思い出の味!!!
これはキッスしてるだけだから問題無いな! ヨシ!!
おせっせしてないからたぶんヨシ!!
学校に来てから1ヶ月が経った。少しづつではあるものの、四時間とか午後の授業にも慣れていき、同じクラスの令嬢達は「えっ、これ本当にオトせる? 無理では??」と早くも思い、焦り始めていた。
でも仕方ない。レイゼルが本当に私としか基本話さないし、傍を離れないからなのである。その上、私の半径2~3m以内に自分以外の男子が近づくと、とにかく威嚇する。
そして横から見ている私から見ればガルガルしている柴犬にしか見えないのに、相手側の正面から見ればバ○オハザードに出てくる犬にしか見えない事を、私はヘレン王女様から話を聞いていている。
なんだこれ、目の錯覚トリックか? 違う角度から見ると別に見える的な……。
そして現在、少女漫画にありそうな「私の為に争わないで!」という状態になっている。いっそここが女性向けR-18ゲームの世界だったらどれ程良かったか。
「ノエルに近づくな泥棒!!」
「声うるさ……はぁ、独占欲が強い男は嫌われるぜ?」
「だったらもうノエルはとっくに俺の事嫌ってる!!」
「……それ、堂々と言う事じゃないんじゃないの」
「でもノエルは俺に嫌いとか言ったことないし、ずっと一緒に居るし、俺の事好きだし!!」
「ただの思い込み、っていう可能性は考えないんだな」
これだけ見ると絵面がただの少女漫画、ただ……。
「それに俺はノエルの処女も貰ったし、毎日いつもいちゃラブセックスしてるから、ノエルの弱点とか可愛いところも全部知ってる!!」
「俺はノエルの夢の中に入って好きなように精神の部分で犯せるけど? 今は"まだ"してないけどな」
「二つの意味で入ったら殺す」
「にしても毎日、ねぇ……マンネリ化してすぐに別れそうだ」
「俺とノエルは絶対に別れたりしないけど? 何言ってんの? 切り落とすぞ?」
「はっ、どうだか……曲がりなりにも俺はインキュバスで、貴族の生まれだ。性技は全部ガキの頃に叩き込まれたし、大人数の太った中年達に回され、デカイ触手系モンスターに苗床にされる……そんな現実だったら人生が終わるような事でも、全て夢として見させられる」
確かにシチュエーション的に凄くエッチではあるけれども……。
「アンタも少しくらい、興味はあるんじゃないの?」
こっちに話を振ってきた!?
「それに何も女だけにしか夢を見させられないっていう訳じゃない、やろうと思えば呪いで夢の中じゃないとイけない体にする事もできる」
流石インキュバス、性の悪魔、夢魔、淫魔……。
「じゃあやれる物ならやってみろよ、俺は勇者で創造神の寵愛受けてるから呪いとか効かないけどな!!」
こっちはこっちで強い。あとレイゼル、人に中指を立てない。
「あぁ、そういえばそうだった……めんどくさ。まぁ、他にもやりようはいくらでもある」
そして一方ネロは不敵に笑っていた。だけどその金色の目は怪しく光っているように見えて、私は思わず口の端っこがヒクついてしまったのは仕方ないんじゃなかろうか。ネロさん、だから「そんな顔されて傷ついたから、責任取って欲しいんだけど」なんて言わないでくれ。
そんなある日の朝。
「……おはよう、ノエル」
目が覚めたら顔が良い13歳が隣で愛おしそうに、そして酷く安心したような顔で私を見つめていた。なんだか、まだ乾いてない涙の跡が見える。
「ん……?」
何だ、この儚げイケメン。私こんなイケメン知らないんだが?
「~~~~っ!! 今日も可愛いなぁ~~♡ ノエル、おはようのちゅーしよ? ちゅー! あっ、もしかして恥ずかしがってる? もー仕方ないな~♡ 俺が愛の──」
「うるさい、というか今日も授業だしやめて」
なんだ、野生のレイゼルか。
というかいつもの習慣みたいな感じに言ってるけど、ここで寝た初日以来朝からキスした事ないでしょ。そう思いながら起き上がろうとすると、思ったより体に力が入らない事に少し驚いた。その間にレイゼルは私の上に乗っかってくる。
「やだ──っ! ノエルからちゅーしてくれないと俺今日頑張れない!! ヤダヤダヤダっ!! ノエルがちゅーしてくれるまで絶対に退かないからな!!」
「レイゼル? お弁当作れない」
私はそう言うとレイゼルは「別にキスした後でも作んれんじゃん!!」という、まぁその通りな我儘を言ってくる。ただ、なんかいつもと様子がかなりおかしい。これは何かあった……というか、変な夢でも見たな?
「で、どうしたの?」
私はそう聞くとレイゼルはすぐに恐ろしいほど大人しくなる。
「……ノエルが知らない奴に盗られてノエルに嫌われる夢、見た」
「へー」
「へーって何だよ!!
俺にとっては本当に地獄だった!! ず──────っと前からノエルだけを見てきて好きだったのに、それをぽっと出のアイツが!! ノエルに貪り尽くすようなキスした後で、そいつの目の前でノエルが女の顔して幸せそうにしてるんだ!!!
舌と歯を引っこ抜いて唇も削いで、ノエルを見つめた目をくり抜いて、全部の爪を剥いでノエルに触れた指を一本一本叩き潰して四肢を切り裂いて、内蔵抉って脳みそ引きずり出してぶっ殺したけど!!!」
……つまり、キスして安心させてほしいって事か。
夢を見て、きっと凄く不安になったんだ。ま、まぁ……ネロの事もあるし、前まで私を取ろうとする相手は居なかった訳だし。そんな夢を見ちゃうのも仕方ない……。
でもそういきなり言われても。というか、しっかり夢の中でその相手死んでるな……でも好き、か。それくらい私の事が好き……うん、そうなんだ……。
待て、笑うな……堪えろ私の顔。
「だから夢の中でノエルに俺で上書きしたけど、ノエルは……凄く怖がってて。
俺の事、嫌いに──」
私はそう言いかけたレイゼルの頭に手を置いて後頭部を引き寄せると、キスをした。
「……こ、これで、満足? 私は嫌いな人には絶対にしないから」
するとレイゼルは口に手で押える。
「ディープキスの方が良かった……」
そして不満そうに見てくるけれども、なんだか普段より顔が少し赤い。レイゼル、童貞じゃないんだからそんな顔しないで。……こう、胸がキュッとするので。
「ひとまずこれが私の限界なんで!! こ、これ以上は、心臓が……爆発する」
そう言うとレイゼルはニヤニヤとした表情で見てくる。
「……もっと恥ずかしい事されてるのに?」
「されるのと自分からするのは違うの! というかおじさんみたいなこと言わないで!!」
「ふーん……」
レイゼルは私の下っ腹を撫でながらパジャマを脱がしてくる。おいこら、ちょい待ち。
「待って、お弁当作る時間なくなるし、今日はなんだかちょっと体調悪いから……」
「えー、嘘ついてな………………ん!?」
レイゼルがパンツごとズボンを勝手にずり下ろすと、何やらレイゼルが驚いた様子で何故かパンツをじっと見ていた。
「ノエル……寝てた時にちょっと漏らしちゃった?」
「してないけど!?」
「だって布おりものとパンツに茶色いシミできてるし……」
「えっ?」
ま、まさか……茶色いシミって………………。
それに、普段とは違うこの違和感のある体。……とうとう来てしまったか、この時が。
「……レイゼル、今日の晩御飯は赤飯だから」
「やったー! 俺赤飯好きなんだよな~! ……あれ、でも何で赤飯?」
レイゼルは不思議そうに見てきて、そのまま触れてこようとするから手を掴んで阻止をする。
「今日は駄目……というか、今日から一週間くらい駄目」
「??」
そしてまだ分かっていない様子のレイゼルに、私はその疑問の正体を答えた。
「……初潮来た」
「えっ、ままままま」
「これから一ヶ月に大体一回、約一週間の期間で生理来るようになるから……」
「マジでっ!?」
するとレイゼルが嬉しそうにして私を抱きしめる。
「じゃあこれでやっと子供が作れるようになったんだよな!」
「私にとって生理とか地獄でしかないから、そう喜ばれるのはかなり複雑な気持ちなんだけど……」
まぁ大人に近づいた、という事なんだろうけれども……何で? 生理来ると身長止まるって聞くけど……私、そんなに高くないよ。まぁ原作のノエル自体ロリっぽい感じだったからなぁ……。というか前から思ってたけど、天然で毛が生えないのって現実に有り得るんだね。にしても最悪だ……憂鬱すぎる。
とりあえず今日は先生に言っておこう。それにしても、それにしてもだ。
「……動かん」
ベッドのシーツに血が付いたら嫌だからパジャマとパンツは履き直そうとしたけれども……そもそも抱きしめられていて履けない。しかも体が馬鹿みたいに怠くて動かない。これはいかん、ダメだ……。今の所、そんなに痛みを感じないけど後から段々来るだろうな。あっ、生理が来たってことは……とうとう、アレを使う時が来たって事か。
「……勇者レイゼル。今私は動けないので、とある任務を与えたいと思います」
「えっ、ノエルが珍しく頼み事してくるんだけど! なに? 俺何を任されんの!?」
何故か若干ワクワクしてテンションが高いレイゼルに、私は棚の方へ指を指す。
「あそこの棚から月経カップなる物を持ってくるのです……。そうしたら…………そうしたら……うーん、頭をナデナデして差し上げましょう」
「持ってくる!」
レイゼルがネロに羨ましいって、言っていたからこう言ったけど、レイゼルは嬉しそうにしながらすぐさま行って取ってきた。とても行動が早かったな……。
「これで合ってる?」
「それ、ありがとう」
私はレイゼルの頭を撫でると、目をキラキラさせた後で凄く嬉しそうな顔になった。そしてとてもだらしない顔で、うっとりして。
「へへ……えへ、ふへへ……」
……今、レイゼルに犬の耳と尻尾が生えているように見えた気がする。……ちょっと撫で回してみようか? ストレス発散にはスキンシップが良いらしいし。キスは恥ずかしいけど、頭を触るくらいなら大丈夫だし。
「……ノエル?」
ほっぺをムニムニしたり、ちょっとつまんでみたり。段々とレイゼルは、普段だったらしない私の行動に少し困惑しながらも「まぁいいか!」と言わんばかりな様子で喜んでいた。その途中、レイゼルは聞いてくる。
しっかりと確認をするように「俺の事、好き?」という言葉をかけて。
じっと翳る目で見つめながら、レイゼルは自分の頬を撫でている私の手を少し強く握っていた。
「………………好きじゃない、ことも無い……」
「つまり?」
「す、……すき、だけど」
「俺も好きっ!」
かなり小さい声だったけれども、それが聞こえたらしいレイゼルは幸せそうにしながらぎゅっと私を抱きしめてきた。
「……だから、さ? ずーっと一緒に居ような」
まるで呪いをかけるように言う言葉は、絶対に離さないとか、離れていかないで欲しいとか、そう言っているようにも聞こえる。
だけどそういうのは……ちゃんと"私"を見ながら言って欲しい。
そう思いながら私は抱き締められていたけれども、それは少しの間だけ。血が更に出たら大変だし。レイゼルに渡された月経カップを魔法で約5分間煮沸し、それが過ぎた頃に離して貰う。
「レイゼル、そろそろ離して」
「でさ、その月経カップってどうやって使うの?」
おいスルーするな、離したくないからってスルーするな。
「これを、中に入れるの」
「でもちょ~っと、それ入れるの大変そうだけど……」
じーっとそれを見つめる勇者。どうやら知識としては知っていたようだけれど、使い方は知らなかったらしい。
「大丈夫、入るから。というかそれ言ったらレイゼルの方が……いや、なんでもない」
いかん、墓穴掘った。それよりニヤニヤした顔でこっち見るな、セクハラ親父みたいな反応するな。私はそう思いながら見ていると、レイゼルは月経カップに人差し指を指した。
「それ入れてるとこ見ていい?」
「は??」
「だって気になるし?」
まさか、今ここで? 入れろと?? 何だそれ、いつもどんなオナ……してるか見てみたいからやってみて? みたいな、エロ同人とかでありそうな感じで言うな。
「嫌だけど……というか、今入れろって言われても普通にまだ血も少ないからヌメリが足りなくて入れにくいし、たぶんちょっと痛いだろうから無理」
「じゃあ、入れやすくすればいいんだよな」
なんか、ちょっと変な予感がする。
そう思っているとレイゼルは私の頬を両手で包み込むと、そのまま引き寄せてキスをしてきた。
「ん!?」
……ちょっと予想外、というか直接触られると想像してしまったくらい私の頭の中がピンクに汚れてしまっているのか。軽く触れ合うようなキスだったけれど、途中から啄むようなバードキスに変化する。
その時、レイゼルの手が私の頭を撫でてきた。今度は逆に撫でられているけれども、入学前とは今じゃ決定的に違う事がある。まず一つはこうして日常的にキスをされている事……。
二つ目は私の場合は撫でられると気持ちよくなってしまうようになったこと。特に、後頭部あたり。そこを重点的に触られると背筋がゾクゾクして、思わず体をよじりながら少し仰け反ってしまう。
「っはは、気持ちよさそ~♡」
獲物を見つめている獣のような目で見られながら、レイゼルに髪を優しく掻き上げるようにして撫でられると、私は更に与えられた快楽で気持ちよくなってしまう。体が震えて、つい熱い息が漏れた。
ど、どうしよう……今生理中だから、触ると菌が入って感染症起こすからあんまりそういう事はしない方がいいんだけど、そんな触り方されると……。気持ちよくて、更にこれよりもっと気持ちいい快楽が欲しいと思ってしまう。
いつも頭撫でられて始まるから、撫でられると体がスイッチ入ったみたいになってる……や、やべえ。生理中はムラムラして仕方ないのに、それを発散する事もできない。しかも生理中の行為は経血が逆流することで発症する病気にかかる可能性もある。
……とてももどかしい。
だけどそれはレイゼルも同じで、快楽で艶やかになっていく私を見て段々と苦しそうな顔をし始めた。
「我慢すんの、ニガテなんだけどな~……あー、やばい。チンコ勃ってきた……」
そう言いながら、パジャマのズボン越しから圧倒的な熱量を膨大化させて、息を少し荒くさせるレイゼル。ピッタリとくっついているからか、お腹に強く脈打つそれを感じると、反応するかのようにキュンキュンとお腹の辺りが鼓動する。だけどその鼓動すらも気持ちよくて、体がつい震えてしまう。
レイゼルはその揺れで擦れたようで、更に硬く大きくさせた。
「……これから一週間ノエルとセッ○スすんのお預けかぁ」
もう既に興奮してしまっているレイゼルは、そうため息をつきながら私が持っている月経カップを見て「ほら、どうやって使うか見せて。今なら入れやすいだろーしさ」と言ってくる。しかもわざわざ抱きしめていたのを離して、床にしゃがむと私の膝に手を置いてかぱりとの足を開かせながら。
「ほら、ちょっとずつ血が出てきてるし……シーツに付いちゃうだろ? まぁ汚れたら俺が新品用意しとくけど」
「……なんで新品?」
「俺のコレクシ──ノエルの成長の記録として全部残しとかないとさ。記念だよ、記念。ノエルの乳歯だってちゃんと今でも大事に取っておいてあるんだぞ? ちっちゃくて白くてコロコロしてて、本当に可愛いんだよなぁ! 後はノエルが使い終わった歯ブラシとか、使ってちっちゃくなった鉛筆とかも全部──あ゛っ♡」
顔にゲシっとキックした後、私は月経カップを折りたたんでさっさと中に入れると、とりあえず汚れてしまった物を魔法で洗う事にした。レイゼルは「見られなかった!! 俺の一週間分のオカズが!!!」と嘆いていたけれども。
でも悔しい事に、初潮が来たばかりだし血の量が少ないからか……さっきのでかなり濡れていて、入れる時にとてもやりやすくなっていたのを実感していた。
嘘だ……まさか頭を撫でられるだけで興奮してしまう体になるとは。
とりあえず、本格的に痛くならない内に光の速さでお弁当を作ろうとしたけれど……無理でした。教室に行く時には既に、前世の頃よりも強い生理痛に苛まれていた。
「ノエル様、おはようございます」
「お、おはよ……」
「……あまり元気が無いご様子ですが、具合はいかがでしょうか?」
「初めて赤い月の時が来て、死にそうです……」
そう言うとヘレン様は「あらあらあら!」と、何故か親のように喜んでいた。
「おめでとうございますノエル様、また一つ大人の女性に近づけましたね!」
まぁ胸は一向に成長しないけど。
今胸が成長するピークなのに、この一ヶ月間、毎日レイゼルに揉まれてるのに……しかも朝から。今日は例外として、起きたら私を抱き枕にしながら、無い胸をヨダレ垂らしてハァハァして揉んでたからね。本当に年中発情期過ぎる、お前は兎か? いや盛った犬か。
そんな事を思っていると、私は王女様からとんでもない爆弾発言を受けたのだった。
「これでレイゼル様とのお子様も沢山──」
「ちょい待ちちょい待ちストップストップストップ!!」
「はい? どうかなされましたか?」
「子供とかは考えてないから!! というかまだそれは早過ぎない!?」
「いえ、早くはありません! 貴族の間ではだいたいこの頃に子作りをするのが一般的ですから!」
「私は貴族ではないので!!」
「おや、もしや妊娠生活に心配事でも? 大丈夫です、問題ありません! お二人の為に王家の魔法化学、医療学と魔道具技術を結集し、胎児育成ポッドを作り上げますから!!」
なんですか、そのホムンクルス作るとかSFみたいなバイオテクノロジーは!?
「結構です!! 痛いのは怖いけど、ちゃんと子供は自分で産みたいので!!」
あとそれだと母乳も出ないし、なるべく粉ミルクは飲ませたくない。前世で粉ミルクだとついあげ過ぎちゃって太っちゃうから、将来太りやすい体質になる……とかなんとか聞いた事あるし。そしたら子供が将来困る事になる、まぁ私のお父さんの方の家系、全員甘党だし私も漏れなく甘党だけど。あと今まで甘いものを沢山食べても太った事ないけど……一応ね。
するとヘレン様は何故かニチャ……いや、ニコニコと笑う。王女様、何で笑ってるんですか?
「……まぁ、それでね。お弁当、今日は作れなくて……思ったより重いタイプみたいで無理だった」
「そうでしたか……あまり無理はなさらないよう、ご自愛くださいね。……という事は、久しぶりに食堂を使うんでしたよね」
その問いに私は頷くと、ヘレン様は嬉しそうにし始めた。
「では一緒に食べましょう! いつもお二人は午後の授業の関係で外で食事をなさっているので……あまり相席する機会が無いでしょう?」
この学校は多種多様で専門的な事を学べるけれども、とにかく敷地が広い。それはもう、一つの国にできるんじゃないかという広さだ。なので訓練場に行くには凄く大変。ずっと走ってないと着かない。
魔法を使えばいいのではないかと思うかもしれないけれど、先生からは魔法を使わずに来いと言われてしまっているので、実はそれで来れない。
その理由は結構まともで、少しでも足を動かして筋力やら体力を増やす為だとか。あとは腹ごなしの運動とか、この距離をすぐに移動できるかとか。……ちなみに魔法で来たらスラのすけ先生に魔力ですぐバレる。
免許持ってるのに魔法使えない縛り……まぁでも、戦闘面ではやっぱり高火力なやつ連発したら魔力切れとかになったりするし、最終的にはフィジカルが物を言うんだよね。
やっぱ筋肉、筋肉だな。
でもそんな訳で、よくお昼ご飯の時はネロに絡まれるんだけど……。でもネロはどうやら人が多い場所はインキュバスと獣人族特有の嗅覚と耳で苦手らしく、近づいて来ない。五月蝿いし色んな匂いがして気持ち悪い、との事。
そして朝にやって来ないのは、本人曰く──。
『ただの人間なら分からないが、アンタの体臭……つまりフェロモンは普通じゃ考えられないくらいにインキュバスと相性がいい。しかもかなり上質な精気を持ってるんだ、例えるなら……アレか。鬼○の刃で言う稀血ってヤツ。
その中で更にグレードがあるなら、まさに頂点。並のインキュバスなら嗅いだだけで昇天してるぜ、アンタに近づけるインキュバスは俺みたいなクオーターか……インキュバスの中でもかなりの力を持った奴だけ。
とはいえそれでも条件付きだ』
『いや、そんな……流石にそれは言い過ぎじゃ──』
『現に、俺はシャワーを浴びた後ですらアンタの匂いが分かる訳だけど? 今までよくインキュバスに犯されなかったな、もし朝にアンタと会ったら……絶対に襲わない自信が全く無いんだけど。
これでも俺は"前に言ったこと"をちゃんと守るタチなんだぜ? ただ有言実行してるだけだ』
……らしい。私の体質は一体どうなってるんだ、全く。
まぁそんな訳で、ヘレンちゃんと話せるのは朝の時間帯でお昼は全くと言っていい程話した事が無い。なので当然答えはYES、でもせめて体調さえ良ければなぁ……体調が良かったら良かったで結局は外だけど。
「いいよ、いっ……緒に、た、食べようか……」
強い生理痛の波が襲いかかり、死にかけながらも私はそう言うとヘレンちゃんが「無理せず、お腹を冷やさないようにしてくださいね。私が暖かい昼食をご用意致しますから!!」と、何故か興奮し始める。
「えっ、でも──」
「私の専属シェフに早速連絡を入れておきますね!! (やっyyyyyyyyyyた!!! これで推しに堂々と貢げるわ!!!!)」
そう言うとヘレンちゃんはマイクのようなアーティファクトを出し、早速連絡を入れた。
「なるべく鉄分多めに摂取できる料理をお願い、えぇ……あっ! ノエル様の好きなお料理は確か、ハンバーグでしたよね」
「う、うん……」
お母さんの得意料理が煮込みハンバーグで、本当に美味しいから……ハンバーグがいつの間にか好きな食べ物になってたんだよね。というか私、ヘレンちゃんにハンバーグが好きな事を言ったことあったっけ?
「俺も一番好きー! で、ノエル大丈夫?」
そう言ってレイゼルは私を抱きしめる。こうしている間にも、レイゼルは魔法で私のお腹を暖かくしてくれているからか、かなりマシになっている。これがあるのと無いとじゃ大違いだね……ただ、ちょっと気になった事がある。
「大丈夫……」
「そっか」
レイゼルが一番好きな食べ物って、スープだったよね。コンソメとか、トマト、かぼちゃ、コーン……。本当は野菜全般が好きじゃなくて、野菜の中でも特にトマトが大嫌いなのに、トマトスープは自分から喜んで食べるくらい、スープが好き。
カプレーゼ(トマト)は体の為に我慢して食べてもらってるけど……。いや、でも私があーんして食べさせる時は食べられるし、トマト食べてても幸せそうな顔してるな。本当に嫌いかどうか時々疑わしくなる。
(たぶん、スキルの影響なんじゃないかとは思う。そのスキル、一体どうなってるんだ)
三年前、亡くなったレイゼルのおばあちゃんが得意だった料理がスープだったから。
元々有名なレストランのオーナーで料理長だったらしく、和洋折衷なんでもござれでお酒とチーズも豊富だったそうだけど……。 あの戦争を起こしやがった男の事があって、親として責任を取らなければならなくなり、店を畳んだそうだ。
常連者は酷くその事を嘆いていたという。それもあってレイゼルって結構舌が肥えてるんだよね、よくご飯の時はお母さんに意見してたし。……時々「お義母さん、もうちょっとだけ野菜を少なくしてくれたらもっと美味しく食べられるんだけどな~! おねがーい!」って何か交渉してたけど「だ~め♡」ってバッサリ切られてたな。
生きていた頃は、時々村でお祝いの日には沢山の料理を作ってくれたし、何かしらのイベントでもお腹いっぱい食べさせてくれたな……まだ三年前の事なのに、既に懐かしい。
……あ、そっか。スープ系が好きって言ったら、絶対に皆スープ作って食べさせようとするし、そうすると野菜が絶対に入ってる。普段料理しないけど……やれば上手いんだよね、おばあちゃんに教えて貰ってたから。
栄養の事は何も考えてない献立になるけど。
それにおばあちゃんの事、思い出すもんね。本人直々に教えてもらったスープのレシピを知ってるから、時々レイゼルに作ると本当に嬉しそうにするんだ……。
その時のレイゼルは不覚にも、母性本能的な物がぶわーっと湧き出てくるくらい、とても良い笑顔をする。
そういう嘘なら目を瞑って指摘しないでおこう。私にしか知らない秘密ができたみたいな気がするし、私にもレイゼルのおばあちゃんとのスープの思い出があるし……友達とはいえ、他の人が介入して欲しくない。
……最近スープを作ってなかったし、生理終わったら作ろうかな。
~・~・~
『どうだい? 美味いだろ』
『すっごくおいしいです!』
程よい塩味と旨みが溶け込んだ、暖かいスープを最後の一滴まで飲み干すと、私はレイゼルの祖母、メーヌおばあちゃんにそう聞かれた。答えはもちろん美味しいの一言に尽きるもので、私はそう言うとおばあちゃんは自慢げに笑う。
『レイゼルも野菜嫌いの偏食家だけど、スープにしたらいつも残さず食べるんだ。ノエルちゃんも、いつかウチのレイゼルの嫁に来る時はスープにして流し込むように食べさせな』
『よ、よめって……おばあちゃんやめてよ、そんなんじゃないから』
あの頃の私はそう言ったけれども、何故レイゼルのおばあちゃんはニヤニヤと笑っていて『まぁそういう事にしといてあげよう』と言った。
『本当は誰にも教えない秘密のレシピなんだけどねぇ……特別に教えてあげるよ、料理ができた方が後々苦労もしないさね』
料理人だったからか、教える時のおばあちゃんは凄く厳しかったのを覚えている。
だからこそおばあちゃんと同じ味が出せた時の感動と、それをレイゼルに食べさせた時の表情は一生忘れられない思い出だ。
だけどこの思い出が、後に私がとんでもない事に気づくキッカケになるとは思いもしなかった。
あとがき
紳士諸君でも生理シュミレーターだったっけかな……そういう機械を使えば痛みが分かるんだって!
まぁわざわざそれを買わなくても、再現方法はあるけど。
まず丈夫で丁度いい高さのあるゴミ箱を逆さにして、膀胱とか下っ腹とか、よくエロ同人にある女の子に付けられた淫紋がある辺りにゴミ箱の底にうつ伏せになって全体重を乗っけるとできるよ。生理の血の感触を知りたい時は実際に生理用ナプキンとか買って、ローションでもジェルでも付けた方がいいね。あとはちょっとメンソールも付けて。
作者の場合はお股のあたりが氷とか保冷剤で当てられてる、みたいな感じで冷えてるように感じるから……。あれどうにかならないかな、なりません? そうか、無理か……。
とにかく! 作者は月一でいつも味わってるし、その痛みが分かっちゃってるからわざわざ自分から痛い思いしたくないし、いい感じのゴミ箱が周りに無いから本当にそれと似た感覚なのかは分からんけど……。
でも結構似てるとかなんとか。
気になった奴は試してみるといいぞ、でも流石に居ないか〜! だって痛い訳ですしおすし……やるとしたら怖いもの見たさでやるおバカさんくらいですね。
あ、次回ノルトパッパが主役の回です。楽しみにしてろよ! 作者が言うのも変だけど、面白いし気に入ってる回だから。
~おまけ~
「……レイゼル、何してるの?」
「ん? ちゅっ、ちゅぱ……」
「おい、私の月経カップに何してんだって聞いてんだよクソが」
ゲシッ
「ふぁいっ♡ ノエルの生理用品勝手にぺろぺろしてまひたっ♡♡」
「普通にキショいし汚い、止めろ」