せめて行き先を言え!!
報連相は大事だよね!
みんなはちゃんとできてる? 我氏は仕事の関係上、すぐに報告を心がけてるぞ! 職場ではね……。
「ついに、ついにできたのじゃあ~っ!」
「お嬢、お疲れさん」
ソファーにダラダラと横になりながら本を読んでいたネロは、ティアラにマカロンの入った紙袋を投げ渡すと、紙袋をキャッチしたティアラはウマウマとマカロンを食べ始める。
「それで、何ができたんだ?」
「ふっふっふ! 妾は偉いから、とうとう父上と母上の言いつけを守って妾にしか作れないものを作ったのじゃ!」
「あー……アレスの言いつけなら、単なるご主人サマの気まぐれじゃないな」
「そうなのじゃ! 父上と母上が、作ったら凄く褒めてくれるらしいから頑張ったのじゃ! 見よ、このベータ版を!」
ティアラはネロの顔にぬいぐるみの顔を押し付ける。近過ぎてぬいぐるみとキスをしてしまっている状態だ。
「おー、見てる見てる。けどなお嬢……俺の顔に押し付けたら見える物も見えないぜ」
ティアラがネロの顔に押し付けるのは、どう見ても可愛い単なるうさちゃんぬいぐるみである。ちょっとゴシック調で製作者の趣味を感じられるが。ネロは本を一度置いて押し付けられたぬいぐるみを持つと、寝転がりながらじっと見る。
「で、これが入れ物ねぇ……。これ、魂を完璧に安定した状態で、なおかつ安全に移せるのか」
「凄いじゃろ!」
「拒絶反応も無し……凄いな」
「もっと褒めるのじゃ! 妾、すごく頑張ったから!」
「で、完成した物を何に使うのか、聞いてるのか?」
「知らぬ!」
素直にして即答。少し考えてみるも、ネロは作らせた理由を考えるのが面倒になり、ティアラにぬいぐるみを渡して本を読むのを再開させた。ちなみにネロが読んでいる本のタイトルは『俺の知らない妻~妻はおじさんのオナホ嫁に懇願する~』だ。
完璧にNTR物の本である。
「あ、そうじゃ! ネロ、お主早速ベータ版の試運転をせい!」
「面倒くさい、他の奴に頼めばいいんじゃないの」
「そうか、手伝ってくれたらゴブレスに用意させたお主の好きな酒に合うイカの塩辛をあげようと思ったが、手伝わないって事は要らぬということじゃし、この塩辛は妾がジュースと一緒に──」
「やる」
やはりネロも魔者であるからにはハイブリッドインキュバスと言えども、食には勝てないのである。
「では早速頼むぞ!」
「ほーい」
さっさと仕事を終わらせる為にネロは魂を元の体から、うさぎのぬいぐるみに移し、体をまずは動かす事にした。
「……」
「どうじゃ? 魂は安定している筈じゃ、何か違和感があれば申してみよ」
ネロは無言でぬいぐるみの体を動かし、体操選手も引く程のアクロバティックな動きで動作確認をする。一通り動いた後、いつものようにゴロゴロし始めた。
「………」
「……ネロ?」
「…………」
「あっ、そういえばぬいぐるみには発声器官は付いてなかったのー、もう戻ってよいぞ」
ティアラはそう言うとネロは元の体に戻り、試運転の感想を言う。
「動かす時のタイムラグとか魂の不具合とか拒絶反応は無かったし、回路自体は完璧だぜ。後は完成品を作るだけだな。……ところでティアラは完成品の構想できてるんだろ、どんな感じにするんだ?」
「完成品は吸血鬼ベースの人型に決まっておろう! それで妾の妾による最強の人形を作って父上と母上に褒めてもらうのじゃ!」
「ふーん……まぁ頑張りなよ」
ネロはティアラからイカの塩辛を貰うと、それを持ってよく冷えたビールを飲みに行くのだった。
「……それにしてもお父様とお母様に欲しいって言われたから作ったけど、必要って事は肉体をなくした魂が入るって事だし……。ボディレスの悪魔でも拾ったのかなぁ?」
ティアラは独り言を呟きながら転移魔法で作業場に向かう。そこには沢山の書類と培養ポットを中心にして魔法陣が書かれた異質な空間である。培養ポットの中には液体で満たされており、その液体の正体は血を元に細胞を作り、細胞分裂させクローンを生成する魔法がかけられた魔力の塊。
培養ポットごと、概念の神である母親に頼まれた時に貰った物だ。液体は母の魔力色である菖蒲色に染まっており、それは高濃度の魔力故に発光している。
「後はこのポットに私の血を入れて、魔法をかけて遺伝子情報の調整! その後は放置して、完成するのを待つだけだー! よーし、早速やろう!」
ティアラは早速培養ポットに血を入れる管に、予め注射器で採取していた自分の血を流し入れる。管に自分の血がポットに流れていく様子を見ながら、ティアラは早速作られた細胞にうさぎのぬいぐるみにかけていた魔法をかけると、遺伝子情報を魔法で操作する。
「できたー! あとはもう待つだけ! ……すること、なくなっちゃった」
突然現れた暇という敵にティアラは対面する。吸血鬼というのは長命であるが故に、常に暇を持て余している。なので暇というのはかなりの大敵なのだ。人生の宿敵とも言える。
「ん? そうだ、いいこと思いついたっ!」
するとティアラは突然そう言って魔力を服に流していつもの和ゴスロリからカジュアルめなゴスロリワンピに服装を変えると、人間界へのワープゲートを作り出したのであった。
「人間界で直接様子見に行こ~!」
~・~・~・~
「あの方のお名前を知っていらして?」
「なんと美しい方なのでしょう……」
「まるでヒエリカ帝国の皇族の方々のようだわ」
ザワザワと令嬢達が噂をし、その視線を集めているのは淡く虹のように輝く白髪と、美しくも優しい翠眼をした青年である。その正体は一時的に男体化したノエルであり、ベッタリとその隣でくっついているのがレイゼルとレイネルだ。
「おいお前! 早くノエルから離れろよ! ノエルが歩きづらいだろ!?」
「じゃあてめェが離しやがれ!!」
「俺はノエルの恋人だしー?! 恋人が恋人であるノエルにくっついてても何の問題もないけど、お前はただの他人だろ!! さっさとノエルを離せ!!」
「オレだってノエルの友達だから別にくっついててもいいだろうが!!」
「ちょっと2人とも静かにしてて、周りに迷惑でしょ」
ノエルがこの姿になってから本日で三日目。当初の一日で戻るだろうという予想は二日目にして大きく外れ、ノエルはその日に髪を切り、今だけ父親そっくりなこの姿をなんだかんだファザコンなノエルさんは楽しんでいた。
だが、少し困った事がでてきたのである。
「そこの貴方」
「はい?」
「私のディルドになる気はありませんこと? 今なら特別に貴方を──」
「ありません、では」
それは貴族のお嬢様達から、この世界流のセフレにならないかというお誘いが来るようになった事だ。当然ノエルは即お断りし、どこからかか出刃包丁を取り出して装備しようとする勇者を止める。レイネルは令嬢の方に行くと「てめェ頭沸いてんのか??」とガラ悪く絡んでいた。
「レイゼル、やめて」
「でもあの女、今ノエルにセフレにならないか聞いてきたんだぞ??」
「流血沙汰はやめてよ、絶対。問題になるし」
「それってさぁ、周りが問題にしなければいい……ってコト!?」
「………………」
「あ、マジで?」
ノエルもノエルで、そういう所はちょっと頭のネジがぶっ飛んでいるのであった。まぁ、元々ヤンヘラクレイジーサイコドMマザーとヤンツンデレドSファザーからできた娘なので、普通に見えてやはりどこかネジがぶっ飛んでいるのだが。これでも両親に比べたら可愛いもので、まだいい子なのである。
「じゃあ分かった~♡」
(後日、とある令嬢が行方不明となった。まるで存在していなかったかのように、特に話題になることも無かった)
~・~・~・~
「今日も先生が手取り足取り、分かりやすく教えてあげるわね♡」
「あの、リンファ先生……。
チャイナドレスは似合ってますけど、正直言って先生は私の目から見ても綺麗な人なので、綺麗な人がスリットが深過ぎて履いている紐パン丸見えな本場のチャイナドレスを着たら思春期の体力と力に自信のある男子生徒の性欲が爆発してしまうのと、普通に教師として相応しくない格好なのでやめてください。
前にそれでらんちき騒ぎならぬ、乱行騒ぎになったじゃないですか。というか私が男の子になったからって、連日私の机に乗っかってフェラを彷彿とさせるようなミルクの棒アイスを舐め回すのはやめてください。
非常に私の目のやり場に困りますし、死神くんが鼻血出して死にかけてるので本当にやめてください」
私の目の前に居るえっちなお姉さんは、リンファ先生。シェンダ(中国によく似た国)出身の人で、つり目の美人な強いお姉さん。それで戦闘部門の午前中の座学と実技担当で、魔法を教えてくれる先生。このクラスの担任も兼任していて、なんと元々は宮廷魔法士だったらしい。
名門校の先生だし、元宮廷魔法士だったから凄い人であるのは確定だけど、この人はとんでもない淫乱で肉食過ぎるドスケベ女教師なのである。
なんでも初物キラーで同性もイケるらしく、その美貌と色気で数多くの初物キノコとアワビを貪り食ったとか。
……そして、ただいま私は先生に狙われております。
「先生ー? ノエルの童貞と貞操は俺のだから絶対やんねーよ?」
「私の童貞は誰のものでも無い、というか卒業する気無いからね??」
あ、そういえば元担任のクレア先生はどうなったのかと言いますと……なんとクラスが解散した次の学期に先生辞めて居なくなっておりました。
でも実はこの話にはとんでもない事実がありまして……。先生、辞めるそのちょっと前に彼氏ができたんだけど、お金にだらしが無い人だったらしいんだよね。それでクレア先生が先生を辞めた後、学校の戦闘部門の男子達の中で噂が流れるようになった。
なんでも、フェリラにある風俗店が並ぶエリアの一店にある、壁尻専門店に新しいオナホが導入されたんだって。汚いオホ声で「ん゛ぉ゛ぉ゛っ♡チンポ来たぁっ♡♡おほぉぉっ♡♡♡お゛ぉ゛っ♡♡」みたいな感じで喘ぐエロくて感度と締め付けの良い雑魚マン持ちの壁尻オナホとか、どうとか。
そういうお店って、いっぱいお客さんが来ると儲かるらしいんだけど、その壁尻役の人はすぐに人気No.1になったんだって。
……私の勘が、その相手はクレア先生だって言ってるんだ。つまり、そういう事だよ。クレア先生……なんて、可哀想な事になってしまったんですか。
「とりあえず授業を始めてください」
「つれないわね……でもそういう所、嫌いじゃないわ」
そう言って舌なめずりをする先生に私は寒気を感じながらも、死神くんの鼻にティッシュをねじ込み、魔法で今回も保健室に送ってあげる事にした。授業で教えてもらったところはノートに分かりやすくまとめて後で教えてあげよう。
死神くん、この先生のせいでせっかく名門校に入れたのに、魔法の勉強が私が同じクラスになるまで全然上手くできなかったらしい。先生に教えてもらおうと、授業が終わった後に話しかけたら……。個室に連れ込まれて襲われそうになったらしい。鼻血出して気絶しかけながら逃げたから、死神くんの貞操は無事に守られたとの事。
流石、エロゲ世界……相変わらずこの世界の住人の頭……というか貞操観念がおかしい。目と目が合ったらポ○モンバトルならぬ、即セッ……恐ろしい。
「今日の授業は昨日の応用よ。これから3日間、最初の一時間目は難易度がそれぞれ違う自分で選んだ問題用紙を解いて、間違えた箇所をピックアップしていくわ。どうして間違えたのか、何の知識が足りないのかを理解して、自分で調べてもう一度解くの。全問正解したら次の難易度が高い問題用紙を解く。その繰り返しよ、地味だけど学習や研究において一番大切なプロセスなの。魔法での戦闘において、研究し常に魔法を進化させる事が自分の命を救い、敵を倒す事に直結するのよ」
こういう事を言ってる所はいかにも先生らしいけど、格好がな……。
「あら、物欲しそうな顔をして私を見て♡ノエルさん、そんなに私とイイ事がしたいのね? 良いわよ、来て……♡」
「違いますが!? というか服を脱ぎ始めないでください!!」
「ノエル……浮気? 浮気すんの? 俺が居るのに……??」
「先生が勝手に言って何故か脱いでるだけだから!! そもそも私はレイゼルにしか興味な…………あっ」
するとレイゼルはデレッデレな顔で「んへへぇ♡ノエルそんなに俺の事大好きだったんだなー、知ってるけど♡♡俺も好きだけどさー、人前でそんな事言われたら照れるだろー♡♡♡」と嬉しそうに私にスリスリしてくる。
「や、やめろ馬鹿勇者!! 私の方が今恥ずかしいから!!」
「あ、問題用紙を1日で全部解けたら、残りの2日間はずっと午前中私とセックスさせてあげるから頑張って解いてね、坊や達♡特に一番最初に解けた子には何でも好きなプレイをさせてあげるわよ?」
先生がそう言った瞬間、今まで全くやる気の無さそうにしていた男子生徒諸君らは、一斉に問題用紙を取りに行った。
「(……性欲って、人をここまで動かすエネルギーになるんだね)」
私はレイゼルでよーく分かっていたつもりだったけれども、レイゼルは変態だから、いざ普通の男子がこういう行動に出る所を目の当たりにすると……。つい、そう思わざるを得ない。
~一方その頃、別のクラスになったヘレンちゃん~
「(今、なんだか非常に推しCPの尊いシーンを見損なった気がするわ!! レイエル最古参オタクである私ともあろう者が、尊いCPの絡みを見れないだなんて!!!!)」
王女ヘレンは、レイゼルとノエルの絡みを見れない事を非常に悔しがっていた。
~・~・~・~
「これで授業は終わりだよ、2人ともお疲れ様でした!」
「「お、お疲れ様でした……」」
難易度的に物足りないが、ためになるリンファ先生の午前の授業が終わり、ノエルとレイゼル、そしてアグネスは今日もハードなゲイル先生の授業で地面に倒れていた。レイネルは余裕そうであり、普通に立っている。
「(先生、なんでそんなに元気なんですか、一緒にやってましたよね。それどころか、更に追加でトレーニングとかして、私とレイゼルのタッグを組んだ模擬戦闘でも余裕そうでしたよね。この人、本当に体力お化けだ……。レイネルも本当にどれだけ体力あるの……)」
その代わりにエネルギーの消耗激しい為、2人とも沢山食べるのだが。
(ピッ、ピキピキピー! ピキピー!)
すると突如として謎のスライム言語がゲイルから聞こえ、まるでそれは何かを知らせるようにして何度もループしていた。
「あ、あれ? お父さんからだ……」
「(お父さんからだ??)」
「もう、勤務時間に電話はかけないでって言ったのに……あっ、ちょっと僕、先に職員室に戻ってるね!」
ゲイルはそう言いながら走っていき、建物の物陰に隠れるとスライム型の|3Dグラフィックプロジェクター《3GP》を起動する。この3GPは特別性であり、なんと異世界でも通信が可能な優れものである。
「どうしたのお父さん、あと僕前に勤務時間中に電話するのはやめてって言ったよね?」
〘仕方ないでしょう? 緊急事態ですから〙
プロジェクターに映ったのはゲイルの育ての親、クロウ。普段の彼はしっかりと髪をセットしていて、いかにもデキる男という風貌なのだが……。メガネを外し、目頭を押えている今のクロウは髪も整ってはおらず、目の下には隈があった。普段のクロウとはかけ離れており、疲れているのが見て分かる。
「……何かあったの?」
〘何かあったもなにも……魔王様が外出されてから1週間も経って、まだ帰ってこないんですよ〙
「えっ」
〘その様子ですと、知らなかったようですね。レイネルの方はどうです?〙
「うーん……知らないんじゃないかな?」
〘……情報無しですか、本当にあの方はどこへ行ってしまったのやら。もし見つけたらすぐに私へ連絡しなさい、ネロに迎えに行かせます〙
プロジェクターは映像を映さなくなり、ゲイルは「大丈夫かな……」と心配しながらもポケットにしまった。すると急に忘れていた事を思い出す。
「あっ、そうだ……真剣の注文しないと」
今度の授業で使う、魔獣での実戦授業の為に開発部門に行って必要な剣の本数と性能をヴェルドに伝えなければいけないのだ。
「(……行きたくないなぁ)」
憂鬱な気分になりながらも、ゲイルは開発部門の校舎へ向かうのだった。
~・~・~・~
『あ~っ!! あ~~っ!!』
魔力が豊富な土地で、魔界への入口と繋がりやすいヒエリカの平原か、それかたまたま魔力の溜まり場となっていた場所から繋がった所に捨てられた子なのか、それとも急に魔界への裂け目が現れて離ればなれになったのか……。
それは未だに分からないが、魔界の洞窟にポツンと赤子はおくるみに包まれた状態で、寒いのか泣いていた。魔界でよく吹く、強風の日の事だ。
『ピキ?』
『ピキー!』
『ピキ、ピキピキー!』
『ピキピー!』
人間の赤子を見つけたは2体のスライム、スラのすけとスラたろうであり、魔王であるティアラは魔王城で育てる事にしたのだ。
とはいえ、人間を育てるのは初めての事。食べる物は基本的に人間も魔者も同じなので、それは困らないが……。彼らにとって人間の赤子は、まるで目の開いていない子猫のように非力な存在であった。彼らにとって魔力こそ力の根源、そんな魔力をほとんど持たない赤子は彼らにとっては……。
『ク、クロウ……』
『……お気持ちは分かります』
『なんじゃ、この弱々しい生き物はッ!! 今日みたいな風がちょ~っと吹いただけで死んでしまうではないかっ! 人間界ならともかく、ここは魔界じゃぞ!? 即死じゃ!! 人間界の台風なぞ、比較対象にすらならん!!』
『本当に、魔獣にも襲われず今までこうして無事に拾われた事が奇跡ですね』
『これが人間? あたし初めて見たー! すっごーい! 弱そう!』
『肉食うか?』
『むにゃ……にく』
『とりあえず、名前決めるのが先なんじゃないの』
『うむ、そうじゃな……じゃあ、激弱くんはどうじゃ!』
『前世の俺が居た世界にあった、メラニンスポンジの商品名にそっくりだから却下だ』
『えー、分かりやすいと思ったんじゃがな……』
『お嬢、名前を付ける意味、分かってんの? 名前を付けるってことは……。
これからそいつが背負う人生で最初の重さで、誰かに願われる事。それで名付け親は付けた責任が課されるって訳だ。
そんな気軽に、しかもこいつが弱いなんて決めつけるような名前を付けるもんじゃないぜ。そんな背負い切れない物を与えるな。それに言霊ってよく言うだろ、もしこいつが弱いままで、その弱さのせいで魔界で早死にしたらお嬢の責任にもなる』
『……そうじゃな、とても軽率な発言じゃった』
『分かればいい。……って訳で、俺はそんな責任重大な事と責任は負いたくない。クロウ、あんたが考えてやれば』
『何故私が……。では、そうですね。なら魔界の風から取りましょう、いつか魔界の風のような強い子に育つよう……ゲイル・ヘルウィンドという名前はいかがでしょうか』
彼らはちっちゃくて弱いゲイルをそれはもう過保護に育てた。力も無く、体も丈夫ではないのにそこら辺に落ちてるものをとりあえず触って、口に入れようとし、気が向くままに這いずり回ったりするのだから、余計に過保護になった。
魔界の生き物はとにかく大きくて凶暴で、力と生命力に溢れている。そこらに居る虫だって、剣を持った大人の人間を簡単に食い殺す事ができる。
もしゲイルが魔王城を出た時には、簡単に魔獣達の美味しいランチにされてしまうだろう。というか、触っただけで死にそう。
『さ、触ったら崩れたりせぬか……??』
『しないに決まってるだろ』
『あぶ』
『ぷ、ぷにぷに!! ぷにぷにじゃ!! 人間はプリンとかゼリーとか寒天とかこんにゃくとかでできておるのか!?』
『ただの水分の塊だ』
『なんじゃと!?? これは由々しき事態じゃっ!!!!』
そう考えた彼らは、ゲイルを徹底的に強くした。筋肉を付けさせ、剣を持たせて戦闘技術を叩き込み、魔界で死なない為に必要な力と必要最低限な魔法の知識、そしていつか人間界に返す為に魔物語だけではなく、人間の言葉や風習、歴史などなど……。
人間世界での一般常識なども教えた。まぁ、多くの魔者は魔界暮しなので、人間に普段溶け込んで生活していたネロがそこら辺を怠けながら教えたが。
そして仲間・家族想いである彼らは断腸の思いで、寂しかったがゲイルを学園に通わせ、社会でやっていけるようにしたのだ。
全てはゲイルを大切にしているからこそである。
魔者達は強さと食に固執している種族が多く、魔法を本能で理解していてアーティファクトをダンボール工作感覚で作ってしまうのに、とにかく愛で溢れた存在だ。まぁ、愛情深過ぎて若干ヤンデレに片足を突っ込みそうだが。
それからゲイルは入学してすぐヴェルドに一目惚れされて目を付けられたり、ノルトに守られながら餌付けされたり、実は無自覚の腐女子だった、まだノルトに口説かれ心も体も堕とされる前のマリエッタには《ヴェルド→ゲイル←ノルト》という三角関係の妄想をされていたりもした。
なんだかんだ大変ではありつつも、学園生活は楽しかった。青春の日々を過ごして、そこでゲイルは恋をしたり失恋をしたりした。
卒業後、その強さ故に傭兵の為に作られた組織の中でもトップクラスの実力を持った傭兵として名を馳せていたり、魔王城にゲイル以外の人間、しかも親子が転がり込んできたりもした……が、約4年前。
ある日クロウから急に、こう言われたのだ。
『今の仕事を一時的に休職し、ワークブルク学園に教師として来年入学する勇者に剣を教えなさい』
理由はすぐに分かったが「それにしては過保護が過ぎるなぁ……」と、今でも時々思う。
だからこそ学生時代の頃、ヴェルドに目を付けられていたゲイルはそんな彼らに「実は脅されていて、無理やり体の関係を持たれている」だなんて言えないのだ。ただでさえ勇者の事で色々と思う事だったり、色々と考えて心配しているのに、自分もそういう問題で心配をかける訳にはいかなかったのだが。
もしバレたら普段温和な彼らもブチ切れて、地形が変形するどころか、魔力砲起動のスイッチをポチッと押して島1つを消しかねない。一体人類の何パーセントが消し飛ぶ事だろう。
そんなこんなでゲイルは魔王に立ち向かう勇者のような気持ちでヴェルドの元へと歩みを進めているのである。
全ては平和と、家族の為に。
流石某主従吸血鬼夫婦の子……マイペースだぜ。
以下、当時に書いたあとがき。20241022
よく絵の線画を提供してくれるいつものリアルマイフレンドが、今年もハロウィンの線画をくれたぞ!しかも2枚!やったぜ!
……31日までに間に合うかこれ?無理では……??
とりあえず間に合わなさそうな事がほぼ確。でも楽しみにしておけ、画面の向こうに居る暇人のおまいら。我氏はとりあえず明日(もう日付変わるけど)公休だからめっちゃ色塗るぞ。
pixivsketchで我氏が起きれたら朝の8時くらいに絵の配信する予定だから、先行して見たい人とか話し相手になりたい暇人の人は来てね。
多分我氏、ほぼ一日中描くことになるから、仕事とか学校終わりの人が見に来ても「うわ、まだ描いてる」みたいな感じになるかもしれん。
あ、でもママ上の都合上と普通に明後日仕事で夜更かしはできないから、遅くなり過ぎたら流石に配信閉じてるだろうけど。
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