まだ始まってない!!!
いろんなキャラクターの過去編をもうちょい深く掘り下げた回。
『おじゃま虫!』
そう言いながらあの子はやって来た。
『今日はね、Sw○tch持ってきたから一緒にス○ブラやろう?』
『やる!!』
GCコンをすちゃ……と出しながら、普通に俺のベッドに座ってくる。もういつもの事だったけど、あの子はいつも距離が近い。俺としては緊張するし、チンコも痛くて大変だったけど、幸せだった。
『SMAAAAAAASH!』
『あっ!? 場外ホームランされた!!』
『ほれほれ~、どうしたんだい? 早く上がっておいでよぉ……』
『うわやらし! もはやすけべ!! というかそのヨーヨーやめろぉ!!! あ────っ!!』
『ホームシックにはなっちゃうけど、M○THER産の短パン小僧は強いのだー!! ニ○テンは除く!』
『ホームシック!?』
『ネ○サンもまだ13歳だから……よし、次は指揮官カラーのるかす使おー!』
『M○THERオタめ、ヒモペちやめろー!!』
『HAHAHAHAHA!! ヒモペちが嫌ならピンクボールでも可! まぁ絶対に勝ちますけどねぇ!!』
『それ中の人ネタ! あーもー、負けず嫌いめ!』
~5分後~
『いや、全然当たんねぇ!! 軽いのに、当たんねぇから撃墜できねー!!』
『ハーッハッハッハ!! その程度のパワーでこの私を倒せるとでも思っていたのか!! 当たらなければどうということはないのだよォ!!』
まぁそんな所も好きだけどさ? でもいつまでもやられっぱなしは嫌だったから、俺はキャプテン・ファ○コンを使っていたその次にカ○ヤを使う事にした。
『うーん、そういうのよくないと思う』
『使ったもん勝ちだろー?』
なお、 使った所で勝てるかどうかは人次第。
『ならば……こっちはコイツだ──ッ!』
『何ィ、勇者だとぉ!?』
『だって……このユゥシャァ使ってると勝ち負け関係無くなってただ楽しいから……』
『急に日和ったな……』
結果的にまた俺が負けたけどな。あの子、ゲームはやり込むタイプらしいから、アクションゲームとかめっちゃ強かったし、上手かった。ちなみにトドメはパル○ンテのメガ○テで倒された。悔しい。
その次はジ○ーカーの切り札でそのまま「トドメだぁ──!」されて、そのままフィニッシュした。いや、強過ぎる……。まぁでもパズルゲームは俺の方ができたけどな!
あの子、結構ドジで操作ミスってス○ブラで自滅する事あったけど、ぷ○ぷよ×テ○リスはマジで終わってた。間違えて1マスズレたり、回しすぎて変な置き方したり……。
ス○ブラではよくイキってたけど、可愛いからヨシ!
『今日はモ○ハンやろう!』
『やるやるー!』
『ウ○シ教官、うるさくて好き。特に百竜夜行で退場させるときに段々声がフェードアウトしてるのが好き」
『分かる』
『あのさ……ナルハ○タヒメって、ぶっちゃけさ』
『言うなバカ』
『アレどう見てもキンタ──』
『言うな!! やめろ!! 女の子に向かってそんな事を言うな!!!』
時々disc○rdであの子がゲームの配信して、俺がそれを見ながら会話したり。
『あ──────ッ!!!』
『待って、キモイキモイ!!』
『何でダ○ソシリーズとかは敵が気持ち悪いのしか居ないの??』
『……でもそう言いながら敵を片っ端からなぎ倒してるんだよな、しかもノーダメで。しかも今やってるのはダ○ソじゃなくてデ○ンズソウル』
『あ、ローリング骸骨だ!』
『ロー○ーンガールはいつまでっも~』
『はーい、チクッとしますよー』
『注射のノリで背後から剣ぶっ刺してんだけど……』
そんな感じであの子とはいつもオタク全開な会話をしてたけど、俺は全然良かった。俺は前世の頃、移動はできるっちゃできるけど、体力が無くてあまり部屋から出られない体だったから。
だから退屈な時間を紛らわす為に、アニメとか漫画とかゲームを趣味として嗜んでいた。話が合うから会話が途切れなくて良いし、会話が無くてもあの子は大丈夫なタイプで、黙々とマルチで遊んだりもしたから良かった。
でも内心、話しかけられないのは寂しかった。……寂しいけど、あの子はめっちゃ距離近くて心臓破裂するかと思ったから、それどころじゃなかった。
ガチ恋距離だった、あれは。というかくっついてたよな……普通に。あれって普通なのか!? なぁ!?
あの頃の俺、襲わなくて偉い。今だったら絶対に襲ってる。
だから心の中で「あれ、もしかしてひょっとして■■俺のこと好きなんじゃ」って思ったりもした。
今考えると、やっぱり好きだったよな、絶対。……ってハッキリ思える程あの子はまともな距離感持ってないから、正直今も疑わしいけどさ。あの子、距離感半端ない。めっちゃ近ぇ、すっげぇ近ぇ。
だってゼロ距離だし。くっついちゃってるし。あの子の言葉を借りるなら、そういうのよくないと思うって感じだな!
だけど後から冷静になって考えたり、あの子の口から出てくる他の男の話を聞くと「俺以外の男にもあんなに距離近かったりしないよな? ……想像するだけで吐きそう」って思ったり。
あ、でも一時期だけ、あの子がくっついてこなくなった時があった。
……そうだ、確か男ができたんだった。一度も話した事無い相手からいきなり告白されて、付き合う事になったらしい。それでもあの子は相変わらず俺の所に来てたけど。
すげぇ嫉妬した。
だから何で付き合ったのかって、それとなしに聞いてみたら……あの子はこう言った。
『……振ったら、相手を悲しませる事になるでしょ?』
『(俺は、それが余計に悲しませる事になると思うけどなー……)』
あの子は凄くずるい。ずるくて、変な距離感持ってて、変に律儀で……どこかおかしい。それでいて、あの子の周りは俺も含めて精神的に病んでいる人間が多い。
普通だったらそのマイナスな感情に振り回されて、縁を切りたくなる。でもあの子は優しいから、そんな人間を見捨てられない。知らない相手から告白されても、それが全く嬉しくないし、むしろ迷惑だったとしても……あの子は友達から、なんて言葉を使わなかったそうだ。
だから続いたのは1ヶ月もしなかったように思う。またくっつくようになった所で察して、また聞いてみたら別れたって言ってたから。それで方法は、別に好きじゃないっていうアピールをして相手に諦めてもらったらしい。
でもあの子のことだから、もしキスを求められたらきっと普通に応じるんだって事を俺は分かってた。本当に相手の男が羨ましくて、でもあの子がそいつよりも俺にわざわざ会いに来て優先してくれる事が酷く心地よくて。
だってたぶん、デートだって一回もしてないと思うんだ。でも俺には大体三日に一度、それで土日には何時間もずっと傍に居てくれるから。
……世間一般的には、絶対に好きになっちゃ駄目なタイプの女の子なんだと思う。
でも俺はそんな思わせぶりで、ずるいあの子が好きだった。本当に、好きだった。ああいう子って、確か魔性って言うんだっけ? どーだっけ? とにかく、俺はあの子を愛してた。
今思うと、あの子はあの子でどこか精神的に参っていたんだと思う。だからあの子が俺の所にやって来てたのも、前世の弟とたぶん同じ理由だった。ある意味共依存的な関係だったかもしれない。
でもあの子は俺の特別だから、それでも良かった。少なくとも、前世のあの頃は傍に居られて、声を聞けるだけで幸せだったから。
あーあ、せめて名前を思い出せたら、ちゃんと確認できるんだけどな~……。
でもまぁいーや! もうなんとなく分かってるけど、答え合わせはいつかで。気づいたのにはわりと最近だけどな……ム○カ状態の時にあれ? って思ってたけど、Go○gleのくだりでノエルが「確かに!」って思ってる顔してたから。
だから気づいてない時にはずっとノエルをあの子の代わりにして見ていたけど、それはもうやめた。
というか、いつの間にかやめてた。
……きっとノエルもその事には気が付いてたんだろうな。好きって言葉も、昔はちゃんと"ノエル"に対しては言ってた訳じゃなくて、あの子に言ってたようなものだったし。あの原作をプレイしてた時みたいに……。俺は"ノエル"を傷つけてたと思う。
それをやめるようになってからノエルは、無意識なんだろうけど段々デレてくるようになった。昔は豚扱いだったのにさ。まぁ、それはそれで……♡
今は犬扱いされるようになったな、ノエルって結構犬とか猫とか可愛い生き物が好きだし……。うん、たぶん好感度のランクアップだよな!
でもなんていうんだろうな、面と向かっては言ってなかったけど抱えてたノエルの中での不安? みたいなのが、ヒエリカに行ってから無くなったみたいでさ。正直俺もそこで精神的に完全にとは言えないけどスッキリした。案外単純で、キッカケさえあれば解決できることだったのにな。
それで今はセッ〇ス以外の素の時もデレてきて、ちょっと嬉しい。
でもやっぱ怖いな。もし前みたいに急にこの世から居なくなったら……って。だからそれが怖くて仕方ない。幸せだけど、怖い。また誰かに幸せを奪われそうで、怖い。そんな気がしてならない。
あと最近はちょっとだけ納得がいかない、というか不満がある。
前世の頃は何であんなにくっついてたのに、ノエルになったらツンツンしてるんだよぉ!!
好きだけど!!!
やっぱりたまには前みたいにもっとくっついて欲しいって、ちょっと思うんだけど!!!!
あっ、でもその分デレが最高だから現状維持でもいーや!!!!!!
しゅきぃ!!!!!!!!
~・~・~・~
メーヌは孫であるレイゼルの異常性に、ずっと前から気が付いていた。
「はぁ……夜中に何度も目が覚めてトイレに行きたくなるのは辛い。歳はとりたくないもんだね……」
これはレイゼルの祖母、メーヌ・ハワードがまだ生きていて、レイゼルがノエルに出会う前。
「うーん……?」
トイレに行く度におばあちゃん子なレイゼルは、隣にあった筈の温もりを求めて、眠りながらも腕を伸ばす。しかもあまり良くない夢を見ているのか、魘されている。このままではレイゼルの目が覚めて、夜泣きしてしまいかねない。
そう思い、レイゼルの手を握ると大人しくなったので、またメーヌは横になると、自然とレイゼルは抱きついてくる。こうしないと悪夢を見るからなのだろう。
……せめてこの子にちゃんとした両親が居れば良かったのかもしれない。いや……そもそも、忙しさにかまけてちゃんと息子と向き合わなかった自分が悪い。
そう思いながら、意外と親に似て寂しがりなレイゼルの頭を撫でた。
元来、この家系は賑やかなもの……いや、もっと極端に言えば人が好きで、とんでもなく寂しがりな一族だ。要するに犬である。だからメーヌがレストランを開いたのも、人が来てなおかつ料理に喜んで欲しかったから。
メーヌは料理を作るのが好きで、料理の腕にとても自信を持っていた。なのでまさにレストランのオーナーは天職であったのだが、息子には寂しい思いをさせてしまっていた。きっと息子の初体験も、その寂しさの埋め合わせのようなものだったのだろう。
つまりこの一族は簡単に言えば、メンヘラ気質な人がとにかく多い。そして一族の気質が助長して息子がとんでもないヤリチンになってしまったのかもしれない。
……とはいえだ、レイゼルの依存気質はメーヌから見ても普通ではなかった。
というのも、ハワード一族は人の名前と顔、声などをすぐに覚え、ずっとそれを覚えていられる能力があるからだ。なのでメーヌは今でも、レストランに来た客の顔や従業員の顔を一人残らず全員覚えている。
しかしレイゼルは自分にとって興味の無い相手は、全く覚えていない。その上、常にずっとメーヌにくっついて離れず、家からも出ない。なのでメーヌは過去にレイゼルに聞いた事があった。
「レイゼルはどうして外に出ないんだい? ここよりずっとその方が楽しい物があると思うけどねぇ」
「……"まだ見つけてもらってないから"」
そう言ったレイゼルは、まるで別人かのように普段とは全く違う雰囲気を纏っていた。
まるで愛する誰かに焦がれているかのようで、まるで大人のようだけど、まだあどけなさが残っている雰囲気で。
「誰に?」
「誰って、勿論………………だれだっけ、んん? というか……なんのはなしだったっけ??」
「なんで外に遊びに行かないのかって話だよ」
「あっ、そうそう! えーっと……なんとなく!」
なんとも要領を得ない答えだった。メーヌは一体さっきのはなんだったのだろうかと思いながら、昼食の準備をし始めた。やはり自分の孫は普通の子供ではなく、勇者だからなのだろうかと思いながらも、レイゼルが好きなスープを作っていた。多少、思い出に浸りながら。
『お前、何で……どうして……っ、どの面下げて帰ってきたんだい!? このバカ息子!! 早く出──』
『お袋、頼む!! 俺の子を……俺の代わりに育ててくれ!!』
記憶の中での息子より随分と老け、いきなり帰ってきたかと思えば、どうしようもない息子のヘレオスは孫を連れてきた。
どうせ数ある女の中の一人が産んだんだろう。しかもまだ乳飲み子じゃないか。外は雨の中で、雷まで降っている。だからかおくるみも随分と濡れていた。寒いのか、息子の腕の中に居たレイゼルはぐずっていた。
『種出してデキたならお前が自分で責任持って育てろ!! しかもこんな嵐の中、ここにやって来るとかお前はバカかい!? 私は絶対に育てないよ!!』
『……この子は、あの400年振りに帰ってきた勇者なんだ』
そう言った瞬間、近くに雷が降る。そして音に驚いたレイゼルは本格的に泣き出していた。慌てて泣き止ませようにも、レイゼルは寒くて中々泣き止まない。赤子の扱いに慣れていない様子から、おそらくは初めてできた子供なのだろう。それならば慣れていないのにも当然なのかもしれない。メーヌはそう感じた。
『だから、なんだってんだい』
勇者は長らくこの世界に居なかった存在。そんな勇者は産まれたら、フェリラ王国では城に連れていく事になっている。そうすると王族から勇者を作った褒美として、大金を貰えるのだ。時々ではあるが、城に行けば会えるし勇者は代わりに育てて貰える。
(ちなみに国外の人間であっても、その大金は貰える)
親である自分から見ても、ヘレオスはクズだった。色々とヤッていたことの説明は、今更読者の暇人諸君には要らないだろう。
だから何故ヘレオスが勇者として産まれた孫を王族に預けなかったのかが分からなかった。これは要するに、言い方を変えただけだが王族に子供を売るのと同じ事。育てられないなら何故城にではなくここへ連れてきたんだ、メーヌは全く訳が分からなかった。
孫は可哀想とは思うが、知らぬ間にできていた孫をいきなり連れてきて代わりに育てろと言われても無理がある。子供を育てるのには金が要る、時間が要る。自分にはそのどちらもほとんど残されていない。
だからメーヌはこう言ったのだ。
『だったら早く城に向かえばいいだろ』
『駄目だ!! ……それだけは駄目なんだ、とにかくこの子は……レイゼルは絶対に城には連れて行かせない』
しかしそれを聞いた息子の姿は、正しく"親"であった。名前もしっかり付いているようだし、愛情は見たところある。とすると、この孫はちゃんと望まれてできた子なのだろう。ようやく身を固めたらしい。
それは良かった、だが様子がさっきからおかしい。それよりもだ、そもそもこの状況自体がおかしい。だって新聞でヘレオスは死んだと報道されている。それもずっと前から。
……待て、なら孫の母親は一体何処で何をしている?
『母親は今何をしてるんだい』
『……魔物に殺された。
と、いうことになっている。俺も、そういう手筈になっている』
『……どういう事だい、それは』
~・~・~・~
ノエルは今でこそ父親が大好きだが、昔はそうではなかった。
5歳になるまでの頃、ノエルはずっと母親の後ろを着いていき、父親であるノルトには遠目からじっと観察するようにしていた。
ノルトは頭を抱えた。
というのも、娘が何を考えているのか全く分からない上に、全く近寄って来ないからだ。
俺が何かしただろうかと考えてみるものの、心当たりが無い。天才であるノルトは、今世で初めて育児という名の困難にぶち当たった。
まず一つの困難、ノエルは驚く程の勉強嫌いだ。
いつの間にかノエルは文字を覚えていて、冒険物の娯楽小説などの本を読む事はあれど……。魔法の勉強をさせようとすると、本人が酷く嫌がる。その嫌がり方は、尋常ではなかった。
二つ、ネガティブな性格。
今は少しづつヒエリカの皇族らしさが出てきているが、それでもまだまだ完全には抜けていない、ノエルの骨の髄までに染み付いたネガティブさ。
三つ、自分の意志の無さ。
四つ、やけに喋らない。
時々喋る事はあるが、まるで相手にとって心地いい言葉をノエルは幼いながらに平然と言う。だがこれは突き詰めると相手にとって都合のいい言葉を相手に並べ立て、どんどん自分を自分で追い詰めているのだ。例えばできないことをできる、と言ったり。
本来であれば皇族は、自ら勉強をし始めるほどに向上心が高く、自己主張が強い。できないことはできないと、事実を言う。しかしノエルは絶対に自分からはやらない上に、随分と大人しい。息を吐くように相手の為にならない嘘をつく。
そして五つ、父親である自分を酷く怖がる。
これには天下のノルト様もショックを受けた。
望まれて誕生した愛娘が、何故か自分を避け、怖がっているのだから。しかも全く心当たりが無い、まさか男が怖いのかと思い一応検証の為に母や兄弟達も呼んだが……何故か自分には寄って来ない。
他の兄や弟のハグは全然大丈夫なのに、何故か自分にだけ抱き締めさせてくれない。あぁ、でも強いて言うのなら背の高い兄には若干怖がってはいたか。それでも抱きしめたが。
ノルトは泣いた。
それはもう、情けなく。そんな夫にマリエッタはキュンキュン来て沢山慰めて(意味深)いたが。
ショックを受け過ぎて、その後ストレスで免疫力がありえないほど下がって珍しく風邪を引いた程だ。なかなか食欲も湧かず、風邪が長引いた。
長い事ノルトはノエルが自分を避ける原因が分からずじまいだったのだが、ふと何気ない行動で、ノルトはほぼ全てが分かってしまったのだ。
「(……珍しいな)」
風邪を引いて治りかけている頃、一応心配はしていたのか、ノエルが珍しく自分の近くに寄って来た。まだ警戒はしているようだが、大きな進歩である。
そんなノエルの様子に、ノルトは若干「保護猫みたいだな……」と思いながら、体をベッドから起こした。
「どうしたんだ?」
今なら抱き締めることは出来ずとも、触れ合うくらいなら出来るかもしれない。そして、ノルトがノエルの頭を撫でようとして……思わず伸ばした手が止まり、目を見開いた。
何故ならノエルはノルトが手を伸ばした瞬間、目を閉じて何かに耐えるようにして、身体を震わせながらビクビクと怯えていたのだから。
「(……まさか)」
ノルトは、気が付いてしまった。そして、思い出した。前世の、親に何もかもを支配され、虐待されていた時の自分を。あの忌々しい記憶を。
娘もまた自分と同じ転生者で、親に支配されていたのだと。それに気がついた瞬間、ノルトはノエルを抱きしめていた。
「大丈夫だ、もうお前を支配する奴は何処にも居ない。何処にも……居ないんだ」
ノエルは自分が怖かったのではない。"父親"という存在が、怖かったのだ。
そしてノエルは声を上げることも無く、とても静かに泣いた。長い間泣いて、それから泣き疲れたのか、気が付けばノエルは眠っていた。
次の日、ノエルは風邪が移っていたが、すぐに治ってからというものの、ノルトに近づくようになり、少しづつ喋るようになった。更に勉強まで少しずつだったが自分からやるようになった。
「……おとう、さん」
「ん゛ん゛っ……どうした?」
ぎゅっ
「!????」
「………………すき」
「~~~~っ」(声にならない声)
ノルトは泣いた。
歳を取ると涙脆くて駄目だ。
ちょっとおじさん臭いことを考えたが、約5年かかってやっと娘が心を開いたし、初めてお父さん呼びして抱きしめて、その上好きって言ってくれたのだから感動はひとしおである。
「……俺も好きだ、愛してる」
こうしてノルトは親バカの道を歩むこととなった。
「あなた、この服とかノエルに似合うんじゃないかしら~?」
「駄目だ、可愛すぎる。変質者共が寄ってくるから却下だ、クソッ!!」
愛しの妻が持ってきた、いい所のお嬢様が着てそうなフリフリのブラウスとロングスカートを見て、ノルトは思わず悪態をついた。心からの「クソッ!!」である。本当はノルトもこっちを着せたいのだ。
パパも可愛い服を着た娘が見たいのである。
見たいのである(切実)
でもできない理由があるのだ。
もちろん、あの腐れ外道を筆頭とした幼女趣味共のことである。冗談抜きで殺意が湧いた。
「でもそうなると地味な服ばかりになっちゃうわ、それに……結構ネタ寄りよね」
そう言いながらマリエッタは「かれぇうどぅん」という文字と、カレーそばのゆる~いイラストがプリントされたダサTを、買い物かごに心底嫌そうな顔をして入れるハイスペ夫を見た。あまりにも絵が面白くてちょっと笑った。
「本当はこんなふざけた服は着せたくはない、着せたくはないが……あの国の王自体が虫けら以下だからな。可愛い服を着せたらすぐに襲われてしまうに決まっている……。俺が"皇族でなければ"今頃暗殺していたな、それが出来ればどれほど胸がすくことか……」
「ここがフェリラじゃなくてヒエリカで本当に良かったわ~」
殺気をダダ漏れにして物騒な事をガチで話している夫に、マリエッタは「私は別居でもいいわよ」と言うものの、それも即座に却下された。というのもこの夫は結構ワガママで、誰よりも家族の事を愛しているからだ。
~・~・~・~
元々マリエッタがワールブルク学園に来れたのは、並外れた魔力量を持った草と水と土魔法の使い手だったからなのと、訳あって自殺した結果、この世界に転生してきたからだ。
元々前世の頃から植物や自然が好きだったのもあり、何故か自然と同調し過ぎたのか精霊が見れたりした。そのおかげで植物に関連した3属性の魔法は世界に通用するまでになっていて、更にワールブルク学園側から声をかけてもらえた程だ。
しかしマリエッタは勉強がそこまでできる訳では無い。
だがこのマリエッタ・エスカーナには夢がある。
それは年中実り豊かな故郷で取れる、様々な果物を世界に広める事だ。だからマリエッタはそういった農業などに関われる部門に入った。そして選択授業で料理なども取った。
とはいえ、とはいえだ。名門学校であるワールブルクは様々な専門的な技術を学べるとはいえ、いわゆる大学のような所だ。普通に勉強をしなくては卒業できない。
いや、それどころか留年したら学校に通う為のお金を国に支援して貰えない。通う為のお金が無いせいで自主退学、なんて事になってしまう。それだけはなんとか避けたかった。
「絶対に卒業して農産業の天下を取ってやるわ!!」
……そう意気込んだのはよかったが、勉強はやはりキツかった。一日の授業が終わった後は図書館棟で時間が来るまで勉強、食堂で夕食を食べてから用意された寮の部屋で夜遅くまで勉強をして就寝……その繰り返しだ。
そんな生活を続けていれば、何処かで限界は来る。その限界は思ったよりもすぐに来た。
「……おい」
ぺしぺし
「うーん……アップルパイ、いちごタルト……むにゃ」
「さっさと起きろ!!」
「ひゃいっ!?」
突然大きな声で起こされ、マリエッタは飛び起きるとそこは図書館棟。そして目の前に立っていたのは、2年生にして一等星バッジ(※)を身に付けた10歳のノルトだった。
(※ワールブルク学園では入学時に生徒の証である星型のバッジを渡される。最初は五重の星の凹凸模様があるただのバッジで、成績が優秀な程、バッジが持ち主の魔力を吸って魔力の結晶を作り、最終的に模様を埋めつくして一つの星になる。ちなみに一等星になると、この時点で卒業資格を得られ、他にも学校側が特別な対応をしてくれる。例えば普段の食堂の食事が一等星の人向けにとても豪華になったり、寮の部屋が広い個室になったり、自分の研究室、他にも様々な権限なども与えられたりする。相変わらずゲイルが起きられない上にいじめられるので、結局広い部屋に2人で引っ越しただけだったが。結構この2人は仲がいいのである)
だがこの時マリエッタは寝ぼけていたので……。
「はっ!? 抹茶フルーツケーキ!? うーん、なんか違う……むにゃ、すぅ……」
「誰が抹茶フルーツケーキだ、寝言は寝て言え。図書館棟の閉館時間だ、起きろ」
半分寝ている状態で、夢の中ですら故郷の果物を使ったスイーツを考案して売ろうとしていた。なのでノルトは、この失礼な女のほっぺをつまんで伸ばしていた。
「さっさと、起・き・ろ」
「ふにゃぁぁあああっ!?」
ついルームメイトと似たような物を感じ、同じように起こしてしまった。その瞬間、マリエッタは今までに感じたことの無い何かを感じたのであった。
「……そ、そうだわっ!! オレンジとチョコよ!! コレでイケるわ!!! 」
「(何を言っているんだこの女は……)」
「あなたのおかげよ、今度お礼させて頂戴! あっ、そんな事より戻らなくちゃっ!! さようなら!」
嵐のように去っていき、ノルトはその場で「なんなんだったんだ」と、困惑していた。
そして次の日、食堂にてマリエッタはゲイルを連れたノルトの前にやって来た。ケーキを装備した状態で。
「昨日はありがとう、あなたのおかげでこんなに素敵なケーキができたわ!」
「礼を言われる心当たりは全く無いが、良かったな」
「わぁ……! 美味しそう……」
「私の故郷のオレンジを使っているから、絶対に美味しいわよ!」
「そうか」
「ノルト君、食べないの?」
もう既にウマウマと食べているゲイルに「おい」と思いつつも、甘い物は好きだったので、出されたケーキを仕方なく食べ……固まった。
「……本当に自分で作ったのか?」
「そうよ、自信作なの!」
というのも、お世辞無しで本当に美味しかったのだ。これはもう将来有望、皇族専属のパティシエールにするしかない。甘い物には妥協したくないのだ、これからの魔法の研究やらヒエリカの未来に関わる。ちょっと性格は変わっているようだが、それは天才ゆえの変人さ……たぶん。そう思いたいノルトは、早速聞き出した。
「部門は?」
「農業系よ!」
いや予想と全然違ったー!!
「……?? 何故料理科のスイーツ部門ではないんだ???」
これにはノルトは本気でそう思った。
「えっ、だって私……故郷の果物を広めたいだけなんだもの。ケーキにしたら美味しいし、売れると思って作っただけよ。そしたら結果的に村の復興にも役に立つんじゃないかと思って!」
そう言ったマリエッタにノルトは結構な志があった事に驚きつつも、流石にこんな大層な夢を持った女の子を勧誘する訳にはいかない。すぐに勧誘は諦めた。とても名残惜しかったが。
するとマリエッタはじっとノルトのバッジを見て、その視線に気がついた本人は若干「……まさか」と思いつつも、ケーキをほうばった。オレンジの酸っぱさとチョコの甘さが美味しい。
「あっ、それで私あなたにお願いがあるの!」
「断る」
「私に勉強を教えてくれないかしら!」
「断る」
何故自分が昨日顔を知った程度の女に勉強を教えなくてはならないのか。そう思っていると、口の周りにチョコクリームを付けたゲイルがノルトの肩にぽむと手を置く。
「ノルト君……僕と一緒に彼女にも勉強を教えてみたらどうかな」
「は?」
《ゲイルはケーキによってすっかり懐柔されている!》
「お願い、お菓子毎日作るから!!」
「ぐっ……」
しかしその提案は案外ノルトに効いた。普段魔法を使う関係もあり、皇族は甘い物が大好物なのである。それにノルトは皇族であるが故に、舌は結構肥えている。
そして菓子作りの腕はさっきのケーキで実証済みだ。
「……分かった」
「「やったー!」」
「だが、サボったらすぐに止めるからな」
こうしてマリエッタは未来の夫になるノルトをお菓子で買収したのだった。既にこの時、胃袋は鷲掴みにしたと言っても過言では無い。
「どうしようノルト君、どうしようノルト君、どうしようノルト君、昨日やった所大体忘れちゃったよぉ!!」
「全然分からないわ! ここからここまで全部!! というか応用って何!? 応用って、何!? なんでこんなに一気に難しくなるのよ! おかしいわこんなの!!」
「落ち着け馬鹿共。いいか、まず──」
こんな3人だが、まさか将来……とても複雑な三角関係になるとは思ってもみなかったのである。
あ、ノルト→マリエッタ←ゲイルじゃなく。
マリエッタ→←←←←ノルト←ゲイルの図である。
~唐突なノエルパパ・ママ過去プロフィール~
マリエッタ・エスカーナ
ノルトの妻、愛称はエマ。実は転生者で腐女子。ノエリアからはエマちゃんと呼ばれていて、料理の腕はメーヌおばあちゃんから教えてもらっていたことによる努力の結晶。基本的に料理全般できるが、スイーツなどのお菓子作りはメーヌおばあちゃん以上。いつもケーキを作っているが、本業は果物農家。いつも城下町で果物を売っているが、今では果物よりもケーキの売り上げが良く、本人は納得がいっていない。でもスイーツ作りは大好きだし、売り上げも果物の知名度も良くなり、最近ではブランド入りを果たしたので納得はいっていないが大満足。最近の悩みはお客さんから「もっとケーキ焼いて」「屋台なんかじゃなく、店(ケーキ屋)を構えればいいのに」というクレームが来ること。
夫との馴れ初めは、最初はお互いの等価交換ではあったものの、ノルトのツンデレさと意外と独占欲が強い所、なんだかんだで自分やゲイルに優しくする姿に段々ときめいて、ドSさに別の意味でやられた。推しCPとしてノル×ゲイに熱中していた無自覚なドMだったが、ノルトに猛アタックされて陥落。
結婚してからは夫が常にデレデレで、娘にもデレデレなハイスぺスパダリ。そんな夫が夜になるとドS全開で調教プレイをしてくるので、夜になるとムラムラがヤバい。すっかり貞操観念はこの世界の人らしくなったが、夫一筋である。
アーノルト・ヒエリカ・ヴェンティエ
SMクラブの女性客にストーカーしてる男から女性客をナイフから庇って死んだ後、運命の神様(笑)に魂だけの状態で出会った。実は死んだ後、転生するまでに意識があるのはとても珍しい。その後神様に「王族とかの三番目あたりに転生させろ」って言ったけど、ヒエリカでは強さ順だったので元帝位継承権第一位だった転生者。向上心共にプライドもステータスも高い「”力”こそ全て」な魔王みたいな人物像をしているパパ。でもそんな思考になったのも、前世でとにかく行動を制限して人生を勝手に決めてくる毒親の母に虐待されていたからこそ。
もう絶対に誰からの支配も受けたくないという反発心故に、ドSな性格になった。でもだからこそ今の家族は大事だし、妻や子供を大切にして愛している。だからロリ時代のノエルに避けられてたのにはショックだったし、ノエルの反応ですぐに前世の記憶持ってる事に気が付いた後、”父親”にトラウマ持ってるノエルに一番良い行動ができた。
実は妻に一番最初に惚れたのがこの方。ゲイル以上にある意味で手のかかる、頑張り屋さんな学生時代の妻に気が付けばいつの間にか視線で常に追っていて、惚れていた。意外と恋の自覚が遅いタイプ。前世ではただの友達だろうが母に無理やり女の子とは縁を切らされていた為、気が付くのに遅くなった。
基本的に自分至上主義だが、やっている事は人に奉仕して尽くしているのが多い。とても愛が重く、独占欲がとても強い。妻一筋である。しかし愛の重さは母(父)に比べたら軽い方だと思っている。とあるスライムがお気に入りのおもちゃ。
~おまけ~
(恋をしたらとにかく一途なとあるN一族に聞いてみたの回)
Q.もしも妻が不倫してたらどう思いますか?
「そうね……とりあえず殺せるんだったら、アタシは相手の方を殺すわ!」
Q.もしも妻が不倫してたらどう思いますか?
「どう思う以前に、両足を切る。こうすれば何処にも行けない。不便な場合は義足を付け、勝手に家の外に出ようとすれば義足が外れるようにしておけばいい」
Q.もしも恋人が浮気してたらどう思いますか?
「えっと……うん、ショック……かな。でも、たぶん……"やっぱり"とか"そうだよね"って思うかも。
一生引き摺りそう、とりあえず色々な意味でもう二度と殴れさえできなくなるだろうし、会うどころか見ただけでフラッシュバックして吐くかも。最悪辛すぎて自殺……考えたくもない。
……あー! この話は終わり!! 精神的によくない!! はい終わり!!!」
結果!
第一、第二世代は質問の答えになってない。第三世代は相当心身共にダメージ入る。最悪比喩とかじゃなく死ぬ。……でもお前らこういうの好きだろ?
ただN一族が暴走するし、H帝国の民全員を敵に回す事になるので、人生は破綻するぞ! 浮気、絶対ダメ!