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35 森の攻防 3

 ロンタたちが働いている間に、ビュートは元気な部下たちに命じて被害を調査させる。

 調査結果は夜明け前に、ビュートへと伝えられる。


「死者数は少ないか。これは運が良かったのだろうな」


 情報がまとめられた書類には、全体の一パーセント以下の死者数が書かれている。数字で表すと百人も死んでいない。ただし怪我人の数は頭を抱えたくなるほどだが。それ以上に頭を抱えるのは物資的被害だ。


「二割には届かないが、それでも四桁の怪我人がいるのか」

「交代人員を後方の砦に送ってもらうしかないと思うのですが」

「仕方ないな。すぐにでも送ってもらおう。ついでに動かせる重傷者は帰す。しかし予定では五日ほどで消費する物資が一日で半分以上だいなしか。頭が痛いな」

「はい。しかも怪我人の治療に使われるので消費は予定以上の速さです」

「のんびりしてたら、物資が届く前に干上がるな。急ぎの使者を出して、多めに送ってもらうとするか。今日一日は陣地の再建で時間潰れるだろ?」

「はい。今の状況では疲労的にも森に行くのは難しいです」

「わかった。皆に無理せず再建に努めるよう言っておいてくれ」


 頷いた部下たちは、司令部用テントから出て行く。

 書類をテーブルに放り出し、ビュートは体を背もたれに預ける。


「あつっ」


 昨日ゴゼロとの戦いで受けた傷から痛みがはしる。今日は出撃しないだろうと思い、最低限の治療ですませているのだ。


「向こうがこっちの動きを把握しているとはな。魔物だからと甘くみすぎたか。森の中に罠がしかけられていることも考えて動いた方がいいのか?」


 集めた情報が役に立つのかわからず、これからは情報収集も兼ねて慎重に動くことに決めた。


「襲撃してきたのは突然変異のゴブリン。俺は会っていないが人間とハーフもいたと。しかも手配書の出ている奴か。生死問わずだったから、賞金目当てに張り切る奴もいるだろうな。全員に知らせるべきか。勝手な行動する奴も出てくるだろうし、難しいところだな」


 兵の多くは傭兵で、きちんと統制をとれるとは思っていない。しかし最低限のことは守ってもらいたい。欲に駆られた者には勝手に動く者もいるだろう。士気を上げるには情報開示した方がよく、ある程度の統制をとるには伏せておいたほうがいい。


「一応情報出すか。その上で釘を刺す」


 伏せておいても噂は広まるだろう。ならば最初から情報を与えておいて、勝手な行動をとった時のペナルティも伝えておくことにした。ペナルティは物資の制限だ。

 ビュートがこれからの方針を決めた数時間前、つまり陣地襲撃のすぐ後だ。

 ゴゼロと一緒に軍の陣地を出た裕次郎は十分ほど走り、足を止めた。ゴゼロも止まっていて、前方を注意深く見ている。

 

「ツアさん」

「やあ」


 月明かりに照らされ待ち伏せるように立っていたのはツアだった。

 帰還の邪魔になるかと殺気立つゴゼロに、ツアは笑みを向けた。


「戦うつもりはないよ。ちょっとユージロー君と話したかっただけ」

「爺さん、先に帰ってて」

「大丈夫なのカ?」

「もしなにかあっても逃げるくらいならできるから」

「だろうね。今の動きなら私は追いつけそうにない。わかれてからそう長くは経っていないのに、よく鍛えたものだね」

「種もしかけもありますから」


 本当に大丈夫なのかと問うゴゼロに、頷きを返す。それを見てゴゼロは森へと去っていった。ついでにセリエへと帰りが少し遅れることの伝言を頼む。


「しかし大暴れだったね」

「戦力差が大きすぎますから、少しでも減らしておく必要が」

「そんなにあるのかな?」

「あ、今は敵でしたね。うっかり情報漏らすところでした」


 殺気も闘志もなく、以前と変わらない様子で接してくるのでうっかり口を滑らせたのだ。狙っていたのかと内心警戒度を上げた。


「警戒しなくていいよ。情報入手にきたわけでもない。ただ現状の感想を聞いたり、ライトルティに行かないかって言いにきただけだから」

「ライトルティにですか?」

「勇者殿に聞いたんだけど、ライトルティでは手配書がでないようにと占い神殿が働きかけているそうだよ」

「へー、正直心揺れる提案ですね」

「だろう? 行く気になった?」


 行ってくれるなら裕次郎たちと戦わずにすむし、魔物たちとの戦いも楽になる。軍の動きを察していた裕次郎ならば、魔物たちを薬で強化くらいはするだろうと予測している。


「……いえ、ここでの暮らしが気に入ってますから。セリエものびのび暮らせてますし」


 三魔域での暮らしを気に入っていると言った裕次郎に驚きと感心の思いを抱く。

 裕次郎もセリエもここでの生活が順調なため、深淵の森だと気づいていないだけなのだが。


「ハーフのセリエ君には街暮らしは窮屈か」

「ツアさんにセリエがハーフだって言いましたっけ?」

「気配でなんとなく察したよ」

「すごいですね。それを言わなかったのはどうしてです?」

「変に事を荒立てるつもりがなかったからだったような」


 わりとどうでもいいことなので、よく覚えていない。演技といった感じは見られないので裕次郎は一応信じた。


「最後に側室殺しについてだけど、あれって君が犯人なのかい?」

「誤解ですよ。セリエとの二人旅が気に入っていたのに、誰かに追われるようなことに自分から関わる気はないです」

「そっか。納得できた。じゃあ、もう行くよ」


 一つ頷いたツアは裕次郎に背を向ける。


「待ってください。こっちからも一つ提案があるんですけど」

「提案? なんだい?」

「プラッカ欲しくないですか?」

「……作れるのかな」


 振り返ったツアの表情には先ほどまで浮かんでいた穏やかな笑みはない。かわりに圧力を持っていそうな眼光を放っている。そのツアに裕次郎は頷く。ツアが心底欲している薬だ。関心を引くに十分だろう。


「話を聞こうか」

「軍を裏切ってこっちに来いとかそういったものじゃないです。ただこれから森に入った時、ラグスマグとゴブリンとフォクシンとドライアド見かけたら、見逃してください。あと森中央の湖には近づかないでください」


 バグズノイドを除いたのは遺跡から出ないと知っているからだ。ヒアには基本的に見つかるように動いてもらうつもりはない。


「ずいぶん簡単な提案だね。ラグスマグはわかる。ヴァインも動いているんだろう。湖には水竜がいて危ないというのも聞いている。ほかの魔物はどうしてだい? 先ほどの大柄のゴブリンと一緒にいたことと関係するのかな」

「ええ、関係してますね。俺は彼らと協力して生活してましたし、この戦いでも協力しています。だから被害は減らしたい」

「私一人が手加減したところで、大して被害数は変わらないと思うんだけど」

「ツアさん軍でもトップランクでしょうし、手加減してもらえるなら少しはこちらが楽になりますよ」

「……頷きたいところだけど、絶対薬をもらえるわけではないよね。君たちが負けたら、君は死んでいる可能性がある。そうなると手加減した意味はなくなる。事前に作って隠して後で回収するにしても使用期限の問題がある。君のその提案はそちらの勝利が前提じゃないかな? 勝てる自信はあるのかい?」


 最初の会話で戦力差が大きいとは聞いている。裕次郎たちが勝率の低さを自覚しているのはなんとなく読めた。勝率が大きいのならば、極少数での敵陣突入などしないだろう。するにしても物資焼き討ちなど、できるだけ目立たないよう動くはずだ。少しでの勝率を上げるためにあがいているのだろうとツアは推測する。


「とても魅力的な報酬だけど、頷くわけにはいかないな」

「駄目ですか」

「プラッカを作れると聞いたらますますライトルティに逃げてほしくなったよ」

「仲良くなった魔物たちを見捨てられないですからねぇ」

「次会った時には気絶でもさせて捕らえることにしようか」


 その言葉に冗談はかけらも感じられなかった。


「怖いですね。動きが上でもツアさんなら気絶させることできそうですし」

「技術でどうにかなるとだけ言っておこうか」


 再度裕次郎に背を向けて去っていく。だが一度足を止めて前を見たまま喋る。


「粘るといいことがあるかもしれないよ。確証はないけど」


 ひらひらと手を振ってツアは去っていった。最後の情報は、戦力差があるといった情報の礼として渡した。

 この戦力差についての情報はビュートに伝えられ、数で押せばいけるかと多くの者に期待をもたせた。だが真偽のほどはわからないため、それを完全に信じての行動は慎むようにビュートは兵たちに命じる。

 戦力差があるといってもまさか五百に満たない数しかいないとは、直接聞いたツアも想像していなかった。細かい数字がわかっていれば、躊躇うことなく突っ込んでいっただろう。

 ツアが伝えたのは戦力差についてのみで、ほかの情報は伝えていない。どの魔物も殺すということにかわりはなく、特に潰すべき魔物など考えなくていいだろうと思ったからだ。あとは裕次郎たちに生き残ってほしいという思いもあるので、あまり不利になる情報を渡す気にもならなかった。

 こういった情報を渡した時に、ツアは裕次郎たちとの関係性や情報を問われる。知っていることは多くなく、隠すようなことでもないので、そちらは知っていることを話していった。


「ただいま」

「おかえり!」


 裕次郎がフォクシンの集落に戻り、入り口で待っていた少し眠たげなマカベルが飛びついてきた。それをしっかりと受け止めておろす。


「セリエと爺さんは戻ってきてる?」

「うん。お爺さんは持って帰ってきた武器をフォクシンたちに調整してもらって寝た。セリエはフォーンとヴァインと一緒に薬の材料を採りに出た」

「セリエは休んでないのか。まあ薬の効果がまだ続いてそうだし問題ないかな」

「ユージローはどうするの?」

「俺は薬を作った後、寝るよ」


 暴れまわり、さすがに少し疲れていた。

 薬作りを見ているというマカベルと一緒に与えられた家に入る。疲労回復薬をまとめて作っている最中に、セリエたちが戻ってくる。裕次郎が採っていた材料をうろ覚えで採ってきたため、いまいち統一感がなかったが、材料はいくらあっても困らないので礼を言う。

 セリエたちは先に眠ることになり、体の汚れを隣の部屋で落として、枯れ草にシーツを被せただけのベッドで眠る。

 裕次郎は疲労回復薬作りに一区切りをつけて、セリエたちが集めてきた材料を手早く処理し、一時間半後に一緒の寝床で眠る。

 戦い一日目は裕次郎たち優勢で幕が下りた。


 日が昇り、森側も軍側も動きはない。軍は予定通り、陣地の再建に忙しく、偵察を出すくらいしかできることはなかった。裕次郎たちはヒアに上空から軍の様子を見てもらい、軍に動きがないことを報告してもらうこと以外に軍へと関わることはなかった。それ以外は戦いの準備に明け暮れていた。

 夕方頃には軍は落ち着きを見せており、明日には森に攻撃をしかけることができそうだった。

 そして夜となり、裕次郎はヒアとマカベルにまた行ってもらうことにした。だが今日は少しでも無理と感じたら、すぐに戻ってくるように言い含めてある。二人はそれに頷いて、飛び立っていった。

 マカベルが出ると裕次郎とセリエはドライアドに話しかける。魔王の暴走についてなにか知っているかと思ったのだ。


「勇者がそんなことを言ってたんだよ」

「暴走ねぇ……聞き覚えはないわ。人間世界を歩き回ったわけじゃないから、私が知らないだけかもしれない」

「ほかに知ってそうなのは?」


 セリエに問いに、水竜と吸血鬼でしょうとすぐに返答が返ってくる。どちらもドライアドと同じように長寿の種族だ、なにかしらの情報を持っていてもおかしいことではない。


「あ、あとは賢狸もなにか知っているかも。人間の国に行くこともあるし」

「次会ったら聞いておかないと。生き残る方が先だけど」

「暴走が本当だとしてあなたたちはどういった行動をとるの? 見捨てる? どうにかしようと動く?」

「どうにかしたいね。だから暴走が本当だったら以前あったことを詳しく知りたい。薬でどうにかなることだったら、早めに作り始めたいし」

「私がなにかできると思わないけど、それでも見捨てたくはないわね」


 勇者に言った言葉に嘘はないのだ。

 暴走しないのが一番だが、最悪への備えはしておいて損はない。それもこの戦いを乗り越えての話なのだが。

 そんな話がされているとは知らない夜空を行く二人は、再度の襲撃を警戒して見張りが多めになっている敵陣を見る。


「空を見てる人はいませんね」

「大丈夫なのかな?」

「わかりません。少し動いて反応を見てみましょうか」


 大丈夫かどうかわからなかった二人は一度異能を使ってみて、その反応から判断することにした。


「んお? これは昨日と同じじゃないか?」

「ああ、似たような感じだ。また来たのか」

「探すぞ」


 さすがに昨日の今日なので兵たちの反応は早く、魔王が忍び込んでいると判断し探し始める。


「気づかれはしましたが、空だと気づく人はいないようですね。もう少し飛んで帰りましょう」

「わかった」


 気づかれていないと油断せずに、二人は陣の上空を一度回ってから森に帰っていった。そのおかげか兵たちは空に二人がいたと気づくことはなかった。

 二人にとって運がよかったのは、起きていたロンタたちやツアといった軍のトップランクに気づかれなかったことだろう。彼らがいるのは陣の中央辺りで、今回はそこを通らなかったのだ。ロンタたちが騒ぎに気づいた頃には、二人は陣を離れようとしていて位置を悟られることはなかった。

 昨日よりは軽めだが体に溜まる疲労感に、兵たちは顔色を悪くしつつも、警戒を高めて奇襲に備える。昨日はこの後に侵入されたのだ、警戒は嫌でも高まった。

 そういった兵たちの警戒をあざ笑うように、何事もなく時間が流れ朝が来た。


「団長、今日行きますか?」

「全員が元気ってわけでもないが、いつまでも森の前で足踏みするわけにもいかないしな。行くぞ!」


 行くぞと言ってもビュートは待機なのだが。行きたいがトップが突入することの不味さはわかっている。

 兵たちは陣地を走り回って、出発を告げる。動くことができる兵は一万人ほど。残りは動けない者や怪我人治療や陣地警備だ。

 本来ならば全方位から侵入する予定だったが、薬などが減ったせいで毒虫への対処が困難になった。そこでCを反転した形で毒虫の多いところに穴を開けて兵を配置し、侵入することになった。兵の数が減っているので、ちょうどいいといえばちょうどよかった。

 軍の動きをヒアは見ていて、裕次郎たちに知らせる。兵の動きを最後まで見ていないので、配置箇所まではわからない。軍側の配置がわかっても戦力差からやることはかわらない。


「既に説明したように、基本的に隠れて奇襲。もしくは魔物と戦っているところを奇襲。この二つ。あとは絶対に一対一では戦わないこと。武具の差とかで勝てないから。兵を殺したら武具を奪うのも忘れずに」


 無茶をしないこととも言いたかったが、この状況でそれはできないだろうと言えなかった。

 この裕次郎の言葉を、フォーンとゴゼロがそれぞれの種族の言葉で訳していく。

 言葉を伝えると、ゴブリンたちが動き出す。集落の外に出るのは裕次郎とセリエとヴァインとゴブリンたちだ。フォクシンたちは戦いに向いているとはいえないため、集落に篭っての迎撃担当になった。ドライアドとマカベルも防衛担当だ。ハーピーは弓や魔法で迎撃される可能性があるため、ここからは動かず治療の手伝いをすることになる。

 ゴブリンたちは森全体に散っていくわけではない。元から少ない数だ。始めから森全域をカバーできると思っていない。集落のある山を中心に、森の北東エリアに散らばっている。そこで息を潜めて兵が近づいてくるのを待っている。

 

 やがて森のあちこちから人間や魔物の悲鳴が聞こえ出した。

 まずはゴブリンたち以外の魔物と人間の戦いが始まったのだ。人間側も実力者以外は何人かまとまって動いている。だが疲労のせいか動きは鈍くもあり、魔物との戦いで苦戦する者が多い。珍しい魔物は殺さずに捕らえようとするので、その隙を突かれ殺される兵もいる。


「始まっタか。俺もそろそろ会ウのだろうナ」


 聞こえてきた戦いの音を聞き、若い姿のゴゼロは森の中を歩く。右手には馴染むように調整したバトルアックスがあり、左手には武具回収用の木箱がある。ゴゼロは隠れずともどうにかなるので、むしろ注目を集められるように堂々としている。

 周囲を探ると、木々で見えないが前方にいくつかの気配を感じ取った。同族ではないが、魔物か人間かはわからずそちらに行ってみる。


「人間だったカ」


 しゃがんで藪の影から観察すると、傭兵が注意深く森を進んでいた。ゴゼロに見つかったことに気づいていない。

 その傭兵以外にもいくつか気配が感じられ、戦えば注目が集められるだろうとバトルアックスを握り締める。

 闘志に気づいたか傭兵たちは警戒心を上げ、武器を構える。そこにゴゼロは突っ込んでいく。


「あの魔物だ!」

「まずいぞ! あれは強い!」

「逃げるか?」

「その方向で!」


 素早く方針を決めると、ゴゼロに背を向けて走り出す。いきなり逃げたことに少々呆気にとられるが、その背にゴゼロはバトルアックスを投げつけて、命中させる。

 悲鳴を上げて倒れる仲間に足が止まるが、迫るゴゼロを見て、仲間を見捨てて逃げていく。


「た、助けっ!」

「そうモいかん」


 ゴゼロは傭兵の頭部を踏み潰す。痙攣する兵の背からバトルアックスを抜き、傭兵の持っていた短槍とナイフと鎧を回収する。

 そこに悲鳴を聞きつけて他の傭兵がやってきた。彼らもゴゼロに見覚えがあるのか、すぐに逃げていく。


「強イということが知られていルせいで、まともナ戦いニならない」


 少々困ったと、ほかのゴブリンと同じように奇襲するかと考える。

 そうしようと決めて気配を探り、感じられる方角に気配を抑えて近づいてく。

 五分ほど歩くと戦いを終えたばかりの兵たちがいた。今は魔物から牙などを回収しつつ、怪我などの点検をしているのだと話し声でわかった。

 ゴゼロはできるだけ静かに近づき、十メートルの位置まで移動する。兵たちはなにかしらの気配は察したようで、ゴゼロのいる方角を警戒している。木や藪が邪魔でなにがいるのかはわからない。

 両者は自分たちから近づくか、近づいてくるのを待つか悩む。そこにゴゼロとは少しずれた位置から猫サイズのネズミの魔物が現れて走り去っていった。


「なんだ、小物か」

「次に行こう」


 気がそれた今がチャンスだろうとゴゼロは飛び出して、全速で近づいてく。

 兵たちは飛び出してきた魔物に体を一瞬硬直させ、逃げ時を失ったと武器を構えた。


「ぐぎゃっ!?」

「ベイス! この野郎っ」


 仲間の頭を砕かれ怒り、防御を捨ててゴゼロに突撃する。

 この攻撃はゴゼロの脇腹に当たった。


「どうだ!」

「少々痛かっタ」


 そう言ってゴゼロはバトルアックスを持った手で、攻撃してきた兵を殴った。殴られた兵は顔面が陥没し、痙攣を繰り返すだけとなる。

 兵の攻撃はゴゼロに傷を負わせてもいない。少し腫れた程度だ。薬で上げられた頑丈さのおかげで、兵の攻撃では威力不足だったのだ。

 残りの兵たちは魔術ならばと、日頃の訓練を遺憾なく発揮しゴゼロに迫っていく。

 けれどまともにぶつかればゴゼロに敵うわけはなく、兵たちが蹂躙され物言わぬ死体となるのに時間はかからなかった。魔術は当たると不味いということで、慎重に戦ったため約五分ほど時間を必要とした。

 

「奇襲ガ正解だな」


 体についた血や肉片を気にせず、武具を回収し、この後も同じように行動していこうと決めた。


 ゴゼロが奇襲を始めた頃、ヴァインの戦いも始まっていた。

 大きな木の上で気配を抑えていたヴァインは、眼下を通った兵に襲いかかる。


「なんだこのラグスマグ!? 防具身につけてるぞ!?」

「速いしっうあ!? 魔法!?」

「目がっぐはっ!?」


 明かりの魔法を目晦ましにしてヴァインは兵に体当たりをしかけた。速度と体重が加味された体当たりに耐え切れず、兵は勢いよく地面に倒れる。


「おいっ大丈夫か!?」

「足に噛みつかれたっ」

「べゼルフから離れやがれ!」


 仲間にのしかかるヴァインへと剣を振るう。だがそれは尾で腕を叩かれ阻止された。しかも腕に受けた衝撃は大きなもので、ひびが入っているのではと思えた。


「ま、魔術まで使うのか?」


 見た目にそぐわない威力に、今のは魔術だと驚きながら推測する。ヴァインはもう一度押し倒している兵の足を噛んだ後、残りの兵に襲いかかっていく。

 ヴァインは始めから奇襲で戦っていた。強さは裕次郎たちには及ばないので、真正面から戦うと危ないと諭されていて、それを忠実に守っていたのだ。

 気配を察するのは得意なので、薬の入った袋をくわえて移動し、物陰から襲うことの繰り返しだった。

 袋の中身はいくつもの小さな革袋だ。小瓶では開けられないため、噛めば中身がこぼれるようにヴァインの薬は革袋につめられることになった。

 速さの能力上昇薬の効果がきれるたび、怪我をするたび、薬を飲んでいく。そうして戦い始め三時間ほど経過した時、ヴァインは勝てない相手に出会った。


「おや、ここにいてその毛色はヴァインなのかな?」


 一人立っているのはツアだ。既に魔物と戦ったのか血が足に付着している。その血の匂いが人のものではないとわかり、ツアに怪我はないと判断した。

 以前感じた殺気はよく覚えており、ヴァインはツアに勝てないと理解している。


「その目は色々と考えている目だね。そんな風に思考もできるようになったのか」


 すごいなと感心するツアからヴァインは身を翻して全速力で逃げる。

 それをツアは追う素振りも見せず見送った。


「うん、それが正解だ。あのゴブリンならともかくヴァインには負けないからね」


 そう言うとヴァインが去った方角とは少しずれた方角へ歩き出す。その後三十分ほどして、薬の効果が切れるため陣に戻る。

 各地で戦いは続き、裕次郎とセリエも怪我人を増やしていく方向で戦っていった。そして日が傾き始め、兵たちは陣に退いていった。暗闇が迫ると同時に、静けさを取り戻していく森の中、裕次郎たちはフォクシンの集落に戻っていく。

 塀と木の根で囲まれた集落は、今日のところはここに着いた兵はいなかったようで、荒れた様子はない。

 戻ってきたゴブリンたちは血に汚れていたものの、怪我はなかった。渡していた回復薬で治療できたためだ。けれど出かけていったゴブリン全員が無事に戻ってこれたわけではない。犠牲はでていた。死者数は約二十。戦力の約十パーセントが一日で失われていた。

 戻ってきたゴブリンの多くは口を血で汚していた。殺した人間を食べたのだろう。裕次郎もセリエもそれに気づいたが触れずにいる。裕次郎たちは良好な関係を築けているが、基本的に人を襲うのが魔物だ、食べるなとは言えない。それに保存してある食料の節約にもなるのだ、この場に持ち帰り食べないなら見て見ぬふりが一番だろうと判断していた。

 

「死んだ者ノ多くは、決まリごとを守らなかっタらしい」


 報告を聞き、ゴゼロが起きたことを話す。

 隠れていることに我慢できなかった血気盛んなゴブリンが返り討ちにあったらしい。助けれるものは薬を飲ませて助けたが、間に合わなかった者もいて、それが今日の死者数だ。

 あとほかの魔物に襲われた者もいたらしいが、回復できたのでそれによって被害はでなかった。


「一日で一割か。きっついな」

「明日はましニなるだろうサ。真正面かラ戦うのは不利だトわかっただロうし、武具モいくらかましにナる」

「だといいんだけどね。あっちもこっちの戦い方はわかっただろうから、注意深くなるだろうし」

「それデもやることハかわらんだろう?」

「だね。疲労回復薬を配って皆を休ませよう」

 

 ゴブリンたちに薬を配り、明日に備えて休ませる。フォクシンたちは見張りや、持って帰ってきた武具の調整で忙しく働いている。


「セリエも休んでおいてね」

「ユージローは?」

「ちょっと薬の材料を集めてくる。その後は薬を作って寝るって感じかな」

「ユージローもきちんと休まないと」

「今日のところは疲れてないから大丈夫。疲れていない今のうちに貯蔵しておかないと、後で辛そうだし」


 裕次郎の言葉に同意しかなく、セリエは止めることはせず、ちゃんと休むようにもう一度言ってから家に戻る。

 集落を出て一時間ほど材料を集めて、戻ってきた裕次郎は家に入る。

 マカベルが一人でいて、裕次郎に気づくと抱きついてきた。


「おかえり! 怪我とかしなかった?」

「ただいま。傷一つ負ってないよ。セリエとヴァインは?」


 わしわしとマカベルの頭を撫でつつ聞く。それに気持ちよさげに目を閉じて笑みを浮かべ答える。


「ご飯食べて寝たよ。裕次郎が戻ってきたら起こしてって言ってた」

「そっか。俺もご飯食べるかな」


 食卓に並ぶのはフォクシンたちが作った料理だ。調味料が足りないので、素材の味を感じさせるものばかりだが、我侭は言ってられないので次々と口に放り込み、食事を終わらせた。


「セリエ起こしてきてくれる? 俺は薬作り始めるよ」

「その前に聞きたいんだけど、今日もヒアさんと行った方がいいのかな」

「どうしようか。今日行かなかったらもうこないと油断してくれるかも? 今日は行かないで明日の夜明け前に行ってもらいたいけど、起きれそう?」

「頑張る」


 おーっと片腕を上げて、意思を示す。

 起こされたセリエとマカベルが隣で体を洗い、さっぱりとした様子で裕次郎のいる部屋に入る。

 雑談をしながら薬作りを進め、ある程度完成すると、裕次郎も体を洗い眠る。

感想ありがとうございます


》後々死人が出てなかったことが分かったら多少罪が減りそう

残念ながら?死人はでました。あれだけ暴れて死者ゼロは無理でした


》初戦は良い感じですが、森側の勢力が反撃してくることを~

森全体が協力して軍に立ち向かえば勝てそうなんですが、裕次郎たちも軍も餌と捉える魔物とは手は組めません。操るにしても薬を作る時間がたりませんし


》強敵が回復とかDQのシドーかとゴゼロさんにつっこみたい

》ゴゼロ「まんたーんドリンクっ!」

ブラッドヴェインのキュアプラムスを思い出しました


》勇者とか指揮官とかの一部くらいは油断してるうちに殺しておいた方が良いように思ったけど

勇者は見たことあるのでわかるけど、指揮官は誰なのかわからず狙うことができないですね


》こんな怯えた年端もいかない女の子を狙うなんて、勇者達はおまわりさんに捕まるべき~

おまわりさんも勇者に協力してます。こう書くと駄目国家です


》軍を一撃で屠る魔法は主人公の想像次第で作れるが~

忙しくて魔法作成まで頭が回ってないです。薬作りで精一杯


》森の中入ったら入ったでベトコn……フォクシン仕込みの罠がオンパレード

スパイクボールとか落とし穴に竹やりしかけよう! まあ実際にはクロスボウとバリスタ関連で罠は作れなかったんですが


》一国を相手にするのなら、多分最終手段で空中からどくのこなや猛毒の粉等~

できるけどやったらティークたちも死にかねませんし、やれないだろうなぁ


》現在の主人公達の姿や服装はどんな状態ですか

特にこれといって特別な姿ではないです。旅をしていた時と同じように武装してます。外に出ていないマカベルは私服です


》勝手な都合で進駐しておきながら、相手に非があるとか

魔物の土地ですし、気にしないかと


》水竜対策が如何のとか言ってるけど、行動起こす前に全滅する気がしますね

それは次々回くらいにわかるのかな


》裕次郎には魔王の特性に対応する薬の効果を打ち消す薬はできないのかとふと

以前打消しの薬は作れないと書いたような、書かなかったような。作れても難しいということで


》森に侵入する、キノコの胞子が付く、それによってバイオハザードだと思ってました

それをやると戦いどころじゃなくなりますね。万単位の人間がうーあー言ってるところを見たら、ゴゼロたちもさすがに逃げたいと思うかもしません


》ヨムルンゾさんの腕は大丈夫なんでしょうか?

契約に反することをしていないので大丈夫です。化粧品の方は契約には入ってしませんし

深読みされたことも考えはいないので大丈夫です


》皆が幸せになるのは難しそうですね

モブは確実に不幸になりますね

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