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第5話 切り捨て末席、山賊の頭領と対峙する


 山狩りを一人で始めて一刻も経っていない。


 だがほとんど殺し尽くした。転がる死体、首だけになった山賊がそこらかしこに転がっていた。


 切り殺したら問題ない。命を奪う存在から肉塊に変えた相手は命を奪いに来ないので気にしていないのだ。


 そうして、本来なら山で狩りをする狩人のために作られた小屋まで来た。


 残念ながら盗賊の棲家となってしまい本来の役目を果たさずにいるが。


 小屋の中に山賊の頭領は居るのか。それともとっくの昔に逃げ出しているか。


 足跡自体は沢山あるが、物資を一箇所に集めてから出ていこうとしていたようで、どの足跡が頭領のものなのか分からない。


 しかし殺気だけは小屋から伝わってくる。


「すみませーん!誰かいますかー?」


 そんな罠が仕込まれている可能性が高いであろう小屋の扉をドンドンと叩き、大胆不敵に大声で呼びかける。


 出てくるなら良し、降参してくれるならなお良し。


 襲いかかるなら殺す。それだけだ。


「誰かいますよねー?バレバレですよー!」


 ドンドンと叩き続けていたが、再び扉を叩こうとした瞬間に扉が内側へと開かれ、中から鈍く輝く剣が突き出てくる。


 それをやや前のめりになっていたが片足の力だけで後ろへと跳び無傷で凌ぐ。明らかに普通の人間が行える技量ではない攻防をこの瞬間に行われた。

 

「…………分かってたがタダもんじゃねえな。何者だ」


「そっちこそ誰だよ。ここら辺の山賊とか聞いた事なかったんだけど?」


「知った事か。チッ、ついてねえ」


 山賊の頭領が薄暗い小屋の中から姿を現す。


 その姿は益荒男そのもの。服は薄いがその分筋肉は分厚い。一般人の前に立ち塞がったら死を覚悟する迫力を持つ目つきの悪い男こそ山賊の頭領だった。


「他の雑魚どもはどうした?」


「どうなったと思う?」


「なるほど、全員ヤったか。狂ってやがる」


「賊をやってる奴よりマシと思うけどな」


「違いねえや。お前も俺も、どうせろくでなしだろ」


 売り言葉に買い言葉。しかしお互いが只者ではないという方は理解した。


 ケイの方は山賊の頭領が元騎士の類であることを。山賊の頭領はケイが化け物以上の何かである事を。


 もはや逃げられない。そう感じ取った山賊の頭領は一か八かを仕掛けるほかなかった。


 背を向けて逃げようとしたところで背中をバッサリ斬られて終わり、ならば奇跡を祈りながら最高の一撃を叩き込むしかない。


 ケイの予想通り、山賊の頭領も元は騎士であったが実家が没落して権力を失い数年前に山賊へと転向したのだ。


 元々あった実力からあっという間に頭領の地位についたが、気づけば腕はさび付いていた。


「(これは年貢の納め時かもな)」


 目の前に唐突に現れた実力者の前で自嘲する。


 愛用していたサーベルに力を、魔力のありったけを籠め始める。


 何を思っているのかその様子をただ眺めている目の前の男に何を油断しているのかと思っていたりするが、時間を作ってくれるのであれば好都合というもの。


 己の人生で学んだこと、磨き上げた事、既に色あせてしまったが過去の栄光を僅かにでも取り戻すこと。


 全力で戦え、全力を出し切れ、全力で抗え。


 目の前の相手はかつて戦場で恐れられた死神と思え。そして、『死』に抗うために全力を尽くせ。


「貴様が誰かは知らん!だがな、俺は死にたくないんでな!お前が死んでもらう!」


 ため込んだ力を爆発させたのか周囲が全て山賊の頭領から放たれる魔力に包まれる。


 並の人間なら卒倒してまな板の上に乗る魚のようになっていただろう。実際、彼の部下が周囲に居たとしても役立たず以下の存在になっていただろう。


 この一刀に全てを賭ける。ぎらついた生きる意志を見せる山賊の頭領を、ケイは無表情で見つめていた。


「うおおおおおおお!喰らいやがれ!」


 全てはこの一挙手一投足にかかっている。その場で踏みとどまっているが、近寄る必要もない。


 何故なら今から放たれるのは彼の人生の中で間違いなく最高の斬撃なのだから。


「『大地喰らう衝撃グランドバイツ・クラッシャー』!」


 ガオウ、と獣の咆哮の如く勢いよく振り下ろした剣は多くの魔力を含んでいた。


 上から叩き落とされる魔力の物量にやや目を丸くしたケイは剣を構えて打ち消そうとする。


 それが狙いだった。


 上に木を盗られた瞬間に下からも魔力の下顎が盛り上がり、そのまま大地ごと喰らわんと口を閉じようとする。


 そう、これは上下から魔力の暴力で挟み込み嚙み潰す奥義。


 周囲全体に無駄に魔力をばら撒いたとみせかけて地面の下に仕込みを済ませてから放たれる厄災に近い攻撃なのだ。


 今までこれを喰らって生き延びた人間は片手で数えられる程度だ。


 それほどまで自信を持ち、人生で最も輝いたはずの奥義だった。


 落ちぶれてなお健在、正しい戦場で戦い続けていたらもっと輝いていたはずだっただろう。


 |全く手ごたえがない現実だ《・・・・・・・・・・・・》。


「その技、極めてたら全力で対応してたかもな」


 あまりにも手ごたえの無さと声が眼前でしたためとっさに顔を上げた。


 そして首と胴体がずりおちるようにゆっくりと離れていく。


「(いつ斬られた!?いや、それよりもどうやって避けた!)」


 首だけになり飛びそうな意識をかろうじて繋ぎ止める、ケイの後ろに未だ残る魔力の顎を見てあっ、と声は出ずとも口を開く。


 中身がくり抜かれている。さながら生物の口腔のように人間一人分が空洞が出来ていた。


「(な、なんつー技量。わざわざ魔力をあの一瞬でくり抜いて…………)」


 驚愕の中で、ついに山賊の頭領の目の前が暗くなり始める。


「(何を間違えたんだ、俺は。どこで…………道を間違えたんだろうなぁ)」


 どさり、と地面に落下した衝撃と最後の懺悔が同じタイミングで重なった時、山賊の頭領は完全に意識を手放した。


 残るのは勝者のみ。ただし、その服と剣に一切の返り血はない。


「悪いな、俺も死にたくないんでね」


 冷めた目で事切れた首を見つめるケイは、結局生きるために誰かを殺すのかと嫌な気分になった。


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