ヤベェやつが現れた!!!
完璧な人は居ないし、完璧に近い人でもヤンデレた奴は止められないって話。
「ヴィズ! トオン!」
風の刃を飛ばして魔獣の首を落とすと、すぐにトオンで跡形もなく燃やし尽くす。そして炎属性の魔力を纏わせたダガーナイフで魔獣を切りつけ、魔獣が私に切られたところから炎が巻き起こった。
魔獣の群れを全滅させたところで時間はお昼頃になっていて、レイゼルは「そろそろ腹減ったしさ、昼飯食べよー?」と、だいぶ魔獣達に聖力も使っていたので、随分とヘロヘロになっていた。勇者であるレイゼルは、魔力とか筋肉みたいにどんどん使えば聖力が使える量が増えるから使った方がいいけど。
ただ聖力を使ったからか、食欲と一緒に睡眠欲と性欲も凄いことになっているようで、お腹を鳴らしながら若干ウトウトしながらも私を抱きしめて腰をヘコヘコさせながら押し付けてくる。やめろ。
ニョッキは魔力を吸い取るだけだから、様子を見る限り全然大丈夫みたいだけど。
「確かにお腹減った……甘い物欲しい。でもその前に魔石をお金に変えてからにしよう? それより押し付けるのやめて」
「え~……」
そう項垂れるレイゼルをムーヴィでヒエリカの城下町まで連れて行くと、換金所へ向かった。
「これ、換金お願いします!」
「あとこれも……」
魔石換金所にて、受付のお姉さんが座っているカウンターの上に、ぎっしりと魔石が入った袋をどっさり置くと、それを見たお姉さんがびっくりしていて、私はほくほく顔でにっこりしていた。
「……あの、握手してくれませんか」
「えっ……? あ、はい」
すると何故かお姉さんにそんな事を言われて、私は不思議に思いながらも手を握ると、お姉さんは「ハァァァァァァッ↑」という奇声を上げて、それから真顔でこう言った。
「もう二度と手を洗いません」
「洗ってください、衛生的に凄く良くないと思います。……換金、お願いします」
「監禁? えっ、していーの!? じゃあこれからはずっと一緒だな♡」
レイゼルには言ってないし、それは違うでしょバカ。
こうしてヒエリカでの当初の目的をようやく果たす事ができて、さらに昨日の大物魔獣の魔石も換金してもらって、20万ソールも手に入れた。よきかな……私は機嫌がとても良かった。
換金所を出たところで、レイゼルは私にくっつきながら話しかけてくる。お腹を盛大に鳴らしながら。
ニョッキは私の後ろをちょこちょこと歩いて着いてきている。可愛い。
「なぁなぁ、今回はさ? 注文するタイプの別のレストランで食べよ! 」
「そうだね、どこにしようかな」
城下町は魔石の輸出の為にも海に近い位置にあって、場所によっては海を眺めながら食事ができる場所も、たぶんだけどあると思う。
「じゃあ、海が見えるレストランは?」
「いいなそれ! でも、そういうのって高そうだなー……」
確かに……。そう思っていると、身に覚えのある気配と魔力を後ろから感じると「でしたら私にお任せ下さい」という、綺麗な声が後ろから聞こえてきた。
「あれ!? ヘレンちゃん!?」
「ここに来てたんだなー!」
「はい、私のお母様と……お姉様も一緒に」
家族旅行か、いいな。
「お母様~!」
するとヘレンちゃんは振り返って手を大きく振ると、とてもキラッキラした綺麗な女性が日傘を差しながら歩いてきた。
……でっかい、あまりにもでっかい。特におぱいとおっしりとふとももが。そして圧倒的顔面の破壊力、エグい。背は低い合法ロリ……どうして。なんでこんなにも差が……。
あれ、隣に居るのは護衛の従者の人かな? その人も顔がいいな。でも何で従者の人が隣に……絵になるから良いか!
「ヘレン、私達は一応王族なのよ?」
「あっ……そうでしたね、申し訳ございませんお母様」
窘めるようにしてヘレンちゃんはそう言うと、お母様と呼ばれていた女性は私を見て少し目を見開いた。ヘレンちゃんのお母さんって事は……つまり、あのキモデブの夫人ってこと!? 嘘だ!! 何であの国王の妻がこんなに綺麗なんだ!!!
すると前に会ったことがあるらしいレイゼルに夫人は挨拶をしていた。
「お久しぶりですわね、レイゼル様。また大きくなられて」
「なんか親戚の人みたいな言い方だなー……まぁいいや、久しぶり!」
レイゼル!! ちょっとそれは軽過ぎない!? らしいっちゃらしいけど!!
そして夫人は私を向く。
「……ヘレン、その子は前から言っていた新しいお友達かしら?」
「はい!」
そう言うと綺麗な女性は王族として相応しい立ち振る舞いで──。
「私はヘレンの母、ウィリアム王の第14夫人のレイラよ」
……と挨拶をしてくれた。
な、なんて高貴パワー!! キラッキラで、なんかもうよく分からないけど、とにかくすごい!!
私の中で語彙力が消失してヘレンちゃんのお母様が出している高貴パワーに気圧されていると、何故だか私の中で対抗心というか、俺は負けん!! と思う意思のような物が湧き上がってくる。なんでだ……!!
「初めまして、ノエルです」
「ふふ、初めまして。折角会えたのだから、私達と昼食でもいかが? 一度貴女とお話してみたかったのよ」
あれ、なんか認知されてた?
「私とですか?」
「ヘレンが手紙を私に出してくる度に、貴女とレイゼル様の事を……20枚中、17枚分にも渡って伝えてくるものだから」
多っ!? ヘレンちゃん、流石にそれは多いよ!! というか何で!? うーん……でも家族旅行なのに、邪魔していいのかな。
「もちろん私から誘ったのですから、代金は出すわ」
「ノエル、一緒に食べよ?」
この勇者、ほんとに遠慮というものが無いな!!
そして、結局私とレイゼルは王族親子とレストランに行く事になり、緊張で体がカチカチになっていた。
「ここは私達の行きつけの場所なのよ、ヒエリカにはよく旅行で行くから。外装だけではなく景色も食事も良くて、つい何度も来てしまうのよ」
というのも、当然のように案内されたところが高級レストランで……しかも特等席のテラスに案内されたからだ。
こ、これっ、絶対高いよね!?
「ど、どうしよう……私達、流石にここの料金を全部払える程お金持ってないです……」
「いえ!! お構いなく!!!」
「どうしてヘレンがそう答えるのかはよく分からないけれど、その通りよ。私が誘っているのに、貴女達に出させる訳にはいかないわ」
「むしろもっと貢がせてください!!!!」
「ヘレン? 払われるのは私のお金よ?」
「ではお母様、立て替えてください!!」
ものすごい勢いでそう言うヘレンちゃんに私は若干萎縮してしまう中、レイゼルは普通にメニュー表開いて「ノエルは何食べたい?」と聞いてきた。レイゼル、おい勇者。遠慮しろ。
「やっぱ煮込みチーズハンバーグ?」
「……それで。あとサラダ」
何となく外で頼んだら周りから「ここに来てチーハンとかw やっぱガキだなWww」とか周りのお金持ち達に思われそうな気がしなくもないけど、それはお母さんが悪い。お母さんの得意料理がハンバーグで、それが美味しすぎるのが悪い。
「じゃあ俺もそれー!」
そう言ってレイゼルは無駄に私にくっつきながら頼む。やめろ、恥ずかしいからやめろ、離れろ。ヘレンちゃんはもう、なんだか食らいつくようにしていつも見てくるから……慣れちゃったけど、初対面は流石に恥ずかしい。
なので体を押して離れさせようとするものの、レイゼルは「うわへへへ……」と、ハァハァしながらヨダレを垂らして喜んでいた。
「……ノエル、照れてる? 可愛いな~♡」
「ちょっと黙ってて」
そんなやり取りを見ていたレイラ夫人は、ニコニコと私とレイゼルを見て「若いって良いわね……」なんて言っていた。夫人も凄く若いというか、綺麗だと思います。でも正直、私のお母さんとおばあちゃん程では無いとは思ってしまうけれど。
……これ、もしかして身内びいきってやつかな?
そう思っていると、ヘレンちゃんがチラッチラッとニョッキの方を見ていた。やっぱり気になるよね……。ずっと私にくっついて、膝に乗ってるし。
「それでノエル様、そのキノコのような生き物はなんでしょうか?」
「この子? ニョッキっていう、元々は大樹の精霊だよ。何故か使い魔になっちゃったんだけど……可愛いよね」
「さ、触っても……」
「良いよ、触らせてくれるかはニョッキ次第だけど……」
私はニョッキを抱えてヘレンちゃんの前に出すと、ニョッキは恐る恐る伸びてきたヘレンちゃんの手に自らカサを押し付ける。……ぶりっ子しながら。
「にゅ!」
「か、可愛い……!!」
するとレイラ夫人も撫でたそうにしていたので、夫人にもニョッキを前に出すと、ニョッキは「にゅ~っ♡」という甘えたような声で、きゃるるんできゅるるんしていた。
……もしかしてニョッキ、女好き? だからレイゼルとかおばあちゃんに塩対応なの?
それからしばらくニョッキの触れ合いをしていたけれど、しばらくして夫人に話しかけられる。
「学校でのヘレンはどんな感じかしら」
「えっ」
お母様、親としてそこは気になるんでしょうけども! でもヘレンちゃん、それ私が言っちゃって大丈夫なんですか!?
「えっと……」
そう思いながら私はヘレンちゃんをチラッと見てみると、そこには顔を青くさせながら大量の冷や汗を流している王女が居た。
やっぱりそうだよね!? だってヘレンちゃん、いつも「供給ありがとうございますッ!!」って言いながら、札束を押し付けるかのごとく、私の制服の中に金貨入れてくるもんね! ……まぁ凹凸無いし、唯一の美点と言っていいのかは分からないけど、体は細くて太りにくいから、そのまま金貨はストンッてそのまま床に落ちるけど……。
……私が巨乳だったら、金貨がいっぱい胸の上に乗っていたんだろうな。……待て、悲しい妄想はやめろ私。
あとは前にレイゼルが私にくっついてキスをしてきた時なんか「ハァッ!!!」っていう限界オタクみたいな声上げて、Gペンと丸ペンをガリガリしてたもんね。
これではヘレンちゃんの体裁が悪くなってしまう。友達として、そこは守らなくては!!
「ヘレンちゃんはとても優しくて、登校初日には浮いていた私を気にかけて──」
「この前、俺とノエルがイチャイチャしてる時に「推しCP尊い、生きる糧ぇぇぇッ!! ヒャッハ──!!」って世紀末な感じで笑いながら狂喜乱舞してた!」
おいゴラァこの変態終末期勇者ぁぁああ!! ずっと前から思ってたけど、本当に余計な事しか言わんな、この変態は!!!
「……ヘレン、帰る途中に少しお話しましょう?」
「はい……」
でもちょいちょいヘレンちゃん、王女様らしい振る舞いが消えるから……うーん、これで良かった、のか?? レイゼルの事は足を足でグリグリ踏んでおいたけど、本人はやっぱり気持ち悪い笑みで悦に浸ってハァハァしていた。
コイツ……私を謀ったな!?
「あ゛ッ♡♡」
それからまぁ、最近あった事……昨日のこととか、最近よく二次創作とかでよく出てくる、魔法薬の授業でレイゼルが本物の犬になったり、私が猫になったりする夢を見た事を話したりした。あとはそろそろ文武学祭だから、応援するとか。
結構盛り上がったと思う。
……そんな時だった。
「あら、随分と楽しそうね。せっかくの家族旅行なのに、私様のことは放っておいて……。お義母様、ヘレン、悲しいわ。私様も混ぜてくださる?」
嫌味ったらしい、鼻につくようなセリフと声が聞こえてきて、私は思わずその声が聞こえてきた方向を警戒しながらも目を向けた。
「(いつも勝手に着いてくる癖に、よくそんな事が言えるわね……)エリザベスお姉様」
するとレイラ夫人はにっこりと笑いながら、エリザベスと呼ばれた……凄く綺麗な人にこう言った。
「あらエリザベス、今日はもう自由行動はいいのね?」
「その言い草、まるで私様がここに来ては行けないと言っているような気がするのだけれど、気のせいかしら」
そう言いながらも視線はどういう訳かエリザベスという人はずっと私だけを見ていて、なんだか……凄く変な感じ。そしてエリザベス王女はレストランの従業員に椅子を用意させていた。
「……私様も妹の学友であるあなた方と、楽しいひと時を過ごしたいわ。ご一緒してもいいかしら?」
有無を言わせない、あくまでこちらに選択権が無いかのような雰囲気と圧に、私は更に警戒心が高まりながらも「レイゼルは?」と視線で聞いてみると「んー、まぁいーけど……何かすっげー怪しいから気をつけてな。まぁ俺がちゃーんと傍に居て守るからさ!」という、ハグしながらのスリスリを受けた。
もちろん恥ずかしいから体を押して離れさせようとしたけど、レイゼルは「うへへ……」と笑っていた。多分この意味は「素直じゃないな~♡ 好き! 帰ったらセッ〇スしよ♡」だと思う。
膝を引っぱたいておいた。
「構いません」
「そう? じゃあまずは貴女の名前から聞こうかしら」
そう聞いてきた時に椅子が運ばれてきて、エリザベス王女は従業員の人にオススメの料理を出すように言うと、よりにもよってレイゼルが居る方とは違う、私の隣に座ってきた。だからレイゼルもかなりピリついてくる。
「……ノエルです」
「素敵な名前ですわね、それでそちらの方は確か……今の勇者様だったかしら」
「そーだけど」
無愛想にそう言いながら、レイゼルは明らかに警戒しながらエリザベス王女を見つめる。けれどもそんな態度をしているレイゼルを気にした様子もなく、エリザベス王女は私をじっと視線を逸らさずに見つめていた。
……何この人、さっきからずっと私だけを見てくる。それも何か病的な感じで……なんだか私を見ているようで、私を見ていないような。そんな感じがする。
それより、一人称がなんか聞き覚えがあるというか、誰か知ってる人で似たような言い回しをしている人が居たような……。
「見た所あなた方は恋人同士で、相思相愛そうで……少し羨ましいですわ」
「……そうですか? エリザベス様はとても綺麗な人ですから、すぐに相手ができそうですけれど」
そう言うと一瞬だけ雰囲気が鋭くなったような気がしたけれど、一体何……? 何となく地雷踏んだっぽい気がするけど、なんだろう。
「私様にもお慕いする殿方が居るのですが、今やそれは叶わぬ恋……それでも尚ずっと、私様は諦めきれないのです」
あっ、なるほど。ずっと恋を引きずり回していらっしゃったんですか。どうりで勇者であるレイゼルに興味が無い訳だ……。私には何やら興味があるみたいだけど。
「それ程までに魅力的な人だったんですね」
「えぇ、誰よりもあらゆる面において完璧で、弱点も非の打ち所も無い……それでいて、とても優しい方だったわ」
ふーん……確かにそんな人が居たら、好きになっちゃうかもね。でも完全に弱点が無い人は居ないと思う。だってお父さんだって精神的な仕事のストレスで、時々私をず──────っと抱きしめてくるし。
『……お父さん? そろそろ、離れて欲しいな。それにレイゼルが今……なんか、凄い目で見てくるし』
『ノエル、娘は父親を労るものだ。あと3600秒はこのままでいろ』
『えっ、あと1時間も!? って、そんなわざわざ回りくどく言わなくても……』
『お義父さん……そろそろ、未来の婿の為にその場所を交換してくれてもいいと思うんだよな』
『……今度の休日、新しい服を買う予定にしようと思っているんだが』
(訳 ノエルに着せたい服を全て買ってやる)
『親子でごゆっくりどうぞ──!』
『!??』
まぁ要するにね、一見すると完璧なお父さんもやっぱり人間なんだよね。精神的にキツイこともあるよ、うん。というか、基本的になんでもできる有能な人に限って、つい頑張りすぎる癖があるから。
それで精神からどんどんダメージを受けて、内側から壊れていく。……そういう脆さがある事を、私はよく知っている。
あと他にお父さんに弱点があるとしたら……お父さんが、本当は優し過ぎることかな。
「弱点の無い完璧な人なんて居ません。弱点なんて、家族などの近しい人にしか見せないものですから」
「……そう」
エリザベス王女はそう聞いて、少し考えてこんな事を聞いてきた。
「ではもし、その大切な家族──ご両親が危険な目にあったら……貴女ならどうするのかしら?」
一体どうしてそんな事を聞いてくるのか。一体どんな意図があるのかは分からない……けれど、私はハッキリと答えた。
「もちろん、助けに行きます」
「どんな状況でも?」
「はい。ですが……私の家族は、最悪な状況だったとしても私が来る前に切り抜けていると思います。私の父は誰よりも強い、私の憧れですから。
王女様が思う最悪な状況程度なら、必ず打開しています。それに私の家族、なので」
すると料理が運ばれてきて、会話はそれで一度止まった。けれどもエリザベス王女はそれに手をつけることなく、ずっと私を見ていて、それが気になった私は少し聞いてみる事にした。
「……あの、さっきからずっと私の事を見ていますけど、なんでしょう?」
「なんでもないわ、つい……まさか妹がこんなに可愛らしい方とご友人になっていたなんて思わなくて、驚いたの。
もし子供が出来たら、きっと……もっと可愛らしい子が産まれるわ、楽しみね」
そう言っていたエリザベス王女の目は黒く淀んでいて、それを見た私は強烈な寒気を感じた。
……何、今の。
なんて言うんだろう、肉食動物にロックオンされたかのような感覚っていうのかな。
するとレイゼルは私にピッタリとくっついて、小声でこんな事を言ってきた。
「……この人、ノエルの貞操狙ってんだけど」
「!??」
何を言ってるんだこの勇者!?
「ノエルの事を常に考えてエロい目で見てる俺だから分かる」
「それなんの自信!?」
……でも確かに王女様に目を向けると、異様な目で見てくるし……寒気を感じる。もしそれが本当にレイゼルの言う通りだとしたら寒気を感じたのも納得だけど……何で? もしかして王女様、そっちの気が? でもなんか変だし、そんな感じがしない。
「だから俺がノエルの事守るからな!
……ん? でも魔法のオナホみたいな感じで、伸縮自在な魔法のコックリング的な物を俺のチンコに着けて常にノエルのまんこに繋げて入ってれば、大丈夫じゃね? コンパクトだし、まんこに蓋してるから俺以外のチンコは入れられないし、ずっと気持ちいいし……♡♡」
「レイゼルの方がそれは危険なんだけど」
それからあまりエリザベス王女には視線を向けないようにして、良くない空気のまま食事を終えると、私達はヘレンちゃん達と別れて、ヘレンちゃんとはまた学校で会うことを約束した。
「じゃあまた学校でね」
「またな~!」
「はい、また! ニョッキもまた会いましょうね」
「にゅ!」
安全の為に一度城下町の外に出てからムーヴィで移動をすると、私とレイゼルの寮室の前に転移した。
「は~! 帰ってきたー!」
「なんだかんだあったけど、楽しかったね」
「にゅ……」
するとニョッキは周りをキョロキョロと見て、初めての場所をよく観察する。……可愛い。
あ、そういえば帰ってきた訳だから、使い魔の申請書貰って提出しないとな。まだ日が高いし、職員室に行って貰ってこよう。そう思って私はドアノブを握ろうとした時、気がついた。
「……なんか、部屋から魔力感じない?」
「ん? あ、ほんとだ。…………ってこの魔力、まさか」
レイゼルが殺気をダダ漏れにさせながら、鍵をかけた筈なのに開いているドアを思い切り開けると……そこにはなんと、地獄の光景が広がっていた。思わず私は顔を思いっきり背けて口を手で覆う。けれども胃液と食べた物が口から出てきて、私は吐き出してしまった。
私のプライドが深く傷ついた瞬間である。
「ノエル!! 大丈夫か?!」
「にゅっ、にゅーっ!!」
というのも、どうやって侵入したのか……あのチビデブが私のパンツを被って、パンツと竿を握り締めながら、パンツに思い切り発射していたからだ。
……絶対に新しいのを買いに行こう。
「はぁ、はぁ……♡ノエル穣っ♡♡」
そしてレイゼルとニョッキが部屋に入ると、チビデブをカサでぐるぐる巻きにして、レイゼルは何処からか出刃包丁を取り出す。そしてニョッキはチビデブの中身が出てきそうな程に強く締め付けた。
「……で? 最期に言い残す事は?」
「ぼっ、僕様はこの国の王子なんだぞ!! うぐぅっ……こんな事をして許され──」
「知るかよ、死ね」
「はぁ、はぁ……レイゼル、ニョッキ、ストップ!! その気色悪いのは殺す価値も無いから!! それにそんなので手を汚して欲しくないし、世間からの評価がえげつないくらい下がる!! うっ……」
とりあえずニョッキが豚を縛り上げたまま、吐瀉物は私が魔法でサッと掃除しておいたけど、レイゼルとあのチビデブ以外に見られなくてよかった。もし他の人に見られたら死んでた。それから先生に報告を入れて突き出し、処分を受けてもらう事にした。
正直相手は王族だから権力パワーであんまり大した処分を受けないのかと思っていたけれど、あの王様の子供で性格も見た目もそっくりだった事もあり、しばらく寮内の謹慎処分と私への接触禁止令を受ける事になった。
(先生に説明している時、私が思い出してまた吐きかけていたのもある)
本当にこの2日間、濃い出来事だった……特にさっきのが一番キツかった。私は吐いたこともあり、体調が随分と悪くなっていた。たぶんこの2日間で疲れてたのもあるんだろうけど。
「ノエル、大丈夫か?」
「にゅ……」
「大丈夫じゃない」
レイゼルとニョッキが心配そうにベッドの上でダウンしている私を見つめて、私はとにかく極力動かないよう、安静にしていた。
この学園に来てから、よく体調を崩したりするようになった気がするけど、もしかして呪われてるのかな……。
もうできれば、あのチビデブ……いや、アレには二度と会いたくない。あとあの王女様、なんか嫌。常に心のどこかでこっちを見下している感じがして、凄く嫌。
「……ん? あ、あ──っ!!」
「にゅっ!?」
「えっ、何!? ノエルどーした!?」
「分かった、エリザベス王女、誰かに似てると思ったら……アレに似てるんだ!! あー、なるほど。やっと分かった……よかっ──いや全然よくない……」
「あっ……確かに! 俺、あの人に会うのは今日で初めてだったけど、どっかで似たようなのをあの王様以外に見たことあると思ったんだよな……まさかアイツだったとは」
でも今日会って分かった、あの二人は父親も母親も同じ正真正銘な姉弟だ。魔力とか顔立ちも、よく見てみると似てたし……。
そういえばヘレンちゃんはその2人に魔力も顔も、全然似てなかったな。むしろ所々でよく似てたのは、あのお付きの人だったし……。いや、まさか……まさかね?
まさか本当は王族じゃない、なんて……。
…………駄目だ、私の勘がそうだって言ってる、絶対そうだ。でもヘレンちゃんの為にも黙っておこう。墓まで持っていくよ、ヘレンちゃん。
《ノエルはそう胸に誓った!》
その次の日は体調不良が祟って風邪をひき、ヒエリカでは私の事が新聞の記事の4割を占めていた。そのほとんどが、何故か私に対する推し語りだったそうだけど、それを私が知る事になるのは随分先の話。
【前略、お義父さんへ。休日に俺はノエルと、強くなる為にヒエリカに行ったぞ! ヒエリカの人達って思ったけど、本当に皇族が好きなんだな! みんな、ノエルを皇女って呼ばないように必死に我慢してた。オタクの団結力、すげぇ……。
まぁ大型の魔獣に襲われたり、ノエルに使い魔ができたり、大変だったけどすっげぇ楽しかった!
……でもちょっと伝えておきたい事があって、今回手紙を書いたんだ。実はその休日中にエリザベスっていう王女様に会ったんだけど、どうやらノエルの貞操を狙ってるみたいでさ。
思ったんだけど、それってお義父さんが原因だよな? 明らかにノエルを見てる目が、誰かに重ねてる時の目だった。
もし俺が考えてる予想が当たってて、目的が本当にそうだとしたら……俺は多分、王族のオリバスも一緒に殺す事になる。でもノエルに言われてるんだ、俺にはそいつを殺してほしくないし、やめて欲しいってさ。
だからちゃんと責任もってお義父さんが何とかして止めてほしーんだけど、まさか娘にそう言われ止められてる将来の婿に、そんな事させないよな?
じゃ、伝えたかった事はそれだけだから! ノエル、最初は戦いの素人だったのに、今はすっげぇ強くなったから文武大会は楽しみにしておいてくれよ! まぁ、俺が勝つけどな!
親愛なる花婿、レイゼルより】
「よく吠える犬だ。この俺を脅し、戯言まで文面上とはいえ吐こうとするとは。
(……もし止められているのなら、とっくに止めている。それこそ息の根を止めてでも、俺はノエルの為に殺していた。全く、本当にノエルの事になると妙な所で鋭い犬だな……)」
【断言しよう、不可能だ。お前にも身に覚えがあるはず、アレはお前と"同類"だからな。何度も止めさせようとはしたが、アレは死ぬまで止まらないだろう。そして俺はヒエリカでノエルも母上も、ヒエリカの血を継いでいる者は全員"そう"だ。
皇族はその血と精神が根強く、自分の意思では変えられない。何か外的な要因と強い理由が無ければ、到底できない。つまりある種の呪いだ。その血と精神が変わらない限り、絶対に不可能。
例えどんな相手だろうが生物学的に人間である限り、俺がアレを斬ることは決してできない。
それからお前はノエルに止められている、とほざいたが……そもそもお前は大人しく止められている気など微塵も無い筈だ。だからお前がやれ、でなければ……。最終的にノエルが犠牲になろうとするだろう。それだけはなんとしてでも止めろ、お前にこんな事を頼むのは癪だが。
あとノエルが勇者ごときに負ける筈が無いだろう、ふざけているのか】
「……やっぱ皇族ってとことん魔改造されてできてるし、プライドがエベレストだな~」
~・~・~
『(あぁ、やっぱりそうだわ……あの人にそっくり!!)』
エリザベスは目の前に居るノエルを、愛しきアーノルトに重ねる。
そして今自分が対峙している相手は、世界の貴族や王族が一目置いている"皇族"としての教育を受けておらず、アーノルトやノエリアのような、人の上に立つべき者としての凡人が近寄り難いようなオーラやカリスマ性は無い。
見るところ、父親に教えてもらったのか、そこらの貴族の娘程度に食事のマナーはできているようだが、皇族らしい食事のマナーはできていない。
たったの一度きりだが、エリザベスは社交界でノエリアとノルトが食事をしている所を見た事がある。
幼い頃、エリザベスはヒエリカの皇族達を、ただ魔獣を倒して王族達の上に立てているだけの人間兵器だと思っていた。父親であるウィリアム王にはそう説明されていたし、ヒエリカの歴史を書物やヒエリカが出身の家庭教師から熱狂的な皇族の話を聞いているだけでも、確かに父親と同じ感想と意見を抱いたのだから。
だがエリザベスはその認識を変えられた。あれこそが人の上に立つ人間であるのだと、理解させられた。
あれはまさに完璧としか言いようがなく、あまりにも所作が美しいものだった。10代ですらない子供で、やっている事はただ食事をしているだけだというのに。つい目が奪われ心臓を掴まれた感覚になった事を、今でも昨日の事のようにエリザベスは覚えていた。
あの時の所作を思い出すと、ノエルの様子はまさに雲泥の差。皇族としては人には見せられないものだろう。
だがそれでも、正しくヒエリカの皇女なのだとエリザベスは理解した。本人は気づいても知ってもいないが、その無意識に持っているその傲慢さと信頼、そして特徴的な髪と眼はヒエリカの皇族である証拠だ。
ノルトが獅子であるとしたら、ノエルはただの可愛らしい子猫のようなものだ。
髪も長く、彼のように切れ長でつり目で、少し冷たく油断も隙もない印象と、相手をじっと観察して分析するような目をしている訳でもない。目はぱっちりとしていて、見るからに無防備で隙だらけ。
だがノエルの目を見ていると、まるでこちらの心を見透かされるような気になる。それは彼には持っていない物だ。
それでも、ノエルは"ヒエリカ"で、愛する人に通ずる血と精神を感じた。するとエリザベスの中にある考えが浮かんでくる。
『(ここで出会ったのも、きっと運命……そうに違いないわ)』
エリザベスはその未来を想像し、ほくそ笑みながら食事に手をつける。
学生時代、ノルトの方が先にエマに恋をした時は学園の女子達に激震が走った。それはもちろんエリザベスも例外ではなく、心に致命的なクリティカルヒットを入れられ、ダメージを受けて今もその傷が癒えていない程だ。
エリザベスはとても痩せにくく太りやすい体質で、過去にノルトに振り向いてもらおうと必死に努力していたのだが、全く効果が無かった。更にノルトが恋をして、恋人ができた。その時のショックは凄まじいもので、エリザベスは流動食しか長い間食べられない状態になっていたものだ。
その影響で随分と痩せて元の顔の良さが出てきたので、ありとあらゆる手段を使って略奪しようとしたが、ノルトはことごとくバグのような性能で逆NTR展開を破壊し、少女時代に抱いていた恋心のように粉砕していった。
いくら綺麗になったところで、愛しの人に振り向いて貰えないのなら全く意味が無いのだ。
会う度に恋焦がれ、考えた。一体どうして、自分ではないのか。そう思う内に、エリザベスはこう思い込むようになった。
そもそも自分を見てくれない事がおかしい。こんなにも頑張ったのに、一度も視線すらくれないのはおかしい。自分の方が高貴で立場もその女よりずっと上な筈なのに、どうして。
だが今、自分は最大のチャンスを見つける事ができた。
『……あの、さっきからずっと私の事を見ていますけど、なんでしょう?』
『なんでもないわ、つい……まさか妹がこんなに可愛らしい方とご友人になっていたなんて思わなくて。驚いたのよ』
実際にそれは本当の事だが、それは"ノルトの子供だから"という意味だけだ。
『(もし子供が出来たら、きっと私様が心の底から愛せる子が産まれるわ……楽しみね)』
エリザベスの目的は一つ、愛して止まないノルトとの血と自分の血が繋がった自分にとって都合のいい子供を作る事。
こうして光源氏的な計画がエリザベスの中で始動したのである。
既に勘のいいノルトとレイゼルにその大作戦がバレて、オリバスは接触禁止令を出されているとも知らずに。
負け確な計画が、今始まる!!
今回特にあとがきで書く事がねぇ!!