異世界で恋したのは、上司にそっくりな優しい領主様でした
少し立ち止まりたくなる夜に、ふと見た夢のようなお話です。
また日常が動き出す前に、ほんのひととき甘い気持ちになってもらえたら嬉しいです。無理せず、自分のペースで読んでくださいね。
その日も、21時すぎまでオフィスの明かりは落ちなかった。
「……よし、これで今日の分は片付いた、はず」
さっきまで作業していたモニターを眺めながら、私はぐったりと背もたれに身を預ける。総務兼営業サポートとして働き始めて三年、繁忙期は毎回こうだ。メールの返信、資料の修正、電話対応、急な書類の送付、誰かの「ごめん、これ今日中でいい?」に振り回されて、気づけばほとんどの社員が帰宅したあとだった。
でも、救いがひとつだけある。
「川崎、おつかれ。ここまでやってくれて助かった。……これ、コンビニだけど」
低くて落ち着いた声とともに、私のデスクの横に紙袋が置かれた。
「あ、課長……」
「甘いのとしょっぱいの、どっちがよかったか分からなくて、両方。好きなほう持ってって」
「あ、ありがとうございます!」
紙袋の中には、ミニドーナツと、チーズ味のスナック菓子。それからペットボトルの甘いコーヒーと紅茶まで入っている。
うちの上司、宮城課長。三十代後半、身長高め、スーツが似合う、声がいい、指示が的確、頭の回転も速い。なのに部下にきつく当たることはなく、残業が続けば「今日はここまでにしよう」と声をかけてくれる。仕事振りは厳しいけれど、公平で、筋が通っていて、理不尽さがない。
要するに――
(……かっこいいんだよなぁ)
「明日、午前中から客先だったよね。資料の最終確認は、朝ちょっと早めに来てやれば間に合う。今日はもう帰りなさい」
「でも、まだここの数字のチェックが……」
「それは俺が見る。川崎、最近ずっと残業続きだっただろ。倒れられると困るから」
「“困るから”って、仕事のことですよね?」
「もちろん仕事のことだよ」
間髪入れずに返されたのに、なぜか胸がチクリとした。
(仕事のことって分かってるのに。なに期待してんの私)
「……ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて、今日は上がります」
「うん。気を付けて帰れよ。電車、寝過ごすなよ」
「それ、課長に言われたくないです。こないだ終点まで行ったの、誰でしたっけ?」
「げ、覚えてたか」
ややバツが悪そうに頭をかくその仕草が、スーツ姿と妙にギャップがあって、ずるい。
「もう少しだけ、明日の資料を修正してから終わります」
「ほどほどにな」
* * *
最寄り駅からの帰り道、歩きながらドーナツをひとつ口に放り込む。甘さが疲れた脳にしみて、目を閉じそうになる。
(明日も早いし、さっさと寝よ……)
そう思って、家に帰ってシャワーだけ浴びて、ベッドに倒れ込んだところまでは覚えている。スマホのアラームもセットした。宮城課長の「寝過ごすなよ」という声が頭の中でリピートして、なんだかくすぐったい気持ちにもなった。
――そして、気がつくと。
私は、見たこともない場所に立っていた。
「え?」
青い空。石畳の道。古い洋館みたいな建物の並ぶ街。自動販売機も、電柱も、コンビニもない。
服装もいつの間にか変わっていて、スーツじゃなくて、膝丈のワンピースにエプロンまで付いている。両手には籠。中には野菜やパンらしきものがぎっしり。
「ちょっと待って、え、なにこれ、ロケ? ドッキリ?」
完全に状況が飲み込めず、その場でくるくると周りを見回していると――
「おい、そこのお嬢さん。そんなところで立ち尽くしていると、馬車に轢かれるぞ」
聞き慣れた低い声が、背中越しにした。
振り返る前に、心臓が一度跳ねる。まさか、と思いながら振り向くと。
そこには――
「……か、課長?」
どう見ても、宮城課長にしか見えない男の人が立っていた。
ただし、スーツではなく、黒いジャケットに白いシャツ、腰には細身の剣。肩には銀糸の刺繍。どこかの騎士団長ですと言われたほうがしっくりくる衣装だ。
「か・ちょう? なんだそれは、役職名か?」
彼は片眉を上げて、面白そうに笑った。
「お前、頭でも打ったのか? 私はセドリック・ヴァルハイト。この街を治める領主だ」
「領主……?」
「そうだ。まったく、いつもはきびきびしているのに、今日はやけに様子がおかしいじゃないか、ミア」
ミア?
誰???
と混乱しているうちに、彼――セドリックは、当たり前のように私から籠をひょいと奪い取った。
「そんな重いものをひとりで持つな。護衛をつけろと言っているだろう。お前は私の専属秘書なんだからな」
「せ、専属秘書……?」
なんだその、妙に萌える単語の組み合わせは。
頭の中がぐるぐるする。けれど、周りの人たちは誰も不思議そうな顔をしていない。市場らしき場所で野菜を売るおばさんも、パン屋のおじさんも、当たり前のようにセドリックに会釈している。
どこからどう見ても、ここは現実として動いている。
(え、これって、もしかして……)
――よくあるやつじゃない?
乙女ゲームとか、ラノベとかでよく見る、「異世界転生」とか「転移」とか、そういう。
しかもその世界でいきなり、会社の頼れる課長そっくりの領主様に会って、専属秘書って呼ばれて、荷物をひょいって持ってもらってる?
(夢だよね、これ絶対夢だよね??)
現実だったら、私の脳がどうかしてる。
「ミア、顔色が悪いぞ」
セドリック様がぐっと距離を詰めて、私の額に手を当ててきた。
近い。近い。顔が、近い。
まつげ長い。鼻筋通ってる。目の色は、宮城課長と同じ、やわらかい茶色。
「あ、あのっ、だ、大丈夫です! ちょっと寝不足なだけで……!」
「寝不足?」
彼の眉がぴくりと動く。あ、これ、怒られるパターンのやつだ。会社でも見たことある。資料をギリギリで出したときに、一瞬だけ見せるあの表情。
「言っただろう。夜更かしはやめろと。書類整理に夢中になるのはいいが、体を壊したら意味がない。……これは捨て置けないな」
「え、あの」
セドリック様はきっぱりと言い切ると、私の手首を軽くつかんだ。
「今日はもう仕事はいい。屋敷に戻るぞ」
ぐい、と引かれる。その手は大きくて、驚くほど温かい。
(いやいやいや、展開早すぎでしょ……!?)
何もかもがおかしすぎて、ツッコミが追いつかない。
* * *
連れてこられた屋敷は、まさしく絵に描いたような洋館だった。
高い天井、大きなシャンデリア、赤い絨毯の階段。執事やメイドまでいて、私を見るなり「おかえりなさいませ、ミア様」と微笑んでくる。
(ミアって、やっぱり私のことなんだ……)
鏡をちらりと見ると、そこには見慣れた自分の顔――より、ちょっとだけ目がぱっちりして、髪がさらさらになった私が映っていた。異世界補正、おそるべし。
「おい、ミア」
セドリック様について部屋に入ると、ふわふわのソファに座らされたところで、セドリック様が湯気の立つカップを差し出してきた。
「これを飲め。体が温まる」
「ありがとうございます……」
中身は、ホットミルクにハチミツを混ぜたような味だった。甘くて、優しくて、胸のあたりまでほぐれていく気がする。
「薬師に見せたほうがいいと思ったが、さっきより顔色は戻っているな」
「本当にただの寝不足、だと思います。すみません、ご心配をおかけして」
「いいや、心配くらいさせろ」
さらりとした言い方なのに、妙に心臓に刺さる。
(心配くらい、って。そんなの、普通に嬉しいんだけど)
「それにしてもお前、今日はやけに“敬語”を使うな」
「え?」
「普段は、もう少し砕けた話し方をするだろう。俺にだけは」
そう言って、セドリック様はほんの少し目を細めた。
「……俺は、そのほうが好きだ」
そんなことを、平然と言うな。
胸の奥がじん、と熱くなる。どくん、どくんと、自分の鼓動だけがやたら大きく聞こえた。
(夢なのに。夢なのに、なんでこんなにリアルなんだろ)
「み、ミア、というのは、その……」
「ん?」
今にも「ミアって誰ですか」と聞いてしまいそうになって、慌てて口をつぐむ。余計なことを言ったら、この世界が崩れてしまいそうで怖い。
と、そのとき。
セドリック様の手が当たり、カップが倒れた。
「うおっ」
テーブルの上で倒れたカップから、白い液体がこぼれる。慌てて布巾を探そうとするセドリック様の動きが、妙にぎこちない。
あれ?
「ちょっ、課……じゃなくてセドリック様、待ってください!」
私は近くの布を引っつかむと、テーブルの上を拭きながら、つい口をついて出た。
「やっぱり、ドジですね」
「ど、ドジ?」
セドリック様がぴたりと固まる。
そうだ。思い出した。
宮城課長も、完璧に見えて、たまにマグカップひっくり返したり、資料を逆さまに綴じたり、表計算ソフトのフィルターかけっぱなしで印刷したりする。誰も指摘しないと気づかないまま営業に出ちゃう。そんな「かわいい一面」がある。
「いっつもさりげなくカバーしてるから、みんな気づいてないだけで。……本当はけっこう不器用なんですよね、こういうところ」
言いながら、自分でも顔が熱くなるのが分かった。
セドリック様はきょとんとした顔で私を見つめ、それから――ふい、と視線をそらした。
「……そういうところを、いちいち覚えているお前も、どうかと思うがな」
「え?」
「……いや、なんでもない」
耳の先が、ほんのり赤い。
(ちょ、かわいい。なにこれ)
さっきまで「領主様」だった人が、一気に人間味を帯びて見える。完璧な鎧の隙間から、ふとこぼれた素肌みたいに。
私の胸の奥で、なにかがとくん、と鳴った。
これが、恋に落ちる瞬間なんて、簡単な言葉で片付けていいのか分からない。でも、
(あー……やば。好きかもしれない)
そう認めざるをえないくらいには、私は今、目の前の人に心を持っていかれかけていた。
* * *
その後も、セドリック様の「かわいい一面」は次々と発掘された。
書斎で書類にサインをしているとき、ふと見るとペン先にインクがつきすぎて指先が真っ黒になっていたり。
城下町を見回りに行ったとき、人懐っこい子どもたちに取り囲まれて、真面目な顔のまま童話を読み聞かせさせられていたり。
夜、屋敷の廊下を歩いていたら、こっそり台所でパンをつまみ食いしているところを目撃してしまったり。
「見なかったことにしろ」
「ふふっ、パン泥棒」
「ミア」
低く名前を呼ばれると、背筋がぞくりとする。怒られているのに、嬉しいと思ってしまう自分がいる。
(あーあ、完全に恋してるわ、これ)
自覚したときにはもう手遅れで、視線を追ってしまうし、名前を呼ばれるたびに心臓が跳ねるし、ちょっと褒められただけで眠れないほど嬉しい。
でもこの気持ちがバレたら、関係が壊れてしまうかもしれない。
だって私は、彼にとって「優秀な専属秘書」でしかないのだから。
……と思っていた。
その夜までは。
* * *
やけに静かな夜だった。
月明かりだけが、窓から差し込む。書類整理を終えて、自室のベッドに腰掛けていたとき、ドアが控えめにノックされた。
「ミア、起きているか?」
声で、すぐに分かる。
「セドリック様? どうぞ」
入ってきた彼は、いつものジャケットを脱いで、シャツのボタンを上から二つほど外していた。ラフな格好なはずなのに、妙に色気がある。やめてほしい。
「こんな時間に、どうされたんですか?」
「少し、話がしたくてな」
セドリック様は遠慮がちに部屋の中に入ってくると、ベッドの端ではなく、窓際の椅子に腰を下ろした。
「ミア。ここ数日のお前は、どこか様子がおかしい」
「え?」
「ぼんやりしていることが多い。仕事のミスはしないが、俺の顔を見てすぐそらすようになった」
図星だった。
意識してからというもの、私は彼の顔を直視できない。見たら最後、にやけそうになるからだ。
「……なにか、俺が不快にさせることをしたか?」
「い、いえ! むしろ逆です!」
「逆?」
言ってから、自分で意味が分からなくなる。勢いで立ち上がりそうになる体を、ベッドの縁を握りしめて必死で抑える。
「その……セドリック様は、いつも私に優しくしてくださるので、えっと……」
「それが、困るのか?」
「困る、というか……」
好きになってしまうので、あまり優しくしないでください、なんて。
そんなこと、言えるわけがない。
黙り込んだ私を見て、セドリックは小さく息をついた。
「今日の昼、覚えているか? 市場で、転びそうになった子どもをお前が抱きとめたとき」
「え? あ、はい。覚えてます」
「あのとき、お前は子どもに『大丈夫? 怪我ない?』と、真っ先に声をかけた。自分の膝を擦りむいていることには、しばらく気づきもしなかった」
そういえば、あとでメイドさんに手当てしてもらったんだった。
「お前はいつもそうだ。人のことばかり気にして、自分のことを後回しにする。……俺は、それが心配だ」
「心配……」
「だから、最近のお前の“違和感”にも、気づかないふりはできない」
セドリック様は椅子から立ち上がると、歩み寄ってきた。
距離が、近い。
私の目の前で立ち止まり、真剣なまなざしで覗き込んでくる。
「ミア。俺が、頼れる領主でありたいと思うのは本当だ。だが――それだけではない」
ごくりと唾を飲み込む音が、やけに大きく響いた。
「お前が笑うと、俺はそれだけで誇らしくなる。お前が他の誰かに笑いかけていると、胸の奥がざわつく。お前が怪我をすれば、世界中を敵に回してでも守りたいと思う」
一言一言が、心臓に矢を刺すみたいに入ってくる。
「……これは、領主として部下を思う感情ではないんだろう、と、最近やっと自覚した」
「セドリック様……?」
彼はゆっくりと手を伸ばして、私の頬に触れた。
指先が震えている。完璧そうに見える彼が、こんな風に不器用に震えている。
「ミア。俺は、お前に――」
その瞬間、世界がぐらりと揺れた。
* * *
「……川崎さん。川崎さん?」
肩を揺さぶられて、私ははっと目を開けた。
目の前には、明日の資料を映したモニター。フロアの白い天井。蛍光灯。パーテーションの上に貼られた社内イベントのお知らせポスター。
そして。
「おはよう。よく寝てたな」
少し困ったように笑う、宮城課長。
「え、えええっ!?」
私は勢いよく跳ね起きた。机の上には、広げっぱなしの資料と、夕方に入れて冷え切ったコーヒー。モニターには、さっきまで作っていた資料。
……そうだ。明日の打ち合わせの資料を、もう少し修正してから帰ろうと思って、そのまま――
「寝落ち、しちゃいました……?」
「うん。がっつり。俺が戻ってきたときにはもう熟睡してた」
「うわああああ……すみません!!」
頭を抱える私に、宮城課長は苦笑しながら紙コップを差し出した。
「とりあえず、水飲め。首カクカクさせながら寝てたから、絶対起きたら痛くなると思ってた」
「ありがとうございます……」
冷たい水が喉を通る。さっきまでの夢の余韻が、急速に現実で上書きされていく。
「さっき声かけてから15分くらいしか経ってないから、寝てたのは10分くらいじゃないかな。今日はもう帰って寝なさい」
「はい。お気遣いありがとうございます」
でも、心臓のどきどきだけは、まだ収まらない。
さっきまで、異世界で。セドリックと名乗る彼に、あんなことを言われかけて――
(夢、だよね。完全に、夢……)
そう分かっているのに、胸がじんじんする。もし続きがあったら、あのあと、彼はなんて言ったんだろう。そんなことばかり考えてしまう。
「さっきさ」
資料をまとめながら、宮城課長がぽつりと言った。
「寝てるとき、ちょっとだけうなされてたぞ」
「え!?」
「『パン泥棒……』って」
「やめてください死んじゃう!!!」
顔から火が出そうになる。よりにもよって、そこ!?
思いっきり机に突っ伏した私を見て、宮城課長は声を立てて笑った。
「パン泥棒ってなんだよ。誰かにパン盗られたのか?」
「なんでもないです! 忘れてください! いや、忘れてください今の! マジで!!」
「はいはい」
笑いながら、課長は自分のマグカップを手に取った。その瞬間、手が滑りかけて、カップがぐらりと傾く。
――デジャヴ。
「危ないです!」
私は反射的に手を伸ばし、カップを支えた。中身のコーヒーが少しだけこぼれて、机にしみを作る。
「すみません、私が拭きます!」
「あ、悪い。助かった」
慌ててティッシュを取りに立ち上がると、背後から小さな声が聞こえた。
「……ほんと、こういうときだけ反応速いよな、川崎って」
「え?」
振り返ると、宮城課長はそっぽを向いて、耳のあたりを指でかいていた。
「こないだもさ。書類落としかけたとき、すぐ拾ってくれただろ。なんか、いつも見てるよなって」
「え? そ、それは、たまたまというか、仕事なので……」
自分で言いながら、胸がむずがゆくなる。
“いつも見てる”なんて、本当のことを言われたら困る。
だって私だって、あなたのこと、いつも目で追ってますから。
「まあ、助かってる。ありがとな、いつも」
不意打ちのように、自然なトーンで言われた「ありがとな」が、夢の中で聞いた「心配くらいさせろ」と妙に重なって、胸の奥がじんわりと熱くなった。
(夢の中のセドリック様と、現実の宮城課長。違う人のはずなのに、ところどころ同じなんだよな……)
仕事に真面目で、頼れて、たまにドジで、かわいいところがあって。
私は、そんな人が好きなんだ。
異世界の領主様だからじゃなくて。
この人だから、きっと心が動いたんだ。
「……川崎?」
ぼんやりしていると、課長が覗き込んできた。
「またボーっとしてる。まだ眠いか?」
「いえ、起きてます」
私は、まっすぐ彼の顔を見た。
夢の中で、目をそらしてばかりだった自分に、ちょっとだけムカついたから。
「課長」
「ん?」
「いつも、ありがとうございます。私も、課長のこと……ちゃんと見てますから」
言いながら、自分でも何を口走ってるのか分からなくなりかけた。でも、もう止まらない。
「…………そうか」
一瞬、宮城課長の目が大きく開き、それからふっとやわらかく細められた。
「それは、心強いな」
そう言って、コーヒーを一口飲む。その横顔を、今度は堂々と眺める。
夢の中の彼は、「俺は、お前に――」と言いかけてくれた。
現実の彼が、いつか私に何を言ってくれるのかは、まだ分からない。
でも。
(次は、夢じゃなくて。ちゃんと起きてるときに、聞きたいな)
そう心の中で呟きながら、私は帰宅の準備を始めた。ミニドーナツと紅茶も一緒に持って。
異世界の領主様もかっこよかったけれど。
「お先に失礼します」
「あぁ、お疲れさま。気をつけて帰れよ」
いつもと同じセリフが、なんだか、くすぐったい。
私が本当に恋に落ちたのは、たぶん最初から――この、仕事帰りにコンビニ袋を差し出してくれる、ちょっとドジで頼れる現実の上司だったのだ。
そんなことを認めながら、私はオフィスを出た。
夢と現実の境目は、もう、ぼんやりと溶けてしまっている。
でも、それでいい。
だって、どちらの世界でも、彼はやっぱり少しだけドジで、そしてとても、かっこいいのだから。
誤字脱字や表記の確認にChatGPTを使用し、その後、作者自身でもチェックを行っています。
もし読みにくい箇所や気になる点がありましたら、教えていただけると嬉しいです。
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