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第七話 広い土地を探して

折り返し地点に入ってきました。この作品が初めての作品で、少しずつ執筆というものに慣れてきた感覚があります。皆さんに読んで頂いて、私も一緒に成長している想いです。

 作者自身が直感で書いている部分があって、主人公のリアンもどうやら似てきている模様です。今回のリアンの様子もお楽しみください。

『第二章 挑戦の畑』

【第七話 広い土地を探して】



 リアンたちは、商店街振興会組合の事務所を後にした。ちょうど、15時頃に会合が終わったため、その足でまずは喫茶店で久保とコーヒーでも飲みながら、これから見学に行く候補を話し合うことにした。


———カランカラン———

 喫茶店の扉にあるベルが入店と共に鳴り響く。

カウンターには喫茶店マスターの娘さんがコーヒーの準備や軽食の下ごしらえをしている。マスターは会合の後に事務所の前で、大森と話していたためか、まだ戻って来てないようだった。リアンたちはテーブル席に座り、コーヒーとケーキを注文した。凄く落ち着く空間でコーヒーとパンの香りが癒しをくれる。


「早速だけど、この資料を見てもらいたいのだけど。」


 久保はテーブルの上に、10枚ほどの空き家の資料をテーブルに出した。いろんな種類の建物が写真付きであるが、どれも古く、少し狭く感じた。


「今、空き家になっている場所の資料なんだけど、どれも、今のまま使い続けるにはやはり難しいと思うの。きっとリフォームをする必要があると思うわ。はっきりしたことは不動産屋さんに内見をお願いしてからになると思うから、今日は外観だけ見て回りましょう。ある程度、場所とか日当たりとか見て回った方がいいものね。それから、先ほど、話しがあったように飲食店の近くを省いて、この5か所を回りましょうか。」

「そうですね。一度見て回って、目で確認はしていきたいですね。」


 リアンは前のめりに久保の話しを聞いていた。その時に、マスターの娘さんがコーヒーを持ってきた。


「・・・おまたせしました。」


静かにテーブルの上にケーキとコーヒーが置かれた。相変わらず、不愛想な感じだった。そんな時、久保が話し始めた。


「みなみ!もっと愛想よくしなさい!接客業は笑顔が大事よ!」

「うるさいなぁ、、、。お待たせしました!コーヒーとショートケーキになります。ごゆっくり!、、、これでいい?」

 

突然、娘さんを叱り始めた久保にリアンは呆気に取られていた。そして、注意されてからの娘さんの満面の笑みをリアンは初めて見て、衝撃を受けていた。娘さんはそのまま、カウンターの方へ歩いていき、いつもの不愛想な娘さんに戻っていた。


(こんな風に笑えるんだ・・・。でも、なんで、こんな言い方したんだろ?昔からの知り合いかな?)


「ごめんなさいね~、リアンさん。娘の愛想が悪くて。いつも言ってるんだけど、直さないのよね。いい年なのに恥ずかしい。」

「え、え“―――!!??娘さんなんですか!?と、いうことはマスターの奥さん!?」

「あら?そうよ。知らなかったかしら。」


 久保はリアンの様子を見て、表情や驚いている仕草に微笑んでいた。リアンの子供の頃から、マスターやみなみさんとは会っていたが、そういえば、奥さんの事は見たことが無かった。


「取り乱して、すみません、、、。驚きました。全く気付かなかったです。」

「私も商店街の事で動いていると、なかなかお店にも来ることが出来なくて。いつも任せっきりになってるの。だから、娘も私に怒っているのよ。」


 少しばかり、久保の表情が沈んだのが見えた。久保の立場上、出来ないこともあるのだろう。家族に対しても申し訳なさなどを抱えて、今は商店街のために動いているんだろうとリアンは感じた。リアンは人の表情を読み取る能力に長けている。心の中の思いも感じ取って、申し訳ないという思いがリアンの心にも伝わってきていた。一瞬の表情の変化もあったが、話しを始めると、いつも通りの久保に戻っていた。他愛もない世間話をして、美味しいコーヒーとケーキを食べて、帰り際には久保がまとめて支払ってくれた。


「ごちそうさまでした。」

「それじゃ、見て回りましょうか。」


 喫茶店を出て、神社のある方へ歩いていく。この商店街の奥には立派な『ひかり観音』が建っている。建物には赤い塗装がされていて、鳥居は石で出来ている。凄く立派な建造物である。毎年、お正月になると参拝客が商店街や境内を埋め尽くし、その時ばかりは商店街にあるお店は大盛況になるのだ。『ひかり観音』はこの商店街をずっと見守ってきた守り神みたいなもの。『ひかり観音』の周辺は高層マンションなどの建設は禁止区域に指定されており、日当たりも良好な地域である。その為、リアンも久保も『ひかり観音』の周辺で物件を見ようと歩いていた。


 閑散とした商店街を久保と歩き、アーケードを抜けた先に『ひかり観音』がある。まず、初めに見学に来たのはその『ひかり観音』の前にある古そうな一軒家だった。瓦屋根の平屋で、壁はモルタルで出来ているようだ。所々ひび割れがある状態で、今にも崩れそうでリフォームするには土地の上はすべて解体する必要がありそうだった。ただ、日当たりは神社の前だけあってかなり日の光が入り、明るそうだった。


「ここで、農業するには初期費用がかなり掛かりそうですね。明るさは申し分ないですが。」

「内装だけというのは難しそうね。一応、日の光が入って明るさは確保できるから、リアンさんの好み次第では気にいるかしらと思って候補に入れたのだけど、その反応だと、やはり、こちらは候補から外しましょうか。」

「そうですね。もう少し、広さも欲しい所ですし。」

「では、次に行きましょうか。」


 その場を離れ、次の空き家に向かうことにした、道中ではリアンの提案が相当嬉しかったのか、久保がリアンの農業に期待していることが話の中でひしひしと感じていた。不安もあるようだが、若い力を受け入れてくれるような、そんな気がしていた。


「リアンさん、今回の提案をしてくれてありがとう。絶対に成功させようね。」

「はい!頑張ります!困ったときは力を貸していただけると嬉しいです。」


 お互いに微笑み、期待で胸を高鳴らせていた。そんな時、リアンの目にある建物が入った。凄く広くて、2階建てのビルのようで、屋上もある。壁はコンクリートで覆われ、多少、傷や白いペンキの剥がれはあるものの、土台はしっかりしていそうだった。都会のど真ん中にこんな広い建物があったことを知らなかった。場所はちょうど、神社の真裏にある。神社の敷地よりは狭いけど、農業するには申し分ない広さだった。


「久保さん、あの建物はなんですか?すごく広いんですけど。」

「あぁ、あれは自治体が管理している公民館ね。今は利用する人もいなくて10年は使ってないんじゃないかしら。」

「そうですか。自治体の管理ではどうすることも出来ないですね。」

「そうね。個人では難しいかもしれないわね。・・・ただ、交渉する余地はあるから、後日、管理担当の方に話しを持っていく必要があるわね。」

「決めました!私、ここにします!なぜかわからないけど、ここで農業するイメージが湧いてきて、みんなが笑ってる映像が浮かんできました。」

「わかったわ。自治体の関係者には私から連絡しておくから。リアンさん、一度、この公民館を活用したい提案書というのを作成して私に見せてもらえるかしら。リアンさんの文章をもとに清書して、管理関係者の方に話しに行きましょう!」

「はい!わかりました。」

「リアンさんなら、大丈夫よ。自信もって。正式な書類になるから、【ひかり商店街公民館利活用都市農園計画】の表題で提案書を書いていきましょう。」

「はい!頑張ります!」


 リアンの鼓動が早くなり、不安や緊張よりもドキドキやワクワクが勝っていた。久保に丁寧にお礼をして、別れた後、早速、家に帰り自宅のノートパソコンで表題から書いていった。表題を1ページにわかりやすくサイズ調整もして、見やすい配置を心掛けた。提案書はリアンにとっては初の試みだったため、インターネットで検索しながら作成していったので、かなりの時間を費やした。午前中は八百屋のバイトをして、午後から提案書の作成をしていた。季節は秋から冬へと移り変わり、ようやく完成した。事業概要、背景と課題、公民館を選んだ理由などリアンの思いを詰め込んだ提案書となった。その頃には八百屋の仕事にも慣れて、野菜の事もだいぶ理解するようになっていた。少しは農業に役立つ知識は身に着いたかなぁと自信が出てきていた。

 リアンは予算の計算をする中で、インターネットで補助金があることを知った。もし、この提案書が通ったら補助金についても話しをしていかないといけない。経営の勉強もしていかないといけないのだと知った。何もかもが初めてで、少し不安を覚えていた。

 後日、久保に提案書の確認をしてもらうために、会う約束をした。10ページほどの提案書をカバンにリアンと久保の分で2部入れて、コートを着て家を出た。冬の空気は冷たい。心底冷える。ぶるぶると震えながら、外気と部屋の温度差に身震いしている。少し緊張しながら、歩いていると、大森に声を掛けられた。


「リアンちゃん!今から行くのか?これ持っていきな!」


 大森は野菜の中からみかんの山に手を伸ばし、一つのみかんをリアンに渡した。冬の寒い空気に触れたみかんはひんやりとしていた。


「今日は久保さんに提案書を見てもらうんだろう?頑張れよ。」

「はい、いってきます!」


 八百屋の前を通って、商店街振興会組合の事務所まで歩みを進めていったリアンは白い息を吐きながら、寒さに立ち向かうように小走りで到着した。少しだけ呼吸を荒くして、事務所に入っていった。そこには、久保さんが事務作業をしながら、リアンを待っていた。


「リアンさん、いらっしゃい。そこのソファに座っててくれる?」


 リアンはソファに深く腰を掛けた。革の素材で出来ている立派なソファに座ると、リアンは提案書をガラステーブルに置いて準備をした。事務所の中は温かく、凄くホッとする空間だった。久保は給湯室でお茶の準備をしている。いつも、事務所に入ると久保の姿しか見ていない。誰かここで作業する人がいるのかと少し疑問があった。


「久保さん、ここで作業するのは久保さんだけですか?」

「え~、そうよ。少し寂しいけど、仕方ない事よ。今は一人でも事務処理できちゃうからね。昔は数名いたんだけど、今の商店街の店舗数だと一人で作業できちゃうのよね。」


給湯室から響く声は寂しさが感じられた。

久保がお盆にお茶の入った湯呑を乗せて、ガラステーブルに置き、リアンの前にお茶を準備した。白い湯気が立ち上り、あたたかいお茶の香りを運んでくる。香ばしい茶葉の匂いが鼻から伝わる。


「お茶どうぞ!」

「ありがとうございます。」


 外気の寒さで体の芯まで冷えていたリアンにとって、温かいお茶は恵みの味がした。湯呑にも熱が伝わり、ほんのり温かく、手の感覚も戻すほどに血流が活発化していった。ズズズ、、、と音を鳴らしながら、一口飲むと体の中からじんわりと温まっていく感覚があった。


「さて、提案書出来たのよね?見せてもらってもいいかしら?」

「はい!全部で10ページになります。」


 ガラステーブルの上に準備された提案書を手に取り、読み進めていく久保の目は真剣だった。誰もが言葉を発しない無音の時間が続いていた。普段は気にならない時計の針の音や、水道の蛇口から出る一滴の水滴の垂れる音さえもその時ばかりは耳に残った。リアンは不安と緊張とこの時間の静寂さに吞み込まれそうになりながら、久保を見つめていた。

 久保が提案書を読み始めて、10分ぐらいたった時に久保が話し始めた。


「よく出来ているわね。作るの大変だったでしょう。」

「初めての事だったので、少し苦労しましたが、この商店街の役に立てると思うとワクワクしていました。」


 リアンの自然に出てきた言葉だった。そんなリアンの言葉を耳にして、久保は微笑んでいた。


「リアンさん、これからも頼りにしているわよ。若い力で助けてもらえるかしら?」

「頑張ります!」

「ところで、提案書に予算が載っていたけど、金策に目途はついてるの?」

「え~と、、私の少しばかりの貯金と、あと銀行に行って借りれないかなぁと思っています。ただ、返せなかった時の事ばかり考えてしまって、銀行に借りる勇気が出ないので、ずっと考えているんです。農業を始めるにしても、1年目は土を育てるための作物を作ることになると思うので、収穫体験とかは2年目以降になると思うんです。」

「私も農業に詳しいわけではないから、ちょっと知り合いに聞いてみようかしら。ちょっと待ってて。」


 久保は別室にて電話で誰かに連絡をしに行ったようだ。金策がリアンにとって一番といっていいほどの問題だった。リフォームした後に収益が出るのが、作物を育てた後の事だからだ。新しい土は養分が足りず、出来たとしても小振りのものになってしまうのが明白だった。


「お待たせ。リアンさん、明日なんだけど、予定はどう?話しを聞いてほしい人がいるのよ。」

「午前中は八百屋のバイトがありますが、午後からなら動けますよ。」

「あら、そう。また、明日、ここの事務所に来てもらえるかしら。続きは明日話しましょう。今回の話しには一番適任の人に来てもらうわ。」


 久保は微笑んでリアンを見つめていた。久保の期待に背中を押されながら事務所を後にした。一歩一歩だけど、動き出している感覚がリアンの勇気へと変わっていく。


閲覧ありがとうございます。

リアンの行動力にいつも尊敬している作者です。(笑)私自身に欠けているのが行動力なので、勇気をくれるリアンは私の宝物です。

 今後とも、よろしくお願いします。

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