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第八話 つながる想い

読んで頂ける皆様がいるから私は頑張れます。

最終話までぜひお楽しみください。

今回は第八話。色々動き出してきたリアンの周りで何が起きるのかお楽しみに。

『第二章 挑戦の畑』

【第八話 つながる想い】


 次の日、リアンは午前中の八百屋の仕事に向かっていた。初めてのバイトの時は目覚まし時計で目を覚ましていたのが懐かしい。今では、自然と目が覚めるようになっていた。ただ、寒さのせいでベッドから出ることを拒んでいる。それでも、時間を気にしながら、動き出すタイミングを逃すことはなかった。八百屋のバイトを始めてから遅刻はしなかった。今は冬真っただ中だ。辺りは街灯で明かりはあるが、それ以外はマンションやコンビニが明るく道を照らしていた。ほとんど、暗闇の朝の冷え込みは肌に刺さるような痛みがあり、防寒対策は欠かせない。動きやすいズボンに上はトレーナーにダウンジャケットを羽織り、マフラーをして、そして、カイロを持参して仕事場へと向かっていた。歩道を歩いていても、少し霜が付いており、歩くたびにシャリシャリと音を鳴らす。吐く息は真っ白で、寒さに耐えながら肩に力を入れて、前かがみになって歩く。この寒さでは小鳥さえも鳴いていない。聞こえてくるのは、車の走る音だけが響いていた。冬は車も少なくなって、商店街に向かうまでに見かけるのは2台ぐらいなものだった。

 八百屋の前に到着すると、軽トラのエンジンがかかって停止していた。


「リアンちゃん、おはよ。今日は特に寒いなぁ。カイロ持ってるか?」

「おはようございます。あ、持ってきました。手が冷たくて、温めながら来ましたよ。」


 2人は少し笑みを浮かべながら、挨拶をした。寒いけど頑張ろうと労っているようだった。大森の頬が寒さで少し赤くなっていた。リアンが到着する前に外で準備をしてくれていたようだ。早速、八百屋店主の軽トラに乗り込み、仕入れに向かうことにした。


「よし!行くか!出発するからシートベルトしろよ。」


———カチャ———

 リアンはシートベルトを締めた。車内は少し暖かくなっていた。大森の気遣いのようだ。冷え切った体を少しずつ温めてくれて、血の巡りが良くなっていった。生き返るような感覚だった。車内では普段通りの世間話が始まり、これからの農業の事などを話しながら、市場へと向かうのがいつもの流れだ。


「リアンちゃん、昨日の提案書は久保さんに見てもらったのか?まさか、公民館を候補に入れるとは思わなかったよ。」


 大森は笑いながら話しをしていたが、リアンの行動力に感心していた。


「はい!久保さんに見てもらって、今日の午後も事務所に行く予定なんですよ。今日はどなたか来る予定になってるみたいで。」

「そうか。話しが進むといいな。」


 大森はリアンの行動力に期待していた。停滞していた商店街が動き出したような気がしていた。若い力で、盛り上げようとする姿を目の前で見ているからこそ、大森も手助けしたいと思っていた。


「そういえば、リアンちゃん。知り合いの農家にリアンちゃんの事を話したら、すごく喜んでくれてな、何か手伝えることがあれば声を掛けてくれってよ。良かったな。」

「え!?本当ですか!?う、嬉しいです!!わからない事ばかりなので、プロの方に力になってもらえたら、心強いです!!」


 大森は信号待ちの時にリアンに連絡先の書かれたメモ用紙をリアンに渡した。小さなメモ用紙に書かれていたのは“松本”と書かれており、その下には携帯番号が書かれていた。


「一度、畑でも見せてもらったらどうだ?その時は俺も一緒に行くからよ。」

「おじさん、いいの!?ありがとうございます!!」

「おぅ!店が休みなら行けるからよ。水曜日に行くか?」

「はい!行きたいです!」


 大森は微笑みながら頷いた。リアンの姿を見て、大森の心もいつの間にか動き出す勇気が湧いたようだった。大森はリアンのためにもっと何かできないかと考えていた。そのとき、一つの案が浮かんだ。


「もし、野菜がうまく出来たら俺の八百屋でも販売してもいいか?地元の商店街で収穫された野菜として売り出せないかと思ってな。どうだ?」

「ありがとうございます。実は私もおじさんにお願いしようと思ってたんです。品質がいい野菜が出来たら、是非、置いてほしいです。いまは、まだちゃんと場所も決まってるわけじゃないけど、絶対にいい品質の野菜を作るので、その時はぜひ、お願いします。」


 リアンの心はやる気とワクワクの心が共存していた。大森からの提案も凄く嬉しくて、応援されてるんだとその言葉だけで伝わってきた。大森には色々と手助けしてもらって、感謝してもしきれないぐらいの恩を貰い、未熟な部分のあるリアンに優しく包み込んでくれるような大きな器に居心地がよくなっていた。リアンはみんなの為にも絶対に成功させたい!との思いが強くなっていた。

 大森が運転する軽トラは市場に到着し、リアンは軽トラから降りて、管理棟へ向かった。入場証をいつも通り貰いに行った。初めての頃は何もかもが初めてでキョロキョロしながら歩いていたのに、今となっては目的地に一直線に向かい、手続きが出来るまでになっていた。守衛さんとの信頼も築き、世間話で管理棟で働く人たちの笑顔を引き出せるぐらいリアンはお茶目に笑ったりしていた。

 入場証を貰ったリアンは首から下げて、大森と合流した。冷え込んでいる市場では冬仕様になっている。厚めの防寒具を重ね着している人、ニット帽で寒さ対策している人、耳当てをしてる人もいた。葉物野菜にはビニールがかけられ、凍結対策をしているようだ。葉物野菜は凍結すると商品価値が極端に落ちるのだ。品質を守る為に対策をしなくてはいけなかった。市場の中はほぼ外気温だ。そのため、あちらこちらで商談している人の口からは白い息が出ている。

 大森と一緒に市場を歩くと、冬の野菜が目立つようになっていた。白菜、大根、ネギ、ホウレンソウ、小松菜、キャベツ、みかんなどが増えていた。床は霜や野菜の水分などで濡れており、滑りやすくなっている。リアンも今の季節は滑らないように長靴を履いて、市場を歩いている。

 秋から冬の間に市場に通って、リアンも仲卸業者と顔見知りになって少しだけ信頼を得ていた。野菜を仕入れる際には一人で仕入れに行ってもおまけをしてくれるようになり、信頼を少しずつ築いていた。最近では、大森と二手に分かれて仕入れをするようになっていた。最終的には代金を大森が払うときに確認をしてもらうようになっている。今日も二手に分かれて仕入れをした。事前に車で移動中にリアンの仕入れる野菜を大森が決めてくれている。

 仲卸業者の話しを聞きながら、品質を確認していった。初めの頃よりは目利きに自信がついていた。それにしても、大森が仲良くしている仲卸業者の品質はとてもいい。新人のリアンでも任せてもらえるだけあって、仲卸業者の本気を見せてもらっているような気がした。

 いつも通り、仕入れが終わったリアンは貸し台車の前で待っていた。人が多い中、待ち合わせするには一番この場所が見つけやすかった。遠くの方から段ボール箱を重そうに運ぶ大森を見つけ、リアンは慌てて貸し台車を手に取り、大森の近くへと小走りで向かった。


———ドスンッ———

 大森が勢いで台車の上に段ボール箱を置いた。そこには立派な大根がたくさん入っていた。冬の時期になると、鍋やおでんなど温かい料理には欠かせない。真っ白で太くて大きい大根だった。


「台車ありがとな。助かった。それにしても、仕入れにもだいぶ慣れたみたいだな。早かったなぁ。」

「ようやく慣れてきました。3か月ぐらいでやっとですけどね。」

「ハッハッハ!十分だよ。俺も助かるよ。」


 大森と共に仲卸業者を回り、支払いをしていった。帰りは管理棟に寄って、入場証を返却。その間に大森は荷台に積み込みをしてもらうというのがいつものルーティンになっている。

 軽トラに乗り込み、八百屋を目指す。まだ日は登らない。暗い朝方の空気を感じながら、八百屋に到着した。そして、冷たい水道水で野菜を洗っては水気を拭く。冬の水道水は手が痛くなるほどだった。感覚も無くなっていく。手袋をしていても冷たいものは冷たい。

 開店の時間を迎えても、お客さんの入りは遅かった。八百屋での作業をこなしながら、バイト時間は終了した。

 一度、自宅へ戻り、提案書の資料をカバンに詰め込んだ。少し、仮眠したのち、15時ごろに商店街振興会組合の事務所に向かうことになっている。

 スマホのアラーム機能によって、起床したリアンは急いで、商店街へと向かった。事務所に着くとちょうど事務所前で久保ともう一人スーツを着た若めの青年が事務所に入るところを見かけた。


「あ、久保さん!今日もよろしくお願いします。」

「あら、リアンさん。いらっしゃい!今日もよろしくね。」


 スーツを着た青年はリアンの方を見て微笑んでいた。


「リアンさん、とりあえず、事務所に入りましょうか。」


 リアンは事務所の急な階段をのぼり、事務所の扉を開けた。青年は背が高く、180センチぐらいはあるだろうか。細身で年齢は30代ぐらいだった。清潔感があり、笑うと小さなえくぼが現れる。


「リアンさん、こちらは農業振興課の谷口さん。リアンさんの話を聞いてもらおうと思って、お呼びしたのよ。」

「谷口です。あなたが翔峰リアンさんですね。久保さんからお話を聞いて、伺わせていただきました。」

「翔峰リアンです。よろしくお願いします。」


 谷口はスーツの内ポケットから名刺を取り出し、リアンに丁寧にあいさつをした。礼儀正しい谷口の姿を見て、リアンは少し緊張していた。挨拶が終わると、久保はお茶の準備をしてくれて、3人でソファに座り、話し始めた。


「それじゃ、早速なんですが、色々質問していってもいいですか?」


 谷口はこれまでの経緯などをリアンに質問形式で話しを進めていった。リアンは提案書を谷口に読んでもらいながら、今の商店街の現状や農業体験の事などを熱く語った。そして、今の候補地である公民館の利用許可などを話していった。


「話しは分かりました。新たに農業を始めるにあたり、国からの補助金もありますので、ぜひ進めてほしい議題です。しかし、私の一存では決めかねますので上司に相談してから返答させてください。公民館に関しては担当の管理部署が違うので、一度持ち帰って検討させていただいてもよろしいでしょうか?もしかしたら、補助金の併用も可能な場合がありますので、そこも検討させてください。」

「ご検討ありがとうございます。検討結果はいつ頃わかるものなのでしょうか?」

「だいたい、2、3か月は見てもらえるといいと思います。関係部署に確認してもらうにはそのくらいの時間はかかると思いますので。」


 久保は頷きながら、2人の話しを聞いていた。丁寧な受け答えにリアンは期待を膨らませていた。場所がはっきりとしない今、リアンがするべきことは農業の知識を取得することしかなかった。逸る気持ちを抑え、谷口にすべてを託すことにした。


「是非!お願いします!」

「わかりました。リアンさんは優しい人なんですね。人の事が大好きなのが伝わってくるようですよ。発想も面白いと思います。この商店街で農業が出来たら、楽しそうですね。」


 谷口はにっこりと笑った。谷口のふと出たその言葉にリアンは嬉しくなった。なんだか、ホッとするような安心感のある言葉を聞いて、少し心の距離が縮んだような気がした。


「谷口さん、私の方からもお願いします。商店街がまた復活するようにいいお返事を期待しています。」

「はい!僕も上司に掛け合ってみます!僕も若い者の代表として尽力します。発想を埋もれさせる訳にはいかないと思いますので。」


 谷口は思っていたよりも人情味があり、熱血タイプのようだ。リアンの言葉が久保の期待になり、そこから谷口へと希望の言葉のリレーとなった。


「もし、農業を始められたら、もう一度見に来てもいいですか?僕、土いじりが実は好きで。だからこそ、農業振興課にいるんです。いろんな人に農業を知ってもらいたくて、今の職場に配属してもらったんです。」

「えぇ、もちろんですよ。是非、遊びに来てください。そういう有識者の方がおられると私も安心なので、また相談させてください。」


 いつの間にかリアンと谷口は心と言葉を通わせ、意気投合していた。初めて会った時の緊張感は何処に行ったのか、楽しい話で3人は盛り上がっていた。よく笑い、言葉の一つ一つに人の良さがにじみ出ているような人だった。


「ところで、最近だと農家さんもSNSで発信される方も増えているので、リアンさんもやってみたらどうでしょうか?今はインターネットも普及して、気軽に情報が手に入る時代になっていますし、興味がある方がいたらボランティアとかも募集できますしね。まず、僕が頑張って説得してきますので、その後にでも検討してみてください。」

「ありがとうございます。検討してみます。」


 リアンは谷口と同じ気持ちだった。今は情報社会で、手軽に知識を身に付けられる世の中だ。この商店街の宣伝にSNSの活用は今の時代必要不可欠だ。

 話がすべて終わり、事務所を後にした。


「僕、頑張りますので、リアンさんも前に進んで頑張りましょう!」

「頑張りましょう!」


 気持ちがぱぁっと明るくなり、晴れたような気がした。谷口の言葉が温かく、安心させる。リアンも、なんだかやれそうな気がした。彼には不思議な力があるみたいだった。農業を必ずこの場所でやると心に決めて、自宅へと歩いて行った。


閲覧ありがとうございます。

毎週土曜日15時ごろに投稿しておりますので、ぜひまた読みに来てください。

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