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25 逃亡生活 後

 逃避行を始めて十七日。そろそろ国境に近いのではと思える位置まで来た。夏もとうに過ぎて、九月も終わろうとしていた。

 二人は野宿のため近くに見えた林に馬車を止めて、食材を集めたり、薬の材料を集めたりしていく。

 今日も兵と戦っており、少なからず収獲があった。いいとこの出だったのか、望遠鏡を持っていたのだ。遠見の魔法を覚える機会がなかった二人にとって嬉しいものだった。

 

「んじゃ俺が先に見張りで」

「お願いね」


 食事などをすませて、柔軟などの鍛錬もすませたセリエは、疲労回復薬を飲み馬車に入っていく。

 裕次郎はヴァインの毛を梳いたり、薬を作ったりしつつ時間を潰していく。

 十一時ほどになったくらいか、空にある月が雲で隠れた時、裕次郎は小さな風切り音を聞き、その次の瞬間すぐ横を矢が通り抜けた。髪が数本ぱらりと落ちる。


「攻撃された!」


 セリエが起きるように大声で言い、矢が飛んできた方角を見る。

 ヴァインが気づけないほどの距離なのか、それともヴァインの感覚を欺けるほどの腕なのかはわからない。


「光れ!」


 狙ってきたということは場所はばれている。暗い中で動き回るのは面倒だと、明かりを頭上に発生させる。

 馬車の中から動く気配があり、セリエが起きたとわかる。

 戦いのために頑丈の能力上昇薬をヴァインに飲ませて、周囲を探る。裕次郎の感覚では捕まえることができなかった。


「移動してるだろうけど、投げてみるか」


 足下にある石をいくつか拾って、一斉に投げる。幹を抉り、枝を折って突き進んだ石はそのまま真っ直ぐ飛んでいった。


「反応はなしか」

「どうなってる?」

 

 馬車の中からセリエが現状を聞いてくる。脱いでいた鎧を着込み、今はマントをつけている。

 矢で攻撃を受けたこと、ヴァインが気づかなかったこと、矢が飛んできた方向に石を投げて反応がなかったことを話す。


「気配は感じ取れる?」

「よくわからない。ここには動物の気配がもともとあるし。それと同程度に抑えているみたい」

「凄腕だったりするのかな」

「少なくとも雑魚というわけではなさそうね。ここは私が行ってみようかしら、どれだけやれるか試してみたいし。今よりも感覚が鋭敏になって気配も察しやすくなるし」

「使う?」

「少なくともそこらの傭兵には負けなくなるでしょ」


 以前裕次郎が使った複数能力上昇薬、それの副作用がないように効果を抑えたものを基準にして、セリエ用に調整したものが完成しているのだ。既に戦いのない時に飲んで実験しており、不都合がないことを確かめている。

 天下無双は筋力頑丈速さをそれぞれ六十パーセント増だった。それの劣化版である天衣無縫と名づけた薬は三十パーセント増しになっている。セリエ用に作った薬には疾風迅雷と名づけられ、筋力十五パーセント、頑丈二十五パーセント、速さ四十パーセント増と速さ特化仕様になっており、総合上昇度も安全のため天衣無縫より抑えられている。かわりに効果時間が天衣無縫よりも長めだ。


「効果時間ちゃんと覚えてる?」

「ええ、二時間弱でしょう? 無理と思ったら帰ってくるから」

「大声だせばそっちに向かうよ」

「危なくなったら隠れながら戻ってくると思うけどね」


 手に持っていた小瓶の中身をいっきに飲み干して、セリエは集中して気配を探る。

 なんとなくゆっくりと移動している動物とは違ったものを見つけ、馬車から藪へと飛び出していった。真っ直ぐ行けば逃げられる可能性があり、遠回りするように駆けていく。

 薬を飲んでいない裕次郎の本気速度に近い速さで夜風を切って進み、前方にある邪魔な小枝を切り払い、ある程度進んで気配を探る。馬車にいる時よりは近づいたが、セリエが見当違いな場所を探していると勘違いしたか観察しているのか、逃げる様子はない。再びセリエはややずれた方へと走り、急に進路を襲撃者へと変えた。


「気づかれた!」

「一度退くぞ!」


 即逃げを判断できるのは、それなりに修羅場を潜っているおかげなのか、なんにしろはっきりと気配を出した者たちをセリエが逃がすわけはなかった。

 移動速度の違いからすぐに背を捉え、さらに加速したセリエは三人のうち一人の太腿を斬る。


「ぐあっ!」


 浅くない怪我に転んだ仲間を助けるため、残りの男女も足を止めた。


(兵士には見えないわね。傭兵にまで捕獲依頼が出始めた? この人たちから聞き出しましょうか)

「ハーフ? 相手は一人だ。二人でいけば、なんとかなるかもしれん」

「そうだといいんだけどね。まあ、ハーフ如きに負けるのなんて真っ平だわ」


 男はサーベルを、女は丸盾とショートソードを持って、セリエを挟むように移動していく。下等であるハーフに負けるはずがないと無意味な自信を胸に戦うことを決めた。

 二人の動きを見ながら、セリエは倒れた男を蹴って不意打ちを受けないように無力化する。

 それを合図に、二人はセリエへと突っ込む。


「よっと」


 軽やかに下がって避けたセリエは、地を力強く踏みしめて女へと近寄り体当たりする。一呼吸もかからず接近されたことで対応できず女が転んだことで、短時間の一対一という機会を得て、男を攻めていく。素早さにものをいわせた連続攻撃に、男は防御するしかない。

 セリエの剣が相手の剣や鎧に当たる度に、悲鳴のような金属音を上げる。それを無視して剣を振るっていく。今使っているのは予備なので、使い潰しても問題ないのだ。

 そういった無茶のおかげで男の防御はあっというまに崩れて、腕や足から血を流し痛みに集中力が切れたところに、剣の腹で頭を横殴りに叩かれ気絶した。


「最後の一人」

「ハーフがなんでそこまでっ」


 立ち上がって機会を窺っていた女に、刃こぼれした剣を向ける。

 速さの違いから逃げられないとわかっている女は剣と盾を構えて、防御の体勢をとる。

 耐えてなにになるのかとセリエは首を傾げた。倒れる時間を延ばすだけだろう。


「時間稼ぎ? でも気配は……」

「気配を隠すのが一番上手い仲間が隠れていたのよ。今頃は薬師を襲っているはず。気絶させた薬師を連れてきて、人質にすればあなたは剣を捨てざるを得なくなる。それまで私は耐えればいいのよ」

「その仲間とやらは、実力はあなたたちで一番かしら?」


 一番高いのなら危ないかもと思う。女はこの会話も時間稼ぎになるかと思い、首を横に振った。


「実力自体は私よりも少し上ね。あなたが倒したサーベル使いよりも下」

「だとしたらなにも問題ないわね。気配を読むことは上手とはいえないけど、強さ自体は私よりユージローの方が上だもの」


 自分に勝てなかったサーベル使いよりも下ならばなんの問題もないと、セリエは心配する思いを減らす。

 まったく慌てないセリエの様子から本当かもしれないと女は判断した。ここは無理してでも逃げるべきなのかと考え視線が逸れる。

 わずかな隙だが、セリエは見逃さず瞬時に最高速度を出すつもりで踏み込み、盾へと剣を叩きつけた。剣は耐え切れず真っ二つに折れた。

 女はその衝撃に悲鳴を上げて倒れる。急いで起き上がろうとしたが、セリエが頭を蹴って気絶させた。


「さてと、連れ帰りましょうか」


 まったく疲れを見せず、役立たずとなった剣を捨てる。かわりに彼らの使っていたサーベルやショートソードを戦利品として回収し、三人を引っ張り馬車に戻る。

 引きずられたことで擦り傷ができているが、セリエは気にしなかった。あと男二人が流した血の量は命に危険のあるものだが、それも気にしなかった。二人が死んでも情報源は女がいるし、裕次郎の方にもいる。


「薬使ってる状態なら剣二本使っても大丈夫そうね。今度から二本持ち歩くようにしようかしら」


 今回の戦いで得たことを元に今後のスタイルを考える。

 馬車の近くまで来て三人を置き、気配を抑えて近づく。明かりの下で裕次郎が男の体を探っているのを見て、無事なことを喜ぶ。


「ユージロー。こっちは終わったわよ」

「お疲れ様。こっちも襲撃があったけど、なんとかなったよ」


 男は汗を浮かべ苦悶の表情で気絶しており、どこか骨を折っているのかもしれない。


「あの薬はすごいわね。まったく苦戦しなかった」


 疾風迅雷はセリエに一段上どころか、二段三段上の実力を与えた。

 あの三人は一流とは呼べないものの、薬を飲まないセリエならば一対一でも劣勢に立たされる実力は持っていた。それを寄せ付けない実力を与えてくれた薬に満足といった笑みを浮かべる。

 セリエの笑みが裕次郎にとってなによりの報酬だ。


「役に立ったのなら嬉しいよ。作ったかいがある」

「材料が豊富ならもっとよかったんだけど、贅沢は言ってられないわね」

「まあ、それは仕方ないね」


 天下無双ほど品質のいい材料は必要としないが、どこでも常に取れる材料からできているわけでもない。普段は普通の能力上昇薬ですませ、切り札として使うのが一番だろう。

 倒した三人を連れてくると言って、一度離れてすぐに戻ってくる。

 余っていた治癒促進薬を男たちにぶっかけて、情報収集する前に死なないように治療する。

 鎧を剥いで、持ち物の点検をした後、ロープで縛る。剥いだ鎧は使わないのでそこらに転がしておいた。


「誰を起こす?」

「怪我の少ない女でいいんじゃない?」


 ヴァインを撫でながらのセリエの返答にそうするかと頬を叩いて起こす。

 

「……うぁ……ここは? 負けたのね」


 蹴られた痛みをどうにかしようと頭を振りつつ、現状を把握する。


「気づいたところで質問と行こうか」

「なにも答えることはないわ」

「そりゃ残念」


 いつものことだと裕次郎は薬を片手に、女の口と鼻をふさいだ。

 薬を飲ませた女から裕次郎たちは情報を引き出していく。


「まずは俺たちを見つけたことだけど、特殊な魔法とか使った?」

「なにも使っていない。あなたたちに逃げられた兵が近くにあなたたちがいると情報を撒いた。それを聞いた冒険者や傭兵たちが賞金目当てに探し始めた。私たちはたまたま見つけただけ」

「気づかせなかったのも実力?」

「実力。私たちは普段から希少な魔物を捕まえたりしている。気配を抑えての行動は得意」


 なるほどと頷き、二人は安心したように息を吐く。異能使いのようにこちらを捕捉する魔法や気配を消す魔法があったら、この先苦労しそうだと思ったのだ。

 ここで気絶していたサーベル使いが起きた。


「レイン? レイン、返事しろっ。お前たちレインになにをした!?」


 ぼんやりとして反応のないレインを見て、サーベル使いは二人に怒鳴る。


「はいはい、五月蝿い。質問中なんだから静かにしてなさい」


 回収したサーベルを男の首に当てる。ぞんざいに当てたので少し血が流れ、サーベルを伝わり地面に落ちる。黙った男を横目に裕次郎は質問を続ける。


「賞金かけられたみたいだけど、いくらになってる?」

「千二百万ミレ」

「さすがは王族殺しというところね」


 感心したようにセリエが言う。大きな盗賊団の頭で千万には届かないのだ。同じ金額の犯罪者だと、貿易船をいくども襲い国財政に打撃を与えた海賊や自陣に敵対する貴族を何人も殺したアサシンがいる。

 

「十年分の生活費か、誰だって気合入るだろうねー。次の質問だ。あんたの仲間は何人だ? ここまでの移動手段は徒歩か?」

「仲間は五人。一人は馬を見ている」

「馬か、たいした荷物なさそう。その場所は? いつまでに戻らないと村とかに帰るって取り決めはある?」

「場所はこの林の北。大岩の影。朝までに一度戻ることになっている。戻らなかった場合は、先に村に帰る」


 朝まで待つのならば、問題なさそうだと考える。夜のうちに異変を感じ村に帰られると、増援を呼ばれる可能性もあり倒しに行く必要がある。


「セリエはなにか聞くことある? 俺は思いつかない」


 んーと何かを考えちらりと男を見たセリエは、裕次郎に目配せして口を開く。


「近くの村までどれくらい? あと北よりの村だと近いところは?」

「近いのは東北東の村、馬で三時間弱。北の村は馬で五時間ほど行けばあるはず」

「なるほどね。私たちがここにいると情報が行く前に寄れるかもね。そろそろ食料とか心もとないし」


 そこに行くつもりはない。男にそちらへ行くと知らせることが目的だ。わざとらしいと自覚があるので、騙されなくても問題はない。

 こういう考えなので、男たちを殺すつもりはなく気絶させて仲間に見つけさせるつもりだ。


「ほかにはー……私たちのことってどれくらい広がっているのかしらね」

「聞いた話ではあちこちと。港でも厳重な審査がされている。他国にも情報を流したらしいと噂を聞いた」

「人がいるところは動きづらいようね。しばらく休んで出発しましょ」


 そう言うとセリエはまた男の頭部を蹴って気絶させる。


「北に行く?」

「まさか。聞いてたこいつが勘違いしてくれたらいいなって思っただけ。予定は変更せずに西」

「これからまた寝る?」

「私はいい。ユージローが寝なさい。夜明け前に起こすから、早めに出発」

「りょーかい」


 レインのことをセリエに頼み、裕次郎は馬車に入っていく。

 セリエは縛った四人の目と口を塞ぎ転がし、見張りを始める。

 その後はなにも起こらず時間が流れる。見張りの途中で捕まえた者たちが起きたが、かまうことなく無視していた。

 裕次郎を起こす前に簡単に朝食を作り、起こした後一緒に食べて出発する。北の大岩にいるらしい人に見つからないよう、明かりはつけずに物音が小さくなるようゆっくりと移動する。

 捕まえた四人は放置だ。魔物避けを撒いているので、そうそう喰われることはないが、いつまでも効果が続くわけではない。無事生き残れるかは彼らの運次第だった。


 日数的に国境を越えたと思え、出会う兵士や冒険者も減った。魔物の質は上がったが、慣れているので辛さはそれほどでもない。

 そろそろどこぞの森に定住しようと思い、二人は前方に見える森に入ってみることにした。

 二人は馬車から降りて、周囲の警戒をしつつ、森の中を歩く。なんの情報もない場所なので、なにがいるのかもわからず注意深く進む。


「危険な魔物とかいるかな。肉壁になってくれるような」

「適度な強さの魔物がいるといいわね」


 いないことよりもいることを望むのは、それを操って追っ手や侵入者を追い払おうと思っているからだ。


「気配はあれども、姿は見えず」


 セリエは周囲を探るように見て、なにも見つけられずに呟く。ヴァインもあちこちを見てはいるが、なにかを見つけた様子はない。

 やがて明るいひらけた場所に出る。少し離れた場所からは水の流れる音がする。


「水もあるし、よさげな場所じゃない?」

「そうね、少しここに滞在して食料とか問題なければ、定住地にしましょうか」


 ヴァインを放し、かまどを作ったり、離れた場所に穴を掘ってトイレを作ったりして生活環境を整えていく。

 

「煉瓦とか作って、風呂も作れたらいいね」

「あったらありがたいわね。でも煉瓦ってどうやって作るの?」

「土とか砕いた石を混ぜて、形を整えて高温で焼くでいいんじゃないかな。撥水性の塗り薬とか隙間を埋められる接着剤は作れるから本格的なものじゃなくても問題ないと思うし」

「わりと期待できそうな話ね。まあ探索が先だけど」


 定住できると判断できなければ風呂を作っても無駄になる。

 昼食を食べた後、二人はヴァインを連れて森の探索を始める。人の気配は感じられないので、魔物避けを撒いて馬車などを置いていく。食料などを荒らされたくないので、しっかりと他の荷物で囲みガードした。

 食べられる草やちょっとした木の実や茸を見つけつつ、探索は進む。


「あ、リス」

「ようやく虫以外の生き物いた?」


 セリエは木の枝に座る、リスを見つけた。リスはなにかを食べているようで口を動かしている。すぐに食べ終わり、リスは二人を見る。

 小動物にあるまじき、ぎらついた目でお腹を空かせた肉食動物のような雰囲気だ。

 じっと二人を品定めするように見ていたが、身を翻して去っていく。


「ん? なにか背中にあったような?」


 裕次郎はリスの背中になにかくっついているのに気づく。ゴミだろうと大して気にしなかったが。


「生き物が少ないってこと以外は普通っぽい森だよね」

「乱獲でもされて警戒心が高くなったのかしらね」


 話しながら真っ直ぐ進み、一時間もせず二人は森を出る。


「それほど大きな森じゃあないね」

「食料も豊富ってわけじゃなさそうだし、定住はできなさそうね。少し食料を集めて他の場所に行くとしましょうか」

「それがいいか」


 気配だけ感じるということも少し不気味なので、セリエの言葉に同意し頷く。

 食料を集めつつ馬車に戻った二人は、今日は旅の疲れをとるためのんびりと過ごす。

 暑くもなく寒くもない昼寝には最適な気温で、セリエはヴァインに寄りかかり木陰で眠る。

 抱き枕になりたいなどと思いつつ、裕次郎は作り置きしてある薬の点検をして、使えそうにないものを離れた場所に捨てて、補充のため作っていく。

 薬を捨てた場所に隠れていた生き物たちが集まっていく。一匹がぺろりと地面を舐めると、頭についているなにかが膨らんだ。それは茸だ。

 ほかの生き物も舐めていき、次々と体の各所にくっついている茸が膨らんでいった。

 夕暮れ近くになり、森の中も薄暗くなり始めて、セリエは目を覚ます。


「おはよ」

「おはよ。ゆっくりと眠れるっていいわね」


 抱き枕になっていたヴァインに礼を言い、立ち上がり背筋を伸ばす。

 セリエは夕食を作るために、古い食材を馬車から出す。料理の匂いが周囲に漂いだし、薬作りを止めた裕次郎はヴァインの毛を梳いていく。


「いつ食べても美味しいよ」

「味は薄めになっているけどね」


 調味料は貴重品となっているので、どうしても薄味になる。セリエは以前の暮らしで慣れているし、ヴァインも不満はない。裕次郎もセリエの手作りというだけで満足できるので、問題とはなっていなかった。それに裕次郎がハーブなどを見つけ、少々偏りはあるものの一定量を確保できる。完全に素材の味のまま調理されるということはなかった。

 

「どれくらい滞在する?」

「のんびりできそうだし、すぐにでなくてもいいかなと思う」

「食料が少ない意外は問題なさそうだしね」


 十日とは言わないが、五日ほど休んでいこうと決める。

 食器を洗い、水浴びもすませて、覗きも撃退され、といつものように過ごし、昼寝したセリエが先に見張りに立つ。

 裕次郎が眠り始め五時間弱。十二時前といった頃に、セリエは車体を叩いて裕次郎を起こす。


「交代?」

「違う。周囲の雰囲気がおかしい」

「どんなふうに?」

「とげとげしいから、移動することを考えた方がいいかも」

「わかった」


 コートを着込みブーツを履き、車体の外に出た裕次郎も寝る前とは違った雰囲気を感じ取る。昼は見られているだけだったが、今はねっとりとしたものとなっている。


「やっぱり無管理地帯の森だなぁ」

「そうね。むしろ何事もなかった方が驚くわ」


 二人が動き出したことを察したか、視線の主たちも動き出す。


「これは撃退することになりそう」

「ヴァイン放す?」

「いつでも放せるようにしておきましょう」


 警戒し、セリエは剣を抜き、裕次郎はヴァインの横に移動する。出発しようかと思った時に、木の葉を踏んで動物や魔物が全方位から姿を出す。


「なにあの茸」

「あれは……宿喰い茸。生き物にくっついて、食欲と凶暴性を刺激し他の生き物を襲わせて、肉を喰うようにさせる。草食動物も肉食になるんだってさ」


 脳内の知識に該当情報がありそれを口に出していく。

 高品質の疲労回復薬や一時的な若返り薬の材料になる。売ればかなりの値段となる。感染力が高く、普通に戦うと胞子がくっついて二日ほどで茸に操られるようになる。胞子を無効化するには、この茸を使った薬を飲めばいい。仲間に薬師がいないなら戦いは避けるべき相手だ。


「寄生している相手が得た栄養を茸も吸い取り成長するらしいけど、俺が知ってるのより少し大きい」


 裕次郎の知識には二センチほどの大きさとあるが、今目の前にある宿喰い茸は五センチはある。

 原因はもちろん裕次郎が捨てた薬だ。色々と混ざった薬が、茸にとって適したものになっていたのだ。

 舐めるところを見てないので、裕次郎は自身に原因があるとわからない。


「弱点とか戦い方は?」

「茸を切り離すか、本体を叩く。胞子を飛ばして寄生しようとしてくるけど、あとで薬作るから気にしなくていいよ」

「宿主を強化とかは?」

「凶暴になるくらい。本来なら逃げるところでも戦おうとするからそこに気をつけるくらい。薬の材料になるからできるだけ茸を回収したい」

「余裕があるうちは気にしておくわ」

「うん」


 セリエは力の能力上昇薬を飲み、飛び掛ってきた野犬を斬り捨てた。

 裕次郎はヴァインを解放し、戦ってもらう。裕次郎自身も飛び掛ってきたフクロウを叩き落とす。

 寄生されているものは様々だ。ウサギも山鳩も猪も皆茸をつけて襲い掛かってくる。

 斬って蹴って食いちぎりを繰り返し、周囲には血の匂いが満ちる。裕次郎たちの手足も血で濡れている。

 疲れや怪我は薬で対処し、三時間以上かけて百に近い寄生された動物魔物を殺して、ようやく裕次郎たち以外に動くものはいなくなった。

 周りには足場の踏み場のないほど、死体が散らばっている。


「逃げないってのがこれほど厄介だとは」


 あふれ出る汗を拭って、顔を血で汚すはめになりセリエは顔を顰めた。薬ではとれない芯に残る疲労感を感じていた。

 一方で疲労など感じさせない裕次郎が声をかける。


「ヴァインと一緒に体洗ってきたら? その間に俺は茸集めるからさ」

「そうしたいけど、その前に肉を捌いて保存しておく。これだけ肉があればしばらくは困らないでしょ」

「俺も手伝うよ」


 二人で新鮮な肉を必要分集めて凍らせ保存の魔法をかける。余った分はヴァインに好きなだけ食べさせた。ヴァインは調理されたものの方が好きだが、生もいけるのだ。

 ついでにある程度の茸も回収していく。茸は水分を飛ばして、放置すれば一日も経たずに死ぬ。

 セリエが血を落としている間に、裕次郎は残りの茸も回収していき七十個の茸を集めることができた。


「大漁大漁」


 いいものが手に入ったとホクホク顔で茸の水分を飛ばしていく。

 寄生対策に使う以外の茸を籠につめて車体の中に運び、薬を作り始める。これはそう難しい作り方ではない。材料もこの森で揃った。茸と二種類の草を乾燥させ、砕いて粉にして水に浸ける。そのまま水の属性布の上に放置して一時間。沈殿したものを入れないように上澄みを鍋に移し一度沸騰させたら完成だ。

 属性布の上に置いたところで、着替えたセリエとヴァインが戻ってくる。


「俺も洗い流してくる」


 属性布に触らないように言って、水場で体を洗い、服も洗っていく。


「ただいま」

「おかえり、移動したいけどできる?」


 血の匂い漂う場所から早く移動したいのだ。血の匂いが嫌という以外に、この匂いにつられて森外の魔物が集まってくる可能性もある。

 裕次郎はすまなさそうに謝る。


「薬がもう少し動かせないんだ。あと二十分くらい我慢してもらうことになる」

「それなら仕方ないわね」


 セリエは御者台に腰掛けて、暇そうに髪をいじる。

 暇潰しになるかと、伸びた髪を少し切ってもらえないかと裕次郎は提案し、セリエは頷く。

 ハサミの動く音が夜の森に響き、ある程度髪が整った頃には二十分はもう間近になっていた。

 セリエはヴァインに合図を送り、ゆっくりと馬車を進める。裕次郎は車体の中で薬を沸かし、出来上がったものを三つに分けて、一つをセリエに渡す。二人は熱い薬を息を吹きかけ冷まし飲む。香ばしい味で、やや苦味があるがヴァインでも問題なく飲めそうだった。ヴァイン用のものは十分に冷めたと判断した時に飲ませた。

 残った沈殿物は、ここからさらに加工することで精力剤になる。裕次郎は必要なく感じたので水でゆすいで捨てた。

 二人が出て行った後の森には、予想通り血の匂いにつられて魔物が集まってきた。ここでどんなことがあったか気にせず、死肉を奪い合いむさぼる魔物たちに、木の葉などについていた胞子が付着する。ほとんどは毛に邪魔され皮膚まで届くことはなかったが、中には皮膚にくっついて栄養を吸いだしたものもある。成長することで、森には再び宿喰い茸が現れる。そうしてまた少しずつ数を増やしていくのだった。

感想誤字指摘ありがとうございます


》占いの街ソルヴィーナがあるのはライトルティだったし~

占いのことは貴族たちも考えついて使いは出したんですが、戻ってくる前に群れる影犬からの提案があってそれにのりました

カートルーナたちの占いで事故死だとわかったんですが、その報告が正しく伝わるかはまた別問題。この状況を利用して都合のいいように動こうと思う派閥などもいます


》厄介な科学反応を起こしそうな予感がするw

どうなることでしょう


》人間を代償とした儀式魔法は、何故人間でなければいけないのか

同族ということを利用してハッキングをしかけている状態です。動物や魔物だと魂の形が違い、ハッキング不可能

有効かもしれないけど、大規模被害対策にはそれだけ多くの人の命が必要ですし、気後れするものがあるのではないかと。犯罪者を使うにしても無尽蔵にいるわけではないですし。やるとしたら秘密裏にですかね


》早く無罪を証明してほしい

きっかけはいくつかあるんで、上手くそれらが働けばといったところでしょうか


》無実の罪に加担した王族には困ったときにユージローに見捨てられる

見捨てる以前に、裕次郎たちが近づくことはないでしょうねぇ。貴族は鬼門、こういった考えが裕次郎の中に生まれました。タンター一家のように実際会って大丈夫だと確信した人にしか接しないと思います


》こういう時は占い頼らないのかねえ

頼りました。でも遅かったそんな状況


》しゃべる馬ヴァインは誕生するのかな?

残念ながら。言葉を理解できるようにはなるんですが


》あほな王族もいたものだ

はっきり言ってしまうとあほなのは作者


》なんだろう、脇役のくせにメインより輝いてるこの婆さんw

輝いてましたかw出しどころが難しいので再登場はなしかな

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