42 久々の遠出
水竜が起きて十五日ほど過ぎ、馬鹿騒ぎしていた村は既に落ち着きを取り戻している。
村民の住居は次々と完成していき、リュオーンたちが使っていた建物も雨風をしのげるものとなっていた。
リュオーンは仲間たちと一緒に住んでおらず、親子で暮らしていた。仲間たちはそれに反対することはなかった。用事があればいつでもすぐに会えるのだ。
水竜親子も村に越してきているのだ。リュオーンとしては湖でよかったのだが、仲間と離れるのは寂しかろうと水竜が村で暮らすことに決めたのだった。水竜は越してきてから元の姿では不便だと、ずっと人の姿で過ごしている。
魔物たちは水竜が来るということで大騒ぎし、急いで家を建てた。急造りにしては丈夫なものができ、みすぼらしくもなく魔物たちはほっと胸を撫で下ろす。
水竜の家造りのおかげで、裕次郎たちの家造りは完全にストップしており、住居はいまだ遺跡だ。
ちなみに水竜は、秘密裏に裕次郎の診察と投薬を受けている。ドライアドが少しでも体調をよくしてもらいたいと、両者に頼んだのだ。この治療は効果が出ているとはいえない。水竜に効果を上げる量の薬を毎日は用意できないのだ。せいぜい虚脱感倦怠感をなくす程度で、寿命に関しては手が出せていない。
「これは行った方がいいか?」
薬の材料を入れた箱を見て、裕次郎が難しげな顔をしている。
そこに箒やバケツなどを持ったセリエが入ってくる。これから裕次郎の部屋の掃除をしようと思っており、髪は邪魔にならないよう三つ編みにされている。
マカベルとフォーンはリビングで宿題として出された材料の加工中で、ヴァインは昼寝していた。裕次郎はこの間に保管してある材料の整理でもと確認していたのだ。
「どうしたの?」
「ん? いやね、材料が足りそうにないなと」
テーブルに並ぶのは宿喰い茸だ。それが二十ほど並ぶ。
「いつぞやの茸よね」
「いろいろと使えて便利なんだけど、ここのところの消費量を考えると、余裕のある今のうちに取りに行った方がいいかもしれない」
「ヴィアシーだっけ? まだ会ったことないけど、その子の治療用に足りない?」
「それもあるけど、今後なにかあった時のためにも集めておいた方がいいかなと」
「たしかにこの先平和だとはかぎらないし、念を入れておいた方がいいかもね」
その方向で考えておこうと掃除の邪魔になるので材料をしまっていく。
「ちょっと村に行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。帰りは遅くなる?」
「いや、少し話すだけだし夕飯前には帰ってきてるよ」
手ぶらで部屋を出て行く。残ったセリエは部屋を見渡し、一度ベッドに寝転んでから掃除を始める。誰も見ていないとはいえ恥ずかしかったようで、顔を赤くしたまま箒を動かしていく。
リビングで宿題をやっていた二人に村に行くことを告げると、寝ていたヴァインが起きて一緒に行くことになる。散歩がわりに同行するつもりらしい。ついでに村にいるラグスマグにも会うつもりだ。村の雌二匹とは仲良くやっており、そのうち子供が生まれるかもしれないなと裕次郎たちは思っている。
村についてヴァインとわかれた裕次郎は、多尾狐たちの住む家に向かう。今日は休みとしているため、自由に過ごしているはずなのでそこにはいないかもしれないが狭い村だ、探すのには苦労しないだろう。
家の前に着くと、ちょうど多尾狐とヴィアシーとケルベロスが日向ぼっことリハビリから帰ってきたところだった。ヴィアシーはケルベロスの背に座って移動している。
「薬師さん、なにか用?」
「ああ、ちょうどよかった」
多尾狐が気軽に声をかけ、ヴィアシーは怯えてケルベロスの背から下りて多尾狐の背に隠れる。まだ薬の効果が切れていないので動けるのだ。
「あっ隠れなくてもいいじゃん。この人なら大丈夫だって」
魔物たちと暮らし、ヴィアシーを治療し、自分たちにも薬を出してくれる裕次郎に多尾狐は信を置くようになった。
多尾狐が背中のヴィアシーに振り返り声をかけるものの、ヴィアシーは身を縮こまらせて首をふるふると横に振るだけだ。
「いいよいいよ。怖いものは怖いんだし」
「少しは慣れてもいいと思うんだけどね」
会うのはこれで四度目だ。最初会った時は寝ていたが、二度目は起きていて悲鳴にならない悲鳴を上げて気絶した。三度は気絶しなかったが大きく怯えていた。
マカベルと会うこともあるが、同じように怯えてしまっている。多尾狐は見た目同年代なこともあって、マカベルとは気軽に接していた。
暴行を受けたことがトラウマになっているのだろうと、キットレーゼに与えた薬の使用も考えたが、自力で動けるようになって使った方がいいかもなと思いなおし、そういうものがあると伝えただけだ。
「少しずつ慣れてよ? 恩人なんだしさ」
「努力はする」
多尾狐の背後から小さく声が聞こえてきた。
背後にはヴィアシーしかおらず、声をだしたのは当然ヴィアシーだ。
「初めて声聞けたな」
「可愛い声でしょ? たまに歌ってくれるんだけど、それが好きなんだ」
「へーいつか聞きたいね」
多尾狐の背後ではヴィアシーが恥ずかしそうに顔を赤くしている。
何か用事があってきたのだろうと小声で伝え、自身のことから話をそらす。
「ああ、そうだったね。用事ってなに?」
「いつか茸を取りに行くって言ったの覚えてる?」
「うん。大事なことだし忘れてない」
「そろそろ行った方がいいと思って、それを伝えにきたんだ。まだ余裕はあるんだけど、この先なにがあるかわからないし今のうちにね」
そう言うことならと多尾狐は家に入り、ケンタウロスがいるか確認する。
呼ばれたケンタウロスは将棋を中断し、家の入り口にやってくる。将棋やトランプは裕次郎がフォクシンに頼んで作ってもらったものだ。子供たちの娯楽が少なかろうと思って暇潰しにでもなればと思っていたのだが、大人たちも日が暮れた後は時間を持て余し遊ぶようになっている。今は麻雀も作成途中だ。
「何の用だ? ん? 薬師もいるのか」
「薬の材料を取りに行きたいって言ったこと覚えてる?」
多尾狐の問いに少し思い出す仕草を見せ、すぐにあれかと頷いた。
「ああ、行くのか?」
「うん、行きたい」
「行って帰るのに一月はかからないんだったか。いや正確な場所がわからないから、一月以上かかる可能性もあるのか。それだけの期間俺たちが村から抜けても大丈夫なのか?」
「今回は俺も行くから一月はかからないよ。人数も少なめでいいだろうし、たくさん抜けるわけじゃないから村の負担は少ないはず」
「一緒に行くの?」
多尾狐が首を傾げた。動きに合わせてぴんっと立つ耳が揺れた。てっきり行くのは自分たちだけだと思っていたのだ。
「ケンタウロスが言ったように森の正確な位置がわからないでしょ? 一度はついていった方がいいと思ってた。茸に寄生されないために薬を使うタイミングも教えないと、寄生されて森の中を彷徨いかねないよ」
「それは嫌だね」
想像し体を小さく振るわせる。
「出発はいつだ? それまでにメンバーを決めておくが」
「明日の昼過ぎまでにこっちの準備は終わるよ。そっちのメンバーは多尾狐に少しは戦えて警戒もできるほか一、二名ってところで」
「それならば俺が行こう」
「じゃあそれで。俺たちの馬車を使うよ。頑丈に改造されてるからとばしても大丈夫だし」
多尾狐たちの馬車はそういったことはされていないようなので、裕次郎たちの馬車使用に頷いた。
食料の準備を頼み、裕次郎は疲労回復薬などの材料を集めながら遺跡に戻る。
「セリエ、明日から茸狩りに行ってくるから。それとヴァインに馬車を引いてもらう」
「私たちは留守番?」
「セリエも来るとなるとマカベルも一緒だろうし、そうすると馬車は狭くなるからね」
今後の行き来のため多尾狐に場所を覚えてもらいたいので、彼女は置いていけない。ケンタウロスがいるから多尾狐は来る必要はないかもしれないが、友人のためだ留守番は断るだろう。
三人ならまだ大丈夫だろうが、四人となると辛いと考えた。セリエもそれは理解できたので、留守番に頷いた。
多尾狐という異性と旅という点は気になるが、ケンタウロスも一緒と聞いておかしなことにはならないだろうと気持ちを静める。
「場所は覚えてるから真っ直ぐ行けるし、ヴァインに急ぎ足で進んでもらうから早ければ二十日もしないで帰ってこれるかもね」
「二十日かぁ……いない間寂しいわね」
「寂しく思ってくれる?」
思わずもれた本音に気づきセリエは顔を赤くした。
「マ、マカベルが寂しく思うわねって意味よっ。私は二十日くらいどうってことないわ!」
「ほんとに?」
「……本当は私も寂しいと思う。だから寄り道なんてしないで帰ってきなさい」
「了解! 寂しいと思ってもらえるだけで、心に栄養注がれすぎて幸せ太りする思いだよ!」
ひゃほーいと歓声を上げて、それを聞いて近づいてきたマカベルを抱き上げてくるくると回す。
楽しげな二人を見たセリエは、出発の景気づけに美味しいご飯を作ろうと献立を考え始めた。
翌日、薬を作った裕次郎は久々にヴァインを馬車に繋いで、村へと向かう。村入り口に馬車を置いて、ケンタウロスたちの待つ家に向かう。
「行くよー」
玄関から声をかけると、旅支度を整えたケンタウロスと多尾狐がでてきた。
ケンタウロスはフォクシンたちに調整してもらった金属鎧に愛用のランスと盾を持っていて、多尾狐はいつもの着流しの上に赤い毛皮のコートを羽織っている。これも以前の戦いで回収したもので、それを洗って綺麗にして保管されていたものを借りた。武器も複合弓を借りている。以前から弓を使ってはいたが、倉庫で見つけた弓の方が使い勝手がよさそうだったのだ。
「薬師さん、おはよー」
「うむ、食料は準備した。積み込んだら早速行こう」
「あいよ」
食料を積み、多尾狐が馬車に入る。ケンタウロスは入れないので、馬車の横を走る。
彼らを見送るためゴゼロやリュオーンたちが村入り口に立っている。リュオーンの肩にはシュピニアがいる。
「気をつけてな」
「なるべク早く帰っテきてくれ、クスシの腕が必要ニなる可能性モある」
「ほらあんたも何かいいなさいな」
ラミアの後ろの隠れていたヴィアシーが押されて前に出る。見送るために薬を使っており、この後ラミアに手伝ってもらいリハビリする予定だ。
「あ、あの、多尾狐ちゃんをよろしくお願いします。それと薬師さんとケンタウロスさんも気をつけて」
それだけ言うと再びラミアの背後に隠れた。
人間を前にしてこれだけ喋ることができれば上出来な部類だろうと皆が思う。友達のことだからこれだけ話せたが、なんの話題もなく人間と話そうとするのはまだ無理だ。
魔物たちに見送られて村を離れ、森を出たところで裕次郎はヴァインとケンタウロスに速さの能力上昇薬を飲ませた。
「これで移動速度がだいぶ上がるよ。疲れたらいつでも言って、疲労回復薬を飲んでもらうからさ」
「こういった移動は初めてなのだが、いつもやっていたのか?」
ケンタウロスたちは大人数なので、ゆっくりとした速度で進むことが常なのだ。というか薬を使って移動する者の方が少数だ。
「平原の民の国内移動なら飲まないけど、無管理地帯だといつもこれだよ。危ない場所はさっさと通り過ぎるにかぎる」
「薬師のいる少数移動って便利なんだねー」
「ああ、すごいな」
多尾狐とケンタウロスはこれが普通なのだろうと感心しているが、そんなわけはなかった。
それを指摘する者もおらず、一行は東へと走り始めた。
裕次郎は久々に森から離れて、懐かしく思える旅の風景を眺める。地面には軍が移動してできた多くの轍があり、改めて軍の規模を感じることができた。
「すごい数だわ、それがずっと先まで続いてるし」
「そりゃ一万以上の人間が移動したわけだから。まあ俺もすごいとは思うけど」
御者台のすぐ後ろから風景を眺めていた多尾狐が口を半開きにして、移動跡を見る。
「一万とかよく戦おうって気になったよね」
「危なくなったら逃げる気はあったんだよ。運良く向こうが退いてくれたから逃げずにすんだけど。それと逃げた先での暮らしが、森ほどに安定してるかというとそうでもないんだよね。だから色々と守るために立ち向かってもいいかなと」
「守れなかった俺には羨ましい話だ」
馬車の隣を走っているケンタウロスが呟いた。それは風に流されたため裕次郎には届かなかった。
ケンタウロスはもともと大陸北部で、仲間たちと暮らしていた。一定の場所に止まらない放浪種族で、狩りをしながらライトルティ王国北部の無管理地帯で暮らしていた。ある日休息するのにちょうどよい場所を見つけ、そこで野宿をしていた。その夜、破軍犬が襲いかかってきた。
破軍犬は、その名のとおり軍を打ち破る強さを持った野犬たちで、常に三十匹以上の群で移動している。
ケンタウロスたちを襲った群は七十匹で、ケンタウロスたちは四十八人だった。そのうち戦えるのは半数で、武装などを整えた昼間でも逃げるのは難しい状況だった。囲まれ逃げることすら困難だったケンタウロスたちも反撃したものの、物量差で全滅といっていい状況に追い込まれ、偶然近くを通りがかり巻き込まれたリュオーンたちによって助けられた。
戦いが終わって破軍犬が去った後には三人ほど生き残ったケンタウロスがいたが、怪我が重く二人は死んでしまった。
仲間を失ったケンタウロスは、行くあてもなくリュオーンに誘われるまま旅をしてきたのだった。
今でも夢に見ることがあり、守れなかったことを悔やんでいる。
ケンタウロスがそういったことを思い出していると、ヴァインが一声上げて速度を落とす。
「どした? もしかして敵対しそうな魔物がいる?」
肯定するように頷き、顔を前方二ヶ所に向けた。
「走り抜けられそう?」
この問いには首を横に振った。魔物の種類がわからないので明確な返答はできないのだ。
警戒しつつ進み、逃げられそうなら突っ切るかと裕次郎はケンタウロスに提案し、頷きが返ってくる。
「一応疲れを回復しておいて」
多尾狐に疲労回復薬を取るように頼み、ケンタウロスに投げてもらう。受け取った薬を飲んで、小瓶を投げ返す。
「……よく効く薬だ。これならば不覚を取ることもないだろう」
槍と盾を持つ手に力を込めて道の先を見る。
馬車は進み、魔物が潜んでいる場所が近いことを示すようにヴァインが小さく唸る。
裕次郎はすぐに動けるように体に力を入れ、多尾狐も弓を持つ。
近づいた車輪の音を聞いた魔物が、二十メートルほど先の草むらから次々と飛び出してきた。
「あれは」
「破軍犬か」
タイミングの良さに苦々しい思いを抱きつつケンタウロスは睨む。
破軍犬の数は四十ほど。すぐに馬車を囲むように動き、逃げ道を塞いだ。
「突破する? 戦う?」
「……戦いたいな」
裕次郎の問いにケンタウロスは私心を優先し答えた。事情を知っている多尾狐がフォローするように頼む。
「でしょうね。薬師さん、戦う方向で行きたいんだけど駄目?」
「そこまで強くなさそうだしいいよ」
「ありがたいっ」
言うやいなやケンタウロスは強く地面を踏み込んで、雄叫びを上げて群に突っ込んでいった。以前よりもケンタウロスは強くなっており、破軍犬を蹴散らしていく。
ヴァインに止まるよう合図を出し、急いでヴァインを馬車から外す。
「ヴァインも突っ込んでいってケンタウロスのフォロー! 多尾狐は俺と馬車を守りつつ襲いかかってきた犬を迎撃っ」
「ウォンっ!」
一吠えするとヴァインも風の如く群に突っ込んでいく。
それを見つつ、竜巻の魔法の準備をして数の多いところに竜巻を発生させた。砂や草と一緒に巻き込まれた破軍犬が空中に放り出され、地面に叩きつけられていった。
「そんな魔法も使えたんだ」
「まあね、セリエに教えてもらった森の民の魔法だよ。そっちは弓以外になにか攻撃手段ある?」
「あるよ! 今の魔法ほど強くないけどっ」
多尾狐は弓を撃った後、なにかを投げるように右手を動かす。その軌道にそって金色の炎が現れて尾をひきながら飛び、破軍犬の一匹に命中した。
威力としては平原の民の魔法「炎の矢」より少し上くらいだろう。優れたところは自在に動かすことができるところだ。今も避けようと動いた破軍犬を追うように軌道を変えた。冬などは空中に固定して、焚き火代わりとして使ってもいる。
これは魔法ではなく、水竜の使う水のような魔物固有の力だ。人間でいうところの異能や魔術に近い。多尾狐が成長すればもっと強くなっていくが、今はこれが最大威力だ。
「それって火の補助薬で威力上がったりする?」
「その薬のこと知らないから、わからない」
「今度試してみようかねっと」
向かってきた破軍犬を蹴り殺し、この旅の間に補助薬を作って試してみるかと考える。
そんな考えごとをする程度には余裕がある戦いだった。
すぐに破軍犬の数が一匹二匹と減っていき、半分以上が死んで地面に倒れた。これを見てリーダー格はどうやっても勝てないと判断し、退くと吠えて去っていった。
「数だけで強くなかったなー」
「いや僕にとってはそれなりに強い相手なんだけど。ヴァインも強かったんだね」
「鍛えてるからね」
武装していることもあるが、怪我一つ負っていないヴァインを多尾狐は感心したような目で見る。
緊張から出た汗を拭い、使えそうな矢の回収をしていく。
「お疲れ様」
戻ってきたヴァインを撫でて労う。それに甘えるように頭をこすりつける。
そこにケンタウロスも近づいてきた。
「ヴァインには助けられた。礼を言う」
ケンタウロスはフォローしてくれたヴァインに頭を下げる。それに気にするなと吠えた。
笑みを返しケンタウロスは倒れている破軍犬たちを見る。その目には仲間を悼む思いが宿っている。これで少しは死んでいった仲間たちへの供養になればと考えていた。
矢の回収を終えた多尾狐が馬車に乗り、疲労回復薬を飲ませたヴァインを繋いで出発する。破軍犬は食べても不味いということで、そのまま放置した。そのうち食い意地のはった魔物が食べてしまうだろう。
その後も魔物と遭遇し、避けられるものは避けて進み、日暮れが近づいてきた。
「近くに川もあるし、ここらで野宿にする?」
「そうだな。十分進んだことだし、止まってもいいだろう」
同意が返ってきたので、ヴァインに止まってもらう。
「誰か料理作れる? 俺は簡単なものしかできないけど」
「俺も無理だが、多尾狐は手伝っていただろう?」
「うん。ある程度はできるから任せて」
森に滞在する前は丸焼きなど簡単なことしかしていなかったが、村で暮らし始めて料理した方が断然美味しいとわかり自分でも作りたくなり手伝っていた。コツを掴むのが上手かったようで、順調に腕は上がっている。
「俺は薬の材料と薪でも拾いに行ってくる」
「俺は狩りにでも行ってくる。何も見つからなかったら、魚でも探す」
「じゃあスープでも作り始めようかな」
やることが決まり動き始める。ヴァインには多尾狐の護衛を頼んだ。
ここらにはウサギも鳥も見当たらず、ケンタウロスは川で魚を採ることにして大きな石を投げ込んでいく。衝撃で気絶したナマズが収獲だった。
「僕ナマズの調理法なんて知らないんだけど」
「たしか特殊な調理ではなかったはずだ」
死んだ仲間が調理していたのを思い出し、手順を説明していく。ぬめりとりのため塩を消費するのが気になったが、今後節約すればいいだろうと調理することにした。
多尾狐が調理している間に、裕次郎はヴァインの毛をとき、ケンタウロスは素振りなどをして時間を潰す。
ナマズは開かれて香辛料をつけられ白焼きとなった。
「魔物避けの薬を周囲に撒いてこようかと思うけど、二人は辛くなる?」
白焼きを飲み込み裕次郎は二人に聞く。
「以前商隊を襲った時には近づくのが辛かったが。効果の高いものならば問題あるかもしれん」
「どれくらいの薬使うの?」
「効果高めの物を持ってきたから止めておいた方がいいかな」
試しにと薬の入った小瓶を開けて、二人の近くに持っていく。
ケンタウロスは顔を顰めて、多尾狐は耳と尾を立てて下がった。
「それはちょっと使わないでほしいよ」
「ヴァインは平気なのか?」
「訓練されてるらしいから、これまで不都合はなかった。だよね?」
ヴァインに視線を向けると、肯定するように頷く。
ケンタウロスたちも訓練すれば耐え切れるようになるということだが、それはすぐに慣れるようなものではないので、今日のところは使わないことにした。
「見張りはどうする? 多尾狐もできる?」
「できるよー。何度もやってる」
「じゃあ、日中走ってたケンタウロスを最初に置いて俺たちよりも短めに見張ってもらって、その次が俺で、最後に多尾狐でいいかな」
「気を使わずともいいのだが」
「初日だから疲れはないかもしれないけど、あと約二十日もあるし疲れは取れるときに取っておいたほうがいいよ」
「そうだよー、僕は一日中馬車の中でゴロゴロしてただけで体力余ってるし、明日昼寝すればいいだけだし」
「俺は睡眠時間長くとらなくても大丈夫だって旅をしてわかってる」
二人から休憩を勧められケンタウロスは頷いた。
その後少し話し、多尾狐を寝かせ、裕次郎は薬作りに専念する。そのままケンタウロスが寝るまで起きていて、薬を作りながら見張りをする。
ケンタウロスが眠り一時間ほど経ち、眠っていたヴァインが顔を上げた。それに気づいた裕次郎は魔物が近づいてきたのかと、警戒し立ち上がる。ヴァインの視線の先を探っていると、ケンタウロスが起きた。
「魔物か?」
「かもしれない。でも物騒な気配はないし、寝てていいよ」
「一応起きていよう」
「ここの警戒お願い。俺は気配する方向に行ってくる」
「わかった。気をつけろよ」
返事をして、明かりの魔法を自身の頭上に使い歩き出す。
三十メートル歩いた先に、木がぽつんぽつんと生えている。そこの木陰に魔物の気配がある。
「小石でも投げれば驚いて出てくるかな」
足下にある小石を五つほど拾い、それを木へと投げつけた。勢いよく飛んだそれは二つ外れ、三つが木の幹を抉り削る。
出てこないことに少し考える様子を見せて、裕次郎はもう一度小石を拾う。
それを察したか、魔物は木陰から出てきて裕次郎へと飛びかかってくる。
狼系の魔物で多尾狐のような人間に近い外見をしている。上はレザーベスト、腰に長い布を巻きつけている。額や体のあちこちに乾いた血が付着しており、顔色の悪さから自身の血なのだろうと推測できる。
裕次郎は迎撃のため足を動かすが、魔物の目にはっきりとした知性を確認し、叩き落す程度にまで力を抜いた。
簡単に地面に倒れ、うめき声を上げる狼獣人に裕次郎は声をかける。
「このまま去るなら追わないけど?」
「グガウゥ」
「言葉通じないのか。困ったな」
ケンタウロスならばわかるかと呼ぶ。呼び声で起きたのか眠そうな多尾狐もついてきた。
やってきた魔物たちと裕次郎の親しげな様子に、狼獣人は少し驚いた様子を見せる。
「どうした? セイルフかこいつは」
「そういう種族の魔物?」
「ああ、大陸西部に群を作って暮らしている。成人と認められたら旅に出て腕試しをすることがあると聞いたことがある。こいつもそういった奴なのだろう」
「会話ってできる?」
「どうだろうか。ちょっとしたやりとりくらいならできると思う」
「私もぉそんな感じ、あふぅ」
欠伸を噛み殺しながら答える多尾狐に、寝てていいと裕次郎とケンタウロスは言う。
「遠慮なくぅ」
そう言うと多尾狐は裕次郎の背にのっかかる。さらりとした橙の髪が裕次郎の頬に触れた。
「なんで俺の背中?」
「セイルフ運ぶなら同じ魔物のケンタウロスの方が警戒されないし」
「いやそうじゃなくて、馬車の中に戻ればいいと思うんだけどね」
「……リュオーンと魔王が少し羨ましかったから」
寂しげな声音でそう言うとすぐに寝息を立て始めた。リュオーンと同じように多尾狐も親と早くに別れた。人間や魔物に襲われたわけではなく、病が群を襲ったのだ。
リュオーンが親と再会できたことは嬉しく思えたが、羨ましさもあった。マカベルが甘える姿もまた同じように羨ましかったのだ。
両者がいない今ならば少しくらいは許されるだろうと、背中に乗った。
「そのままでいてやってくれないか? ずっと甘えるわけではないだろうしな。ヴィアシーの前では弱さを出さないから、たまには息抜きをさせてやりたい」
「んーまあ重くもないしいいけど」
落ちないように抱えなおす。親におんぶされたことを思い出したか、抱きつく腕に力が入る。
「んで、そっちはどうしようか? このまま放置か、治療か」
「意思疎通は難しいが、暴れまわるような魔物でもない。治療してやってくれないか?」
「薬は十分あるしそれでいいよ」
ケンタウロスは戦う意思のないことをセイルフに伝え、自身の背中に乗せた。
セイルフもきちんと戦意のなさを把握し大人しく運ばれる。
馬車に戻った裕次郎は多尾狐をおぶったまま馬車に入り、薬と毛布と布を出す。
ケンタウロスに薬を渡し、魔法で出した水で濡らした布も渡す。布は血を拭くためだ。毛布は多尾狐を包んで、膝枕で寝かせるためだ。
セイルフは薬を飲めば元気になり、自分で体を拭き始めた。ある程度綺麗になると、裕次郎たちに頭を下げて布を返してくる。
ケンタウロスは今日はそのまま寝るように伝え、セイルフは頷きその場に寝転がった。
「ケンタウロスも寝たら? 見張りは俺が続けるよ」
「頼んだ」
ケンタウロスも再び眠り始め、静かな夜が戻ってきた。
そのまま交代の時間が来るが、多尾狐があまりにも幸せそうな寝顔だったため起こすことに気が引けて、そのまま見張りを続けた。
魔物の襲撃はなく、夜が明けた。
「ん、あれ? 馬車の中じゃない……」
「おはよ。よく眠れた?」
頭上から聞こえてきた裕次郎の声に、顔をそちらに向ける。現状をよく理解できていないようで、目に不思議そうな色が映る。
「なんでこんな状況? おぶさって……そこから記憶がない」
「あのまま眠って、膝枕で一晩明けた」
「交代は?」
「寝顔が幸せそうだったから起こすのに気がひけてねー」
「あ、ありがとう」
恥ずかしげに頬をかきつつ起き上がる。そのままぐぅっと体を伸ばす。二本の尾もピンっと伸ばされている。
裕次郎は桶に水を入れて顔を洗った後、多尾狐に渡す。
「さっぱりした。すぐにご飯作るよ」
そう言い、昨日のナマズの残りを使ったスープを作り始める。
物音でケンタウロスたちも起き出す。裕次郎はヴァインの毛をといて、他の二人は体を動かしほぐしていく。
ケンタウロスは疲れのなさに驚いている。昨日あれだけ動いて、翌日に響いていないのだ。疲労回復薬の性能に感心した。
体を動かし終わると、セイルフに事情を聞く。詳しいことはわからないが、腕試しの旅に出たことはあっていた。昨日は魔物の群に遭遇しどうにか逃げることには成功したが傷だらけになったらしい。
これからどうするかという問いには、西に向かうと示す。故郷に帰るらしい。
朝食を一緒に食べた後、三人に感謝しながらセイルフは西へと走り去っていった。
「俺たちも出発しよう」
「多尾狐、昼まで御者代わってくれる? ヴァイン自身が判断できるし、言葉で伝えれば指示は聞くから難しくはないよ」
「いいけど薬師さんは?」
「少し寝る」
徹夜したと聞いた多尾狐は止めず、頷いて御者台に乗る。
多尾狐の出発の声に反応し、ヴァインが走り始める。馬車の振動を感じつつ、裕次郎の意識は沈んでいった。
感想誤字指摘ありがとうございます
》水竜の寿命どうにかなんないかな~?
どうにかしようと思ったら、水竜と同じ上位の竜を見つけて倒したりしないといけないので、ほぼ無理ですね
》それにしても今回薬を調合したことでヴィアシーが元気になったら~
余裕ができたらもらえるかもしれませんね
少女の蜜ですか、途端に犯罪くさくなりますね!
》問題を出してばかりの5人のアルマネイドはほれ薬と一緒に~
喰えたものでないので、肉体労働することに
》いろいろな種がまじってみんなで騒ぐとか、一時的なものだとしても~
いつか当たり前の光景になるといいですよね
》勇者達は何をしているのでしょうか?
四、五話くらいあとに勇者たちのことを書く予定です
》新しく読み始めました。途中までしか読んでいませんが~
ありがとうございます
》リハビリに使う薬の所で、山の民の秘薬と森の民の秘薬が混ざってませんか
混ざってました、修正します
》、、、、ご当地名物、、、魔物丼が開発され、、、、ないかw
魔物丼……ストレートに魔物の肉を使ったどんものなのか、魔物を模ったどんものなのか、または未知のものなのか。想像ができない
》自身の寿命よりも絆を優先した水竜がかっこよすぎます
かっこつけてもらいました
》個人的にケンタロスさんが渋くて好きです
リュオーンが知らないところでフォローとかしてたりしてそうです
》これが後の龍神祭の始まりである
いいですね。村が発展すれば祭の一つや二つはできそうですし、夏の暑さを迎え撃つために騒ぐとかありそうです
》竜殺し、妹可愛さのほうの更新も楽しみにしています
竜殺しは書けるけど、妹可愛さのほうがどうにも




