カセットテープは?夜眠れないのでアナログとデジタルのことについてぼんやりと考えてみたら迷走した(7)
●カセットテープは?夜眠れないのでアナログとデジタルのことについてぼんやりと考えてみたら迷走した(7)ー媒体
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今回は音やデータ等を記録する媒体として磁気テープについて、です。
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例えばカセットテープ。まぁ、主に音楽用のコンパクトカセットテープのことです。音を磁気的に記録する媒体です。
音はアナログですが、カセットテープはアナログでしょうか。
調べてみたところ、テープ上に塗布された磁性粉(磁性体)を磁化して信号を記録するそうです。その際、テープ上の残留磁気を、音声信号を変換した電気信号を磁気ヘッドに流すことで音に相応させるのです。これはアナログですね!
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テープの幅は3.81ミリ(0.15インチ)で、片面(テープにはA面とB面がある)に2つのトラックがあって、毎秒4.76cm(15/8インチ秒)の速度で、ステレオ音声を記録可能と言うものでした。モノラル録音もできたかも。
録音時間は30分、46分、54分、60分、90分、120分など。10分などの短いテープもありましたね。
その他、カセットの形状など色々なことが互換性のためにしっかりと規格化されています。
国際電気標準会議(IEC)のIEC60094シリーズ(Magnetic tape sound recording and reproducing systems)です。
1965年にオランダから規格提案があり、以後、詳細が策定されています。
日本(JIS)だとJISC5562〜5568(磁気テープ録音再生システム)ですね。
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テープの録音特性として(昔はよく知られていた)TypeI〜TypeIVの4タイプ(ポジション)があります。
これはIEC60094で1979年に規格化されたものです。その後、新しいテープが開発されるのに応じて、1986年、1991年、1994年と改訂されています。
Type I :ノーマルポジション。1963年の最初に発売されたテープ。時代毎に改良されて最後まで残りました。
Type II :ハイポジション/クロム。1970年にBASF社から発売。高周波特性が優。1974年にはコバルトが日本で開発。2011年にTDK社が生産終了して無くなりました。
Type III:フェリクロム。1973年にソニー社から発売。だが直ぐに終了。
Type IV :メタル。1978年に3M社から発売。高級品。メタルテープは対応するテープレコーダーでないと録音できないという制限がありました。TDK社が2001年末にメタルテープMA−EXを製造終了して、メタルは無くなりました。
当初のテープでは150〜6kHz程が記録できる帯域で、電話回線より少しマシな音質だったのが、20kHzまで録音できるように改良されて音楽用途にも使えるようになったそうです。
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磁気テープとしてはデジタル式もあったようです。DAT(Digital Audio Tape)という規格です。信号を磁気に変調する際の方式による違いです。電話の例と似ていますね。
あと、DCC(Digital Compact Cassette)とか、NT(Non-Tracking)テープとか。
デジタル式にはデータ保存用の規格もあり、DATを利用してデータを記録するDDS(Digital Data Storage)やQIC(Quarter Inch Cartridge)、CMT(Cartridge Magnetic Tape)、DLT(Digital Linear Tape)やLTO(Linear Tape-Open)などがあり、乱立していたようです。
コンパクトカセットテープ(アナログ式)は、音楽用のテープとして世界標準ですね。
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磁気テープの分類を整理してみると、
・外形で、オープンリール式とカセット式。
・記録方式で、アナログとデジタル。
・記録内容で、音声とデータ。
といった感じ。記録方式にはマルチトラックとか、ヘリカルスキャンもあるけど。画像のことは別途です。よろしくお願いします。
記録方式と記録内容で、2x2の4パターンを考えると、
・アナログで音声 → カセットテープ(なんとか存命)
・デジタルで音声 → DAT(もう死滅したけど)
・アナログでデータ → ???
・デジタルでデータ → DDSなど(LTOは現存!)
となります。「アナログでデータ」については後述します。
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歴史の話です。
磁気テープは、ドイツのフリッツ・フロイメル(Fritz Pfleumer)の発明(1928年特許取得)。紙(やプラスチック?)をベースとした磁気テープと、それを使った録音機「サウンド・ペーパーマシン」を1929年に作製していて、これがテープレコーダーの原型とされています。
磁気テープの前には、デンマークのヴァルデマール・ポールセン(Valdemar Poulsen)が1898年に発明したワイヤー式の録音機「テレグラフォン(Telegraphon)」があったとか。直流バイアス方式はポールセンらの発明です(1907年特許取得)。
磁気テープを使った初の録音機の製品は、1933年から1935年にかけてドイツのAEG社が開発した「マグネトフォン(Magnetophon)」です。
ドイツのBASF社が開発したアセチルセルロース(アセテート)樹脂をベースとした磁気テープを使用。オープンリールテープでした。
1940年にはドイツのヴィーベル(W.Weber)が交流バイアス方式を発明して、音質を向上させました。
第二次世界大戦後、これらのドイツの技術は戦勝国が奪取して、アメリカやスイスなどでもテープレコーダーが製品開発されたそうです。
なお、交流バイアス方式は複数の特許があり、交流バイアスそのものは1921年のアメリカの海軍研究所のカールソン(W.L.Carson)とカーペンター(G.W.Carpenter)の発明。
アメリカでは1930年代にワイヤーレコーダー向けに交流バイアスが採用され、音質改善を行っています。
日本では同じく1930年代に東北大学の永井健三がワイヤーレコーダー向けに交流バイアスの実験をして特許を取得。だが戦時中のため、アメリカ等へ出願するも手続きが進まず。ああ! 残念!
日本では、ソニー社が1950年に日本初のテープレコーダー「G型」と磁気テープ「ソニ・テープ(Soni-Tape)」を発売しています。音質の決め手である交流バイアスの永井特許も日本電気(NEC)と共同で買って利用とか。
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磁気記録とは、どういうことなのか少し深入りしてみます。
磁気ヘッドに流れる電流と磁気ヘッドの磁化力は比例します。しかし、磁気テープの残留磁気は磁化力とは比例しないのです。なので単純に音声信号(を変換した電気信号)を磁気ヘッドに流すのでは音が歪んでしまいます。
そこで考案されたのが直流バイアス方式と交流バイアス方式です。
・直流バイアス方式: 信号電流に一定のバイアス(オフセット)を付けて、磁化力と残留磁気が直線的になる区間を使用して録音する方式
・交流バイアス方式: 信号電流に80〜210kHz等の交流バイアスを重曹して録音する方式
どうして交流バイアスだと音質が改善されるのか? 調べていたら理解は進みましたが、深みにハマってしまいました。とほほ。
磁気ヘッドの磁化力(外部電場H)と磁気テープの磁化の状態(磁束密度B)をグラフにしたものを「磁気ヒステリシス曲線(Hysteresis loop、BH曲線)」と言うそうです。具体的には、...ググってみて!
磁気ヒステリシス曲線は、なだらかに変化する曲線のように描かれていますが、細部を拡大すると至る所で階段状になっているそうです。
これは、1919年にドイツのハインリッヒ・バルクハウゼンが発見した現象で、「バルクハウゼン効果」あるいは「バルクハウゼン雑音」と言います。
オーディオのマニアな方々には、鉄心コイルを使ったカートリッジ(レコード針)や鉄芯トランスを使ったアンプには、バルクハウゼンノイズが入ることが良く知られているそうです。
残留磁気は不連続とは! それも割と巨視的なレベルで見えることに驚きました。
磁気テープ(磁気記録)はアナログだと安易に断言してはダメだったかも?
どなたかー! お客様の中に物性に詳しい方はいらっしゃいませんかー! どなたかー!
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さて。コンパクトカセットテープは、1963年にフィリップス社が発売したのが最初。
当時、カートリッジ式の磁気テープは、RCAカートリッジ(RCA社、1958年発売)や、3Mリビア(3M-Revere)カートリッジ・システム(3Mリビア社、1960年)、フィデリパック・カートリッジ(1962年)、ダブル・カセット(DC)インターナショナル方式(ドイツのグルンディッヒ社、テレフンケン社、ブラウプンクト社、1963年)、8トラック・カートリッジ(リアジェット社、1965年)など、....はぁはぁ、複数開発されていたのですが、1965年にフィリップス社は基本特許を無償公開して、コンパクトカセットテープが業界標準規格となりました。えらい!
日本での最初のカセットテープの販売は1966年。
1979年には、ソニー社が「ウオークマン」を発売しています。この頃がカセットテープの全盛期。
現在(2024年)でもノーマルテープ(TYPE I)は日立マクセル社が製造を継続しています。製造数は減ったらしいですが。国内では製造していないそうですが。
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デジタルなDAT(Digital Audio Tape)は、1983年にDAT懇談会ができて、1987年に発売されました。ソニーはベータマックスで業界との付き合いを学んだのです。
そして、2015年6月に製造終了しています。MDや半導体プレーヤーができたりしたから。
デジタルは、新しい技術で新しい製品が出来ると、古いものに執着することなく移行できてしまうことが特徴の1つでしょうか。
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データ用の磁気テープにはLTOという規格があって、富士フィルム社が現在も販売中! 世界の7割のシェアとか。
むしろ復権中とか。大規模なデータの保存にはHDDより、容量(記録密度)や価格などでメリットがあるから、採用されているらしい。
メリットがはっきりとあれば生き残る。だからデジタル人間(誤用だよ!)は自分のメリットは何なのかを、意識することが重要なのでしょう。
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実家に帰省したときに納屋などを整理したりすると、40と数年くらい昔のカセットテープが発掘されることがあります。
再生してみると微妙に間延びした音が出て、むぉっぬもぉって、感じ。
これはテープが伸びたかららしいです。アナログ式で記録したデータは劣化するのです。
昔のCDが今でも大丈夫なのと対照的ですね。CDも保存状態などにより物理的にヤバイ盤もあるそうですけれど。
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で、同じく40と数年くらい昔、HDDもFDDもあまり普及してなかった頃のパソコンの話です。当時はマイコンとも呼ばれていて主にホビー用でした。当時でもFDDは販売されていて、パソコンを業務に使う場合なら持っていたのでしょうけど。ホビー用には高価すぎる機器でした。FDDは今なら2千円くらいでしょうか。というか要らないからと廊下に捨ててある場合も。
当時のパソコンではプログラムなどを保存するために音楽用のカセットテープが利用されていました。
MZ80Kという機種では本体にカセットテープレコーダが標準搭載されていたり、PC8001やFM7ではカセットテープへの録音用のインターフェースが準備されていました。
一部の機種、IF800やTRS80にはFDDを搭載したモデルもありましたが。雑誌にはFDをカセットテープにバックアップするソフトが載っていました。FDは高かったからね。FD1枚で千円〜2千円くらい。
それで、カセットテープはアナログ式なので、データを音声帯域の信号に変調して記録します。
この変調方式にはカンサスシティ・スタンダードやサッポロシティ・スタンダードなどがあり、300〜2400bpsあるいは3200bps程の速度でデータを記録できたそうです。モデムのような専用の回路を用いればもっと高速化できるのですが、抵抗とコンデンサ、オペアンプ1個くらいの単純なインターフェースでしたから、これ位の速度が上限だったのでしょう。
特定のIOポートの1ビットがカセットテープへの出力になっていて、IOポートから出力される矩形波を、抵抗とコンデンサーで構成されたLPFにより直流成分をカットして正弦波にする(?)という、結構、乱暴な感じがする仕組みです。
こんなんでエラーなく動いていたのかしらん?と心配になるくらい。
300bpsなら、0/1に対応して1200Hzの4波形分か2400Hzの8波形分を出力するのですが、この変調はソフトウェアで制御していた気配があります。
カセットテープ自体はアナログ式ですが、デジタル式に変調されたデータを記録するので、記録されたデータはデジタルだと言えましょう。パソコン通信のモデムと同様です。
なお、DATやDDSなどのデジタル式の磁気テープの転送速度はメガバイト以上で、数キロビットが限界のカセットテープとは桁違いです。磁気テープの読み書きに専用装置を使うからでしょうね。これに比べるとカセットテープはアナログか(誤用)。
それはさておき。音楽用の磁気テープなら、結局は音にしてスピーカーを鳴らすのだからアナログ式かデジタル式かは考える必要がないなんて、言えないですよね。
媒体であっても、アナログとデジタルがあって、その各々に特徴があります。
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MZ80Kは、1978年11月にシャープ社が発表、12月に出荷。キット発売でした。回路図が公開されていて便利。MZ−80K2は完成品で標準価格19万8千円。FDDはMZ80FDが29万8千円。当時は消費税はなかった。
PC8001は、1979年5月9日に日本電気社が発表、9月20日に出荷。本体16万8千円。FDDはPC8031が31万円。ね、高価でしょ。
FM7は、1982年11月8日に富士通社が発売(前年にはFM8が発売)。付属のマニュアルが充実してた。
パソコン以前には、マイコンとか言いようがないマイコンボードあるいはワンボードマイコンキットがあり、これらもカセットテープを利用していました。
TK80 1976年8月、日本電気(TK80BSは1977年11月)
LKIT16 1977年3月、パナファコム
H68TR 1977年?月、日立(5月には発売。中田さんが関係者?)
EX80 1978年4月、東芝
1976年はZ80が出た年で、1977年はアメリカでAppleIIやTRS80が発売された年です。IBMPCは1981年。
1982年10月には日本電気社がPC9801を発売。1983年に発売されたPC9801EやPC9801Fになって、FDの利用が広まった感じがします。
カセットテープにプログラムを保存していた時代は、(日本では)1970年代後半から80年代前半がピークでしょう。これ豆知識ですよ。老人チェッカーに使えるかも。
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話が少し戻ります。
デジタルな写真をプリンタで印刷した場合についてです。表示方法に着目すれば、第2仮説によりアナログですね。
でも、プリンタの印刷精度と(顕微鏡などの)観察の精度によっては、ドットの有無や色が判別できてしまい、デジタルな情報を復元できるかも知れません。
表示方法としてはアナログだけれども、元のデジタルなデータへ100%復元できるならば、それはデジタルであると言うべきかも知れません。
具体的な例を示します。写真とそのデータです。
左側の写真は、モノクロの4階調に調整しました。写真をクリックして拡大すれば、白色と黒色、それから灰色が2種あることが分かります。
右側は、写真の上中央部の階調を0〜3で示したものです。写真と写真のデータは、同じ情報であることが分かりますね。
モノクロなら4階調でもデジタルだけど、256階調ならアナログって、そんな区別はあるのでしょうか。困りますね。
このような印刷時には意図していなくてもデジタルに戻せるデータはデジタルなのかについて、ここはまだちょっと考えが及びません。だれか教えてー
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未だ良く分からないのですが、アナログとデジタルは非対称なのですよね。アナログなデータをデジタルにする時には情報の切り捨てが生じて、デジタルなデータをアナログにする時には何も追加される情報は無いから(せいぜいノイズが入るくらい)。
つまり、デジタルなデータをアナログ式に表示してもアナログなデータにはならないのかも知れません。表示方法がアナログ式なだけで、その本質的な意味ではデジタルなデータのままである、という気もするのです。
するとアナログな時計はスイープ秒針でもデジタルってことになってしまうので、ここには何か矛盾があるような感じです。スッキリしません。
「アナログは、一度デジタルになると、二度とアナログには戻れない」、「アナログはアナログなままでないとアナログでない」、...と、そんな感じがするのですが、うまく言語化できていません。
ああ。もやもやする。時計屋さんが言うアナログ表示式とデジタル表示式という分類は分かりますけれど、それっ、全部っ、デジタルやんっ!、と言ってしまいたい。ああ。
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デジタル回路とかデジタル信号処理とかの教科書を読んでいると、冒頭に時計を例としたアナログとデジタルの説明があって、時間は連続的に続いているもので、時間をとびとびにサンプルして測定したものがデジタル時計だという説明をした本がさあって、萎えました。
電流などを一定時間毎に測定することはよくあります。でも「時間をサンプルして測定」とはどういうことなのか。一定時間毎に時間を測定するのか? しょんぼりします。そもそも時間は連続的って確認した人がいるのかな?
計算尺とソロバンを例にした説明は、探した範囲では、1990年の教科書まで遡ることができました。相当に年季が入っています。
時計のアナログ式とデジタル式を使った説明なら1985年の教科書にもある! ほぼ40年前ですよ!
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デジタルは数字で表現したものと言っても、アラビア数字で10進法で表記された数値だけがデジタルでしょうか。
ローマ数字だとアナログ? Iは1で、IIが2、IIIが3、...これは本数で数値を示すからデジタルか? どうしよう? VやXは?
謎が途切れません。
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間違いの指摘とか疑問とか、ご意見・ご感想とかありましたら、どうぞ感想欄に!
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2024.4.3 微推敲。内容に変更はありません。
2024.6.26 少し加筆。推敲も少し。
2024.6.27 推敲。
2024.6.30 推敲。誰も読んでいないけどね。