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第16話 切り捨て末席、傭兵として帰還する

「よくやった!確かに王国騎士が居るかもしれないという危惧は最初からあったが、こちらの騎士が到着するまでに制圧どころか討ち取るとは!」


「いやあ、指揮官様の指揮が良くてアタイ達も普段より動けたおかげですよ。今後ともごひいきにおねがいいたしやす。ところでぇ、討ち取った騎士の首とか装飾とかなんですけどぉ」


 王国騎士の2人が討ち取られ半刻ほど時間が経ち、瞬く間に制圧した戦場をご満悦で褒め称える指揮官と、媚を売りながら配当金を吊り上げようと交渉するシャーレの幼馴染を横目に、ケイは適当に転がっていた木箱の上に座っていた。


 中身は既に他の傭兵団の手によって抜き取られ空になっていたが、血や土で汚れているため価値は全くない木箱となっている。


 そんな中、せっせと傭兵や帝国兵たちが王国兵たちの死体処理をしているのをただ眺めていた。


「若いの、こういうのには慣れてないか」


 両手に大量の物資が入った箱を抱えたアンジャイが通りかかり、妙に気の抜けている、いや魂が抜けているケイに声をかける。


「…………まあ、確かに慣れてはないな」


「何も叩くだけが戦仕事じゃない。金はもちろんだが、後処理だって大事だ!こういう武器防具の残骸も集めて溶かせば金になる!死体は放置すれば疫病になる!」


「そうか、確かに…………勉強になる」


「まだまだ学べる事はたくさんあるのは良い事だ!俺くらいの年になりゃ学ぶことは死ぬことくらいだ!」


 がっはっは、と豪快に笑うが未だに現実味を帯びていないケイは彼等の目にどのように映っているのだろうか。


 当人としては、こんなにもあっさり戦が終わったためしはなく、命からがら帰ってきても誰にも褒められることもなく、むしろ部下を死なせたことを叱責される始末。


 明らかに労働環境が釣り合っていないと言われたらそれまでだが、それを加味しても彼は恵まれていなかった。


 切り捨て末席にとって、王国では身と心を削りようや得られる筈の数少ない勝利が、こうもあっさり得られたことに実感を持てないのだ。


「まだ気が抜けてんのか?」


 兜を外し、他の傭兵と同じように作業しているシャーレもケイの座る木箱の近くへ来た。


 人形を破壊した二振りでと王国騎士を殺した一振りで何らかのダメージや代償を負ったのかと思うほど、ケイは戦場での戦いっぷりから想像できないほど力が抜けているように見えたのだ。


 人には秘密がつきものであるとはいえ、こうも変わられては困るというもの。


「働きすぎも悪いけど、今は何も考えず動くべきだ。ほら、これ持って向こうに運べ」


 突然仕事を任されたとはいえ、下積みから王国騎士末席を経てこき使われてきた男。とっさの仕事も難なくこなす。


 資材の仕分けはいつもしていた。何故なら死にゆくばかりの前線に与えられるのは元々廃棄処分に近い武具しか与えられず、質のいい部下も付けられない。


 むしろ懲罰部隊としての側面が強かった前線に、末期になればなるほど真面目な奴は少なかった。


 よって、下働きじみたことに関しては他の騎士よりも得意ではあった。


 せっせと働いているうちに日が暮れ始め、仕事は終わりだと言わんばかりに帝国兵や傭兵たちが飯の準備をし始める。


 戦場では自炊が基本、それか持ち込んだ携帯食料で済ませるのだ。


 しかし、今日は快勝、あっという間に逃げて行った王国兵の事を気にせず食事を取ることが出来るのだ。


「おい、そろそろ飯の時間だってのにまだ動てるのかい?」


 そんな中でも未だに何か仕事をし続けるケイにシャーレが待ったをかけた。


「これから飯時だってのに、いつまでも働いてたら時間を逃すぞ」


「でも、まだやることが…………」


「やることもなにもない!私達の仕事は戦うこと!こんな時に体力使うよりも飯を食って寝ることほど重要なことがあるか?」


「敵の警戒…………」


「死神も居ないのにする必要ない!こっちこい!」


 ワーカーホリックかと思うほど何かしていないと気が済まないケイの首根っこを掴み自分達が敷いたキャンプ地へと引きずっていく。


 本当に騎士を二人倒したのかと思うくらいに気の抜けた男を若干の怒りを込めて強く引っ張るが動じた様子はない。


 シャーレの幼馴染が焚火で鍋を食べ物を煮込んでいるキャンプ地であるが、質素ながらそこそこ質が良いように見える。


 野宿ではあるが、地面は土ではなく敷物を敷いており、他の傭兵と違って気品が見えた。


「なんだここは…………」


「アタイ達の拠点ですが?」


「いや、敷物…………」


「乙女に地面は肌にダメージがいきますのでねぇ」


 へへへ、といつもの三下臭い笑いをしながら鍋をかき回している様はどうみても怪しさしか見当たらない。


 それでも飯を提供するつもりではあるし、こちらを労おうとしている意図も見えた。


「ほら、今は精のつくものを食べて、明日に備えましょうよ。ほれほれ、いい匂いでしょう」


 各所で火を使った料理の香ばしい匂いがケイの鼻腔をくすぐる。


 確かに動き続けてたら腹が減る。


 しかし、撤退戦では食べる暇もなく何日も戦い続けてたこともあった。


 即日に帰れたとしても碌な食事が取れないこともあった。


 しかし、今日は違う。


 いつもは居ないはずの仲間がいる、この場合は債権者ではあるが。


 戦場の近くで温かい飯を食う機会も今まではなかった。


「よし、行き渡ったな。食うぞ」


「店の飯よりから自信ありませんが、口に合いますかなぁ?」


「泥水啜るよりマシだ」


「あの、アタイも流石に泥水と比較されるのはキレてもいい案件ですが?」


 包丁を投げられそうになったが、3人で温かい粥を囲むのであった。


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