第九話 人間サンドバッグ
「ああ~イライラする」
彼女は家に来るなり露骨に不機嫌そうな顔をしていました。
「ったく、あのエロ部長め。また俺様の尻を勝手に触りやがった。ったく、会社はキャバクラじゃねーっつーの!」
どうやら、彼女は会社で上司にセクハラをされたようです。
見た目が綺麗な彼女は、良く会社でセクハラにあったり電車で痴漢にあったりします。ですが、空手三段の彼女にそんな事をしたらどうなるか……。想像しただけで、相手の方が気の毒になってきます。とにかく、こんな時の彼女には近寄らないのが一番です。僕は、TVの音量を上げて聞こえないフリをする事にしました。
「ナマステ、ナマスカ、ナマステジー。インドの国からこんにちわ。魔法インド少女ナマステ参上!」
「おい」
「真身如来、応身如来、釈迦如来! 天罰テキメン、ゴーダマ・レボリューション!」
「聞こえてんだろ、コラ」
「この世に悪が栄えた例は無いのよ! インドの平和を乱す奴らは、この魔法インド少女ナマステがお釈迦様に代わってぶっ飛ばしちゃうぞ♪」
「お前も、ぶっ飛ばされてぇのか?」
僕は慌ててTVの電源を切りました。彼女の方を見ると、鬼のような形相で僕を睨みつけています。いや、きっと実物を見た事はありませんが、今の彼女に比べたら鬼の方が可愛く見えるに違いありません。それ程、彼女は恐ろしい顔をしていました。
「お前は何だ?」
腕を組みながら言い放つ彼女の突然の質問に僕は困惑しました。
「お前は何だと聞いている」
ボキボキと指を鳴らしながら、彼女が聞いてきます。僕は、ハッと気がつきました。
「僕は……サンドバッグです」
「正解」
彼女はニコリと微笑むと、僕に渾身のボディブローをかましました。
僕の彼女はドSです。




