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15 母を探して

 ツアたちのいるオロンズを出て十八日、北部の村や町をあちこちと訪ね、とうとうセリエは故郷に帰ってきた。

 フィッツーネはオロンズより少し大きいくらいの村で、人口は四百人強と賑やかな村というわけではない。

 これまで行った村と変わらないような風景も、夢で思い出した風景と重なり、セリエはここが故郷だと確信を持てた。

 馬車を預けて、夢見心地で歩くセリエの後ろを裕次郎はついていく。セリエはときおり止まっては懐かしむような視線を道や建物に向ける。

 そしてとある家屋の前で止まる。その表情は欲しかったものが手渡された子供の表情だ。

 ゆっくりと玄関に進み、ドアをノックする。家の中から人が玄関に近づいてくる足音がして、セリエは期待でいっぱいという表情となっており、ドアが開くのをいまかいまかと待っている。


「はーい」


 声をともに玄関が開き、三十手前の女が出てきた。

 裕次郎は年若い母親だなと一瞬思ったが、すぐに若すぎだろうと考えを否定した。

 セリエの顔を覗き込むと、愕然としたものとなっていた。

 自身の顔を見たままなにも話さないセリエに、女は首を傾げる。


「なにか御用ですか?」


 固まっているセリエの代わりに裕次郎が進み出る。


「こちらは……あ、姓を知らないんだった。セリエという名前聞き覚えがないか聞きたいんですが」

「セリエですか? ないですね」


 キョトンとした表情になり、首を横に振った。自然な仕草で、本当に知らないのだとわかる。


「失礼ですが、ここに住みだして何年になります?」

「変なことを聞くんですね、えーと十年ですかね」

「あなたの前に住んでいた人のこと知りませんか?」

「知りません。ここは数年空き家だったらしいということくらいしか」

「そうですか。ありがとうございます。セリエ、行こう」


 呆然したままのセリエの手を引いて玄関から移動する。セリエは手を振り払うことなく、引かれるままに歩き出す。

 セリエを宿に置いて、自分は情報収集でもしようと思い裕次郎は宿へと足を向ける。

 そんな二人に声をかけてくる老婆がいた。六十過ぎくらいで杖を持っている。


「違ったら申し訳ないけど、もしかしてセリエちゃんかい?」

「たしかにこの人はセリエという名前ですが。もしかして子供の頃の知り合いですか?」

「やっぱりそうかい。耳の形は違うが、なんとなく面影が残っていてそうじゃないかと思ったんだ。私は斜め前の家に住んでいるんだよ。よく家族で遊んでいるところを見ていた」

「他種族やハーフを嫌うもんじゃないんですか?」


 近所にハーフなどが住んでいたことをなんでもないように話す老婆に疑問を抱いた。老婆もハーフと知っていて平然としている裕次郎に内心驚く。


「ん、まあそういった人もいる。セリエちゃんは友達ができなかったしね。私のように迷惑かからなければ気にしない者もいるのさ。この村はそういった者が多くて、セリエちゃんや父親は暮らしていけたんだよ」


 ちらりと握られている手に目をやる。


「お前さんも似たようなものだろう?」

「まあ、そうですね」

「そういった存在が近くにいるのを見ると安心するよ。今後も一緒にいてあげておくれ」

「ええ、離れるつもりはありませんよ。お婆さんは、セリエの母親についてなにか知りませんか?」


 ここでセリエの目に少し力が戻る。期待するような目で老婆を見る。


「ベリアさんか。私が知っているのはセリエちゃんたちがいなくなって、何日も泣き、暗い雰囲気をまとっていたこと。半年くらいそのまま働いて、ある日荷物をまとめて南へ向かったことくらいだよ。セリエちゃんたちも南に行ったから、後を追ったんだと思ってる」

「……お母さん」


 ぽつりと嬉しげで悲しげな声を漏らす。


「ほかの人でもっと詳しいことを知っている人っています?」

「たぶんいないと思うね」

「そうですか。ありがとうございました」

「ベリアさんと再会できるといいね」

「俺もそう願っています」


 老婆と別れ、二人は宿に戻る。少ないがヒントを得られたことでセリエの目には完全に力が戻っており、手を引かなくても大丈夫になった。

 部屋に入るとすぐにセリエが口を開く。


「南に行く」

「そう言うのは予想できてた。でもヒントが少ないから寄り道しない?」


 南に行ったというヒントだけでは探す範囲が広すぎる。もっとヒントが欲しく、それに心当たりがあった。


「どこに?」

「ライトルティのソルヴィーナ。そこは占いで有名だって本で読んだ」


 ライトルティ王国はここヘプシミン王国の北にある。人口三百万人の国で、平原の民の国の中では一番小さな国だ。

 ソルヴィーナは裕次郎の言ったように占いで有名な街だ。王の直轄地で、人口は二万人。今いるフィッツーネからは馬車で四十日と少しかかる。

 ソルヴィーナには占い神殿と呼ばれる場所がある。年中客が集まり、彼らが落とすお金が主な収入源となっている。一番高い占いは一回二十万ミレもかかる。しかしそれだけ取るだけあって、必ず探しものや悩みに対するヒントがもらえるため、占いを願う人が絶えることはない。


「いい占い師に占ってもらえば、もっとヒントが増えると思うんだよ。その方がこのまま探しに行くより、早く再会できると思うんだ」

「……」


 セリエは考え込む。今すぐにでも南へと行きたい、寄り道などしたくない。しかし裕次郎の言うようにこのままでは探しようがない。

 寄り道することが母親へ繋がることだと自身を納得させて、頷きを返す。

 では早速出発だと荷物をまとめて、宿を出る。泊まりのはずの二人が急いで出て行く様を見て、宿の主人はなんなんだと首を傾げていた。


「ヴァイン、急で悪いけど出発よ」


 そう言いながらヴァインを撫でて、馬車につないでいく。ヴァインはセリエの手に顔を擦り付けて、大人しく従う。裕次郎は買い込んだ、食糧を詰め込む。

 慌しく出て行くことになった故郷をセリエは一度振り返り、見納めといった感じで心に焼きつけ視線を離す。母親がここにいないなら、もう戻ってくることはないと思った。

 しばらく御者はセリエが担当することになる。裕次郎は寄る村や町で売るための薬作りだ。占いのための資金に薬の代金にあてるのだ。

 いつもよりも多めに治癒促進薬を作り、一つの店だけではなくほかの店でも売っていったため、占いの資金は三十万を超えるだけの額が貯まることになる。

 出発して五日ほどは急いでいたセリエだが、次第に落ち着いていきヘプシミンの国境に着く頃には通常の状態に戻っていた。


「よその大陸から旅をしてきたのなら知っているんでしょうけど。ここから先は国の管理していない土地よ。気をつけていくわよ」

 

 なにを気をつけるのか裕次郎は疑問に思うが、すぐに与えられた知識で納得できた。

 この先のような土地は、兵や傭兵たちが魔物を駆除していないので、遭遇する頻度や強さはこれまで遭遇した魔物より上になる。

 こういった国から国への移動は基本的に団体で行くものだ。金持ちに便乗するか皆でお金を出し合い、傭兵団を雇い守ってもらう。もしくは少人数を囮として逃げ延びる。

 二人がそれを選ばなかったのは、能力上昇薬や回復薬や魔物避けといった薬が豊富にあるからだ。バドオロドクラスの魔物を殺せるどこかの組織のオリジナルな毒も用意し、強い魔物に遭っても平気なように準備している。

 試しに境界から出て二泊ほど野宿し、薬さえ用意できればいけると考えた。こういった判断は落ち着いたおかげだろう。急いだままだったら、そのまま国境を超えていたかもしれない。


「了解」


 短く返事をして、裕次郎が御者を交代しヴァインを出発させる。セリエは周囲の警戒役だ。いまだ察知能力はセリエの方が高いので、無管理地帯を移動する間はセリエと御者を交代することになった。ヴァインも警戒するので、魔物の接近を見逃すことはないだろう。

 人の行き来でできた道があるため迷うといったことない。

 出発して一時間後に、ヴァインが警戒の声を上げた。


「早速きたわね」


 緊張した声音でセリエが剣を抜く。

 見通しがいいため、裕次郎には前方を塞ぐように立つ影がいくつか見える。速度を落として、伏兵の警戒もする。


「豚みたいな顔の人型……オークってやつかな」


 オークは集落を作り簡単な武装をするといった、ある程度の知能を持つ魔物で、強さは一般的な平原の民以上。駆け出し冒険者が三人で、一匹のオークと互角といった強さだ。戦い方は武器を振るうだけで、魔法は一切使わない。

 雑食性で人も食べ、特に肉の柔らかい子供を好む。


「何匹いる?」

「見えるかぎりだと四。伏兵はいそう?」

「少し遠いわね、わからない。先手を打つわ」


 御者台に移動し、大きめの木の器に水を入れ、さらに水の補強薬を混ぜる。そして森の民の魔法を使う。


「貫く水の槍」


 器から水が勢いよく飛び、オークへと飛ぶ。見事命中したのか、一匹が倒れた。

 もう一度いけるかと考えたが、馬車の移動速度とオークたちの歩行速度を予測し、衝突まで間に合うかわからず止めた。

 代わりに力の能力上昇薬を飲み、接近戦に備える。弓魔術を使うことも頭を掠めたが、まだ上手く出来ないため、それも止めた。

 オークと衝突する前に馬車を止めて、二人は下りる。セリエはもう一度伏兵の探査、裕次郎は持ち出した盾を車体に立てかけ、ヴァインを車体から外す。ヴァインには頑丈の上昇薬を飲ませて、自由に戦うよう指示を出す。周囲の警戒を終え、裕次郎は盾を持つ。

 

「伏兵はいない」

「あの三体を倒せば、この戦闘は終わりか」


 近くで見ると身長は百八十近くあり、細めの相撲取りといった様相だ。手には棍棒を持っていて、鎧も服も身につけておらず、性器が丸見えだった。

 見たくないもの見たと二人は顔を歪める。

 そんな二人の反応を気にせず、食欲を刺激されたか涎をたらしながら、突っ込んでくる。

 ちょうど一対一を挑んでくるので、裕次郎たちは迎え撃つ。

 裕次郎に突っ込んできたオークはその勢いのまま棍棒を振り下ろしてくる。大振りでみえみえな攻撃など喰らうはずもなく、避ける。盾を持っているが、受けてみようという冒険心は出さなかった。

 空振った棍棒は、地面に大きな音を立てて叩きつけられた。その音と抉られた地面で、かなりの力があるとわかる。


「そんな単純な攻撃なら当たらないさ」


 もう一度振り下ろされた棍棒を今度は受ける。勢いの落ちた一撃ならば大丈夫だろうと、盾を両手で持ち受け流すように斜めに構えた。

 そのまま棍棒は盾にそって滑っていく。盾を通じて伝わった衝撃は、十分受けることが可能な重さだった。


「隙ありだ!」


 再度棍棒が地面に叩きつけられ、あいた横腹にミドルキックを叩き込む。

 オークは悲鳴を上げたが、ビッグアントのように一撃で死ぬようなことはなかった。

 しかしそのまま耐えることはできず、横倒しになりさらに隙をさらす。そこへ勢いをつけた蹴りをもう一度腹に叩き込む。ぶよっとした感触の中に、なにか折れた感触もあり、転がっていったオークは血を口や鼻から出し動かなくなった。


「こっちは終わりっと」


 セリエとヴァインはどうなったかと見ると、セリエはオークの喉に剣を突き刺すところで、ヴァインはヒットアンドアウェイを繰り返しオークを血に染めていた。

 セリエは最初の一振りに魔術を使い、棍棒ごとオークの胸板を斬っていた。そうして流れを掴み、隙を見て喉を突いた。

 ヴァインは見たとおり、無理はしないという方針か、安全に勝ちを拾っている。

 皆怪我なく勝ち、再び馬車を走らせる。残されたオークの死体は、他の魔物の餌となった。

 その後は通り道に魔物が少なかったか、戦闘は二回と思ったよりも戦わずにすんだ。道ではなく平原や荒地に魔物がいて、通行の邪魔にならず無視できたことも運が良かった。


「そろそろ止まって野宿の準備をしましょ」


 馬車の中から声をかけられ、裕次郎はわかったと返事を返し、道の端に馬車を寄せる。

 セリエは馬車から離れすぎないように、枯れ草などを拾い、裕次郎は魔物避けを周囲に撒いていく。いつもよりも警戒心の高い野営準備となる。

 セリエが料理を始めると、裕次郎はヴァインに疲労回復薬を飲ませたり、ブラッシングしたりと世話していく。

 その後は体を拭いたり、薬の材料を集めたりといつもと同じように過ごす。

 見張り時に魔物の気配が感じられたが、魔物避けを無視できるようなものではなかったようで、遠くから見るだけだった。

 進む過程は初日と変わらず、進む、魔物と戦う、休憩と繰り返していく。食料節約のため、見かけた野生の動物も狩っていく。

 晴れの日、曇りの日、雨の日と天候は様々で、風景も様々だった。平原や荒地はヘプシミン王国を旅して見慣れているが、古い石橋やいつ滅んだのかわからない砦跡や町跡といったものも見ることができた。

 砦跡にはテントがいくつかあり、人影もあった。冒険者が宝を求めて探索しているのだ。

 そんなふうに十六日ほど進み、ライトルティ王国領まであと四日といった距離まできた時、裕次郎は前方に人影を見つけた。


「魔物?」

「わからない」


 御者台まで来て、セリエも目を凝らしてみるがよく見えない。ヴァインが強く警戒していないところを見ると、魔物だとしても強くはないのだろうと思う。

 さらに進むと三人の平原の民だった。年齢差から恐らく親子なのだろうと思われた。

 裕次郎たちに気づくと、男が立ち上がり、両手を動かして止めようとする。


「乗せろって言われそうだね」

「そうね。こんなところで盗賊ってわけでもないでしょうし」


 無管理地帯に拠点を置く盗賊もいるが、盗みのほかに魔物の襲撃にも対応しないといけないので、そう多くはない。


「乗せた方がいいのかな?」

「傲慢だったら乗せなくてもいいんじゃない?」

「そうしよっか」


 セリエの言葉に賛成し、馬車の速度を落とす。


「そんな少人数でどうしたんですか?」


 人の少なさは男たちのことを言えないが、それは横に置いて聞く。


「この先で魔物が暴れているんだ。戦えないのならここで待っていた方がいい」

「あなたたちは避難してきたんですか?」

「ああ、どうにかな」


 商隊を守っていた傭兵に逃がしてもらったのだ。戦力が惜しいので、魔物避けを持たせて素人三人で避難させられたが。


「魔物ってどんなやつです?」

「大きな人型の魔物が二体だ」

「色とか特徴ってありました?」

「褐色に裸体、これといって特徴はなかったな」

「オークとかの魔物っぽい特徴もなかった?」

「ああ、野生児といった人間を大きくしたような感じだ」


 裕次郎とセリエはジャイアントだろうと推測する。人がそのまま五メートルを超えるまで大きくなったような魔物で、食欲のまま暴れる。暴れているものは知性がないと言っていい。知性のあるジャイアントは、森など食物が豊富な場所を陣取り生活している。

 巨体ゆえに力や体力はあるが、弱点は人と同じで、準備を整えていれば倒しやすい魔物ともいえる。


「ジャイアントなら毒が効くし、このまま進もうと思うけど」


 どう思うと視線をセリエに向ける。セリエは賛成だと頷き、毒を木箱から取り出す。


「そういうわけだから、俺たちは行くよ」

「本音をいえば残ってほしいんですが、先を急ぐなら仕方ありませんよね」


 余っている魔物避けを一個渡し、裕次郎はヴァインに合図を送ろうとする。しかしその前にヴァインが左を見て、唸りだした。そんなヴァインの様子に、男たちは表情を硬くする。魔物が近くにいると男たちにもわかったのだろう。ヴァインが見ている方向には背の高い草むらがあり、なにかがいるのはわかるが、姿は見えない。


「さすがに見捨ててはいけそうにないなぁ。セリエ」

「わかってる」


 毒を置いて、馬車を下りる。裕次郎も御者台から下りて、ヴァインを自由にする。

 速さと力の能力上昇薬を持ち、出てきた魔物の種類でどちらを飲むか決めるつもりだ。

 出てきたのはゴリラサイズのアルマジロだった。背中だけではなく、手足や胸も鱗に覆われている。爪はごついものが揃っている。殺気を裕次郎たちに向け、散歩といった様子ではない。


「ユージロー、私近接は無理」

「わかったよ。力の方頂戴」


 防御力の高そうな魔物に、セリエは攻撃を諦めて薬を投げて渡し、速さの方はポケットにしまう。代わりに火の魔法で目晦ましに徹することにした。

 裕次郎は薬をいっき飲みして、口を開く。

 

「魔術で一発蹴るよ」

「魔法で気を引く」


 動きを伝え合って、戦い始める。

 裕次郎が魔力を回し始め、セリエが威力の低い火の矢を飛ばす。

 顔面に火を受けて、アルマジロはセリエへと向かい走り出す。そこの割り込むように裕次郎が動き、アルマジロが動きを止めた時、顔へ向けて蹴るという意思を込めて蹴りを放つ。

 当たった蹴りは、アルマジロの顔をあっさりと砕いた。


「お、成功した」


 意思と魔力の流れとタイミングが一致したのがわかり、格闘魔術『砕脚』が成功したことがわかった。

 

「甲羅剥がす?」

「すぐに終わるなら、剥がしてもいいと思うよ」

「薬飲んでるし、ちょっとやってみる」


 裕次郎は倒れこんだアルマジロの甲羅を力任せに剥ぎにかかり、セリエはヴァインを馬車に繋ぐ。

 セリエに男が近づく。


「助けていただきありがとうございます」

「礼なら裕次郎に言って」


 男の方を見ずに、ヴァインを繋ぐ作業を続ける。そんなセリエの態度を気にせず続ける。


「私たちを護衛してもらえませんか?」


 ジャイアントに攻撃を受けて、護衛が減っているのだ。戦力を補充できるならしておきたかった。


「私は嫌。裕次郎はなんて言うかわからない」

「彼が良いといえば、受けてもらえますか?」

「とりあえず、聞いてみて」


 そう言い繋ぎ終わったセリエは馬車の中に入る。

 なにか不機嫌にさせたかと首を傾げつつ、男は裕次郎に近づく。裕次郎は剥ぐことに成功していた。今は手と甲羅についた血を水で洗っている。


「すみません」

「はい?」

「先ほどの戦闘はすごかったですね。この先守ってもらえるなら安心なんですが、護衛をしてもらえませんか?」

「んー……あまり気が乗りません。とりあえずジャイアントと戦っている人たちのところまでなら連れて行ってもいいですけど」


 人が一緒だとセリエの気が休まらないだろうと渋る様子を見せる。


「そこをなんとか」

「それなりに急ぎのペースで計算して食料とか薬とか積んでいるんで、人が増えてペースが落ちるのは困るんですよ」


 食料や薬は一月分以上を積んで出発していた。国境から国境までなら余裕がある。町から町へを計算して用意していたのだが、断るために曖昧に手持ちを教えた。


「ライトルティの国境まであと五日ほどです、食料とかは節約すれば問題ないと思うんです」

「こちらには節約する意味がないし……そうですね、ジャイアントに護衛が全滅させられていたら引き受けますよ」


 これは期待できないと思いつつ、男は頷く。

 男たちを馬車に乗せるといっきに狭くなる。当然だ、四人乗りなど想定していない。それに食料などがスペースをとり、ただでさえ狭いのだ。

 セリエは御者台に移動し、裕次郎が車体に入る。

 人嫌いの気があると簡単に説明すると、男たちはセリエの態度に納得した。

 馬車は十分以上進み、セリエは前方に物陰を見つけた。馬車が三台あり、うち二台は半壊していて、荷物が散乱している。ジャイアントは二体とも倒れており、傭兵たちが倒せたのだとわかる。死体は魔物のものだけではなく、人間のものや馬車を引いていたのであろうグランオクスのものある。倒れているのは十人以上だ。傭兵だけではなく、巻き込まれた商隊の人間も死んでいる。

 セリエたちが近づくと、生き残った四人がのろのろと立ち上がる。どの顔も疲れきっている。これはジャイアントとの戦いだけではなく、ヘプシミンからライトルティまでの旅で生まれた疲労もある。裕次郎たちのように、毎日疲労回復薬を飲めるような贅沢はできず疲労を蓄積していき、警戒心が落ちたところに強襲を受けた。正常な状態ならば、ここまで被害が大きくなることはなかっただろう。


「生き残ってたよ。良かったね」

「良かったとはいえない気がするんですが」


 護衛が死んだことや被害が大きくなったことに男は溜息を吐いた。


「エンダールさん、無事だったのか。良かった」

「そちらも生き残りがいてくれて良かったよ」


 馬車から下りた、エンダールは雇っていた護衛のリーダーと疲れた笑みを交わし合う。


「そいつらは?」

「拾ってもらい、魔物も倒してもらいました」

「襲われたか。その可能性もあるとはわかっていたが、ここに置いておくよりはと思ったんだ」

「わかってますよ。ここにいたらなんの役にも立たず、巻き添えで死んでいたでしょうし」


 判断は間違っていないとエンダールはリーダーに返す。

 そこに裕次郎が声をかける。


「じゃあ、俺たちは行きますよ」

「ん、ああここまで連れてきてくれてありがとう」

「護衛として雇えなかったのか? 俺たちとしては一緒に行ってもらえれば助かるんだが」

「ええ、断られてしまいました」


 聞こえてくる会話を聞き流し、裕次郎はヴァインに合図を送る。しかしヴァインは前方を見たまま動こうとしない。


「ヴァイン?」


 また敵かと前方を見ると、一キロほど先に細長い何かがいるのが見えた。

 動いていることから生き物だとわかる。蛇のようでいてどこか違う。


「なんだあれ?」

「どうした?」


 前方を見たまま訝しげな表情となった裕次郎に、リーダーが声をかける。

 裕次郎は答えずに、前方を指差す。

 それにつられて、リーダーとエンダールは前方を見る。二人にはかろうじてなにかがいるのが見えた。


「また巨体種か? なんだって今日はあんなのばかり」

「アイザスさん、あれがなにかわかります?」


 エンダールの問いに傭兵のリーダーアイザスは難しげな表情となる。


「もう少し特徴が知りたいな。センテーク!」


 散らばっていた荷物をエンダールの妻と一緒に集めていた女傭兵を呼ぶ。裕次郎より二才ほど年上で、戦闘の汚れがついたままだ。作業の手を止めて、アイザスへと近寄ってくる。


「この先に大型のなにかいる。魔法で見てみてくれ」

「また大型ですか!?」


 心底嫌そうな表情を浮かべた。それに気持ちはわかるがさっさとやれとアイザスは指示を出し、渋々と遠見の魔法を使う。


「蛇? いや違うかな。口先が尖ってて、牙が生えてて、鱗はなし。目も蛇とは違う。表皮は黄土色に黒の斑点、口は人間を簡単に一飲みにできそうです」

「……アスモライか!」


 センテークの情報でおおよその当たりをつけたアイザスは、風向きを確かめ焦り始める。


「ここから離れるぞ!」

「どうしたんですか!?」


 エンダールの疑問に、無事なグランオクスに駆け寄りつつアイザスは答えていく。

 アスモライは土の中を泳ぐウツボの魔物だ。顔幅は三メートルほどで、全長は四十メートルを超える。血の臭いに敏感で、風向きしだいでは一キロ先の血の臭いを嗅ぎ取ることができる。肉食で動物以外に人や魔物も餌とする。移動速度は馬をやや上回る。


「ここでの戦闘に気づいて、こっちに来ているんだ! 風向きは運が悪いことにアスモライへと吹いてるから、気づけたんだろう。お前たちも一度引き返した方がいいぞ!」


 裕次郎が殺したアルマジロならば気づかれはしないだろうが、ジャイアントや傭兵が大量に流した血の臭いにはさすがに気づく。


「そうするよ」


 裕次郎に声をかけてきたアイザスに頷きを返す。さすがにあれに突っ込んでいこうとは思わなかった。

 ヴァインに声をかけて、Uターンし馬車を走らせる。背後では少しでも荷物を積み込みたいと言っているエンダールに、アイザスがそんな暇はないと怒鳴っていた。

 

「セリエ、あれって食事終えたらすぐにどっか行くと思う?」

「さあ、アスモライという魔物のこと知らないし。しばらくここらで滞在することになるかしら」

「食料は一月分用意したから、多少の滞在は平気なんだろうけど。戦いになったらどうしようもないよね」


 近づいて蹴るなんてことはしたくなかった。肉は抉れるかもしれないが、その痛みで暴れられて、圧殺されでもしたら目も当てられない。


「ちまちまと攻撃しても意味ないでしょうね」

「……毒殺かな」

「効く毒に心当たりある?」

「ちょっと強力な毒を盛ればさすがに動きが鈍るなりすると思うんだけど、その間に突っ切れば追いかけてこれないんじゃないかって思う。問題はあの巨体を鈍らせる毒の量を準備して、体内に入れることだと思うんだ」

「舌打ちトカゲみたいに一度の攻撃で鈍らせることは無理か」


 セリエの腕では、普通に矢を射ってもアスモライの表皮を貫けるかわからない。弓魔術ならば可能だろうが、剣魔術に比べて修練が足りず発動成功率が低いのだ。


「戦うことになるとはかぎらないんだけどね」

「それでも一応考えておきましょう」


 移動しながら考え、セリエが弓魔術を駄目元で使い、裕次郎は力の能力上昇薬を飲んで、毒に浸した石を投げつけるという案に落ち着いた。

 話しながら三十分ほど逆走した裕次郎たちは馬車を止めて、振り返る。さすがにアスモライの姿は見えなかった。


「毒の材料集めるよ」

「私は周囲の警戒してるわ」


 セリエはヴァインを馬車から放し、一緒に周囲の警戒を始める。

 

「毒、毒。そんなに多くないな、体に悪そうなものを入れて強化できるか?」


 改良する前の石鹸など飲ませてみようかと思いつつ探し続け、十五分ほど経つとエンダールたちが合流する。

 エンダールたちもここで待機することにしたようで、馬車を止める。裕次郎たちの馬車よりも大きいが、六人で乗っていると窮屈だったようで、げんなりとした表情で馬車を下りてくる。

 道の端にしゃがみこんでいる裕次郎に気づいたアイザスが近寄る。


「なにしているんだ?」

「毒になる材料を集めているんだ。あれと戦うことになった時のために」

「薬師なのか? 生半可な毒はきかんだろ」

「だから強い毒を多く作ろうと思ってる。場所が悪いのか材料が集まらないんだけどね」


 道から外れて探しに行ってみるかなと呟き、立ち上がる。


「アスモライだっけ、あれの弱点とか知らない? というか食べ終わってもあそこに滞在するのかな、あれって」

「弱点なぁ……知らないな。普通は倒そうとか思わず、どこか行くのを待つって感じだしな。倒すのは町とかに近づいてきた時のみだ。滞在はするかもしれん。餌を食べた場所を中心に、新たな餌を探すとか聞いたことがある」

「探す範囲って広範囲?」

「詳しいことはわからないが、今回のことを考えると狭くはないと思うぞ」

「迂回も難しいと思う?」

「迂回か、そっちの馬車はしらんが、こっちのはあまり荒れた場所を行けるようにはできていないんだ。それに道から外れるとさらに魔物と遭遇しやすくなる」


 期間のわからない滞在は避けたかった。かといって自分たちだけで迂回するのも、少々気まずいものがある。


「やっぱり毒探しかなー」


 材料が見つからなければ、滞在で様子見の方向として集めた材料を持って馬車に移動し、セリエに聞いたことを伝えていく。

 セリエに異論はなかったようで、毒探しに出発することにした。


「そういうわけで、さらに逆走してくる」

「馬車ごと行くのか?」

「食料とか置いてるし、そりゃ持っていくよ。帰ってきたら食べられて空っぽとか嫌だし」

「しないとは言いきれないな。ジャイアントのせいで大分荷物減ったからなぁ」

「まあ、水と疲労回復薬くらいはあげるよ」


 空っぽの瓶に魔法で水を入れ、薬を四つ渡す。疲れていたアイザスは嬉しそうに薬を受け取る。


「これだけでもずいぶん助かる。どれくらいで戻ってくるつもりだ?」

「長くても三日。その間にアスモライがどこか行けばいいんだけどね」

「そうだな」


 そう願うよとアイザスは頷く。

 見送られて、裕次郎たちは来た道を戻る。周囲の草などを確認しながらなので速度は遅めだ。とりあえず一日進み、草の分布が変化を見せたが、強力な毒の材料はみつからない。草の数は減り、荒地のような風景となっている。


「わき道にそれてみる?」

「そうしてみましょ」


 振り返り聞く裕次郎に。セリエは頷く。

 ヴァインに道から外れてもらう。多少揺れだした程度で、進みにくさはなかった。

 二時間ほど進むと、ぽつんぽつんとサボテンのような植物が現れだした。これは毒ではないが、水の補強薬のいい材料となるので、回収していく。

 セリエに切り倒してもらい、棘は裕次郎がブーツで払っていく。魔法で水分を飛ばすと、ぺしゃんこになり、、それを何個かに切って馬車に入れる。

 セリエが背を曲げて、切り分けたサボテンもどきを拾っている。お尻を突き出している形となっており、それを裕次郎がいい形と見ているとセリエが声をかける。

 

「ユージロー」

「なに?」


 ばれたかと思いつつ、平静を装い返事を返す。


「サソリがいるんだけど、これって毒の材料になるんじゃ?」

「どこ?」


 安堵の溜息を吐いて、セリエに近寄り、指差してもらう。

 土の上をちょこちょこと歩いている赤茶色のサソリがいた。毒持ちのようで、たしかに材料になると知識が示していた。毒の種類はダメージタイプではなく、動きを止める麻痺タイプだが、強力な麻痺薬となる。

 それを伝えながら踏み潰し、回収する。


「ほかにもいないか探してみよう。たくさん集まればなんとかなりそうだ」

「わかった」


 刺されないようにヴァインを馬車から放して、二人はサソリを探し始める。

 日が頂点から大分移動し、二人は十六匹のサソリを見つけ、これくらいでいいだろうとエンダールたちのところに戻る。

 三日目の午前十時頃に、合流する。戻ってきた二人を見て、傭兵たちはほっとした顔と雰囲気を漂わせている。

 傭兵たちの顔色はよくなかった。魔物の襲撃があったからだ。滞在すれば魔物はそこに獲物がいるとすぐに察する。魔物避けを使っても近寄ってくる魔物はいるので、きちんとした休憩を取りづらかったのだ。


「毒はどうだった?」

「強い麻痺毒は手に入ったよ。アスモライの方はどんな様子か見てみた?」

「二人を偵察にやって遠見の魔法で確認したが、まだ滞在しているな」

「毒はできてるから試してみる?」


 できたものは、サソリの毒に採取した毒、おまけに無管理地帯に入る前に作っておいた毒も混ぜ、さらに相手に不利な効果を表す魔法薬の材料も混ぜた特製品だ。混ぜすぎて解毒薬などないため取り扱い注意となっている。

 調子にのったためどんな効果の毒か裕次郎にもわからなくなったが、実験で道行く魔物に使ってみて痙攣して倒れこみ触っても反応しなかったため、毒には違いないと反省の色は薄かった。

 それに拾った石と鏃を漬け込んでいる。


「滞在するのも体力的に厳しいから、試してみたいな」


 その前に疲労を回復した方がいいだろうと、薬を作り始める。

 ここらへんには疲労回復薬の材料が揃っており、いくらでも作ることができるのだ。

 薬ができあがるまで、弓使いなセンテークの矢も毒に漬け込み、準備を整える。

 三時間で準備は整い、裕次郎たちの馬車にセンテークを乗せて、アスモライのいる場所へ出発する。

 センテークのナビで、ある程度近づき、三人は力の能力上昇薬を飲んでから馬車を下りる。毒の入ったバケツから石を取り出し地面に置く。

 裕次郎は念のため手袋を二重に嵌めている。撥水姓は高くないので、毒に触れることにはなるが、直接触れるよりはましだろう。

 アスモライが地中を移動中なため、地面が少し揺れている。それが徐々に大きくなって近づいていることがわかる。少しして三百メートル先の土が盛り上がったため、裕次郎とセリエにもアスモライがどこにいるかわかる。その進行方向が自分たちとはずれていた。


「こっちに気づいてない?」

「リーダーが言うには血の臭いに鋭いらしいけど」

「石投げて気づかせるか、地面から出てもらわないと毒を叩き込むどころじゃないし」

「投げたくらいで気づく?」


 センテークは首を傾げたが、セリエは力の強さを知っているため出てきたらすぐに撃てるように構えて魔力を回し始める。

 裕次郎は盛り上がった土の方向へ、落ちていた硬球よりも少し小さな石を力一杯投げる。勢いよくまっすぐ飛んでいった石は盛り上がりの近くに着弾し、地面を盛大に抉った。


「なによ、あの威力」


 センテークが呆然とした様子で言っている間に、アスモライは振動に気づき土を撒き散らして、二十メートルほど先の地面から顔を出す。胴体は十メートルも地面から出ていない。

 濁っているが威圧感を感じさせる目、人間一人どころか三人くらいは一噛みできそうな口、電柱を何十本束ねたらその太さになるのかという胴回り。

 巨体種に相応しい威容のアスモライが周囲を確認するように、首を動かしている。


「でけえ」


 圧倒されたように裕次郎がポツリと漏らす。陸上でここまでの巨体生物を見たのは初めてで思わず呆けた。

 アスモライへと、セリエが攻撃を仕掛ける。一拍遅れて裕次郎も投げ始め、センテークが慌てて矢を番え放つ。狙うは顔ではなく胴だ。顔は特に頑丈だとアイザスに聞いていた。

 アスモライにとって矢は小さな棘が刺さったようなものでしかないのだろうか、悲鳴を上げずに身じろぎだけしている。攻撃としては裕次郎の方が痛いのだろう、視線が裕次郎へと向けられる。

 セリエが使える弓魔術は六回。そのうち、四回が発動に失敗し、皮膚に弾かれた。センテークは弓魔術は三回のみ使用可能で、遠見の魔法で魔力を消費しているため放てたのは二回のみだった。裕次郎の投石はすべてが皮膚を突き破っていく。バドオドロの時とは違い、突き抜けることはしなかった。

 アスモライは顔を大きくそらす。それが攻撃の前動作とわかり裕次郎はセリエに声をかける。


「二人は馬車に乗って離れて! 早く!」

「ユージローは!?」


 セリエが心配そうに聞く。


「速さの能力上昇薬飲んで逃げ回る。石もまだ余ってるし、囮にはちょうどいい」

「大丈夫なの!? 一撃でも喰らったら、どれだけ頑丈でもさすがにっ」

「無駄に体力あるの知ってるだろ、逃げ回ることくらいできる! だからさっさと行った!」


 促され攻撃を終えた二人は馬車に乗り、離れていく。

 限界までそらされた頭が振り下ろされる。裕次郎は石を持てるだけ持ってその場から素早く離れる。

 三人がいた場所に顎が叩きつけられた。その影響で小さく地面が揺れる。


「さすがに喰らったらやばいなあれ」


 セリエの言うとおりだと、連続して行われる叩きつけを、アスモライを中心にして回るように避ける。

 背中に回るとさすがに叩きつけはできないようで、そこで裕次郎はさらに石を投げていく。

 アスモライは体をうねらせ、方向を変える。

 また叩きつけかと思ったが、今度は顔から地面につっこんでいき地面に潜っていく。


「これは真下からの攻撃か?」


 RPG知識から予測してみる。だとするとその場にじっとするのはまずく、急いで離れる。

 その十秒後、土石を巻き上げて、アスモライが顔を出し、再び裕次郎へと顔から突っ込んでいく。

 もう一度避けて、攻撃の間に少しだけ余裕があるとわかった裕次郎は、地面に出ている胴体へと一度石を投げては移動しと繰り返していった。

 攻撃間隔は潜るたびに短くなった。一度掘った穴から顔を出すこともあるからだ。裕次郎は徐々に攻撃する暇がなくなり、どうにかして隙を見つけて石を投げていく。

 そうして手持ちの石がなくなり、後は二十分以上避け続ける。周囲は穴だらけで、大雨でも降れば小さな池が点在することだろう。

 避け続けるだけなら、余裕を持つことができる。常の全速力というわけでもないので、体力的にも余裕がある。

 穴から顔を出したアスモライが、天を見るように真っ直ぐに固まる。その後、力が抜けたようにずずんっと横倒しになった。


「終わった?」


 ようやくかとうっすら出ていた汗を手の甲で拭い、慎重にアスモライの顔に近づく。

 目は閉じられているが、呼吸のため体はゆっくり上下している。

 油断させるための罠かと思ったが、触ってみても反応はない。


「とどめさそうか、どうしようか。下手に攻撃するとまた起きるかもしれないし」


 そこに戦いが終わったことを知った、セリエたちが近づいてくる。


「お疲れ様」

「あ、セリエ。毒が回ったみたいなんだけどさ、とどめってさした方がいいと思う?」

「刺激与えたら起きるなら触らないほうがいいと思うけど」


 もう一度暴れられても困ると首を横に振る。


「センテークさんは?」

「私も刺激したくないわ」

「じゃあ、放置ってことで」


 それでいいと二人は頷いて、エンダールたちを呼びに行く。裕次郎は残っていた毒をアスモライの口に注ぎ、その後は開いた穴に入って地中の材料を集めるため残ることにした。

 斜めに開いている穴に入り、鉱石を籠に入れていく。質のよい地晶などが採れて、ほかの鉱石もいくらか見つかっている。戦いの報酬としては十分だ。

 馬車が来た時も少しだけ待ってもらい、籠二つ分の材料を回収した。その間もアスモライは寝ている状態で、起きることなかった。


「昏睡状態になる毒になったんかなー」

「作った本人がわからないのか?」


 アイザスの言葉に頷く。


「麻痺毒のほかにもいろいろと入れたから、レシピにはない毒になってたんだよ」

「それをたっぷり喰らって二十分以上暴れていたんだから、巨体種ってのはやはり厄介だな」

「だねぇ。このままほっといたら、ほかの魔物の餌にでもなるかな?」

「さすがに食いつかれたら起きるだろうが。そろそろ出発しようぜ」

「あいよ」


 二人は馬車に乗り、国境へと向かう。

 ペースの違いで、二台の馬車は差が開いていく。一緒に行く約束はしていないので、両者とも気にせずそれぞれのペースで進んでいった。

 彼らが去った一日後には、アスモライは魔物たちの餌となっていた。

 アイザスの予想ははずれ、喰われてもアスモライは起きることはなかった。あの毒は植物状態にする毒となっていたのかもしれない。

 アスモライを食べた魔物も動きが鈍り、ほかの魔物の餌となる。そうして毒は薄まりながらそこら一帯に広がっていき、やがて毒に耐性を得た亜種がいくつか生まれることになる。

 生態系に少し影響を与える毒を作り出した、そのことに裕次郎はこの先もずっと気づくことはない。

感想ありがとうございます


》昔って外科的な治療はそんなに出来なかっただろうし~

体を切り開いての治療とか、初めてやった人はすごいですよね


》今回も面白い人と良い出会いをしたようで、再会するのがたのしみです

再会は当分先の予定です


》あれ、ツアさんがすごいかわいい

その感想は予想外

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