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悪■達の■会



「やはりご婦人にはこの花々のイメージと良く似合う。花言葉は優雅と気品、ピッタリだろう?」


「あら、お上手ね」



 どぎついピンク色の魔力色を輝かせながら魔法で一瞬にしてダリアと紫の薔薇を咲かせると、それを手渡した。目の前の女はその花の香りを楽しみ、機械仕掛けなメイドに花瓶に入れるよう指示する。



「やっぱり貴方は不思議な坊やだわ、どうすれば私が気に入るか……まるで心を読んでいるみたいね」


「まさか。ただ少し、人よりも感じ取りやすいだけだ」



 そう言う少年に女は手を伸ばし、胸から滑るようにして徐々に下ろしていき、滑らかな太ももを撫でる。



「なら、こっちも感じやすいのかしら」


「どうだろうな、試してみれば分かる事だ。ところで……つい最近、小耳に挟んだ話だが。僕の花以上に魅力的な"硝子の花"と"硝子の葉"という物をご婦人が取り扱っていると聞く」



 少年はそう尋ねると、服に手が伸びていた女の手が止まる。



「どこでそんな話を聞いたの?」


「どこだっていいだろう? 各地で花売りをしているとそんな噂が聞こえてくる。だがそんな事はこの話にはどうだっていい。

是非、教えてほしいものだ。どんな花より魅力的で蠱惑的な花の取り扱いについてを」



 少年は女の首に腕を回す。



「ふふふ、実はずっと前から思ってたのよ……」


「何を?」



「いつかその余裕の表情を、快楽に染めて壊してみたいって」


「……楽しみだ」



 女は少年に薬剤の入った注射器を持ち、背中から刺し注入しようとする。

































闇魔法(ダーズ)



 その瞬間、女の腕が爆散した。



「あ、あ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」



 女は痛みでのたうちベッドから転げ落ちたが、両腕が無くなった為、起き上がることもできない。



「あ~あ、キメセクとか俺少し楽しみだったんだけど。もう少し待ってくれても良かったんじゃないの」


「黙れ"ネロ"、例え別人が擬態しているだけだとしても、僕の姿で犯されるのは気分が悪い」



 ジャレッドは女の髪を掴み無理やり体を起こさせると、ネロはジャレッドの姿から元の猫耳姿に戻る。



「ど、何処から!! 一体どうやって入ったの?! この私の屋敷に……!! 警備は一体何を——」


「害虫風情が、誰の許可を得て発言した? 僕の質問に答えろ虫けらが。貴様はこの人間と魔物が戦争をしているご時世で、アブラムシのように子供達に甘い蜜(危険ドラッグ)をばら撒き、養分()を吸い上げていた訳だが……誰からの差し金だ?


 誰に頼まれて硝子の花と硝子の葉を製造した? 手に入れた金で何をするつもりだった? 僕に嘘を吐いたその時は即刻貴様の目を抉り、蠅共の餌にしてやろう」



 蠢く蛆を見るかのような酷く冷たい目でジャレッドは苦痛と恐怖に歪む顔をした女を見つめる。



「し、知らないわよ……!! お願い、命だけは助けて──」


「果てろ」



 その瞬間、ジャレッドの闇魔法(ダーズ)によって体の内側から腐り果てていく。そして残ったのは腐った肉と骨と腐敗臭、強欲の魂のみ。



「それで? どうだった訳」


「嘘でもなんでもなく、大した情報は持っていなかった。ただ虫けらが一匹死に、子供達が健やかな生活が送れる日々が保証され、やはり指示した相手は"勇者"だった。それだけだ」



 ジャレッドは瓶を取り出し、それに魔法をかけると魂を瓶の中に詰め、コルクの栓で蓋をした。



「ふーん……それより、風呂貸して欲しいんだけど。アンタが腕を爆散なんてするから、俺の背中が血と肉で汚れて臭くなった訳だし」


「……いいだろう、だが使うのは僕の家のバスルームだ。銭湯だと家畜共の目がある、汚らわしい血は教育に悪い」



「分かってる」



 ジャレッドは魔法で自分の家の脱衣所へのゲートとも言える魔法陣をネロの足元に展開し、転送をすると魔法陣を書き換え、その魔法陣で転移した。


 転移した先には家畜達が外で遊んでおり、村から帰ってきたジャレッドを見つけると一目散に駆け寄り、抱き締める。



「ママ!」


「おかえりなさい、どこにいってたの?」


「腐りきった虫けらの巣穴に行っていた」


「何してたの?」



「害虫駆除だ」


「ごくろーさま!」



「家畜風情がこの僕に向かってそのような口の利き方をするとは……いい度胸だ」



 はて? といった様子の家畜にジャレッドは頬をつまむと、ムニムニする。




「ことばづかい、まちがってるよ」


「へっ!? ひははっはほ(ちがかったの)!? はへほはは(まえのママ)は、ほほひっへはほひ(そういってたのに)!」


「おつかれさまでいいんだよ」


「そういう事だ、次からは気をつけろ」



 ジャレッドはそう言い、家畜の頭を撫でる。



「あっ! ずるい! ママ、ぼくにもなでて!」


「わたしも!」


「おれも!」


「……なら1列になって順番に並べ。今回だけは特別にしてやる」



 そして40分後、お湯まで張って贅沢にバスタイムをしていたネロは、ホカホカの状態でジャレッドの家から出ると、外の様子を見て「何してるんだ、あいつら……」と、いつの間にかジャレッドママの家畜達全員の為のぎゅー&なでなで会が始まっていたことに驚きながらも、しれっと行列に並んでいた。



「……」


「やってくれるんだろ?」



「家畜共限定だ、それより上がったならさっさと帰れ」


「平等がルールのこの場所で、俺だけしてもらえないのは不公平なんじゃないの」


「パパにはやらないのー?」


「なんでー?」



「待て、パパとはどういう事だ」


「そう見えるって話だろ」


「はやくー!」


「ママ、はやく!」



 家畜達に急かされ、ジャレッドはニヤニヤとしているネロを睨みつけながら頭の中でどうにか回避する方法を考える。そしてジャレッドは懐中時計を出して確認すると、村の大食堂に向かった。



「……そろそろおやつの時間が迫っているようだ、これ以上は作る時間が短くなってしまう」


「逃げたな」


「おやつー!」


「たべる!」


「今日のおやつはなに?!」



「シフォンケーキだ」


「ケーキ!!」


「やったー!」


「それ、俺の分もあるんだろ?」



早歩きでずんずんと歩いていくものの、ネロの方が身長も高く、足も長いので普通に歩くだけで追いつかれる。ジャレッドは少しその事にイラッとした。



「無い」


「でもアンタに手伝ってやっただろ、俺が寝てる所を叩き起してまでな」



「勝手に僕の家に居座り、ただの穀潰しと化してダラダラと過ごしている野良猫の分際で何を言う」


「猫は飼われるのが普通なんじゃないの、だからそうしたまでだ」



 そう言うネロにジャレッドは本気ではなかったとはいえ裏拳を当てようとするものの、普通に避けられたのでちょっと舌打ちをした。



「怠惰なだけの猫は要らん、従順で働き者の猫になったら考えてやらんこともない」


「はは、できない相談だ。でもそのおかげでいつもベッドが冷たくなくていいだろ?」



「生憎、この地は年中適温だ。無意味な事をわざわざどうもありがとう、出て行ってくれ。願わくば今すぐに、僕の村から失せろ」


「はいはい……」



 ただ結局ネロは普通にジャレッドの焼いたシフォンケーキを食べていたし、普通にジャレッドの家で何処からか持ってきたポテチやコーラ、カップ麺を勝手に飲み食いしては靴下も脱ぎ散らかしていたが。


 そんな様子にキレたジャレッドが怠け猫を魔法でゴミと一緒に強制的に追い出したのは言うまでもない。





~・~・~・~





 とある亜空間にて。


 晴れ渡る青い空と、辺り一面の花畑。蒼い山々と川の流れる音。鳥が囀り、心地よい暖かな風。花畑の中心に白いガーデンテーブルがあり、その上にはお茶やスイーツが。そこに囲っているのはそれらの風景とは全く似つかわしく無い者達であり、更にテーブルの上には似つかわしくない物が置かれた。



「先週手に入れたゴミだ、受け取れ」



 そう言い、彼──ジャレッドが出したのは傲慢以外の穢れた魂と、人間が摂取すれば気分が高揚して頭の中がフワフワして目がガンギマリになってしまう魔法の葉タバコと魔電子タバコとそのリキッド入りカードリッジだ。


 魂を受け取った憤怒、強欲、ネロ、色欲、暴食の悪魔達は、瓶のコルク栓を抜くと中に入っている魂を口にして噛み砕き、明らかに地雷臭が漂う服装をした嫉妬の悪魔、ニーアは他よりも一つ多く貰った魂を見ては、それを嬉しそうに眺めていた。



「今日も実に上質ですね。とても美味です、この甘塩っぱくも複雑な味は……無銭飲食を繰り返し、挙句の果てに殺人まで犯し、証拠隠滅として人を食した魂の様子。人肉に心を奪われ、家族や恋人すらも胃の中に詰め込んだといった所でしょうか。滑らかな口当たりで濃厚で、実に最低で愚かな魂でした」



 暴食の悪魔、リアムが素晴らしい食レポを披露し、ジャレッドの入れた紅茶を啜る。



「バラのアールグレイですね、とても高貴で上品な香りです。また腕を上げたのではないですか?」


「当然だ」



「それで、今日もあの人間の情報について知る為に餌をお前は用意してきた訳だが……生憎、まだ情報はねぇぞ」


「だろうな、だがどちらにせよ僕にとってこれらはただのゴミだ。処理しようにも家畜共への影響が出る上に場所も取る。ヴォルフ、お前はこれが好きだったな。この僕が贈ったものの対価はゴミであろうと全て支払ってもらうぞ」



「分かってるぜ、あんがとよ」



 そう言い元■■■だったヴォルフは貰った大麻煙草を早速吸おうとした所で「吸うなら防御壁を張ってからにしてくれ、服に匂いと成分が染み付く」と一言ジャレッドが言う。



「はいはい……子煩悩なこって」


「手持ちとか情報も何も無いんだけど……体で払ってやろうか?」


「その舌を切り落とすぞネロ」



 他の悪魔達はジャレッドの作ったケーキなどをフォークで頂き、ニーアはうっとりとしながら魂の入った瓶を見つめ、ジャレッドの方を向くと、色欲の悪魔、セナがジャレッドにくっ付いているのを見て、つい手に力が入ってしまい、瓶にヒビを入れた。惜しみなく大きな胸を押し付け、キスをしようとしてくるセナにジャレッドは体を押し返す。



「今日も素敵なプレゼントありがとう、愛してるわ♡」


「そうか。その言葉は受け取れないが、喜んでいるようで何よりだ。それよりも■■■■■■、僕から離れろ」



「いいじゃない、素直に受け取ってくれても」



 つれないジャレッドにセナは「でもそういう所も可愛くてますます欲しくなっちゃう……好きよ、■■■■ー♡」と言いながら、結局ジャレッドの頬にキスをした。扇情的で真っ赤な口紅がジャレッドの頬を赤く汚す。それを見たニーアが瓶を握りつぶした。



「ねぇ、あの勇者を殺して片方の魂も手に入れたら、私の事をアナタは私を見てくれるのかしら? それとも私がアナタとの子供を孕んだら見てくれる?」


「喜べ、その時は僕が直々にお前を殺してやろう。それと僕はもう二度と子供を作れる体では無い、諦めろ」



「あら、熱烈。本当に残念だわ」



 するとニーアは自前のナイフをセナに投げつけ、セナはそれに視線を向ける事もなく弾いた。



「年増のクソババアが私の■■君に近づきやがって!!」


「……トカゲちゃん、いいこと? イイ男はイイ女を侍らせ、常に傍に置くもの」



 子供に言い聞かせるように、元竜人族だったニーアに自分がそのいい女であるという口振りでセナはジャレッドの頬を撫で、勝手にブローチの付いたフリルタイを外すと、フリルシャツのボタンを外し始める。挑発するかのようにジャレッドの首元にキスをしようとして、ジャレッドはまた再び体を押して止め、外されたボタンを掛け直した。



「頭も体も心も狭くて小さいと……■■■■ーに愛想尽かされちゃうわよ?」


「■■君はお前みたいな尻軽雌豚(ビッチ)より、私みたいな顔が良くて可愛くて、貞操観念がちゃんとした私の方が釣り合ってるに決まってんだろうが!!」



「昔は昔、今は今。今の私は■■■■ーだ・け♡」


「殺す!!」



 殺気立っている中、スイーツを味わっているリアムは女悪魔2人に「やめなさい」と声をかける。実はリアムがこの中で最も長く称号を持った悪魔として存在しており、ジャレッドはその中でも一番短い。次に長いのはヴォルフ。


悪魔は特定の、自分と同じ大罪の名と、その欲望によって穢れた魂のみを体に取り込んで浄化できる。そんな憤怒の悪魔として最強の証である称号をヴォルフから奪った、新しい■■■はこの場には居らず、まだ誰も直接会ったことは無いが……。今の所、称号を持っている悪魔の中では■■■が一番短く、称号を得たのが早かった。


何せ、この世に悪魔として誕生した瞬間にその称号を得たのだから。普通、悪魔歴が長い方が魂の浄化数が多く、力が強いものだ。なので新しい■■■は生きていた頃からとんでもなく強いという事なのだが……ジャレッドはその相手にとても心当たりがある。


とにかく今ここで言いたいのは……。



「レディがティータイム中に争うとは、実にはしたない。せっかくのスイーツの味が落ち、私の紅茶も冷めてしまう。全ての食物は無駄にするべきではありません。楽しまなければ損、食材に対する無礼というもの……。


 俺の楽しみの邪魔をするな、メス共」



 リアムを怒らせたり、行動を起こさせるとヤバいという事だ。リアムが先程の紳士的な振る舞いから殺気を出し豹変すると、強欲の悪魔レオが「■■■■ー、あと魂×10で暴走した■■■■■を止めてやろうか」と、交渉をする。



「あー……五月蝿い、アンタが原因なんだから、何とかしなよ」


「ネロ、お前は黙っていろ……はぁ、■■■■■」



 するとジャレッドは呼びかけると、すぐに元に戻ったリアムが笑顔で「何でしょう、親愛なる我が友よ。私の専属パティシエになるという話であれば喜んで聞きましょう」と言った。いつ見ても、この豹変具合に驚かされるものがある。



「ほざけ」



 ジャレッドはリアムの口の中にフォークで刺したシフォンケーキを突っ込む。



「この柔らかく、溶けるような生地……素晴らしい! やはり貴方には是非とも私の専属パティシエになって頂きたいものです。■■■■ーという称号を捨て、私の所へ来ませんか? 特別な待遇をご用意致しましょう。子供サイズの衣食住、子供用キッチンや子供用の道具、子供用の材料も全て揃えてお付けしますよ」


「しつこいぞ」



「それは実に残念、路頭に迷った時には是非とも我が居城へお尋ねください。あなたは特別にいつでもどうぞ、気長にお待ちしております」




「やっぱりアンタ、よくモテるな」


「……いい迷惑だ」



 手鏡で確認しながら真っ白のナプキンで頬に付いた口紅を拭い取った。



「全員、知っての通り……あの勇者が我らが魔王様を打ち倒そうと、一方的に取引を蹴った。これは非常に由々しき事であり、有り得ない事態だ。つい最近、魔王様はたったの数週間前に新しく即位したヒエリカの皇帝、つまりヴォルフから称号を奪った新■■■に協力を仰ぎ、強力な魔獣を支配下に置くことができた。


 だが、それからと言うものの、あれほど早い進軍で勇者が率いるフェリラ国の兵達が魔王城に向かっていたというのに……今では魔界へのゲートが閉じ、新しくゲートが産まれてからは音沙汰無しだ。


 十中八九、そのゲートがヒエリカの国土に産まれたからだろうが……あまりにも動きが無い。普通、このような時は次のゲートが現れるまで戦力と兵力を上げる為、兵器を作る為の物資の補給や召集命令を出すものだ。


 戦争時に重要な食料を溜め込んではいるようだが……どうにも、それだけというのが怪しい。そこで、ハニートラップに優れた者が多い■■■■■■の部下、隠密に優れた者が多い■■■■■■の部下に探って貰っているが……」


「一応、私の部下を送っているけれど、全員連絡が途切れたわ」


「私も……ごめんね■■君、少しも役に立てなくて……■■君の役に立てないなんて、もう死んだ方がいいよね……生きてる価値無い、あ~……死にたい」


「おい、人前でリスカしようとすんじゃねぇよ気持ち悪い」


「そうですよ、血の匂いが折角の紅茶と混ざってしまう」


「で、アンタはどうするんだ?」



 ネロはマカロンを摘みながら尋ねると、ガトーショコラを食べているジャレッドは当然と言わんばかりに答えた。



「その食料を奪い、家畜共の餌にするに決まっているだろう。最近、また10匹程新しく増えたからな」


「……それで何人目な訳?」



「72匹だ」


「そのペースだと村どころか国ができそうなレベルだな、その時はネバーランドって名前でも付けるのか?」



「どうだろうな。とにかく勇者や祈った所で恩恵など微塵も与える事など無い、太陽神(ケルロー)というくだらん神を信仰()する光の騎士団共(笑)は魔者達の弱点である聖力を使う為には三大欲求の内1つを満たす必要がある。だがその中での性欲を満たすという手はお前と■■■■■■によって、不可能になった。……いい気味だ。


 そして次に手っ取り早くエネルギーを得られるのが、食べる事だ。睡眠は一番エネルギーを得る事ができる方法だが、時間がかかる上に無防備な状態になってしまう。食事も毒を仕込まれるリスクがある為、安全とは言えないが……非常に腹立たしい事に、聖力を使えば全く問題は無くなる。


 そこでだ、食料を奪い僕が有効活用する事は既に決定事項だが……そのゴミと、つい最近勝手に僕の家に居座り、ポテトチップスとコーラを貪る何処ぞの黒い野良猫を見た結果、僕は着想を得て非常に良い事を思いついた」



 そう言い、ジャレッドはヴォルフが吸っている危険な煙草と、立派なモフモフの耳を持つ怠惰な悪魔に目を向ける。すると何処ぞのネロは「はは、そりゃ悪い猫が居たもんだな」と、白々しく抹茶ロールケーキを食べていた。



「もし、一口食べれば吐き戻す程の不味い料理でも美味しく食べる事のできる、種類豊富で病みつきになり、いくら食べても飽きない魔法の調味料があるとすればどうだ?」



 そう言うとリアムがとても悪い笑みを浮かべる。



「なるほど、つまり……その素晴らしい調味料を城内の兵士に売りさばき、勝手に広めてもらって勝手に自滅してもらおうという事ですね。ですが、遅効性の毒を混ぜてもすぐに気づかれてしまうのでは?」


「いや、そこまで露骨な物ではない。魔者には縁のない言葉だが、元々人間だった我ら……特に女性陣は当然よく知っており、意識している当たり前の事」


「あら、それってもしかして……」


「ま、まさか……」



「甘い物を食べ過ぎるな、糖尿病になる。油ばかり摂取するな、油は脂肪と肌荒れの元になる、肉ばかりではなく野菜も食べろ。


 朝食を抜くな、朝食に菓子パンを食べるな、血糖値が急上昇する。良質なタンパク質と食物繊維を取れ。ラーメンを週に3回食べ、汁を飲み干すな、それらを全てやる馬鹿は肥えた豚への第一歩」


「いや──っ!! ■■君やめて、痛い!! 耳が痛いよぉー!! 」



 一人思い当たる様子の人物が悲鳴を上げるが、ジャレッドは更に続ける。



「料理を早食いするな、満腹中枢が満たされずに余計に多く食べる事になる。好き嫌いするな、栄養が偏る。味音痴は糖分ばかり摂取する、豚への二歩目」


「やめてぇぇぇええ!!」



「ストイックに制限すれば食への欲求不満でリバウンドの確率が高くなる、ご褒美は高級な物を1つ買え。夜食にこってりした物を食べるな、体内時計が狂うぞ。そして日々のストレスは豚への10歩」


「う、あ……あぁ」



 既にニーアは死にかけており、聞いていたリアムは更に笑みを深くする。



「肥えた豚は、死への最短距離」


「へぇ、いい案じゃねぇか。たまには■■■■■■■も役に立つ! 売りさばくのは俺に任せろ。手数料で5割貰うけどな」


「たまにじゃなくいつも、の間違いだろ」



 レオにネロはそうツッコミを入れ、ニーアはプルプルしていた。



「魔法化学調味料という物は、中に含まれた塩分や糖分が毒となる物。コーラも魔法化学調味料が入っていなければ、飲めた物ではありません。ですがそこに甘味料が入っていれば、簡単に飲めてしまう。甘味料自体は毒でも大した毒にはなりませんが、コーラに含まれる砂糖が猛毒になり得る……そういう事でしょう?」



「あぁ、その魔法化学調味料は液体状の物にしておけばいい。その方が凝縮するのも容易いからな。糖分は練乳などのコンデンスミルク、塩分は醤油などだ。特に塩味を感じにくくするような作用をする成分を入れておき、後から人が一番感じやすいと言われる甘味を大量に接種させる。甘味はスイーツでも、飲料でもなんでもいい。いや、飲料の方が手軽か。


 水に溶かして飲むスポーツドリンクのようにしておけば、戦地でも水を無理無く摂取でき、有効活用できると考えて買い込むだろう。馬鹿になった舌は、それに含まれた大量の塩分に気づくこともないはず。


 そして肥えた豚は練乳を牛乳と同じようにそのまま飲むからな、あっという間に血圧と血糖値が壊滅的な状態になり……内蔵に直接ダメージを入れる。


 そうする事で集めた兵士は見るも耐えない豚と化し、残ったのは動く事もままならないデブと塩分過多で死にかけの病人のみ」



 今、豚じゃなくハッキリとデブって言ったな……。


 ほぼ全員が似たような事を思った。



「気づいた時には毒のように体を蝕み、いつ爆発してもおかしくない、時限爆弾を自分で体に貼り付けているような状況になるという訳だ」


「アンタ……意外と恐ろしくて随分と卑怯な事考えるもんだな」



「何も知らず、調べもせずに食おうとするのが悪い。戦いに恐ろしいも卑怯もあるものか、そんな事を言うのは余程の馬鹿か純粋なのか、それとも戦いを遊びやゲームと思っているのか。


 人は隣に成分やカロリーが書かれている紙があったとしても、見るからに太りそうで美味しそうで食欲をそそる匂いと食べ物が目の前にあればその本能には抗えない。


 だからこの世から肥満という物が無くならないんだ。自制心というものがなくて結構、実に愚か。自制心が無い者ほど、自分の欲望の為に他者を危害を与える。僕が一番嫌いな存在だ、とはいえ望むものが大量に与えられ、それに慣れると人は依存し始めそれを当てにする。いつそれが途切れるかもわからないというのに。


 そのような者ほど自滅しやすく、扱いやすく便利な者は居ない」


「グハッ」



「あら、トカゲちゃん血を吐いて倒れちゃったわよ■■■■ー」


「しばらく寝かせておけ、あと5分37秒後に起きる」


「あー、ヤクうめぇ……」



 その後、ニーアは本当に5分37秒後に起きるのだった。



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