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45 魔物の訪問

 人間との交渉から数日が経ち、村にハインドと老いたハーピーとその付き添いがきていた。前者は六十過ぎの老女に見え、顔には皺が刻まれ、桃色の羽にも艶がない。後者は三十過ぎの女で、緑の翼には艶もはりもあり、まだまだ元気に空を飛ぶことができそうだ。

 彼女たちは協定に関しての客で、始めはフォクシンの長とフォーンが対応し、集会所に通された。その間に裕次郎たちに使いが送られ、仕事を中断し集会所に主だったメンバーが集まる。呼ばれたのは裕次郎、ゴゼロとゴブリン次期長、ヒア、水竜だ。呼ばれておらず、話が気になる者は集会所の入り口から中を覗きこんでいる。リュオーンはシュピニアやラミアの子供といった幼児たちの相手をしている。

 右にハインドたちとヒアが並び、左に裕次郎たちが並ぶ。

 これで全員かとハインドが確認し、裕次郎たちが頷くと、ハインドは隣に座る老いたハーピーを手で示す。


「こちらはハーピーの長です。長の隣に座っている人は長の補佐のため一緒にきました」

「よろしくお願いします」


 長が一礼し、それに続いて補佐も頭を下げた。こちらこそと裕次郎たちも頭を下げる。

 裕次郎たちが顔を上げたのを確認し、ハーピーの長が口を開く。


「今日は協定に関してきたのですが、その前にお礼を言わせてくだされ」


 お礼? と裕次郎たちは首を傾げる。礼を言われるような覚えはなかった。


「その様子だと覚えていないようですが、以前我らの子を治療してもらいました。あの子はこの者の子でしてな。うちの医者ではどうにもできず、困っていたところを我が孫のヒアが薬師殿ならばもしかしてと言い、連れ出しました。正直なところ人間に任せることに不安はあったのですが、今ではあの子は元気に遊びまわっております。そのことへのお礼なのです」

「娘を助けていただきありがとうございます」


 ここまで説明してもらえれば裕次郎は思い出すことができ、たしかに治療したと仲間たちに告げる。


「話を戻し、協定に関して進めてもよろしいですか?」


 礼に関しては終わったと判断したハインドがハーピーの長に聞く。

 

「はい。協定に関してですが、今すぐに結ぶというわけにはいきませぬ。恩はあっても、私も一族を治める立場の者です、しっかりとこの村のことを知ってから結論を出したいと思います。それでかまいせぬか?」

「結果としテ協定を結ばナいということモありえるのか?」


 ゴゼロの質問に、ハーピーの長は首を横に振る。


「言い方が少し悪かったですね。今すぐに協定を結ぶわけではありませんが、吸血鬼から大丈夫だろうという言葉をもらっておりますので、よほどのことがなければ最終的に結ぶことは結びます。ただしどの程度までか、ただ繋がりを持つだけなのか、交易までいくのかといった判断をしたいのです」


 ハーピーの言葉は自分たちも考えていたことなので、よくわかったとゴゼロは頷いた。


「ではある程度この村にとどまるのですか?」

「できれば」


 裕次郎の問いに頷きを返す。


「泊まる場所はどうしよう。ヒアさんと同じように過ごすのか、それともどこか建物内がいいのか」

「薬師様の家で宿泊できないでしょうか? ベッド数に余りがあると聞いていますが。今の時期ならば外でもいいのですが、もうお婆様もお年ですし室内で過ごした方が安全なのです」

「患者用のベッドはあるけど、それでいいのですか?」

「かまいませんよ。押しかける形になり、申し訳ありません」


 ハーピーの長と補佐が頭を下げる。

 

「わかりました。じゃあえっと、多尾狐!」


 誰かにセリエへと伝言を頼もうとして、入り口にいた多尾狐を見つける。手招きして近づいてきた多尾狐に、部屋の掃除といった伝言を頼む。

 ハーピーとの話はこれで一度終わり、ハインドたち吸血鬼との話になる。


「私たちとの協定はこれまでと変わらずということです。当家の近くに強力な魔物が現れた場合は応援を頼むかもしれません。怪我人病人がでたら連れてくるでしょう。あとはフォクシンがお酒を造っていましたよね? あれを交易品の一つにできるのならば、こちらからは小麦や香辛料をだせるようになっています」

「酒に関してはフォクシンの考え次第だな。フォーン、長にどうするか聞いてみてくれる?」

「わかった」


 フォーンは長とクンキュンと会話していき、頷くと裕次郎を見る。


「たくさんは出せないけど、それでもいいならって言ってる。今は色々とやることがあって、お酒だけを作る時間はないからたくさんは用意できない」


 建築、煉瓦作り、クロスボウなどの改良、馬車とポンプの研究、ほかに雑務もやっていてお酒だけに時間を割くわけにはいかないのだ。


「では今のところはなしということにしましょう。落ち着いたら出すということで。レートもその時に」

「わかったと言ってる」


 今日の話し合いはこれで終わりとなる。ハインドは結果を伝えるため帰り、ハーピーたちは家の準備が整うまで、村や畑の案内を受けることになった。

 案内は裕次郎とヒアが受けもち、ほかの者たちは家や仕事に戻っていく。


「案内といっても、まだまだ完成していない村ですから、これだという特徴はないんですけどね」

「本格的な塀を設置した村は珍しくとも、塀自体は珍しいものではありませんからね」


 裕次郎の言葉にヒアが頷く。見るべき場所はとヒアは考え、思いついたところを口に出す。


「櫓に置かれた中型バリスタは一見の価値はありそうです。あと畑も見ておいたほうがいいでしょう」

「ではそれでお願い」

「行きましょう」


 裕次郎が先導し、櫓の一つに向かう。そこで見張りをしていたゴブリンとかわってもらい、バリスタの簡単な仕組みを説明していく。

 実際に飛ばすところが見たいということなので、櫓から降りた一行は村のすぐそばにある試射場に行く。そこではリュオーンの仲間たちが、積み上げた土壁にむかって弓魔術やクロスボウの練習をしていた。

 長や補佐もクロスボウを撃ち、扱いを体験していく。腕と翼が一体化しているため扱いづらいかもしれないと見ていた者たちは思ったが、生まれてからずっとその腕で暮らしてきたハーピーたちはなんの不自由もなくクロスボウを扱っていく。

 バリスタは慣れていないうちは危ないので、見学だけにとどめる。太く長い杭が飛び、土を撒き散らす様子にハーピーたちは驚いていた。


「休憩してから畑に行きましょう。それでいいですか?」

「はい」


 木陰の下に移動し、試射場に置かれていたコップと縁のとんがった木の器をヒアが取ってきた。


「すぐに冷たい水を準備するから待ってて」

「水ってお前」


 コップと器だけでどうするのだろうと長は孫を見る。

 まずヒアは器に魔法で氷の欠片を入れて、次に水を魔法で出した。少し待って十分冷えたと判断し、コップに注いでいく。

 その様子を長と補佐は驚きの表情で見ている。


「はい、よく冷えてるよ」

「お、お前、魔法なんか使えるのかい?」

「使えると便利だからって教えてもらったから使えるよ」

「そんな簡単に教えてもらえるのかい?」

「この村だと教わりたい人は誰でも覚えることができるけど」


 それがどうしたのかとヒアは首を傾げた。驚くようなことではないと思っているヒアはこの村に染まっているのだろう。

 こういった魔法は人間たちの技術で、普通はハーピーたち魔物が学ぶ機会はないのだ。水がほしければ川や泉に行かなければならないし、氷は冬を待つかアイスードに頼んで作ってもらうしかない。

 人間の血を吸えば魔法を使える吸血鬼も、感覚で扱っていて教えられるような知識はない。


「この村は思った以上に……」


 驚きを静めるため飲んだ水は当然の如く冷たかった。しかし未来を思い発せられる熱はこの冷たさで収まることはなかった。

 なにか考えている様子の長を待ち、少し時間が経ってから一行は畑に向かう。

 村で住む人数が増えたことで食料増加が急務となり、収獲を増やすため畑は以前よりも広げられている。

 主にゴブリンが働いていて、少数ながらアルマネイドといった異なる魔物の姿も見える。皆鍬を持ち、雑草を抜き、害虫を探し、病気のものを探す。

 そういった様子を見ていき、長はどのようなものがどれくらいの量がとれるかなど質問していく。


「畑作業自体はどんな風なのですか? めんどくさがってさぼる者などいないのでしょうか?」

「向き不向きハある。しかしサぼる者はいなイ。サぼればその分食料ガ減る。それを十分言い聞かせタ。手間隙かけテ作った野菜のデきがよかった時なド、喜びノ声があがる。狩りよリも熱中してイる者もいる」


 そういった者が集まって、魔法薬に頼りすぎない通常収獲の野菜作りを始めている。彼らは自発的にゴゼロに作りたいと提案したのだ。提案を聞いた時、ゴゼロは思わず涙腺が弛んだ。自分たちがやっていることを好きになり、自分で考え動き出した彼らが誇らしくなった。失敗も迷いもある。だが自分から考え行ったことだ。血となり肉となって、日々彼らを成長させていた。

 以前は今日の糧を得ることだけを考え、先のことなど考えもしなかったゴブリンたちの成長は、ゴゼロにとって宝のように思えている。


「まだまだ始メたばかりの畑仕事だガ、やってよかったト思っていル」

「そうですか。答えていただきありがとうございます」


 畑の見学も終わり、一行は村に戻る。


「ヒアさんも今日は泊まっていく?」

「そうですね……久々にお婆様とお話したいですし、お邪魔させてもらいます」


 ベッドは六つ置いてあるので、一人増えたところで問題ない。

 裕次郎の家に戻ると、セリエと多尾狐が大部屋の掃除をしている様子が窓を通して見えた。

 リビングに三人を通し、裕次郎は大部屋に向かう。


「ただいまー。掃除終わった?」

「おかえり、終わったわ。散らかしてたわけじゃないから、そんなに時間かからなかったしね」

「急な頼みですまんね」

「仕方ないわよ」


 セリエは三つ編みを解きながら苦笑を浮かべた。


「多尾狐も手伝ってくれてありがとね」

「ううん、急な話ってのはわかってたから」


 多尾狐の頭を撫でると尾がぶんぶんと振られ、喜んでいるのがわかる。セリエはその様子を恋愛感情ではなく、親などに向ける親愛寄りなのかと見ていた。かといって油断はしないが。

 部屋の準備が整ったと、ハーピーたちに知らせ大部屋で寛いでもらう。その間にセリエは洗濯をして、その後夕食の準備を始める。ハーピーに食べてはいけないものはないとヒアから聞いていたセリエは、いつもと同じ献立で夕食を考えた。

 マカベルが帰ってきて知らない人に気後れしたりしたが、概ね問題なく時間が流れていった。

 そして二日経ち、マーマンの代表者が知らない吸血鬼に案内され到着し、ハーピーと同じように村の案内を受けている。やってきたマーマンは魚の顔をした者と比較的に人に近い顔つきの二人だった。

 マーマンの案内は、ケンタウロスやピクシーなど人当たりのよいものが当たっている。

 その間に集会所に裕次郎たちとハーピーたちが集まる。


「二日宿泊させてもらい、ありがとうございました。色々と得るものがある二日でした」


 ハーピーの長がそう言い頭を下げる。


「協定を結ぶことにかわりありませぬ。そちらは私どもと協定を結ぶことに不服はありませんか?」

「……はい、不服はありません」


 横にいるゴゼロなどを見て、反応を確かめた裕次郎が頷く。それにハーピーたちは安堵したようにほっと息を吐く。


「色々と頼みたいことができました。こちらからも品を提供するので頼みを聞いてもらえるでしょうか?」

「頼ミというのハ?」

「魔法を教えてもらいたいのです。そして私たちの薬師に薬作りも教えてもらいたい。バリスタという武器も欲しいです。あとは日持ちする食料も」

「色々ときたな」


 水竜が苦笑を浮かべ言う。それにハーピーの長も苦笑を浮かべた。


「それだけこの村から得るものが多かったのです。厚かましいとは私も自覚していますが、それらを得ることができれば仲間の暮らしが楽になるのです。妥協などしてはいられませぬ」


 火の魔法、氷の魔法、保存の魔法の三つだけでも楽になるだろう。火は山火事などで発生したものを絶やさぬようにしているし、氷は風邪になったときなど活躍する。保存魔法は食料が腐って食べられなくなることを防げ、無駄にすることがなくなる。


「そちらから出せるものは?」

「布や羽毛、木の実を使った調味料。それと遠くと連絡を取りたい時に伝言を運ぶ役割も。あとはちょっとした楽器も作っていますね」


 ハーピーは綿花のような植物を紡いだり、蜘蛛の魔物から糸を採取し布を織っている。フォクシンに賢狸から渡されていた布の多くはハーピー製だ。羽毛は自分たちの羽や鳥や魔物の羽を集めている。それらで作った布団やクッションを賢狸を通して輸出していた。


「それらと要求したものでは少々つりあいが取れない。食料を削ってもいいですか? まだこちらにも余裕があるわけではないので。不満があるなら、そちらも羽毛と楽器を削っていいですよ」

「……わかりました。食料に関しては今後に期待することにしましょう」


 布やバリスタの輸出量や派遣する人材の人数などを話し合い、協定に関しての微調整が終わる。

 ふと荷の輸送に関して疑問がわいた裕次郎はそれをハーピーに聞く。森の外へ輸送隊を出す必要があるならば、村の仕事を増やす必要があり、人手が足りなくなりそうだった。


「協定を結んだ場所には賢狸が複数訪れるようになりますから。彼らに託すことになりますね。手数料として、荷の一部を渡す必要がありますが」

「まあ賢狸もただではやってられないか。あっちにだって生活があるんだし」


 その言葉にハーピーの長は頷いた。

 労力増加を無くせるのならば、手数料を渡すのに不満はない。将来的には輸送隊が組めるかもしれないが、当分先の話だろう。

 話が終わり、集会所を出る。


「この後、すぐに帰るんですか?」


 裕次郎の問いに長は首を横に振った。


「マーマンから先に村を見て思ったことを聞かせてもらいたいと。話した後に帰ろうと思っております」

「そうでしたか。マーマンへの話はお手柔らかにお願いします」

「大丈夫ですよ。この村にもあなたにも悪い印象は抱いていません。このまま発展していけば、いい村になるのではないでしょうか」

「そうなるといいですねぇ」

 

 長と補佐は裕次郎に一礼して、マーマンのところへと歩いていく。

 マーマンも村にとどまり、村や裕次郎について調べていく。彼らが興味を示したのは魔法と薬学についてだ。食料やバリスタについては、今のところ気にしていない。住んでいる湖は食料が豊富なので、ある程度計画して食べていけば飢えることはないのだ。バリスタも水中では使いづらいだろうし、整備も大変だろうということで輸入は見送った。

 マーマンから提供されるものは、メタルタートルの甲羅とプニリュートの粘液だ。

 甲羅は鉄には及ばないものの頑丈で、武具の材料になる。マーマンもこれを削って組み合わせ槍や鎧として使っている。

 プニリュートとは、水の中に住む大人しい魔物でつるんとした丸っこい外見を持つ。スッポンの噛みつきにすら耐える弾力を持っており、噛み付かれると粘液を出して噛みつきから滑って逃げようとする。

 粘液はそのままだと役に立たないが、湖の水中に生える草を粉末にしたものと混ぜるとゴムのようになるのだ。こちらも防具に使われており、使い方によっては建築などに役立つので輸入を決めた。

 マーマンたちが保存の魔法を覚えた時には、多く取れるという貝を食料として輸入しようと裕次郎たちは考えている。


「どうでした、この村は」


 裕次郎はこれから帰るというマーマンの長に聞く。表情がわかりずらく、話し合いではどのように感じているのかわからなかった。交易まで持っていけたのだから、悪くはないはずと思っているが。


「悪い感じハ受けなかった。このまま穏やかニ発展していってほしく思ウ」

「ここが問題なりそうというところはありました?」

「やはり複数ノ種族が混ざって暮らしテいることカ。前例がないかラどうなるカわからない。しかし今ノ雰囲気のまま大きクなっていくならバ、大きな問題ハ起きないのではト思う。推測でしかないガ」


 問題になりそうなのは、やはりそこなのだなと気をつけることにして、去っていくマーマンたちを見送る。


 二種族との交渉が成功で終わり数日経ち、村にセイルフの代表者がポニーサイズの狼に乗ってやってきた。

 この狼はラーガウルフという魔物で、以前戦った破軍犬以上の強さを持つ魔物だ。

 三人のセイルフがいて、真ん中に立つ男が魔物の毛皮製らしきジャケットを羽織っている。そのジャケットは色あせているが、古臭さは感じさせない。それが長だと示すものだと、ハインドから裕次郎たちは聞いていた。

 年の頃は五十手前か、衰えなど見せない鍛え上げられた体で、雰囲気も荒々しくいまだ現役だとわかる。

 付き従うように立つセイルフの一人に、裕次郎は見覚えがあった。茸を取りに行く時に治療したセイルフだ。向こうも裕次郎に気づいたようで、少し驚いたような顔をしている。そんな雰囲気を察した長が、治療したセイルフに話しかけ、なるほどといった風に頷いた。


「俺がセイルフの長だ。ここの長は誰だ?」


 少し発音がおかしいものの、ゴゼロよりも流暢に言葉を操り問う。


「これトいったトップはいないガ、俺もトップの一人だろウ」


 ゴゼロの返答に「ふむ」と小さく漏らし、なにかを考える様子となる。


「ではこの村で一番強い奴は?」

「今ノところ、俺とクスシとマオウだろう。一番はマオウだろうが、あマり戦いは好きではナい」

「お前と薬師のどちらかと勝負だ!」


 一拍置いてセイルフの長はゴゼロに指差し宣言する。


「意図すルところはわからンでもないが、一応理由を聞かせテくれ。マオウを外しタ理由もな」

「協定だの交易だの面倒なものは後回しだ。お前たちが強ければ、仲間とみなす。それが手っ取り早いだろう? 戦いを好まない者がいるのは知っている。俺の娘にもいるしな。だから外したのだ。わかったか? わかったなら勝負だ。俺としては薬師と戦いたい」

「どうして俺を?」


 求められた理由がわからず問う。長は簡単なことだというように笑みを浮かべ口を開く。

 

「お前さんの人格を見極めることも今回の訪問の目的の一つだ。戦ってみれば人柄なんてものはわかる。強さも人格もわかってちょうどいいからな」

「そんなに単純な話ですか?」

「このくらい単純でいいのだよ」


 笑みを浮かべて言い切った。


「今さっき爺さんが言ったのは、薬を使って能力を上げた強さなんだけど、薬使ってもいいんですか?」

「その薬はお前さんが作ったものなのか?」

「はい」

「ならば使え。己の力で作ったものを使ったところで文句は言わんよ」


 準備があるので戦いは明日でいいかと聞くと、頷きが返ってくる。

 今日のところはハーピーたちと同じように村の案内をする。マーマンと同じようにバリスタには興味をひかれず、畑もそんなものかと流す。魔法と薬学は戦いを好んでいない者たちに覚えさせるのもいいかと考える。ハーピーたちが薬師を派遣すると聞いて、セイルフからも出すことにした。

 一番興味を示したのは回復薬で、これがあればさらに戦えると言い、絶対に覚えさせたいと考える。だがそれは明日の戦いの結果次第だ。認められなければ最悪、強奪対象に早代わりだ。

 一夜明け、森の外で裕次郎とセイルフの長の対決が始まる。

 裕次郎が使ったのは天下無双だ。昨日のうちにゴゼロに長の強さを聞いたのだが、確実に若い自分並かそれ以上という答えが返ってきた。これは天衣無縫だとあっさり負ける可能性もあると考え、こっちを使うことに決めたのだ。


「平原の民と聞いていたが、やるじゃないか!」


 当たれば痛いではすまなさそうな拳を頭の少しずらし避けて、代わりに裕次郎の肩へと拳をぶつけ言う。


「そりゃどうも!」


 殴られた肩から伝わる衝撃を無視して、ローキックを放つも避けられた。

 出した拳と蹴りは同じくらい。しかし裕次郎の攻撃は全て避けられ、長の攻撃はほぼ全部当たっていく。

 若いゴゼロと同じくらいの強さといっても、力に傾きがちなゴゼロに対して、長はツアと同じく技術に優れ、裕次郎にとって相性は悪い。


「これだけ当てて倒れないなんてな! 殴りがいがある!」


 天下無双のおかげで長よりも能力は上だが、長年戦って得た経験と勘で長は互角以上の戦いを繰り広げてみせた。


「少しくらい当たっても!」


 言いながら出した蹴りを半身で避けられ、回し蹴りが脇腹に当たる。

 裕次郎はちっとも当たらない攻撃に焦り始める。薬の効果が切れる前にどうにかしなければ、負けは確実だ。けれど宙に舞う木の葉のようにひらりひらりと避ける長に当てられる気がまったくしない。


「こうなったら当てることなんか考えずに連続して攻撃していってやる!」

「その意気だ! 諦めずにこいよ!」


 言葉通り最後まで諦めず体を動かす。ゴブリンやフォクシンには捉えきれない速度の拳や蹴りを、長は次々とかわしていった。

 結局一度も当てることができずに薬の効果が切れて、ふらついたところに蹴りを入れられダウンすることになった。

 倒れて動けなくなったことで決着がついたと長は判断し、構えを解いた。汗は流れ出ているものの、かすり傷一つ負っていない勝利だ。

 倒れたままの裕次郎にセリエとマカベルと多尾狐が駆け寄って、薬を差し出したりと甲斐甲斐しく世話をしている。


「久々に思いっきり動いたな。ん? なに落ち込んでいるんだ?」


 良く冷えた布をもらい気持ちよさげに顔や体を拭いていた長は、表情の暗い裕次郎に気づく。


「……自分のせいで協定結べなかったんですよ、元気ではいられない」

「いや協定は結ぶぞ?」


 何言ってんだときょとんとした表情で長は言う。


「え? でも負けたのに」

「協定を結ぶ条件が俺に勝つことだとは一言も言ってないぞ? 戦って強さと人格を把握すると言ったはずだ」


 当たりはしなかったが、当たればただではすまないと体に当たる風でよくわかった。

 人格も実力差に腐らず、諦めなかったことで気に入り認めた。


「……あ、そう言えば」

「お前はしっかり強さを示した。認めようっこの村は俺たちセイルフの仲間だと!」


 長の断言に、観客たちから歓声が上がる。勝者の長を称え、強さを示し目的を果たした裕次郎を祝う歓声だ。

 勝つことが条件ならば、セイルフはどことも協定を結ばなくなる。けれど実際には協定を結んでいる。それはそれぞれの種族に、それぞれの強さがあると知っているからだ。ハーピーには空中戦、マーマンには水中戦、アイスードは山中での戦い、吸血鬼は生存力の高さ。それらの良さを認め、実際に言葉を交わし組むに足ると判断した。

 戦いを好む種族だが、戦いを他者に押し付けることはしない種族でもある。戦いが苦手な者もいると知っているように、思慮分別はきちんとあるのだ。だからケーオットもセイルフを無闇に暴れないと評した。


「そういえば礼が遅れたな。息子を助けてくれてありがとうな。俺たちの考えでは戦いの果てに死ぬことは恥ではないが、それでも親ならば生きて会いたいと思うものだ」

「あの人は長の息子さんだったんですか」


 助けたセイルフは一人しか該当しない。意外な繋がりだと驚く裕次郎に、長は頷く。


「うむ、ガインと言うのだ。あいつも助けられたことを感謝していた」

「ガインさんは人間の言葉を話せないんですね」

「ああ、セイルフの中で話せる方が少ない。人間の言葉を話せずとも暮らしていけるしな。言葉は長や戦いを好まない者が覚える。薬について学びにくる者も話せる者だから安心していい」

「それは助かります。意思疎通できない状態で、ものを教える困難さはよくわかってますので」


 ヴァインに魔法を教える時はそれなりに苦労したものだ。


「あと品を送る必要があったが、毛皮や骨でいいか? そのくらいしかないのだ」


 自分たちは戦う者ときっぱり割り切っていて、生産に関しては他の種族に任せていた。

 狩りで得た物を送ったり、暴れる魔物を退治して食料や生活必需品をもらうというふうに吸血鬼たちと接してきた。適材適所というものを体現している種族だ。


「できるならどのような魔物の骨か賢狸に伝えておいてほしいです。ほかに角や皮もあれば助かりますね。薬の材料になったりするので」

「わかった。そのようにしよう」


 戦いで盛り上がった雰囲気をそのままひきずり宴が開かれ、賑やかに時間が流れていく。

 セイルフたちは次の日の昼過ぎに帰っていった。知るべきことは知り、交易に関してもさっさと決め、この村ですることは終えたのだ。

 風のようにやってきて、風のように去っていった者たちだった。

 残る訪問者はアイスードだけだが、眠っていて連絡の取りようがないので、来るのはしばらく先になるだろう。二ヶ月ほど先か。

 アイスードとの協定が決まる前に、ハーピーとマーマンとセイルフからの留学生がやってくる。どの種族も薬師見習いと魔法学習者二人の合計三人を送ってきていた。

 吸血鬼から留学生が来ていないのは、毎日接すれば血を吸いたいという欲望が我慢できなくなると簡単に推測できたからだ。


「来た人たちが住む場所の完成が間に合ってよかったねー」


 セイルフからの留学生との挨拶を終えて、裕次郎は出た冷や汗を拭った。


「ああ、セイルフかラ長の娘が来るとは思っテもいなかった。家を持たない種族ト聞いているから野宿でも気にしなかっタかもしれないガ」

「そうだといいんだけどね。急ぎで作ったからできがいいわけじゃないし」


 留学生たちを泊める建物は大急ぎで作られ、四つの部屋を持つ建物が一つできた。全員に個室を作るのは時間が足りなかった。

 マーマンとアイスードが寛げるように村すぐそばに池も作られている。これは水竜たちの協力を得て短時間で完成していた。


「少しずつ人数が増えてきて賑やかになってきた。このまま問題なく大きくなっていてほしいよ」

「まったくダ」


 賢狸たちの出入りも増えており、物資の輸出入が始まり、発展の前兆が感じられるようだった。


感想ありがとうございます

次は勇者たちの話。4、5日後に更新です


》奴ら王国は様々な思惑のある人間達の集まりなので~

裕次郎もなにかしたいとは思っているのですが、留学生の相手でその暇がなくなりました


》貴族だけ薬で皆殺しフラグが来ました

ヨムルンゾとかは避けたいと思うので、手を出す場合の難易度がさらに上がってます


》行商人さんが言っていた新しい住人フラグはいつ回収されるんだろう

行商人の紹介ではなく、別方面から住人がやってきました。しばらくしたら帰っていく人たちですが


》とりあえずまた勇者さまが突撃してきそうですね

次回から勇者たちの行動となります。二、三話くらいですね


》セリエとともに大海に飛び出すのか・・・?

海には行くことになりますね。セリエとじゃないんですが


》この制裁がある意味怒りの深さを表すので温いとちょっと違和感がでそうです

》しかし、報復はしたいですね没案にはなりましたが~

すぐには無理ですが、時間がもう少し流れると仕返しの機会はきます。流れによってはヘプシミン王に土下座させることも可能か?


》魔王の暴走はどうなった

勇者たちの話で書きます


》完結しても竜殺しの様に番外を掲載したりするのでしょうか

番外編はなしの予定です


》森への侵攻が失敗した後の人間サイドの話を見てみたいですね~

勇者たちの話で占い神殿は出てきますね。宿一家はでないですね、出したくはあるけど。夫婦の裕次郎への対応決めかねているというのも出せない理由


》何となく「王都中に広がる、超長期に渡って人を深く深く眠らせ続ける~

これやったら国の機能麻痺して治安悪化していきそうだ。税金の流れとかもめんどくさいことに。地方の貴族とかが頑張るのか、好き勝手やるのか


》ありとあらゆる薬の知識があるんだし

これを知ってたらもう少し国側の対応も穏便になると思います


》今までにあった話から繋がりが自然で、いきなりのトンデモ展開が無いところ

勇者編でトンデモ展開が出てくるかもしれない!


》首都で原因不明の疫病が蔓延するとか、謎の水源汚染発生とか~

そこまでできる腕があると知らないんですよね。プラッカが作れることもツアから聞いていませんし。まあヘプシミンに行く暇がないんですが


》ヘプシミン交渉ごと下手くそすぎてワロタw

国が下手じゃなくて、書き手が下手


》これ下手すると内乱とか起きるんじゃないかなぁ

そんな暇はなかったりします


》現在のヘプシミンの持ってる情報では「交流を持つ必要なし」になるのも当然でしょう

現状ではそうなんですよね

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