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33 森の攻防 1

 季節は春となり、森からはすっかり雪が消えた。木々には新緑の葉が芽吹き、花もあちこちで風に揺れている。冬眠していた動物や魔物も起きだしてきて、森は日々賑やかさを増している。

 冬を乗り越えたゴブリンやフォクシンは、のびのびとそれぞれの仕事に精を出していた。


「ちょっと待った。そこの手順がちょっと違ってる」

「どこ? 教えられたとおりにしてたと思うけど」


 裕次郎は自身も薬を作りながら、フォーンが薬を作っているところを横から見ていた。その時にちょっとしたミスを見つけて止める。


「間違いというわけでもないんだけどね、特に説明しなかった気がするし。今切っている葉っぱ、横じゃなくて縦に切った方がいいんだ。繊維の潰れ方で少し効能に差が出てくる。大きな差じゃないけど、少しでも効能を上げたいなら気をつけておいて損はないよ」

「わかった」


 既に切ってあるので、次に作る時は切り方に注意しておこうと、メモに書いていく。文字はマカベルが習っている時に一緒に習い、少しずつ覚えている。

 作業に戻り、少ししてセリエとマカベルが皿を持って近づいてきた。シンプルなデザインのエプロンを身につけている。

 マカベルはフォクシンたちに作ってもらった服を着ている。ピンクのセーターに、ワインレッドのフレアスカートだ。始めに送られた衣服は巫女服などだった。あれが人間のスタンダードだとフォクシンたちは思っていたらしい。

 マカベルは送られた黒バニーを疑問も持たず身につけて裕次郎の前に出て、あれを着て見せるのなら誰でもいいのかとセリエに誤解をもたれるはめになっていた。機嫌を治すのに苦労したらしい。

 そんなことがあったセリエもロングスカートをはいている。生活が落ち着いて、たまにスカートをはくようになった。


「できた、できた! ユージロー食べて!」


 嬉しげなマカベルが、皿に乗っていたドライフルーツ入りのクッキーを差し出す。裕次郎は口元に持っていかれたそれをそのまま口に入れる。出来上がったものを裕次郎に食べてもらおうとするのは何度もあり、裕次郎も慣れた。

 また温かいクッキーはさっくりとしていて、ドライフルーツと生地自体の甘みが合わさり美味かった。


「美味いよ」


 その簡潔な感想にマカベルは満面の笑みを浮かべて裕次郎に抱きついた。

 ヴァインにクッキーを与えていたセリエは、マカベルを裕次郎から離す。ついでに自身が作ったクッキーも裕次郎の口に放り込む。口の中にマカベルのクッキーよりも甘さ控えめな味が広がる。

 ドライアドからアドバイスをもらい少ししてから、くっつきたがるようになったマカベルをセリエが離すのも何度も見られる光景となっていた。


「作業の邪魔になるからくっつかない」

「ぶー」


 不満の声を流して、セリエは裕次郎を見る。


「それで私のクッキーの感想は?」

「もちろん美味い。マカベルには悪いけど、こっちの方が好みだな」

「なら良し」


 小さく笑みを浮かべたセリエはしゃがんでヴァインの口元の屑を拭いていく。


「むー、次は私の方が美味しいって言わせられるように頑張るからね」

「楽しみにしてるよ」


 頑張れと声援を送り、休憩にしてクッキーを食べていく。

 もっと食べてとクッキーを渡してくるマカベルに対抗するようにセリエも渡し、フォーンはマイペースに食べていき、賑やかに休憩時間が過ぎる。

 クッキーがなくなった頃に、どことなく慌てた感じの賢狸が入ってきた。


「大変やー」

「ほんとに大変と思ってるの?」


 セリエが疑わしそうに聞く。

 雰囲気や表情はそれとわかるのだが、口調がいつもと変わらないのでどことなく気が抜ける。


「慌ててるー」

「それでなにか大変なのさ?」

「たくさんの平原の民がこの森目指してるー」

「たくさんってどれくらい? 十人とか二十人とか?」

「一万以上ー?」


 賢狸の口から出てきた予想以上の人間の数に皆一瞬呆けた。


「え? ほんとに一万以上?」

「ほんとー。鎧を着た集団で、馬もいるー」

「軍がこの森を目指してる? 俺たちがいるから見つけるために動かした?」

「いやそれはさすがにないと思うわ」


 一万以上の人間を、裕次郎たちだけを見つけ出し捕まえるためだけに動かすなど採算が合わない。ここにいるとわかって送るとしても百人でさえ多いだろう。


「じゃあ、なんでだろう?」

「二つ考えられる。目的地がここじゃなくてもっと先。もしくはここになにか重要なものがあるとわかった」

「ここで重要なものというと……遺跡? ライトルティのバグズノイドから遺跡の情報を手に入れて、ここを確保するために来てるとか。ここのバグズノイドに話聞いてみよう」


 バグズノイドたちは遺跡を荒らされたくないと思っているのでその可能性は低いだろうが、念のため聞くことにした。

 入ってはいけない部屋をノックして反応がなければ次へといったことを何度か続け、バグズノイドが出てきた。

 賢狸から入って来た情報を伝えて、何か知っているか聞く。


「ちょっと待っててくれ、確認してくる」

「そんなすぐにできるの? もしかして遠距離交信手段とかあった?」

「ワープ装置、離れた位置を短時間で移動できる装置と言って通じるだろうか? そういったことを可能にする装置があるのだ」


 セリエたちはぴんとこないようだが、地球で幾度もそういった言葉を聞いてきた裕次郎にはすぐ理解できた。


「そんな便利なものがあったんだ!?」

「理解できるのか?」

「実物は見たことないけど、想像上のものは何度も聞いたことがある。昔の文明はどれだけ進んでいたんだろうな」

「そういったものがあるのだ、少し待っててくれ」

「あ、その前に聞きたいことができた」


 部屋に戻ろうとしたバグズノイドを止める。


「その装置を使って、ゴブリンとかよそに逃がすことできない?」


 ここが目的地で攻め込んでくるというのなら、戦わずにさっさと逃げてしまうのも手だろう。


「一度くらいなら使うことはどうとも言わないが」

「だったら」

「問題がある。一つは必要魔力が足りるかということだ。例えばお前一人移動するのに、平原の民二人から三人分の魔力が必要となる」

「莫大な魔力が必要となるのか。用意するのはすごく難しそうだ」

「もう一つは移動する先のことだ。今のままだとリーダーのいる山の遺跡に移動する。だがいきなりゴブリンたちが大勢押し寄せたら迷惑でしかない。移動先を別に設定することができるが、ちょうど良い場所を探したり設定しなおすのに五日ほどかかる」

「人間到着まで早くて三日ほどー」


 時間が足りないだろうと賢狸が口を挟む。


「三日!? 避難は難しいってことか。それにしても三日か。もう少し時間があるって思ってたんだけどな」

「非戦闘員くらいはなんとか山の遺跡で預かれるかもしれない。それも聞いてくる」


 そう言うと部屋に戻り、部屋の向こうの気配が消えた。

 裕次郎たちはリビングに戻って、戦いに備えて動くことにする。


「正直さっさと逃げて落ち着いた頃に様子を見に戻ってきたいんだけどね」


 裕次郎の正直な気持ちに、セリエは苦笑いを浮かべつつも同意する。一万人以上との戦いなどセリエだってやる気はでない。


「全員で森から逃げちゃう?」

「それができたらいいなぁ」

「無理だと思うなー」


 賢狸が首を横にふる。ゴブリンたちは地元に愛着というか縄張り意識がある。そう簡単に逃げ出す決意はしないと知っている。裕次郎とセリエもこれまでの付き合いから、なんとなくそれを察していて、先ほどの会話は気を紛らわせる冗談の一種だ。


「真面目に考えようか。いつも逃げてばかりじゃどうかと思うし、たまには反撃もしてみる?」


 逃げても他所の国に手配書が出ていたら、暮らしにくい。無管理地帯で新たな場所を探してみて、ここのような暮らしができるかもわからない。


「反撃したらしたで、誤解でかけられた懸賞金が本当になるわね。まあ、国に戻らずとも暮らしていけるからあまり関係ないか」

「そうだね」

「戦うの?」


 やる気を見せてきた二人に、マカベルは不安そうな表情で声をかける。マカベルは争いを積極的に行う性格ではない。魔法や異能を使えば、そこらの人間に負けはないとわかっていても追われた記憶が影響を及ぼし平気ではいられない。


「マカベルにも働いてもらいたいんだけど、できそう?」

「わからない」


 視線を避けるように俯いた。裕次郎の頼みは聞きたいが、正直気は進まない。


「無理をさせるのもよくはない、のかな」


 セリエも戦力として動いてほしく思っているが、これまでの生活を思い仕方ないかもと思う。

 少し考え、裕次郎は口を開く。


「じゃあ、遠くから異能を使うくらいはできそう?」

「……それなら大丈夫」


 そのくらいはできるはずだとマカベルは頷いた。


「森の前から軍に向かって力を使うの? それともなにか考えがある?」

「日が暮れてヒアさんにマカベルを運んでもらって、軍の上から異能を振りまいてもらったらどうだろうと思って。夜とかだと飛んでることを気づきにくいだろうし。体調不良で戦える数が減らせたり、士気低下したりすると思うんだ」

「何度もやってると気づかれるかもしれないけど、最初の内は有効だと思う」


 セリエは良い考えだと同意する。問題はそれで何人の兵がダウンするかだ。全員を動けなくすることはさすがに無理だろう。できれば半数少なくとも四分の一は動けなくしてほしかった。

 マカベルに溢れるほどの力があるとはいえ、無尽蔵というわけでもなく、どこまで異能を使えるかそれが鍵かもしれない。

 異能を使い切るという試みはマカベルにも初めてで、どれだけできるかわからない。

 そんなことを話しているとバグズノイドが戻ってきた。


「戻った」

「おかえり、何か知ってた?」


 首を横に振る。


「遺跡のありかについて人間には教えてないそうだ。だからここの遺跡目当ての可能性は低い。昔の文献を見つけた可能性もあるにはあるのだが。あとはここが荒らされそうなら入り口を破壊して侵入を禁じるようにしろと命じられた」

「ピンチになったらここに逃げ込むこともできないってこと?」

「よほどの危機じゃなければ壊さないから安心していい。だがもしもの時があると覚悟していてくれ」

「非戦闘員の避難はどうなった?」

「そちらは大丈夫だ。その移動分の魔力も向こう持ちでなんとかするらしい」

「それは朗報」


 裕次郎たちはほうっと小さく息を吐く。


「これからの行動を決めるため、もっとほかにも呼ぼう。セリエはヒアを、マカベルはドライアドを、フォーンとヴァインはフォクシンの代表者を、バグズノイドは爺さん、ゴゼロを呼んできてくれ」


 すぐに動いてもらい、裕次郎は残った賢狸にも頼みごとをする。


「吸血鬼?」

「うん、手を貸してもらえないかだけ伝えてくれない?」

「それくらいならー。ついでにこれまで治療した魔物にも聞いてくるー」

「ありがたいけど、難しいかもな」

「かもなー。あと水竜は起こさないー?」


 それは裕次郎も考えた。軍がたどり着く前に暴れてもらい壊滅してもらうのが、一番楽な方法だ。だが頼んでこちらの言うことを聞いてくれるかわからない。そこでこちらの余裕がなくなれば、水竜も森を守るため動かざるをえないだろうと考え、奥の手として考えることにした。

 ちょっとした不安もあるのだ。それは水竜がどれだけ回復したかだ。消耗しきっていたあの状態に近かったりしたら、出て行って討たれる可能性もあるかもしれない。地球の物語では多くの竜は人に討たれていたのだから。

 できるだけ長く休んでもらい、力を蓄えてもらう。そしてここぞという時に登場してもらうのが一番なのかもしれない。

 これに一応納得したか賢狸は吸血鬼に会うため森を出て行った。

 静かになった遺跡の中で、裕次郎は薬を作り始める。回復薬はいくらあっても足りない状態だろうし、ほかに複数能力上昇薬も必須だろう。巨体種がいれば操る薬を作り特攻させたが、水竜に殺されたので作っても無駄になる。


「これの準備が無駄になればいいのに」


 実は賢狸が寝ぼけて、碌に確認せず夢の内容を裕次郎たちに知らせたと言われれば、怒りを抱く前に喜ぶだろう。

 今からでも賢狸が戻ってきてそういい出さないかと淡い期待を持って、作業を進めていく。

 最初に戻ってきたのは、ゴゼロを連れたバグズノイドだ。


「人間が向かっテきているとハ本当か?」

「嘘であってほしいけどね、残念ながらこっちに来てるらしいよ。逃げたらいいんじゃないって意見が出たんだけど、爺さんはどう思う?」

「ここガ我らの故郷ダ。逃げるわけニはいかん」

「やっぱり、そうなんだな」

「お前さんタちは逃げるノか? 数量差からいっテ、勝ち目ハ限りなく低イだろうシ仕方ないことダと思うゾ」

「やれるだけやってみることにしたよ」

「そうカ。助かル」


 薬作りだけではなく、戦力としても期待できる裕次郎たちが戦うことを決めて、ゴゼロはほっとした思いを抱く。彼らが参戦しても勝率の上昇は微々たるものだろう。それでも助力があるのはありがたい。

 バグズノイドは戦力外だ。遺跡を守るために残ると既にゴゼロは聞いていた。非戦闘員を匿ってくれるのだから、文句を言うつもりは微塵もない。


「これほドまでに大きナ戦いは、二度目ノになるナ。二度モ森を守ることニなろうとハ」

「以前もここが攻められたことあったの?」


 作業する手を止めて、ゴゼロに聞く。


「ああ、ここまでハこなかったガ。捕らえた捕虜かラ、狙いハここだト聞いタ。色々と資源ガ豊富らしいナ」

「それいつのこと?」

「以前話しタ気がするが、四十年ほど前の戦いダ」

「大きく名を広げたっていうやつだっけ」

「それであっテいるゾ。あの時ハ人間の中で暮らス物好きな魔物から情報をもらえ、こちラから迎え撃っタのだ。俺は森ニ帰ろうトしていてそれニ巻き込まれタ」


 この話で、軍の狙いは裕次郎でも遺跡でもなく、この森自体だろうと思えた。

 裕次郎は十字軍遠征も何度も行われたことをなんとなく思い出し、一度の失敗では諦めない人間の欲と根性に呆れる。規模は違うものの、セリエにつきまとった裕次郎も似たようなものだが、それには気づいていない。


「戦いだけどさ、ゴブリンとフォクシンで突っ込む? さすがにそれはないと思うけど」

「俺もそれハ愚かだとは思う。ゴブリンとフォクシンをあわせてモ三百たらズ、突っ込めバ押しつぶされル。森ノ中で木陰などから奇襲ガとれる手段だと思ウ」


 それで勝てるとは微塵も思っていない。できるだけ多くの被害を与えることだけを考えた戦い方だ。


「そういった戦い方になるか。ちょっとした考えがあるんだけどのる?」

「どんなものダ?」

「簡単に言うとって誰か帰ってきたね」


 近づいてくる気配を感じて、話を止めて入り口を見る。入って来たのはセリエとヒアだ。


「つれてきたわよ」

「こんにちは、ヒアさん。話は聞いた?」

「はい。ですが戦えといわれると頷きがたいものがあるのですが」


 戦いが得意そうではないと裕次郎も予想しているので、戦えと言うつもりは最初からなかった。


「手伝ってもらいたいけど、戦えとは言わないよ。サポートに回ってほしいんだ、ヒアさんには」

「どのようなことをすれば?」


 内容にとっては手伝えないものがあるので、断ることも考え聞く。


「軍が来る前に森の上を飛んで、ここらの簡単な地図を作ってもらいたい。これが一つ」


 それならばなにも問題ないと頷いた。


「次に軍がきたら、空から人間の動きを見てもらいたい。どこに一番人間が集まっているかとか、森のどこから侵入しようとしてるかとか」

「それも大丈夫だと思います」

「最後に日が暮れたらマカベルを連れて軍の上を飛んでもらいたい。マカベルの力で兵士たちを動けなくしたいんだ。どう? できそう?」


 これには迷いを見せる。断り方を決めかねているというわけではなく、なにかわからないことがあり答えられないといった感じだ。


「マカベル様の重さがわからないので、どうにも答えようが」

「背負えたらやってもらえるってこと?」

「声を治してもらった恩もありますし。ですが頭上にいるとばれたらすぐに逃げますよ?」

「うん。それは当たり前。二人が死んだり捕まったりするとこっちも困る」


 協力ありがとう助かると裕次郎のほかにセリエやゴゼロからも礼を言われ、照れたように微笑む。

 セリエとヒアが戻ってくる直前に言おうとしたことは、全員が戻ってから言うことになり、裕次郎は作業を続け、セリエが皆にお茶と茶菓子を振舞う。

 全員が揃ったのは、セリエが戻ってから一時間ほど経ってからだ。

 フォクシンの長やドライアドに現状やわかったことを説明していく。ドライアドは前回の進攻を覚えていたらしく呆れた表情を浮かべていた。


「全員揃ったゾ。奇襲とやらニついて聞かせてくレ」


 再度ゴゼロが尋ねる。


「そう難しいことじゃないんだ、俺は戦争なんて経験したことないから戦術なんて知らないしね。軍がこっちにきて設営をした夜に、ヒアさんとマカベルに行ってもらい、弱まったところを超少数精鋭で陣地内を暴れて回るってだけ。旅の疲れや異能に触れて動きは鈍いと思うんだよ」

「行くのハ俺とお前とハーフか?」

「セリエは待機かな。さすがに危なくて連れてけないよ」

「私は行くわよ」


 爺さんはと続けようとした裕次郎の言葉を遮って、セリエが名乗りを上げる。


「ほんとに危ないんだって」

「わかってる。だからって安全なところで待つ気はないわ。以前も言ったでしょ、対等でありたいと。それにマカベルだって行くじゃない


 裕次郎を心配する思いと自分は邪魔だと言われたようで湧いた反感とマカベルへの対抗心が混ざり合い、ついていくことを決める。


「マカベルはヒアさんと上空を移動するだけで、危険はないに等しいよ。でも俺たちは人々の群に突っ込むことになる。薬で強化するつもりだけど、危険なのにかわりない。怪我なんかさせたくないからここで待っててよ」

「私だってユージローに怪我してもらいたいわけじゃないの。私が行くことで少しは裕次郎に行く注意を減らせると思うから」


 その言葉は嬉しかったが、やはり待っていてほしいという思いにかわりはない。

 二人は意見を譲らず睨むように向き合い続ける。


「その話はまた後でやってくれ。今は奇襲をどうするか、それを進めてくれ」

「……わかった」


 今は一秒でも時間が惜しい状況だ。このまま話を止めていても仕方ないと、互いに視線を外した。


「えっと、さっきも言ったけど少人数で突っ込む。その時に爺さんを若返らせるつもりなんだ。若い頃は凄かったんだろう?」

「今よリ格段に上だっタが、そのようナことできルのか?」

「一時的にだけど若返らせる薬があるからね」


 以前大量に手に入れた茸を材料にして、若返りの薬が完成するのだ。

 もう一度あの頃の肉体で暴れられるのかと思うと、ゴゼロは年をとって落ち着いていた心から熱いものが湧き出てくる思いだった。


「暴れる時に気をつけてほしいことがあるんだ。できれば死人をださないでほしい」

「それハ同族だかラか?」

「少しはそういった思いもあるけど、狙いは別。怪我人が多ければ、それだけ治療に人手も物資もとられて、戦力が落ちるから」


 以前そういったことを小説か漫画で見たことがあった。できるだけ数の差を減らしたい今回にはむいているのではと思ったのだ。

 納得したようにゴゼロとセリエは頷く。セリエの反応に裕次郎は微妙な表情を浮かべたが、すぐにそれを消す。


「俺が思いついたはそれくらい。奇襲のあとの動き方とか、ほかに決めておいた方がいいこととかなにかある? あ、あと吸血鬼に助力を頼んだ。期待できるかはわからないけどね」


 作戦会議のようなものは続き、話し合いを終えたそれぞれは動いていく。裕次郎もだが、ゴゼロなども戦争のやり方など知らないため、これが有効的だという案はでなかった。唯一大規模戦闘の経験があるゴゼロも、作戦を立てる側ではなく使われる側にいたのだ。

 ヒアとマカベルは実際に飛べるかを試すため外に出る。ゴゼロはフォクシンの長に簡単なものでいいので大きな棍棒を作ってくれと頼み、長は頷く。長は長でクロスボウの量産と麻痺毒の量産を決めた。

 話し合いで、裕次郎はゴブリンをフォクシン集落に移動させることを提案した。まとまっていた方がいろいろと都合がよいと考えたのだ。縄張り意識はあるだろうが、今回ばかりは我慢してほしかった。フォクシンの集落を選んだのは、高い位置にある陣地は守りやすいと聞いたことがあったからだ。

 これにゴゼロとフォクシンの長は難色を示す。今回のことを乗り切るためには一致団結する必要があり、住処をまとめるのはその一端だと説明し、なんとか了承させた。

 裕次郎がゴゼロたちと話している間に、セリエはドライアドに声をかけられていた。


「話ってなに?」

「大事なことってわけじゃないのよ」


 腕の中のシュピニアを撫でつつ、どう言おうか少し迷う。


「さっきついていくって言ったでしょう?」

「止めるの?」

「いや止めはしないけど、普通に考えたら危ないってわかるわよね。あなた自身もそう言ってた」

「よくわかる。周囲は敵だらけで、味方とはぐれる可能性もあって、そうなったらどうしようもないかもしれない」

「それだけわかっていて、行こうと思うのはなぜ?」

「ユージローとゴゼロさんに少しでも助けはあった方がいいと思ったから」


 その理由にドライアドは違和感というのか、弱さを感じ取る。もう少し別な理由があるような気がした。


「あの二人は強いでしょう? 手助けはいらないんじゃない? ついていくことでかえって邪魔になるかもしれないわよ?」


 怯えていたとはいえ水竜の前に立った裕次郎と立つことすら拒んだセリエの差から、裕次郎とセリエの実力差を見抜いて聞く。


「……それは、そうだけど」

「だけど?」

「……」


 考えをまとめるためか黙り込んだセリエを、ドライアドは静かに待つ。

 じっと自身を見てくるドライアドの穏やかな視線に、セリエは落ち着いて考えていき、心の内をこぼす。


「……悔しかった。マカベルに頼って私に頼らないユージローに私だって力になれるって」

「ユージローにセリエのことを気にかけてほしかった?」

「どうなんだろう? 十分に気にかけてもらってる。でも足りないって思うのかな。マカベルと話しているところを見ると、こっちを見てって思うし、もっともっと私の相手をしてと思ってる、のかもしれない」


 正確に心情を言葉にするのは難しいのだろう、断定ではないが思いを体外に出していく。

 ここまで想っていて答えはすぐ先にあるのに、どうして気づかないのだろうかとドライアドは小さく溜息を吐いた。背を押すかどうか迷い、生き延びるしぶとさになればと背を押すことにした。


「ユージローはあなたのことを大事に思ってるわ」

「うん」

「それは今の話を聞いてあなたも同じとわかった」

「なのかな?」

「同じ思いなら、ユージローが抱いている気持ちをあなたも抱いていると思わない?」

「抱いてる気持ち」

「いつもなんて言ってた?」

「好き、かな」


 好きという言葉がすとんと心のなにかにはまる。

 それにセリエは赤面することなく、すっきりとした思いを抱く。これまであったもやもやが晴れた感じがした。


「……私はユージローが好きだったんだ。どれくらい前かはわからないけど、とっくに好きになってたんだ」


 料理を褒められた時、衣服を似合うと言ってもらえた時、ちょっとした仕草の感想、それらを思い出し徐々に顔を赤くしていく。

 熱を持った顔に両手を当てて、自覚した思いを大事に抱く。


「気づけた思いが無駄にならないよう、少しでも危ないと思ったら無理せず退きなさい。生き残ってこそ、その思いは果たせるのだから」

「うん。ついていくことは止めないけど、無茶な戦い方はしないよ」

「危なくなったら、私の本体のところにくるといいわ。しばらくは守ってあげられるし、反撃の機会を伺うこともできるだろうしね」

「その時は世話になる」


 ドライアドとの会話を切り上げて、話が終わった様子の裕次郎の下へ向かう。

 外見はどこも変わっていないが、内面は余裕もでてきて、落ち着いてついていくことを説得している。

 激情など見せず粘り強い説得に、裕次郎は折れて同行を認めた。裕次郎たちよりも早めに切り上げるとセリエが言い出したことが、認める一因となっていた。

 この日から裕次郎はセリエたちに材料を集めてもらい、自身は薬作りに集中し始める。出来上がった分はまとめて馬車でフォクシンの集落に運ぶ。ヒアが作った地図も食料もフォクシンの集落に置かれた。

 非戦闘員の避難も始まり、ゴブリンとフォクシンを合わせた戦力は百五十弱となった。フォクシンの集落に集まった戦力を見て、ゴゼロは改めて生き延びることの難しさを思い知る。

 ゴブリンとフォクシンは協力して煉瓦や岩を運び、集落の防御力を高めていく。

 もっと時間があれば、森のすぐそばに砦を築けたかもしれないが、今回の時間でできるのはこの程度だ。

 知恵のある魔物の群はゴブリンとフォクシンのほかにもう一つある。沼の一部を住処としている甲殻をまとった人型の魔物だ。虫ではなくカニやエビといった水棲の魔物だ。名前はアルマネイドといった。それなりの強さを持つため、ゴブリンたちとの協力関係にはなく、裕次郎のところに患者としてくるここともなかったのでそういった魔物がいることすら知らない。面識があれば今回のことも頼れただろう。

 一応ドライアドが人間襲来を知らせに行ったので、不意打ちを受けて全滅といったことはないはずだ。

 それぞれが短い時間で準備を整えていき、襲来を知った三日目の夕暮れ前、森の東に人の群が姿を見せた。

感想ありがとうございます


》陰謀から始まるオールスター最終決戦はっじまっるよー

まだ出てない人がいたりします


》力押しではまず無理だろうし毒殺もない、勇者も中級と互角じゃあ~

正攻法とわりと人でなしな方法で対抗するつもりです


》王様同士の親書を勝手に開封してなくなりましたって、子供の理屈か~

国の使者が襲われるのはわりとあることなので、それでいけると思ったのでした


》ペプシミン軍戦闘始まる前からガタガタやん

森側も万全ではないですけどね。準備期間がたりなさすぎる


》裕次郎への罪の捏造した傀儡派の行動をきっかけに国対国の戦争~

戦争させる気はありませんが、非難はあると思います


》勇者の背景が読みづらいから、どうしても深淵側に意識傾いちゃって~

主人公は裕次郎たちなのでどうしてもスポットは森にあたりますね。勇者無能は避けたいんですが、王の言葉に従ってるとどうも


》魔王の能力で一撃だから深淵側が負けるのはあり得ないんじゃ

しっかりと収束した異能ならば薬を貫けるというだけで、そうすると効果範囲は狭まるので一万人以上を圧倒は無理ですね

マカベルがやる気を出せば勝利率は大幅アップというのはたしかです


》ツアさんはどうするんですかね?

それはいずれ


》ユージローに怪我させたら、魔王の殺意全開で国軍&勇者終了のお知らせ?

殺意全開ならいいところまでいけるかもしれません


》人外だの薬師だのハーフだのと舐めてると、真・魔王軍結成~

結成には時間がたりませんでした。生き残って次の機会があれば魔王軍結成はありですね


》ユージロー側も結構魔物がいるしなぁ

その魔物たちは侵入者に襲いかかりはしますが、味方ではないんですよね


》狙い通りを通り越して大騒ぎになるんですね

裕次郎が行かないと事態解決はできそうにないけど、現状では行く気は皆無という


》本人のいないところで繰り出される皮算用w

ですね。ヨムルンゾたちもわかってはいますが、ほかにどんな手がとれるかというと叱責覚悟で説得を重ねるくらいでした


》貴族を助けておけばよかったってなりますね

貴族に関わるよりもセリエと過ごしたいというのが裕次郎の方針でしたからねぇ


》森攻略では個人的に寄生キノコ?の活躍に期待を隠せないです

茸は山の民の秘薬や若返り薬と役立ってます


》対抗するための準備期間が十分に取れるとしたら

準備期間三日でした。いろいろと時間たりませんでした


》群れる影犬に誘拐されたけど、組織壊滅でなんとか逃げて行方不明になっている~

今回の騒動が終わった後に出てくる予定です


》願わくば完結まで頑張ってください

頑張る気はあるんですが、終わりが上手く見えない。エタることはないかと


》6話でのセリエと主人公での会話で25歳と書いていますが~

27歳の間違いでした、修正してきます


》セリエはツンデレ? マカベルは可愛い

ありがとうございます。セリエようやく自覚しました

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