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第十一話 商店街の畑

閲覧ありがとうございます。

いよいよ動き出したリアンの再生プロジェクト。

今後の動きから目が離せません。

【第十一話 商店街の畑】


 公民館の許可が下りた数日後、公民館利用許可の最終確認のため、役所へ向かう。リアンの夢が叶うかもしれないという現実が足を震わせ、不安と緊張を抱えながら、一歩一歩、歩き出した。冬の寒い時期も抜けて、暖かな春の空気はリアンの心をそっと包み込んだ。ここまで来るまでに沢山、話し合い、どれだけの人に支えられてきたのか、辛い日もあったが、乗り越えてきた。最初は不安から始まった。この商店街の再生も、いよいよ、ここまでたどり着き、その経験が今はリアンの自信になった。最終手続きを前に心が震えている。これは嬉しさからくるものだろう。

 役所に到着したリアンは谷口と待ち合わせをしていた。


「お待たせして、すみません。行きましょう。」

「いえ、いつも時間より早く来ていただいて、助かってますよ。」


 谷口はいつもの笑顔で出迎えてくれた。役所の建物は少し古い建物だが、しっかりとした作りでどっしりとした印象である。1フロアに沢山の窓口がひしめき合っており、人も多かった。その中で、谷口に案内され向かったのが、面談室みたいな部屋だった。狭い部屋に机と椅子が並んでいて、壁にはプロジェクタ用のスクリーンが備え付けられていた。

リアンは椅子に座り、待っていると谷口と一緒に部屋に入ってくる男性がいた。恰幅の良い中年男性の姿だった。髪もしっかりとセットされていて、谷口同様、清潔感は素晴らしかった。リアンは立ち上がり、軽く会釈をする。


「あなたが翔峰リアンさんですね。公民館利用許可の最終確認でお呼びだてしてしまい申し訳ありません。私はこういうものです。」


 リアンの前に差し出されたのは名刺だった。そこには産業経済部部長、田中誠二と書かれていた。話しを聞いてみると、農業、商工会、観光をまとめている部署の部長であることを知った。今回の最終確認には、農業も公民館の利用も併せての手続きなので、部長自ら出向いてもらったようだ。


「翔峰リアンです。よろしくお願いします。」

「お掛けください。それにしてもあなたみたいな若い人が農業に興味を持っていただけたことに本当に感謝いたします。あなたのアイデアは本当に素晴らしい。少し問題もあったようですが、こうして、手続きが出来るようになって本当に良かったです。それでは手続きに入りましょうか。」


 田中部長に真摯にお話しをしていただいた。手続きを進めていく中で補助金の件も話しがあり申請には見積書や収支予算書、事業計画書が必要とのことで、まだまだ、やらなければならないことが多い。補助金交付決定後には領収書や実績報告書支払証明、現地の写真も必要なのだとか。補助金申請にこれだけの書類が必要なことをリアンは知らなかった。


「リアンさん、こういう手続きはなかなか難しいと思いますので、外部委託される場合も多いんですよ。」

「そうなんですね。素人では難しそうな書類ばかりですね。外部委託を是非したいのですが、どこに連絡すればよろしいでしょうか?」

「え~、今回のケースだと行政書士の先生にお願いするといいかもしれません。書類の件はプロの方にお任せして、リアンさんは他に進めたいことを優先して、もらえるように手伝ってもらいましょう。」


 谷口から助言を受けて、リアンの中で行政書士の先生に連絡することを決めた。

 手続きの諸々の説明を受け、いよいよ、リアンの最初の仕事といえる捺印作業へと入る。印鑑を押すたびに責任がのしかかってくるような感覚があった。それは期待の中にある不安。商店街を良くしたいという希望。両極端の感情たちが交互に現れて、押印する手にも力が入る。最後の捺印をするとき、リアンは心の中でつぶやいた。


(絶対に成功させて、商店街のみんなと笑いあうんだ!)


 リアンの決意だった。最後の捺印で、リアンの心は期待が勝っていた。静かに持っていた印鑑を机に置いて、肩を撫で下ろすリアンがいた。


「これで、手続きは終わりです。それでは、公民館の鍵をお渡しして、本日は終了となります。合鍵を2本お渡ししますが、これ以上、合鍵を作らないようにしてください。マスターキーは我々の方で保管しておきます。緊急時には声かけてください。もし、今後、不明なことがあれば、お問い合わせください。」

「ありがとうございます。」


 リアンは深々とお辞儀をして、鍵を預かった。2人に見送られ、役所を後にした。


(いよいよ、始まるんだ。時が経つのは早いな。冬の始まりに思い立って、もう春か。長いようで短かったな。)


 リアンは物思いにふけっていた。沢山の人の協力の下、夢を実現できる事に感謝していた。帰り道に行政書士に連絡もして、資料の作成を依頼して、自宅へと戻っていった。緊張と不安で、少し疲れが出たようだ。

しかし、リアンには今日中にやりたいことがあった。それは新たなSNSアカウントの立ち上げだった。現代ではネットで拡散するのが主流だ。畑をやるにあたり、SNSで拡散しようと考えての事だった。今、拡散に向いているのは、Tolkトルクというアプリだろうか。幅広い世代から愛され、世界各国でも利用者数が多い。

このTolkを使用して、沢山の情報を拡散するには向いている。ホームページも作らなければならないが、こっちはWEBデザイナーに依頼した方がよさそうだ。Tolkのアカウント名を考えることにした。


(商店街の畑、、、畑と私、、、、ひかりの中に、、、、ひかりの中の畑、、!?おっ!いいじゃん!)


 リアンは『ひかりの中の畑』という名前でアカウントを作ることにした。プロフィール欄には『改装中』の文字を載せた。リアンの中では公民館の改装風景も載せて更新するつもりでいる。少しずつ完成していく様を、見てもらいたいからだ。一人でワクワクしながら新しくアカウントを作った。

先の事を考えると楽しみしかない。だが、考えすぎたあまり、ベッドに横になった途端、深い眠りについた。


 朝、目が覚めると、いつものバイトの時間になっていた。軽くシャワーを浴びて、八百屋へと向かう。公民館へはバイト後に向かおうと合鍵を持って出勤した。

 八百屋に着くと大森が準備の真っ最中。リアンは嬉しそうに近付き報告しようと興奮気味に話し始めた。


「おはようございます。おじさん、昨日、手続き全部終わったの!やっと、動き出せるよ!ほら、鍵も貰ったから、バイト終わりに行ってくる!」

「おはよ!おぅ!そうかそうか。良かったじゃねぇか。頑張れよ!」


 大森は笑顔で嬉しそうだった。2人は時間があれば、畑の事を話した。沢山話して、一緒にアイデアを出してもらったりもした。まずは、公民館の現状を調べてから、どんな間取りで行くか、決める必要があった。

 バイトも終わり、リアンは急いで公民館に向かった。バイトの時間中に久保に連絡をして、来てもらう約束もしていた。公民館に着くと久保が先に待っていた。


「久保さん、お待たせしました。」

「リアンさん、こんにちは。申請が通って、良かったわね。私もこれからが楽しみよ。」

「はい!皆さんのおかげで、ここまで来ることができました。ありがとうございます。」


 公民館の鍵をガチャリと開けた。扉を開けると、埃の匂いと湿気の匂いとその中にうっすら畳の香りがした。下駄箱が入り口付近に並び、左右に広がる通路が目を引いた。建物内は土足禁止なのだろうか。スリッパにもうっすら埃が被っていた。


「これから、改装するので今日は土足で行きましょうか。」


 土足で玄関を抜けて真正面にある扉を開けてみた。ノブをしっかり持ち、手前に引いた。しっかりした鉄の扉で重さもある。鉄の扉はひんやりとしていた。


———ギィィィィ・・・———

音を響かせながら、リアンたちは中へ入った。そこは広い空間だった。バスケットポストが備え付けられた体育館でバスケットの試合も出来るような広さがあった。床には多少埃はあるものの、密閉性がいいのか、思っていたより綺麗に保管されていた。道具入れや、ステージもあり、良い体育館であることは間違いなかった。ここを改装するのは勿体ないほどに綺麗だった。


(うわぁ、すごい。これを全部壊すのは勿体ないなぁ。半分の面積を畑にして、一部を体育館として活用できないかな。)


 リアンのアイデアは突然やってくる。直感で、そうした方がいいのではないかと頭をよぎった。農家さんみたいに野菜を売って、生活する人には大きな畑が必要だが、リアンのように農業体験や地域の役に立ちたい人間にとっては小規模の畑で十分すぎるくらいだった。バスケットボールのハーフコートでもスペースを確保できそうだ。公民館の間取り的にこの体育館を中心にカタカナのロの形をして、部屋がいくつもある。水耕栽培やプランター栽培も大いにできる広さだった。


「この体育館。壊すのが勿体ないですね。半分残して、住人の皆さんがスポーツできる空間にしたいんですがどうでしょうか?」

「リアンさんが決めたなら私は何もないわよ。リアンさんが進みたいようにやりなさい。畑の広さ的に問題ないなら大丈夫なのかしら。」


 久保もリアンの提案に乗ってくれたみたいだ。リアンもなんとなく、久保からの期待を受けているような気がした。若い力の自主性を重んじ、尊重してくれたのだと思った。さらに、リアンのアイデアがどんどん湧いてくる。畑の休憩室や憩いの場の用意、更衣室なども完備して、シャワー室も置こうと考えていた。困った事にこの場所にいると沢山の事が沸き上がってきていた。野望のように湧いてくる。ひとまず、体育館から離れることにして、次は周りの部屋を時計回りで一つずつ扉を開けていった。そこには畳と低い机があり、壁際には囲碁や将棋、オセロなど遊べるような部屋になっていた。昔は憩いの場として使われていたのだろう。8畳ほどの部屋がいくつも並んでいた。玄関近くにはトイレも完備されている。

 リアンは畑を作るにあたり、どうしても、作りたいものがあった。それはキッチンだった。採れた野菜を料理して提供するためのキッチン。採れたての野菜のおいしさを知ってもらいたい思いがリアンの中であった


「ここで野菜の料理が提供出来たら、楽しそうだと思いませんか?」

「ふふふ、リアンさん楽しそうね。ワクワクしてるのが凄くわかるわ。リアンさんも正直な人ね。」

「今すごく楽しいです。ワクワクしちゃって。」


 2人は笑いあっている。アイデアを形にする前が一番楽しいと、リアンは思っている。形になった時には達成感が付いてくるからさらに満足感があるのだけど、何もない状態から形にするのはどんな風にでも想像できるのが楽しい。

 あと、気になるのは日当たりの問題だ。リアンは公民館の屋上に上っていった。そこには水道のタンクとソーラーパネルが並べられていた。屋上は暖かく、日当たりはかなり素晴らしいものだ。リアンの構想では、畑の上は可動式の天窓にして、日光が畑に入るようにしたいと思っていた。その為に、屋上の状態が気になっていた。リアンはアイデアは湧くが、プロではない。建築士に相談しようと考えていた。アイデアが通れば、今後の方向性も決まっていく。

 屋上から見るひかり観音は立派なものだった。公民館よりは少し高さがあったが、特に問題はない。ただ、気になるとすれば、やはり虫問題や土の匂い問題で迷惑を掛けないかが心配だった。だが、リアンは住職に条件を出されてから、いろいろと調べた。どうやら、天窓にも付けられる網戸があるらしい。それも、光を遮らない網戸がある。普通の網戸よりは値は張るが仕方のない事だ。その辺も建築士と相談することにした。騒音問題は時間に制限を掛ければ何とかなりそうだった。だが、土の匂いに関してはどうすることも出来ない。結局扉を閉めただけでは天窓から匂いは漏れるだろう。リアンは頭を悩ませていた。どれくらいの匂いがあるのか、さっぱり見当もつかないからだ。


「住職の言っていた条件の土問題だけ、どうしてもいいアイデアが思い浮かばなくて、、、」

「リアンさんでも、そんな事あるのね。きっと大丈夫よ。実際に土を入れてから考えましょ。」


 意外にも久保さんはあっさりとしていて、リアンは驚いていた。久保さんの一言はなんだか勇気をくれる。このまま進んでいいのだと思わせてくれる。凄い人だ。

 リアンたちは公民館の見学を終えて、しっかりと鍵を閉め、構想を練ることになり、振興会組合事務所へと向かっていった。


ありがとうございました。

公民館はどんな形で変わっていくのか乞うご期待。

更新は毎週土曜日の15時です。

次のエピソードもお待ちください。

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