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閑話 勇者の軌跡

「ロンタっこんなところにいたの。探したのよ?」

「ミュール、なにか用事?」


 剣の稽古を終えて、村そばにある小川で足を水に浸し休憩していたロンタは、幼馴染の少女に呼ばれ振り返る。

 年はロンタと同じ十四才、亜麻色の髪に紺の目、空色のシャツにジャンバースカートといったありふれた服装だ。背中までの髪をリボンで二つにわけてたらしている。愛らしい顔立ちで、村の少年たちに人気があることをロンタは知っていた。


「畑のことだけど」

「俺の分の仕事はもう終わらせたぞ?」

「うん、それは知っている。おじさんから、道具をどこにしまったか聞いてきてくれって頼まれて」

「親父も横着するなぁ」


 それくらい自分で聞きに来いと思いつつ、足を拭いて靴を履く。そばに置いていた木剣をとってミュールの横に立つ。

 並んで畑に向かって歩き出す。隣に立ったロンタを見て、ミュールは笑みを浮かべた。

 

「身長追い抜かれたね」

「ようやくな。これからもっと大きくなるぜ」

「おばさんは服の仕立て直しが大変だから、あまり大きくならないでって言ってたわよ」

「子供の成長を喜べよなー」


 怒った演技をしてみせるロンタに、くすくすとミュールは笑う。


「成長といえば剣の方はどうなの?」

「先生に褒められた! 熟練の兵士にも負けないだろうって」

「すごいことなのよね?」


 剣をとったことは一度もないので、いまいちよくわかっていない。


「昔追いかけられた野犬にはもう絶対負けないくらいにはすごいよ」

「なら今度は私を泣かせずに守ってくれるわね」

「ああ、もちろんさっ」


 ロンタが剣をとった出発点を、二人は思い出す。

 二人がまだ七才の頃のことだ。村近くの草原に遊びに行った時、お腹を空かせた野犬に追い回されたことがある。二人で手を握り合い、村へと泣きながら帰り、大人たちに追い払ってもらったのだ。

 ロンタは大好きなミュールを守れなかったことを子供心に悔しく思い、引退し村に戻ってきた兵士に剣を教えてもらいだした。筋が良かったようで、今では村一番といっていいほどに成長した。


「ミュールは料理の方どうなってる?」

「私も褒められているわよ? 村一番とまではいかないけど、母さんよりは上手だって」

「じゃあなにか食わせてくれよ」

「いいわよ。オムレツ習ったばかりだから、それでいい? 明日のお昼ご飯にでも作るわ」

「楽しみにしてるよ」

「ええ、びっくりするほどに美味しいもの作ってあげる!」


 そう言ってミュールはロンタの手を握る。ロンタも握り返し、二人は笑い合う。

 二人の間に入れる者などおらず、仲睦まじく歩いていく。その様子を村人たちは微笑ましく見ていた。

 それから二年が経ち、ロンタに転機が訪れた。先生役の元兵士から力試しに武闘大会にでないかと勧められたのだ。年齢的にも旅に出るに十分で、家族もやれるだけやってみるといいと賛成する。

 

「どうするの?」


 女らしさを増したミュールが、さらに背を伸ばしたロンタに聞く。体つきもがっしりとしていて、強者の雰囲気の片鱗を感じ取れる。


「行ってこようかなと思う。どれだけやれるか試してみたい」

「そっか。そう言うと思ってた」


 寂しそうな顔となるミュールを、ロンタは抱き寄せる。ミュールの顔は赤くなるが、離れることなどせず抱き返す。


「俺も寂しくないって言ったら嘘になる。ミュールのことずっと好きだし、離れるの初めてだし」

「私も好きよ。だからといって縛り付けたくない、好きなようにやってきて。そして怪我なんてしないで帰ってきて。待ってるから」

「約束する」


 そのまま互いの体温を忘れないように抱き合い、やがて離れる。

 お土産よろしくねと明るく演じるミュールに、任せておけとロンタも笑って返す。

 餞別だと言ってミュールは、ロンタの頬にキスをして家に帰っていく。

 その翌日ロンタは村を出る。着ている鎧は先生のお古を餞別としてもらい。持っている剣は村の鍛冶屋が、試しに作ったと言って渡してきた。貴重な鉱石を使ったらしく、これも餞別だった。

 ラライドア大陸西にあるセジアンド王国の片田舎から王都に出たロンタは、ここに来るまでに出会った同じ年の少年槍使いオロスと大会に出る。オロスは本選一回戦で破れたが、ロンタは熟練の傭兵や騎士をなぎ倒し決勝まで進んだ。

 五月蝿いほどの声援が包む舞台上で、ロンタは相手と向かい合う。


「ふんっ!」


 セジアンド王国近衛兵の中で最強と名高い騎士の鋭い袈裟斬りを、ロンタはやや苦しげに受け止める。相手の息も荒い。戦いは既に二十分を越え、その間互いに全力で動いていたのだ。

 ロンタは押し蹴りを出し、距離をとろうとする。それを読んだ近衛兵は自ら下がって距離をとる。

 すぐさま勢いをつけた突進で近衛兵はロンタに迫る。ロンタはその場にどっしりと剣を構えて迎え撃つ。


「おおおっ!」

「はああっ!」


 勢いの乗った斬り下ろしと、力を十分に溜めた斬り上げがぶつかりあった。

 木剣が一本回転しながら舞い、地面に落ちる。

 ロンタの手には木剣があり、騎士は無手だ。


「参った」

「決まったーっ! この結果を誰が予想したでしょうか!? サイルド選手の降参により、優勝はっ初出場っロンタ選手でっ決定だーっ!」


 熱の篭ったアナウンサーの声がロンタの優勝を皆に知らせ、爆発したような歓声が試合会場に響く。

 年若い剣士の華々しい活躍に、負けたとはいえ実力の高さを見せた熟練騎士に、人々は大きく祝福と労わりの声を送った。

 いつまでも鳴り止まぬ拍手の中で、ロンタとサイルドが握手していた。


「この度の活躍まことに見事である!」


 王の声が謁見の間に響く。

 優勝を祝うため城に呼ばれたロンタは、急ごしらえの礼儀作法を駆使して王の前にいる。王や貴族たちも事前に聞いていたため礼儀作法の拙さは気にしていない。


「活躍とさらなる研鑽を願い、この褒美を与えよう。今後もよく励むように」

「ありがとうございます」


 大臣の一人が王から二百万ミレという大金の入った袋と優勝したと示すペンダントを受け取り、ロンタに差し出す。ロンタは受け取った袋を自身の横に置いて、再び顔を伏せる。


「ロンタよ」

「はい」

「今後は腕試しのためあちこちを旅して回ると聞いておる」

「そのとおりでございます」


 兵として仕えないかという誘いがあったが、自由に村に帰りたいという理由と、さらなる研鑽を積むため断ったのだ。


「うむ。様々な経験はなににも勝る宝となろう。旅先で気が向いたらでよい、この城の兵となることも考えておいてくれ」

「えと、正直先のことはわかりません」

「そうか、そうじゃの。まずは旅を楽しむがよい」


 正直に答えたロンタに好感を得たようで王は快活に笑う。

 優勝式典は終わり、立食式のパーティーが始まり、様々な貴族に話しかけられる。皆一度は自分の治める土地に来てくれといったものだった。それらにたどたどしく返し、翌朝城を出る。

 人々に囲まれたりと人気者ぶりを見せながら、逃げるように宿に帰る。

 一緒に旅することを約束していたオロスと駆け足で王都を出たロンタは一度故郷に戻り、優勝したことをミュールや村人に告げる。その日は村を上げての宴会で、昔から知っている人たちからの祝いの声がすごく嬉しかったらしい。

 三日ほど滞在したロンタたちは、ミュールたちに見送られて旅に出る。

 少しずつ仲間を増やしながらあちこちと旅をして、各地の魔物を倒し、問題を解決していく。ロンタ一行の名はセジアンドに広がっていき、その名を知らない冒険者や傭兵はいないという有名ぶりだ。

 名を上げてもロンタはミュールとの約束を忘れず定期的に村に帰る。そうして大好物となったオムレツを作ってもらうのだ。美味しそうに頬張る顔をミュールも好んでいた。

 そして二年の月日が流れ、村に帰って休息を取っているロンタに、一つの依頼が舞い込む。


「なんて書いてあるの?」


 手紙を読むロンタにお茶を出しながら、ミュールが聞く。


「南に大黒鬼と呼ばれる魔物がいるのは知ってる?」

「怖い魔物がいるってのは聞いたことがあるかな」


 ミュールは思い出すように少し虚空を見上げて言う。


「オークっていう魔物の変異種らしくてね。二メートルを大きく越す巨体に、濃い褐色の肌を持ってる。強さも巨人を楽に倒せるくらいだとか。そんな奴がオークたちを纏め上げているんだよ。んで怪しい動きがあるから、調べてくれないかって書かれてある」

「行くの?」

「うん。放っておくとここらまでオークがのさばるかもしれないからね。そんなことになってミュールが怪我でもしたら大変だ」


 ミュールは身を乗り出して、ロンタの頬にキスをする。それにロンタも返す。幾度もしていて慣れたように見える。


「いつも言ってるけど怪我なんてしないでね」

「オーク程度なら大丈夫。皆もいるしね」


 ロンタはその日のうちに荷物をまとめて、村を出る。仲間たちが待つ、近辺の町に向かう。


「来たか。そっちにも手紙は届いていたんだろう?」


 部屋に入るとオロスが声をかけてくる。こちらにも手紙は届いていて、皆やる気だった。

 仲間は三人。最初から組んでいるオロスに、盗賊に捕まっていて解放した後行き場がなかった兄妹だ。

 オロスはさらに腕を上げており、今では武闘大会の優勝争いに加われるほどだ。武具もいいものになっていて一流を名乗ることができる。盗賊に捕まっていた兄の方の名はカルマンド、年は十七でロンタたちを兄貴と呼び慕う。身軽くダガー二刀流を使って走り回り、撹乱を得意とする。妹の方は十五でレラという名だ。兄と同じ紫紺色の髪を肩まで伸ばしている。五人のうちで一番小柄ながら、力がロンタに次いで強く自身の身の丈もある長剣を振り回す。ロンタが好きで、ミュールに会うと対抗心をむき出しにする。


「ロンタさん、この仕事やるんでしょ?」

「ああ、受ける」


 甘えるように抱きついてきたレラの頭を撫でつつ答える。その扱いは妹にたいするものだった。そのことに不満げな顔となるが、撫でられること自体は嫌いではないので、されるがままだ。


「兄貴、準備はしといたよ」

「いつもありがとうな」

「いいってことよ!」


 カルマンドが得意げに笑みを浮かべた。

 準備が整っているならばすぐに出発しようということになり、とある貴族から報酬として贈られた馬車に乗り込み、南部へと出発した。

 現地に到着し、四人は遠くから望遠鏡を使いオークたちの動きを観察している。望遠鏡は貴重品で、これも依頼を解決した時に報酬としてもらった。


「これはすぐにでも動き出しそうじゃないか?」


 難しい顔のオロスに、同意見なのかロンタも無言で頷く。


「知らせに戻る時間はなさそうだよ。となると俺たちでやるしかない?」

「兄ちゃん、それは無謀じゃないかな」


 兄の言葉に不安そうな声を出すレラ。ぱっと見ただけでもオークの数は千に近いのだから当然だろう。


「やれるか?」

「お前はどうだ?」


 ロンタの問いに、オロスは不適な笑みを持って聞き返す。それにロンタも強気な笑みを浮かべた。


「カルマンド、レラ。二人は近くの村に引き返して増援を集めてこい。ここは俺とオロスで引っ掻き回して時間稼ぎをしておく」

「そんな! 兄貴たちが強くても無茶だ! 俺も行くよ!」

「四人で突撃しても同じだ。俺たちを死なせたくなかったら急いで行って知らせてくるんだ」


 頼んだぞとオロスは二人の肩を叩く。

 覚悟を決めている二人を見て、これまでの付き合いから意見を変えないと悟ったカルマンドとレラは無事を祈り、馬車に乗り込む。ここからだと近くの町まで丸一日かかる。急いでも五時間ほど時間を縮めるだけだろう。それでも少しでも早く知らせるため、カルマンドたちは馬車を常に最高速度で走らせる。

 去る馬車を見送りつつロンタは口を開く。


「さてとああは言ったが、無策で突っ込むことはしたくないな」

「俺もだ。しばらく様子を見て、動き出しそうなら一当てするか?」


 それもいいがと頷き、ボスを潰せるように動くのはどうだと聞く。


「まとまりを失ったオークたちは好き勝手動くだろうが、統率されて町に突っ込むよりはましだと思うんだが」

「じゃあ、雑魚を無視していっきにたどり着けるところを探さないとな。もしくはどちらかが囮にでもなるか?」

「囮は最後の手にしとこう。まずは場所探しだ」

「おう」


 行動を決めて、二人も動き出す。

 一匹でいるオークを斬り殺しながら、場所を探していくうちに日が暮れ、誰かいるとオーク側も気づいたか動きが騒がしくなる。出発が早まりそうで余裕がないことが簡単に想像できた。

 

「もっといい場所があるとは思うんだが、探している暇はないか」


 困ったとオロスが頬をかく。


「いくか」

「仕方ないな」


 遠く視線の先に部下に囲まれた大黒鬼が見える。そこに着くまでに何匹ものオークを切らねばならぬのか。二人にとっても雑魚と呼べるオークでも数で押されるときつい。

 気合の入った表情となり、二人は駆け出しオークたちを斬り捨てていく。

 オークたちの群を突き破り、二人は大黒鬼の元へ辿り着く。

 

「これは俺の手には余るか」


 一目でオロスは負けそうだと力量差を見てとった。


「じゃあ、俺があいつを相手取る」

「俺は雑魚どもを」


 頷き合い、二手にわかれる。一対一と一対複数、互いに危険度は同じくらいだと認知している。

 戦いが始まり三時間経ち、二人はぼろぼろとなっている。大黒鬼も満身創痍で、片膝をついた状態だ。そこにロンタが走り、心臓に剣を突き刺す。

 悲鳴を上げながらも大黒鬼は暴れて、ロンタは剣から手を放して下がる。

 大黒鬼は剣を抜き、真っ二つに折る。天を見上げ大きな咆哮を上げると、仰向けに倒れた。

 オークたちはボスの死に動揺し、逃げ出す者と暴れる者にわかれた。

 ロンタとオロスは向かってくるオークの相手をしながら、増援が来るまで耐えていく。体力気力とも使い切った二人にはオークの相手も億劫だった。

 カルマンドたちが戻ってきたのは、昼過ぎでその頃には薬も尽きて二人は戦いを避けて逃げ回っている状態だった。


「兄貴たち!」

「やっときたか」

「ようやく休めるぜ」


 増援の冒険者たちがオークを追いかけていき、ロンタとオロスはその場に座り込む。

 戦果はロンタが大黒鬼一匹とオーク三十匹、オロスがオーク約百五十匹というものだった。

 オークの土地とも言えるここからオークたちを追い払い、ほかの魔物が寄ってくる前に町を作り上げた平原の民は領土を広げることができた。

 この戦果を持って、ロンタたちはさらに名を広げ国中で知らぬものはいなくなった。


「久振りであるな、ロンタよ。そしてよくぞきた、その仲間たち!」


 優勝式典と同じように、ロンタたちは王の前に並び膝をついている。四人とも礼服やドレスに身を包み、緊張した表情でいる。


「この度の活躍、多くの者を救うに値する功績、大いに褒めるものである! 大黒鬼を討ったロンタに、勇者の称号と古来より伝わりし勇者の剣を贈る」


 以前とは違い、王自らが剣を持ってロンタに近づいてく。王の手には抜き身の剣があり、古来からというには古さを感じさせない剣だ。刀身は緑を帯びた銀色で傷一つない。刀身の付け根には青の宝玉がはめ込まれ、その宝玉は僅かに濁っているようにも見える。

 恭しく剣を受け取るロンタ。勇者誕生は国内だけではなく、国外にも広く伝わることになる。


「オロス、そちにも褒美を与えよう。このマントだ」

「ありがとうございます」


 ロンタと同じように恭しく受け取る。魔法仕掛けの朱のマントで、少量の魔力を注ぐだけで耐火耐刃耐魔といった効果を持つ最高峰の品物だ。

 これを贈るだけの働きをしたとわかっており、反対などなかった。

 ロンタの二つ名が勇者となり、似た働きをしたオロスにも二つ名がつく。与えられたのは「断槍」。槍をもって並み居る魔物を断つ者という意味が込められた。


「お主たちに一つ頼みをしたい」


 褒美を渡し、玉座に戻った王がロンタたちを見て言う。


「頼みですか? どのような?」

「魔王という存在がいるのは知っているな?」

「はい」


 勇者という存在を誰でも知っているように、魔王という存在もまた誰もが知っている。


「それを退治してもらいたい。この度の魔王は生きる全てにとって害となる存在なのだ。人だけではなく、魔物にとってもということから厄介さがわかるだろう?」

「それは厄介ですが、目立った行動をとってないですよね?」


 どこぞが滅ぼされたという話は一切聞いたことがない。


「それは我ら各国の王が情報を隠しているからということと、魔王自身がなにを考えているのかあまり動きを見せないのだ」

「それなら放っておいてもいいのではないかと思うのですが。下手に刺激すると暴れる可能性が」

「そうもう言っていられないのだ。王にのみ伝わる伝承によって、魔王はある時期になると自身の意思に関係なく暴れることがわかっている。そうなる前の静かなうちに倒してしまった方が安全なのだ」


 そうなのかとロンタのみならず、貴族たちも納得した様子を見せる。王の言葉に頷いたのは、事前に事情を知らされた側近たちだ。

 

「まずは魔王の居場所を知るためにライトルティの王都に行くがよい。そこでライトルティ王に謁見し、ソルヴィーナという街に行くことを伝えるのだ。便宜を図ってくれよう」

「ソルヴィーナですか?」

「占いで有名なのだよ。的中率もほぼ百パーセントだ」

「それはすごいですね」

「うむ、うちにも是非占い師たちがほしいのだが、外に出ないよう定めておってな」


 王は残念だとしみじみ頷く。


「あとで親書と旅に必要な資金を渡す。行ってくれるか?」

「……お受けいたします」


 少しだけセジアンド王国を離れることに抵抗を感じたが、魔王が暴れればミュールにも被害がいくかもしれないと頷く。

 その返事に王はそうかそうかと嬉しげに頷く。


「費用以外に必要なものがあれば言ってくれ、準備させよう。長旅になる、馬車の改造も必要となるであろう」

「あとで皆と話し決めたいと思います」

「うむ。では式典を終えよう。これからはパーティーだ、大いに楽しむがよい」


 謁見室から大広間へと移動し、四人は貴族たちに囲まれ、娘や息子との婚約を勧められたりと純粋にパーティーを楽しむ余裕を持つことができなかった。

 その日は城に泊まり、文官たちと話し合い必要なものを伝え、五日ほど王都に滞在して、装備を新調したりして出発した。

 故郷に寄って勇者になったこと、ライトルティに行くことを伝え、ミュールに感心され寂しがられた後、再び宴会をしてもらい故郷を出る。

 セジアンドから北東にあるライトルティへはまっすぐに行けず、少々回り道することになる。直線状には絶壁と呼ばれる大陸中心を斜めに走る山脈があるのだ。そこは強い魔物がいる土地で、深淵の森、虚ろの砂漠と呼ばれる二箇所と合わせて三魔域と呼ばれる場所だ。深淵の森はヘプシミンの南西に、虚ろの砂漠は大陸最南部にある。絶壁も深淵の森も、山の民森の民が住むことを諦めたほどの土地で、豊富な資源があるにも関わらず手が出せないという状況だ。

 セジアンドを出発した四人は二ヶ月以上かけてライトルティに入る。そこからさらに王都へと向かい、合計三ヶ月で、ライトルティ王の面前に立つことができた。

 親書を読んだライトルティ王は、親書を大臣に渡し四人を見る。


「よくわかった。そなたたちに私も協力しよう。ソルヴィーナの占い神殿は予約をしないと入れない。だが私の許しがあればいつでも占ってもらうことができる。その印をのちほど渡そう。今日のところは旅の疲れをゆるりと癒してゆかれよ」

「ありがとうございます」


 文官の一人に四人を客室へと案内させ、王は執務室に戻る。作りの立派な椅子に背を預けた。


「セジアンド王よ、あの者たちならば魔王を倒せるとふんだか。また一つ珠に力が注がれる。あわよくば勇者の力も……いつの日か力が満ちる時がくる。それが今回の破壊地震に間に合うといいのだが」


 遠い未来の破壊地震を思い、王は考え込む。

 しばしの思考を終えて、ロンタたちが国内を動きやすいように書類を作っていく。

 翌日、四人は書類と占い神殿に出入りするためのペンダントを貰う。青銀の金属に赤く小さな玉のついたペンダントで、王からの推薦があると示すものだ。

 王都を出て、ソルヴィーナについた一行はすぐに占い神殿へとむかった。ペンダントと王からの手紙のおかげで、大切な客を通す部屋に連れられ、そこでカートルーナと出会った。


「いらっしゃいませ、勇者様。私はこの神殿で占いをしているカートルーナと申します。こちらも占い師でゴーべルと言います」


 手紙で占いの内容はわかっているので、予知を担当するカートルーナだけではなく、探し人を担当する男の占い師もいて紹介に頭を下げた。


「はじめまして、ロンタというんだ。よろしく」


 ロンタの浮かべた微笑みに、カートルーナは少し頬を赤らめてこちらこそと返す。

 仲間の紹介を終えて、ロンタは早速本題に入る。


「魔王の居場所ということでしたね。ゴーベル、お願いします」

「はい」


 集中するために本を開き、魔王の現在地を探っていく。

 本を閉じたゴーベルは広げられた詳細な地図の一点を指す。そこはライトルティとヘプシミンの間にある無管理地帯で両者を繋ぐ行路からは外れた地だ。ソルヴィーナからは遥か南東に位置する場所で、目印としては湖がある。


「次は私が戦いの様子を見てみます」


 ピンチをしのげるヒントが見えるかもしれないと、ロンタたちは頭を下げた。

 ロンタに手を出してもらい、そっと握って目を閉じる。手を握らなくても見ることができるが、握ることで力の行使が楽になるのだ。

 見えたものにカートルーナの表情が少し歪み、手を放すと言いづらそうに口を開く。


「……皆さんが倒れている様子が見えました」

「それは俺たちが負けるということなのか?」


 ロンタの緊張した声に、首を横に振る。


「魔王はあなたたちにとどめを刺さずに去るようです」


 どういうことなのだろうかとロンタたちは首を傾げる。

 気まぐれなのか、てごたえのなさに呆れたのか、余裕の表れなのか。


「私には理由はわかりません。このままなんの対策もせずにいれば同じ結果となるとしか言えません」

「一度行って魔王をこの目で見てみようと思う。会わなければ実力差もわからないから」

「私の方でも対策を探ってみようと思います。時々でいいので神殿に来てもらえませんか? なにか良い情報が手に入るかもしれません」

「それは助かる、よろしく」

「はい、旅の無事をお祈りしています」


 再会を約束できて嬉しげにカートルーナは笑みを浮かべた。その笑みにレラはぴんとくるものがあり、若干鋭い目つきとなる。

 神殿を出て、旅の準備を終えた一行は、教えてもらった南東の湖へと出発する。

 ソルヴィーナを出て約一ヶ月後に到着し、四人は警戒しつつ湖を周辺を探してく。


「えらく殺風景な」


 カルマンドが風景に感想を漏らす。それにほかの三人も同意見だ。

 地に草は生えておらず、木も枯れたものばかりだ。湖には生き物の姿はなく、とても透明な水が風に揺れている。生命の息吹がまったく感じられない場所で、いつかセジアンド王が言っていた生物の敵ということを四人は思い出していた。


「これが世界中に広がるなら大変なことになるね」

「そうならないように早く魔王を倒さないといけないな」


 レラが硬い口調で言い、オロスが頷く。間違っても暴走などさせてはいけないと四人は気合を入れた。

 そうして三十分ほど探索していると、枯れ木林の奥から気配が生じた。同時に息苦しさも生まれた。

 これが魔王の気配かと、四人は冷や汗を流す。


「あれが、魔王?」


 驚いたようにロンタが呟く。警戒する四人の前に現れたのは十代前半に見える少女だ。くすんだ銀髪に、レッドブラッドの目を持つ一見すると可愛いとも思える外見だ。今は表情が優れず魅力が半減してしまっているが。ぼろぼろのマントに同じくぼろぼろの衣服を着て、みかけは凶悪そうには見えない。だが息苦しさはどんどん増していた。

 ゆっくりと歩き林から出て、人がいることに気づくと驚いたような表情を見せる。同時に輝いたような笑顔を見せたが、四人はさらに押し寄せる気配に体力を削られて、その場に倒れていった。

 最後までもったロンタも、魔王が駆け寄ってきたことで限界がきて意識を失う。

 四人が目を覚ましたのは、日が暮れてからで既に魔王の姿はどこにもなかった。


「まだ気分が悪い。あれが魔王の力の一端か。戦うことすらできないなんてな」

「気配に耐えないとどうしようもないか」


 なにもできずに倒れたことに気落ちしたロンタとオロスが話す横で、兄妹は話す気力もわかないようでぐったりとしている。


「幾度か挑めば慣れると思うか?」

「次は見逃されるかわからないから、試すのは得策ではないな」

「カートルーナさんが対策を探してくれるということだから、それに期待するかな。その間なにもしないってのもあれだし、各地を回って鍛錬しながら俺たちも対策を探してみよう。強くなれば耐えられるかもしれない」

「そうするか」


 方針を決め、兄妹を馬車に運ぶと二人は交代で見張りに立つ。魔物の気配はまったくないが、念のために見張ることにしたのだ。

 翌朝、疲れた様子でロンタとオロスは馬車の中で休み、一行は湖を離れていく。その様子を離れたところから、魔王が溜息を吐きながら見ていた。

 四人はそのままライトルティ、ヘプシミン、セジアンドと三年かけて移動していく。

 その間に四人はさらに実力を上げたが、魔王の気配に耐え切れる自信はなかった。

 そうして数ヶ月ぶりにソルヴィーナを訪れたロンタたちは、朗報を聞くことになる。


「対策が見つかりましたよ」

「本当か!?」


 ロンタや他の者たちが驚きの声を上げる。この三年各地を探してもヒントの欠片も見つからずにいたのだ。このまま体力を削りながらの力押しでいくしか方法がないとさえ思っていた。


「はい。こちらがそのための薬となります。旅の薬師さんがこれを作ってくれました。北に悪臭狸と呼ばれる魔物がいるのはご存知ですか?」

「よく知ってる。一度ひどい目にあったから」


 臭いを思い出したのか、レラが顔を顰めた。悪臭狸のことを知らずに戦ったことがあったのだ。まともに臭いを受けて一日体調が優れず、臭いも取れなかった。


「これはその魔物の悪臭を完全に防ぐことができた魔法薬だそうです。体調を悪くするという意味では魔王と同じで、期待できるのではないのでしょうか?」

「あの臭いをなぁ。これは期待できそうだ」


 笑みを浮かべてロンタは薬を手に取り眺めた後、オロスに渡す。


「その薬師に会える? 礼を言いたい」

「難しいでしょう。彼らにも目的があり、一箇所に留まらないので。薬のレシピは貰ったので彼ではなくても作成可能になっています」


 まだ街にいるとは知っているが、セリエと会うと万が一といったことが起こるかもしれないと考え、わからないと答える。

 もう一つ理由があり、ロンタ優勢の未来が裕次郎と会うことで変わってしまうことを恐れた。幾多の未来を自覚なく変えた裕次郎だ、ロンタにも影響を与える可能性は低くはなかった。


「名前はわかる?」

「サワベユージローと」


 ロンタには聞き覚えはなく、三人を見ても首を横に振るだけだった。

 いつか礼を言おうと心の隅に名前を置いておく。

 のちに裕次郎たちとロンタたちは会うことになるが、その状況と場所はロンタの想像の範囲外だった。

 雑談したあと、名残惜しそうなカートルーナに再会の約束をして四人は神殿を出る。

 これから湖に向かうと季節は冬まっさかりで、魔王とは万全の状態で戦いたい四人は冬をここらで越すことにした。量産できるということなので今回もらった薬は効果のほどを知るため、悪臭狸と戦って使ってみることにした。

 効果を確かめ、まったく異臭を感じさせない薬に感心した後、ソルヴィーナに戻った四人は自己鍛錬に励んだり、依頼を受けたり、神殿や貴族の屋敷に呼ばれたりといった具合にすごしていく。

 そして雪が溶け出して、ソルヴィーナを出た。

 懐かしい湖に来た四人は、変わらない風景を見てなにもできずに倒れたことを思い出す。

 体を休めて魔王を待つ。しばし時間が流れると特徴的な気配が林から感じ取れた。

 姿を見せたのは三年前と服しか変わらない魔王だ。姿を確認したロンタは薬を撒いて、気配を遮る。完全にとはいえないが、以前と比べるとすごく楽で戦いの体勢を取ることができた。

 完全に遮断できないのを、四人は魔王が強いからだと思っているが、実のところそれだけではない。裕次郎が作ったものに量産品の質が届いていないのだ。

 武器を構えて自身を睨む四人に、魔王は怯えたような表情を見せるが、近づくことは止めない。体力を削る気配も抑えたことで四人は体力が削られる感覚がなくなった。


「……あ」


 ある程度近づいて魔王は口を開いて声を出そうとしたが、言葉になることはなかった。先手必勝と四人が動いたのだ。

 四人は魔王の様子を見て、邪悪とは思えなかった。しかしいかなる理由があろうと倒すことにかわりはなく、会話を交わし情が湧く前に殺してしまおうと考えた。

 迫る武器に、恐怖へと表情を変えた魔王は気配を抑えることを止める。それで四人は体力が削られるのを自覚した。体力がなくなる前に倒そうと攻めは激しくなる。


「逃げられたか」


 気絶から覚めたロンタは軽く溜息を吐く。逃げる魔王を追ううちに、体力がなくなり気絶したのだ。最後に見た魔王は体中傷だらけだったが、致命傷と呼べるものはなかった。放ってよい傷でもなかったが。


「逃げられないようにすれば、次はいけそうだ」


 討伐への確かな自信を胸にロンタは仲間を回収して馬車に戻る。

 四人は戦い方を話し合い、そのまま湖の周辺を探索する。だが魔王の姿形はなく、いずこかへと移動したと思われた。

 行き先をカートルーナたちに占ってもらうことにした四人は、ソルヴィーナに戻ることにして馬車に乗り込む。

 四人は魔王討伐の旅に終わりを感じていた。

感想誤字指摘ありがとうございます

なんか違和感あると思ってたら幸助って書いてたんですね

書き溜めにもどります


》ラブウォリアー

特に滑ってない?ようで安心しました


》いい最終回だった…?

まだ早いよ!


》ゴンドールか……ふむ、いいキャラですね

ありがとうございます。出る予定はあると思うけど、上手く絡んでくるかなー

マンリーでググって最初に出てきた人名がスケート選手だった。特に姓は決めてなかったんでマンリーという姓にしました


》自分としてはヴァインに知能をあげる薬を、なんて話が~

薬を上げるタイミングを自分で潰して、いつあげられるかわからない状態に


》多才すぎてわろた

その才をセリエだけに費やしたいのが裕次郎


》占い神殿の子供たちは、自分たちが受けた仕打ちを~

その部分を上手く教えるのがカートルーナたち大人の役目でしょうね

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王は良い子でした。 て流れですかね?10代の少女ってところもフラグなんだろうけれど、魔王を倒さない路線のお話ならばいつか醜悪な異形でも倒さない流れになって欲しい感
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