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第8話 切り捨て末席、借金をする


「とりあえず話を聞かせて。融資はそれから」


 明らかにしょぼくれたケイを椅子に座らせて、まずは何故金が必要になるか聞き出そうとする。


 シャーレの幼馴染は交渉担当、見た目に圧があるシャーレよりも弱そうに見えるが相手の真意を捉えようとする目をしていた。


 素直にストンと対面に座ったケイは少し間を置いてから話し始める。


「シャーレさんが酒場で鶏肉を貪り食って出て行った後の話だ」


「待って、アタイそれ知らないんだけど」


「自分のこづかいで食べたから文句ないだろ!?」


「だから昨日の晩飯を残しかけて…………この話は後でするとして、続けて」


「あ、ああ。俺もちびちびと飯を食い終わって酒場を出たんだ。それで宿に帰る途中で路地裏から出てきたやつにぶつかられそうになったんだ」


 ケイは思い出す。月明かりが少ない夜だった。


 特に酒も飲んでいないので酔っ払うことなくスタスタと宿へ向かう途中、物陰から誰かがぶつかろうとしてきた。


 そのままぶつかった、訳もなくケイは自然な動きで出てきた人物を回避した。


 その際に何か手を伸ばされて裾の端を掴まれたのだ。


 相手が悪かったとしか言いようがない。引っかけたところでどうにかなるような相手ではない。


 まるで大樹に手をぶつけたかのように逆に引っ張られて情けなく転んだではないか。


 転んだ場所が悪かった。近くには古ぼけた骨董屋があり、彼の裾を掴んだ者は慣性を保ったまま頭から突っ込む。


 ばきばき、がっしゃん!


 そんな音を立てながら何者かは骨董屋に突っ込んだ。明らかに多くのモノを壊した音が聞こえる。


「あ、やばいかも」


 骨董品とは案外高い品物が並ぶことが多い。小さくとも歴史的価値だの美術品としての質だので値段を吊り上げてくる。


 そういった品物を壊しつくすような音が、聞こえてしまったのだ。


「な、何の音だ!」


「うわっ、これゼペン爺さんの店じゃないか!」


「何があったらこんなことになるんだよ…………?」


 実際、ただ突っ込むだけなら壁を破壊して中まで到達することは無い。


 ケイが無意識の防衛反応として勢いを付けさせて倒すように動いてしまっていたのだ。


 その結果、事情聴取によって骨董屋に突っ込むことになってしまった者はスリであり様々な前科によって牢屋に入ることになったが、何もここまでしなくともという理由で骨董屋の弁償はケイが行うことになった。


 なってしまったのである。


「いやさあ、分からんでもない話ではあるけどさぁ、まさか賠償責任が俺になるって思わなかったんだよ」


「何というか、不幸な話だな。抗議はしなかったのかい?」


「やったに決まってるだろ。でもどう抗議しようと責任は俺にあるって言うし…………」


「なるほど。ジジイは無駄に周囲に圧力掛けたりできるから失った分を取り戻そうと躍起になってるわけですかい」


「やっぱり年寄りはさっさと死ぬべきだな。どいつもこいつも金金…………先が短い癖に何をそんなにもとめてるんだか」


「それで、持ち金ないから借金ってことになったんだが…………」


「いくらだい?いい値で身体を買ってやろうじゃないか」


 シャーレが言う身体とは性的なことではない。いや、もしかしたら含まれているかもしれないが戦場で手となり足となる労働力である。


「……………………200万セリ」


「何だって?」


「200万!セリ!高いのをそこそこ壊して200万セリの借金だよ!」


 びたん、と勢いよく机に突っ伏した。


 金額を聞いてシャーレも幼馴染も若干苦い顔をした。


 セリ、という単語は通貨の単位である。100リラあれば一食のパンにありつける程度に考えてもらったらいいだろう。


 そして200万セリというのは普通に大金である。ケイが王国で騎士をやっていた頃の給料が30日で20万セリだった。


 ちなみに本来の騎士なら下でも30日で100万セリ、上になれば1000万と大金を配られるのだが、死んでほしいと願われていたせいで余分とカットされていた。


 生活費と装備代で消えていく給料、もちろん本来なら支給されるが前線で戦い生き延びる以上、カスタマイズが必須であるため余計な出費がある。


 死んだふりする際に持ち出せた金銭が少ない理由にこれが含まれる。


「200万セリかぁ、出せない額ではないが少なくない額だな」


「これでも減った方なんだぞ。最初は500万セリ取ろうとしてきたから…………」


「あのジジイいくらなんでも業突く張りやすぎないか?」


 傭兵業も実際楽な仕事ではない代わりに得られる金は多い。装備の整備で出費が嵩むが確実にプラスにはなる。


 信用問題ではあるが、肉壁をケチれば危ういのは自分なのだ。多少割高でも命に変えられないのだから。


「まあいい。200万セリは貸せる。ただし、幾らか仕事を一緒にしてもらうからねぇ」


 丁度いい鴨ができたとシャーレとその幼馴染はニヤリと笑う。


 一度壊滅はしたが傭兵団を再興できるのなら多少のトラブルメーカーは飲み込もう。


 むしろトラブルがあるからこそ面白い。酔狂な考えを持つ2人に対してそこそこ真面目そうに見せるケイは聞く。


「…………ちなみにだが一回の戦場でどれくらい返せる?」


「一回20万ってところかねぇ?」


「そうそう!ちなみに利子として少し抜くから最低でも11回は一緒に戦場で背中を任せますよぉ?」


 へっへっへっ、と獣じみた笑いと勘定に浸る笑いを聞いて、ケイは再び机に突っ伏すのであった。



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