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10 石も立派な武器です

 馬車が出発し、一行は半日馬車に揺られて明け方に湖近くまで来る。眠っていた裕次郎たちは、眠りが浅いこともあって、遠くから聞こえてくる唸り声のようなもので起きる。

 これは夜明けを感じ取ったバドオドロたちの鳴き声だ。ケロケロといった聞き覚えのあるものではなく、低くボーボーといった声だ。

 起きて十分後に馬車は止まる。

 馬車はここまでで、傭兵たちはここで休憩した後、徒歩で湖に近づくことになっている。

 そのまま馬車の中で二度寝する者、下りて二度寝する者、起き続ける者とわかれる。

 裕次郎は起きる組だ。少し眠気はあるが、体力的には十分すぎるほど余裕がある。

 そこらを歩き回り、材料を集めて時間を潰していると、朝日が湖に反射して煌く様が見えた。バドオドロたちの姿もはっきり見える。遠近感を考えなければ、大きめの水溜りにアマガエルが入っているようにも見える。


「カエルの姿をどければ、なかなか綺麗だな。セリエに見せたらロマンチックな雰囲気になるかも。ん?」


 ロマンチックな光景の後を想像しようとして、裕次郎は湖の向こうにある藪に動くものを見つけた。


「バドオドロ、ではないよな」


 カエルたちは水面に浮いたり、浅瀬でたたずんでいる。遠すぎて詳細はわからないが、人間サイズにも見えた。

 誰かいるのかと、少しだけ湖に近づく。距離三百メートルといったところで、人影は藪の向こうに消える。


「人間なんかな」


 見張りでもいるのかと、朝食の準備をしている職員に話しかけ聞く。


「見張りですか? いましたけど、もうこっちに合流してますよ。今は見張っていた時のバドオドロの動きを報告してます」

「藪の向こうに人影を見たような気がしたんですが」

「……薬草を集めている人がいるんでしょうか? ここらに近づくことは禁止したと聞いたのですが」

「見てきたほうがいいですかね?」

「そうしてもらえると助かります。ですが戦う前に無理はしないでくださいね」


 裕次郎は頷き、カエルたちをこれ以上刺激しないよう遠回りに藪に走っていく。

 十分と少しで人影を見た場所に着く。


「誰もいないか。でも誰かいたってのは間違いない」


 その場には裕次郎のほかに草を踏んだ跡がある。その足跡が薬草摘みなのか、好奇心につられて様子を見にきた馬鹿なのかはわからない。

 耳を澄まし、周囲を注意深く見渡し、誰もいなさそうだと裕次郎はキャンプ地に戻る。

 誰もいなかったことを報告し、集めた材料の加工をしながら朝食ができあがるのを待つ。

 全員が食べ終わり、行動の再確認をした後、皆動き出す。

 協力魔法組は湖から二百メートル離れた場所で準備を始め、誘導組は湖に近づいていく。裕次郎も誘導組と一緒だ。


「お前さんは留まって準備しないでいいのか?」

「大丈夫。準備は昨日の内にしておいたから、あとはバドオドロに魔法を使うだけ」

「そうか」


 戦う格好ではないので、魔法を使えば退くのだろうと予想し、バドオドロへと視線を向ける。

 距離三十メートルまで近づくと、バドオドロたちは一斉に鳴き、警戒し始める。誘導組はさらに十メートル近づき、止まる。

 弓を持っていた三人が矢を番え、手に魔力を集中し、矢に魔力を勢いよく流し込んだ瞬間弦を離す。


『ストライクショット!』


 威力上昇の弓魔術を放つ。三本の矢は勢いよく流れ込んだ魔力に押され、吸い込まれるようにバドオドロの胴体に命中した。しばらく皮膚を凹まし続け、刺さる。反動に矢が刺さったまま皮膚が揺れる。悲鳴を上げることがなかったところを見ると、たいしたダメージにはなっていないのだろう。けれど目的である気を引くことはできたようで、のそりと傭兵たちに向かって動き出す。

 弓使いたちはもう一度、矢を飛ばし、残り二匹の気を引くことに成功した。


「ゆっくりと退くぞ!」

『おうっ』


 バドオドロに武器を向け傭兵たちはゆっくりと後退していく。バドオドロたちは舌を伸ばしたり、水を飛ばしたりと、聞いた通りの攻撃をしてくる。

 傭兵たちは避けたり、大盾で受けたりしつつ下がり続ける。

 

「いまいち使うタイミングがわかんないなぁ」


 誘導組についていった裕次郎は、今魔法を使えば注意が誘導組からそれそうだと考え、地面に落ちている石を拾って投げ、注意を引くことに協力する。強めに投げた石は鈍い音を立てて、皮膚を凹ませた後に地面に落ちた。

 魔法を使うタイミングは協力魔法が使われた後か、五匹のうちどれかが誘導から外れたらと決めた。

 そう思っていると、一匹が湖に戻るそぶりを見せる。


「あれは俺が魔法使ってくるよ」

「任せた!」


 裕次郎は一人離れて、止まったバドオドロに接近するため、四匹のバドオドロを大きく迂回する。

 走りながら背負っている籠から、袋詰めした塩を四袋取り出す。作った属性塩の半分だ。体の大きさからこれくらいは必要かもしれないと判断した。

 竜巻の魔法を準備し、口を縛っていた紐を緩めて塩を投げつける。


「取り囲む縛り風っ!」


 塩を含んだ白い竜巻がバドオドロを取り囲み、風が皮膚を擦っていく。

 三十秒ほど続いた竜巻に、バドオドロはもがくものの動くことはできず、その場に釘付けにされた。

 その三十秒の間に裕次郎は少しでも攻撃力を上げるため、力の上昇薬を飲む。


「さてと効果はでたかな」


 足下にあったテニスボールほどの石を今度は思いっきり投げつけた。

 矢を越える速度で飛んだ石は、狙いをそれてはるか遠くへと飛んでいった


「あれ? もう一回」


 恥ずかしさから少し顔を赤くして、石を同じ強さで投げる。今度は命中した。

 対策が効果を発揮すれば、皮膚を破るくらいはするかなと思っていたが、実際にはあっさりと胴体を突き抜けていった。バドオドロの悲鳴が上がる。

 体を突きぬけ勢いを落とした石は湖に落ち、大きな水しぶきを上げる。


「……これは効果が出たってことでいいのかな?」


 その判断で間違いはない。この効果ありすぎの結果は強化された筋力で思いっきり投げたから起きたことだ。

 ぶっちゃけるなら、強化した時点で塩揉みしないでも皮膚を破ることは可能だった。

 このまま石を投げてれば倒せそうだと判断し、裕次郎は五回全力で石を投げる。それでバドオドロは動きを止めてその場に倒れた。


「倒したかな?」


 近づいて腹を蹴っても反応しないので、倒したと判断し四匹のバドオドロを見る。

 氷付けになったものが二匹、片足と下腹部を凍らされて動けないものが一匹、動くには問題ないが背中を凍らされてそこを集中攻撃されているものが一匹いた。


「石投げで加勢しようか」


 五つほど大きめの石を拾って傭兵たちに駆け寄る。


「あっちは片付けてきましたよ!」

「鳴き声が聞こえてきていたが、やったんだな! こっちはもう少しかかりそうだ」

「加勢します」


 そう言うと裕次郎は背中が凍ったバドオドロの顔辺りを狙って石を投げる。胴辺りだと万が一突き抜けた時、傭兵に被害がいくからだ。

 石でどうにかなるかと思っていた傭兵は、顔に当たり頬をこそぎ取った投石に驚きの声を上げた。


「すげえじゃねえか! この調子でどんどん投げてくれ」


 頷きを返し、どんどん投げていく。外れるものもあったが、数を投げればそれなりに当たり、バドオドロの顔は血まみれになっていく。

 注意が裕次郎に向いたおかげで、背中から攻撃しやすくなり、すぐにバドオドロは倒れることになる。

 五匹のバドオドロ討伐を確認し、傷だらけの傭兵たちは喝采を上げる。ちなみに衣服のみだった裕次郎は無傷だ。


「皆さん、お疲れ様です! 討伐確認しました! 怪我された方は馬車へ、治療します。元気な方は解体採取の手伝いをしてください」


 傭兵たちは返事を返し、動き出す。

 紹介屋が用意した魔法道具のハサミで皮膚をざくざくと切り裂いて、体内から水玉と呼ばれるゴムボールのような塊を取り出す。

 水玉はバドオドロのような水棲巨体種なら大抵は持っている。ほかに火玉や地玉といったものもあり、これらは魔法薬の材料や魔法道具の材料になる。質のいいものは一つ三十万ミレで売買できる。

 今回取れたのは四つで、一つ六万の値がつく。この分傭兵たちの報酬に色がつく。一人一万の報酬上乗せ確定だ。

 ほかに取れたものは、心臓や肝臓といった薬に使える臓器だが、使用する予定がないので裕次郎は買い取ることはしなかった。

 体液や血で臭くなった体を水を浴びて洗う。完全には臭いは落ちなかったが、あのままでいるよりはましだった。

 採取と休憩でその場に午後三時まで留まり、一行は帰っていく。


 誰もいなくなった一時間後、小型バドオドロの小さな鳴き声が響く湖に近づく者たちがいる。

 

「ようやく潜れるか。急がないと期日に間に合わないぞ」

「トカゲを増やして注意をあっちにひきつけたうえで、こっちの採取をしようと思っていたのに、不注意でバドオドロを暴れさせることになるとは」

「すみません」


 四人いる男のうち一番年下の男が頭を下げる。


「まあまあ文句をつけるのは後だ。急いで潜るぞ」

「わかったよ。フェンゼ、報酬は減ると思ってろよ」

「そんな!? 仕送りが!」

「自業自得だ。次からはミスなんてしないように気をつけるこった」


 男たちは話しながらその場で服を脱いで、上半身裸で下半身は丈の短いズボンという姿になる。


「それにしてもあの白い竜巻はなんだったんだろうな」

「新しい魔法ってのが有力だろ。頑丈さを極端に下げる効果を持っているのかもしれん」

「でないと力上昇薬を飲んだとしても、バドオドロの体を突き抜けるってのは無理だしな」


 裕次郎の使った魔法についてそれぞれの考えを述べてていく。遠くから見ていたので塩を使ったことは気づいていない。石を投げたというのは地面からなにか拾う仕草をしていたのでわかった。

 男たちは水に入っていき、湖の底に生えている水草を採っていく。

 これは貴重な草で、男たちのみがここに生えていると最近探り当てた。ここらの者たちはバドオドロを刺激しないように近づかないため、それの存在に気づいていないのだ。

 わざわざトカゲの数を増やして注意をひきつけたのは、万が一でも潜っていくところを見られないようにするためだ。

 一株十万の値がつくこの草は、男たちにとって金脈のようなものだ。ほかの誰にも知られたくなかった。

 必要分回収を終えて、男たちは静かに去っていく。

 舌叩きトカゲなどの急な増加やバドオドロの騒動といったことを怪しむ者はいても、男たちが動いていたということまで突き止める者はいない。今後も気づかれることもなかった。


 裕次郎たちは馬車に揺られ、午前三時過ぎに町に戻る。今の時間では入ることはできないので、朝まで馬車の中で過ごし、日が昇って職員と一緒に紹介屋に向かう。

 イッシャたち協力魔法組は十分休んだおかげで動く程度はでき、少し辛そうに歩いていた。

 前も通された会議室に入り、少し待つとトレイに袋を乗せた職員が入ってきて、教卓横に移動する。


「皆さんお疲れ様でした。無事、街道の安全は確保できました。今から報酬を渡すので呼ばれた人は前に来てください」


 はじめにイッシャたち傭兵団が呼ばれ、まとめて報酬を貰う。

 次々と呼ばれ、裕次郎の番が来る。


「二十一万ミレがサワベさんの報酬となります」

「ども」

「そういえば対策は効果でました?」

「どうなんでしょうね。一体に使ってみて倒せたけど、いまいち実感はでなかった」

「そうですか」


 劇的な効果があれば、その情報も買い取ろうと思ったが、微妙そうなのでやめた。

 裕次郎だけではなく、他の傭兵も攻撃していれば防御力が落ちている実感があっただろう。高すぎる攻撃力で倒したため、防御力が低下していたのか火力でごり押ししたのか、裕次郎には判断つきかねた。

 成功したとわかっても、竜巻の魔法を使える者が少ないので微妙な情報となっていただろう。

 全員に報酬が行き渡り、解散となる。

 帰ろうとした裕次郎に、顔色の悪いイッシャが声をかける。


「依頼の件なんだが、これからお前さんの仲間に予定を聞きにいっていいか?」

「出かけてるかもしれないよ? 探しているものがあるみたいだし」

「いなけりゃ、夕方にまた会いに行くさ」


 それでいいならと裕次郎はイッシャを連れて宿に戻る。トゥトアたちは休むため自分たちのとっている宿に戻るらしい。

 宿に戻って、セリエが出たか受付に聞いてみる。受付は見ていないので、いる可能性が高い。

 ただいまと言いつつセリエの部屋のドアをノックすると、物音がドアに近づいてくる。


「おかえり」


 出てきたセリエを見て、イッシャは首を傾げた。美人なのだが、お近づきになりたいという欲が湧かないのだ。

 これはイッシャが無意識下でハーフだと気づいているからだ。ほかの者たちも似たようなもので、セリエは一人で行動している時、ナンパの一つもされていなかった。


「無事に帰って喜びのハグってないの?」

「ない。でもま、お疲れ様」

「労わりの言葉が聞けるなんてっこれはキスできる日も近いんじゃ!?」

「用事それだけならドア閉めるわよ?」


 数段過程をすっ飛ばした裕次郎に冷たい視線を送る。


「あー閉めないで、閉めないで。これからの予定を聞きたいんだよ」


 それはと言ってセリエは視線をイッシャにずらす。


「その顔色の悪い人にも関係するのかしら?」

「するね。この人はイッシャっていうんだけど、薬作りの依頼をしてきた。メルモリアって町に行って薬を作ってほしいんだって。俺はどうでもよくて、セリエの予定にあわせるって答えてある。だからセリエが別の町に行きたいなら、そっちに行くよ」

「特に行こうと思っている場所はない」

「だったらメルモリアに行くってことでいいか!?」


 勢いよく前に出て、懇願するようにセリエを見る。

 少し迷惑げな表情でセリエは頷いた。


「ありがとう! 出発は明後日明々後日でいいか? 体調をある程度治しておきたい」

「いいけど」

「俺も」

「んじゃ、明後日の朝九時前にむかえに来る」


 若干顔色を良くしてイッシャは去っていった。


「なんで調子悪そうだったの? バドオドロとの戦いで怪我でもした?」

「協力魔法を使うために、毒を飲んだんだよ。魔力を体外に漏らす必要があったんだってさ」


 効果や副作用を説明していく。


「そう、用事はこれで終わりでしょ、また出かけてくるから」

「今日は一緒に行くよ。武具買う約束だったろ?」

「本当に買う気なの? 自分の分を買うために貯めておけばいいのに」

「俺のことよりも、セリエのこと優先! そんなわけで行こう!」


 セリエの手を取って、部屋から引っ張り出す。


「ちょっと! 無理矢理連れ出さなくても行くわよ」


 だから放しなさいと手を振り払う。


「もっと握ってたかったのに。温かくて柔らかかったー」


 残念と言っている裕次郎をほったらかし、セリエは先に歩いていく。

 裕次郎は小走りで追いついて、二人は宿を出る。

 近くにある武具店に入ると、安物を選んでさっさと帰ろうとするセリエの背を押して、カウンターに行く。

 そんな二人を女店主が小首を傾げて見ている。


「いらっしゃい。なにか用事かい?」

「押さないでよっ」

「まあまあ。この人に予算二十万で、鎧と剣を見繕ってください」

「二十万? ふーんどんなものがいいだい?」


 店主の視線がセリエに向く。


「そんな高いものいらないわ!」

「と言ってるけど?」

「気にしないでください。普段使っているものが薄手の革鎧とショートサーベルなので、予算内でその系統の上質品をお願いします」

「その装備ってことは重さを嫌って、身軽さ重視ってことかい?」

「そうだけど、必要ない」


 拒むセリエに店主がニヤリと笑みを浮かべ声をかける。


「男の方から是非贈り物をしたいって言っているんだ。黙って受け取るのが良い女ってもんじゃないかい?」

「どんな下心があるかわかったもんじゃないっ」

「好感を得たいという下心と防御の薄さを心配する気持ち」


 隠さずに考えを晒した裕次郎を店主は面白そうに見ている。

 セリエはそういえば隠すなんてことしてなかったと、先ほどの言葉の意味のなさに気づく。

 気力が削がれたセリエは、好きにしなさいと購入を受け入れた。


「そういうわけでお願いします」

「わかったよ。お嬢さんに聞くけど、ショートサーベルを使っているのは片刃の剣が使いやすいからかい? それとも軽いから?」

「軽いからよ」


 直剣でも問題ないのかという問いに頷きを返す。

 それならと四本のショートソードを倉庫から取ってくる。値段は八万前後だ。

 四本を手に取り、重さがちょうどよいと感じた、鉄とジッシン鉱の合金直剣を選んだ。

 セリエが剣に触っている間に、店主は鎧をとってくる。


「鎧は二つ候補がある。バドオドロってカエルは知ってるかい?」

「昨日戦ってきた」

「おや、討伐隊だったのか。そのカエルの皮を何枚も重ねて作った皮鎧。衝撃に強いのが特徴だ。もう一つはバフライトとジッシン鉱の合金ブレストプレートだ。肩当のない鎧で胸部腹部と背中を守る。革鎧よりは重いが、鉄鎧よりは軽い。防御はこっちの方が高いね」

「合金鎧を持ってみても?」


 どうぞと渡された鎧は、たしかに見た目に反して軽い。


「こっちを貰うわ」

「まいど。一緒に来ておくれ、調整しないといけない」


 手招きされ、セリエはカウンター奥の別室に入っていく。

 裕次郎は飾られている商品を見ていき、一番高い槍で止まる。値段は四十五万ミレ。ちょっとした説明が書かれていて、魔法武具だとわかる。

 これは魔力を込めて振るうだけで、突風が真っ直ぐ吹くらしい。

 魔法武具には、精製された風晶や地晶といった属性結晶の塊が使用されている。武器だと柄に細く加工された結晶の棒が差し込まれていて、盾には握り手に、鎧だと内側に宝石のように丸い結晶がはめこまれている。属性結晶は短くて半年、長くても一年で塵となるため交換が必要だ。

 武具自体に刻まれた魔法陣と結晶と使い手の魔力が揃って、魔法が発動するという代物だ。

 魔法武具の特徴は二つ。魔法発動のためのイメージを魔法陣に肩代わりさせることで発動速度が速い。属性結晶が補強薬のような効果をおこすため威力が上がるといったことだろう。威力増加は品質の低い補強薬にも負けるが。


「終わった」


 店の奥からセリエが出てくる。買う鎧は身につけていない。


「鎧は?」

「調整が終わるのが明日だそうよ」


 店主も出てきたので、値段を聞く。


「十九万四千だよ」


 角金貨二枚を出しカウンターに置く。


「お釣りはいらない。かわりに丁寧な仕事を期待してます」

「任せときな」


 剣は今日持っていってもいいので、ベルトをサービスしてもらい店を出る。

 裕次郎はこのままデート気分で一緒に歩き回りたかったが、セリエは今日も一人で行くということなので諦めた。

 そのまま一人で町をうろつき、作ることになっているバヅントーリの材料を探していく。向こうが用意している可能性はあるが、もしかすると材料が足りていない可能性もある。

 ついでに複合型能力上昇薬の材料になりそうなものも買っていく。この薬は研究を始めたばかりで、進展は特にない。

 

 二日後、旅支度を整えた二人は宿前でイッシャを待つ。この二日で裕次郎は再度傭兵たちに勧誘されたが断った。

 裕次郎はいつもどおりの旅装で、セリエは買ったばかりの鎧と剣を身につけ、靴も新しい物に変わっていた。

 八時四十五分頃から待ち、十分が経とうとした時にイッシャがやってきた。


「おはよう、待たせたな。ついてきてくれ」


 挨拶をかわし、イッシャが先導して町の入り口に向かう。


「馬かロバでも買わないのか?」


 台車を引く裕次郎に聞く。


「荷物の重さは苦にならないから、買わなくていいと思ってるよ。台車買ったのは両手が塞がることを解消するためだし」

「ふーん」


 入り口にはトゥトアやこの前見た人たちがいた。そばにはロバに繋いだ荷台がある。

 傭兵団はこれで全員なのかと裕次郎が聞くと、メルモリアに滞在している者もいるという返事も返ってきた。

 簡単に自己紹介をすませて、美人のセリエを見て男たちは首を傾げていた。男たちだけの空間に女一人とはいえ、加わるのは嬉しいはずなのだが、そういった感情が湧かず戸惑う。

 どうしてだろうと思いつつ、メルモリアに向けて出発する。

 初日から魔物に襲われたりしたが特に苦戦するといったことなく平和に進む。

 イッシャたちは協力魔法だけがとりえというわけではなく、皆セリエよりも技量が上だった。


「今日はここで野宿だ」


 イッシャの声に皆が返事を返して、テントを張ったりと準備を整えていく。

 裕次郎たちもテントを張り終える。そこにイッシャが近寄ってくる。


「お前さんたちは客だからのんびりしてていいぞ。食事も見張りも俺たちがやる」

「いいの?」

「かまわないさ」

「じゃあ、甘えさせてもらうよ」


 のんびりしててもいいが、疲れてもないので採取でもしようとイッシャたちに告げてテントから少し離れる。その後をセリエがついていく。


「休まないの? なにか用事でもある?」

「知らない人たちのそばよりは、あなたのそばの方がましだと思っただけ」


 一人でぶらつくと魔物に襲われて助けられるかもしれない。そんな恥をさらすようなことはしたくなかった。


「少しずつ信頼度が高まってる感じ? このままいけばいつか恋人になれるかもねー」

「ない」

「まだまだ好感度が低いか。今度の努力に期待ってところかねぇ。こうやって一緒にいられるだけでも俺は楽しいけど」


 鼻歌を歌い笑みを浮かべて草などを抜いていく姿に、楽しいといった言葉が偽りではないとセリエに伝わる。

 相変わらずわからない人だと、セリエは採取する裕次郎の横で、剣を抜いて鍛錬を始める。

 一時間もすれば、辺りは夕焼け色に染まり、料理の匂いが漂い始める。イーズの町を出たばかりなので食材は豊富で、調理担当が嬉しそうに腕を振るっている。メニューはぺペロンチーノと豆と干しえびのスープだった。

 夕食が終わり、日も暮れて、セリエは少し離れた位置にある小川に水浴びにいった。

 裕次郎は集めた草などの加工をしながら、イッシャたちと話している。


「セリエは水浴びに行ったのか」

「覗きには行かせないよ」


 釘を刺すように裕次郎が言う。本当は裕次郎が行きたいのだが、行くと他の人たちもついてきそうで我慢している。他の人にはセリエの裸体を見せたくないという独占欲だ。


「覗かぬしてなにが男だ! とか言いたいが行く気はないな。どうもセリエに魅力を感じない」


 同意だと他の四人も頷いている。


「ユージローは魅力的に思えているのか?」

「すごく。今すぐにもで覗きに行きたいくらいに」

「わかんねーな。どんなところが魅力的なんだ?」

「あまり教えたくないんだけど、まず美人ってところ」


 それはわかるとイッシャたちは返す。


「ほかには猫的なところ? 警戒してるけど、そういった仕草も可愛い。時々ふっと見せる警戒心のない表情も可愛いね。あとはなんのかんの言って、そばにいさせてくれる優しさかな」

「聞いてもよくわからん」

「セリエの魅力がわかりづらいのは、俺にとって朗報だよ。ライバルが少ないってことだし」

「まあ、好みは人それぞれだしなぁ」


 そう結論づけるしかない。

 髪を湿らせたセリエが戻ってきてテントに入り、今度は裕次郎が体を洗いに行く。ついでに量産した粉石鹸で服なども洗う。手洗いだが苦もなく洗え、乾燥も魔法であっという間だ。

 洗濯を終わらせ、テントに入る。

 セリエは剣や鎧の手入れをしていた。


「そういや一緒にテントで寝るのって初めてだっけ。これまでの旅は野宿中に雨とか降られなかったし、二交代で見張りしてたから」


 ぴたりと手入れする手が止まり、裕次郎を見る。セリエはわずかに後退している。


「まさか変なことしようってんじゃ?」


 力の差は明白で、押さえ込まれたら抵抗はできない。また助けも期待できずされるがままだろう。


「したいね! でもセリエは嫌だろう?」

「当たり前」

「うん、だから我慢するさ。そばで寝られるだけで今は十分」


 吐息を感じて安眠と嬉しそうにしている裕次郎。

 セリエは疑わしいそうな目で裕次郎を見る。それになんならロープで縛る? と問い返す。


「それもいいかもしれない」

「セリエに縛られるなら、ご褒美かもしれないね」

「……やめておく」


 好んで新境地に至りたいわけでもないので、裕次郎は残念と思うことはなかった。

 裕次郎は材料の加工を再開し、セリエは手入れを再開する。

 裕次郎が一方的に話しかけ、セリエが言葉少なに反応し、やがて二人は毛布に包まり眠る。

 すやすやと寝息を立てる二人だが、セリエが起きて静かに顔を裕次郎に向けた。

 言葉では襲わないと言っていたが、嘘かもしれないと警戒していた。けれど裕次郎は本当になにもせず眠っている。それに小さく安堵の溜息を吐いて、背を向け本格的に眠るため目を閉じた。

 朝になり、裕次郎がセリエに抱きついていたなんてことはなく起きる。

 次の日も、その次の日も裕次郎は約束を守り、そばで眠られることだけで満足していた。

感想誤字指摘ありがとございます


》恋愛欲丸出しな今作主人公はびっくりでした

これまで恋愛感情丸出しの主人公は書いたことなかったので書いてみようかなと思いました


》戦う医者

医者ではないんですよね裕次郎。診察できないので。だから病名がわからないと薬を出しようがない


》蹴りの種類的に、廻し蹴りは明治時代辺りに~

蹴りって色々あるんですねぇ。紹介されたあとググッてきました。


》現実で、自分の財布の中身や収入を~

ないですね。あとで書き直しておきます


》主人公の空振り加減がいつまで続くのか、心配に。

少しのご褒美があればいつまでも続く! といいな


》ブーツ

色々とアドバイスありがとうございます。深いこと考えてなかったです。たしかに動きやすさとかも考慮した方がいいですね


》塩?塩化ナトリウム?

ここらへんの知識は書いてる人にないので、ファンタジーって不思議で誤魔化しましょう


》何が「そうじゃない」なのか文意がよくわからない

あとで修正しときます


》この短期間にこんだけの普通じゃない魔物の事件が~

兵が動いても既に去った後で、誰かが動いていたという以外の情報は得られませんでした


》いつデレるのか楽しみです

デレさせるタイミングが難しそう

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