行くぞ!!!
魔法の聖地で絵本を読む話。
途中からほぼひらがなだから読みづらいかもしれんが、頑張って読みやすいようにした。絵本の為の演出だから、大目に見てね。そう考えるとM〇THERシリーズって基本的に全部ひらがなだから、凄いな……。
「みんな、ケガは無い?」
そう言って、ゲイル先生は汗ひとつかかずに魔獣がわんさか出てくる平原で私達を見渡す。最近は実戦を兼ねた授業をやっていて、学校の外で先生に実際の動きを見せてもらって、教えてもらいながら魔獣を倒していたんだけど……先生、やっぱり化け物だった。
みんなにも分かりやすいようにゆっくり動いてみるね! って言ってたけど、それでも身のこなしが人間離れしてたよ先生。何だこのフィジカルモンスター、強すぎる。というかこの先生にノーダメで勝つお父さんって……。
周りを見てみると皆がぐったりしていて、汗ダラダラになりながら疲労困憊の状態になっていた。でも魔獣達は燃やしたり木っ端微塵にしないと完全には倒せないから、疲れている時でも魔法を使っていた。
それもそうだ、だって魔獣の群れに突撃したんだよ? というか普通、いくら人数居るし名門校の生徒だからって……というか私に至ってはヒヨッコぞ? 先生ありきすぎる……。
「2人は平気そうだね」
「あ、はい」
「むしろ俺は元気!」
まぁそりゃレイゼルには勇者のスキル効果で付いたバフもあるしね。
「ノエルさんも随分体力が上がったんじゃないかな。普通、入学する前は何もしてなかったのにここまで体力ついて動けるのって、中々無い事なんだ」
「あっ……確かに、そうですね」
最近ではフィリンを使わなくても着いていけるくらいに体力は付いたし、足も速くなった。あとは反射神経とか、反応速度とか、動体視力とか。ステータスプレートにもちゃんとそれが反映されていて、数値は見違える程に高くなり、元々高かった数値は更に上がっていた。
だけどどういう訳か、HPの数値が全く上がっていない。キリのいい100で固定になっていて、これからも伸びる気配がしない。
あと対人模擬訓練では、他の人に勝てるようになってきた。最初は10%以下だったけど、今は勝率が三分の一くらい。勝った時は凄くスッキリするね、だって最初は凄くバカにしてる感じだったんだよ? 段々焦り始めた顔したり、私に負けた時の顔を見た時は「ざまぁぁぁぁぁ!!」となりました。思わずベ○ータみたく高笑いをしそうになったね。
これが力……そして力を持つ者の気持ちということか……。中々癖になりそうです、お父さんが前に言っていたことがようやく理解したよ。
『いいかノエル。力こそ全てだ、力さえあればなんでもできる。人をひれ伏せさせる事ができ、全ては思いのままになる。相手の力に脅かされる心配もない』
『力ってどう身につけるの?』
『手っ取り早いのは物理的に強くなる事だ、人を暴力という名の恐怖で支配する事ができる。だが恐怖はやがて怒りに変わり、復讐心を芽生えさせ最終的に強大な敵となる。
一方で知力があれば全ての人間から敬われる。そして都合のいい事を教え、間違った知恵を相手に与え続ければ、怠惰な奴らから思考力を奪い、依存させ洗脳する事もできる。それに知力がなければ、物理的な力を持っていたとしても利用されてしまうからな。
だが知力があったとしても、魅力と権力、財力がなければ誰も耳を傾けない。それどころか権力によって物理的な力により、こちらが恐怖に怯えなくてはならない。かといって財力がありすぎると、盗人に狙われる。
力というのは全てが均衡であり、なおかつ周囲より圧倒的でなければならない』
『へ~……じゃあ、全部の力があったらどうなるの?』
『最高に気分が良い』
『えっ、気分の問題……??』
『ただ過信と力をひけらかすような事はするな。ノエルが力を付けている時……相手もまた、力を付けている。力をひけらかしている時ほど、相手の成長を促す事になるんだ』
『分かった』
『ノエルは俺の娘だ。いつか全ての力を手に入れ、一人でもやっていけるようになるだろう。その時まで、俺はお前の力になる。誰よりも強くなれ、そして俺を超えてみせろ』
『そ、そんなの無理だよ……流石に』
『この世は盛者必衰だ、永遠に強い者はこの世で魔物以外に存在しない』
お父さん、今私は凄く気分が良いよ、でも確かにお父さんの言う通りだね。過信は厳禁、ゼッタイ駄目。
それでレイゼルは……無理、というか誰も勝てない。
だってあの勇者ズルだもん! バフ付きとか超セコイ!! 一回バフ無しでやってくれません!? クレア先生に強制的にセッ……しないと出れない部屋に入れられてるけど!!
その証拠に誰もレイゼルに勝てた事が1回も無いし!! あと模擬戦で背中タッチとか練習用で使う木の剣を当てる代わりに抱きしめたり、キスするのは止めて欲しい。
普通に恥ずかしいし、ステータスの差を突き付けられてるようで腹立つし、あと授業中にするのはやめろ。すごく嫌、でもこれ前に言ったけど聞かなかったから諦めた。
「やっぱりノルト君の子だなぁ……」
「えっと……具体的には?」
「成長速度が普通じゃない所かな、ノエルさんのスキルにあった"遺伝"が影響してると思うけれど」
「……なるほど」
でもよくよく考えてみると、何で"遺伝"なの? いくら父親が凄くても、その才能を必ず受け継ぐとは限らない。それに私は本当はお父さんが超が付くほどの魔法ガリ勉で、家でも暇さえあれば魔導書読んでるくらいな事を知っている。
たとえ素が良くても、よくある神様にチート能力貰った訳じゃないなら結局は努力ありき……。わざわざスキルになる程でも無いと思う。スキルは特定の条件、又は常に発動する特別な効果。素が良いこと自体はなんら特別な事でもない、結局はどう伸ばすかが肝心だし。
「実は私、ステータスの所見てただけで自分のスキルの所は興味無かったからぜんっぜん見てなかったんだけど、スキル見た?」
誰に言ったのかは当然レイゼル。すると「見た!」という返事が返ってくる。うん、よろしい。
「OKレイゼル、私のスキル"遺伝"についての詳細教えて」
なんだかググッてるみたいな感じになって「それ音声でG○ogleで検索するやつじゃん」ってレイゼルがツッコミを入れてきた。おいお前、何故G○ogle先生を知っている。あ、転生してたからか。
「えーっと、確か体動かすって言うか……簡単に言うと、HPがすっげー低いし100以降は一切上がらない代わりに、経験値とかステータスの伸びが凄いし上限が無いって書いてあった。あと魔獣に対して攻撃力が倍になる、ビーストキラーとか」
「何その攻撃に全振りしたアタッカー性能!? というか上限が無いって何!?」
「で、そのスキルの効果で魔人族とか魔物みたいに、生まれつき魔力を感じ取れたり、魔力の操作が上手いんだってさ」
「でも私、耳がとんがってないから魔人族ではない筈なんだけど……」
魔人族はいくら混血をしても、何代に渡って普通の人間と結婚をしていても、必ず耳はとんがっていて、魔力にその人特有の色を持っている。そして髪が魔力色によって死ぬまで染っていて、死んだら真っ黒な髪になる。それで魔人族は例え家族でも、同じ魔力色になる事はない。
「ん~?」
何か重要な事を見落としているような気がするけれど、私はどうしてか考えようとすると思考がまとまらず、ぐちゃぐちゃになる。なんか無理やり考えるのを止めさせようとしているような……。
「どーかした?」
「なんでもない」
そして考えるのをやめると、そのぐちゃぐちゃも止まった。
あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ! 明らかにおかしな現象にまた考えようとすると、やはりと言うべきか思考が乱れた。
まるで、それ以上は詮索するなって言っているような気がするッ!!
でもモヤモヤしてすごく気になる上、いつもなら嫌な筈……。なんだが、そんな気が全くしない。むしろ胸の辺りが暖かくなる感じが……した気がする。
むしろ嬉しい、とすら思った。
な……何を言ってるのか、わからねーと思うが私も何でそう思ったのかわからなかった……。この世でもっとも暖かいものの片鱗を味わったぜ……。
「あっ、もし今よりもっと強くなりたかったら、ヒエリカに行ってみるといいよ! 2人は魔法が得意みたいだし、あそこは魔法の聖地だから!」
私はポ○ナレフ状態になっていると、ゲイル先生がそんな提案をした。
「ヒエリカ、ですか? ……隣国の?」
「確か年中魔獣が沢山居て危ないっていうのと、その皇族の武勇伝がいっぱいな歴史を最近やったけど……」
あぁ、私の胸を平然と揉んできたりしながらレイゼルが授業受けてた時か……。もちろん、エルボーしましたけどね。
「うん、あそこはこの世界の魔力が巡る終着点だから。魔獣がどうやって誕生するかは知ってるよね?」
「あ、はい」
魔獣はいわゆるゾンビみたいなもの。知能があまりない動物は魂が変質しやすく、魔力に影響を受けやすい。だから魔力が豊富な所や魔力溜りがある場所では、魂は本来肉体から離れて再び生を受ける筈だけど、キマイラみたいな感じで死体と魂同士がくっついて、全く別の生物として生を受けてしまう。
このままでは転生する魂が少なくなってしまって、動物が産まれる数も個体数も自然と少なくなる。魂の入っていない家畜が産まれ、死産するから。
元になった動物にもよるけど……肉食動物であれば強くなり、草食動物でも沢山魂がくっつけば凶暴で強力な魔獣が誕生して、人の暮らしも危うくなる。
そしてヒエリカには他の国の魔獣とは一線を期していて、本来魔獣には無いはずの知性を手に入れている。つまり、魔法が使える。
更にこの世界は魔力が噴水のように地面から吹き出ていて、世界中に魔力が行き渡っている。ヒエリカはその吹き出た魔力が地脈を通って、また魔力が吹き出る地への水を吸い込む為のポンプにあたる位置に丁度ある。
その為、魔力濃度が高い地であるからか、その地に先祖代々住む人は適応していった。生まれつき魔力への強い耐性と操作、なるべく多くの魔力を溜め込もうとする体に進化した。
だからヒエリカは生きる為に魔法が自然と発達していったという。
「魔石を使ったアーティファクト・武器・防具の生成率なんかはヒエリカが一番! 魔獣はいくらでも倒し放題だし、取れた魔石は換金所ですぐ現金で国がなるべく高く買い取ってくれる。魔石を輸出して世界中に魔石を売る為に必要だし、ヒエリカの魔石はどれも一級品なんだ。
だから単価を高く輸出しても他の国が沢山欲しがるから、高く買取ってくれる。強くなるついでにお小遣い稼ぎにも良いよ」
ヒ、ヒエリカ凄い!!
「それにね、図書館も無料で利用できて、先人達の知恵が詰まった魔導書も読み放題なんだ! ……あ、でもそれは国民じゃないと無料じゃないんだっけ。でもノルト君と一緒に行った時は無料だったような……? それに何故かノルト君に対して受付の人が慌ててたけど」
「お父さんって何者……?」
そう思っているとまた思考がぐちゃぐちゃになった。……もしかして考えるな、感じろって事?
すると何故かレイゼルが何かを言いたげな顔をしていて「何?」って聞いたら「なんでもない!」ってはぐらかされた。
「それに最近は一年で一番魔獣が増えるピークを過ぎたから、2人だけでも大丈夫だと思うよ。それに文武学祭も近いし……ノエルさんにとっては、みんなを追い越すチャンスなんじゃないかな?」
「!!」
その一言で私は一気にスイッチが入り、私は絶対にヒエリカに行く事を決めた。
「ノエルのそういう負けず嫌いな所、俺は凄く可愛いと思う」
「……うるさい」
「(あれ、でも何か言い忘れているような……)」
いきなりの可愛い発言は普通にやめろ、とても心臓に悪い!!
そして私は休日にレイゼルと一緒にヒエリカに行った。この世界は一度も行った事が無い場所でも、地図に書いてある魔法陣を使えば自由に別の国へ行くことができる。魔法って本当に便利だね……。
「(ヒエリカでは今日、曇りなんだ……あんまりよくない天気だなぁ。でも、なんか……空気? が肌に合う気がする)」
ヒエリカ帝国はかなり歴史が長い国で、元々人々を守った事で英雄と呼ばれ、その英雄が初代皇帝になったらしい。それからも代々人々を守る為に年中魔物を狩っていて、多分この国の……あぁ、名前なんて言うんだっけ。自国民なのに住んでる国の名前忘れちゃった……。
「レイゼル、私達の住んでる国ってなんて言う名前だっけ……」
「ノエルって俺より変な所で世間知らずというか、興味無いよな。確かフェ……なんとかって名前」
レイゼルも覚えてないじゃん。正直、あのデブの事が嫌いすぎて愛国心が全く無いんですが。
まぁとにかく、この国の皇帝様はデブとは雲泥の差がある。主に民衆達からの信頼度とか敬愛度とか。もはや対比だね、うん。きっと強くてカッコよくて顔が良いんだろうな……それに比べて──ウッ、思い出したら気持ち悪くなってきた。頭の中勝手にフラッシュバックするのやめて、吐きそう。
「あれ、でもよく考えたら入国許可の手続きも無しに来ちゃった」
「ノエルのそういう何かを決めたら頭より先に体がすぐに動いちゃう所、凄くよくないけど可愛くて好き~♡」
「うるさい」
とりあえず私は一か八かでヒエリカ帝国の門をくぐってみようとする事にしたのだった。
「ワンチャン、ご厚意とかで入れてもらえないかな……。図書館行きたい」
「俺の予想が合ってたら、たぶん99%行ける」
「いや、かなりダメ元で言ってみただけなんだけど」
そう思いながら長い列に並んで待っていると、遊園地のアトラクションくらいの待ち時間でようやく私達の番が来た。
「止まれ、入国許可証を出せ」
「えっと……」
門番の人は顔がコワモテの人で、じっとそれぞれ私とレイゼルを見てくる。……こわい。
「…………ん?」
そしてきょろきょろと私の目とレイゼル、それからレイゼルの目と勇者の証である痣がある左手の甲を見て、二度見三度見。
「…………んん?」
四五六七八九……。
「んん?!」
それから門番の人は「しっ、失礼しました! お通りください!!」と門を通る許可を出してくれた。いや、いいの!?? レイゼルは勇者だし、どんな身分かは分かるけど……!! というか何故敬語?
「ほらな?」
「何で!?」
「俺が勇者だから?」
なんか全然違う気がするけど……まぁ、そういう事にしておいた。それから地図を見ながら図書館に向かう事にしたけれど、何故か周りの人達からの視線を感じる。前も城下町に行った時に凄く見られてたな……でも前とはなんだか違う。
どっちかというと皆は私の方を見ているし、何故か生暖かい目……というか、高齢の人は凄く親みたいな顔して見てくる。な、何で? 知らない人の筈なのに??
ただそれより少し気になった事がある。
「……なんか日本っぽい」
周りの歩いている人の服や建物の雰囲気を見て、思わず私はそう独り言を言っていた。所々、ファンタジーっぽいところはあるけど……建物にビルっぽいのがある。でっかいデパートとか……でも一番大きいのは、城下町の真ん中にある東京ドームくらいありそうな建物……いや、それにしても大きい。
「確かに……そういえば今俺達が着てる服って……あ、ヒエリカって書いてある!」
私は自分の服を確認すると、そこにはしっかりとメイドインヒエリカと書かれていた。いつも洋服はお父さんとお母さんが買ってきてくれるけど、服はここで作られた物を買ってるのか。でも自国では見た事無かったから……わざわざここに来て買ってきてくれてるのかな。でも何で?
そう思っているとショタとロリ達がやって来て、何故か目をキラキラさせながら見てくる。
「「こうじ──」」
そして親らしき女性達が口を無理やり塞がせると『申し訳ございません、うちの子達が無礼を働いてしまい本当に……』と言い始めたので、私は凄くビビった。
さっきのは何を言いかけてたんだろ……工事? 麹? うーん、分からん。というか無礼って何? それにどうしてレイゼルは私の耳を手の平で押さえた?? 謎だ。
それから私が歩く先を皆自ら開けて道を作ってくれる……んだけど、これ何かのヤラセとかじゃないよね? ドッキリとか!?
「どうなってるの?」
「知らない」
嘘つくな勇者、普通の人なら気づかないだろうけど、私には分かるんだぞ? 幼馴染だから分かるんだぞ?? 嘘乙!! ……まぁでも、聞かないでおいてあげるよ。また頭の中ぐちゃってる……というか、なんかぼーっとするし。
なんか、お花畑に座って太陽の光に当たって植物になった気持ち的な……。わぁ~、あったかいなぁ~! ほわほわ、ぽかぽか。ほけーっ、みたいな。なんだか何も考えたくなくなる。
なんだかよく分からん。
「それよりさ、ちょっとこれデートみたいだよな」
「!!」
気にしない事にしてしばらく歩いているとレイゼルがいきなりそんな事を言ってきて、い、言わてみればそんな気がする……と思い始めた。
一度意識してしまえば緊張していくもので、この幼馴染は気づいているのかいないのか……私の腕を組んでぴっとりとくっついていた。その時でも周りの人はじっと大人達は親目線的な目で私を見ていて、頭から湯気が出そうになっていた。
「俺のノエルがあまりにも可愛い、もしかしてノエルは天使だった? あ、元からか!」
「うるさい……黙ってろバカ」
こんな感じで図書館に着いた……んだけど、小さい。長方形の形をした小屋みたいな場所だけど、本当に図書館なのか不安になる。
「なんか物置みたいだな」
「失礼な事を言わない」
中に入ってみると、右横にあるカウンターの席で座っている受付のおばあさんが居て、左にはエレベーターの扉があった。そしておばあさんは私を見るやいなや、ニヤリと笑った。
「おかえり」
「……?」
「ここでは例え初対面であろうと「おかえり」って言うのさ、皆が生きる為に勤勉でなくちゃこの国だとやっていけないからね。この国の奴らにとってここは、第二の家なんだよ」
「な、なるほど……??」
なんかさりげなくちょっと嘘つかれたんだけど……。でもアットホーム的なものなのかな、でもそういうのって良いよね。おかえりって言われたし、ただいまって応えようかな。
「ただいま、おばあさん」
「ま、おかえりは言わないけど」
言わないんかい、そっちが嘘なんかい。
「ただ家みたいなものっていうのは本当だ」
「でもそのおかえりって言うの、凄くいいと思うからこれからも言った方がいいと思います」
「……そうかい、魔導書はあっちの方にあるよ。それと、私からはこの本を渡しとこう」
おばあさんはそう言って私にとある1冊の、角が丸くすり減っていて、何度も繰り返し読まれたような古そうな絵本を渡してきた。
「これはね、この図書館には一冊しか置いてない特別な本なんだ。もしかしたらよーく見てみれば、何か不思議な秘密を発見できるかもしれない……よく読んでみな」
「あ、ありがとうございます」
「あっ、それ懐かしー! 紅眼の白獅子じゃん!」
レイゼルは読んだ事あるのかな。私はとりあえず渡された絵本を借りて、持っておくことにした。私の腕にしがみつきながら、私の顔に威力20のほっぺすりすりをしてくるレイゼルと一緒に魔道書がズラリと並んでいる場所に向かおうとすると、おばあさんが「ちょっと待ちな」と声をかけてきた。
「この国に住んでる奴らはタダだけど、そうじゃない奴は有料なんだ」
「えっ……そうなんですか!?」
そっ、そういえばゲイル先生言ってた!! 一応お金は持ってきてあるけど……。
「入館料で一人12000000000ソールだね、そこから1分ずつ閲覧料金5000000ずつ払う事になるんだ」
「えっ!?」
「たっか!? ぼったぐりじゃねーの!?」
「知識は金って言葉を知らないのかい? つまりここにはそれくらいの価値ある知識が詰まってるってことさ、もちろん貸出は厳禁だよ」
でもそれくらい人々の生活の支えになっている訳で、その知識をそう簡単に他国とかに渡されないようにする為なんだろう。知識はいつでもあげてもいいけど、その代わりに見合った金を寄越せ……なるほど。
「でもアンタ達はタダにしといてやろう。恐れ多いし、何より……何処かの誰かさんがウルサイだろうからねぇ」
そう言いながらケッケッケと意味深に笑うおばあさん。それから「本を選ぶ前は必ずローブルームに降りるんだよ、じゃないとまた往復する事になるからね」と付け足す。それにお礼を言うと、もう用は無いようで「ごゆっくり」とおばあさんは最後にそう言った。
私とレイゼルはエレベーターに乗ってみると、その中は前世とまんま見覚えがある感じだった。だけどその代わり、意味がわからないくらい沢山のボタンがあった。
どうやらかなり深い場所まであって、横にも広がっているらしい。AからVまでのフロアみたいなのがあって、そこから更に地下があるらしい。Eくらいまでが娯楽用、Oが様々な技術のノウハウ。Pからは全て魔導書らしい。
まずボタンの横に大雑把にジャンル分けみたいなのが書いてあって、言われた通りにローブルームという場所のボタンを押そうとする。
けど……何処? ボタンが多すぎて分からない。
「なんかこのボタン、数字じゃなくて服みたいなマーク付いてるな」
「あ、ほんとだ」
その時にレイゼルがボタンに気がついて、たぶんこれがローブルームへのボタンなんだろうと思いながら、それを押した。
ポチッとな!
「……ん?」
「何も起きない……?」
そう思っているとエレベーターの床や壁、天井が光って、魔法陣が浮かび上がる。そして私とレイゼルは強制的に転移された。
……もしかしてこれ、エレベーターを超越した乗り物なのでは??
「おー!」
そして気が付けば、本当に名前の通りな場所に着いた。そこにはハンガーにかけられた沢山の黒いローブがあって、色々なサイズが揃っていた。多分コレは着ないといけないんだろうな……たぶん、本を読む為に必要な事なんだろう。そう思っていると、壁にローブについての説明が書いてあるのを発見した。
《このローブを着るとこの図書館内でだけ、自由に空を飛ぶ事ができます。ですが事故防止の為、あまり速度は出ません。安全に図書館を利用しましょう。ポケットの中には高所恐怖症の方の為のメガネが入っています、使い終わったらクリーク君に渡してください》
戦争君!? クリーン君じゃなくて!??
サイズの合ったローブを着ると、またエレベーターっぽいものに乗って魔導書のフロアで草のマーク(たぶん草魔法についての魔導書がある所を)があったRのB4に行けるボタンを押して、転移した。
その先には膨大な本の数。その本棚は随分と高い所まであって、本はぎっしりとその中に入っていた。
テーブルと椅子があって、そこで本が読める……けど、何故かテーブルと椅子が浮いているのもあった。それから空中には赤っぽい光のランタンがふわふわと沢山浮いていて、図書館内を照らしている。
「なるほど、それでこのローブって事」
「でもこれ高所恐怖症にはキツイよな」
「確かに」
私は高所恐怖症という訳じゃないけど、メガネかけてみようかな。
《ノエルはメガネを装備した!》
するとレイゼルは更にスリスリしてくる。なんか目をハートマークにさせて犬耳生やして尻尾を振っているように見えるのは、私の目の錯覚?
「メガネ姿のノエル超可愛い~! 好き!! 結婚しよ!!!」
「図書館で騒ぐな!!」(小声)
ペシン、と頭を叩くと「あっ♡」とレイゼルは喘ぎながらビクンッてしていた。ここでも通常運転だな、抱きついてくるのは……まぁ許すとして。止めて欲しいのが、それでちん……を大きくさせる事だ。体に押し付けるな、止めろ。
「なぁなぁ、伊達メガネかけたノエルに顔射していい? 今」
「黙ってろド変態」
でもレイゼルはむしろ興奮するだけで、ハァハァしながらヘコヘコと腰を動かしてくる。あのね、同人誌とかエロゲにはよくある図書館でのエッチっていうシチュエーションだけど、リアルはダメなのをお分かり??
私はレイゼルの体を剥がして見上げると、天井が普通の高さにあるのが見えた。
ちょっと宙に浮く事を想像すると、アーティファクトだったらしいローブは、私の想像した通りに体を浮かせる。
そしてメガネをかけたら見えた天井を触ってみると、それは具現化しているのか手で触れられる事ができた。メガネを外して今度は触ってみようとすると、天井があった場所を手が通り抜けた。
視認すると具現化するのかな、じゃあこのまま見えた状態になるとどうなるんだろ……。
私は気になったのでやってみると、手が天井にめり込んでるように見えた。それから手を引き抜いてみて天井を触ると、硬い感触を感じた。
それから空を飛んで透明な床に降りた後、メガネを外して大丈夫かを確認してみると、普通に透明の状態でも立てた。たぶん浮こうとしたら、もうすり抜けるんだろうな。
なるほど……ちゃんと事故防止の為に色々としてあるんだね、よかった。
「私は草魔法と土魔法を勉強するから、レイゼルは読みたいエリアに行ってて」
「えっ」
するとレイゼルはもの凄くショックを受けた顔をして、さっきまでちぎれそうなくらい激しく振っていた尻尾の幻覚がだらん、と下に力無く垂れ下がったように見えた。
「デートなのに!?」
「デートだったら最初から図書館には来ないし、午後から魔獣倒しになんて行かないでしょ。というか、最初から強くなる事が目的なんだから」
というかもはやこの変態にデートという概念があった事に驚きだよ、だってレイゼルが家に来る前ですら雨の日とかでも普通に家にやって来てお母さんと話してたんだよ?
あれ、いつレイゼルはうちの家族になったんだっけ……って本気で考えそうになったからね。
それに気が付けば木の後ろで、ハァハァしながらこっち見てくる時もあったし。完全に勇者じゃなくて不審者だし、ストーカーなんだよなぁ……。
「でも何でその2つ勉強すんの?」
「やっぱり火力は炎とか氷とかの方が威力高いし、コスパが良いからか、あんまりその2つはお父さんから教えて貰えなかったんだよね。それにお父さんはどちらかというと、あくまで自衛とかに関する魔法の知識をよく教えてくれたから」
「確かに……」
「あと生物とか物質の種類は作り出してしまえばほぼ無限にあるし、生き物は常に進化して新種が生まれるからっていう訳で。別に知識が無いわけじゃないけど、専門外って言ってた。あと植物は生き物である以上、必ず思う通りの結果にはならないし」
「あー、お義父さんって自分が思うように事が進まないのって大ッキライだもんな」
「それで私は可能性を感じてるんだよね、という訳で──」
「ちょっ、ちょ、待って! 待って!!」
レイゼルはそう言いながらまだ私を引き止めようとしてきて 「何?」って聞けば、レイゼルは駄々をこね始める。
「俺が調べたいとこはフロアが別なんだよー! 寂しい!!」
「そう、行ってらっしゃい」
「やだ!! 一緒に行こ!!!」
なんだ、その子供みたいな駄々のこね方。それになんか連れションみたいな誘い方だな……。
「13歳なんだから行ってきなさい」
「13歳児だし!!」
「行ける!」
「無理ぃ!!!」
「じゃあ頭撫でてあげるから!!」
「うっ……それでも嫌なものは、嫌なんだよぉ!!!! ノエルから離れるのは死ぬ事と同じだし!!」
「あーもー、分かったから!! まずレイゼルが勉強したいとこ行くよ!!」
「ノエル大好き、愛してる! 結婚して子作りしよ!!」
まぁ私にはおばあさんから渡された絵本があるし、その間にそれでも読んでようかな。
そして私はレイゼルが人前でセクハラ発言したのでビンタした後、変態が勉強したいらしい雷魔法レネダの魔導書があるフロアに行く事になり、くっつきながら魔導書を読んでいるレイゼルの隣で絵本を読んでいた。
表紙からして随分と随分とゆるい感じで「何これ絵柄可愛い……好きかもしれない」と、思いながら"紅眼の白獅子"という題名が書いてある表紙を開いた。絵本でありながらも本がかなり分厚いし、これは読み応えあるね。
《ずっとむかし、おおむかしから、ヒエリカにはわるいまほうをつかう、こわいまじゅうたちがたくさんいました。まじゅうたちのせいで、どうぶつたちがすんでいたもりをやかれてしまいました。そしてどうぶつたちを、ばりばりとたべてしまうのです》
子供向け用の本だからか、魔獣の絵が可愛いな……内容はエグいけど。
《うさぎやことり、いぬやねこ、きつね、たぬき、しかたちは、まじゅうたちにくいころされて、いつも「つぎはぼくのばんかもしれない」とおびえていました》
やっぱり表現がグロい、というか絵は可愛いのに内容が全くゆるくないぞ!? 全然穏やかじゃないですね、これ。
《あるひ、こくようせきのようなめをもった、くろいこねこがそんなかれらをみて「ぼくはまじゅうどもをたおしたら、ぼくがせかいいちつよくて、かっこいいねこになってやる! バカなオマエたちよりもうえにたってしはいしてやるから、そこでふるえながらまっていろ!」と、いってつよくなろうとしました》
おっと、この猫ちゃんそういうタイプか。
《でもこねこはすなおじゃなかったので、ほんとうはみんなをたすけるためでした》
ツンデレだ~~!! うん、かわいいね。
《ですがこねこはあまりにもかよわく、ひりきでした。からだはほそく、かるく、ツメもキバもみじかく、だれよりもちいさかったのです》
まぁ、子猫だし……仕方ないんじゃないかな。
《あるひ、こねこはトカゲのまほうつかいにであい、じじょうをしったトカゲは「てっとりばやくおまえをつよくするためのいいほうほうがある」といいました》
なんだか、嫌な予感が……。
《ただそれはしんでしまうかもしれないし、まじゅうのようになってしまうかもしれない。
ねこですらないそんざいになり、つよくなるためには、しんだほうがマシだとおもうほどのいたみをうけ、いまよりもとてもよわいからだになるかもしれない。
うまくいってもまじゅうはつよいので、サクラが2かいちって、3かいさくまでいきられるかどうかもわからないそうなのです》
《「ほんとうに、いいんだな? おまえをまほうで"しし"にかえるが、もうにどと、もとのすがたとねこだったころにはもどれない。とりかえしがつかなくなるぞ」》
《「ぼくにおなじことをいわせるな、はやくやれ! じかんがない! こうしているあいだにも、ぼくのげぼくこうほがいなくなる!」》
《ですがこねこのきもちはどんなほうせきよりもかたく、けっしてゆるがないものでした》
《そしてこねこはなんどもいたみでしんでしまいそうになりながらも、ひっしにがまんして、がまんして……やがてしろいけなみとエメラルドのようなめをもつ、ちいさな"しし"になりました。おおきなからだとタテガミをもたない、だれよりもするどく、つよいツメとキバをもった"しし"に》
《こねこだったししは、それからもうとっくんをして、だれよりもつよくなりました》
《そして、とうとうまじゅうたちのもとへいくと、そのツメとキバでまじゅうたちをいっぴきのこらずかみくだき、ひきさきました》
《「しょうらいのげぼくたちにふれるな、まじゅうども!!」》
《「ギャオンッ!!」》
《こうしてこねこだったししはまじゅうたちをたおし、どうぶつたちにしたわれるようになり……どうぶつたちのなかでも、いちばんつよくてえらいそんざいになれました》
《どうぶつたちがすんでいたもりはへいわになり、ししはもりのおおさまになったのです》
《「これからは"わたし"が、おまえたちをしはいしてやる。ぜんいん、わたしのためにはたらくんだ。だからそのために、あれていたもりをよくしろ。わたしはそのために、こんごもまじゅうどもをたおしにいく。かってにやすんだら、ただじゃおかない」》
《どうぶつたちはよろこんでししのいうとおりにし、もりはまえよりも、もっとみどりゆたかになっていきました。べつのもりから、ほかのどうぶつたちがやってくるほどゆたかになり、みんなすぐにししのことがだいすきになりました》
《ししがほんとうはすなおじゃないだけで、だれよりもやさしい、おおさまだったからです。そのしょうこに、かぜやびょうきになったどうぶつたちを、みずからかんびょうするほどでした》
《そんなあるひ、ししはとあるメスのねこに、こいをしました。ですがししはすなおではなかったので、なかなか2ひきはくっつくけはいがありません》
《なのでどうぶつたちは、じれったい2ひきがパートナーになれるよう、がんばって2ひきをくっつけようとしました。おしたりひかせたり、いろいろがんばりました》
《そしてついに2ひきはパートナーとなり、2ひきのあいだに"しし"がうまれました。くろいこねこだったころではなく、いまのししにそっくりで、とてもからだがちいさく、タテガミのない、みどりいろにかがやくほうせきのようなめと、しろいけをもった"しし"でした》
《どうぶつたちとししはよろこんでおいわいをしました。たくさんのきのみやくだもの、にくやさかなをよういしてたべました。みんながみんな、しあわせでした》
《ですがへいわはながくはつづきません、なんとべつのまじゅうたちがおおぜいあらわれ、またどうぶつたちをたべようとしはじめたのです。もりはまたもやされ、たくさんのどうぶつたちがたべられてしまいました。
そのなかに、ししのパートナーもいました》
《そしてししはまたまじゅうたちをたおし、ふたたびへいわがやってきたのです。ですが、たべられたどうぶつはにどとかえってきません。こどもをかばってたべられてしまったパートナーも、かえってくることはありません》
《ししは、じぶんはまじゅうよりもつよいと、しんじていました。じっさいにししは、だれよりもつよく、ししになってからはまけたことはありません。ですが、そのつよさをしんじすぎていました。そして、いっぴきでがんばりすぎてしまったのです》
《うしなってしまったものは、もうかえってきません。なのでししはこどもに、じぶんとおなじようになってほしくはないとおもいながら、ただしいちからのつかいかたをおしえて、じぶんのあとつぎとしてつよいししにそだてました》
《それからどうぶつたちがじぶんのみをまもれるよう、ししはツメのとぎかたをおしえました》
《そしてまた、まじゅうたちはおそってきました。みんながみんな、たすけあいながらたたかいました。ししもひっしにたたかいました》
《こんかいもししは、まじゅうたちにとびかかって、ひっしにたたかいました》
《ですがししはたたかいのなかできづきました。じぶんが、まえよりもずいぶんとよわくなっていることに》
《ししはとっくに、おじいさんになってしまっていたのです》
《ししはまじゅうのするどいツメで、からだをふかくひっかかれてしまい、とうとう、ししはたおれてしまいました。もうからだがうごかせなくなってしまい、まじゅうはししをたべようとしました》
《そんなとき、こどもがたべられそうになっているのを、ししはめにしたのです》
《「もう、にどと、あんなおもいはしたくない!! それに、まじゅうどもにくいころされることが、さいこうにきにいらない!!」》
《するとししのめが、ちのようにあかくそまりました。まるで"し"のしょうちょうであるまもの、きゅうけつきのように。
ししはこのとき、いままでで、いちばんつよいちからをもっていました。あっというまにまじゅうをたおしましたが、ししはばったりとたおれて、そのままいきたえてしまったのです》
《まじゅうたちをたおすために、ししはいのちのほのおをいっしゅんでもやしつくし、そうしてえたのがさっきのちからでした。そしてめがあかくなったのは、いのちをだいしょうとしているしょうこだったのです》
《どうぶつたちはかなしみながらも、ししをもやしてつちにかえしました。そうしなければ、ししがまものになってしまうからです》
《そしてこどもはあとをつぎ、こいをして、こどものこどもがうまれました。ですがそのひきかえにパートナーがなくなりました。そして、ししがおしえてくれたことを、こんどはじぶんなりにおしえました》
《それからとしをとって、こどもはししのようにめをまっかにさせて、まじゅうたちをたおしてしんでしまいました。こどものこどものこどもも、パートナーがははおやとおなじように、こどもをうんでなくなりました》
《こうしてなんども、なんども……たくさんのにたようなれきしがくりかえされていきました》
《そしてどうぶつたちは、そのれきしのいちぶとなるししたちの、いのちのあゆみをみて、こういいました》
《「ししがわたし(ぼく)たちのおうさまで、このめでかれらのあゆみをみることができてほんとうによかった」》
気が付けば私は夢中で絵本を読んでいて、絵本はここで終わっていた。
あとがき
実は我氏の書く小説では翠の眼は平和とか幸せとかを意味しているけれど、赤い目は覚悟と死を意味しております。
おまけ
『ヒエリカ帝国の皇族は代々人々を守る為に常に強くなる努力をしていて、自ら魔獣と戦って国民を守っています。なので後継者は生まれた順番ではなく、強さで決まります。そして皇族は必ず太陽の光を反射させて淡く虹のように輝く白い髪と宝石のような翡翠色の目をしています。
国を支配する一族の中でも世界的に珍しく、伴侶は一人しか選びません。ですが皇族の血によって生まれる子供は普通の人間以上に魔力が強く、生まれる時に母体が無事に子供を産める確率と女児が生まれる確率も30%以下。子供は無事でも、母親が死んでしまう確率がとても高いです。それ故に、伴侶や血の繋がった家族を本能で大切にするそうです。ただ皇族の女性が子供を産む場合、魔力耐性能力と共にヒエリカは医療技術も高いので、ほぼ母子共に無事出産を終えられるんだとか。
更に魔力を感知する事ができ、この性質は魔物に近いそうです。
なので皇族を研究している専門家達からは皇族の神秘と呼ばれています、たった一人を愛する人と一緒になれた人は幸せなんでしょうね~……私もいつかそんな恋愛をしてみたいです~』
『この国の王様(笑)とは大違い……どんな人なんだろう、一回会ってみたいな。優しそうだし……』
『ちなみに一番強かった帝位継承者第一位の第三皇子は、数十年前くらいにヒエリカを出て行ってしまって、今は行方が分からないそうなんですよ~』
『……あっ(察し)』
『レイゼル?』
『なんでもない』
『なんでもなくないでしょ、嘘つくな?』
『なんでもない……』
《お義父さん、一個聞いていいかな? ヒエリカの第3皇子、どこに行った?》
「一回本人に確認する為に手紙出してみよーかな……何となくノエルにバレたらダメな気がする」
《お前のような勘のいいガキは嫌いじゃない》
「わぁ……合ってた」
《だがノエルには絶対に知られるな。知ればいざという時に与えられた血という名の役割を果たそうとし、皇族である事を隠さなければならない状況の時は尋ねられた際、ノエルは顔に出てしまうだろう。
だが俺はノエルに貴族共の奴隷や、つかの間の平穏の為の生贄となって欲しくはない。
とにかく一番は本人が知らない事だ。とはいえあの子も勘が良い、だから一応"保険"はかけてある。
絶対に本人の耳や目に直接触れさせるな、この手紙も読み終わったら燃やしておけ》
「これガチじゃんか……」
《ps.もし帰ってきた後でノエルが知っていたら、お前を精神的にすり潰して殺す》
「やべぇ……」
「レイゼル何見てるの?」
「ッ!?? ……し、死んだかと思った! 今俺の中でイマジナリーお義父さんが俺を殺す寸前だった!!」