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閑話 勇者と人々 後

 部屋に案内されたロンタたちはしばらくそこで寛いで、深淵の森の資料が届くとそれを見ながら話し合う。


「当たり前のように巨体種がいるなー。水竜もいんの!?」


 本当に開拓できるのかとカルマンドは疑問で一杯になる。数を集めたところで上位竜を相手するのは難しい。それをよく知っていた。

 以前ロンタたちはストーンドラグニアという暴れる中位竜と戦い、なんとか追い払ったことがある。どうにか引き分けに持っていくことしかできなかったのだ。


「準備していると言ってた、水竜がいるとわかっている以上対策もきちんとしてあるのだろうさ。しないで開拓を口にするなど馬鹿そのものだろう」

「ですよね」


 オロスのフォローにカルマンドは納得したと頷き、王の準備に期待することにした。。


「水竜も嫌だけど、私はこっちの虫の魔物も嫌。噛まれたら病気になるものばかりじゃない」

「薬の準備を怠ったら、即戦闘能力低下だなぁ。こんな場所であの薬師たちほんとに暮らせていけるのか? できるならサバイバル能力高すぎだろ」


 そこで暮らせるならば、国内でもどうにかできたのではとロンタは思う。だが魔物には魔物の、人間には人間の厄介さがあると、すぐに国内を逃亡し続けることの大変さを思い、出たことは正解かもしれないと思いなおす。

 しばらく資料を読んで、地形などを確認していく。資料の詳細さから、開拓は本気なのだろうとわかる。これだけ調べるのにどれだけの人間が犠牲になったのかはわからないが。


「情報は手に入った、これを踏まえて独力でいくか、協力で行くか。どちらにするか決めよう」


 利点欠点を考えてみようとロンタが言い、各自考える様子を見せる。

 話し合い、出た考えは王と似たようなものだ。多少の頼まれごとはされるかもしれないが、無茶振りはしないだろうと判断し、協力することにした。

 このことを伝令用の人間に伝え、感謝の返事と共に兵士鍛錬の依頼を受ける。

 鍛錬は明後日からになり、翌日は兵士と騎士の両団長や開拓にあたって集められた有名な傭兵や冒険者に挨拶することになる。

 始めは騎士団の団長に会いに行くことになる。見張りの兵に用件を伝え、部屋に入れてもらう。


「よくいらっしゃいました。私は騎士の長エイスベルク・ロータリアンと申します」


 誰が入って来たか確認したエイスベルクは立ち上がり、ロンタたちを出迎える。昨日の謁見の間には、エイスベルクや兵士団の団長もいてロンタたちの顔は知っている。

 二十半ばを少し超えるかといった女で、くすみ気味の金髪をゆるく三つ編みにしている。体は引き締まっていて、鍛錬を欠かしていないとわかる。紺の目にはしっかりとした意思が宿り、それなりに威厳もある。お飾りの団長というわけではないのだろう。

 若い女ということで驚いたロンタたちに微かに笑みを浮かべた。そういった反応に慣れているのだ。


「私がこの立場にいるのはそれなりの事情がありまして」


 その言葉で考えていたことを読まれたとわかり、ロンタたちは申し訳ないと頭を下げた。

 

「いえ気にしないでください」


 エイスベルクが団長なのは、特別に複雑な理由というわけない。騎士には貴族の子供が多くいて、それを治めるのに平民では反感がでる。となると貴族を置いた方が無難で、始めは副団長などをそのまま繰り上げようとしたが、人間関係上の問題で部外者を連れてきた方がまだましと判断した。

 そこで先代団長の孫娘が武芸に秀でているということなので騎士として取り立てて、いくつか手柄を立てさせた後に団長に置いたのだ。先代団長の引退を伸ばして、祖父のそばに置いて団長としての仕事も見せていた。

 それなりに有能で、地位的にも子爵の出と低いものではないので、ある程度の反感はあったものの一年半前から団長として働いている。就任してからの働きぶりで反感は小さくなっていた。

 

「椅子へどうぞ」


 部下にお茶を頼み、エイスベルクも団長の椅子からロンタたちの座る椅子に移動する。


「用件は鍛錬についてでしょうか?」

「はい。その挨拶にと」

「勇者様たちのご指導を受けられるとわかれば、皆喜ぶことでしょう。私自身も手ほどきを願いたいですね。できればオロス様に」


 エイスベルクの視線がロンタの隣に動く。目には好奇心の色が浮かんでいる。


「俺? 槍を使うのですか?」

「はい。断槍の二つ名を持つあなたに会って、手合わせしてみたかったのです」

「わりと肉体系?」


 カルマンドの言葉に頷く。


「正直、事務作業よりも己を鍛えることの方が興味あります」


 祖父からは自身に似たところを喜ばれると同時に、もう少し落ち着いてくれとも思われている。エイスベルクの年齢で一人身なのは、いきおくれなのだが、本人がそれを気にした様子もなく、浮いた話一つもない。容姿は悪くなく、縁談の話もやってくる。それを蹴って鍛錬に精を出す姿は、両親の悩みとなっていた。


「そうですね、喜んでと答えておきましょう。時間があればいつでもお相手しますよ」

「ありがとうございます」


 飾らない素の笑みを向けて、エイスベルクは礼を言う。

 表情を引き締めて仕事の話に移り、日程などを決めていく。ある程度決まると、ロンタたちは兵士団長に会うため部屋を出て行く。

 その日のエイスベルクは、どこかへ遊びに連れて行ってもらえることが決まった子供のように上機嫌だった。

 兵士団長はちょうど外で鍛錬しているようで、部屋にはいなかった。居場所と身体特徴を教えてもらった四人はそちらへ向かう。

 掛け声が聞こえてくる鍛錬用の広場を進み、兵士団長と思われる人間を探す。

 あれかなと思った人は、無手の相手と模擬戦をしていた。近くでそれを見ていた兵に、兵士団長か聞くと頷きが返ってきた。

 今声をかけるのはまずかろうと、四人は模擬戦を見る。

 二人とも四十過ぎで、既に聞いていた特徴から坊主に近い黒髪の男が兵士団長だとわかる。名前はビュート・ラセム。こちらはエイスベルクと違い平民出身だ。肉体的にはピークを過ぎ始めたのだろうが、いまだ逞しい筋力がついていて衰えは見えない。露出している腕にはいくつかの傷がついており、歴戦の戦士だと思える。木剣と盾を使っていて、慎重に相手の出方を伺っていく。

 相手の方は赤茶の短髪で、団長よりスマートに見えるもののやはり鍛えられており、年による衰えは感じさせない。革の籠手とブーツを身につけて、構えらしい構えはとっておらず、団長をじっと見ている。


「おらっ!」


 ずっと待つ様子をみせ動く気配のない男に対し、ビュートがかけ声とともに剣を突き出す。それを男は腕を使って内にそらし、シールドバッシュへと繋がるのを防ぐ。ビュートは逸らされた剣をすぐに斬り返す。その間に男が一歩前進しており、剣を持った腕を男の腕で抑えつける。そのまま押し合いとなり、少しして同時に下がる。

 ロンタたちは二人の動きを見て、名前を知らない男の方が上だろうと見て取った。

 模擬戦は続き、決着は男がビュートの剣を蹴りで手から弾いて終わりとなった。

 模擬戦の感想を言い合っている二人に、ロンタたちは近づく。


「勇者殿ではないですか、何用ですかな?」

「兵士鍛錬の件で挨拶をと」

「ああ、あれですか。ありがたいことです。皆、聞け! 勇者殿たちが訓練してくれることになった!」


 その知らせに対し、兵たちから驚きと喜びの声が上がる。

 ビュートと模擬戦をしていた男も驚きの表情を見せている。


「あの」

「なにかな?」

「そちらの方はどういった方なのでしょう? 兵士といった感じはしないのですが」


 ロンタの問いに朗らかな笑みを浮かべてビュートは男の紹介をする。


「この人は冒険者で、名を広めたことで王に呼ばれたのだ。今は部下の訓練を手伝ってもらっている」

「ツア・シャルマと言います。勇者殿に会えて光栄です」


 裕次郎とわかれた後、ツアは順調に依頼をこなしていき、以前の名声と運の良さもあって名前が王都にまで届くようになった。それを知った者が王に深淵の森進攻の戦力として推薦し、城に呼ばれたのだ。

 王に謁見し、激励の言葉をもらった後、数日城に滞在して帰るはずだった。王も深淵の森進行の一ヶ月前くらいに呼び出す予定だったのだが、兵士たちと手合わせして悪いところなどを指摘する様子から指導が上手いとわかり、一時的なビュートの補佐として望まれた。それに頷いて、兵の指導を手伝っている。村で村人たちに教えていた経験が生きたのだった。


「見てのとおり格闘が得意な人で、兵士や騎士たちの中でもトップクラスの実力がある。持病のせいで、五時間ほどしか戦えないのが欠点だな」


 薬の効果が切れる前に戦いを止めるので、実際に戦えるのは四時間半ほどだ。以前裕次郎が渡した薬と時間が違うのは、作成者の腕の違いだろう。


「病気なのに動いて大丈夫なんですか?」


 ロンタが心配そうな表情で聞く。それにツアは笑って答える。


「病気というわけじゃないんですよ。膝を壊してたけど薬のおかげで動けるようになりまして、その薬の効果が五時間といった感じで」

「そうでしたか」

「勇者殿、これからすぐにでも指導始められますかな?」


 ビュートの言葉に申し訳なさそうにロンタは首を横に振る。


「ほかにも挨拶に回らないといけないので」

「そうですか。残念ですな。いつごろから始められるので?」

「明日からでも大丈夫ですよ」

「では明日から早速」


 ロンタたちは頷き、少し話しをして去っていく。

 次の日から自己鍛錬も兼ねて動いていく。ビュートやツアやほかに呼ばれた冒険者と模擬戦をすることもあり、よい刺激となった。

 そういった模擬戦の結果、ロンタとオロスは城内で一番二番の実力者だとわかった。ツアが本気で動けたらオロスに勝って順位に変動があったかもしれないが、足を決定的に壊したくはないので自重している。

 時間は少し流れて、白の月もそろそろ半ばにさしかかろうとした頃、城内で一つの事件が起きた。

 突然腹の痛みを訴えた王の側室が治療のかいなく死んだのだ。お腹には子供がいて、城は上へ下への大騒ぎとなった。暗殺と病死の両方の線から調べられ、死ぬ前の暮らしぶりなどから病死の線は薄いのではないかと思われた。しかし毒物使用の痕跡も見つけられず、葬式のすぐ後に正確な原因を探るため、貴族たちは話し合い腹を探り合う。けれどなにもわからずソルヴィーナへと使いが出された。


「大騒ぎだな」

「そりゃあ、側室が死んだんだしな」


 多くの者が騒いでいる中、与えられた部屋でロンタたちは大人しくしている。


「しかも暗殺か病死かもわからないときてる。中々騒ぎは収まらないだろうさ」


 オロスの言葉に他の三人は頷いた。


「王様、イラついてるらしいね」

「大事な嫁さんが死んだ原因がわからないならなぁ」


 兄の言葉を否定するようにレラは首を横に振る。


「それもあるんだろうけど、深淵の森進攻が近づいているこの時期にアクシデントが起きたことの不満の方が大きいらしいよ。使用人や兵士がそんな感じで荒れているところを見たってさ」

「そんなことをエルクも言ってたな」


 城内で会ったエイスベルクに話を聞いた時、似たようなことをオロスも聞いていた。


「すっかり愛称で呼ぶようになったね」


 少し笑み含んで、からかうようにレラが言う。

 その視線から逃れるようにオロスはふいっと顔をそらす。照れているのだと三人ともよくわかった。

 オロスとエイスベルクは気があったのか、手合わせだけではなく、ただ話すためだけに会うこともある。それを知ったエイスベルクの家族はようやく浮いた話が出てきたと喜んでいる。オロスが勇者の仲間だからツテができることを喜ぶ、貴族ではないから反対するといった話はまったくでていない。純粋に、この相手を逃すと次はいつこういった相手が出てくるかわからないと何度もエイスベルクに言って、うるさがられている。


「早く原因を特定しろと騎士たちにせっついているらしい」


 顔を三人に向けて、聞いたことを話す。


「貴族たちも原因を探るため色々動いていて、騎士たちの仕事を邪魔することがあるんだとさ」

「大変だなぁ。ああ大変といえば、サワベって薬師はこれで手配書がでると思う。皆はどう?」


 ロンタの問いに三人は頷いた。


「俺も同意見だな。政治と言ってたし、国中に手配書がでるような事件は、これくらいしかなかったしな」

「阻止するために動けると思うか?」


 なにも思いつかないとカルマンドとレラはすぐに首を横に振る。


「難しいな。情報が足りないし、その情報を集めている間に手配書が出される気がする。カートルーナさんから罪がないと聞かされはしたが、詳しいことは知らないから王に誤解だと言うことはできないし」

「あの人たちもこの場で誤解を解くのは難しいと判断したから、伝言だけ伝えるように頼んだのかな」


 カルマンドの溜息交じりの言葉に、かもしれないなと三人は思う。

 四人が静かに暮らしている間に、貴族の一人が犯人発見処罰の報告を出した。

 王は全てを信じたわけではないが、収拾がつくとこの報告を受け入れた。

 これに疑問の声を上げたのはタンター家とメルモリアのハーベリ家だ。無実だと言っているわけではなく、もう少し詳細な調査結果が出るまで手配書は取り下げてはと願い出たが、深淵の森に集中したい王に却下された。ツアもビュートを通して似たようなことを言ったが、認められることはなかった。このことでツアの王に対する心象は悪くなる。すぐにマイナスになったわけではないが、死ぬまで忠義を尽くすという気もない。


 手配書が出て、裕次郎が捕まったという報告もなく一ヶ月。王都のタンター家別邸にカインツはやってきた。手配書に疑問の声を上げた家が自分以外にあると知り、ヨムルンゾが手紙を出したのだ。その手紙のやりとりでここで会おうということになった。


「呼び出してすまないな」


 椅子を勧めつつヨムルンゾは詫びる。

 

「いえ、たまには王都に来て自分の耳で陶器の評価を聞きたいと思っていましたから、ちょうどよかったです」

「当主が交代して一年を過ぎたのだったね。仕事には慣れたかい?」

「周囲の者たちに支えられてやっとといった感じです。焦らずやっていこうと思います」


 カインツの言葉を聞いたヨムルンゾは笑みを浮かべ頷いた。


「それがいい。王も同じ思いだと嬉しいのだが」

「やはり焦りがあるのでしょうか?」


 カインツは王に焦りを見て取れなかったが、亡き父からそういった話は聞いていた。


「うむ。他国が攻めてくるといったことはないし、急いで我らを従える必要などなかったのだ。先王も始めから万事順調にいったわけではないし、先々代もそれ以前の王も似たようなものだろう。若くして王となったことが裏目にでたのかもな。先王の急死など予想できなかったことだから、あれこれ言っても意味のないことだが」


 ヨムルンゾは王のことを評価している。色々と失敗はしたが、その失態は最小限の被害で抑えた。王として学んでいる最中に王となり、国内を荒らすことはしていない。民の暮らしが安定している。変に焦らなければ、立派な王になれただろうと考えている。


「この話はここまでにしておこう。今日来てもらったのは、サワベ君についてだ。ここにはいないがツア殿という冒険者にも話を聞いたのだが、サワベ君は側室殺しに関わってはいないと思うのだよ」

「ツアとはどういった人で、サワベさんとどういった関係なのでしょう?」


 ヨムルンゾは本人から聞いた繋がりを話す。


「私と同じように薬で世話になった人ですか。実際に会ったことがあるなら、今回のことに疑問を抱くのは当然ですね。私はそれほど長くサワベさんと接したわけではないのです。なので殺しに関わっていないとまでは言いきれませんが、だいそれたことをするような人ではないと思えたので手配書の件に疑問の声を上げました」

「私も実際に会って世話になり、似たようなことを感じた。手配書が出たと伝えた時の驚きようを見ても、やったとは思えないのだよ。気になる点があるのもたしかなのだが」

「どういうところですか?」

「貴族に対して少々接し方に難があるという情報がある。私の時はそういったものを感じることはなかったのだが」


 貴族に対して魔法仕掛けの契約書を使わせたのは無礼にあたりそうだが、フレイドが無理矢理頼んだ形と知っているのでそこは仕方ないことだろうと判断している。


「私の時もですかね。父の誘いを断ったらしいですが、特に失礼な断り方をしたわけではないようですし」


 そういった態度は貴族や王族に恨みを持っていたことの表れだろうかと考えるが、情報が少なく推測の域をでない。恨みを持っていたのなら貴族を助けること自体しないだろうから、恨みはないという考えの方に傾く。


「ところで話は少し変わるのだが、彼が滞在している時に私の家の医者に化粧品のレシピを教えたのだよ」


 それがどうしたのだろうとカインツは首を傾げた。


「その効能が従来の物より上らしくてな。売りに出せば大きな収入になると予想される」

「はあ」


 儲け話の自慢かと思うが、噂に聞いたヨムルンゾの人柄を考え、そうでないだろうと予想する。


「それをうちとそちらで販売しないかね?」

「ただ商売に誘っているわけではないですよね? なにかしらの考えがあると思うのですが」

「もちろん。といっても考えたのは私ではなく妻たちで、狙い通りにことが運ぶ可能性は高くはないのだろう。売りに出すのは従来の物よりも効能は上だが、本来の効能よりは下の物。それを多くの貴族の奥方や子女に使わせる」

「従来の物より良い物ならば、食いつくはずですね」

「ああ、それが本来の効能でないと知れば、より良い物を求めるはずだ」

「ですね」

「そこでこの薬を作ったのはサワベ殿とばらし、彼から教えてもらったレシピが不完全だと知らせる」

「本人がいればすぐにでも良い物が作れる。奥方や子女を味方につけて、当主を動かすというわけですか?」


 追加として、十分に噂が広がり利用者が増えたところで従来の製品を売りに出すつもりだ。ある程度の進展ができたと言って。より良くなった化粧品を使い、さらに上があると知れば歯止めはきかなくなるだろうと考えた。

 教えてもらったレシピに上があるというのは嘘ではない。レシピを教えてもらい作ってみたディートが抱いた感想だ。女の直感と言ってもいい。セリエが使っているものと、教えてもらったものにはまだ差があると感じた。

 恐ろしきは美への執念か、その直感は当たりだ。セリエに渡す物に裕次郎が手を抜くはずがない。セリエに合わせた特注品を作っている。その特注品の作成法を応用すれば教えたレシピ以上の物ができる。


「うむ。私たち二人の声で足りなければ、もっと多くの声を。それならば王も考え、無罪放免は無理でも、減刑は可能ではないかと思えるのだよ」

「それを実行するには化粧品の製法をよそに漏らさないような厳重さが必要ですね」


 製法がよそに流れて、研究され売りに出されると開発は裕次郎でなくても十分で、減刑といった方向にはもっていきにくくなるだろう。


「そのいった方向で動けるかね?」

「大丈夫かと。もともと陶器の上薬をよそに知られないよう動いてますから。子爵はどうです?」

「うちは難しいかもしれないが、そういうことが得意なツテがある。利益をある程度流せば製法も話さないだろう」

「信頼できますか?」

「金をしっかりと払っているかぎりはな」


 ツテというのは、群れる影犬と似たような組織だ。危ないことはやっているが、自身の利益を追求して勝手な行動はとらない。依頼人の注文を忠実に守り、利益を上げてきた組織だ。犯罪組織に近いなんでも屋の組織といった感じか。規律が堅く融通がきかないせいで他の組織に押されていたが、それでも方針を変えなかった。そこに信を置いている者は少なからずいる。

 カインツはレシピを教えてもらい、領地に戻ると早速ヨムルンゾと示し合わせた行動を取り始める。


 こういった行動が実を結ぶ前に、ソルヴィーナに出していた使者が戻ってくる。使者は占いの結果を知らず、それが書かれていると思われるライトルティ王からの手紙を持って戻る。

 起こったことを捏造した貴族たちはその内容を読みたかったが、魔法じかけの書状で一度開けるとそれがわかる仕組みになっている。王から王への手紙は、そういった手段で出すのが常なので、一度開くと中身を見たとばれてしまう。その魔法は王族にのみ伝わる魔法で小細工もできない。

 貴族たちは開けるか渡すか悩み、開けることにした。ソルヴィーナ王からの手紙は使者が魔物に襲われ紛失したことに決めた。急ぎの使者だったので、護衛が少なかったことがよい言い訳になると考えたのだ。

 内容は、そちらの政治に関わることなのでこの手紙では伝えないことにしたと詫びるものだった。もし知りたければ、政治に関わる許可状を持った使者をもう一度ソルヴィーナに送ってもらえれば、全てが書かれた書状を準備しているのですぐに渡せるとも書かれていた。

 追加として、ヘプシミンから要求される薬師の手配書は国内に広げないことも書かれていた。保護するわけではなく、関わらないということだ。

 これを読んで貴族たちはもう一度書状を取りに行き、それも紛失したことにしようと決めた。こうなるとかわらず裕次郎の手配書は出たままになる。

 これらの内容は王を支える派閥に送り込まれたスパイによって、親王派に知られることになる。

 派閥はほかに中立派もいて、捏造した傀儡派と中立派が同数で、親王派は二つよりも少ない形となる。

 すぐに親王派はソルヴィーナに手紙を受け取る使者を出す。情報が漏れたと気づかなかった傀儡派は、それに遅れて使者を出すことになる。

 それらの使者がソルヴィーナについた頃には雪が降り始め、帰りは三月半ば過ぎまで遅れることになる。その頃には軍は出発していた。

 書状を手に入れたのは親王派の者たちで、その書状や他の情報を元に傀儡派を潰そうと動き始める。

 王の関心が深淵の森に向き、軍が現地で戦っている間に、王都では貴族たちの争いが静かに広がることになった。

 独自に動いていたタンター家とハーベリ家も否応なしに巻き込まれることになる。両家は中立派だったが、王を害する気はなかったので親王派側につくことになる。

 ヘプシミンという国にとって運が良かったのは、戦力のいくらかが外に出ていたため内乱にまでは発展しなかったことだろう。残った戦力まで戦いに回すことは不可能だ。それらは国内にいる魔物や賊の対応に当てて治安を維持しているからだ。さすがに魔物などを放置してまで争いを起こすほど愚かではなかった。

 かわりに謀略の風が吹き荒れることになり、国内の誰もが不安を感じることになる。

感想ありがとうございます

書き溜めてきます


》雲行きが怪しくなってきましたね。楽しみだ!

裕次郎たちにとっては災難ですけどね!


》あれ? いつの間にかユージローが諸悪の根源に!

原因を辿っていくとあながちそうじゃないと言い切れないというね


》裕次郎PTvs勇者PTかと思ったら国軍も参加するでござるの巻

ツアも参加決定したでござるの巻


》自分的にはその間にユージローが国軍を一人で殲滅してる所を想像した

》ゴゼロさんをドーピングすれば単騎で終わりそうな予感が

軍が裕次郎やゴゼロ一人に向かってくるならいいところまでいけるかも?


》春先に薬師率いる魔王軍と王国軍で対立かな

時期的にはそれくらいでしょうか


》ヘプシミン王達は森に水竜がいる事を知っていて勇者に言わなかった様な気が

渡した資料に載ってるので言わなくても大丈夫だろうという判断ですね


》てっきり勇者達は無実だと知らずに誤解で犯罪者の裕次郎を討ち取ろうとして~

カートルーナと知り合いなので、誤解はないですね。フィナが悲しむことになるので、カートルーナは両者の衝突は避けたいと思ってます


》王様はまた余計なことしようとしてるし、この世界の貴族王族まじイラン子

王様なりに頑張っているんです、空回り気味ですが。あれですね、無能な頑張り屋は迷惑、いや王は無能というわけはありませんが


》裕次郎たちにとっては深淵の森の方が過ごしやすそうですね

生活環境がどんどん整っていますから、街より過ごしやすいですね


》勇者と敵対ってことはやっぱりマカベル関係か?

そうですね。勇者は森の開拓に興味ありませんし


》国と戦って本当の犯罪者になるのかな?

軍と戦って被害をだせば言い訳できずに犯罪者ですね


》フォクシンと国軍が戦うのは忍びないですね

フォクシン自身の戦闘能力は一般人以下ですしね。魔法使えるようになったから、一般人には負けないか?


》勇者が国軍と一緒に行くとしたら、占いにはないけど引き分けになるのかな

》裕次郎たちとフォクシンの創った武器だけあれば何とかなりそうな

裕次郎たちと軍には圧倒的に違うものが二つあります


》勇者たちの言動からするととんでもない場所らしいけど、ユージローたちが森に入った~

裕次郎たちは高品質の魔物避け薬と能力上昇薬でごり押しして、バグズノイドとわりと早めに遭遇し安全な住処を得るという幸運で無事でいられました。あと入ってくる方角もよかったです。虫の魔物の縄張りから入ったら大変でしたし

そういう幸運のおかげで、二人はそこが深淵の森だと気づいていません


》ペプシミソスープとか出そうで怖い

怖いものみたさで買う人がいるんでしょうねぇ。ガリガリ君コーンポタージュが出たし、可能性はなくはないのか? 炭酸味噌汁……炭酸コーヒー以上の難易度か

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