表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

第九話 言葉の意味

今回のエピソードは作者の感情も揺さぶられながら書きました。

いつも以上に時間をかけて、大切に書きあげました。是非、閲覧ください。

『第2章 挑戦の畑』

【第九話 言葉の意味】


 谷口との面談から2か月がたった。未だに連絡も進捗の情報も聞いてはいない。寒さが残る冬の終わりに差し掛かっていた。八百屋のバイトを始めて、半年が経とうとしていた。八百屋のお客さんとも仲良くなって、来てくれるたびにあめちゃんをくれる人、いつも元気に声を掛けてくれる人、リアンの体を気遣ってくれる人など沢山のお客さんに愛されている。そんな優しさに触れて、八百屋の仕事も楽しくなってきていた。

 そんなある日、八百屋にお客さんが入ってきた。


「いらっしゃいませ!」


 リアンがお客さんの顔を見てみると、そこには農業振興課の谷口の姿があった。いつも通り、上下スーツで清潔感のある姿で、立っていたのだが心なしか顔が曇っていた。うつむき加減でいつもの元気な姿ではなかった。


「谷口さん!?どうかされましたか!?」

「・・・・・。」


 谷口の顔はこわばり、歯を食いしばりながら心を落ち着かせてるような素振りを見せていた。色々な感情を抑え、丁寧に話しを始めた。


「リアンさん!すみません!!公民館の件、白紙になりそうです、、。僕にもっと説得できる力があれば、、、。く、悔しいです!この案は商店街の為にもなると思っていたのですが、地域の方からの反対もあり、、、。」


 深々と頭を下げて謝る谷口の姿に驚き、リアンはまず谷口を落ち着かせるように、話しを始めた。


「谷口さん、落ち着いてください。もうすぐ、バイトの時間が終わるので、あとで、一緒にお話しさせていただいてもいいですか?組合の事務所を借りられないか、久保さんにも声かけてみますので。」


 リアンは落ち着いた声のトーンで谷口の心を落ち着かせた。リアンの見えないところで、沢山、尽力してくれていたのだろう。谷口の真剣さが言葉の一つ一つに現れていた。リアンはすぐに久保に連絡をした。


———トゥルルルル———

『はい、もしもし久保です。リアンさん?どうしたの?』

「久保さん、おはようございます。もうすぐバイト終わるんですが、その後に事務所を使わせてもらってもいいですか?」

『あら、そう。今、ちょうど、事務所で作業しているから終わったら来てちょうだい。』

「わかりました。お願いします。」


現在、事務所で作業中みたいだった。谷口に事務所で待っていてもらうようにお願いをし、別れたのだが、とぼとぼと落ち込みながら歩く谷口の後姿が今日は一段と小さく見えるような気がした。

 八百屋のバイトが終わり、商店街振興会組合の事務所へと駆け足で向かった。事務所に入ると、久保と谷口が笑いながら話しをしていた。なんだか、この短時間で谷口の心にも余裕が出てきたようだ。


「リアンさん、お疲れさま。谷口さんったら、八百屋まで行ったんですって?考え込みすぎて、心の余裕もなかったみたいなの。」


 谷口は少し恥ずかしそうにしていた。久保は微笑みながら、語った。


「谷口さんは真面目で明るくていい青年なんだけど、考えすぎて一人でやろうとして余裕を無くすことがたまにあるみたいなの。今回も全部一人で抱え込もうとして、潰れちゃったみたいね。皆で相談しながらやればいい事も無理させちゃったみたいで、、、。今は落ち着いたみたいだから、谷口さん、経緯をリアンさんに説明してもらえるかしら?」


 谷口は頷き、リアンが作成した提案書をもとに話しを始めた。


「リアンさん、今回の件を検討させて頂きました。上司と相談する中で一つだけ懸念点があり、僕だけで解決しようとしたのですが、話しが進まず、上司にもこの問題が解決しないと提案書を通すことは出来ないと言われてしまって。・・・その問題点というのがひかり観音の住職さんから、神社の近くで畑をする了承を貰えないか、何度も検討してもらえないかと伺ったのですが、僕の話しは聞いてもらえず、、、。本当に申し訳ありません。」


 谷口は本当に悔しそうに話しをしていた。手には力が入り、膝の上で強く握りしめ、震わせていた。

 リアンは商店街の事ばかり気にしていて、ひかり観音の思いを失念していた。まず、先に気づかなければならなかったはずのひかり観音の存在を谷口が対応してくれたことに感謝しかなかった。リアンは申し訳なさと、白紙になるというショックで、少し無言の時間が続き、間をあけて言葉を発した。


「・・・谷口さん、色々とありがとうございました。私の方もひかり観音の住職さんの思いを確認するべきでした。私が失念していたばかりに、谷口さんには大変な思いをさせてしまってすみませんでした。」

「いえ、こちらこそ力不足ですみません。」


 リアンも谷口も落ち込んでいた。しかし、久保だけは穏やかな顔で話しを聞いていた。


「一度、私たちも住職さんに挨拶に伺おうかしら。提案を拒否する理由も知りたいですしね。よし!このまま突撃しちゃいましょう!!さぁ、行くわよ!!」


 久保はにこやかに自信満々で、急にスイッチが入ったようになり、急に飛び出していった。その姿にリアンも谷口も顔を見合わせていた。

2人は慌てて支度をして、久保の後を付いていく。突然の事で驚いたがリアンは理由を聞いてみたいと思っていた。沈んでいた心もいつの間にか少しの期待が生まれている。久保の言葉で、一気に気持ちが挽回していた。確かに、リアン自身の心を納得させるには住職さんの本心を確認しなければ、ならないと思った。

久保の方から訪問の連絡をしてもらった。ひかり観音の裏口に到着した3人。久保がインターホンを鳴らした。そこはちょうど公民館の前の道だった。


———ピンポーン———

 街の静けさにインターホンのベルの音が響いた。静かな街並み、境内にある木が裏口の門からも見える。ただ、今は冬なだけあって、木も寒そうだった。

しばらく待っていると、裏口の鍵を開ける音がした。裏口といっても、建物は少し離れている。いわゆる、裏庭があって、3人は門の手前で待っていた。

中から出てきたのは紺色の作務衣に防寒具を着た70代ぐらいのお坊さんだった。寒そうに3人のもとへ駆け寄る。しかし、谷口の顔を見て強い言葉を放った。


「また、お前か!!何度来たって一緒だ!!畑なんて許さんからな!!!!」

「あっ、、、うっ、、、、、、、。」


 突然の怒鳴り声に3人は驚き、谷口は少しおびえ、リアンは不安を抱えていた。そんな時に、久保が優しく言葉を紡いだ。


「突然の訪問で申し訳ありません。先ほど電話で話した通り、少しお話を聞いていただきたく、伺わせてもらったのですが、今から、お話しさせてもらってもよろしいですか?」


住職の顔は怒りで包まれているようだった。目はつり上がり、眉間にしわを寄せて、一目で怒っているのがわかるぐらいだった。


「久保さん、悪いが畑の話しだったら、もう断った話だ。これ以上、もう何もない。」


 住職は信念を曲げず、強めの言葉で続けた。


「俺は、このひかり観音を長く守ってきた!静寂の地を守ってきたんだ!!目の前の公民館に畑なんてできたら、何が起きると思う?静寂は失われ、さらに、虫の発生、土の匂いまでしてくるだろ!!俺は、仏様を守る義務があるんだ!!」


 久保は住職の話しを聞きつつ、言葉を返していった。


「問題点を残したまま推し進めようとは思っていません。もし、住職のいう問題点が解決したら、どうでしょうか?それでも難しいでしょうか?私はこの若い子のチカラは偉大だと思っています。昔の様に賑やかだったころの商店街も住職さんは知っていると思いますが、あの頃のように、活気を取り戻したいと思いませんか?」

「俺は許すわけにはいかないんだ!!人の出入りが激しくなるのが許せねぇ!信仰心のない人たちで汚さないでくれ!!」


 住職の顔がみるみる真っ赤になっていき、怒りで血が上っていた。住職も人間。感情をぶつける時もあるのだと思った。リアンの心の中は意外にも冷静であった。

 2人の話しを聞きながら、次の突破口が無いかと頭の中を駆け巡らせていた。


「あの~、少し喋ってもいいでしょうか?」


 リアンは恐る恐る2人の会話に入り、話しを始めた。


「静寂が失われるとはどういうことでしょうか。ここからは私の意見なんですが、私の中で静寂って心が穏やかであることだと思っています。困っている人がいれば、手を差し伸べる。その心の豊かさが静寂を作っているのではないでしょうか。確かに、人の出入りが増えれば、騒がしくなることがあるかもしれません。それでも、笑顔でいてくれる人がいることは心を豊かにしてくれると私は思うんです。苦しい時も悲しい時も支えあってまた笑顔になれる。それって、素敵なことじゃないですか?」


 住職は少し考えるそぶりを見せていた。しかし、怒りで頭に血が上っている状態の今、素直に受け止めることが出来ていないようだ。


「騒がしくなるってことは、どういうことかわかってるのか!?心の静けさと場の静けさは違う!!それに、勤行の時間を邪魔してほしくない!!真剣に仏様に向き合っているんだ!!」


 リアンの顔が曇っていった。今日はダメかもしれない。もう無理かもしれない。住職の言っていることもわかってしまう。ここにいる全員の意見は正しい事なんだ。長年、この商店街を見守り、ひかり観音の住職として、お勤めを果たしてきた。住職さんはこのひかり観音の存在を守る為に必死になっているのだと思った。リアンと同じで商店街を守りたいと思うように、住職もひかり観音を守りたいと思っているのを感じた。


「住職さん、今、こうやってひかり観音を守る為に必死に意見を述べて頂いてありがとうございます。私は住職さんと同じように商店街を守っていきたいと思っています。長年、ひかり観音を守ってこられた住職さんには感謝しかありません。この商店街に来ると立派なひかり観音が目立っていて、見るだけでも安心するんです。そこにあるのが当たり前になっていましたが、住職さんが懇切丁寧に対応してくださったからこそだと思います。ごめんなさい。色々考えていたら、言葉で伝えたくなってしまって、、、。」


 リアンは少し照れながら、住職の顔を見ていたら、微かに住職の顔も緩んだような気がした。お互いが守る為に必死に言葉を紡ぎ、守る為に強い言葉にもなった。この意見の場は逃げるための反発ではなく、守る為の反発なのだ。長年、守ってきたからこそ歴史を塗り替えてはならないという守りの障壁。そんな時間だったと、リアンは考えていた。


「・・・・・・・。」


住職は無言のまま、時が経つのを待っていた。怒りで冷静さを失っていた。


「・・・もう、いいか。帰ってくれ!!帰れ!!」

「最後に一言だけ、、、守る為に止まることも守る為に動かすことも、どちらも守りだと思います。また、来ます!是非、検討をお願いします!!」

「「お願いします!!」」


 3人はしっかりとお辞儀をして、住職に追い出されるようにその場から離れた。住職の怒りはまだ収まらず、3人の事を睨みつけていた。リアンの心はこの場所では無理かもしれない。少し不安をよぎらせながら、自宅の方へと歩いていた。次の候補地も検討しながら、公民館も視野に入れた提案をまた考えようと思っていた。だけど、言葉が届いていることを信じていたい。


閲覧ありがとうございました。

感情描写が多いエピソードで書いている作者も感情移入しすぎてしまいました。今回のエピソードがいつもよりペンが進まなくて、私の苦手な部分だったのかもしれません。

書き上げることが出来たことを喜ぶとともに、また一段階成長できた気がします。

次のエピソードはどうなるか。公民館?新候補地?ご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ