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第14話 切り捨て末席、初めて王国騎士と対峙する


 怒号、怒号、また怒号。戦争が終わるまで決して絶えないであろう罵声や悲鳴が上がり続けている。


 どう見ても王国側は敗北確定であり、ボーナスと言わんばかりに帝国兵士と傭兵達が突き進んでいく。


 だが、騎士が居れば話は変わる。


「いけいけ!あ、あれは!」


「チッ、ここで出てきたから一回引け!」


 明らかに色づいて派手な鎧を纏う騎士が前に出たら嫌でも分かるだろう。


 ようやくではあるが王国が本腰を入れて攻略しに来たのだと。騎士が動き出すということはこちら側の殲滅を進める合図、傭兵たちも一度様子を見るために引き下がる。


 帝国兵士も引こうとするが、前へと出てきた王国騎士が颯爽と駆け抜けたと思うと振り返る。


「傭兵には興味ないね、帝国諸君!」


「我らの演劇を見たまえ!」


 きいん、と剣がぶつかる金属音と共に二人の騎士の背後から、新たに騎士が現れる。


 否、正確に言うと騎士のような人形であった。関節に当たる部分は球体となっており、人よりも滑らかな動きで兵士たちの周りを複数の人形が囲い始める。


 そして、手に当たる部分が鋭い刃となっており、軽く振るだけで簡素な鎧を容易く裂く。


 王国上位騎士十階位クライン率いる『劇団』所属騎士。彼らは演劇のように戦い華麗に戦場を駆け回る。


 まるで芸人のようにふるまい、称賛を得るために命を懸ける。


 彼らへの紙吹雪は代わりに敵兵の血しぶきとなり、そしてエンドロールに騎士しか居なくなる。


「がああ!う、腕が!」


「いや、よく見ろ!人形は糸で操られている!糸を切りゃ動きは止まる、はずだ!」


 歴戦の傭兵であるアンジャイが周囲に知らせた。


 何度か騎士との戦闘経験がある彼は全てではないにしろ情報も武器にしており王国騎士の特徴をある程度把握していた。


 王国の上位騎士は階位によって戦闘スタイルが偏る部下を配置している。


 戦闘スタイルが似通ったものを集めたら切磋琢磨しやすく、互いの技術を盗みやすい環境を整え一点に特化しやすい騎士が集まるのが王国騎士の特徴であった。


 それ故に熟練、もしくは王国との戦争に多く参加している者にとって判別は容易いのだ。


 だが、それはそれとして対応は難しい。傭兵にも魔力を扱い戦う者もいるが、騎士という国家公認かつ師が多く存在する贅沢な集まりに比べたら練度ははるかに劣る。


「ぬおお!やりおる!」


「うおっ!?危ねぇ!人形風情が人の戦いに入ってくんじゃねえ!」


「シャーレ!大丈夫!?」


「アタシは平気だ!けど、これ不味くなってきてるかもねぇ!」


 人形自体は大したことはない。しかし、糸を切り倒れたとしても再び糸を繋がれては動き出す。


 人形自体も材質がとても良く、綺麗に切ってしまった場合だと縫合されて再利用される事も多々あるのだ。


 数の不利を質と量で補う2人の騎士に傭兵達は苦戦した。


「うわ、クラインのとこかよ。また無駄に装飾だけ凝ってるなぁ」


 たった一人、明らかに気楽そうな奴を除いては。


「ケイ!あれがどこのだか知ってるのか!?」


「名前は知らん。だが王国の上位騎士の下っ端なのは分かる」


「んなもん誰が見ても分かるんだがぁ!?」


 何とか人形を追い払うように大剣を薙ぎ払いつつ怒声をあげるシャーレだったが、ケイはそれらの人形を操る騎士に心当たりはない。


「それにしても戦術人形が4体か。弱い方だな」


「厄介なんですけど!?弱いんだったらお前が対処しろよ!?」


 シャーレの幼馴染が無茶振りをかましてくるが、それが無茶振りになるのは普通の傭兵だけである。


 死神の前で人形遊びなど、まさしく児戯なのだから。


 人形が踊り狂うように傭兵達へ襲いかかる中、ケイは1人でガチャガチャと鎧を鳴らしながら近づいていく。


 普段なら鎧が擦れる音など出さないが、それを気にしないほど気が落ち着いているということでもあった。


 もちろん、そんな無防備に見える傭兵を騎士が見落とす筈がない。


 1人でも減らして攻勢に転じるため狼頭の兜をつけた傭兵に襲いかかる。


「邪魔」


 しかし、それらはたった二振りで事切れた。


 バツ印のように、瞬く間に切られた人形は両腕を地面に落とし、胴体も上と下に分かれたために地面に落ちる。


 その際に糸も切られており、再び動き出させるには操縦者である騎士が糸を放たなければならない。


 まさに瞬く間、と言っても過言ではない瞬殺劇に誰もが目を見開いて彼を見た。


「何だお前は」


「僕たちの舞台を邪魔するのか?」


 自分の人形を叩き斬られて立腹したのか王国騎士の二人が人形を操るために使用していた糸を手元に手繰り寄せて一つの束にまとめていく。


 それはまるで鞭のようで、猛獣をしつけするために使われる荒々しいものに見える。


 魔力を六に持たない人間であれば相当な使い手でない限りは大した脅威ではない。しかし、魔力で作られた鞭を扱うというのは相当の脅威である。


「気に入らないな」


「仕方ない、しつけてあげよう」


「この僕たち二人で、逆らう気がなくなるまでみっちりと痛めつけてやる」


 端麗な眉を吊り上げて、本来なら目をつけられたことを嘆くべきだろう。


「ったくよぉ、ずっと思ってたんだけど演技臭いのを戦場で披露して恥ずかしくないのかよ。王国の人たちも恥ずかしいと思ってんの分かってない?同僚とか痛い目で見られてるのに気づけよ、あとその腰の羽とか全く意味のない装飾付けるのやめたら?無駄に予算食うだけで何のアドバンテージもない癖に美しさだけ求めんな」


 滅茶苦茶食い掛ってきた。


 惜しげもなく、恥ずかしくもなく真正面からクレームを入れてきた傭兵にプライドが傷ついたのか兜越しに顔を真っ赤にさせて鞭を振る。


「「殺す!」」


「ハッ、台本から逸れたらそれしか言えねえのか?戦場はルールもなにもねえってのによぉ!」


 どう聞いても悪役っぽい台詞を吐くケイであるが、今まで喋られなかった鬱憤が溜まっていたのだろう。


 周囲を置いてけぼりにしながら、2人の王国騎士と1人の傭兵がここに相対した。



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