンド王に報告して修行だな」


 ミュールに会えるとロンタの声が少し弾んでいる。レラの表情に少し嫉妬が現れた。

 嫉妬を散らすように妹の頭をくしゃくしゃと撫でつつ、カルマンドが思いついたことを口に出す。


「もっと効率的な修行はないものかな。そこらへんを城の書庫で調べさせてもらいたいね。普通の修行だとこれ以上強くなれるかわからないし」

「あるのかな、そんな都合のいい方法」


 兄の手を払いレラは溜息を吐く。青春時代が修行で流れていくことにわびしさを感じていた。セリエの充実っぷりを思い出し、余計にテンションが下がっている。

 ロンタの関心がミュールだけに向いているのは、とうに気づいている。今後も頑張るのか、諦めるか、ぼんやりと考えていく。本来の流れならばセリエが身近なライバルとしていて、振り向かれないことを悩む暇もなかった。

 今後についてそれぞれが、それぞれなりに考え静かに時間が流れていき、オロスが帰ってくる。


「おかえりー」


 充実組の一人の帰還にレラのテンションはさらに下がる。迎えられたオロスの表情もいいとは言えない。


「どうしたんだ?」

「エルクが倒れていてな」

「病気かなにか?」

「いや毒らしい。騎士団内でのごたごたが原因なんだと。消したはずの火が燻り、今になって燃え上がったらしい」


 つまりエイスベルクがトップに立ったことを不満に思った者が、不安定な現状をチャンスだと暗殺に動いたのだ。この裏には交渉組に刺客を送り込むため、傀儡派が煽ったという背景がある。

 ことをなすために使った人たちは騎士も含めて、傀儡派が念入りに消したので親王派が知るのは不可能だ。そのためなにか裏があるとは思うものの、情報入手の方法がなくなり、騎士団内のごたごたということ以外の判断ができなかった。


「それは心配だね。命に別状は?」


 体を起こし、羨む思いが消えてレラも純粋にエイスベルクの心配をする。


「峠は越えている。普通に話すことができたが、動くのは辛そうだ。それでだな、次に行くのは占い神殿なんだろう?」


 繋がりのないような話題に首を傾げつつもロンタは頷く。


「俺はしばらくここに止まろうと思う。エルクの家に厄介になれそうだ。エルクが回復すれば、ライトルティに向かう。許してもらえないか?」

「……心配する気はわかるし、俺はいいと思う。しばらくは厄介事があるわけじゃないし、オロスが抜けても大丈夫」

「俺もいいですよ。エイスベルクさんとゆっくり過ごしてください」


 レラは諦めるかといったことを思い出し、少し考える様子を見せる。離れて過ごしてみるのもいいかと思えたのだ。


「レラ? 反対なのか? それなら仕方ないと諦めるが」

「ん? いやいや反対じゃないよ! エイスベルクさんを大事にね!」


 思考から我に返り、慌てたようにエイスベルクの健康を願う。

 三人にありがとうと礼を言うと、オロスは荷物をまとめ始めた。ロンタたちも出発の準備を始め、翌日にはロンタたちは城を出る。

 城の前で、オロスはロータリアン家へ向かうため三人と別れる。


「行っちゃったなー」


 寂しげにオロスが去った方角を見るカルマンド。


「でもずっとわかれるわけじゃないから」


 ロンタの目にも寂しげな色は映っているが、再会を信じていてすぐにオロスの背から目を離す。

 旅支度を整えて、三人もソルヴィーナへと出発した。

 初夏も終わり、本格的な夏の頃に三人はソルヴィーナに到着する。ここ最近は軍での行動で見張りなどをしなくてよくなっていたこと、三人での旅は初めてだったこともあり、無管理地帯の旅に少してこずったものの無事踏破できた。

 すぐに占い神殿に入り、客室で待つことになる。三十分ほど待ち、カートルーナが息を弾ませ入ってきた。早くロンタに会いたくて走ってきたらしい。


「お久しぶりです」


 乱れた髪を手櫛で整え、息も整えて、三人に頭を下げた。頭を上げて三人? と疑問を抱いた。

 嫌な想像が脳裏に浮かび、カートルーナは目を伏せがちに聞く。


「あのオロス様は? 深淵の森でなにかあったのでしょうか?」

「オロスはヘプシミンに残ってる。知り合いが倒れてね、その看病をすることになったんだ」

「そうでしたか」


 予感が外れてほっとした表情を浮かべた。椅子に座り、口を開く。


「森ではどのようなことが起こったのか聞いても?」

「聞きたいことがあったけど、説明した方がわかりやすいかもしれない」


 ロンタは森に到着した日からあったことを話していく。薬師との出会いと戦い、大暴れ、森の探索といった具合に話していき、魔王の発見まで行くと少し止まる。

 今にしてもあそこで斬れなかったのは、悔やまれることだった。


「ロンタ様?」


 悔しげな表情で黙ったロンタに、カートルナーが小首を傾げ話しかける。


「あ、魔王討伐は魔物側の協力魔法で失敗してね、その後は総攻撃となったんだけど、それも失敗。軍は退くことになって、俺たちも一緒に帰ったんだ。んで帰る時にツアという人が薬師たちの伝言を持ってきた。魔王が本当に暴走するのか調べてみろというもので、ここならばわかるかもと来たんだ」

「そうでしたか。こう言ったら怒るかもしれませんが、皆さんもサワベさんたちも無事でよかったと思います。フィナも安心できることでしょう」

「たしかにあれだけ暴れた彼らの無事を嬉しく思われると、少し複雑な思いがあるね」


 薬師たちの邪魔が入らなければ、ロンタも軍も目的を果たせた可能性があるのだ。


「すみません」

「いや責めてるわけじゃないからっ」


 慌てて手を振って責めてはないと態度で示す。


「そ、それで魔王のことなんだけどっ」

「聞きたいことは過去に関することですので、私では力になれませんね。その力を持っている者を連れてきます。ですがその者も過去のことをすべてわかるわけではありません。頑張って破壊地震辺りまででしょう」


 未来を見通せるのが一年という短いともいえる時間なのに対して、過去は二百年以上という長い時間を見通せるのには理由がある。

 過去は既に決まったことで、変えようのない事柄だからだ。人が記す歴史は、見方によって様々な面を見せる。しかし主観をなくし徹底的に客観的に見ると歴史は一定の道筋で流れてきている。

 未来は裕次郎が介入し変化したように、様々な姿を見せる。過去を見るのは、起きた出来事を確認するだけだ。そこにぶれはなく、異能者にかかる負担が少ないのだ。


「それ以前は無理か。それでもわからないよりましだと思う。お願い」


 少々お待ちをと言ってカートルーナは部屋を出る。

 十五分ほどして一人の老齢の男を連れて戻ってきた。六十にはなっていないだろう、少々痩せ気味で少し背も曲がっていた。首に大振りな水晶がついたネックレスをかけて、左手に薄手の手袋をしている。


「こちらはフザールさんと言いまして、過去を見る力は神殿で一番です」

「お初にお目にかかる。今日は魔王について知りたいということでしたね。詳しく知りたいことを教えてもらいたいのですが」

「昔の魔王が自分の意思に関係なく暴れたことがあるのか、ということなんですが」

「わかりました。十五分ほど集中しますので、お待ちくだされ」


 頷くと手袋をしている手で水晶を握りしめ、目を閉じ集中を始める。

 集中を邪魔しないようにと静かに時間が流れていき、汗がにじみ少しずつ消耗していく。十五分経ち呼吸を荒くしたフザールは目を開けた。呼吸を整え、口を開く。


「結果ですが、自分の意思で暴れることはあっても、意思に関係なく暴れた様子はありませんでした。私の見えた範囲では、ですが」

「見た魔王って何人ですか?」

「今の魔王を含めなんとか三人までは」

「三人ともしっかりと意思を持っていたんですよね?」


 確認するように問うロンタへ、そういった反応は慣れているのだろう不快そうな様子はまったくなくフザールは頷きを返す。

 それをうけてロンタは思考を口に出しながら考えを進める。


「王はある時期になると暴走を始めると言っていた。だけど実際には暴走していない。偽の情報を渡したのだろうか? 王のみに伝わる情報とも言ってたっけ。だとすると見てもらった過去よりさらに昔には暴走した魔王がいた? 暴走するかもしれないから退治を依頼したことに? だとすると暴走しない可能性も?」

「兄貴の考えでいくと、俺たちは静かに暮らしていた魔王を暴走する『かもしれない』という曖昧な理由で殺しかけたことに」


 カルマンドの指摘に、ロンタもレラも表情が暗くなる。危険がないわけではないが、自分から動いていたわけではない。静かに暮らしてた魔王を思い込みで傷つけたことに罪悪感が湧いてきた。

 ミュールに危害が及ぶ『かもしれない』という理由で斬るつもりだったが、前提として暴走することは確定していたと思っていた。そこすらも間違いとすれば、自分たちのやってきたことはただの殺人でしかないのではと思う。


「王の言うことを疑えってのも無理な話ですよね?」


 カルマンド自身も重いものは感じているが、フォローするようにカートルーナやフザールに投げかける。


「まあ、そうだの。小さい頃から偉いと聞かされている存在の言うことを疑える方が難しいですな」

「国を動かしている人に逆らうのも、それなりに覚悟が必要ですしね」


 気遣いを感じさせる二人に、ロンタはなにかを言おうとして口を閉じる。


「なにか聞きたいことがあるのですか?」

「あるにはあるんだけど、政治に関わりそうだから聞けないんだ」

「質問だけなら大丈夫ですよ。この流れでいくと王がなにを考えているか知りたいといったところでしょうか?」

「そんな感じ」


 予想通りこの質問は占い神殿の人間には答えられない。だがちょっとしたアドバイスくらいならできる。


「方法としては二通りあります。王に直接聞く。自分の足で情報を集め、そこから推測する」

「直接聞くのは、王の言うことを疑うのかと刑罰が与えられそう」


 レラの予想に、カートルーナもありえることだと頷く。


「自分の足で情報を集めるのは、下手すると怪しい行動を取ってると疑われるかな」


 カルマンドが後者の行動をとった場合の推測を口に出す。ふと思いついたようにさらに続ける。


「あ、例外的行動として王の言うことにそのまま従うって行動もあるね」

「それは……」


 王がロンタに望んでいるのは、言うままに従うことだろう。

 ロンタは迷いの表情を見せる。一度疑いを持ってしまえば、納得する理由を聞けないと魔王へと剣を向けられない。ロンタたちは殺人を好んでいるわけではないのだ。

 

「オロスさんが来るまで待つんだし、それまでに結論出せばいいよ」

「兄さん、他人事みたいに言うね」

「俺は兄貴についていくだけだからね。助けられたときからそう決めてた。どこまでもどこまでもついていく」


 例え国に追われることになってもと心中で付け加える。

 口調は軽いが、そこに篭る意思は本物だ。


「羨ましいなぁ」


 兄の強固な決意に、レラは呟きを漏らす。恋愛事でくっついていた自分とは大違いだと感じていた。


「なにかを悩んでいたようだけど、レラはレラの思うがまま動いていいと思うぞ?」

「気づいてたの?」

「大事な家族のことだからな。無理矢理押しかけて二番目でもいいじゃないか」


 悩みの内容まで把握しているんじゃないかという言葉に、レラは思わずジト目で兄を見る。

 それを今度はカートルーナが羨ましげな目で見ていた。カートルーナは押しかけることすらできない。想いが届く可能性のあるレラが羨ましかった。


「思うがまま、か」


 レラへのアドバイスをロンタも聞いており、自身の思うように動いてたのはいつごろかと思い出していく。

 幼い頃の経験を元に強くなると決めたのは自分。旅に出ると決めたのも自分。さらなる強さを求めたのも自分。

 強くなり、人々に頼られるようになり、王からも頼りにされた。次第に自身で動くのではなく、周りから乞われて動くようになっていった。その結果が今だ。

 ミュールに害が及ぶから魔王に剣を向けた。けれどそれは思い過ごしの可能性もある。

 だとすればこの数年間は、一番大切なミュールをほったらかしにしていただけになる。

 自分の原点がぶれてしまった。

 魔王に危険がなければ、ミュールをほったらかしにしてまで関わることではない。

 これからどうするかと、原点を踏まえて考えることに決めた。


 ロンタたちが街の宿に戻り、カートルーナも今日の仕事を終えて、ベッドに入る。

 裕次郎たちの無事を知らせたときのフィナの笑顔が、カートルーナにとって今日一番の嬉しいことだった。

 眠り始めてどれくらい経っただろうか? カートルーナは夢を見ていた。ラライドア大陸東北東の海を中心に毒が広まり、まず始めにヘプシミンとライトルティの民が、その次にレフテント大陸の国々が、さらに大陸南部、最後に西部と毒が広がっていく夢だ。人間、動物、魔物、種族関係なく皆等しく毒に犯される。

 皮膚に灰色の斑点が現れ、目が赤く染まり、血を吐き、倒れていく。

 そんな地獄のような夢を見る。助けはないのかと必死に捜し求めたカートルーナの視点は大きな森の上空に移り、視点が下がってそこで暮らすぼやけた人影を見つけた。見覚えのある顔で、名前を声に出すと、その自分の声でカートルーナは目を覚ました。

 

「なんて夢っ」


 倒れていく人の苦しみの声がいまだ耳から離れず、カートルーナは自身の体を強く抱く。

 そんなカートルーナの耳に、子供たちの何人かが泣き叫ぶ声が扉越しに小さく聞こえてきた。


「どうしたのかしら」


 ガウンを羽織り、子供たちの寝ている部屋へと向かう。そこでは泣き声に気づいた大人たちが集まり、泣いている四人の子供たちをあやしていた。泣いていない子供たちも泣き声に不安そうな顔をしている。

 カートルーナに気づき抱きついてきた子供の一人をあやし、なにがあったのかと他の子供もあやしている大人に聞く。


「どうやら怖い夢を見たようで」

「夢?」


 視線を子供に合わせて、どのような夢だったか聞く。

 しゃくりあげながらたどたどしく話された内容は、カートルーナが見たものと同じだった。ほかの子供にも聞くと皆同じ夢を見ていた。

 この子供たちは強弱はあれども皆、未来予知ができる子たちだ。

 カートルーナの硬い表情に気づいた同僚が声をかける。


「どうしたの、カートルーナ」

「私も、私も同じ夢を見ました。おそらくあれは予知」

「予知? ということは子供たちが言うような世界のいたるところで死者がでるようなことが?」


 子供たちを不安にさせないよう、自身の恐怖をぐっと抑えて聞く。

 顔を青くし、こくりと頷いたカートルーナに「なんてこと」と呟いて同僚は体を震わせた。


「まだ時間はあります。今から動けばなんとかなるはずです。だから今はこの子たちを落ち着かせましょう。その後、私は神官長にこのことを知らせてきます」

「……まだなにも起きていないのに、慌てては駄目ね。気をしっかりもたないと」


 不安を心の中だけに隠し、同僚は子供たちの世話に戻る。

 一時間かけて子供たちを寝かせ、カートルーナは大人で予知ができる者に確認してから神官長の私室に向かう。既に寝ていて、何度かノックすると部屋の中から物音が聞こえてきて、眠たげな神官長が顔を出す。


「どうしたんだ、こんな時間に」

「夜分遅くに迷惑とは思いましたが、至急伝えなければならないことがあります」

「入りなさい」


 表情からただごとではないと読み取り、カートルーナを部屋の中にさそう。

 椅子にすわるよう勧め、水差しから水を入れ、コップをカートルーナに渡す。


「水ですまないね」

「いえ、ありがたいです」


 一口飲み、頭を下げる。水が喉の乾きを癒すように、心も癒してくれればと考え、小さく苦笑を浮かべた。


「それで用件とは?」

「夢を見ました。私だけではなく、ほかの予知の異能を持つ者も同時にです」

「内容は?」

「海から毒があふれ出し、世界中に害を及ぼします」

「……たしかなのか?」


 占いの正確性を知っている神官長でさえ、内容を受け入れらずに正否を確かめる。


「はい。私だけならばただの悪夢で済ませるのですが、ほかの人たちも同じ内容の夢を同じタイミングで見ているので否定できません」

「いつどこでかわかるかね?」

「あの感じだと一年と少しでしょうか、服装から夏は終っているように思えました」

「一年より先は見えないはずでは?」

「皆が同じ予知をするような事態ですから、能力の限界を超えていたところでおかしくは」

「そうか。王、いや各国に知らせた方が」


 世界の危機だ。自国だけで収められる問題ではない。


「セジアンド王にはロンタ様に頼めるかと」

「そうだね。手紙を持っていってもらおう。そういえば毒の発生源を見つけ、どうにかすることはできないか?」

「翌朝、主だった者たちを集めて、探ってみようかと」

「そうしてくれるか。その結果次第ではこの国だけでどうにかできるかもしれん。王たちへの手紙は準備しておく」

「わかりました。では自室に戻ります」

「ああ、ゆっくり休みなさい」


 カートルーナが出て行き、神官長は大きく溜息を吐いてベッドに座る。

 思いもしなかった大問題に寿命が縮まる思いだ。同時に予知ができる異能者のありがたさも感じていた。

 棚から酒を取り出し、グラスに注ぐ。酔いでもしないと気の昂りで眠れそうになかった。

感想誤字指摘ありがとうございます


》王国、特に貴族と王がダメすぎる。自分たちの選択が何をもたらすか、想像力がまるで足りてない

一個人と魔物相手ですから、舐めてかかるんでしょうね。三年後にまた遠征とかいったら、国が滅びそうです


》すっかり落ち着いて発展編といった感じですが、勇者一行が絡むと荒れそうですね

占いで暴走しないかもとわかったので、討伐に迷いが出始めました


》竜殺しでもそうやったけど人族が一番醜いです・・・ww

》人間のドロドロした事に比べ魔物達の話が凄く良い話ですね

出世して行く話を書いたら多分良い人たちが出てくるんじゃないかなと思う。主人公に近い人たちじゃないんで、扱いが悪くなりがち。逆に魔物たちは主人公に近いから良く書きがちに。カッコイイ敵とか書いてみたいですね


》勇者たちがますます返り討ちに

戦えば一蹴されますね。強くしすぎたかもしれない


》これで金を出してた貴族側にまで見捨てられたらどうするんだろう

ヘプシミン崩壊フラグが立ちます。もしくは王の交代ですかね


》人間サイドの幸運は魔物が利益を求めて勢力拡大とかをしようとはしてない事か

ですね。将来裕次郎たちが作り上げた村が力を増して、国とぶつかることも!? まあ、そんなのは十年じゃこないでしょうが


》あとセリエさんが影薄い気がするw

村発展にセリエができることは少ないですからね。勇者の話が終われば、裕次郎と一緒に仕事しますセリエが出てきます


》元々、前回の戦い自体が、資源の確保だけでなく、前の王が失敗した事を~

長い感想ありがとうございます。ネタバレになるので返せない部分があるので、王について。

見下しているというのは当たっているんでしょうね。王と一介の薬師では権力に差がありありすぎます。逆らわないで当然と言う思いがあると思います。それに従った結果があれですが。

原因は裕次郎にもあります。人は簡単には国は捨てられません。裕次郎は異常です。その裕次郎に一般人を元にした行動を当てはめようとしたことがそもそもの間違い。王は運が悪かったといえるかもしれません


》勇者のオツムが残念って感じがする。いくら政治に関わるべきじゃないって言っても~

魔王について少しは調べさせた方がよかったですね。王の言うことを疑えないといっても、居場所だけ聞いて戦い方などを調べないのは戦う者として不自然ですね。命賭けるんだから、相応の準備は当然のことですし

魔王について情報を開示する気がなかったので、勇者たちの選択肢も狭めさせてしまいました。書き手の不手際です。内容は語らず、情報を知ったとだけ書いておけばもう少し賢い子に思われたのかもしれません


》あとは時期長候補か……

ゴゼロまだ生きるので、下手すると長候補は候補のまま寿命が尽きるかもしれない


》普通の人には唯の季節性の風邪だけど特定のDNAを持つ人だけが劇症化して肺炎を起こし死に至るとかだと…

発想が怖いですよ! 落ち着く前の裕次郎がその案を提示されれば躊躇わずにやりそうです。特定のDNAとか難易度高すぎです。バグズノイドに協力してもらえば可能っぽいですが


》セイルフの長がかっこよすぎます

》セイルフの長がイケメンすぎてヤバい

かっこよくしようと意識して書いたわけじゃないんですけどね


》裕次郎は、あくまで薬師なので、闘う技術を学んだわけではないので~

長い感想ありがとうございます2。

格闘の才はあるので、努力していけば強くなれますね。それだけにのめりこむ時間はまだまだとれませんが。

魔物たちが集まって国を作れば人間側も対応を考える、といいな。警戒心が高まってぶつかりあうなんてことをすれば消耗するだけですし。でも書かれているように意識が変わらないと交流など難しいのでしょうね。


》様々な種族が出てきて、種族名を見てもどんなのか分からなくなってきてます

一番下に簡単にまとめたものを置いておきます


》ユウジロウと種族の交易になってる

現状ではそうなりますね。裕次郎も村の一員なので本人が納得してれば問題ないかと。将来的には野菜や生活道具を輸出する予定です


》水竜の魂って毒に侵されてるんでしたっけ。生まれ変っても短命になっちゃうのか~

強力な毒でしたが魂にまではいってませんね、ですので次は虚弱になるかもしれないけれど短命にはならないかと


》ユージローが来る前の歴史?世界?だとどうやってマカベルの異能にロンタ達は対抗した~

考えていたような気がするんだけど、忘れてしまいました。たしか初めて会った時に決着つけたはず。対抗手段なしとわかって、慎重に探してオロスかカルマンドが死んでたんだったか。もしくはロンタだけが生き残ったような、でもその展開だとその後の流れがおかしくなるからそれはないような。こんな感じです



平原の民  

これといった特徴のない種族。平均寿命は六十手前。魔力は四種族で一番低い。時々突き抜けた存在が生まれることが特徴。それらが英雄となり魔王となる。魔法にも特色はない。どの魔法にも適正があるが、魔力の低さからほかの三種族ほど使いこなせない。そういった魔力の低さを補うため、協力魔法を開発したり魔法薬や魔法道具で効果上昇に熱心

森の民、山の民、海の民の祖。未完成だった魔法が、それぞれの環境に適応熟練化していき、姿にも影響を与えていった


森の民

森を住処とする、エルフに似た存在。平均寿命は二百五十。魔力は四種族の中で一番高い。使う魔法は土や植物や水に関連したもの

森を荒らすものが嫌い。過去平原の民が荒らしたことがあり、嫌っている者が多い。

髪の色 緑 青 黄


山の民

山を住処とする、ドワーフに似た存在。平均寿命は百五十。魔力は海の民と同率二位。ミオギとよばれる戦闘術をもつ。

力の強さや鉱石の採れる山を住処としているせいか、鍛冶を得意とする。森の民が山に木々が生えているといって、山にも生活圏を広げようとしたことがあり、迷惑を被り嫌う

髪色 黒 赤茶 茶 黄土


海の民

海を住処とする魚人。平均寿命は百。魔力は二位。使う魔法は変身魔法。これを使い、陸では人間に、水中でのより速い行動をする時は魚となる。住処を海としているせいか、三種族との接触が少なく、独自の倫理や文化を育てている

海中ならば破壊地震の被害もないだろうと、住処を海にした

髪色 青 白 紫


ゴブリン

RPGで雑魚扱いされる魔物。平原の民と同程度の力。魔力は若干上。体格は大きくても百五十センチに届くかどうか。一対一ならば魔法魔術が使えないゴブリンがやや不利。雑食で人間も食べる


フォクシン

二足歩行する狐。力も魔力も平原の民以下。身長は一メートル。手先が器用で色々なものを作ることができ、戦うよりもなにか作ることの方が好き


吸血鬼

血の飲むことは地球の吸血鬼と同じだが、それ以外は違いが多い。血を飲むことで対象の種族ができることを真似ることができる。血の持ち主の魔力が強ければ強いほど、吸血鬼も強くなる。一般的な平原の民の血を飲んでも、平原の民を超える力を発揮できる


ハーピー

地球の伝承にも出てくる魔物。体格は人間と同程度。腕と翼が一体化している。足は人のものではなく、鳥のもの。腕についているかぎ爪で物を持ったりできる。無意識に魔力を使い飛行に役立てている


水竜

上位の竜。上位竜の数は少なく、成体は人の手に負えるようなものではない。水を操ることを得意とし、湖の水を全て霧に変えたり、雨を降らせたり、水脈の操作もできる


多尾狐

人に狐耳と尻尾が生えた姿。火を操る力を持つ。水竜ほど色々なことはできない。魔力は平原の民以上。尾の数が力の強さを示す。平均三本。成長して増えることあり。最大五本


ヴィアシー

人間の頭部に花がくっついた姿。魔力と花粉を混ぜたものを飛ばし、吸った者をぼんやりさせることができる。花から取れる蜜は高値で売れる。そのため人に囚われることがある


セイルフ

人に狼耳と尻尾が生えた姿。腕や足は毛に覆われている。戦いを得意とする種族。人間の冒険者や傭兵と似たことをやって生活を成り立たせている。魔力は平原の民と同程度か若干下


マーマン

魚人。少し人に近いものと、人型という以外に共通点のない二種類がいる。海の民と違い、変身はできない


アイスード

人型を模る氷の魔物

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