第10話 切り捨て末席、戦場に向かう
「よし!よく聞けみんな!」
「聞くの2人だけだが?」
「良いだろ?まあとにかく傭兵としての仕事が入った!どうやら帝国は景気がいいみたいで傭兵一団につき300万セリ!アタシ達は3人だから分前的には1人50万セリだ!」
「随分とまあ、太っ腹だな」
「どうやら帝国が快勝してるみたいなんだ。一体どんな変化があったのやら」
シャーレが持ち込んできた傭兵依頼がそうだった。
ケイとしては借金返済のために金額が多ければいいのだが、3人で行って本当に報酬がもらえるのか疑問だった。
それに王国が負け続けになっているようで何があったのかも考える。
撤退することは多々あれど上位騎士が死亡することは無かったはずだ、何かあったに違いないとケイは思考するが原因が自分にあるとはあまり思っていなかった。
「へへ、借金返済のチャンスきましたなぁ?」
「きた仕事をするだけだろ、準備準備」
最終的には人殺しに落ち着く傭兵業。あまり乗り気ではないが金のため安全のために戦準備をする。
鎧、兜、剣、そして食糧。ついでに研ぎ石とキャンプ用品。
戦において拠点確保は必須だ。戦闘を行っていない時間に休むことは重要であり、質が良ければ良いほど戦場で輝ける。
ケイもそうだった。粗悪品だけは嫌だと辛うじて確保した予算を投じて休む場所だけは整えたものだ。
その考えは傭兵という格が落ちても変わらない。
出発の準備が終わればシャーレの幼馴染が手配した馬車の荷台に乗って。
「徒歩かと思ったが、こうして移動するんだな」
「わざわざ鎧を着こんで自分の足だけで戦場に行く奴はただの馬鹿でさぁ。無駄な消耗が命を落とすか鍵ってのに」
「そ、そうだな、うん」
末席だった頃は普通に自分の足で歩かされていたんだけど、というツッコミは出来なかった。
傭兵に反論できない正論を言われてなんと返せばよかったのか。
死神は自分の足で歩いていた?そんなこと言ったら殴られるに決まってる。
自身の正体に繋がりかねないことを口に出さず、静かに馬車に揺られるのであった。
「あんた、緊張したりしてないだろうねぇ?」
ふと、ぼーっとしていた時にシャーレから話しかけられた。
やはり移動時間は暇なのだ。新人についてちょっとでも知って親交を深めたらいいなと緯度に考えているのかもしれない。
「いや、別に。今更だろう」
「流石に53人の山賊を無慈悲に切り捨てて帰ってきた男は違うねぇ。働きに期待してるよ」
バシバシと背中を叩かれるが、移動中は流石に鎧を着ていないので衝撃が直接伝わった。
緊張をほぐそうとしてるのが分かる軽口だが、笑顔がやはり肉食動物に似ているため一般人は安らがないだろう。
ケイは渇いた笑いでそれに返した。
仕方ないだろう、人狩りと戦場は全く違う。最初から追い込むために動くのと真正面からぶつかり合う差は明確に違う。
何故なら敵も味方も強烈な熱気を持っているからだ。
戦場は生きるか死ぬかと考えがちになりやすく、それ故に追い込まれて狂気に走る者も少なくはない。
戦場の狂気こそ目の前の敵に次ぐ脅威。それをケイだけでなくシャーレとその幼馴染も知っている。
「…………いや、そろそろ名前を教えて欲しいんだが」
「アタイの名前は簡単に教えられませんなぁ。へへ、ちょっと偽名も名乗れない立ち位置にありましてね」
「その三下臭いフリもか?」
「へへへ、どうでしょうね」
ごまをするような手でにやにやと笑いながらあしらう姿も妙に様になっている。
ずっとあんな調子でいるのだがシャーレは辟易しないのだろうかと疑問に思う。
だが、それも野暮だろう。何故なら二人は酸いも甘いも共にした長い付き合いであり、何らかの形で互いに通じ合っているのだ。
勝手に納得したケイはしばらく黙っていたが、流石に何も喋らないのは居心地が悪いため話題を振る。
「今回の戦争に、俺たち以外の傭兵団は誰が来てるんだ?」
「さあ、と言いたいがいくつか心当たりはある。王国にやられたのはアタシ達だけじゃないからねぇ」
「顔合わせはいるか?新顔の俺は向こうからしたら知らん奴だろう」
「いいって!死んだら一緒、アタシ達も、あいつらもねぇ」
どこまでもドライな感性を有していた。やはり、一度壊滅したことがかなり響いているのだろうか逞しい見た目と若さの割には達観した目をしていた。
その原因が自分自身なので何度も引き攣った笑みを見せるしかない。
「おい、傭兵団さんや。もうそろそろ指定の場所に着くぞ」
今まで空気だった御者の老人が三人に話しかけた。
馬車の行く先を見ると切り開かれた土地が見え始める。
火を焚いてるのか煙が上がり、統一されていない鎧を纏った者たちが休憩している。
そう、野営地に到着したのだ。
「うし、ありがとな爺さん。いつも送り届けてくれて」
「ふん、つまらん死に方だけするなよ」
シャーレと共に馬車を降り、荷物を背負って野営地へ歩き出す。
再び戦場に足を運んでしまった、そんな思いも背負いながら。