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第12話 切り捨て末席、傭兵として戦場に戻る

「聞け!我が帝国は戦争をけしかけ争い続ける王国を倒すための一歩を踏み出す!」


 帝国騎士が集まった傭兵に演説する。


「皆が不安に思うであろう死神は我ら帝国騎士の手によって討たれ、残るは王国上位騎士のみ!奴らの相手は我々帝国騎士がする!貴殿らの役目は露払い!王国上位騎士を相手にしてる間とて我らは油断できない!唐突な横槍ほど恐ろしいものはない!故に、貴殿らは非常に重要な役目となる!」


 傭兵を侮るような言葉に聞こえるが、目の前の相手に集中し過ぎて雑兵に討たれる、という事はありうる事例だ。


 万が一、そのような討ち死にをすれば末代まで恥を晒すことになる。


 だからこそ周辺の兵士にも気をつけなければならない。


 死神ほどの絶対的実力者でない限り不安要素は取り除かなければならない。


「もしさ、俺たちが攻めた際に騎士がいたらどうするんだ?」


 ケイの素人傭兵としての疑問。下級の騎士であるならば数倒せたら策を弄すれば簡単に倒せるが、戦場に慣れている騎士だと通用する可能性がガクッと減る。


「その時はその時だ」


 そんな疑問にシャーレがあっさり答えた。


「…………無策って事か?」


「そもそも騎士なんざ各々が特徴的な戦い方をするんだ、いちいち1人に対して考えてたらキリがないだろう」


「割と型はあるはずなんだけどな」


 剣術、魔法、この2つは基礎中の基礎であり、そこからどう応用するかが騎士として普通である。


 ただ、剣術ではなく魔法を駆使した全く別の方向へ戦い方を開発する者もいる。


 大体は頓挫して戦場で屍を晒すことになるが、王国騎士で例えると糸使いの一派やハンマーのような斬より打を主軸とした派閥が存在する。


 むしろ王国よりも帝国や諸国連合の方が自由度高くて辛かったとケイは思い出す。


 むしろ王国がスタンダードだろ。帝国の騎士を見てみろ、何だよ全員ろとんど違う戦い方しやがって。


 だからろくな対策が出来ず、逆に対策されて無理矢理力ずくで突破し続けたからこその死神なのだが。


「では今から戦場へ向かう!脱落者には金を払わないと思いついてこい!」


 うおおおおおお!と歓声が上がる。


 死神が居なければ死ぬ可能性は大きく下がる勝ち戦に乗れたのだ。シャーレもその歓声に混じっており士気は十分だった。


 要するに、つまらない死に方だけはするなと暗に言いたいのだろう。死に方を選べるだけ相当上等だろうが、死ぬときはあっさり死ぬのだ。


 それがいつ自分に降りかかるかは誰も分からない。


「よぉし!死神に直接泡吹かせられないのは残念だが、王国のクソ野郎どもを大手を振ってぶっ飛ばせるねぇ!」


「そうでさぁ!アタイらの鬱憤を晴らしてやりましょう!」


「お前らやっぱり死神の事、根に持ってるよな」


「「だまらっしゃい!」」


 ボコッと両側から殴られた。本人たちが気にしてそうなことを口に出すのは良くない、ケイはオオカミの兜が少しへこんだ気がしたことを教訓とした。


 




つなぎ






 戦場、それは熱気と狂気で命と血しぶきが舞い散る場所。


 本当なら戻りたくはなかったが、しがらみなく生きていくためには借金を返さなければならない。


 指定された稼ぎの方法も地獄のような道と才能によって無理矢理鍛え上げられた人殺しの技術を満遍なく活用することだ。


 前線ではないとはいえ、まばらだが決められた線を超えないように傭兵たちと帝国兵士が並んでいる。しっかり統率は通っているようで何よりである。


 号令があればいつでも出陣できるよう士気は最高潮になっている。


 ケイは絶望的な戦場に立つことはあってもここまで熱気がある戦場を断つことは無かった。


 これも全て死神が不在という最高のアドバンテージらしいものがあるから、と人々は勝手に思い込んでいる。

 

「よぉし、今日も生きて帰ることを目標にだよ!」


「当然、死ぬつもりは無い」


「生きて明日はごちそうでさぁ」


 シャーレ率いる三人だけの傭兵団は最前線より少し後ろに居る。


 前線は帝国兵から成り、後ろから傭兵、騎士と並んでいる。


 一番槍は兵士として誇り高い役目とされている。その栄誉を傭兵にみすみす渡すものかと張り切っている。


「何であんなに死に急ぐのか。そもそも急襲作戦だろうに」


「それくらい意気込んでくれたら楽な仕事がもっと楽になるってねぇ」


「そういうものか。まあ、戦力を削ってくれるならマシか」


「そうそう、雑魚蹴散らして金貰えたらいいってもんですよぉ」


「さ、雑談はこれくらいにして…………」


 シャーレは前方に居る旗を持った兵士を見る。


 彼が持つ旗が前のめりになった時が出撃の合図だ。そう教えられている…………のが両国共通の認識なのだが、ケイはそれをしなかった。


 何故なら気づいたら王国上位騎士が勝手に宣戦を開いて勝手に突撃して、そのしりぬぐいばかりしていたのだから。


「そろそろだ…………もうすぐ来るぞ…………」


 傭兵としての勘がシャーレに囁いているようだ。その言葉の通りに旗がゆっくりと傾いていく。


「いくぞおおおおおおおお!」


「うおおおおおおおおお!」


「死神のいないお前らなんか、ただの木偶の棒ってこと教えてやる!」


「いくぜえええええええ!」


「ケイ!ついてきな!」


 全員が走り出す。殺意と熱気と、野望を持って傭兵たちは戦場へ足を踏み入れる。


 急襲という割には相手からも見えていたし準備もしていた。しかし王国の兵士たちはこれと言った対応はなく、むしろ接敵するための準備に手間取っているように見えた。


「…………あ、あんなのが俺の国だったのか?あれが?」


 予想以上の情けなさを外から見てしまったケイは、走りながらもそう呟く。


 その呟きは怒号の中に消えていった。



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