禅。( 単章 )
高野山の静かな山々の中、時が冷たい水のように千年の石を流れていく場所に、世界から忘れられたが風には覚えられていた寺があった。そこには、頭を剃った、しかし心は落ち着かぬ若い僧・リクが住んでいた。
リクは沈黙のために生まれたわけではなかった。幼い頃から、川のささやきを言葉のように、木の葉の揺れを歌のように感じていた。寺の鐘の音と、目を閉じていても何かを見ているかのような師・宗円の譬話の中で育った。
「空は語る。ただ、返事をしない覚悟があるならな。」
そう師は言いながら、石庭の手入れをしていた。まるで運命そのものを整えるように、砂の一粒一粒を動かしていた。
だがリクには、それが理解できなかった。すべてが結局「無」に還るという考えに、耐えられなかった。経典を読み、断食し、夜の崖の頂上へと歩いた。それでも疑問は、言葉の間に苔のように生い茂った。
ある夜、満月が小さな池に映る中、リクは師に尋ねる勇気を出した。
「宗円様……禅の中心には何があるのでしょうか?」
老人は彼を見つめた。目ではなく、沈黙で。その後、水で地面にこう書いた:
「無」
翌日、宗円の姿は消えていた。手紙も、足跡も残さず。ただ沈黙だけが残った。悟りを得るために旅に出たと言う者もいれば、もう何年も前から悟っていたが、リクだけが気づかなかったのだと語る者もいた。
胸をかじるような不安に包まれ、リクは寺を離れた。持っていたのは僧衣と木の杖、そして心に焼きついた言葉「無」だけ。村々をさまよい、隠者に尋ね、洞窟で眠った。皆が答えをくれたが、どれも心を満たさなかった。
旅の二つ目の冬の朝、一本の枯れた桜の下で、一人の老旅人に出会った。衣はぼろぼろだったが、目には風のない湖のような静かな光が宿っていた。
「何かを探しているのかね、若者?」
「禅を。」リクは答えた。「でも見つかるのは言葉ばかりです。」
老人は微笑んだ。
「じゃあ、探すのをやめなさい。禅とは、禅を探すのをやめたときに初めて現れるものだよ。」
リクは叫んだ。怒りではなく、苛立ちから。杖を地面に叩きつけ、腰を下ろし、黙った。老人は何も言わず、ただ見つめていた。
そのとき、桜の花が咲いた。
そして、その二つの呼吸の間に収まる一瞬の中で、リクは何かを理解したような気がした。
けれど、本当の悟りとはそういうものだ。言葉ではなく、言葉の間にある。そして、訪れるときと同じように、静かに去っていく。
リクはまだ禅とは何かを知らなかった。
だが、生まれて初めて――
知る必要はないと思えた。
リクは、そこに何日も留まっていた。
食べ物を求めることもなく、何かを尋ねることもなく、ただ観察していた。太陽に温められる石、山を渡る雲の影、寒い朝に言い争う鳥たち。まるで世界はずっと語りかけていたのに、自分があまりに大声で叫びすぎて、聞こえなかっただけのようだった。
あの老旅人は、霧の深いある夜明けに姿を消した。別れの言葉すらなかった。リクは驚かなかった。探しもしなかった。
やがて彼は、近くの村の人々を手伝い始めた。田植えをし、水を汲み、盲目の老婆の世話をした。子どもたちは彼を「無口な坊さん」と呼んだが、彼は僧侶でもなければ、無口でもなかった。ただ、言葉にもう疲れていたのだ。
ある日、細い三つ編みと赤い頬をした小さな女の子が、彼に尋ねた。
「リクお兄ちゃん、大人になったら何になりたいの?」
リクは考えた。そして空を見上げた。空は、いつものように何も言わなかった。でも、それでいて、すべてがそこにあった。
「……風になりたい」と彼は答えた。
「でも、風にはおうちがないよ?」
「僕にもないから。」
女の子は笑った。リクも笑った。
年月が過ぎた。ひげは伸び、顔に皺が刻まれた。それでもリクは、あの寺には二度と戻らなかった。戻る必要もなかった。
なぜなら、あの師・宗円に禅の中心を尋ねた、あの湖でまた足を濡らしたとき――
ようやく理解したのだ。
禅とは、答えではなかった。
禅とは、問いかけ、そしてその響きを自分の胸の奥で聴くことだった。
禅とは、ただそこに在ること――冷たい水、裸足の足、肌を撫でる風と共に。
急がず、恐れず、確信すら持たないこと。
彼は湖の水面に、指でこう書いた。
「無」
やがて水がその文字を消したとき、彼は微笑んだ。
その一瞬、ひとつの思考ともうひとつの思考の間にある沈黙のなかで――
リクはもはや探す者ではなかった。
彼自身が、探求そのものとなっていた。
[ 禅。:終わり ]
そして…これは私の最初の物語です。気に入ったら、下にコメントしてください