公爵令嬢は今日もゴロゴロします!
暖かい日差しの中、1人でのんびりと花を愛でながら
王立学園の中庭を歩いていた時だった。
「ちょっと!!!」と目の前には般若の様な顔をした、でも怒っていなければとても可愛らしいであろう、ピンクブロンドの髪とピンクの眼の女生徒がいた。
・・・何かしら?
知らない方だわ
髪も眼もピンクなんて珍しいわね
それでいて般若のような顔なんて凄いわ
でも般若のような顔だから怒っているのよね?
なんだか面倒・・・
「ちょっと聞いてるの!?」
「あら?何かお話になられてましたか? というか貴方を知らないのだけれど」と困った顔をすると
女生徒は、さらに怒りを露わにしている。
般若のようだと思ったけれども、般若以上の顔の表現て何かしら?
「わたしはサラ・エマーソンです!
ジュリア様、いい加減スチュアート様を解放してください!
いくら公爵令嬢だとしても我儘で散財ばかりして、婚約者としての役目をはたしていないとスチュアート様は嘆いておられます!」
・・・そんな般若のような顔で言われても
いや今は儚げに涙してるわね
器用な方ね
確かエマーソン家って男爵家だったと思うのだけれど
面と向かって公爵令嬢であるわたくしに意見するなんて凄いわね
ジュリア・ベニトアイト公爵令嬢 16歳。
銀髪のストレートヘアに瑠璃色の眼
顔立ちはとても整っており、幼少期より美少女として有名であった。
性格は面倒くさがりな上、会話も言葉ではなく脳内だけで終わることが多く、その様子から周囲はおっとりした令嬢だと認識している。
しかも微笑んだ時の破壊力は凄まじいものがある為庇護欲も掻き立てる。
たがジュリアは面倒くさがりな為お茶会はしないし、公爵令嬢という立場もあり周囲はお近づきになりたくてもできない。
そう友達がいないのだ。
だから1人で歩いていた。
そんな公爵令嬢に真っ向から立ち向かう男爵令嬢に、周囲はとても心配そうな顔で集まってきている。
そんな騒ぎをどこからか聞きつけやってきたのは、この王国の第2王子であるスチュアート・グロッシュラーと側近達。
「サラ!大丈夫か!私が来たからにはもう大丈夫だぞ!」とエマーソン令嬢を抱き寄せたまま、ひたすら擁護し、わたくしに暴言を吐かれていますけれど・・・
あら、側近の皆様は顔色がお悪いわね。
止めるに止められないのかしら?
でもそれでは側近としてはどう・・・
「聞いているのか!!! ベニトアイト公爵令嬢!!!
サラに敵対するものは誰であっても許さん!!!
お前とは婚約破棄だ!これは決定事項だ!!!」
「は?・・・婚約破棄?」
呟いた後顔を下に向けた為、表情を見ることはできないが、体が震えている公爵令嬢を見てその姿に満足する第2王子。
だがその時、俯いたまま公爵令嬢は片手を空に向け指先から銀の小鳥を出し、放った。
あまりに綺麗な小鳥に皆が見惚れたその瞬間、小鳥は光となり消えた。
が、同時に公爵令嬢をふんわり包み込むように抱きしめる人物が現れた。
アルバート・ベニトアイト公爵である。
「リア。もう大丈夫だよ。後のことは任せなさい」
娘を溺愛している公爵は、それそれは良い笑顔を見せた。
もちろん目は笑っていないが・・・
この世界では魔法が使える。
個人差はあるが皆使える。
その中でもベニトアイト公爵一族は魔法に秀でた一族だった。
本気になれば一族どころか、公爵1人でこの王国なぞ滅ぼせるのだから、大変な危険人物である。
だからこそ王族も弁えていたし、公爵だって適切な距離をとり王家に忠誠を誓っていた。
それなのに、あのバカ王子はやらかした。
「そもそも婚約なんてしていないのに、あのバカ王子は何だったのかしら?
お父様にお任せしたからもういいのだけれど」
そういえば、般若以上の顔って何て言うのかしら?
ピンクの髪と眼で般若顔なんてこの先見ることはないわよね。
お父様に聞いたら教えてくださるかしら?
なんて考えながら、今日もベッドの上でドレスのままゴロゴロするジュリアに、侍女のアリアはいつものように見守るだけ。
基本的にジュリアは面倒くさがりである。
面倒な事が起きようとも、娘を溺愛している父親に任せておけば何も問題はないのだ。
たとえバカ王子がどうなろうとも。