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39 戦い終わって

 兵が退いて二日間、ゴブリンやフォクシンたちは休むことだけで時間を潰した。危機から解放されて、なにもする気はないと惰眠をむさぼり、集落は静かで平穏だった。

 裕次郎たちも休憩を必要としたが、休憩は短めですんだ。特に裕次郎とゴゼロとドライアドは半日すると動きだした。

 裕次郎は遺跡に向かい、ゴゼロは自分たちの村と畑へ、ドライアドはアルマネイドを沼地に送る。

 森の中は踏み荒らされ、木々も皮を剥がれたり枝が折られたりしている。ドライアドの本体も傷つけられているが、ドライアドが死ぬようなことにはなっていない。

 地面には食われ残った人骨や、殺されたままの魔物、使われた武具などが転がっている。死臭が漂い、体にいいとは言えない状態だ。

 裕次郎は鼻を押さえて、周囲を見渡す。風の魔法で臭いを散らすが、すぐに周囲に満ちる。


「武具は集めて、今後の自衛に使ったらいいね。死体は集めて焼くか埋めるかしないといつまでも匂いがきつそうだ」

「そうすルのがいいな」


 向かう先が同じなので、裕次郎と老いた姿のゴゼロは一緒に歩いている。

 

「今後はまたフォクシンと別々に暮らす?」

「そのツもりだが?」

「一緒に暮らした方が色々と都合がいいと思うけど。これまでは約束のために山まで行ってたけど、人数が減った今はそれは厳しいでしょ? フォクシンもクロウスボウとか手に入れたけど、積極的に攻めるタイプじゃないから守り手はまだ欲しがるだろうし」

「しかし……」


 どうしても縄張り意識が出てくるのだ。だが人数が減って大変というのはその通りで、完全に拒否する思いもない。


「もうしばらくは一緒に暮らすだろうから、その時までに考えてみればいいさ」

「まだ暮らスことになるのカ?」

「だって村が無事だと思う?」


 あれだけ人が入ったのだ、荒らされていない方がおかしい。


「たしかに建テ直しまデ共に暮らスことになりそうダ」


 裕次郎と別れたゴゼロは廃墟といった感じの集落を見て、共存を真剣に考えてみることにした。そのまま畑に向かう。

 一方遺跡前にやってきた裕次郎は完全に破壊された入り口を見て、掘り起こすのは大変そうだと溜息を吐く。兵たちもここになにかあったのは確かだとわかったが、土木作業をする余裕はなく手付かずのままスルーしたのだ。

 一時間ほど土砂をどけていると、ゴゼロが様子を見にきた。ちょうどよいと手伝いを頼む。


「ちょいと手伝ってくれない?」

「ああ」


 ゴゼロは頷くと、土砂を運び出す。


「穴を掘りながら思ったんだけどさ」

「なんダ?」

「また軍がくるかもしれないから、森の東に堀でも作っておこうかなと。できれば塀や小さな砦があるとさらによしだけどね」

「フム。二度来テ、三度来ないとイう保証はないか。いいかもしれン。全員で作るカ?」

「まあ、そう急ぐ必要もないと思うから、俺と若返った爺さんで少しずつ掘っていけばいいんじゃないかな。ゴブリンやフォクシンは自分たちの住処作りで忙しいと思うし」


 さすがに退いた一ヵ月後に軍を再編して突撃してくるということはないだろうと、年単位での製作を予定している。二人とも力自慢なのだ、掘る速度は常人とは比べ物にならないはずだ。


「二人ハ大変だろう?」

「住処作りに余裕ができたら、手伝ってもらえばいいと思うけど……そうだね、マカベルに穴掘り用の魔法でも作ってもらおうか」


 それがあればマカベルも戦力になる。どれくらいで完成するかわからないし、出来上がるかどうかもわからないが、頼んでみるだけ頼んでみようと考えている。争いのための魔法ではないので、マカベルも拒みはしないだろう。


「ン?」

「どしたの?」

「地面かラ振動が、お?」


 ゴゼロの足下に小さな穴が開き、虫が出てきた。小さかった穴は、虫が土を除去していきすぐに大きさを広げていく。

 二人は少し離れて様子を見る。


「遺跡の中からも掘ってたみたいだね」

「ああ、これデ避難した者たちガ帰ってくるナ」


 仲間との再会を喜ぶようにゴゼロの雰囲気が緩まる。

 ゴゼロが通ることのできる穴が開き、虫が退いてから二人は足を踏み入れる。

 裕次郎は我が家に帰ってきたような安堵を得る。ここが帰るべき場所という認識なのだろう。

 土砂がなくなり、歩きなれた通路を進むとバグズノイドが向こうから歩いてくる。


「無事生き残ったのだな。おめでとう」

「一ヶ月も戦ってないけど、大変だったよ」

「仲間は元気デいるだろうカ?」

「いつも心配していたが、元気なのは確かだ。こちらに呼び戻すか?」

「頼ム」


 頷いたバグズノイドはついてこいと言い、先導して歩き出す。

 今日は特別なのか、入ることを許していなかった部屋に二人を入れる。

 部屋の中には高さ一メートルを超す立方体の物体があった。緑がかった透明で、ガラスの塊にも見える。それにバグズノイドが触れると、中に文字の羅列が浮かび、指を動かすごとに文字があちこちへと動いていく。使われている文字は裕次郎には見覚えのないもので、昔のものなのだろうと思われた。これまで遺跡内で使ってきた設備と違い、これはまったく理解できないものだ。

 バグズノイドが指を止めると、奥の壁に縦二メートル横一メートルの穴が空く。向こう側は真っ暗でなにも見えない。


「山と繋がった?」

「ああ、すぐにこっちにくるはずだ」


 五分ほど経つと、ゴブリンやフォクシンがぞくぞくと姿を見せた。

 再会を喜びたいところだが、部屋に入りきれず外に移動してもらう。最後の一体まで出るとバグズノイドは穴を閉じ、裕次郎と一緒に部屋から出る。


「またここで暮らしてもいいんだよね?」

「大丈夫だ。部屋の物は動かしていないから、すぐにでもこちらに来ることができるぞ」

「村の再建手伝うつもりだから、もう少し向こうにいるけどね」

「わかった好きな時に戻ってくるといい」


 バグズノイドに見送られ、裕次郎は外にでる。

 わいわいと賑やかな団体を前方にゴゼロが立ち、後方に裕次郎が立ってガードしながらフォクシンの集落に戻った。魔物の数が減っていることもあり、襲われるようなことはなかった。

 ドライアドは先に帰ってきており、水竜のところへ行っている。


「賑やかになったわね。でも食料足りる?」


 再会を喜び合うゴブリンとフォクシンたちを見てセリエは笑みを浮かべていたが、少し心配そうな表情へとかわった。


「どうなんだろう? 明日くらい動ける人で集めに行った方がいいね」


 荒れた状態なので、まともに手に入るかわからないが、少しでも足しにした方がいいだろうと行くことにした。

 翌日、裕次郎たち動けるメンバーが森に出て狩りや死体の処理を行っていく。水竜治療用の薬も集めていき、完成次第眠れるようになる。

 その夜、先を考えてゴゼロとフォクシンの長が話し合う。フォクシンの長も共存には素直に頷けなかった。だが人数が減っていることの不安はあり、一緒にいるメリットは理解できる。

 長が心配しているのは縄張りだけではなく、一緒に暮らすとなると強力なリーダーのいるゴブリンの方が優勢に立ち、自分たちは扱き使われるだけになるのではと考えている。ずっと対等であれるのならば、共存も頷ける話だ。

 そこで長は裕次郎たちも一緒に住むことを提案した。彼らが常に一緒ならばゴブリンたちが強圧的にでても抑えてくれのではないかと考える。

 急遽裕次郎たちも呼ばれ、話し合いを再開する。


「俺たちも一緒なら、か」

「ゴブリン側とシてもクスシが常ニいるというのは心強イ」


 さてどうしようと考える。正直遺跡での暮らしは便利で、あまり離れたくはない。だがここで断ると今後にしこりを残すことになる。生活ランクは下がるといっても、旅暮らしよりはましなのだ。しっかりとした家を作ってもらえるのならば、頷いてもいいかなと思えた。


「セリエはどう思う? 俺はしっかりとした家を作ってもらえるならいいかなと思う」

「そうね……」


 あなたと一緒ならばどこでもいい、という考えが自然に浮かんで顔が赤くなる。

 それを隠し別の理由を口に出す。


「いつまでも遺跡に居座り続けるのも悪いし、家がきちんとできるなら」

「マカベルはどうだろうね?」

「あの子は私たちがいれば、それで満足だと思うけど」

「たしかにそれっぽいね。というわけでしっかりとした家を作ってくれるなら一緒に住むよ」


 ゴゼロがそれを伝えると、フォクシンの長は頷いた。


「村の位置はどうする?」

「うチは荒れテいて建て直すのハ大変だぞ? 最初カら作るヨうなものだかラ、好きなヨうにいじれルかもしれんが」


 長がゴゼロになにか伝える。


「ゴブリンやフォクシンの住処ヲ使うと、その種族ノ力が大きくなるかモしれないかラ、まったく新しイ場所に作っテはどうか。と言っていル」

「それなら畑の近くに作るのもいいわね。これまで集落から離れていて、行き来に少し苦労してたでしょ?」

「畑が近くニなるなら、作業もモう少し捗るだロうな」


 その方向で行ってみようということになり、明日下見に行くことになった。

 夜が明けて、昨日のメンバーにドライアドとマカベルが加わり、長の代わりにフォーンが入って下見へと向かう。

 裕次郎とゴゼロは武具回収のため籠を背負っている。

 

「新しい村をねぇ、数も減っていることだしゴブリンとフォクシンが一緒に住むのは効率がいいわね。私の本体からは遠くなって行き来が少し苦労するかもだけど」

「木ごとこっちに持って来れない?」


 そう聞くセリエに、難しげな表情を浮かべた。


「ユージローやゴゼロといった力自慢がいるから不可能でもないんだけど、病気が治ってない今は移動はちょっと」

「一緒に暮らしてみたかったな」


 残念そうなマカベルに、ドライアドは背後から抱きついた。


「可愛いこと言ってくれるじゃない。治ったらこっちに来るわね」

「転ぶからあまりじゃれないでよ」


 注意するセリエに、はーいと二人は返事を返した。少し前までの争いが嘘のような穏やかさだ。

 苦笑を浮かべ鳥の声につられて、見上げると木々の緑が濃さを増しているのがわかった。初夏の足音が聞こえてくるようだ。冬の訪れまで半年近く。村づくりに、食料調達。やることはたくさんあるが、なんとかなるだろうとセリエは思う。

 畑にたどり着いた一行は荒れ果てた様子を見て、肩を落とすもすぐにやる気を出して、下見に移る。

 川があればよかったがここらにはないので、できるだけ開けた場所を探して、そこを切り開き村を作ることに決めた。

 伐採や切り株の除去は裕次郎とゴゼロがいれば十分なので、残りは村に帰りながら採取や狩りをして食料調達に勤しむ。休み終えたゴブリンたちも狩りに出ているので、食料の不安は和らいだと考えていいだろう。


「ほい、若返りの薬」


 投げ渡された薬をゴゼロはいっきに飲む。若返ったゴゼロは斧を持って木に近づいていく。そして力を込めて振り、一振りで木を刈り倒した。太い木でも二振りで切り倒すことができる。

 

「よっと」


 倒れてきた木を、筋力の能力上昇薬を飲んだ裕次郎が持ち上げ運んでいく。

 二人はこれを繰り返して、二時間でかなりの広さを確保した。三百人ちょいは問題なく住めそうな村ができそうだ。ここに住む予定の者たちを合わせて三百に届かないので今はこれで十分だろう。

 二人である程度枝を払い木を積み重ねていく。


「次は株を引っこ抜こう」

「オウ」


 こちらも数人がかりでないと抜けなさそうな株を一人でどんどん抜いていく。日が暮れる頃には切り株の山が刈り倒された木の山の横にできていた。

 集落に戻ってそのことを聞いたセリエは、速すぎる仕事に呆れた。


「明日から、全員でそこにいって村づくり開始ね」

「まずはなにから作った方がいいかな」

「雨風しのげるように家かしらね。私たちの家は最後にしてもらって、ゴブリンやフォクシン用の家と食料とかを入れる倉庫を優先? 家が完成するまでは遺跡にいればいいし。もしくは身を守れるように塀と櫓を一番に作る?」

「明日ゴゼロたちにそれを聞いてみよう」


 そうねと頷いて、夕食を運ぶ。それを手伝いながらマカベルが裕次郎に話しかける。


「私はなにかできる?」

「マカベルは……ああ、穴を掘る魔法を作ってみてくれないかな。あると助かるんだ」

「穴を掘ってどうするの?」

「堀を作ろうと思ってるんだよ。何年かしたらまた軍が攻めてくるかもしれないだろう? その時のために軍が近寄りづらいように今から堀を作っておいた方がいいなってゴゼロと話したんだ」

「頑張ってみる!」

「うん、期待してるよ」


 あなーあなーと言って考え始めたマカベルの頭にセリエが手を乗せる。


「考えるのは後、ご飯食べるよ」

「うん」


 素直に頷いて、裕次郎の隣に座る。フォーンもヴァインも揃い、皆で食べ始める。

 翌日から村づくりが始まり、最初は柵を作ることになった。集落を囲んでいた煉瓦の一部を皆で運んで、集落に残ったフォクシンが新しい煉瓦を作っていく。煉瓦の持ち運びの護衛にセリエがつき、村の予定地には裕次郎が護衛としていて地面を均し、畑にはゴゼロが行き少数のゴブリンたちと野菜作りを再開する。集落にはヴァインが護衛として残っている。マカベルは魔法を考えながら、裕次郎とセリエの間を行ったり来たりしている。

 どれも大変な作業だが、生死をかけた戦いよりはましなので、今のところ不満はでなかった。

 そうしているうちに水竜の治療用の薬が完成する。

 それを持って裕次郎とドライアドとゴゼロと竜の親子が湖に向かう。裕次郎たちが抜けると護衛が足りなくなるので、今日は他の者たちも休みしてある。

 作った薬を湖に投げ入れると以前のように水が澄んでいく。その中に水竜は巨体を入れていく。


「今度は一年くらいだっけ?」

「そのくらいと見ていいだろうな。またなにかなければだが」

「また大きなハプニングは勘弁願うわ」


 ドライアドの言葉に、裕次郎とゴゼロは心底同意した。

 そうだなと小さく笑みを浮かべた水竜はシュピニアに別れを告げて、湖の底に潜っていく。


「さて爺さん木材運んで帰ろうか」


 ゴゼロもここにいたのは倒れた木々を村に持ち帰るためだ。家や柵を作るのに木材はいくらあってもいい状態だ。このまま朽ちらせるなどもったいなかった。

 ある程度ロープでまとめた木材を二人で運ぶ。村予定地に木材を置いて、集落に戻ると賢狸とハインドがいた。

 裕次郎はゴゼロとわかれて二人と話す。


「勝っておめでとー」

「ありがと、でもあれは勝ったとはいえないかな。食料助かったよ。他の魔物たちにも礼言っておいて」

「わかったー。で早速やけど薬の注文が入ったー」

「いいけど、どんなもの?」


 三つほど頼まれたが、どれもたいして苦労しないものだ。十日後に取りに来るということで決まった。

 今回も食料を置いて、賢狸の話は終わる。

 ハインドが前に出て頭を下げる。


「生き残ってなによりでした」

「うん、生き残れたよ。被害は少なくないけどね。そっちはどうだった? 死んだ人とか」

「頑丈なのも私たちのうりですので。怪我をしても襲った人間から血を吸えば大抵はどうにかなりました。無茶もしていませんから」


 本当のところは少ないが死んでしまった者もいる。だが参加は自分たちで決めたことで、死ぬ可能性があることもわかってもいた。なので恨み言はでなかった。

 年長者の腹芸に誤魔化され、裕次郎は死者が出たことに気づけなかった。


「困ったことがあれば、今度はこちらが力を貸すよ。できる範囲でってつくけど」

「その時はよろしくお願いします。こちらは坊ちゃまから。食料になればと種を」


 争いで畑が駄目になった可能性があると考え、なにかできないかと種を集めてハインドに託したのだ。種にはまだ余裕はあったが、多くて困ることはない、ありがたく受け取る。


「キットレーゼ君にも礼を。助かったと。もちろん吸血鬼たちの助力もありがたかった」

「必ず伝えます」

「あ、そうそう。今ゴブリンとフォクシンたちと新しい村を作っているいるんだ。できあがったらそこに住居を移すから、遺跡に行っても会えないかもしれない」

「わかりました」


 賢狸がなにかを考え、口を開いた。


「その村はゴブリンやフォクシンが一緒に住むー?」

「うん、そうなってる」

「ほかの魔物も受け入れるー?」

「んー……立場対等ならいいと思うよ。強いからって住民を従わせようと動く魔物は勘弁だ」

「その条件にあって住みたいって魔物がいたら紹介するよー?」

「一応、ゴゼロ爺さんとフォクシンの長に話を通しておこうか」


 もしかしたら嫌がる可能性もある。三人で移動し、話を通すと条件にあう魔物ならばと頷きが返ってきた。

 あとは完成前に連れてこられても困るので、当分勧誘は遠慮してもらうことにもなった。

 客二人が帰り、村づくりを始めて二週間で柵と櫓が完成した。村を囲むように高さ二メートル弱厚さ二十センチの煉瓦壁が立つ。出入り口は東と西で、四隅に中型バリスタを乗せた櫓が立っている。巨体種には高い効果は期待できないだろうが、並の魔物ならば十分な守りだ。


「ようやくなのかもうなのかわからないけど、守りは完成。次は建物だな」

「予定通り、ゴブリンとフォクシンの家からよね?」


 セリエの確認に裕次郎は頷く。

 

「引き続き彼らには頑張ってもらわないとね」

「協力することで仲間意識がでているようだし、このままなにも問題なく共存できるといいんだけど」

「今のところは大丈夫だと思うけどね。人数が増えてきたらわからないけど」


 話している二人に、できたできたとはしゃぎながらマカベルが走りよってくる。


「穴掘る魔法できたよ!」

「できたのか。早速見せてくれる?」

「うん!」


 マカベルは地面に手を当てて、魔法を使う。


「土の犬たち、出ておいでー!」


 マカベルの声を反応し、二メートル先の土が蠢いて土でできた犬が四匹立ち上がる。四匹がマカベルの周りに近寄り、お座りの状態となる。犬が出てきた部分はぽっかりと穴が開いていた。

 それを見ていた裕次郎とセリエは、動物好きなマカベルらしい魔法だと微笑みを浮かべた。

 これは裕次郎にとって期待以上の魔法だった。裕次郎が求めていたのはただ穴を掘る魔法で、それでは掘ったあとの土はその場に残って運ぶ手間が生まれた可能性がある。けれどこの動物化魔法ならば土が自分で邪魔にならない位置まで移動してくれるのだ。便利以外のなにものでもないだろう。応用すれば重い岩を動物化させ、労力なしで運ぶことが可能だ。

 ようは即席ゴーレム作成魔法だった。


「どう? できたよ?」


 すごいすごい? と目を期待に輝かせ裕次郎を見上げる。犬たちも尾を振り、体を構成する土を飛ばして尾を小さくしている。


「すごいっすごいよ! 頑張ってくれてありがとうな!」


 マカベルを抱きしめてそのままくるくると回り出す。それにマカベルは楽しそうに笑い声を上げる。

 くっついているマカベルを離したいが、頑張ったことはたしかなので空気を読みセリエは我慢する。少し不機嫌そうに二人を見るのは我慢の代償だろう。


「セリエ、これからマカベルと堀を作ってくるよ」


 マカベルを下ろし、セリエを見て言う。


「今日から?」

「一日でどれくらい掘れるか確かめてみたいしね」

「ここの守りはどうするの? 私は輸送隊の護衛で集落に戻るし」

「長くは離れられないか。じゃあ一時間くらいでどれくらいできるかだけ、試してくるよ」

「それくらいなら」


 長めの休憩を取るように予定を変更し、頷きを返す。


「じゃあ、行ってくる」「いってきまーす!」

「行ってらっしゃい」


 遊びにでるような様子の二人を苦笑を浮かべ見送り、セリエは予定の変更を伝えに向かっていった。

 裕次郎はマカベルを背負って走る。時間が限られているため、背負ったのだ。森から百メートルほど離れた位置で止まり、マカベルを下ろした。


「ここらでいいかな。堀はどれくらいのものを作ろうか。鎧着た兵が走ってどれくらい飛べるかな」


 こちらに来る前の学校で跳んだ距離を思い出しながら、簡単に予定を立てていく。


「三メートルだと跳び越えられそうか? でも荷物持った状態だしなぁ。とりあえず幅三メートルで作って、深さは二メートル?」


 独り言を言いながら予定を立てていく裕次郎を、マカベルがじっと見ている。

 ある程度予定を立てて、マカベルにわかりやすいように線を引いていく。幅三メートルで作ってみることにしたらしい。後で鎧を着たゴブリンを使って飛距離を計ってみるとこにした。それで不安があればもう一メートル増やせばいいと考える。


「この線にそって犬を出してくれる?」

「わかった」


 マカベルが魔法を使うと、六匹の土犬が現れた。穴の深さは四十センチほどだ。


「魔力はまだ大丈夫?」

「うん。まだまだ呼べるよ」

「じゃあ、一列ずつやってみよう」


 おーっと腕を上げて魔法を使っていく。十メートルほど進むと、マカベルの魔力は空となった。

 ずらりと並ぶ土犬たちに囲まれて、疲れたように地面に座っている。そのマカベルの頭をお疲れ様と言いつつ撫でて、できあがった堀を見る。


「一日これくらいか。マカベル一人で、深さ一メートル弱の堀を一キロ作るのに二年以上くらいかな。俺と爺さんが反対側から作っていけばもっと早くなるか。よし帰ろう」


 背負うためかがんだ裕次郎の背に、んしょとマカベルがのっかかる。

 歩いて十分間に合うのでのんびりと帰り、その途中でマカベルは気持ちよさげに寝息を立て始めた。

 この日から二週間ほど経ち、村に建物の基礎がいくつか見え始め、深さ一メートル弱の堀が三十メートルまで進む。反対側からも四十メートルほど進んでいる。賢狸から鉄製のつるはしなどを調達してもらえ、それを使った若いゴゼロとの協力作業は思いのほか捗ったのだ。裕次郎はフォクシンに作ってもらった一輪車で、土を運ぶ作業に従事していた。

 この作業で裕次郎とマカベルが二人で出かけることが多くなり、かわりにセリエとの時間が少し減っている。村づくりでも忙しく接点が減り、これでまで一日中一緒にいたことと比べると一緒にいない時間の方が増えたのではないかと思われ、セリエは寂しく思い始めていた。

 想いを自覚してそれなりに時間も経っているので、それを伝えたいとも思っていた。

 そんなある日、たまには休憩をということで、裕次郎は家でセリエとマカベルと一緒にのんびりとしていた。セリエはこれはチャンスだといつもは梳かしっぱなしの髪に変化をもたせたりしている。両側頭部の髪の一房を後頭部に移し、紐で縛り垂らしている。贅沢をいえば二人きりがよかったのだが、そのためにマカベルを追い出すのはどうかと思い、かわりにマカベルの好きなお菓子を多めに作って注意をそちらにそらした。


「あ、あれね、こんな風にのんびりできるのは久しぶりな気もするわね」

「最近忙しかったしね。早くのんびりできるようになりたい」


 祭の準備は楽しいというのと同じで、わりとこの状況を楽しんではいるがセリエとの接点が減っているのは残念だと裕次郎も思っている。それを言葉で伝えればセリエはとても喜ぶだろう。


「村が完成すれば以前のような暮らしができるわよね。私もあっちの方が好きよ」

「私は今も好きだよ?」

「そう? 私も今が嫌いというわけじゃないんだけどね」


 マカベルみたいに独占できる時間があれば、今の暮らしにも不満はない。それを口に出したかったが、中々言い出せない。


「マカベル、口元に屑がついてるよ」

「ん、ありがとう」


 マカベルの口の端にお菓子の欠片を見つけ、裕次郎は摘んで自身の口に持っていった。

 セリエはそれをじっと見つめ、裕次郎に「なに?」という視線を向けられ、なんでもないと首を横に振る。


(羨ましいけど、私がこぼすのはみっともないだけよね)


 逆に裕次郎がこぼした時に取ってやるのはどうかと考えて、ちらりと裕次郎を見る。裕次郎がセリエの作ったものを少しでも無駄にすることはないので、そんな機会は皆無だ。

 かわりに、作ったお菓子をとても美味しそうに食べる様子を見て嬉しくはなれた。

 機会を生かせないもどかしさと嬉しさを感じていると、部屋の外からドライアドの気配が近づいてくるのを感じ取った。

 いつものように腕の中にシュピニアがいる。


「こんにちは」

「いらっしゃい」

「マカベル、シュピニアと遊ばない?」


 ドライアドが誘い、シュピニアも誘うようにマカベルを見ている。

 それに頷いたマカベルは二人に遊んでくると言い、部屋を出る。出て行くマカベルの背を見て、セリエはこれはチャンスと気合が入る。

 望んでいた二人きりの状況に、セリエの緊張感が高まっていく。三分ほど何事もないようにお菓子を食べ、お茶を飲み、覚悟を決めた。


「あ、あのね」

「こんにちは」


 裕次郎に話しかけたと同時に、フォーンがフォクシンを連れて遺跡に戻ってきた。

 思いを伝えることに集中しすぎて、フォーンの気配を捉え損ねたのだ。


「まだ帰ってくるには早いよね、なにか用事? でもちょっと待ってセリエもなにかあるみたいだ」


 フォーンに断りを入れて、セリエを見る。

 優先してくれることは嬉しいのだが、誰かいる状況では思いを伝えづらかった。


「いや、フォーンの方を優先していいわ。私は後でいい」

「……そういうことらしいから、フォーンの用事を聞かせてくれる?」

「ポンプって道具のことで聞きたいことがあるんだって」

「ポンプなー」


 魔力少なめのフォクシンにとって日々の生活水を魔法で確保するのも大変なのではと思い、井戸の製作を提案したのだ。その時にポンプのことも話したのだった。


「詳しいことは俺も知らないんだよ。きっちりと蓋をして空気を送り込んで、その圧力で管に水を通すとかそんな感じ?」

「できるだけ詳しく説明してもらえたら、こっちでどうにかするって言ってる」

「ほんとにできそうだよな。遺跡の前に行こうか、地面に絵を描くよ」


 記憶を探ってなんとか簡単に構造を思い出す。紙に書くのはもったいないかと地面に描くことにした。フォクシンたちの記憶力ならばそれでも十分だろうと考える。


「少し出るね。すぐに戻ってくるよ」

「あ、うん。いってらっしゃい」


 フォクシンたちと出て行く裕次郎を見送りつつクッキーを口に運ぶ。焦がしたグラノーラからちょっとした苦味が舌に伝わる。もどかしさにピッタリな味な気もしてほろ苦い笑みが浮かんだ。

 裕次郎は二十分ほどで戻ってきて、セリエの隣に座る。


「ポンプとかいうのきちんと説明できた?」

「細かい構造は覚えてないんだよね。だから説明不足だと思う。しばらく試行錯誤するんじゃないかな」

「ゼロから協力魔法作り上げるのとどっちが難しいんでしょうね?」

「どっちだろう」


 いつかは完成させるのだろうなと言いながら、裕次郎はお茶を口に運ぶ。


「そういや、髪型少しかえてるよね。それも似合ってるよ」

「ありがとう」


 褒められたと嬉しげに頬を染めた。今ならばと気合が入り、口を開こうとしてまた誰か近づいてくる気配を感じ取った。

 気配は走っているような速度で近づいてくる。それだけ慌てているということなのだろう。また駄目かとセリエは脱力した。

 すぐに小さなハーピーを背負ったヒアが入ってくる。


「ぶしつけな願いなのですが、この子を診てもらえないでしょうか? 知り合いの子供なのです」

「いいよ。テーブルの上に寝かせてくれる?」

「ありがとうございます」


 テーブル上のお菓子などを端によせて、七才くらいに見える子供ハーピーを寝かせる。太腿に包帯が巻かれていた。

 どういった症状なのかヒアから聞き出し状態を推測していく。傷口から蛇かなにかの毒だろうと思い、効果は薄いが幅広く対応する毒消しを与える。それで起きてもらい、どのような生き物に噛まれたのかいつものように本人から聞くことにする。

 起きたハーピーから詳細を聞けた裕次郎は、毒にあった毒消しを知識から見つけ作り始める。その間、ヒアとハーピーは裕次郎の寝室で休むことになる。

 その後も客が訪れ、セリエが想いを伝えることはできなかった。そのうちにマカベルが帰ってきて、機会が去ったことを悟った。

 夕食を作りながらセリエは小さく溜息を吐く。簡単そうに想いを伝えてきた裕次郎が実はすごいことをしているように思えた。


「どうして今日にかぎって次から次に客が」


 次はいつ機会が訪れるかなと鍋の中身をかき混ぜながら、難しげな表情を浮かべた。

 そこに薬作りに一段落ついた裕次郎が近づいてきた。


「今日は具がたっぷりのスープ?」

「そうよ。ヒアがお礼にって茸を取ってきてくれたし、フォクシンたちは干し肉をくれたからね。余ってる野菜もあったから、まとめて放り込んでみたわ。味見してみる?」


 始めに自身で小皿にとって味を見て、そのまま小皿を裕次郎に渡す。なんでもないようにセリエが口をつけた場所に、裕次郎も口をつけてスープを飲む。


「今日もいいできだ。さすがセリエ」

「いつも通りだと思うけど……あ」

「どしたの?」

「なんでもないわ」


 なにげなく渡したが、昼にマカベルを羨ましがったことと似たようなことをやっていたのだと気づく。

 顔が熱を持ち始め、恥ずかしがっていることを悟られないかとちらりと裕次郎を見る。

 裕次郎はテーブルを拭いていて、セリエの赤い顔に気づいてはいなかった。そのことにほっとしたような残念なようなといった気持ちを抱く。


(今は二人だけ。言おうかな)


 そう思うとマカベルがやってきた。今日はそういう日なのだと諦めて、できあがったスープを器に盛っていく。

 髪型を褒められ、羨ましかったこともできた。今日はそれで満足することにした。

感想誤字指摘ありがとうございます

もう二話で終わる予定が、もう少し続きそうな感じに変更


》次回からプラッカで完治したことによるパーフェクトツアさんの修行生活ですね

熟練格闘家暴れ旅始まるよー、と行きたいところですが、それなりの落ち着きを持っているので節度をもった修行になります


》セリエと勇者が遭遇したから、てっきり勇者の攻撃でセリエが意識不明~

その展開は考えてなかったですね。勇者側の負けを決めていたせいでしょうかね


》やっぱり暴走なんて無かったんだ・・・

》魔王が暴走するかどうか占いで分かったりしないのかな~とか思った

水竜たちの知るかぎりはありませんでした。詳細は占い神殿に行ってから知ることに


》どうにか戦闘が終わったということでいいのかな

これからは復興です。戦いで魔物が減って平和なうちにいろいろとやっておきたいですね


》水竜の人化による裕次郎ハーレムの増員を妄想していた私

水竜ハーレム入りはすごい難しそうです。十年後とかにうっかりいい雰囲気になってるかもしれない?


》セリエとマカベルが殺されそうになって、裕次郎が良く切れなかったですね

ぶっちゃけてしまえば書き手が描写し忘れてました


》勇者ちゅう事に縛られてんな

ロンタの大元は力試しで、勇者になることを目指してたわけではないんですよね。勇者勇者といわれるうちに、人々に都合のいい存在として操られたのかもしれません


》魔物側からしたら、防衛で今以上の罠満載になっている気がする

準備期間さえあれば、薬の用意も罠の準備もできますからねー

手始めに素通しできないように堀つくりから始めました


》ペプシミンはこれから国内でゴタゴタするだろうからしばらくは安全と見ても~

森側と同じように国も建て直しが必要で、即再進攻は無理ですね

国がなくなるかどうかは、王や親王派の頑張りにかかってます


》今回の事で進行国に復讐してもよさげでない

積極的な復讐は森でやることがあるのでしませんが、のちのちの展開に響くかもしれないです


》セリエ(+マカベル)とのラブラブ話にいくかな

ちょっとだけあった甘い話


》主人公側の主要なメンバーが生き残ってよかったです

》何とかメインキャラが死なずほっとしました

生き返らせる手段があればこの命を代償にー!とかやれそうなんですが、生き返らせる方法はないとしているので死なせられない

そのわりをモブたちがくってるという


》魔王に関するウソはかなり気になる所、人間側にはなにか計画があるのだろうか

最大が得られないなら、予備をどうにか。といったところでしょうか。予定は未定


》結局勇者の剣、というか珠はなんだったんだろう

本来なら飾りで終わるところだったんですが、ちょっとした利用があるかもです


》ユウジローとしては、セリエが一番 マカベル二番ときて、勇者はどうでも良いと~

今後もマカベル狙ってくるならいない方がいい存在ですね


》ユージローの自重と良心だけでチートが抑え込まれてるわけで

ただたんに思いつかなかったり、さすがにそれはと引いてるだけで良心はどうなんでしょうね


》毎日の更新ありがとうございます

ある意味定期的というか不定期というか、適度に頑張ります


》年収500万で車(1000万円と維持費)を買って、レースに出たけどクラッシュ事故をして全損

あれ? 思った以上に大惨事なような


》雇った私兵や傭兵は、給料を払わないと国内で山賊化

給料用のお金はきちんと確保しておいたという設定にしてたので山賊化で治安悪化はない、といいな

取らぬ狸の皮算用で横流し起きてそうだ


》ヘプシミン国は割りと滅亡しそうなほど詰んでますね

重臣たちがんばれとしかいいようが。国としての格は落ちそうです

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