第四話 八百屋の朝
閲覧ありがとうございます。
八百屋の仕事って、本当にたくさんあるんですね。私自身も色々調べながら、執筆しているのでとても勉強になります。専門的な知識のある方にはもしかしたら、変だと思う部分もあるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
『第一章再生』
【第四話 八百屋の朝】
市場を出発したリアンたちは八百屋に戻ってきた。
帰り道には太陽が少しだけ顔を出し、薄明かりの光が遠くでぼんやりと輝いている。軽トラは八百屋の前で止まった。大森は軽トラを降りて、リアンを呼び込む。
「リアンちゃん、荷物ほどくから野菜を中に運んでくれるか?」
「はい!どこに置けばいいですか?」
「そこの勝手口から入ったら、洗い場があるから人参を近くに置いといてくれ。」
軽トラから、降りたリアンは大森が荷ほどきした人参を腰に力を入れて、持ち上げた。リアンの過去の経験から、重いものは腰を使うことは知っていた。以前、腕だけで持ち上げて、腕を痛めたことがあったからだ。
「リアンちゃん、上手いじゃねぇか。重いものは腰を使うってよく知ってたな!初めての人はだいたい、腕だけで持とうとするから重く感じたり、痛めたりするんだよな。」
「えぇ、昔、間違った持ち方して、腕とか腰をやりましたからね。」
2人は笑いながら、荷物を下ろしていった。リアンは少し褒められて、誇らしげになった。色々、教えてもらうことが、楽しくて仕方がなかった。これから、農業をやっていくことが待ち遠しい。今はまだ場所も決まっていないけど、みんなで商店街を復活させたい気持ちが強く、やる気に満ちていた。
大森はキャベツとナス、じゃがいもを八百屋に設置されている作業台へと運んでいった。見た感じは普通の台なのだが、天板は作業が出来るように作業台として使えて、台の下は保冷庫が設置されている。温度管理が必要な野菜は、ここに入れるのだろう。
「リアンちゃん!運べたか?運んだら、今度、人参に残ってる土を洗い流してくれるか?」
「わかりました!家でやってるみたいな洗い方でいいんですか?」
「あ、そうか!今から教えるから待っててな!」
大森は、作業台に野菜を載せ、リアンのもとへ駆け寄り、ゴム手袋をリアンに渡した。
「ゴム手袋をつけて洗ってくれるかい?衛生面や手荒れ防止にさ!」
「はい!」
ゴム手袋は適度に指を締め付け、装着するのに多少時間がかかる。ひんやりとしたゴム手袋がリアンの気も引き締める。一本一本、指を通していき、両手に装着していった。ゴム手袋は厚めで、表面はザラザラとしてイボが沢山付いているような形をしていた。滑らないようになっているのだろうか。
装着したリアンは人参を手に取り、感触を確かめてみた。人参一本だけでも、十分な重さがありそうだ。表面はしっかりしている。大森のプロの仕事を現しているようだった。
「人参の洗い方はまず、付いてる土を手で払い落してから、流水で軽くこする程度で大丈夫だ。濡れてると劣化が早いから乾いたタオルで水気を取ってくれるか?」
「はい!」
リアンは大森の前で、作業を見せて間違っていないかの確認をしながら進めていった。人参を手に取り、ゴム手袋のザラザラな部分を活用して、手早くこすって見せた。水気を取るのは3本に一回、まとめて丁寧にふき取っていった。
「うん、良い感じだが、水気は軽く乾いたタオルで拭くぐらいでいいぞ。朝は忙しいからな。洗い終わった人参をザルに3本並べて上からタオルを被せて拭き取るぐらいで十分だ。」
「わかりました!やってみます。」
「水気を取ったら、このコンテナに並べておいてくれ。」
大森から手渡されたのは青っぽい網目のあるコンテナだった。持ち運ぶようの穴があり、通気性もよく、多少、残っている水気も自然に乾くように出来ているのだろう。
大森はリアンに洗い場を任せて、他の野菜の処理に向かっていった。
一人で洗い場を任され、不慣れながらも徐々に洗いにも慣れて、1箱分の人参を洗い終えた。手袋をしているとはいえ、手の冷えを感じていた。
「おじさん、洗い終えました。どこに持っていったらいいですか?」
大森は大きなキャベツの下処理をしていた。少し泥が付着している外の葉を2、3枚剥いで、切り口の確認をしていた。下処理の終わったキャベツは切り口を上に向けて並べられていた。近くにはじゃがいももすでに下処理が終わって、コンテナに入っているようだ。
忙しそうに働いている大森にリアンは近づいていき、次の仕事を尋ねた。
「終わったか?それなら、冷暗所に入れといてくれ。今日は気温も高くないし、そのままでいい!奥に入ると棚があるから、そこに置いといてくれ。終わったら、値札書いてもらおうか。」
「それじゃ、持っていきますね。終わったら、声かけます。」
少しズッシリとした人参の入ったコンテナを持ち上げ、棚の方へ持って行った。そこにはたくさんの野菜たちがコンテナに分けられ、綺麗に整頓されていた。玉ねぎ、カボチャ、さつまいも、じゃがいも、ごぼう。沢山の野菜が並んでいた。今朝買ってきたじゃがいもと人参は在庫がわずかになっていたようだ。
棚の周りは土の香りがほのかにしており、床はコンクリートでひんやりとした冷気が漂っており、通気性は抜群である。日の日差しを遮る為か、窓は少し離れた高い場所にあり、窓には黒い布で覆われていた。
人参が置いてある棚の横にはコンテナ分のスペースが空いていたため、リアンはすぐ置き場所を把握して、持っているコンテナをそのスペースにおいて、大森の方へ戻っていった。
「おじさん、置いてきましたよ~。値札の作り方を教えてもらえますか?」
「リアンちゃん、今朝仕入れした野菜の値札を書いてほしいんだけど、、、、。」
「あ、ちょっと待ってください。今メモします。」
リアンは近くにあったメモ用紙を手に取り、鉛筆でメモを始めた。
「メモの準備はいいか?キャベツは1玉200円、ナスは3本セットで150円、人参も3本セットで150円、じゃがいもは1袋150円だ。人参とナスはバラ売りで単価60円で売り出すぞ。値札はその辺の空いてる段ボール箱を再利用して書いてくれるか?」
リアンは大森の言われたように、空いている段ボールを手に取った。近くにあったカッターナイフを借りて、他の値札と同じぐらいの大きさで4枚分の段ボールの板を切り分け、油性マジックで書いていった。書きながら、リアンは考えていた。もっと、新鮮さをアピール出来ないかと。
(値段だけじゃ、ちょっと味気ないなぁ。色々書いても問題ないかなぁ?)
リアンは、恐る恐る書き足していった。子供の頃から授業中にノートの片隅に書いた落書きを思い出して、野菜のイラストと新鮮さがわかるコメントも添えて。
キャベツの値札のイラストには『まるキャベくん』と名付け、丸い顔につぶらな瞳のキャベツの化身で、「今日もシャキッと元気!」と加えた。人参の値札のイラストには『にんじろう』と名付け、見た目は眉がキリっとした勇ましい感じの人参の化身で、「艶だったら誰にも負けない!」と新鮮さをアピール。ナスの値札のイラストには『なすみちゃん』と名付け、可愛い系の瞳をキラキラしたナスの化身で、「今日のみずみずしさは最高よ♡」と加え、じゃがいもの値札のイラストには『ぽてたろう』と名付け、優しい目をした丸いじゃがいもの化身、「ぼく、ほくほく自慢なんだ~!」と書き足していった。さらに、値段を強調するために、太字にして立体的な文字を書いていった。リアンは、値札を書きながら楽しくなっていた。好きな絵を描いたり自分のアイデアを文字に起こすこともリアンの性格に合っているようだ。
「おじさん、出来ました!見てください!かわいいでしょ?」
「ハッハッハ!!リアンちゃんらしくて、良いじゃねぇか~。」
大森は大きな声で笑っていた。いつもはシンプルに値段を書くだけの段ボールの値札も華やかになっていた。イラストだけではなく、値段も目立つように書いてくれて嬉しくなった。そして、なにより、絵も文字も見やすく、目を引く。新鮮な野菜を食べてほしいとの思いがこの一枚の値札に表れているようだった。
「リアンちゃん、絵も字も上手だなぁ。これからも頼んでいいか?」
「はい!いいんですか?喜んで書きますよ。」
この空間が笑顔にあふれて、朝方ということも忘れそうになっていた。
その後、リアンは大森の作業することを、ジッと見て見学していた。リズミカルに聞こえる『ガチャン!』という音が心地よかった。大森は赤いネットに入れたじゃがいもにシールで封をしていた。ネットの口をねじって、テープを綴じる道具に差し込んで、適度に切られたテープがそのままテープ同士がくっつくようになっている。大森はリアンの方を見て、微笑みながら声を掛けた。
「リアンちゃん、これやってみるか?テープシーラーっていうんだけど、長年使い続けてるから、癖があるんだけどよ。」
大森は笑いながら、リアンにやらせてみることにした。癖が強いとはどういうことなのか、リアンは不思議に思い恐る恐るテープシーラーでネットの口を綴じてみた。しかし、テープを綴じたと思って、引き抜いたらテープが切れずに一緒に付いてくる。焦ったリアンはさらにシールを引き出していた。
「ハハハッ!なかなか、難しいだろ?結構勢いで、まっすぐに下におろすと上手く切れると思うぞ。やってみな!俺もたまにミスするから大丈夫だ!」
リアンはネットの口をねじり、勢いよくテープシーラーにネットを振り下ろした。
『ガチャン!』と音が鳴ると同時に、テープシーラーの刃物がテープを切った。リアンは何故か嬉しくなった。完璧に出来たからである。
(癖つよに勝った!!嬉しい!)
「その調子で、全部、口綴じといてくれ。」
「わかりました。」
大森は、その場を離れ、お店の裏にある自宅へと歩いて行った。
リアンは残り、7袋ほどのじゃがいものネットをリズミカルに綴じ始めた。最後の方には、少し慣れてミスもなく完璧に口を綴じるまでに成長していた。台の上には沢山のじゃがいものネットの山がゴロゴロと並んでいた。コンテナに綺麗に並べて、棚に片付けて大森に報告に行った。
「おじさん、終わりました。次はどうしますか?」
「よし、そろそろ、朝ごはんにするか。母ちゃんが作ってくれたから、リアンちゃんも食べていきな!」
「うわぁ、ありがとうございます。いただきます!」
リアンは洗い場で手を洗い、大森の自宅に歩いて行く。そこには、小さな台所で料理をしてくれている大森の奥さんの早苗さんが朝食の準備をしてくれていた。お店の中では香りに気づかなかったが、美味しそうなご飯の匂いがしている。具沢山のお味噌汁にキャベツの和え物、ナスの素焼き、ブロッコリーの塩ゆでしたものが添えられていた。あとは、きゅうりの漬物がお皿に盛られていた。
「何かお手伝いしましょうか?」
「大丈夫よ~。ゆっくり座ってて~。」
早苗さんはいつもニコニコして、とても優しい。子供の頃からリアンが大好きな人。この夫婦には優しくしてもらっていて、子供の様に可愛がってくれていた。第二のお母さんみたいに甘えさせてくれる人が早苗さんである。
「美味しそう!早苗さん、本当に昔から料理上手だったもんねぇ。」
「あら、ありがとう。リアンちゃんが食べると思って頑張っちゃった。これからも一緒に食べようね~。」
リアンの子供の頃から早苗さんの料理をおすそ分けで頂くこともあって、リアンの家族はみんな早苗さんの料理のファンだった。この美味しいご飯を頂けることが本当に嬉しくて、楽しみだった。しかし、毎日、作ってもらえるなんて、なんだか申し訳なさもあり、リアンは話しを始めた。
「おじさん、早苗さん、ご飯代はバイト代から支払うので、給料から差し引いてください。」
「お金は気にするな。美味しく食べて働いてもらったら、うちとしてはそれでいいんだ。」
大森の寛容な心に嬉しさはあるものの、リアンとしては少しばかり心がすっきりしていなかった。働かせていただいていることも有難いのに、さらに、ご飯までタダで頂くわけにはいかないと考えていた。そんなリアンの様子を早苗は見ていて、口を開いた。
「リアンちゃん、うちとしては働いてもらって、食べてもらったらそれでいいのよ。だけど、リアンちゃんがもし、気になるなら、こうしましょう!朝と昼の2食付きで500円のワンコインでどう?」
早苗はリアンの気持ちを組んだうえで提案をして、お互いが気持ちよく納得できるように話しを始めた。昔から、早苗さんは場の空気を読むのが得意だった。お互いが嫌な思いをしないように落としどころを作るバランスをとってくれるような優しい人なのだ。
「ワンコインでいいんですか!?そんな、でも、、、。」
「いいのよ。その代わり、これから、お店で頑張ってもらうわよ~。」
冗談交じりに、早苗は笑顔でリアンを見て、微笑みで返した。
リアンもこの夫婦の優しさと心遣いをしっかり受け入れることにした。多少でも、恩を返せるように商店街の賑わいをまた復活できるようにリアンが出来る事はすべて投げうって、商店街の人たちの笑顔を守っていこうと改めて決意していた。
大森夫婦と話しをしながら、朝食を食べ進め、全ての料理を完食した。少しの休憩を挟み、残りの仕事を始めることにした。
「よし、そろそろ、開店の準備するか。リアンちゃん、店の前に水を撒いといてくれ。土埃が舞わないようにいつも撒いてるんだ。」
「あ、はい!わかりました。」
リアンは店の前に水を撒きながら、高く澄んだ空を見つめ、清々しい朝の空気を感じていた。ビルやマンションが立ち並び、その一画にある商店街の朝にも小鳥の鳴き声が響いていた。これから始まる八百屋のバイトに心躍るような気持ちが芽生えていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
農業を始めたいというリアンはどんな形で実現していくのか、見守っていてください。
次回は八百屋の店番をしながら、人とのふれあいでリアンの心は、、、。
お楽しみに!




