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【超短編小説】狂猫Quick Onion頼むぜジーザス

掲載日:2025/12/27

 違う、そうじゃないと言う声は「にゃあ」と言う音になってフローリングに吸い込まれていった。

 マジかよ。冗談じゃねぇぞ。

「にゃあ」

 おれの呪詛は再びか細い鳴き声になって消えた。



 おれは確かに猫になりたいと願った。

 働きたく無いからだ。

 メシを食って寝る為に働いていくのはごめんだと思った。

 地域猫になって撫でられて可愛がられて生きたいと願った。

 餌の苦労をせず、愛想や社会性を必要としない存在になりたかった。

「あぁ、猫になりてぇ」

 寝床で呟いたときだ。

「その願い、聞き入れた」

 おれが寝る前に聞いたのは幻聴じゃなかった。

 目が覚めると、おれは一匹の中途半端な成猫になっていた。


 なってしまったものは仕方ない。

 おれは猫だ。

 猫砂が無いので取り急ぎ洗面台で用を足し、ソファで爪を砥いだ。

 伸びをして落ち着いたところで、腹が減った。


 わかっていた事だが、猫のエサなんてない。

 なにを食っていいのか分からない。

 全く自信は無いが、仕方ないので床に直置きしていた米袋を割いて数つぶ齧った。

 不味い。

 不味いが、何も無いよりマシだ。自分のズボラさに感謝をした。

 あとは野菜がある。

 猫は何の野菜を食べていいんだっけ?確かネギ類はダメだったはずだ。じゃがいもやカボチャは硬くて論外だ。


 中学の時にもっとまじめに生物をやるべきだった。……中学で猫の生態なんて習わなかったか。

 野菜を放り込んであるカゴをひっくり返しすと胡瓜が転がり出てきて心底ビビった。

 こんなもん冷蔵庫に入れておけよ。

「にゃあ」

 いくつかある野菜の中でもトマトなら平気な予感がしたので試しに齧ってみたら案外とイケた。


 ちくしょう、メシでこんなにビクビクしなきゃならねぇなんて考えてもみなかった。

 人間てのはなんて雑な身体をしてやがる。

 前足で口の周りを拭ったりしていたら唐突にジャーン!!と言う音でスマホの目覚ましが鳴った。

 同時にテレビのオンタイマーが作動してニュースが映った。

 びっくりしてオシッコが少し出た。

 馬鹿みたいな音量で目覚ましを鳴らしやがって、なんて怠惰なやつだ。

 気でも狂ってるに違いない。



 苛立ってきたが肉球ではリモコンスイッチが押せない。

 スマホのスヌーズは三分起きに鳴る。

 頭がどうにかなりそうだったが、おれはとっくに猫になっているのだ。

 閉じきらない押し入れに身体をねじ込み、できるだけ奥の方で丸くなった。

 やれやれ、家主がだらしない奴で助かった。


 そうやってしばらくすると、人感センサーでテレビは消えた。

 スマホのアラームは鳴るのを諦めた。

 ざまぁみろ、粘り勝ちだぜ。

 これからゆっくり、どうするか考えよう。

 その前に少し眠るのだ。暗くて狭くて落ち着く。

 ウトウトしていると再びスマホが鳴った。

 今度は会社からの電話だ。

 肉球を使って応答ボタンを押すと

「おい、遅刻するにしても電話のひとつくらい寄越せ」

 と怒鳴られた。

「にゃあん」

 仕方ねぇだろう、猫になってんだから。

「おい、猫か?って事は家か。いつまで寝てるんだ、早く来い」

 電話が切れた。

 



 そうやって何日かが経った。

 腹が減った。

 おれいま、目の前にあるタマネギを転がしている。

 もう諦めてこれを食って楽になるべきなんじゃないだろうか。

 疲れたよ、と言う呟きは「にゃあ」と言う声になってタマネギの毛根を揺らせた。

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