可憐なる叔母!!!
世間では夏休みだね。学生の内に青春を楽しむんだぞ、10代達よ……。
(未だにお酒を飲んだことが無い21歳より)
「きゃーーっ!! ルーアちゃん世界一綺麗よ!! うちの子最高!!!!」
そんなふうにおばあちゃんはいつも以上にキャーキャーしていて、連写の嵐。おじいちゃんは……なんか本格的なテレビとかでの撮影用カメラみたいなのを動かして、なんか撮ってる。私は伯母ちゃんの晴れ姿を見てとてもニッコリしていた。今日はルーアちゃんの結婚式でクリスマス、とってもめでたい日だ。
この世界の結婚式はとんでもなく異常だけど、この結婚式は私が知ってる物と同じだからとても安心。私、人生で初めてパーティー用ドレスを着たね。お母さんセレクトだからなんか凄くフリッフリなロリータだけど……ちょっと恥ずかしい。
ルーアちゃんは照れからくる笑った表情をして限界親バカメラマンへと化していたおばあちゃんに連写されていた。ルーアちゃんのドレスは黒いドレスで、その意味はあなた以外に染まらないという意味がある。
それにしても白じゃないところがなんとも、プライドが高くて愛が重いお父さんの妹って感じがするなぁ……。どちらかと言うと、染める側だし……絶対重いだろうし。私は直感で何となくそう思った。
一方でルーアちゃんを貰う運のいい義理の叔父、フロムさんはお父さんと会話をしていた。あんまり会う機会が無いからね、この機会だからちゃんと話し合っておこうって事なんだろうけど……なんか様子がおかしい。
「結婚おめでとう」
「ありがとうございます、ノルト義兄様」
「ノルーアもとうとう結婚すると思うと、感慨深い。知っての通り、代々俺達は家族を何よりも愛する。当然、家族となるフロムも俺は大事にしたいと思っている。
……だが、俺の妹を泣かせたその時には切り落とすからな」
お父さん、圧が。圧がすごい、肩も掴んでるけどそれミシミシ鳴ってたりしないよね? もし不倫したら二度とそんな事ができないように、フロムさんのJrを削ぐ気みたいだけど、怖い。私には無いし、当事者でもないけど怖い。
「(それにしてもルーアちゃん、はにかんではいるけど……なんとなく──)」
「ノエルはさー、将来どっちがいい? ドレスと白無垢」
すると私に引っ付いてお肉をとにかく食べながら、私の無い胸をさすさすしてセクハラもしてくる変態が話しかけてきた。とりあえず思いっきり手を強く握り返しておいた。それはもう情熱的()に、ミシミシと。
「んッ♡♡」
「正直、どっちでもいい。それより私に引っ付いてるか食べるかセクハラするか――いやそれはしなくていいというかやめて。やってる事を1つにしたら?」
「わかった!」
さすさす
「だからセクハラすんな!!」
思いっきり足を踏むと、レイゼルはいつも通りに喜んでいた。そして私は今日の主役の所へ行くと、心からの祝福の言葉を伝えた。
「結婚おめでとう、ルーアちゃん! これからもずっと幸せでいてね!」
「はい、ありがとうございますノエルさん」
ルーアちゃんはにっこりと綺麗に笑ってそう言っていたけれど、私には分かった。本当はルーアちゃんが心の底からは喜べてはいない事に。だから私は、一番最善であろう言葉で元気付ける事にした。どうしてそんな言葉なのかは自分でも分からなかったけれど……いつもの勘が働いたから、仕方ないね。
~・~・~・~
前世で配信者になったキッカケは孫からの純粋な好奇心からでした。
『おばあちゃんってさぁ、実際にボランティアでイノシシとか撃ってんじゃん?』
『そうですね』
時々遊びに来る、巷の小説や創作物ではよくオタクに優しいギャルと呼ばれるタイプの孫が(私はよく年金暮らしで特にすることも無い為、最近の娯楽に手を出してみたのですが、とてものめり込んでしまいました)唐突にそのような事を珍しく聞いてきたので、私は驚きながらもその言葉に同意しました。
『でさ、絶対にヘッショで外した事ないってマ?』
『はい、時代が違えば、オリンピックに出れていたかもしれませんね』
『ヤバ~! あっ、OPとは違うけど、今なんかeスポーツ? っていうのがバズってるらしーよ。クラスのオタクくんが言っててさ~! eスポーツってのはゲームの大会とか、そーいうのね』
『知っていますよ、本当に昔では考えられませんね……。つい最近では、動物との平和な日常を過ごして無人島生活をするゲームを買ってみたのですが、とても面白くて……つい年甲斐なく熱中して一晩中してしまいました。確か、この事をオールと言うのでしたよね?』
『流石ウチのGM、新しい物好きなとこ超好ハオ。でさ、ウチ思ったんだけど……本職のおばあちゃんがFPSやってみたとかTikT○kに投稿したらバズるんじゃね?』
『! ……やっても良いんですか? ところでそれはスマートフォンでできるのでしょうか』
『もち! でもPSの方が通信環境良いとかオタクくんが言ってたから貸すよ~』
結果から言いましょう、動画はバズり……気が付けば私はVTuberになっていました。何を言っているのか分からないかと思いますが、孫がどうやらVTuberの動画を見るらしく……。Y○uTubeの収益化でイラストレーターさんとモデラーさんに依頼をして『どうせならもうVTuberデビューしてやっちゃお!』と、勢いだけでVTuberにされてしまいました。
『え、えぇと皆さんこんにちは、孫に流されていつの間にかVTuberになっておりました。VTuberとしての活動名は──。
ノルーア・ヒエリカ・ヴェンティエと申します、以後お見知りおきを。これから一週間に一度か二度くらいに、孫に手伝ってもらいながら配信をしていきたいと思います』
《マジか、あのおばあちゃんがまさかのVTuber堕ちとはWww》
《これが本当の推せる時に推せ》
《ご高齢だからね……》
《とんでもねぇバ美肉おばあちゃんが生まれちまったな》
《孫ナイス》
こんなふうに私はVTuberデビューをしまして、楽しく配信をしていたのですが……いつの間にか、世界一のFPSプレイヤーとして名を連ねる事になっていました。流石私ですね。
ですが、初冬のある日の事……私は猟友会のボランティア活動中に命を落としました。痩せた野生の熊が森を降りてきて民家へやって来たのです。食料が足りず、冬眠できずに降りてきたのでしょう。その1週間前もテレビでもよく報道され、その影響力は日々の活動にも及びました。
『おばあちゃん、そんなクソコメ無視しなって!』
『ですが……』
『それはただの価値観の押しつけるビーガン(笑)の自己満お気持ちコメだし! おばあちゃんの活動は大勢の人の為になってる!! そんな奴ら、シカトか即ブロか報告でいいじゃん!』
そして孫がやってくるや否や、私の最近の動画のコメント欄を見せて『これどーゆーこと!?』と言いました。
《人間のせいで年々餌が減って、餌を求めてやってきたら人間のせいで撃ち殺される。本当に可哀想……。そういう心が無いから人間を撃ち殺すゲームで世界一になれるし、実写で実際の狩りの映像とか出すんだろーね。私なら餌を用意して不殺で済ませるけど、そんな事も思いつかないのかな。やっぱ生き物をリアルで撃ち殺したいだけでしょ》
《ご気分を悪くされたのならすみません、動画は非公開にさせていただきます》
『おめぇらみてぇな奴が勝手に餌ばら撒くから、うちのおばあちゃんがそんな事をする羽目になんだろーが!! 一回てめぇが餌になってこい!!』
《前に猪撃ってる動画をY○uTubeとTwit○erに上げてたけど、本当にあれ消して欲しい。みんな知らない人が多いかもだけど、6千~から1万5千円くらい貰えるんだよ。ペットショップで売られてる犬とか猫は20万なのに。命の重さは平等とかよく言うけど、人間の勝手な都合で最低で6千円っておかしくない? しかも勲章みたいに動画で見せびらかして、命を弄んでる。それを肯定する視聴者も本当に気持ち悪い、もうやめて欲しい。配信も何が面白いのか分からないし、何で人気出てるのかも分からない》
《これからはそういった動画は出さないようにします、貴重なご意見ありがとうございました》
『この面白くないとか言ってるキッショい奴!! 見たくねぇなら自衛しろよ!! 何でうちのおばあちゃんが配慮する側な訳!? タイトルとサムネで大体どういう動画か分かんだろ!! 見たくねぇなら最初から見んな!!! あと気持ちわりぃのはてめぇーだボケ!! てめぇも口先だけで行動もできねぇ、命も張れねぇ癖にでしゃばんな!!』
『り、■■さん……落ち着いて下さい、そのような汚い言葉を使うのはよくありませんよ』
『だって!! こんな奴らの為におばあちゃんが命張って、こいつらがのうのうと生きて普通に生活してて、こんなバカ丸出しな事書き込んでると思ったら、マジでムカ着火インフェルノ案件だし!! おばあちゃんはなんとも思わないワケ!?』
孫は憤慨した様子で聞いてくるので、私は『その内すぐにこの騒動も終わりますよ』と答えると、孫はスマートフォンではなく私の方を見つめてきました。
『本音は?』
『あまり賢くない生き方をしている方達だなぁとは思っています』
『おばあちゃん、ちょ~オブラートに包むね』
そして私が猟友会でボランティアの活動をしている時、熊が街中に出てきたという報告が入った為、私は猟銃と罠などの道具一式を持って撃つことにしました。
その時に私は死に、VTuberとして活動をする際に使用する2Dモデルの体に転生したのです。
何故私が死んだのかと言いますと、熊に殺されたからです。普段であればそのような大失敗をすることもないのですが、あの時は状況が違いました。
なんと見知らぬ若い女性が、餌に釣られた子熊の入った檻を開こうとしていたのです。もちろん止めようとしたのですが、時既に遅し。親熊が現れ、子供を守ろうとその女性に襲いかかったのです。
猟銃を撃ちましたが、やはり親熊が止まることはなく……。なんとか女性を逃がす事はできましたが、私はそのまま熊に殺られてしまいました。
ですが悔いはありません、もう老いた身でしたし、いつかはその時が来ると思っていましたから。ただ……気がかりはありました、孫の事です。あの子は悲しんでいないでしょうか、元気だと良いのですが……未だに思い出しては、気になってしまいます。幸せに過ごしていると良いのですが……。
転生した後、私は初めての女性児で末っ子でしたから、お母様達とお兄様達からはよく可愛がれていたように思います。ですので、手を合わせて少しお願いをするとお母様達とお兄様達は「本当に仕方ないな」といった様子で大抵のことは私のお願いを聞いて頂けました。
そんな優しいお兄様達ですが、時々変な喧嘩をします。原因は私ですが、見ていて楽しいので、ついその原因を作ってしまいます。
『お兄様』
『何だ?』
『どうした妹よ』
『何か用か』
『何ですか?』
『『『『…………』』』』
『あら、ごめんなさいお兄様達。紛らわしかったですね』
『……今のは俺だな』
『兄上、それは聞き捨てならないな。俺に決まっている』
『兄上達は何を寝ぼけて言っているんだ? この俺だろう』
『双子の兄である僕では?』
『ルーアのお兄様は俺だぞ』
『俺もだが??』
『全員そうだろう』
『そうですね』
『だが呼ばれたのは間違いなく俺だった』
『は? 俺だろう、いい加減認めたらどうだ』
『ルーアは俺の方を見ていた、俺としか考えられない』
『それは隣に居た僕では?』
そんなふうにお兄様達はよく口喧嘩をしていました。本当はこれといって特に用もなく、ただお兄様と呼んでみただけなのですが。その事を言うとお兄様達は「全く……」と言いながらも許して頂けます。
意外とお兄様達は単純な方達です。
『ルーアちゃん!! 今日も貴女は世界一可愛いわよ!!』
『陛下、冷静になってください。一国の皇帝であるお方が、感情的になっていては国民達に示しがつきません』
『セバスチャン、あたしのルーアちゃんが可愛くないとでも言いたいのかしら!?』
『そうとは言っていませんが?? ノルーア様はこの世で最も気品があり、美しい皇女様ですが???』
そしてノエリアお母様とセバスチャンはもっと単純な方でした。
『分かっていればいいのよ』
『ふふふ』
スクイナお母様はそんなお2人を見ては微笑み、このような会話をしているのが週に3回ほど。転生してからは毎日に飽きる事はございません、とても充実した日々を享受させて頂いています。
そんなある日の事です。ノエリアお母様が入学された名門校、国立明帝高等学校に私も入学した16歳の夏、我がヒエリカ帝国の貴公子……当時高校生だった、今日で私の夫となったフロムさんが私にラブレターを直接渡してきました。
そこに書かれていたのは、放課後の屋上に来て欲しいとだけ書かれていました。その場所に行くとフロムさんは既に待っていて、とても緊張した面持ちで私をじっと見ていました。
『貴女の事が好きです。私が将来忠誠を誓うヒエリカ帝国の皇女様としてではなく、ノルーア・ヒエリカ・ヴェンティエとして貴女が好きです』
当時、とても顔を真っ赤にしながら告白をしているフロムさんを前にして私は──。
『(若いって……良いですね)』
前世の頃に戦争で謳歌出来なかった青春に直面し、思わずそんな事を考えていました。ですがそれもその筈、よくライトノベルで「前世入れたら私アラフォーよ? 立派なおばさんよ?? 今更恋愛なんてそんな……」と、考えている女性の主人公が居ますが、それとほぼ同じ状態でした。私の場合はおばさんどころか、お婆さんですが。
私には孫も居ましたし、既に100歳は生きていました。よく年齢を感じさせないとご近所の方に言われていましたが、やはりいくら私が新しい物が好きだからといい、精神まで若々しいのかと言えばそうでもありません。
今更恋愛をしたいとは思えませんでしたし、皇族であるが故に遠巻きにされていた為、彼を含むクラスメイトですらあまり交流がありませんでした。なので、当時はとても驚きました。
そして少し変わった貞操観念と、この世界特有の体と若さで前世の時よりも性欲が上がり……いくら何十年ぶりに自慰をするようになったとしても、相手(いわゆるセッ〇スフレンドと呼ばれるものですね)が欲しいと思った事はありませんでした。今の時代、動画の投稿サイトや漫画を投稿するサイトを覗いてみれば、そういう目的の物が沢山ありますし。それに……私自身自覚していたのですが、特殊なものを好んでいましたから。
そしてこの世界では恋人になるという事はまぐわいをする事。私に好意が無いのに告白を受けることは、全く健全とは言えません。大変心苦しいのですが、私は断るつもりでした。
『勇気を出してくださったのに本当に申し訳ございません、今はそういった色恋に私は興味がないのです』
『……そうですか』
フロムはとても苦しそうな顔を必死に我慢して、笑顔を取り繕っていました。そんな様子に、思わず私も胸に痛みを伴う程の悲しみを感じました。とても重い空気の中、フロムは勇気を出して言いました。
『もし、もし貴女が……私を哀れに思ってくださるのなら。これからの学生生活の中で、チャンスを頂けませんか』
『チャンス、ですか?』
『まずは友人として、貴女の傍に居させてください。この3年間で、絶対に貴女を落としてみせます』
真っ直ぐと私を見てフロムさんは言いました。
『……いいでしょう、貴方が友人として私の傍に居る事を許可します。ですがもし私が別の殿方を好きになった時は、恨まないでくださいね』
『わ、わわわわわわわ、わかかっ、わかりました……』
明らかに挙動がおかしくなった、正直な性格のフロムさんは嘘がつけないのか、まるで壊れたアーティファクトのようになって大量に冷や汗をかいていました。思わずその時は笑ってしまいましたが……。
結局、その約束をした結果、見事私はフロムさんに嫁ぐことになり、ノルーア・ヒエリカ・ヴェンティエから本日でノルーア・ウィルディとなった訳です。
……もしかしたら「面白い人」と、思って興味を持ってしまった事が原因かもしれません。よく娯楽小説では、そういったキャラクターは必ず主人公に恋心が芽生える事が多いのですが……前世はフィクションを面白くする為のものだと思って楽しんで読んでいました。ですがまさか、私がそうなってしまうとは……本当に人生とは、何が起こるか分かりませんね。
~・~・~・~
ノルーア(18歳)の仕事は前世と変わらず、人に危害を与えるであろう凶暴な害獣などを駆除する公務をしていた。
クソデカリボルバー拳銃二丁を持ち、嬉々として自らのスキルと魔力で作った特殊な魔弾を魔獣に打ち込む。そして当たった魔獣の魔力の巡りを破壊し、全く別の物に上書きする。再生させず、弾に魔獣自身の魔力で自ら燃えるようにしているのだ。
自らの魔力で物や自身が発動させた物理防御壁に魔法を付与するスキルを徹底的に叩き上げ、そして編み出したチートにも等しい能力である。
だがこの一撃必殺の能力、一見完璧に思えるのだが……複雑な魔法であるが故に、一発一発、魔力の消耗が激しく、そしてノルーアがこの能力を使えるのはヒエリカでのみ。そしてあまりの武器の威力に、体自体はそこまで頑丈ではないので、衝撃で腕に負担がかからないよう、魔法で衝撃を反転させている。それでますます威力は上がっているのだが、やはり魔力の消費量は馬鹿にならない。強い能力にも制限は付き物だ。
今日も今日とて、ヒエリカの職人から送られたリボルバー拳銃のアーティファクトから、ドパンッという何もかもを破裂させて獲物を仕留める威力を持った弾丸を、魔獣に向けて撃ち放つ。
断末魔をあげる暇もなく上半身を木っ端微塵にされ、そして魔獣は自身の魔力で勝手に燃えていく。 魔獣を見つけては片っ端から撃ち、また見つけては撃ちと、淡々と繰り返していく。
そのスピードは普段よりも倍以上に速く、ノルーアは出来事のショックから逃げる為に、難しい悩みという名のストレスを発散していた。
というのも、つい昨日ノルーアはフロムと結婚する事を発表したのである。そして国民達は、それはもう言いたい放題で荒れ放題であった。
何故なら皇族は国民達にとって、国の未来にして守護者ではあるが、それは国を治める主としての意味合いではなく、まるで宗教での|教祖、そして夢と希望と笑顔を与えるアイドルに近い存在なのだ。
そんな国を治める一族は世界中を探してもヒエリカ以外には存在せず、皇族と国民達は、チケットがなくても握手ができてしまう程の距離感。
元々概念の神が魔王という存在を作る為に生み出した、吸血鬼の魔力に影響された皇族達は皆、美貌に優れており、不思議と生き物を寄せ付ける才能を持っている。そのこともあり、それほどまでに皇族は国民たちにとっては近い存在だ。
当然、それほど魅力的に思うので中にはアイドルにガチ恋をしてしまう人のような国民も出てくる。
よく俳優や女優などの芸能人、有名人が一般人と結婚すると、一体どんな相手なのか気になってしまうのが人の性。しかしノルーアは皇族だ、絶対に相手を公開しなければならない。なにしろ、皇族に一部人権と自由がないので。ヒエリカの皇族というものは、常に公を優先しなければならない。
(当然ノルトが結婚してフェリラに移住する時も酷かったが、皇籍を捨てた訳でもないし、既にノルトは随分前から学園に入学する為にフェリラ国民としての手続きも両国の公の場でやっていたのであった。同盟を組むフェリラが問題行動をしないか内部で監視をし、フェリラに自然と馴染む為という言い訳じみた理由を、ほぼ洗脳レベルの話術とカリスマ性でノエリアがゴリ押し、国民達をなんとか納得させた。現在では夫婦を推している人が大多数だ)
それがいくつも重なったら一体どうなるか、想像に容易いだろう。過去にノエリアの時も凄かったものである。
貴族であるフロムは普通に屋敷へやって来た一般人共を警備達に追い払わせることができるが、一般人であったスクイナはそれはもう酷いものであった。なんとかノエリアが抑えたから良かったものの……最悪の場合、命に関わっていた。
ノルーアもそのような問題があり、結婚に至るまで時間がかかったのだが……実はもうひとつ理由がある。
それは、あのフェリラ国王、ウィリアムがノルーアを強く側室に迎え入れたがったのだ。それはもう、過去に同盟を組む上での条件(ほぼ脅しのようなものだが)として、ノルーアを所望するくらいには。
ちなみに両国の立てた同盟の内容は、こうである。
フェリラは家畜等の肉に聖力を込め、輸出してヒエリカの食文化を守る事。ヒエリカは、フェリラに定期的な医療に関係するものを提供し、国全体の健康状態を上げ、病死などによる死亡率を減少させる事。
ヒエリカでは動物があっという間に魔獣になってしまう為、こうでもしないと日持ちしないのである。
ヒエリカで産まれ、育った生き物は例外無く高い魔力を持つ為、家畜達を育てて肉にしようとしても、ただ魔獣を量産させることとなってしまう。オマケにヒエリカ国民はほとんど聖力を使わないと言うよりも、使えない者ばかり。ヒエリカの特殊な土地による、体質と進化をした結果の問題なので。
そして魔獣が産まれてしまう原因は、変質しやすい家畜の魂が、強い魔力によって肉体から抜けないまま、魂が変容してしまったからだ。なので魂を抜いてリリースをする事ができれば、魔獣は生まれない。しかし魂を操り、操作するなんて芸当は、悪魔か魂を司る神、そして運命の神と──この世の全ての生き物や現象、世界そのものすら司る概念の神くらいだ。
その為今回の件で、ウィリアムは同盟解消をチラつかせてきたのだった。
その理由は当然、自分の癖と下半身の為である。幼い頃からノルーアはウィリアムからよく気色悪いラブレターを送られていたのだが、全て本人が読む前にセバスチャンが燃やしていた為、その存在自体ノルーアは知らないのだが。
そして今日、話し合いの為にノルーアはノエリア、フロム、そしてセバスチャンと共にフェリラへ赴く事となっている。
『……そろそろ、準備をしなくてはいけませんね』
死ぬ程、とまではいかないが、行きたくない。全力ですっぽかしてやりたいが、国の未来が決まってしまうので仕方なく皇宮に戻り、準備をする事にした。
『ムーヴィ』
一瞬で皇宮に戻り、風呂に入ってから公の場に出る時の白と翠を基調とした服装に着替えて、ある程度髪を整えてから、皇族直属のスタイリストを呼んでメイクをしてもらい、髪を整えてもらう。皇族は基本的に身の回りの自分でできる事は自分でやる事が決まっており、自分の部屋を片付けたり、掃除などをする事が決まっている。これには隠しカメラやマイクなどを仕掛けられないよう、自分の身を守る為という意味もあり、なるべく人件費などの自分達に無駄な金を使わないようにする為である。なので、専門的な事などは信頼出来る誰かにやらせているのだ。
(ちなみに皇帝や皇族は配信をする事で、そこから発生する収益のみを私用で使う金として得ている)
それから準備が終わり、ロビーにて数分待っていると、男性物の黒いスーツを着て、髪を結ったノエリア皇帝と、スクイナ皇后がやって来た。
『ごめんなさい、ルーアちゃん! 待たせちゃったかしら?』
『いえ、私もついさっき来たばかりですから』
『あらそう? それにしても……可愛い~~!! ルーアちゃんはいつも可愛いけれど、もっと可愛くしてもらったのね♡ キャ~~~~っ! 本当にどうして今日はゴキブリと会話をしなくちゃいけないのかしら! そんな事よりみんなでご飯食べたり遊びたいわ』
『ノルーアさん、とても似合っていますよ』
『ありがとうございます、お母様達』
『さて、行きましょ。身の程知らずのゴキブリに、だが断るって言いに行ってやるわ』
それからノルーア達はセバスチャンの運転するとんでもなく全長がなっがーーーーくて空飛ぶリムジンに乗り、フェリラ城に着いた後、ウィリアムに適当に挨拶をしてから一言も喋らず、ノエリアがただ代わりに淡々と皇帝らしい口調をして話し合いをしていた。もちろんウィリアムはその話の中で、交換条件を出してきた。
今までは輸入だったが、これからはタダで肉を送るし、ヒエリカに腕の良い戦闘用の聖職者と、畜産用の聖職者を送るとも。
だがノエリアはフェリラを出る前から言っていたセリフを本当に言ってのけたのだった。
『だが断る』
『……今、何と?』
『私は今、貴方に断ると言ったのだウィリアム王。まず、金銭の関わる取引は契約に基づくもの。対等であり、記録にもしやすく、1番分かりやすい関係の形でなければ。我が国は魔獣に襲われる頻度こそ多いが、被害はほとんど無い。つまりその行為は支援とは程遠い。まさかとは思うが、我が国を愚弄する気があっての進言だろうか? それほど食に困っている国で、ヒエリカが脆弱だとでも?』
獅子のように咆哮を上げ、今にも喉元を噛み切らんばかりの目でノエリアはウィリアムを見つめる。
『……そ、そう聞こえてしまったのなら申し訳ない、ノックス皇帝陛下』
『そして私を含め、ヒエリカの皇族は誰もが独占欲というものが強い。それは貴方々もよくご存知の筈。娘をどうしても貴方の妻にしたいのなら、まず王妃達と一人残らず離婚をし、奴隷達を解放して頂きたい。私は娘の気が狂い、虐殺をし処刑されたという訃報を聞きたくないのでな、どうか親心というものを理解して頂けないだろうか?』
対談が終わった後もウィリアム王は執拗──いや、熱心に王妃や奴隷達を手放すことなく、少しの犠牲と出費でノルーアを手に入れようとしたのだが、全て「だが断る」とノエリアから言われていた。
しかし約一年前、何度目か忘れる程にノルーアの結婚の事での対談である日ウィリアム王がノルーアを諦めると言ったのだ。曰く、他に魅力的な女性を見つけたと。
「……本当に、反吐が出ますね」
ノルーアはそう呟きながら、あの執拗い王族に目を付けられてしまった姪っ子と今も尚、王女に執着されている兄に酷く同情した。そのせいでようやく結婚式が挙げられるようにはなったが、ノルーアは心の底からは喜べそうにはなかった。
そんな時、いつも父親にダサTを着せられているものの、今回は華やかな場所ということもあり、ここぞとばかりに可愛らしくドレスアップされたノエルが歩いて近付いてきた。
「結婚おめでとう、ルーアちゃん! これからもずっと幸せでいてね!」
「はい、ありがとうございますノエルさん」
心からの祝福の言葉にノルーアは内心とても動揺し、悲しくなる。綺麗に笑って悟られないように務めたが、ノルーアは忘れていた。
ノエルは初代皇帝と同じくらい勘のいい皇女であるという事に。
「……ルーアちゃん、大丈夫だよ。私の事は気にしなくても」
「っ!」
言っている本人は全く、何故自分のことを気にしているのかは分かっていない。何を気にしているかも分かっていない。
「お父さんの子だし、私はまだ色々な意味で弱いけど……そこまで弱いつもりじゃないよ。もしもの時はちゃんとみんなに相談するし……あと一応レイゼルも居るし」
「あえて俺を付け足したように言って、照れてるのを隠してるノエル可愛い~♡」
「五月蝿い」
だがその言葉を聞いてからは、ようやくノルーアは喜べた気がしたのだった。
「あ、やっと笑った!」
あとがき
つい最近、職場の人に我氏の声を褒められた。
曰く、アニメとかに出てきそうなくらい綺麗って。
そ、そんなこと言われたって、嬉しくねーぞコノヤロー!
という訳で、我氏は思った。もしチューチョロ(もっと縮めるとチュ転)のキャラクター達にボイスが付いたらみんなは誰を想像します?
前にリア友と話した時、おばあちゃんは石○彰さんがいいなっていう話をしたぞ!あくまで声が合いそう、という話でね。
ノエルさんはまぁ、可愛いけど可愛過ぎない声がいいな。色気無いので。あんまり高くない方が良いな。
~おまけ~
「という訳で、昨日はエルきゅんも来るから身内だけでの結婚式を配信したけれど……今日は! 真の結婚式、つまり国全体での式を挙げるわよー!!」
《きちゃぁぁぁぁあ!!》
《フォーーーーーッ!!》
《わくわく!》
《昨日も綺麗だったけど、それ以上に良くなるとか頭おかしいって(褒め言葉)》
《あぁ、俺のノルーア様が……》
《最初からお前のじゃない定期》
「心の準備はできたかしら? じゃあいくわよ、ルーアちゃんのシン・結婚式、開式~~!」