第十話 正しいと正しい
いよいよ動き出すのかしないのか。はっきりとしなかった答えがこのエピソードに載っています。
是非、主人公翔峰リアンを応援してください。
『第二章 挑戦の畑』
【第十話 正しいと正しい】
(う、、、う~ん、、、今日も寒いなぁ。)
ここは、ある日のひかり観音。夜明け前の静寂した時間の流れを感じながら、住職は起床した。作務衣に着替え、本堂を開けた。ひかり観音の本堂には扉や窓が沢山ある。一つ一つ確認しながら、丁寧に開けていく。参拝者用の扉、住職用の扉、採光用や換気用の窓、雨戸や格子戸など本当に沢山ある。すべての扉と窓を開けるには70代の住職は15分掛かる。すべての本堂の扉と窓を開けると次は仏様に向かっての毎日のお勤めである。お経をあげる時には必ず袈裟を着用し、広い本堂にある仏前に住職は座った。
バチで木魚を叩きながら、仏前では自然と背筋が伸び、お腹の底からお経を唱えていく。仏様に向かうと不思議なことに精神が安定していくのを感じた。そして、守られているような包容力もあった。
お勤めが終わり、作務衣にまた着替え、本堂の掃除、境内の掃除を済ませていくと、ようやく朝食となる。白米、味噌汁、漬物、焼き魚、納豆、お茶が定番の朝食である。量は少なめで質素なご飯を頂く。この後は、賽銭箱や灯篭の確認をして、参拝者がいれば挨拶などを行い、一息つく時間が出来る。軽い食事をまた挟みながら、一人でお茶お楽しんだり、境内をぼんやりと眺めたりして自由な時の流れを楽しんでいた。
そんな時、一本の電話が鳴った。農業振興課の谷口からだった。
———Prrrrrrrrrr、、、———
『ひかり観音の住職さんですか?私は農業振興課の谷口と申します。』
「はい、そうです。何か御用でしょうか?」
『突然のご連絡で申し訳ありません。少しだけ会って頂くお時間をもらえないでしょうか?』
「どういったご用件でしょうか?」
『商店街再生に向けてのご相談です。ひかり観音様にお話しを聞いていただきたいのです。』
「わかりました。では、15時にひかり観音の裏口に来てもらってもよろしいでしょうか?」
『はい!15時に伺わせていただきます!』
住職は話の内容に見当もつかなかった。ただ、商店街を再生するために若者が動き出したことは感じていた。
(若い力が未来を創る波動となり、商店街全体を巻き込んでいく。素晴らしい事だ。)
住職は今の時点では若者の力に肯定的な反応を見せていた。ただ、この時だけだった。15時になり、裏口に向かうと、そこには清潔感のあるスーツ姿の若者が立っていた。客間に通し、谷口の話しを聞いていくと住職の顔が完全に拒絶するかのような強い反応を見せていた。
「何を考えてるんだ!仏様を冒涜する気か!!ふざけんな!」
「でも、、、、、しかし、、、、商店街の再生には必要なことです。なんとか許していただけないでしょうか?」
「ダメだ!ダメだ!そんな話を認めるわけにはいかない!もう帰ってくれ!!」
住職は谷口を追い出すかのような強い口調で言い放った。
「でも、、、。」
住職は谷口の言葉を受け入れず、谷口もまた、渋々、出ることにした。谷口が出ていった後、心が落ち着かないのを感じて、夜のお勤めをお休みすることにした。
そして、次の日もまた次の日も谷口はやってきた。しかし、住職は許さなかった。何度も門前払いをしていった。何回も訪問してきていた谷口の姿を見ることが無くなったある日、商店街組合の組合長である久保からの電話だった。
『住職さん、お忙しいところ申し訳ないのですが、今からそちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?5分ぐらいで着くんですがご都合はいかがでしょう?』
「久保さんですか。今からなら大丈夫ですよ。裏口に着いたらインターホン鳴らしてもらっていいですか?すぐ向かいますので。」
そんな2人のやり取りがあり、住職は一人で久保さんが来るまでの間、本堂の中で掃除を行っていた。
———ピンポーン———
どうやら、久保さんがやってきたようだ。裏口に向かうと、そこには3人ぐらいが裏門に立っていた。久保の姿とそして、あの谷口の姿だった。もう一人の女性は初めて見る顔だった。
「また、お前か!!何度来たって一緒だ!!畑なんて許さんからな!!!!」
「あっ、、、うっ、、、、、、、。」
出会った途端に住職は感情が爆発した。先祖から守り継いできたひかり観音の危機といってもいいぐらいの出来事になるからだ。住職にとっては、末代までも守り抜いていかなければならない義務があった。
いろいろと話しをしていたようだが、住職は耳を傾けず、許すことはしなかった。ただ、一つの言葉に住職は引っかかっていた。それは『守る為に止まることも、守る為に動くことのどちらも守りだということ』。その言葉が妙に住職の心に残ってしまっていた。その日は心が波打っていたため、お勤めをすることを控えた。
次の日もまた次の日もその言葉だけが、住職の意識にとどまり続ける。
数日が経った時、ちょうど朝のお勤めでお経をあげていたら、それは住職の心がパァーンと音を鳴らして開いたような気がした。仏様からのお告げなのか許しなのかはわからない。『無理をしなくてもいい。止まらずに前に進め!』と、言われてるような気がした。仏教において、人を大切にするというのは大事な教えだ。今の住職は人を大切に出来ているのかと、自問自答を始めた。頭をよぎる、あの娘の言葉。信じてみてもいいかもしれない。そう思ったとき、住職はメモ用紙に言葉を書き始めた。いま、住職として守るべきものを。
まず第一にお勤めの時間。騒がしい中でのお勤めは支障が出る。この時間の静けさは絶対条件。あとは、虫問題。大量発生は当然ながら避けてほしい。虫も生きるものだから、生命を重んじてきた教えでは殺生は出来ないと考えたため、本堂内への侵入に抵抗を見せた。土の匂いに対しても多少は匂いが出る。だが、全てを拒んでもいいものか。生を受ける植物も大概、土を栄養として、育っているのではないか。木も植物も花も。すべてを拒むのは仏の教えにとってどうなのだろうか。紙に書きながら、住職は悩んでいた。若い者たちが力を合わせて、商店街の復興に力を注ごうとしている現実。それを私自身が拒んでいるだけではないのかと。仏様を理由にして抵抗をしているだけではないかと。少し、悩んだ末、導かれた答えを谷口に伝えようと思い、電話をすることにした。
———Prrrrrrrr———
「わしだ、ひかり観音の住職だ。」
『じゅ、住職さん!?え!?どうして・・・!?』
「いや、なに、、、先日の話しだが、、、受け入れることにする。」
『え!?本当ですか!?いいんですか!?。』
「ただし、条件は提示させてもらう。まず第一にお勤めの時間は静かにしてくれるか。第二に虫の大量発生の防止。第三に土の匂い問題だ。すべて、なくせとは言わん。問題を解決できるように対応をしてほしい。俺からの条件はそれだけだ。」
『わかりました。ありがとうございます。今度リアンさんと共に伺いますので、よろしくお願いします。』
住職は少し肩の荷が下りて、スッキリとしていた。仏像に目をやると、心なしかにっこりと笑っているような気になっていた。
(これで良かったんだ。ここから、ひかり観音、商店街、公民館跡地の活用を見届けていこう)
窓から空を眺めながら、心に語り掛ける様に言葉を紡いでいった。
数日後に、八百屋でバイト中のリアンのもとに一本の電話が入った。谷口だった。
『リアンさん!!届きました!!届いたんです!!!!住職から条件付きならと了承いただけました。上手くいけば、もう半月で準備が整います!!』
「え!?ホントに!?よ、良かった、、、。ありがとうございます!!これで動き出せますね!条件とは何だったのでしょう?」
『住職から言われたのは、お勤めの時間帯は静かにすること。虫の大量発生をさせないこと。土の匂いを極力減らすこと。この3点です。対応できそうですか?』
「はい!考えてみます!住職さんにも直接お礼をしたいので、後日、一緒に行ってもらえませんか?」
『勿論です。では、僕は手続きに入らせていただきますので。この辺で。』
リアンは驚きと共に頭が真っ白になっていた。本当の事なのか、あの住職と対話した時の事を思い出してみても、信じられない気持ちだった。近くにいた大森に近況報告した。
「おじさん!手続き上手くいきそう!住職さんから了承を得ることが出来たみたい!」
「おぅ!そうか!よかったな!まずは、第一関門突破だな!これからも大変なことが起きるかもしれないが、がんばれよ!ここからだぞ!」
リアンは目が覚めたように喜びを表情や体を使って飛び跳ねる。それを見た大森も嬉しそうにしていた。ここからのリアンたちの頑張りに期待する意味も込めて、愛情のある言葉、そして、前向きに問題に取り組めるように声を掛けていた。
そして、後日、リアンと谷口と久保の3人で再び、住職に会いに行き、お礼をすることにした。裏門のインターホンを鳴らすと、作務衣を着た住職が出迎えてくれた。住職はそのまま客間へと迎え入れてくれ、お茶も出してくれてゆったりとはなしをする。
「先日はすまなかった。」
まず、最初に話しを切り出したのは住職だった。
「あの時は少し、頭が固くなっていたようだ。ずっと、自分のやっていることが守ることなのか。正しいのか。ずっと、考えていた。だが、違った。私のしなければならないことは人を大事にすることだった。そして、若い者の力を信じる事だった。その部分をはき違えてしまっていたのかもしれない。条件を提示したように3点だけさえ守ってくれれば、ひかり観音として受け入れる事にした。この商店街をより良いものに仕上げてくれるか。」
「こちらこそ、ありがとうございます。長年、大事にされてきたからこそ、拒むしか出来なかったことも私たちは理解しています。歴史を変えるようで怖さもあるでしょうし、仏様を守る為の行動だったので、お互いの言い分のぶつかり合いは仕方なかったかもしれません。ここにいる人たちは全員正しい事を言っていました。正しさの中でのぶつかり合いでした。しかし、住職さんの柔和な考え方で私たちの道は開かれました。これは感謝してもしきれないぐらいの前進だと思います。本当にありがとうございました。」
リアンはこう述べると深くお辞儀をするとともに、安心したからか、うっすらと瞳を光らせ、一滴の涙を流していた。驚いた住職は近くに置いてあるティッシュを差し出して、こう言った。
「リアンさんだったかな。これからはご近所さんとして、仲良くしてくれるか?」
住職はにっこりと笑った。それはもう、仏のような顔だった。全部包み込んでくれそうな笑顔をリアンに見せた。
「はい!これからもよろしくお願いします!」
涙を拭きながら、リアンは再び深々とお辞儀をした。
話しを終えて、帰宅するときに住職がリアンに声を掛けた。
「リアンさん、あなたは凄い人だ。これからも応援してるから。頑張って。」
「ありがとうございます。」
そういって、リアンたちはひかり観音から離れたのだった。
それから、半月が経った。リアンのもとへ谷口と久保がやってきた。
「リアンさん!提案書すべて通りました。これから、本格始動できます!公民館の改築も地域利用の名目で改装も出来るみたいです。本当に、良かったです!」
谷口は涙をぬぐいながら、報告をしてくれていた。ひかり観音の件で沢山頭を使い体を使い、住職を説得してくれたこと、そして、リアンのために上司に掛け合ってくれたことに嬉しさが込み上がり、谷口と共にリアンも泣き崩れていた。今、ここからリアンの挑戦が始まる。苦しい事も悲しい事も、みんなとならば乗り越えていけそうな気がしていた。
「・・・ありがとうございます。ありがとうございます。まだまだ頑張っていきます。不慣れな私ですが、どうか、また助けてください。お願いします。」
「もちろんです!絶対に成功させましょう!」
リアンと久保と谷口の3人でお互いの事を労い、この日は過ぎていった。
閲覧ありがとうございました。
今回のエピソードはどうでしたか?次回から第三章へと移ります。
公民館の改装、働き手、土、道具、沢山のものがまだ足りていません。
ここから、リアンがどう進めていくのか。お楽しみください。




