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27 狐の恩返し

 遺跡前に畑を作って二日後、薬が完成した頃だろうとゴゼロが遺跡を訪れる。


「種を持ってきタ」

「いらっしゃい」


 早速試してみようと全員で遺跡を出る。その途中で裕次郎はこの前会ったゴブリンについて聞く。


「この前会ったゴブリンたちにグゴゴッケって言われたんだけど、意味はなに?」

「発音が少シ違うが、ありがとうという意味ダ」

「ありがとう、ね。やっぱり薬に対して?」

「ああ、会ったラ礼を言うようニ言っておいたのダ」


 それでかと納得し頷く。


「そういや会ったといえば白い蛇も見たんだけど、あれって魔物?」

「白イ蛇? 傷つけたリしたカ?」


 少し緊張したようにゴゼロは問う。変化した雰囲気に大物なのかと裕次郎は内心首を傾げる。


「なにもしてないよ。触りもしなかった」

「そうカ。あれは主の子ダ。時々主の目ヲ盗み、森ノ中を散歩していル」


 冷やりと裕次郎たちの周りの温度が下がったような気がした。


「怪我させたりしてたら、大暴れだった?」


 セリエの確認にゴゼロは重々しく頷く。


「だろうナ」

「あっぶなー」


 裕次郎の気分的には核兵器の作動ボタンが道端に落ちていたようなものだ。触らなくて本当によかったと胸を撫で下ろす。

 外に出て気分を変えた裕次郎たちは、さっそくゴゼロが持ってきた種を植えていく。しっかりと土を被せて水を撒いた後に、成長促進薬を撒く。


「どれくらいの早さで育つのかしら」

「詳しいことはわからないね。季節的にもあってるのかわからないし」


 なにか変化あるかなと三分ほど見ていると、芽が出てきた。その後も少しずつ大きくなっていく。

 今日明日で収獲可能という速度ではないので、時々様子を見ようということになり、ゴゼロは去っていく。

 裕次郎たちは探索や鍛錬などで外に出るので、毎日様子を確認できる。そうして様子を見始めて五日後には三十センチほどの樹の苗が並んでいた。


「もしかしてとは思ってたけど樹かよ!」


 スイカやイチゴのような短期収獲できる果物の種を持ってきたと思っていたのだ。

 薬が効いて成長は早いが、収獲できないと意味はない。あとで苗か種を自分たちで探す必要がありそうだと、二人は木の移動を始める。

 せっかく植えたのだから、このまま成長させようと思い、少しでも育ちやすい環境にしているのだ。今のままだと間隔が狭いので、日当たりのいい場所を探し、そこに植えなおす。

 その後はゴゼロが持ってきたベリーを育てようと話し合い、ゴゼロが来た時に生えていた場所を聞くことにした。

 やってきたゴゼロに事情を話して、ベリーのありかを教えてもらう。


「さし木ができたんだっけか」


 さし木と首を傾げたセリエに、方法を話していき、枝を取っていく。この品種にもあてはまるのかわからないので、実も取って植えることにする。

 樹を植えていた場所に等間隔で枝と実を植えて、再び成長促進薬を撒く。今度こそはと成長を見守る。種とさし木のどちらもいけたようですくすくと育つ。三日でそれなりの大きさにまで育った。


「この速度だと収獲はあと五日もすればできるかな」

「植えて八日と少しで収獲。十分すぎるほどに早いわね」

「さすがは魔法薬。あとは味が保証されてるかだねぇ」

「それは食べてみないとわからないからね」


 水遣りを終えた二人は、探索にはでずにヴァインと向かい合う。

 二人はしばらく探索を中止して、ヴァインに魔法を教えることにしたのだ。薬が効果を出したのか、明確に二人の言うことを理解したような仕草を見せるようになっていた。そこで魔法を教えてみようと話し合った。


「まずは手本を見せてみよう。ヴァイン、よく見てるんだぞー。光れ!」


 裕次郎は木陰の下で明かりの魔法を使う。煌々と輝く光を指差す。


「こういった明かりを思い浮かべて、イメージと魔力を混ぜて名前を口に出すことで魔法が使えるんだ。一度やってみてくれる?」

「ウォン」


 わかったといった感じに吠えて、もう一度吠えた。何も起こらず尾を垂らし小さく吠えて、二人を見る。


「駄目だったかぁ」

「いきなりできるとは思ってなかったし、落ち込まなくていいわよ」


 慰めるようにセリエがヴァインの頭を撫でる。

 教えたのは人間が扱いやすいように作り上げた魔法だ。獣のヴァインが成功できなくとも無理はない。


「獣用の魔法ってのがあれば一番なのだろうけど、そんなのは聞いたことないし」

「俺もないなー。こっちの言うことは理解できてるんだから、人間用が使えてもおかしくはないと思うんだよね。言葉が発せないというのが難点なのかな」

「名前を口に出すのは魔法を上手く発動させるのに重要といえば重要だけど、イメージがしっかりしていれば名前がきちんと音をなしてなくても発動はするのよ、効果は低いけど。そう聞いたことがある。だから吠え声でも使えるとは思う」

「イメージは見本が目の前にあるし、しっかりできてると思うんだ。だから引っかかってるのは魔力なのかもしれない」

「魔力がどんなものか、わからないと使いようがないか」


 魔力と改めて問われるとどのようなものか説明しづらくある。知識ではどんな生物でも持っているものということになっている。しかし口でそう説明したところで感覚的には理解できないだろう。

 特に裕次郎は説明できないはずだ。体の調整を受けて自然と魔法が使えるようになっていた。魔法が使えるようになったきっかけなどすっとばしている。そんな状態で説明するのは困難だ。

 セリエは小さな頃、両親に教えてもらい使えるようになった。その最初の記憶を引っ張り出し、自分は魔力をどう捉えていたか思い出そうとする。


「私はそう……何度も練習したんだったっけ。母さんと父さんが使っているのを見て、自分でもできるんだって当たり前に信じて真似しているうちにできるようになった。魔力がどうとか考えてなかった」


 裕次郎にわかりやすく説明するなら、自転車を乗れるようになるのに近いかもしれない。できなかったことができるようになり、それを体が覚えて以後当たり前のようにできるようになる。あっさりと乗れる人もいれば、乗れない人もいる。けれど練習していけばいつかは乗れるようになる。それと同じように、魔法も練習していばいつかは使えるようになるのだ。


「ということは繰り返すことでいつか使えるようになる?」

「使えると信じながら続けたらね。気長にやっていきましょ」


 ぽんと軽くヴァインの頭に手を置く。わかったというようにヴァインは短く鳴いた。

 一度理解すれば、ほかの魔法も手本を示せばできるようになるだろう。

 二人は鍛錬しつつ、ヴァインの練習風景を見て過ごす。今日すぐできるようになれとは言わないので、飽きた様子を見せても仕方ないなと微苦笑を浮かべるだけだ。

 ヴァインの練習と自己鍛錬と暇潰しの煉瓦作りで時間は流れ、ベリー収獲の日となった。

 ゴゼロは来ていないが、収獲することにして三キロ分のベリーを収獲する。そのまま成熟分と未成熟分にわけて両方に保存の魔法をかけ、袋詰めして氷を敷き詰めて温度調節の魔法薬を入れた箱に入れる。

 実を取った木に裕次郎は再び、成長促進薬をかけている。再収獲がどれくらいでできるか確かめるためだ。

 その日の昼過ぎに、ゴゼロはやってくる。


「収獲したのカ?」

「したよ」


 箱の中から食べられる分のベリーを取り出す。二キロ強が成熟していた。


「こっちが食べられる分」

「味はまあまあってところだった。食べられないわけじゃないし、成功だと思う」


 ゴゼロが持ってきたものより甘みがなかったが、無味というわけでもない。

 ゴゼロにも食べさせて確認してもらう。


「これならバ大丈夫カ」

「収獲して思い出したけど、これって収獲したらすぐに食べないと駄目なんだよね。保存の魔法とかあれば別なんだろうけど。ゴブリンたちって保存の魔法使える?」

「イヤ、誰も使えないナ。我らは魔法を使わズに暮らしていル」

「ゴブリンにも魔力はあるよね? 教えたら使えるようになる?」

「おそらくナ。だが物覚えハよくない。中々習得しないト思うガ」

「そこはまあなんとかなるかな」

「薬飲ませるの?」


 どうするのかすぐにわかったセリエ。ヴァインという例があるのでわかって当然かもしれない。


「それが手っ取り早いからねー。ついでにコミュニケーションも取りやすくなるだろうし、農業の有用性も理解してくれるはず」

「憶測でしかないけど、やってみる価値はあるかな」

「どういウことダ?」


 物覚えのよくなる薬があるので、それを飲ませて賢くなってもらおうという説明をする。

 ゴゼロとしても頼りになる仲間が増えるのはありがたいことだった。


「本格的に農業したいなら、道具とか必要になるわね。そっちはどうする? 裕次郎が作る?」

「石とか金属の加工ができないし、木を削って作るってことになるのかな」

「道具作りならバ頼りニなるやつらがいル。紹介しよウ」

「それは助かるね。すぐに行く?」


 ゴゼロが頷き、歩き出そうとするので、少し待ってもらい出かける準備をする。

 準備を整え、ヴァインに防具もつける。


「向かう先ってどこ?」

「北の山ダ」

「ちょっと時間かかりそうだし、速さの能力上昇薬を飲んでいこうか」


 四本の小瓶を取り出し、全員で飲む。

 急ぎ足で進み、二時間の距離を一時間で踏破した。ついでに移動した道筋の地図も書き込んでいく。

 襲ってきた魔物もいた。それらは強すぎるということはなく、ゴゼロの了解も得て戦い追い払った。

 裕次郎たちが会いに行くのは、ゴブリンと交流のある狐の魔物フォクシンだ。ゴブリンたちが持っていた武器はフォクシンに作ってもらったのだ。

 標高五百メートルほどの山を登り始めて少しした時に、裕次郎たちは騒がしい気配を感じる。


「いつもこんなに賑やかなの?」


 セリエの問いかけにゴゼロはいやと首を横に振る。


「なにカあったのかもしれン。悪いが急ぐゾ」


 駆け出したゴゼロの後をついていくと、中腹に柵で囲まれたひらけた場所があり、そこで二足歩行の狐が悲鳴を上げつつ駆け回っていた。あちこちに立っている東屋には壊れているものがいくつかある。

 身長はゴブリンよりも小さな一メートルくらいか。普通の狐と同じ毛や、白毛黒毛と大体三種類にわけられる。皆毛糸のようなものでできたカーディガンを着ている。子供もいて、ぬいぐるみが動いているようだ。状況が落ち着いていたら童話かディ〇ニーの世界に入り込んだようにも思えるかもしれない。

 今はそんな状況ではないが。


「手伝っテくレ!」


 ゴウロは返事を聞かずに、フォクシンを襲っている蛇たちへと向かう。フォクシンを襲っているのは、紫色の蛇で体長六メートルの大蛇だ。二人はそのへビの名を知らない。色的に見て毒を持っていそうだなと判断するだけだ。

 どうするとセリエは裕次郎を見る。


「助けるしかないかな。というわけで行こう」

「魔物を助けるなんて生まれて初めてよ」


 そう言い剣を抜く。


「俺も初めてかな。おそろいおそろい」

「ゴブリンに薬をあげたのは助けたことにならないの?」

「あ、そうか。おそろいじゃなかったかー、残念」


 話しながら蛇に近づいていき、二人で蛇にしかけていく。

 フォクシンを追いかけまわしている蛇に一撃を食らわせて注意をひき、フォクシンを逃がす。ヴァインは怯えて固まっているフォクシンを甘噛みして運んでいく。

 蛇の攻撃はかみつきに、巻きつき、尾で叩くといったもので、毒液を吐くことはなかった。筋力が高く周囲にある丸太を削る威力なので、セリエが攻撃をうけると軽傷ではすまず、裕次郎が囮となって戦っていく。

 ゴゼロは衰えているとはいえ、この蛇には負けないようで、尻尾を掴み振り回して地面に叩きつけるといった具合に戦っていく。

 フォクシンの住処には五匹の蛇が入り込んでいて、裕次郎たちだけでは人手は足りず、一匹倒す間にフォクシンが怪我をしていく。

 そうして蛇三匹を殺して、残った二匹が逃げていった頃には、百匹ほどいたフォクシンで怪我のないものは三割にも満たなかった。

 あちらこちらで互いの傷を舐めあい、クンクンキュンキュンと声が響く。


「クスシ」

「なんです?」


 集落を見回っていたゴゼロが戻ってくる。


「こっちニ来てほしイ」


 なんだろうかと思ってついていくと、軽傷とはいいがたい怪我をしたフォクシンが何匹もいた。血を流し、か細い鳴き声を出している。


「このものたチの治療できないだろうカ」

「この怪我だと、まあ大丈夫かな。セリエ、悪いけど」

「わかってる」


 セリエも持ってた回復薬を出して、怪我をしているフォクシンに少しずつ飲ませていく。全員分はなかったので、少しずつになる。万全の効果はないが、少しでも症状が軽くなればその間に薬を取ってくることができる。


「というわけで、一度家に戻ってくるよ」

「一人デ大丈夫カ?」

「むしろユージロー一人の方が安全で速いと思うわ」

「そうなのカ?」

「また薬飲んだし、その状態で本気で走ったユージローは人と魔物も合わせてトップクラスよ」


 自信に満ちたセリエの言葉を聞いてもゴゼロは大丈夫なのだろうかと思う。

 いってきますと言って山を下りていった裕次郎の背を、セリエたちは見送る。あっという間に消えた背を見て、ゴゼロは誇張されたのだろうと思っていた言葉に嘘がないことを知る。

 風を切り、木々の間を抜け、出会った魔物を置き去りにした裕次郎は三十分ほどで遺跡に戻ってきた。


「今日は向こうに泊まることになるか? だとしたら食べ物とか持っていった方がいいのかな。その時はまたこっちに戻ってくればいいだけか」

 

 そう結論づけると、薬だけを持って山に走る。ショルダーバッグに入れた薬が落ちたり割れたりしないように、速度は抑えて走ったため四十五分ほどかけることになる。


「ただいま」

「おかえり」


 残っていたセリエはヴァインを手櫛で梳いていた。ゴゼロは無事なフォクシンたちと柵を直している。


「さっそく薬あげてくるよ」


 手伝うとセリエも薬を受け取り、フォクシンに飲ませていく。見慣れぬ人に怯え逃げ腰だが、ゴゼロから説明を受けていて逃げることはなかった。

 怪我の重い者から順に回復薬を飲ませて、回復薬がなくなると鎮痛剤などを飲ませて誤魔化す。

 元気になったフォクシンが礼として二人の腕をポンポンと叩く。


「可愛いなぁ」

「可愛い?」


 仕草に和む裕次郎にセリエは疑問を抱く。

 魔物を育てたり、仲間にしたりといったゲームをやったことのある裕次郎にとって魔物と接することに忌避感はない。いや、ないというのは間違いで、見た目が可愛いならばという条件がつく。

 この世界で生きてきたセリエにはない感覚だろう。動物の狐ならば可愛いと思えるが、魔物だと危険という思いが先に立つ。長く接していけば大丈夫という思いが出てきて、可愛いと思えるかもしれない。


「もちろん世界で一番可愛いくて綺麗なのはセリエだけどね!」


 いい笑みを浮かべてセリエを見る。


「アリガト」


 少し嬉しく思いつつも視線をそらして棒読みで礼を言う。

 いつもの反応にうんうんと頷いた裕次郎は、治療を再開していく。手持ちの薬を使い終わった後は、集落の片づけを手伝う。


「最初来た時も思ったけど、簡単な家を作ることはできるんだな。服も着てるし、物作りで頼りになるってのは本当らしいね」


 裕次郎は服を作れと言われても無理だ。糸作りからやらなければならず、最初の最初からやる必要があり、どうやればいいのかまったくわからない。それができているフォクシンにすごいという思いが湧く。


「あ、この建物釘使ってる。金属加工もできるんだから、すごいよね」

「そう言われるとすごいと思えてくるわね」


 セリエも自身の技能と比べて感心した声を出す。

 実のところ金属加工はできなかったりする。魔物の行商人がいて、それと取引して釘などを購入しているのだ。フォクシンから渡しているのは酒や櫛などだ。ほかの魔物に人気の品で、行商人にとってもいい取引になっている。


「お疲レ」

「そちらこそ。今日のところは修理終わった?」

「日モ暮れだしたシ続きは明日となっタ。それでこのものたチが礼をしたいと言っていル」

「礼?」

「酒や食料ヲ出してのもてなしダ。受けテやってくレ。俺は仲間たチが心配するので帰るガ」

「セリエはどうしたい? 俺は受けてもいいかなと思う」

「お酒に興味ある」


 お気に入りだった酒は既になくなっており、興味が引かれたように目に光が輝く。


「期待していいゾ。こやつらノ作る酒は美味イ」

「それは楽しみ」

「帰る前に、聞いてもらいたいことがあるんだけど」


 薬作りに必要な器具はあるか聞いてもらう。属性布もあれば回復薬や治癒促進薬が作れてフォクシンたちも助かるだろう。

 ゴゼロとフォクシンがゴギギククゥと話していき、ある程度の器材があることがわかった。属性布もあるらしい。それらを借りて、薬を作ることになる。

 セリエとヴァインには夕食用の狩りに行ってもらい、裕次郎は材料を集める。日が完全に沈んで村に戻った頃にはゴゼロはゴブリンの集落に戻っていた。

 あちらこちらの松明の置かれたフォクシンの集落では礼の準備が行われており、忙しそうに動き回っている。主賓席なのかござが敷かれた場所があり、そこに食べ物とお酒が置かれている。


「クーク。クン」


 戻ってきた裕次郎たちを押してござまで移動させる。裕次郎たちが座ると宴の開始なのか、リュートや横笛を持ったフォクシンたちが演奏を始めて、何匹かのフォクシンが踊りだす。


「陸上版竜宮城か?」

「なにそれ」

「俺の国のおとぎばなしだよ。亀を助けたお礼に、海の中にあるお城に招待されて宴会を開いてもらうっていう」

「似てるわね」


 玉手箱は出てこないだろうと思いつつ、目の前に置かれた鳥の手羽を食べる。セリエたちが狩ってきた鳥を、フォクシンたちが調理したものでスパイスがきいている。このスパイスも行商人から得たものだ。

 食べ物に中にはネズミの丸焼きなど手を出すのが躊躇われるものもあったが、それはヴァインが食べていく。口にあったようで次々と食べる。

 他にはナンのようなものもあり、小麦粉はないがそれに代わる粉類があるのだとわかった。粉を作る道具と技術もあるとわかったのは、これからの食生活の幅を広げることになった。

 セリエは気になっていた酒に手を伸ばす。壷に入れられた酒は琥珀色で、ひしゃくを使い木のコップに注ぐとふわりと甘い匂いが漂った。果実系の匂いで、それだけでセリエはなんとなく気に入りそうだった。

 口に含むと、少し度が高いもののいくつかの果物の味が無理なく合わさった味が広がり、美味いと思えるものだ。


「俺には強すぎるみたいだ」


 裕次郎も試しに飲んでみたが、喉から鼻に酒気が抜けてその刺激に顔が歪む。水割りならば飲めるだろうと2:1で割りちびちびと飲む。


「私はこのままでいいわ」

「セリエは強いね。ロックで飲むとかっこいいかも」


 ロックと言われてもどのような飲み方かわからず首を傾げる。


「大きめの氷に酒を注いで、はじめは冷えた酒を、そして徐々に水と混ざって変わっていく味を楽しむ飲み方だったかな。水と混ざりすぎると味が台無しになるんだったか」

「やってみる」


 大きめの木皿を持ってござから柵に移動し、氷の飛礫を飛ばし皿に落ちた氷を空いているコップに入れて酒を注いで飲む。

 急に魔法を使ったセリエに何事かとフォクシンたちは思うが、危険があったわけではないと理解するとまた騒ぎ出す。

 二時間ほどで宴はお開きとなった。色々と動いて疲れたのか、いくつかのグループで固まって寝ているものもいる。

 裕次郎たちは無事な建物の一つに案内されて、そこを使うように仕草で伝えられる。


「ちょっと眠い」

「少し飲みすぎたのかもしれないね。顔がほんのり赤くて、色っぽさがある。そのまま俺にもたれかかってくれない?」

「わかっ……いや、しないわよ」


 頷きかけて、首を横に振る。やってもいいかなと思いかけた自分に少し驚き、顔に熱が集まる。


「残念。体を拭いて寝るといいよ。俺は外で薬を作ってる」

「そうさせてもらう」


 道具を持って、外に出て地面に置いて薬を作り始める。

 その様子をフォクシンたちが興味深そうに見ている。


「ん? どうした?」

「クー」


 当然ながら言葉はわからないので、好きにさせることにした。邪魔するわけではないのだ。

 物作りが得意な種族だ、薬作りにも興味がある。薬はフォクシンたちも自分たちなりに作るが、魔法薬はあまり手をだしていない分野だ。手早く進められる作業に、感心する視線が注がれる。

 薬作りが一通り終わる頃には、セリエは既に眠っていた。


「これに触ったら駄目だから」

「クック?」


 フォクシンたちの目に不思議そうな色が浮かんでいる。


「んージェスチャーで通じるかな」


 薬に触ったり動かしたりする仕草の後に、手を交差させたりしてどうにかまだ未完成ということを伝えた裕次郎は建物に入って寝転んだ。

 翌朝、ヴァインが起きた動きで二人とも目を覚ます。フォクシンたちも起きだした頃で、水を運んだり果物を出したりと朝食の準備を始めている。


「おはよ。二日酔いとかは大丈夫?」

「大丈夫。体のどこも悪くはないわ」


 置かれていた桶を使い、顔を洗い手櫛で髪を整え、外に出る。改めて見ると集落のあちこちが壊れており、修理が大変かもしれないと思えた。


「薬は……うん、完成してる。ご飯の前に治療してくるよ」

「ヴァインの世話してるわ」


 布を濡らして、ヴァインの体を拭き始める。ごろんと寝そべって気持ちよさけなヴァインを見て、フォクシンたちも互いに毛づくろいを始めた。

 裕次郎は命にかかわらないが、辛そうなフォクシンに声をかけて薬を使っていく。昨日と同じように量の関係で完全に治療はしていないが、楽になるだけでも嬉しそうだ。

 昨日と今日の薬使用で致命傷のフォクシンはいなくなり、治療していた者たちは安堵したような雰囲気をまとう。

 お礼の仕草をしてくるフォクシンたちに、身振りで気にするなと返し、裕次郎はセリエのもとに戻る。

 出された朝食を食べ終わった頃にゴゼロがやってくる。そのゴゼロにフォクシンたちが集まって、なにかしら話している。


「こやつらガ助けてくれテありがとうと言っていル」

「それはなんとなくわかったよ」

「道具作りハ任せろとも言っている」

「それはありがたい」

「あとハ頼みがあルそうダ」


 もう少し薬をくれということか、周辺の魔物退治をしてくれということかと裕次郎たちは予想する。

 続きを促して出てきた言葉はどちらでもなかった。


「薬作りを教えてくれか」


 効果を身を持って知ったフォクシンたちは、今後似たようなことがあっても薬があれば生き残る数が増えると確信している。あとは自分たちでも作ってみたいという職人魂もある。


「魔物に教えていいものなの?」

「問題ないと思う。人間の貴族に教えたら面倒事しか待ってないけど、この子らならそういった厄介事はないと思うんだよね。予測でしかないけど」

「使うとしたら自分たちかゴブリンたちくらい? 念を押せば大丈夫なのかな」


 魔物になにか教えるなど未経験なので、危険なのかそうではないのか判断できない。

 セリエはゴゼロに危険はないのかと聞いてみる。


「商人ニ隠せば問題ないのでハないか?」

「商人? 魔物にも商人っているの?」

「いるゾ。俺たちハ特に交換できるものヲ持っていないから会わないガ、こやつらは酒などトほかの品物を交換していル」

「私が知らないだけで、魔物にも色々な生き方があるのね」


 目の前のゴブリンやフォクシンのようにある程度の知識を持っている魔物がいるのだから、物々交換をしている魔物がいても無理はないのかなと考える。


「二つ条件があるけど、それでもいいのかって聞いてもらえる?」


 裕次郎の言葉に頷き、ゴゼロはフォクシンに伝える。条件とはなにかと返ってくる。

 一つ目はフォクシンたちが人間の言葉を勉強すること。技術知識の伝達に今の相互不理解な状態は不味い。話せなくとも文字か裕次郎の言葉を理解した方が圧倒的に教授速度は速い。裕次郎がフォクシンの言葉を学ばないのは面倒だからだ。

 二つ目は見返りが欲しいというものだ。一日一緒にいただけで裕次郎たちに足りていないものがここにはいくつかあるとわかった。それらがほしかった。粉や製粉する道具、釘や服などだ。セリエのために酒もほしかった。


「こんなところだけど、どう?」

「問題ないト言っていル」

「じゃあそれでよろしく」


 すぐにフォクシンたちは話し合い、学ぶ者が一匹選ばれた。もともと薬を作っていたフォクシンで、一番学びたいと思っていた一匹だ。裕次郎たちのいる遺跡に泊り込んでの学習となり、集落から離れることに不安も抱えているが、学習意欲の方が勝った。

 そばによってきたフォクシンが一緒に暮らすとわかったヴァインが、挨拶なのか鼻先をフォクシンの顔に当てる。それに驚いたように体をびくりとさせフォクシンは固まる。

 ヴァインが乱暴しないとわかっている裕次郎たちは、二匹をそのままにして製粉の道具などを見せてもらう。

 フォクシンたちが四匹で持ってきたのはロータリーカーンと呼ばれる石臼だ。とってを持ってくるくると回し、小麦粉などをひき潰す道具で、裕次郎は小学生時代教科書でそれを見たことがある。

 昔はサドルカーンと呼ばれる石板に麺棒ようなもので潰す道具を使っていたが、効率が悪いとフォクシンたちは自力で石臼を開発していた。破壊地震がなく技術の伝達が上手くいっていれば、水車風車による自動化もなしとげた可能性が高かったりする。

 小柄で力が弱いため戦う力はないが、技術開発に優れた才を持つ魔物だ。狩りをしなくとも生きていけるだけの力が必要で、そういった技能を身につけざるを得なかったという背景がある。


「これを一個貰ってもいいんだよね?」

「いいそうダ」


 ではありがたくとひょいっと抱える。ほかに酒の入った壷や粉の入った壷ももらうことができた。

 ついでに粉の原材料も見せてもらう。フォクシンが持ってきたのはトウモロコシに似たものだ。地球のトウモロコシは小粒が詰まった細長いみかけだが、こちらは野球ボールくらいの球体で三センチほどの細長い粒が詰まったものだ。それを乾かし、ある程度砕いて石臼でひき潰して粉にしていたらしい。

 裕次郎はそれをボールコーンと名づけた。味は薄いようで茹でて食べることはされていないとのことだ。


「あとは作ってもらいたい道具を話すだけかな」

「私はほかに思いつかないし、そうだと思う」

「とりあえず鍬と籠くらい?」


 作る物によってはほかに必要な物が出てくるかもしれないが、今思いつくのはこれくらいだ。

 こんな形だと地面に絵を描いていく。フォクシンたちから、ほかの方向から見た図もほしいという声が上がり、材質なども聞いてくる。


「材質は木、この先の部分は石か金属だと助かるかな」

「金属ハ無理だが、石でやってみるト言っていル」

「期待してるよ」


 用事を終えた裕次郎たちは、柵の建て直しを少し手伝った後、遺跡に戻る。

感想誤字指摘ありがとうございます


》秋田県

あきたいぬというんですね、これまでずっとあきたけんって呼んでた

前にも似たようなミスしたような

県サイズの猫、世界がやばい


》ゴブリンにも言葉ってものはあるのか

この話だとあるということにしてます


》ついにヴァインに薬が!どのように賢くなるのか楽しみですね

魔法使ったりできるように! あとは道具の使い方を学んだり?


》たぬきちのお店は出てきません

そうともいえなかったりします


》おりょ?水竜の子ども参上??

》白蛇 ー 水竜の子供かな?

イエス。さらわれた後に生まれた子ですね


》天然酵母

なるほど、そういうやり方を教えてもらったという風にするのもいいですね


》セリエの趣味が料理になったってことは無自覚の花嫁修行

すくなくとも裕次郎にも美味しいものを食べてもらいたいとは思ってます


》畑好きだね。コースケも畑作ってたし

コースケは趣味で、ユージローは生活を楽にするためですけどね


》薬師は「クスシ」ではなく「ヤクシ」と読んでいた

漢字変換でクスシだと変換できないんで、ヤクシでもいいのかなと思ってました。辞書で調べたら薬師如来の略だった


》水竜の子供をさらったのは群れる影犬かな?こんな所でも暗躍していたのか

暗躍してました。ちなみにさらわれた子供は組織から逃げて生きてます

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