表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/59

19 二つ目のてがかり

 セーゲントを出た二人は予定通り情報を集めたり、実験を数度繰り返しながら十日ほどで目的地である渓流に到着した。

 ここらの村では渓流に住む者たちはそれなりに知られており、情報集めは容易だった。もう百年以上前からそこにいて、どうしてそこにいついたのかはわからない。破壊地震の影響で比較的暮らしやすい住処を求めて、そこに流れ着いたのではと言っている者もいた。

 薬の方も裕次郎にある程度の効果を出すものができている。毒に耐える用の薬も準備でき、あとは実行するだけだ。夜のうちに上流へと移動し、そこから薬を流すことにした。

 ヴァインと馬車を近くの村に預けて、二人は渓流に向かうさすがにセリエの表情は硬く、緊張気味だ。

 見張りなどがいないか警戒しつつ明かりもつけずに木々の間を進み、滝を越えて上流に到着する。時刻は午前三時前といったところだ。。空には薄雲が広がり、周囲は暗い。


「誰か隠れてた?」


 小声で聞いた裕次郎にセリエは首を横に振る。

 セリエは聴覚を上昇させる薬を飲んでいたので、並大抵の者では隠れてはいられない。


「早速薬を使いますか」


 作って三本にわけていたうちの二本を、川に最後の一滴まで流し込む。二人から五メートルほど離れた水面から靄が現れ、下流へと移動していく。

 霧が広がりきるまで待つことにして、そこらの岩に座る。ぼんやりと下流を眺めている間に、霧はどんどん発生し視界が一メートルを超えると影しかわからないといった状況になっていく。

 一時間と三十分が過ぎて、そろそろいいかなと思った二人は滝を下り下流へと歩き出す。はぐれないように明かりの魔法を二人の頭上に輝かせる。麻痺毒が効果を発揮していれば見つかっても動けないはずなので、明かりはつけても大丈夫だと思ったのだ。

 麻痺毒耐性の薬は効果を発揮して、霧の中を歩き回っても少しも痺れはしない。一時間ほどかけて、得た情報を元に盗賊たちのアジトを探していく。アジトそのものの情報はなかったが、薬草を摘みに行った冒険者がこちらに気づかず道とは別の方へ歩いていく盗賊の集団を見たことがあったのだ。


「止まって」


 先を歩いていたセリエが、小さく声をかける。裕次郎は隣まで移動し、セリエの横顔を見る。セリエは集中するように、目を閉じていた。


「誰かいる」

「どっち? あと薬は効いてそう?」


 あちらとセリエは人差し指を向ける。方角的には向かっていた前方ではなく、右だ。裕次郎には感じ取れない距離らしく、誰かいるようには思えなかった。


「気配はいくつかあって、どれもその場から動かない。効いているかどうかはわからない」

「奇襲したら気絶させることはできそうかな」

「人数は少なくとも十人以上だし、取り逃がすことはあると思う」

「気づいてなさそうなら、スルーしてもいいか。このまま進む?」

「進んでみましょう。薬が効いてなくて気づいているなら一人くらいは偵察に動くでしょ」


 少人数なら返り討ちにできるだろうと考えた二人は再び歩き出す。

 気配の主たちは動く様子を見せない。警戒しているか、毒が効いているのだろうと、二人は警戒したまま進む。

 少しして二人は前方に大きな影を見つけた。その影の近くにも気配がある。気配の方を見ると、地面に伏せている小さな影が見えた。

 動く気配がないので、近づいてみる。


「痛そうな顔だね」


 意識のない四十手前の男が脂汗を滲ませて倒れていた。


「もしかすると」


 そう言いセリエは頭上を見上げる。人が乗っても大丈夫そうな木の枝が見え、そこに布袋があった。麻痺毒入りの霧を吸って、枝から落ちたのだろう。


「死なれると困るし」


 裕次郎は回復薬を男の口の中にぞんざいに流し込む。気管に入ろうが関係ないといった感じだ。

 男の方はこれでよしと、二人は大きな影に視線を動かす。ちょっとした地面の隆起があり、そこに穴が掘られていた。緩い坂道が続き、先の方は暗く見えない。入り口には雨水侵入を防ぐためか段差がある。


「足跡がある」


 しゃがんで地面を調べセリエがいくつもの足跡を見つける。


「だとするとこの人は門番で、盗賊たちはここにいる可能性が高いかな」

「多分ね」

「んじゃま、最後の一本流し込むとしますか」


 穴の中に十分な霧が入り込んでいるかわからず、流し込むことにした。

 穴の前の土を、坂道に運び、水を溜められる囲いを作る。それに魔法で水を溜めて、すぐに崩れだした囲いに薬を入れて、さらに水を追加し、盛大に坂道へと流していく。ついでに風の魔法で霧を奥へと流す。

 三十分待った二人は、穴を進む。人二人が横に並んでも余裕のある道幅で、高さは二メートルほどだ。ある一定距離進むと、坂道は終わり、十字路に出る。人の気配は裕次郎にもわかるほどにあちこちとあり、その全てが動いていない。


「全員が寝てるってことはないだろうし、薬は効果を発揮したってことかな」

「そう見ていいと思う」

「てきとーに誰かを叩き起こそうか」


 十字路を真っ直ぐに進み、布で入り口を遮られた部屋らしき穴に入る。そこには十人ほどの子供と、世話役らしき三人の女たちが寝ていた。

 四十半ほどの女を通路に運び出し、解毒剤を少しだけ飲ませて起こす。

 女はすぐに起きて、見慣れない二人に驚き、口を開く。


「あなららちはっ!? かららがうごかにゃ!?」

「うわっ聞き取りづらい」


 呂律がまわらないことに無反応なセリエが剣を抜き、女の首筋に当てる。それに女が小さく悲鳴を上げた。


「手荒なことをする気はない。私の質問に答えなさい」


 冷たいセリエの視線と言葉を受けて、小さく何度も首を縦に振る。その度に冷たい刃が首に触れる。


「ベリアという名前に聞き覚えは? 五十手前の女だけど」


 少し考え込む様子を見せた女は首を横に振る。本当にというセリエの再確認に、再度思い出す仕草を見せたがやはり首は横に振られる。


「ここに長くいる人は誰? その人は今どこにいる?」

「ちょうろう。もっろおくのへあ」

「案内しなさい」


 そう言って剣を引き、立たせる。しかし毒のせいで足取りは不確かで、いつ転んでもおかしくはない。

 裕次郎が肩を貸し、セリエは警戒しつつ通路を進む。女の案内で長老がいるらしい部屋にくる。セリエが気配を探り、中に入る。ここにも霧は届いていて、三人が入って来た気配に反応を見せない。

 部屋の中には五十才ほどの男女が寝ていた。長老は女の方らしい。

 裕次郎は連れてきた女を椅子に座らせる。その間にセリエがまた首に剣を当てて長老を起こしていた。


「にゃにもの?」


 多くを従え支える胆力はさすがというべきか、怯えは見えない。呂律がまわっていないせいで威厳は台無しになっているが。

 重要な話を聞くのに、これはちょっとと思ったセリエは剣を当てたまま解毒剤をさらに飲ませる。それにより、長老は軽く体が痺れる程度にまで回復する。


「聞きたいことがあって侵入した。ベリアという五十手前の女、知らない?」

「ベリア?」


 聞き覚えがあるのか、目を閉じて記憶を探る。

 この様子にセリエは嫌な予感が高まる。ここにいるのならすぐに思い出せるはず、時間をかけないと思い出せないということはここにいない可能性がある。捕らえた者の名前など気にしないという可能性もあるが。


「思い出した。たしかにここにいた」

「いた? 今は?」

「死んだよ」


 あっさりと告げられた訃報にセリエの表情は固まる。


「嘘、嘘よ!」


 叫び脅すように剣が長老の肌に食い込む。少しでも引くなり押すなりすればあっというまに血が流れ出すだろう。

 それに怯えを見せずに、冷静にセリエを見返し口を開く。


「嘘ではない。ほかに知っている者もいる」


 体から力が抜けたようにセリエはその場に座り込む。剣は首から離され、床に落ちた。もしかするととは思っていたが、実際に聞くと大きな衝撃が心に叩きつけられた。

 裕次郎はセリエに近寄り、励ますように肩を抱く。セリエは誰にも聞こえないほどに小さく呟き続け、されるがままでいる。


「死んだというのは確かなんですか」

「ああ、二十年ほど前にね。私も死に目を見取った一人だ。この娘はもしかすると探していると言っていた子供なのか」

「ええ、長いこと探してようやくここを見つけ出したんですけどね。ちなみにあんたたちが殺したってことは?」


 セリエはその言葉にも反応せず、ぎゅっと縮こまって外界の出来事を拒否しているようにも見える。


「私らも盗賊なんてやってるが、できるだけ命をとろうとはしていない。ベリアは娘と夫を追って旅をしている途中で病気になり、ここを越える時に倒れたんだ。看病料目当てに拾い、薬を与えたがそれまでの無理が祟って死んでしまった」


 心労や旅の資金を稼ぐために働き通したことの無理が体に悪影響を与えていた。


「墓とか形見とかは」

「墓はうちの共同墓地に髪の毛を入れた。体の方は燃やした。形見は死んで五年ほどは取っておいたが、処分した。こんな時間が経って、娘が姿を見せるなんて思ってもみなかったしね」


 形見の処分は仕方ないと思えた。たしかに二十年ほど経ってから娘が来るなんて思わないだろう。盗賊なんてやっていて五年も取っておいたことが驚きだ。


「墓ってどこに?」

「もっと地下だ。出入り口の十字路を右に真っ直ぐ進めばさらに地下へと行く坂がある」


 聞きたいことを聞き終えて、裕次郎は剣を鞘に納めてセリエを抱き上げる。


「帰るのか」

「もう用事はないし」

「その前に現状を説明していってくれないかい。どうしてこんなことになっている?」

「霧を発生させる魔法薬に麻痺毒を含ませて渓流とこの住処にばらまいた。その影響で誰もが動けなくなった。殺さずに無力化しないと話も聞けないと思ったから」

「なにもせずに真正面から話を聞きにくるという選択肢はなかったのか」

「盗賊になんの対策もなく会いに行って、まともに会話できるかわからないじゃないか。無茶なお金を要求されるに決まってる」


 たしかに有り得ることだと長老と傍観者だった女は頷いた。

 効果はいつまで続くという言葉に、およそ六時間と答える。実験で効果を落としたものをセリエに使った時も三時間は続いたのだ、それよりも強い薬が同じ時間で消えるはずもない。


「あと渓流の方はあと三時間くらいで、ここは五時間以上かな。外の方は魔物も麻痺ってるし、喰われる心配はないよ。十人以上の無抵抗な人間なんていい餌だしね」

「ちょっと待ちな。十人以上? 見張りとは置いているが、十人もいないぞ?」

「セリエがそれだけいるって言ってたけどね。十人ほど塊で動かないって」

「それは……あんたっ急いで毒を治療して、そいつらのところに案内しとくれ!」


 その十人に心当たりがあるのだろう、慌てたように命じる。


「え、なんで? 自由になったら襲ってくるだろうし嫌だよ。早くセリエをまともなところで休ませたいし」

「襲わないっ。これまでの長の名に誓う!」

「盗賊の長の名に誓われても」


 裏切るという証拠なのではと信じられる要素など感じられなかった。


「いいから、早く解毒しな!」

「とりあえず理由を教えて。納得したら解毒剤を渡すよ」

「簡単に言うとそいつらとは敵対しているんだ。私らを取り込もうと脅しをかけてきていた。それを私は突っぱねていたんだが、痺れを切らしたんだろう。強襲でもしようとしてあんたらに無力化されたんだろうさ。今ならそいつらを捕まえて、情報を吐かせたり、取引に使ったりできるんだ」

「盗賊同士のいざこざになんて首を突っ込みたくはないんだけど、セリエの母親を看病してもらった恩もあるし仕方ないか。でも全員分なんて用意してないよ」

「力仕事のできる者たちをある程度回復してくれればいいさ」


 それくらいならばと長老の案内で男たちのところに行き、解毒剤と耐性薬を飲ませていく。

 動けるようになった男たちは、見知らぬ裕次郎たちに警戒した視線を向けるがそんな暇はないと長老が急かして、五人ほど引き連れて住処を出る。

 霧の中をセリエが示した方角を思い出し、進むと倒れたままの男や女がいた。長老はその中に脅しをかけてきた男の顔を確認し、男たちに連れ帰るように指示を出す。


「あ、ちょっと待った」

「なんだい? もう用事はないんだろう?」

「ちょっと気になるものが」


 抱えられている男に近寄り、抱えられたことで外に出たペンダントを見る。黒塗りされた牙が揺れている。セリエを片腕で抱きなおし、ほかの者たちの胸元やポケットを探ると同じ物が出てきた。


「やっぱりそうだ。こいつら群れる影犬か。変なところで縁があるな」

「こいつらのこと知っているのかい?」

「色々と動いていて一度被害にあった。本拠地がばれてるし国が対処する可能性もあると聞いてるよ」


 占いで本拠地などがわかり二ヶ月ほど経っている。早ければ既に壊滅している頃だろう。時期的に考えるとここにいる者たちは逃げてきたわけではなく、この国で活動していて組織の危機には気づいていないはずだ。


「国に目をつけられるほどに暴れているのかい。これまでうちが無事だったのは運が良かったんだね。下手に脅しをかけるより、情報を聞き出して殺してしまう方がいいのかもしれないね」

「そこらへんは好きにやるといいよ。俺には関係ない」


 長老は男たちに指示を出し、住処へと運ばせる。ペンダントに毒が入っていることを裕次郎に聞き、それらは回収して長老が自室にしまうことにする。

 裕次郎は気力の抜けたセリエを連れて墓に行く。大きな石碑があり、その後ろに深い穴がある。そこに骨の一部や髪が投げ入れられているらしい。

 セリエは墓を前にしても反応を見せない。裕次郎が代わりにセリエの無事を報告し、盗賊たちの住処を出る。

 ヴァインを預けた村に戻り、宿に泊まる。人形のようになってしまったセリエをベッドに寝かせる。

 そばにある椅子に座り、こうなってしまった原因を考える。


(難しいことじゃないか、強く求めていた母親が死んでいて気力が根こそぎなくなった。再会が生きる目的でもあったのに、もう果たせなくてショックを受けたり、信じたくなかったりといったところでいいのかな)


 セリエが死んだら同じようになるのかもしれないと、セリエの心境を推測していく。


「原因はそれと仮定して、元に戻ってもらうには……時間が解決? それはないな。母親と同じくらいの存在に俺がなる? それが俺にとっても一番なんだけど、すぐに果たせるわけじゃないし。だとすると話に出ない父親を探し出す? わかっていることだとセリエと一緒に故郷から連れ出された。でも今一緒にいないってことは、なにかわけあり? もしかすると不仲になっていて再会は逆効果かもしれない。父親とも死に別れた可能性もあるのか」


 ぶつぶつと考えを漏らしながら、思考を進める。

 死んだような色の抜けた目を見るのは辛いし、このままだと食事もままならない。飲み物は口に入れれば飲んでくれるので、栄養剤を作って飲ませればしばらくはなんとかなる。だがいつまでもそれで誤魔化すことはできないだろう。

 この状態だと自身に気にかける様子もなく、トイレなども出すままといったことになるかもしれない。


「一番なのは母親に再会できることだけど、それは無理なんだよな。霊媒師でもいれば……ん? もしかしているのか? 魔法があって超能力者がいる。本物の霊媒師もいる可能性が」


 光明を見つけたように、裕次郎の表情が明るくなるが、すぐに難しい表情に戻る。

 このことをセリエに伝えるべきかどうかと思った。新しい希望を与えておいて、そんな存在はいませんでしたなど冗談ではすまされない。またショックを受けると自殺する可能性も考えられた。

 しかしずっと人形のような状態でいさせるのも問題がある。


「こことかじゃなくてもう少し大きな街で調べてみるか。それまではこの状態で……いさせるのも問題な気がする」


 介護が嫌なわけではない。されるがままというのはセリエが嫌だろう。それにこの状態のセリエを連れての旅は難しいかもしれないと思う。誰かもう一人いれば話は違ってきただろうが、いない者のことをどうこう言っても意味はない。介護や護衛を雇うというのもハーフとばれる可能性があり、実行は難しいと思えた。


「やりたくないけど、記憶を一時的に封じるかすりかえる、もしくは操る。薬でできるけど……」


 やろうと決めた。作る薬は人や魔物を操り動かす薬だ。記憶が元に戻らないなんてことがあれば、裕次郎はセリエに殺されても文句はいえない。いや自らそれを願う。

 操る薬を使い、日常生活は自分でやってもらう。戦闘や食事や警戒などは裕次郎とヴァインでこなす。

 人形のように扱うことにすごく罪悪感が湧く。けれどこのままでは解決手段も探せない。


「あとで謝らないと」


 重くなった気分を抱え材料を集めるため宿を出て行く。

 材料はここだけでは揃わず、近くの村まで介護しながらの旅となった。その時に体を拭いたりといったこともして、正直思わずムラっときたが、下心を抱えて触るなど最低すぎると大きな精神的ダメージを受けることになった。

 材料を集めて、薬を作り、使った後は近いこともあり王都に向かうことにした。この国で一番大きな都市だ。そこの本屋は豊富な情報があり、霊媒師関連のこともわかるはずだ。

 薬はきちんと効果を発揮し、動きは鈍いが自分のことは自分でするようになる。

 使ってしまったという罪悪感と、どうしても生まれてしまう下心からの解放という複雑な思いを抱いて、裕次郎は王都に到着する。

 ヴァインと馬車を預けて、荷物を持ち、セリエの手を引いて門を潜る。感情の抜け落ちたセリエは雰囲気による違和感を与えることもあり、それなりに目立つ。そんな注目を気にする余裕は今の二人にはなかった。

 不審人物に見えたというか、一応の事情を聞いておこうと警備兵が近づく。裕次郎の表情も沈みがちなため犯罪者ではなく、仲間が死んだのだろうと推測していた。


「雰囲気が暗い理由ですか?」

「ああ、一応聞いておこうと思ってな。すまないが教えてもらえるだろうか?」

「この人は探していた母親と死に別れまして、その時からずっと感情が抜け落ちた状態なんですよ。俺もつられて雰囲気が沈みがちに」

「そうか」


 全ては言っていないが、嘘もついていない。納得できる理由だったので兵は気休めとわかりつつも励ましの声をかけて、離れていった。

 裕次郎は宿に行く前に、作っておいた治癒促進薬を売り、宿に向かう。二人部屋を借りた裕次郎は、自分以外は誰も入れないようにとセリエに命じて宿を出る。

 本屋に行き、異能者について書かれた本のありかを聞き、読んでいく。異能者について本格的に書かれた本はなく、いくつかちょっとした情報があるだけで、詳しいことはわからなかった。


「ソルヴィーナに行けばわかるんだろうけど、セリエがあんな状態で無管理地帯越えをしたくはないし。人が生き返ったとか、幽霊と話したって情報でもあればいいんだけど」


 店員にそういったことについて書かれた本があるか聞いてみたところ、一つの伝承を聞くことができた。


「霊峰ルトマトフィリア?」

「はい。そこに行けば死者と会話できると聞いたことがあります」

「どこにあるんですか!?」


 求めていた以上の情報だ。勢い込んで聞く裕次郎から、一歩引いて店員は首を横に振る。


「そういった話があると知っているだけで、詳しいことはさっぱりです」

「ここの本にそれについての情報ってありますかっ?」

「全てを把握しているわけではないので。載っているとしたら、有名どころの書かれた地理の本や伝承関連の本だと思いますよ」


 裕次郎はそれらのありかを聞いて、急ぎ店内に戻っていく。

 立ち読みでざっと調べていき、場所はわからないがそういう話があると書かれた本は見つけた。

 山の頂上に祭壇があり供物を捧げると、空から光が降り注いで死んだはずの祖父に会えたという話だ。ほかにも二つ似たような話が書かれていた。

 この話は破壊地震で壊れた建物から得られた情報で、場所などの詳細はわからないということらしい。


「これはいけるっ。セリエを元に戻して、この話を聞かせたら気力が戻るはず」


 本を棚に戻して、宿に戻る。操りの薬を解除し、裕次郎はセリエの肩を力強く掴む。痛かったのか、セリエの表情が少し歪む。


「よく聞いて! 死者と話せる方法を見つけた! 霊峰ルトマトフィリアって山の山頂に祭壇があってそこで死者と話せたって話がいくつかあったんだよ! そこに行けばベリアさんと話ができるっ」


 ぼんやりとしたセリエの目に少しずつ光が戻る。裕次郎の言葉が届いた証拠だ。


「……ほんと? ほんとにそんな場所が?」

「場所自体はわからないけど、ソルヴィーナに行って占ってもらえばわかる」

「またお母さんに会える?」


 どこか幼げな口調に、裕次郎は頷く。


「一緒に暮らすことはできないけど、話すことはできる」


 裕次郎の言葉に、セリエは泣き始める。涙が頬を伝ってぽたぽたと落ちていく。

 セリエは裕次郎に抱きついて、そのまま泣き続けた。裕次郎はおそるおそる背中に手を回しトントンと軽く叩く。

 泣き続けたセリエは嬉しさや安堵で心が満たされ、心地良い眠りに誘われる。

 眠ったセリエをベッドに移動させ、寝顔を覗き込む。先ほどのまでの無表情はなくなり、柔らかな表情で寝息を立てている。


「やっぱり表情があった方がいいね」


 上機嫌に言い、セリエが目を覚ました時のため、簡単に食べられる物を食堂に取りに行く。

 セリエが起きたのは二時間後で、日はとっくに暮れていた。

 果物やサンドイッチといったものを二人で食べながら、盗賊たちの住処からここまでにあったことを話していく。


「王都? ここまでのことはうっすらと記憶にあるけど、ここが王都だとはわからなかったわ」

「記憶があるんだ」

「ほんとうにうっすらとだけど。誰かに、ユージローしかいないけど、連れられて……」


 なにかを思い出したのか、セリエの顔が赤くなっていった。

 これは体を洗ったりしたことを思い出したなと裕次郎は簡単に推測できた。


「ああ、うん。私動かなかったんだろうし、うん仕方ないわ。気にしないほうがいい気がする」

「そうしてくれれると助かるね。謝らないといけないのは別のことなんだけど」

「なにかしたの?」


 知らないところでセクハラの一つでもされたのかと体に緊張がはしる。


「セリエに人や魔物を操る薬を使ったんだよ。世話しながらの旅はちょっと大変だったから」

「……それは仕方ないわ。見捨てられないだけましだと思うし」

「セリエを見捨てはしないよ」


 あなたはそうでしょうねと、力の抜けた笑みを小さく浮かべる。


「セクハラとかはどうだったの?」

「ムラっとはしたけど、拭く以外になにもしてないよ!」

「正直ね」


 なにもされていないなら問題なしとこの話題を終わらせる。

 

「これからだけど、どう動くつもり? まだ雪は溶けてないから移動はできないでしょ?」

「ここでなにか仕事こなしつつ春を待つか、国境の町で同じように春を待つかの二択。俺はどっちでもいいよ」

「どちらがいいか。仕事に困りそうにないのはこっちで、早く出発できそうなのはあっち。急ぐ必要はないんだろうけど……少しこっちで過ごししてみて不都合があれば出て行けばいいか」

「じゃあ、そういうことで」


 しばしの滞在が決まり、二人は紹介屋に行ってみることにした。

 人が多いので仕事も色々とあり、探すだけでも一苦労だ。セーゲントではなかった薬関連の仕事もぽつぽつとある。かわりに討伐系が少ない。兵士たちが訓練代わりに退治して回っているからだ。薬関連に拘る必要もないので、探すのはほかのものに目が移りがちだ。


「なにかいいのあった?」

「これなんかどう?」


 聞いてくる裕次郎にセリエは目の前にある紙を指差す。

 内容は馬車で南に二日ほど離れた村へ届け物をしてくれというものだ。以前セリエがやったような危ないものではなく、普通の物資運送といった内容だ。運ぶものは薬を含めた日用品となる。移動日分の食費も向こう持ちで、報酬は三万。馬車を持っていれば貸し出さずにすむので報酬に五千プラスされる。


「馬車があるし、それほど遠くもない。手頃だと思うわ」

「うん、それでいいよ」


 薬を作って売るよりも安いが、生活費に困っているわけではない。手始めにやってみるものとしてはちょうどいいでのではと、セリエは思い選んだ。

 その依頼紙をはがして、カウンターに持っていく。


「これをお願い」

「はい。荷物運びですね。馬車は貸し出しますか?」

「いえ、持ってるから」

「わかりました」


 職員は書類に報酬プラス五千と書き込んでいく。

 

「お二人の名前を書き込んでください」


 セリエが自分と裕次郎の分を書いていく。


「セリエ様とユージロー様ですね。ではこちらが依頼主のお店となります」


 依頼を出した商店の住所が書かれた紙を差し出してくる。

 職員が裕次郎を姓ではなく名で呼んだのは、セリエが名で書き込んだためだ。いつも名で呼んでいるし、書く時も名で書いてばかりなため癖になっている。

 紙を受け取った二人は紹介屋を出て、道行く人に聞きながら商店に着く。

 依頼紙を見せて、店員に店長を連れてきてもらう。話はスムーズに進み、商品を壊したり紛失した場合のことを話す。


「強すぎる魔物が国内に現れて通行不可能になった場合は引き返しても問題はありません。取り決めはこれくらいでしょうか。なにか聞きたいことはありますか?」

「商品が壊れた場合のことですが、梱包が不完全で壊れることは? その場合こっちが弁償する必要がある?」


 何度かこういった仕事を受けたことのあるセリエが気になった点を聞く。


「その場合は私どもの責任ですね。そんなことにならないよう、運び込む時に最終点検するようになっています」

「わかりました」

「ほかには?」

「運ぶのにいつまでといった期限は?」


 今度は裕次郎が聞く。


「遅すぎたら問題ですが、ハプニングを考慮して六日で届けてもらえれば問題はありません」


 質問はこれで終わり、早速出発することになる。二人は宿に戻り、出発支度を整えて商店に戻る。

 荷物は木箱に入れられ、台車に運び込まれていた。その様子を見つつ、二人は少し苦い笑みを浮かべる。


「荷物の量のこと忘れてたねー」

「そうね、うっかりしてた。これくらいなら入るでしょうけど、寝るスペースは確保できそうにないわね」

「久々にテントか。まあ二日だけだし」


 ずっと占領されるわけではないと、問題なしと判断し荷物を運ぶ店員を連れて、馬車を預けている郊外に向かう。

 店員が荷物の点検をしている間に、ヴァインに力の能力上昇薬を飲ませる。


「そういや頭の良くなる薬を飲ませようと思ってたんだっけ、王都なら材料そろうかな」


 帰ってきたら探してみようと思いつつ、ヴァインを撫でる。

 積み込まれロープで固定された荷物は馬車の大部分を占領していた。座るスペースくらいは余り、そのことに二人は安堵していた。

 用件をすませた店員に見送られ、二人は出発する。品物が壊れないように、ペースはやや落としている。

 魔物に出遭うことはあったが、吹雪が発生し迷ったり立ち往生したりはなく、三日目の午前九時前には目的の村についた。なんの変哲もない農村で、二種類の冬野菜を作っている以外は仕事なしといった状況らしい。

 村の見張りに仕事内容を話し、馬車ごと村に入る許可をもらった二人は荷物を渡す店まで移動する。荷物を渡し、商品の確認もすませて、終了したと示す紙を貰う。

 特にハプニングなく依頼をすませた二人は王都に戻り、朝はゆっくりと過ごし、昼から次の依頼を探していく。

 朝の内に裕次郎はいくつかの店を回ったが、頭を良くするのに必要な薬の材料全ては揃わず、作成は次の機会に持ち越しとなった。

 誰かと協力する護衛関連や失せ物探しといった日常系の依頼もなんとなく避けて、二人だけでできる荷物運びばかり受けていく。


 この仕事ぶりに首を傾げている者がいた。紹介屋だ。不満というわけではなく、もっと向いている仕事があるだろうと思っていたのだ。

 裕次郎のことが、男爵家当主変更の知らせを王に伝えるため王都に来ていたカインツから伝わっていた。広く知られているわけではないが、紹介屋の上層部はツテのある貴族から聞いていた。裕次郎の名は珍しいので覚えており、その名が書類にあり本物か首を傾げていた。

 名前を真似ている者かもしれないという疑いもあり、しばらく様子を見てみようと判断が下された。しかし受ける依頼が薬に無関係なもので、判断しようがなかった。

 治癒促進薬を売ったことが一つの判断材料になりそうだが、白色を作れる者は裕次郎一人だけではない。真似るくらいならば、それくらいできて当然という考えだ。

 そうして裕次郎たちは紹介屋に判断を下させる材料を与えることなく、王都を出て行った。国境の町に着く頃には雪解けが始まっていると判断し旅を再開したのだ。

感想ありがとうございます


》確かにただの旅人という範疇に収まらないティークへのかまいっぷりですよね

妹がほしかったという本人も知らない願望があった、のかもしれない


》裕次郎に対して結構なツンなのに、介入前に同じように助けられた勇者には惚れる~

簡単に惚れたわけじゃなくて、裕次郎と同じくらいの期間をかけて打ち解けていきましたから、勇者に惚れてもそうおかしくはなかったりします。裕次郎のように大事にしすぎることはなかったので、疑いは比較的薄かったし

勇者は、セリエに雨に濡れて震える子犬のような雰囲気を感じて、一人にはしてはいけないと思い無理矢理連れまわしました。どこかへ行こうとするセリエになんのかんの理由をつけて同行させてました。その連れまわしている間に、ハーフとわかるセリエを庇ったりして親交を深めていきました

セリエはいわくツンデレで、一度相手を受け入れると大事にするようになり、離れなくなるようになります

ぶっちゃけると勇者とセリエの関係はそこまで深いこと考えてないので矛盾点がががが


》クォーター以降の耳の形や、種族間の違和感がどうなるか気になりますね

耳の形は結婚相手で決まります。平原の民ならば丸耳に、森の民ならば長耳にといった具合です。違和感もハーフよりはなくなります

大抵は結婚できないので、子孫は珍しいです。その子孫も破壊地震で死んだりしますし

子供は本編が終わって、約四年後に生まれる予定。とあるハプニングがあってその期間で、ハプニングがなければもう二年セックスなしでいちゃいちゃしていました


》セリエにべた惚れな裕次郎が軽い実験程度~

頻繁に頼むことはないけど、対等にという言葉もあるので頼むことはあります。効果が強すぎるものは絶対頼みませんが

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ