神さまの落としもの
高い高い、空の上。
神の国に、ひとりぼっちの神さまがいました。
朝も、昼も、夜も、その神さまはひとりぼっちでした。
だから神さまはさびしくて、神の国の掟を破って、人間の住む世界へ遊びに行ってしまいました。
人間の住む世界は、神さまが想像したよりも、ずっと楽しいところでした。
神さまは、自分の爪を切ることさえ忘れてしまうほど、楽しい時を過ごしました。
でも人間の世界で過ごすうちに神さまは、この世界にあるいろいろの、辛いことや悲しい思いも知りました。
だから神さまは自分の、神の国に帰ろうと思いました。
♢♢♢
神の国に帰った神さまは、やっぱりひとりぼっちでした。
そして掟を破った神さまには、神の国の裁きが待っていました。
神さまは罰せられ、深い深い谷底へと、落とされてしまったのです。
谷底へ落とされた神さまは、谷の岩の壁に、自分の爪を立てて登ろうとしました。
人間の世界で長く伸びた神さまの爪は、岩の壁に食い込んで、神さまが壁をよじ登るのを助けてくれました。
でも爪は神さまを支えきれなくて、神さまはすぐに、底に転げ落ちてしまいます。
そんなことを、何度も何度も、くり返しました。
そうして何度、底に転げ落ちても、神さまはあきらめませんでした。
神さまは、人間の世界で楽しいことだけでなく、たくさんの辛いことや悲しい思いを知りました。
だからそれを思い出したのです。
さびしいのや悲しいのは自分だけじゃないんだと、自分を励ましました。
悲しみを力に変えて、神さまは、岩壁を登り続けました。
神さまの爪は、岩壁を登れば登るほど、強く頑丈な爪になっていきます。
そして神さまはとうとう谷の岩壁を、てっぺんまで登ることができました。
岩壁を何度も登った神さまの爪は、もうどんな高い壁でも登ることのできる、強い強い爪になっていたのです。
神さまは、岩壁のてっぺんに腰掛け、爪の中に溜まった土汚れを掻き出しました。
その汚れは、人間の世界に、キラキラと輝きながら落ちていきました。
神さまの落としものは、空から降って、苦しい人や悲しい人のところに落ちました。
その人たちは、そのキラキラしたものを見つけると、煎じて飲んでみることにしました。
すると、どうでしょう。
苦しい人も、悲しい人も、元気と勇気が湧いてきました。
それは、希望と呼ばれました。
♢♢♢
高い高い空の上。神の国にある谷の、その岩壁のてっぺん。
今日もそこには、神さまが、ひとりぼっちで座っています。
でもひとりぼっちの神さまは、人間たちに喜んでもらえたので、もうさびしくはありません。
その神さまは、笑顔で、キラキラと輝く爪の垢を掻き出しているのです。
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