第十四話 リアンのアイデア
次の日、リアンは桐谷の経営するホビーショップ兼模型屋のお店を尋ねることとした。午前中はいつものように、八百屋でのバイトをして、午後からの訪問になる。今日はとても心も洗われるような天気で青空も見えて、清々しい。商店街はアーケードになっているが、隙間から日の光や空を眺め、リアンの気持ちも温かくなっていた。ホビーショップへは八百屋から一番遠い所にある。商店街の端と端でひかり観音が目と鼻の先にある。しばらく、歩くと看板が見えてきた。そこはホビーショップ兼模型屋の『KIRITANI』だ。お店の名前には自分の名字を使っている。そして、看板は黄色い背景に文字は赤色。よく目立っている。
到着したリアンは、店の入り口の扉を開けた。ガラス張りの引き戸になっていて、カラカラと音を鳴らしながらリアンは店へと入っていった。
「いらっしゃいませ!」
ひときわ大きな男性の声が店の奥から聞こえてきた。慌てた様子で、奥の部屋から出てきたのは桐谷だった。
「あ、リアンさん。いらっしゃい。どうぞ、中に入って。」
「こんにちは。模型のお手伝いで来させてもらったんですが、お邪魔じゃないですか?」
「邪魔だなんて、そんなことないですよ。さぁさぁ、入って入って。」
リアンは桐谷に促されて、奥の部屋へと足を踏み入れた。ここは住宅兼店舗のようで、住居スペースが隣接していた。案内されるまま進むと、作業中であろうテーブルが目についた。テーブルの上には、スチレンボードの切れ端が隅でまとまって置いてあり、四角に綺麗に切られたスチレンボードが並べられていた。デザインナイフや、カッターナイフ、はさみなども無造作に置いてある。
「ちょうど、今、作っていたんですよ。そこ、座って。」
「大変なのにお願いしてしまってすみません。」
「なに、言っているんですか。僕が作りたかっただけですよ。こういう模型を作るのって、昔からワクワクしちゃって、楽しいんですよね。」
「手伝って頂いてありがとうございます。私も出来る限りやりますので、言ってください。」
「そんなに硬くならないでも大丈夫です。簡単な作業をお願いしますから。」
はじめての模型作りでリアンはガチガチになっていた。失敗できないという怖さと私で役に立てるのかという不安で緊張を解けずにいた。そんな、リアンの姿を見て、桐谷はクスクスと笑いだした。
「リアンさんはどんなことにも一生懸命なんですね。良い所でもありますが、もっと気楽にいきましょ。肩の力抜いて。」
「あ、すみません。初めての事で緊張しちゃって。」
「今回、リアンさんには色塗りをお願いしたいです。僕はボードを切っていきますので、終わったらリアンさんに渡しますね。思い描くイメージで色を塗ってもらえば大丈夫です。何処の部分かは付箋に書いておきます。」
「ありがとうございます。」
テーブルの上に細い筆と平筆がおいてあった。そして、近くには使い古された何色もの絵の具が並んでいる。この絵の具はどうやらアクリル絵の具のようだ。模型には欠かせない絵の具。
「アクリル絵の具は模型に最適なんですよ。乾きも早いですし。」
桐谷が色々模型の事を教えてくれた。作るのが好きというだけあって、部屋にはいくつもの模型が飾られている。綺麗な配色で、まるで本物のような質感。仕上がりがとても綺麗だった。
リアンは早速、塗ってみることにした。と、塗り始めようとしたとき、桐谷が止めた。
「そのままでは服が汚れちゃうので、エプロンしましょうか。後、腕カバーも付けた方がいいですよ。色塗りって知らず知らずにあちこちに付いていることが多いので。僕の貸しますね。」
と、席を立った桐谷はエプロンと腕カバーを手に取り、リアンに渡した。受け取ったリアンは装着して、作業に戻った。
まずは塗る範囲の広い外壁を部分のパーツを手に取り、そこに色を載せていく。桐谷に確認しながら進めていった。下塗りで白を塗るように教えてもらったので、まず白を筆にとった。今回は範囲が広いので平筆で塗っていく。下塗りは薄塗りが基本。厚くなりすぎるとムラになるらしい。緊張しながら、下塗りをしていった。塗り心地が気持ちいい。滑らかに筆が走り、スチレンボードの艶も無くなっていく。白のマット感が強くなり、光沢が消えていった。
「桐谷さん、これって、まず片面ずつ白で下塗りして、乾かしてから反対の面でいいですよね?」
「そうですよ。その方が仕上がりはいいと思います。」
「では、今、切り出してもらったパーツの片面だけ下塗りしちゃいますね。」
桐谷は微笑み、頷いた。リアンは片面だけ、先に塗ることにして、どんどんと進めていった。黙々と塗っていくリアンと、真剣な目でパーツを切り出していく桐谷。二人は喋ることを辞め、集中して作業に取り組んでいた。この二人はどこか似ているのかもしれない。一点集中で周りが見えなくなるタイプだ。
しばらく、時間も経過し、桐谷が声を掛けた。
「ちょっと、休憩しましょうか。」
「そうですね。」
「それにしても、リアンさん、僕となんだか性格っていうか、似ていますね。集中すると、黙々とやるタイプ。僕もなんですよ。楽しい会話の一つや二つ出来ると本当はいいんでしょうけど、僕には無理なので諦めました。」
「ついつい、こういう作業は集中しちゃいますよね。わかります。会話が二の次になっちゃって。性格が似ているからか、沈黙でも、全然気にならないですよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ちょっと、お茶準備しますね。」
二人は笑いながら、肩を回したり、伸びたり、思い思いに体をほぐし、リラックスを始めた。
「リアンさんのアイデアって、いつも面白いですよね。屋根を天窓にするとか、水の再利用とか、人があまり思い浮かばないようなことをバンバン発掘しちゃうんだから、凄いなぁって感心しているんですよ。」
「…いや、そんなことは。ただ、こうなったら、皆さん喜ぶかなとか、問題を解決しようとして湧き出てくるだけなんです。それが実現するなんて、ほぼないんですけど、今回は形になるところまで来ているのが奇跡と思うぐらいですよ。」
「リアンさんの行動力がみんなを動かしているんですよ。これも一種の才能だと、僕は思います。そして、人当たりの良いリアンさんだから応援したいって気になるんだと思います。偉そうなことは言えませんが。」
桐谷は少し照れたような感じで、う。
リアンは必死に走ってきて、気づいていなかったが、桐谷に言われて、ハッとした。周りが笑顔であふれていて、必死にリアンのために動いてくれる人が居て、励ましてくれていた。
リアンは少しでも笑顔に出来ている力を、これからも信じて突き進もうと思い立った。
テーブルの上のパーツが組み上がり、ちゃんとした模型になるまで、桐谷と共に完成を目指していく。




