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チュートリアル用チョロイン幼馴染に転生してしまった  作者: 水性さん
学校編 1年目!!!
39/52

才能!!!

ノルトパパの過去話。



「何度も何度も、同じミスをしないでって言ってるでしょう!? どうしてあなたは私よりも才能があるのにこんな事すらできないの!? あなたにお金も時間もかけているのに!! 私なんか、私なんか……もう二度とピアノが弾けないのよ!?」



「ごめんなさい、ごめんなさい……」




 本来の使い方とは大きくかけ離れた分厚い楽譜の本で叩かれ、赤く腫れあがり青い痣も付いた背中。過去の栄光、追っていた夢を勝手に託す母の怒声。



 ピアノの音を聞くたびに、俺は母に支配されていた日々を思い出す。



 自慢ではないが、前世の俺にはピアノの才能というものがあった。それは天才と言われた母以上のものだった。



 母の夢はクラッシックの聖地とも呼ばれた海外のコンサートホールで、その道を歩むことになったキッカケのラ・カンパネラを弾く事だった。



 昔、とある世界一の音楽の天才が、海外ロケでその聖地へ来ていた日本のテレビ局のカメラの前でラ・カンパネラを弾いた。それを聞いた瞬間、幼かった母は何かの運命を感じ、ピアニストを目指したのだという。



 そして俺の前世の母は夢が現実になるほどの実力と実績を、才能と努力で全て作り上げ、ピアニストとして音楽界では至高に近い存在になった。



 その努力が実り、母はある日夢だったコンサートでラ・カンパネラを弾くことになった。



 ……だが母は不慮の事故に巻き込まれ、右手を失った。言うまでもなく、ピアニストにとっては致命的な事故だった。


 母の夢は呆気なく散った。もう二度とあのステージの上に上がるチャンスや、ピアノで曲を奏でる日は永遠に来ない。


 プロどころかピアニストとして引退せざるを得ない状況に追いやられ、母は精神を病んだ。そして母と同じ音楽大学に通っていた前世の父は、そんな母を支えた。あくまで、ただの友人として。


 音楽大学に通う生徒は全員、まるで花の精油と同じように、音楽界の上澄みに居る存在だ。父は母と同じく才能に溢れた人間であり、母はそんな父に近づき、結婚した後にすぐ俺を作った。全ては、自分の代わりに夢を実現させる人形に仕立てる為に。


 俺は前世の父親に会った事はないが、昔祖父母に聞いたところによると、母がヒステリックを起こし……その結果父が不倫をして離婚したのだという。


 何故ヒステリックを起こしたのかというと、俺を身篭った頃から母は俺を本来こうなるべき自分(・・・・・・・・・・)やら自分の代わりの存在(・・・・・・・・・)として、俺を育てるつもりだったからだ。その魂胆を見事に当てられ、止めさせようとした父を罵倒し、発狂した。


 母に付き合っていけなくなった父は精神を疲弊させ、結果的に他の女へ逃げたという訳だ。


 俺からすると、ふざけるなという気持ちしか湧いてこない。


 俺にピアニストとしての才能というものがなければ、どれ程良かったか。どれほど、自由で健やかに生きていけただろうか。



 ……いや、才能がなかったとしても、俺はきっと母に罵倒されて生きていたのだろう。人格や存在そのものを否定され、ゴミのように捨てられていたのかもしれない。どちらにしろ、普通の生活は見込めない。


 ただ母の顔を伺い、母の言う通りにモノクロの鍵盤に指を叩きつけていた。いつか、母が俺を見てくれると信じて。


 ……だが小学生になった時、気付かされた。


 小学校というまだ狭いコミュニティでも、人が集まり、集団生活や組織的な営み、関係を育んでいき共生していくのが社会というもの。そんな小さな社会に出た時、当たり前だと思っていた日常は異常でしかないという事に。



「えっ、■■の母ちゃん宿題しろとか言わねぇの!? いいなー」


「……そんな事をしている暇があるなら、ピアノ弾けってよく言われる」



「へー! お前ピアノ弾けるんだ! なぁなぁ、そこにピアノあるし、弾いてみてくれよ!」



「……いいけど」



 俺はその時、母が固執し何度も教え込まれていたラ・カンパネラを弾き、弾き終わった頃には大勢が俺の周りに集まって拍手をしていた。生徒も教師も関係無く、全員が聞き惚れていた。



「すっげー!!」


「……そんな、そんな訳が無い!!」



 きっと心ばかりの賞賛の声だったのだろう。だが俺は当時、その言葉を受け取ることが出来なかった。その怒りを鍵盤にぶつけるように、ただの不協和音を出して俺は椅子から立つ。



「な、何でお前怒ってんだよ! そんな言い方しなくたっていいだろ!?」


「ミスをした、それに母さんみたいに綺麗な音が出せなかった。こんなの、完璧じゃない。だから凄くなんかない!!」


「なんだよそれ、じゃあ何で──」


「はい、■くん落ち着いて。■■くん、本当にピアノが上手だったわ! でもね、皆がこうして■■君の演奏を聞いて感動した気持ちを、■■君自身が否定しては駄目」


 俺はその時、担任の教師に言われたことにとても心が引っかかっていた。ならば、ずっと俺に完璧を求め、俺の演奏を否定していた母はどうなんだ、と。


「ねぇ、■■君の夢はプロのピアニストかな? ■■君ならきっと良いピアニストになれるわよ」


「(……夢)」



 そう女教師に言われた過去の俺は、ただ俯いているだけだった。


 何故なら俺は夢を見られる程、自由を与えられる事も愛を与えられる事も無かったからだ。ただ求められるがままに顔色を伺い、無感情に鍵盤を叩く。よく母には感情を乗せろ、情熱がないなどと言われたが、無理な話だ。俺は母を真似て再現することしかできない。


 ……そう、教えられ、強制させられてきたからな。


 年齢が徐々に上がっていくにつれ、俺は母の過去に弾いていた音源や映像を何度も繰り返し見て聞くことで、母の理想とする弾き方や技量に着々と近づいていった。俺は母に捨てられないように必死でピアノを弾き、学校でも昼休みには廊下にあるオルガンピアノで練習をした。


 ただ、俺は母から勉強をする事や誰かと外へ遊びに行く事、テレビを見ることを家や外でも禁じられていた。常にピアノに当てる教育をされてきた為、その頃の俺は学や社会的常識などが無く、今よりもずっと協調性に欠け、ただの世間話にもついていけなかった。友人などができる筈もなく、情緒も成長する事はほとんどなかった。


 今思えば、家事もあの家に居た時はやった事が無かったな。家庭科の料理実習も、とても悲惨なものだった。あの黒い物体は二度と思い出したくも無い。


 だが……■という男は何故か、よく俺に話しかけてきていた。



「なぁ、その曲ってなんて名前なんだ? よくそれ弾いてるよな」


「……エリック・サティ作曲、ジムノペディ」



「へー……でもなんか、すっげー落ち着く曲だな……音が直接染み渡るっていうか」


「実際に効果があるから、病院のヒーリングミュージックとして流される事も多い」



「つまり■■は無意識に癒しを求めてるって事だよな? よく■■が練習で弾かされてる曲って、見たり聞いたりするだけでも分かるくらい難しそうな曲だし」


「……そう、なのかもしれないな」



 そして中学校に入り、俺は母が思い描いていた俺の人生設計よりも早く、最終目標とも呼べるラ・カンパネラを弾くこととなった。■が「バズる為に休み時間の音楽室でピアノを弾いて欲しい」と俺に言ってきたからだ。


 バズとはなんの事だったのかは未だに分からないが、スマートフォンの前で顔は映さずに弾いた。母が見てる場所でも、寄せる為の練習でもなかったからか……おそらく前世ではその時だけ、俺の演奏ができていたように思う。


 ■がSNSでその動画を投稿した所、大きな反響を得たらしい。何度か練習ついでにその頃何故か流行っていた魔王とRush Eを弾いて付き合ってやったのだが、自分で思っていたよりもインターネットの中で俺はかなりの有名になっていたそうだ。


 その話を聞いた時、正直気分は悪くなかった。


 ■は段々とスマートフォンではなく、本格的なカメラとマイクを待つようになり、それを俺に向けて撮っていた。その影響力はテレビに出演しないかと声がかかる程であり、ここで初めて母にYouTubeでピアノを演奏しているという事を伝えることになった。俺は最初また烈火の如く激怒されるのかと思っていたが、それとは裏腹に母は喜んで許可を出した。


 何故なら憧れのステージ(・・・・・・・)に俺が立つ為には大会にでられるだけの力量と実績だけではなく、周囲が俺を認知しているかどうかにも寄るからだ。


 だからそれまで俺がピアノ以外に興味を持とうとした時は怒鳴りつけ、俺に初めて異性の友人ができた時もその相手に「私の息子に関わるなマセガキ、息子を誘惑する気か」とヒステリックを起こして喚いていた母だったが(その事が原因で前世の俺は長い間女性との会話、関係などに対して苦手意識ができていた)■とY○uTuberとして活動することだけは全面的に協力していた。……吐き気がした。その活動にさえ干渉しようとしてきた為、どうにかそれを止めさせる口実を言っておいた。


 これはあくまで■がやりだした事で、あのチャンネルは■の物だからだと。■が動画をインターネットに投稿する度にテレビに出演する機会は増えていった。そして前に俺が「憧れの場所で母の為に(・・・・)大勢の観客に囲まれている中、ピアノを弾くこと」だと、夢について聞かれた時に答えたのだが……。まさか、中学3年になりチャンネル登録者数が100万人突破した記念で海外旅行をしに行くのかと思えば、番組の海外ロケのサプライズドッキリで本当に弾く事になるとは。


 そんなサプライズドッキリは番組側が■とその両親に持ちかけ、行ったものだった(母には海外ロケで行くのだと伝えてはあったらしい)だがどうやら日本だけではなく、噂を聞き付けた現地のテレビ局も集まっており、プロも会場に来ているらしい。


 ■曰く、期待はしていないとの事だが。恐らく、クラシックの本場としての、面子の問題だろう。



「ここでピアノを弾くのは、■■にとって大きな意味になると思う。だからもう、自由になっていいんだ。本当はお前……夢とか無いんだろ?」


「何故、それを」



「なんとなくな、でもとりあえず今日は"いつも通りに"弾けばいい。ここにはお前の親も居ない、後の事は今考えるな! 後で考えろ!」


「言葉が重複しているぞ」


「あー、俺結構カッコイイこと言ってると思うんだけど、そういう細かいツッコミ入れちゃう? まぁとにかく! 終わったら俺ん家で匿って面倒見てやる! ま、その代わりちゃんと宿代払って貰うし、母ちゃんの説得もしてもらうけどな。つっても、■■のおかげで宿代は動画の収益で足りるし、むしろ金銭面で俺の家って貧乏だからぶっちゃけありがたいし。


 じゃ、行ってこい。本場でお前は凄ぇんだって事を世界中に、何よりもお前の母ちゃんに分からせてやれ!」


「……あぁ、当然だ」



 その一言で、俺は開放されたかのように感じた。そして俺は初めて、母が見ている前で"俺の演奏"をした。いつも通りに、顔や名前を隠した状態で。


 だがそれが一番自由に感じられた。


 に完璧(・・)弾き終えた後、俺は家には帰らずに■の実家に転がり込み、■の母親に家事や常識などを教えて貰う毎日が始まった。土日にはストリートピアノを弾いて動画を撮り、学生らしく勉学に励む日々が続いたが……。


 その間、母が俺を探しに来るような事は一切無く、それ以来会っていない。


 ただ俺は家庭環境の事もあり、勉学に励めるだけの余裕が心身共に無かった。一番足りないのは時間だったな、それに■の母親から一般常識や家事の事も学んでいたから、余計に。だからか俺には他のクラスメイトや■と比べても、必要な知識が大きく欠如している部分があった。スタートダッシュに大きく遅れながらも受験勉強に打ち込んだが、やはり俺は高校に進学する事はできなかった。


 ■は無事に合格し、母親に楽をさせる為に俺とルームシェアをしながら難関高校のある都心へ引っ越し、通学する事になったが。


 そうなるとやはり就職が視野に入る。Y○uTubeの収益があるからといっても、世間的に見ればY○uTuberという物は職業ではない為、無職という事に変わりはない。


 かと言ってプロのピアニストとして生きていきたいという思いがある訳ではなく、その道にだけは絶対に進みたくはなかった。


 やはり学が無くとも働けるような職は接客業くらいだ。とりあえず、客への柔軟な対応ができればいいからな。しかし、スーパーや飲食店などの接客業に惹かれるようなものが無く、土日に■と駅に行ってはストリートピアノで弾き、動画を撮る日々が続いた。


 弾いて金を得るプロのピアニスト(・・・・・・・・)にはなりたくはないが、俺の演奏が数値として明確に正当に表れ評価されるのは嫌いじゃない。それと母の演奏に近づける事は苦痛だが、ピアノもそうだが何かを極めるという事自体は好きな方だ。何かの能力があれば自信に繋がり、何事も将来的に困る事は無いからな。


 就職活動をしながらもピアノを弾き続けていたある日、この生活は一変した。



「ゴメン君、ちょっといいかな。ボクこういう者なんだけれどね……SMに興味無い?」


「……」



 明らかに怪しい男に話しかけられながら名刺を渡され、俺は「なんだコイツは、初対面の相手に対してそのような特殊性癖の事を聞いてくるとは……」という虫けらを見る目で見ていた。



「あ゛っ♡ イイ!! やっぱり君にはSの才能があるよ!! 特にその目!! 最高の原石見つけたったわ!! 是非ともウチで働いてくれ!! いや、働いてくださいお願いしますッ!!」



 変態のオーナーに目を付けられ、家に帰った後も「なんだったんだ……」と思いながらも、名刺を見ていた。



「ただいま■■……ん? お前どうしたそれ」


「買出し中に遭遇した変態に、押し付けられた紙切れだが」






「へ、変態?? ……って、SMクラブ!? なんてもん貰ってんだお前……あー、でも確かに……向いてんじゃね? というか、100%合ってる」


「俺はそのような特殊性癖では無い」



「……えっ?? お前それ本気で言ってる?? じゃあ天性か……いや、この様子だと気づいてないだけか?」



 そして土曜日、俺は怪しいと思いながらも、■も巻き込んで行く事にした。


 ……天職だった、という事は言っておこう。そこで俺は働くようになり、10年くらい働いた後で女性客に付きまとっていた男から庇って死んだ。詳しく説明すると長くなるからな、そこからは別に至って普通の生き方をしたから説明も要らないだろう。








「きゃ────っ♡ 可愛い~~~~♡♡」




 若干野太い声で叫ばれた後、体格のいい男に抱き上げられた挙句、頬にキスをされる。思わず俺は心理的な不快感を覚え、顔を顰めた。



「スクイナちゃん、見てみて!!! アタシ達の子!! まるで天使だわ!!」



「……えぇ、とっても可愛らしいですね」



「それで……どうしようかしら、名前」



 話を聞く限り、転生後の俺の父親と母親だろう。俺はもう生まれていると言うのに、まだ名前が決まっていなかったのか。当時の俺はそう思いながら、薄い目で母上を見ていた。



「いつもはすぐに決められるのだけれど、今回はなかなか決まらないのよね……」



 そう言いながら父親らしき男……女? 俺はどちらで呼べばいいのだろうかと当時困惑した。今の時代は多様性が、などと前世に居た日本国外(日本にも居たが、それはただの攻撃がしたいだけの程度の低い奴らで、国外に比べたら比較的に少ないというだけだが)ではただ押し付けるだけの馬鹿共が必要以上に騒いでいた。面倒なことに、安易に男や女という言葉を使えば爆撃のような攻撃を仕掛けられる。


 実に迷惑極まりない。


 配慮はするが、必要以上に押し付けてくるようなら俺はなるべく関わりたくない人種だ。


 すると女(?)は急に何かを思いついた様子で表情を輝かせた。



「アーノルト……アーノルトはどう!? 名前の由来は鷲で、その飛ぶ時の姿から海外では力と支配って意味もあるのよ! ピッタリじゃない!? 実際にこの子を見たからか、ビビって来ちゃったのよね~! それにカッコいいし!」


「とても、素敵な名前ですね……」



 俺を産んだらしき母親はとてもぐったりとした様子でそう言い、母親(?)はベッドに腰かけた。



「スクイナちゃん、大丈夫? 辛いなら無理して返事しなくてもいいのよ? 魔力量測定アーティファクトが弾き出したデータによると、歴代皇族の中でもトップレベルで魔力量多いってセバスチャンも言っていたし……もし貴女に万が一の事があったら——」


「大丈夫です、私は貴女の妻ですから」



「……そうね♡」



 それから2人の母親は俺を離さないまま2人だけの世界に入り込み、しばらくしてから「失礼します、母上達」という幼い声が聞こえてきた。幼い割には、随分と声の調子が落ち着いていた。なんだと思えば、俺を抱えている母(?)がそちらの方を向いた。



「あら、ノクちゃん! ほらこっちにいらっしゃい! 貴方の二人目の弟よ♡」



 二人目の弟……つまりあの神と名乗る豚は、俺が要求した通りに生まれ変わらせたようだ。まだ安心はできないが……そうなるとおそらく長男なのだろう。


 呼ばれてやってきたらしい兄は俺の顔を覗き込むと、それから破顔した。



「とても可愛らしいですね、母上」


「そうでしょ~? 流石あたしの子、もちろんノクちゃんも可愛いわよ? 今日も愛してるわ♡」



「当然です」



 見た所、どうやら家族仲は良いようだ。とはいえ、仲が良すぎる。前の親に比べたら余程マシだが……両親があまりにも特殊だ、その上兄と思わしき子供は、愛される事が当たり前かのようにその愛の言葉を受け取っていた。


当時俺には理解ができない考え方だったが……今でははっきりとよく分かる。


間違いなく、俺はこの世で最も愛されているのだと。



 ~・~・~・~



「おやおや……これはこれは、皇子様。ここは初めてかい?」


「いや、昨日来た」



「なんだ、てっきり私の孫が「第三皇子のアーノルト様がウチの図書館に来た夢を見た」って言ってたから……本当の事じゃないか」



 そう言っているのはヒエリカで最も大きな図書館の、インフェルノ図書館を代々受け継いでいる受付の中年女である。ちなみにこの図書館が火事で燃えたことは過去に一度も無い。



「じゃあここの利用方法やルールは分かってるね、説明が省けて助かる。あぁ……そうそう、これは読んだかい?」



 老婆はノルトに古い絵本を渡すと、その絵本を見たノルトは少し驚いていた。



「……随分と強力な状態保存の魔法と、一見何の変哲もない厚紙の表紙に複雑な魔力の回路が組まれている……。ただ残すことだけを考えて作られた高性能のアーティファクトだ。1000年以上前に作られた物だろうが……何故これを俺に? 歴史的に価値の高いものだろう」


「見ても無いのかい。私らは特別な客人(・・・・・)にこの本を渡すようにと先祖代々この図書館とこの絵本を受け継いでてね、孫は相当皇子様に会えて嬉しかったらしい……忘れてたのかねぇ。とりあえず、帰る時に返しとくれよ。"次の人"に渡さないといけないからねぇ」


 そう言う受付嬢(中年)から絵本を渡されて、ノルトはまず黙々と自分の勉強を3時間ほどやって終わらせた後に絵本を読む事にしたのだった。



「……読むか」



 表紙には様々な動物と、その中心には自分と似た色合いの小さな獅子が描かれていた。絵本を読むようなタイプの子供ではないノルトは、初めて見た絵本に少し興味をそそられながら表紙をめくり、読み進め……とある事に気がついた。



「ふむ……(どうやらヒエリカの歴史の触りの部分について書かれているようだな。



 表向き(・・・)には)」



 一度全て読んでからノルトは表紙を除く1ページ目に戻り、魔力を指に集中させて優しくなぞる。すると本はひとりでにページがめくれると、絵と文字が変化していった。そして全く別の内容が書かれた本になると、今度はそれを読み進めていく。



『ヒエリカができて約10000年後の、偉大な僕の子孫へ。


 きっとその頃には、この世で最も強くて偉大な建国者としてこの僕、ノルン・ヒエリカ・ヴェンティエの名が歴史書に載っている事だろうね。なんたって、この僕なんだからそうに決まってる。


 さて本題に入ろう、まずこの絵本を遺したのは君達への謝罪と、これからの人生で取り返しのつかない事をして欲しくなかったからなんだ。


 僕は一度、ほんの一瞬の油断で妻を亡くしてしまった。その時は戦争に疲れ果て、国外逃亡をしてきた人々が大勢やってきて、ヒエリカが大きく急速に発展していった時と、10月31日が丁度同時期だった。


 建築に多く人手が裂かれてしまっていたし、セバスチャンも眼を酷使してしまっていた。この絵本が作られた頃、セバスチャンは500歳くらいでね。人間に換算すると、5歳でまだまだ子供だったんだ。角が抜き取られてしまった竜人だから、本来ならあと10倍は長く生きる筈だったんだけど……10000年後なら、もうシワシワの爺さんになってるんじゃないかな。元気にしてる(生きてる)? 多分まだ生きてると思うんだけれど。


 僕の勘では今より多少言動が大人しくなったけど、中身は全然変わってない筈……当たっているかな? 


 とにかく、セバスチャンはまだ体が子供だったから、長時間能力を酷使したせいで脳がオーバーヒートして眼を充血させてしまってね。全く、この僕の為に働く事は光栄だからって倒れるまでやるだなんて、本当にバカな執事だよ。それで早死したら僕の責任になるし、無駄な罪悪感を感じて仕事に集中できないじゃないか。本当に執事として失格だね、すぐにベッドに縛り付けて介護してやったよ。世界一優しい僕に一生感謝して崇め奉って欲しいね。


 まぁ、無理をしていたのは僕も同じだったんだけれど。


 それで疲労と慢心で、妻を失うんだから本当にセバスチャン以上に無様としか言いようがない。子孫の(きみ)は絶対に僕と同じ轍を踏んじゃ駄目だよ? 


 じゃないと、後を追って死にたくて仕方ないのに、その気持ちと同じくらい家族を残して死にたくないっていう気持ちに苛まれて地獄を見る羽目になるからね。


 それから君に謝りたいのは、僕が体を魔法で変えて皇帝になったせいで、自由に生きることが出来なくなってしまったこと。ヒエリカ皇族は国民達の矛であり、その力を持って盾となる。そういう一族になると、僕は予感した。


 だから絶対的な味方でなければならないんだ。


 人間と魔物の狭間のような体で、君は普通の人間とは違うように周りからは思われるだろう。好奇の目、敬愛の目、畏怖の目。君は常に様々な目で見られている筈だ。それは監視されると同義でもあるし、縛られていることでもある。それはとても息苦しいことだろう。ずっと支配されていた君にとっては猶更な筈。


 皇族である限り、それは一生付きまとう。それこそ末代まで。


 君が少しでも皇族としての道を外してしまったら、その事はきっと歴史書に黒歴史として書かれてしまうかもしれないね。本当に恐ろしい限りだよ、もっともその原因を作ったのは僕だけれど。


 だから、恨むならいくらでも気が済むまで恨んでくれ。それから、皇族として転生させた運命の神様にね。そして君には後悔の無いように生きて欲しい。


 本当にごめんよ。それから君の人生に幸あれ、僕の愛しい子アーノルトへ』



 最後にそう締めくくられており、読み終えたノルトはため息を吐く。



「全く、大昔から無駄な心配をする先祖だ。この俺は常に、自分の意志で行動している。後悔など、ありはしない。過去も苦しくはあったが、無駄だったとは思わない」



 ノルトはむしろ逆で、歴史を勉強し始めた時、初代にとても感心を超えて尊敬の念のようなものを抱いた。普通、他人のためにあそこまでできる人間は居ない。ノルトにはできる気がしなかった。



「それより、何故俺の名前が……勘が鋭いにも程があるだろう」



 そう呟くと、絵本は勝手に勢いよくページが捲れると、新しいページが出現した。



『君はそう言うと思った』 


「……本当に、予知能力でもあるのか?」



『僕はただ、ちょっと勘が良いだけだよ』



 ~・~・~・~



 それから数年後、ノルトが13歳の頃だ。10月31日、世の中はハロウィン真っ盛りの時。ある日、学園内に魔界へのゲートと魔獣(・・)が現れた。最も魔力が高まるこの日、偶然にも魔界の一方通行のゲートが学園内に開いてしまい、そこから腹を空かせた魔界の魔獣が出てきてしまったのである。これは自然現象の災害であった。



「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「うわぁぁぁあああ!!」 



 まさに阿鼻叫喚であり、地獄絵図と化していた。



「まさか、フェリラでも害獣駆除をしなければならないとはな」 


「魔獣?! え、えっ、どうして?! どうして魔獣がここに?! みんな頑張り過ぎだよぉ!! 学園内の真ん中にも出てきちゃってるじゃないかっ!!!」


「あら?! ど、どどどうしましょう、まだ私の野望は叶えられていないのに!! いやぁぁ!! こんな事なら昨日、夜に試作品を食べておくべきだった!!! 太るからって我慢しなければよかった!!!!」 



 嬉々としてノルトは自分の武器庫からヒエリカ国民の作った作品を魔法で転移させる。それぞれゲイルとマリエッタの方は……なんか言っていた。



「丁度いい機会だ。これ程数が居ると、長時間の戦闘に嫌でも慣れそうで助かる」


「君のそういう向上心の高い所はす、好きだけど!! この状況に喜んじゃダメだよ!! 普通、慌てるところだから!!ってあぁもう、こんな時にお腹がっ!!」


「あと作っておいたシュークリームも!! ごめんなさいお父さんお母さん、私かなり早くそちらに行くかもしれないわ!!!」



 若干緊張感に欠けているマリエッタと、こんな状況でもお腹が減っているのか、ドラゴンのいびきのような音を出しているゲイル。そんな二人にノルトは「落ち着け馬鹿共」と言うと、今暴れ回っている狼の魔獣達に目を向けた。



「マリエッタ、今日の授業料は何だ」


「え? 今日はシュークリームよ、自信作なの!」



「そうか、なら駆除はなるべく早く終わらせるとしよう。万が一校舎が崩れ、お前に死なれたら俺の分のスイーツと、今までの時間が無駄になりかねないからな、その後でみっちりとその粗末な頭に知識を叩き込んでやる。それまでせいぜいそこで大人しく震えて見ていろ」



 そう言うとノルトはマリエッタに物理防御壁(フィジゾーン)を張ると、丸腰のゲイルには物理防御壁(フィジゾーン)を応用して作った剣を持たせる。



「お前が武器も無く戦ったら、辺り一面が拳一つで穴だらけになるからな。犬風情がマリエッタにかけた物理防御壁(フィジゾーン)が破れるとは考えられないが、万が一という事もある。それでも使って守っておけ」


「あ、ありがとうノルトくん。でも本当に大丈夫なの?」



「あぁ、躾と害獣の駆除は得意だからな、問題無い。それに……一度、沢山の犬と戯れてみたいと思っていたところだ」


「……うん、なら大丈夫そうだね」



 相手をねじ伏せる事が大好きなノルトが、普段よりテンションが高い(普段と比較して)ことを察したゲイルは、ノルトに言われた通りにマリエッタを守っていたのだが……。


 結局大して危険な事には遭わず、ほぼ一人でノルトが数万も居る狼の魔獣を殲滅させたのだった。


 その様子を見ていたゲイルは「タノシソウダナー」という目で、もはや魔王のような圧倒的強さと嬉々として戦う様で魔獣を屠っているノルトの様子を見ていた。





前世ではSMクラブ(つまりアブノーマルな人向けの風俗)で働いてたけど、童貞だったぞ!


海くん家で同居するようになってからは段々自己肯定感が上がって行って、SMクラブで働くようになって(収入を得た後は普通に一人暮らしし始めてるぞ!)異性との関わりに慣れていったけど……。やっぱり記憶には残るし、その時まだ完全に克服し切れてなかったぞ!


それにパパンはSM界のトップで顔も良かった方だったから、アナルおせっせで童貞捨てたらとんでもなく燃えるし、嫉妬の嵐が巻き起こるし、何よりアナルで童貞を捨てるのはプライドが許さなかったから、前世は彼女無しで童貞のまま死んだぞ! 流石プロだね!


今ではエママンと毎晩イチャイチャ仲良くしてるぞ! よかったねノルトパパン!




アーノルト・ヒエリカ・ヴェンティエ


前世の親ガチャには大失敗したが、友人はSSRを引いた。そんな訳で良い縁や家族、友達は大切にしたい天性のドS。前世では自由のない子供時代を送った為、転生後で親となってからは子供にはのびのびと自由に幸せに生きて欲しいと思っている。なので親と兄弟、甥達に協力してもらって皇族である事を隠しているが、双子にはバレてしまっている事に気づいていない。赤ちゃんだから仕方ないし、皇族バレ防止の魔法(真実に辿ろうとすると心と頭の中をほわほわさせるフィルター機能を持った魔法)をかけたけど効かなかったから、仕方ないね。最近のリラックス方法はエルに顔を埋めて吸うこと。











ちなみに転生後の世界と現代の地球では時間の流れや、運命の神が転生させたタイミングも全く違います。






 ~おまけ~

 

 

 

「おや、おかえり皇子。今日は何の本を見に来たんだい?」

 

「ノエルにあの本を見せたらしいな」

 

 

「まぁねぇ、でも気づかなかったじゃないか。どこかの皇子様が重い呪い()をかけて、その上で皇族が必ず勉強することがヒエリカの憲法で決められているのに、アーティファクト技術を教えなかったからね」


「フェリラは海外だからな。ヒエリカの法など関係ない、それに俺はノエルが望むのなら教えていた」



「どうだかねぇ……興味を湧かせないようにはしてそうだ」


 

 代々絵本と図書館を受け継いでいた老婆はそう言いながら、紙を出した。



「ひ孫が皇子のファンでね。せっかく久しぶりに来たんだ、土産としてサインでも書いてくれないかい? 今の皇子は他国の人間、金を出したくないなら書きな」 


「この俺に脅しとは、笑わせてくれる」



「そう言いながら書く皇子も皇子じゃないかい?」


「話は終わりだ、今は時間が惜しい」



「はいはい……で、今更皇子が勉強する必要は無いと思うんだけどねぇ、何を調べに来たんだい」


「草魔法だ」



「……へーぇ?」



老婆はノルトにニヨニヨとした顔で見つめ、ノルトは言うべきではなかったと言わんばかりにエレベーターの中に入って行ったのだった。



~おまけ2~



スゥゥゥゥゥ……。


「……」


「(お父さんが無心で猫吸いしてる……エルもなんか虚無った顔してる……)」




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