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妄想の帝国

妄想の帝国 その93 世間様の御裁き

作者: 天城冴

ニホン国を揺るがした与党ジコウ党の政治資金疑惑が尻つぼみに終わり、安堵したジコウ党議員たちだったが、検察の追及などよりもはるかに恐ろしい裁きが下ることとなった…

ニホン国、首都トンキョーの一角、富裕層ばかりが屋敷を構えると噂される、とある地区の建物が…なぜか、何軒も全焼した。

「なんで、こ、こんなことに」

屋敷のあるじの一人、元総務省ニチニチムラは茫然としていた。

「しょ、消防車はなぜこなかったんだ、いや、そもそも火災探知機は設置していたし、念のため、スプリンクラーも、そ、それにセキュリティシステムも」

「あ、あの、そ、それが、火災報知器が壊れてたみたいです。セキュリティ会社にはなんでか、連絡がいかないし、みんなで頑張って消そうとしたんですけど…」

おそるおそる答えるお手伝いさんの一人、腕に包帯を負っている。よくみれば、手にも絆創膏がいくつか。

「こ、壊れた?せ、先月点検したばかりで…。き、きみひょっとしてその怪我は火災の?」

「いえ、家から駅まで行くのに、自転車で通っているんですけど。途中で自転車がパンクして、転んでしまって。こんなことめったにないんですけど。このところ、電車のドアに指を挟まれたりして、おかしなことばかり起きるんです。今日は特にひどくて、それで病院行ったりして遅刻してしまいまして…」

「そ、そうか。そういえば、家内は?息子は?いや今日は二人とも婦人会やら塾か…」

「そ、それが、お二人とも行ってないんです。チンヨダ区お茶の婦人会は、そのう、昨日急におやめになりまして。進学塾も、その、いろいろありまして、お休みになっておりまして、お部屋に…あ!」

みるとようやく到着した救急車に運び込まれた二人の姿がちらりとみえた。

「わああ、だ、大丈夫かああ」

パニックになるニチニチムラに救急隊員が制止して

「お二人とも煙を吸い込んで、けがはなさっているようですが、命に別状はないようです、ご主人は後で病院に…世間様案件か、しょうがないな…」

救急車に乗り込んだ途端、へなへなと座り込むニチニチムラを後に出発した。

「なぜ、こんな…、ひどいことになるんだ。ジコウ党のパーティ券汚職疑惑が不起訴になったばかりなのに…」

「ニチニチムラさん、ひょっとしたら、そのせいかもしれない…」

煤だらけの顔で話しかけてきたのは同じくジコウ党アベノノ派の重鎮ハギュウダン。彼も焼け出されたのか、服はところどころ焼け焦げ、擦り切れている。

「ひどい格好だな。ニチニチムラさん。一体どういうことだ。そのせいって」

「うん、実は大体的な検察の追及がようやく終わって、これで手打ちか、いつものように世間が忘れればと思っていたんだ」

「ああ、あのその政治資金パーティ券を懐に入れちまったってことだろ、政治資金規正法とかいろいろの法ギリギリだし、それに証拠も隠滅隠滅できた奴もいたし、凌げたろ。いやあ新聞各社、政府広報といわれた黄泉瓜新聞にまで叩かれたから、ヤバいかなと思ったけど、やっぱり検察が弱腰でなんとかなったじゃないか」

「俺もそう思ったが、だが違ったみたいだ」

「違った?」

「SNSのコメントに妙な返信がついてきたんだ。“本当に世間が許すとおもっているんですか?今のうちに告白して、自首し法の裁きを受けないと世間から裁かれますよ”ってな。それから、妙なことが頻発したんだ」

いつも強気発言のハギュウダンの口調が驚くほど沈んでいた。

「妻が出かけるなり、車に引かれそうになった、ひき逃げ寸前。お友達と待ち合わせたカフェについた途端、上から植木鉢が降ってきた。で、大怪我したんだ。もちろん、店に抗議したが、店は全否定、ッ平屋で、上に置いてあるものなどないというんだ。写真で見ても確かに上に置くところもない、第一、その植木鉢がどこにも映ってないんだ。直前の店の様子を動画にアップした客がいたんで、その動画もみたが、まるでいきなり植木鉢が降ってきたみたいで、友達も気味悪がっていた」

「ひどい目にあったな。しかし、植木鉢をのせた車が通りかかって、落としたとか」

「そうかもしれないが、車が通るところをみたものはいないという。おまけにその友達が救急車を呼ぼうとしたら、つながらず、やっとつながったといえば、変な声がしたと」

「変な声」

「ほら、自動音声のようで“世間様の裁き案件のため、すぐにおつなぎできません。反省されたらお呼びします”とかなんとか」

「なんだ、そりゃ、本当にそう言われたのか」

「一字一句、正確ってわけじゃないが…。それに警察の方も“ハギュウダンさんですか…検察も手を引いた世間様案件だそうですから、その…”とか言葉を濁して。友達は気味悪がって、そして、その夜」

「その夜、何があったんだ」

「その友達やほかの知人たちから、連絡があったんだ。しばらく会えないとか、その俺たちと距離を置きたいって。俺たちが世間様のお裁き対象なんで、付き合うとお裁き対象になるって。そんなバカみたいな話と思った人もいたが、付き合いをやめないと返信した途端、電気のブレーカーが落ちて、ボヤが発生、ご主人もちょうどその時間に車で事故、しかも相手は半グレだったらしく、ひどい目にあったそうで」

「ぐ、偶然とはいえ、そんなことがあったら、言う通りにしてしまうかもしれないな」

「そうなんだよ、息子もバイオリンの教室を辞めざるをえなくなったし…。そういやニチニチムラさん、アンタの息子の塾もだ、それを相談しに奥さんがうちの妻の見舞いにきて…」

「え?う、うちもそんなことが。し、知らなかった。もしや、うちの身内にもそんなメールが届いていたのか、だから会合にも」

「誰も言わなかったのか…。お手伝いさんやら、運転手にも似たようなメールがあったらしいけどな。奥さん、自分で解決しようとしたのかもしれんが、でも結局このざまだ、俺もこれを持って逃げたせいで、助かったのかも」

と、ハギュウダンがポケットから取り出したのは、黒革の手帳。

「も、もしかして、それは今までの経緯が」

「ああ、これをもって自首すれば助かるってことなんだろうが。考えてみれば、自首するつもりといって引き延ばしてりゃいいんだよな、そうすりゃ、なんとか無事…」

とハギュウダンが言った途端

ガラガラドッカーン!!

ハギュウダンの頭に焼け落ちた瓦礫が落ちてきた。

「ギャアアア、ハギュウダンさんが埋もれたアア!!」

叫ぶニチニチムラ。

たちまち消防団員や警察官が寄ってきた。

「ハギュウダンさんが埋もれたんですか」

「あの世間様案件か、助けるかどうか」

「あ、今届いたメールからだと証拠品をもっていたらしいぞ、それも埋もれたのか」

警察官たちの話にハッとするニチニチムラ。

(そ、そうだ、アノ手帳、ハギュウダンさんが手に持っていた)

ハギュウダンはまるごと瓦礫の山の下、もちろん手帳を手に持った右手も

「うわああああ!どうしたら、いいんだああ。…いや、いっそのことハギュウダンさんには埋もれていただいて、手帳もどこかに」

と口にした途端、

ガラガラガラ

ニチニチムラのほうに瓦礫の山が崩れてきた。

「わああ、崩れたぞ」

「埋もれたのはニチニチムラ氏らしい」

「ああ、世間様の御裁きか。こいつらも法の裁きを受けておけば、命までは。やたら逃げたせいで、ついに最大の裁きを受ける羽目になったんだよ、身内ごと」

「恐ろしい、法の裁きよりニホン国では世間様の御裁きの方がよっぽど怖い」

「そうだよ、世間様が一番こわい」

「そうそう」

「そうだ、そうだ」

といつの間にか瓦礫の周りに人だかりができていた。

だが、誰一人、瓦礫をどかし、二人を助けようとしなかった。

世間様が何もいってこないのだ、手を付けてはいけない、助けようなどと思ってはいけないのだ、世間様に逆らったら、世間様の怒りを買ったら、惨い御裁きがあるのだから。


どこぞの国では世間様が法より重視されるそうですが、人工知能とかが世間様の意向とか学習しちゃったら、どうなるんでしょうね。それに人間の思念が集まるとヤバそうって実験もあるらしいです。かつては庶民はnoroiとやらで権力に仕返しって話があった国ですから、そういう風潮も高くなりそうですねえ、今のような現状だと。

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