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王子との出会い

(うますぎる…)

大学の食堂で食べる麻婆なすが一番うまい、食堂のメニューの中では割高だが、それを補ってあまりあるほどの満足感を提供してくれる。

辛いのは得意ではないので、生協の食堂の申し訳程度の辛みがちょうどよく、どうやったらナスがこんなに柔らかくなるんだろうか。

(いいレストランではシェフに直接お礼を言う文化が有るという、僕もやるべきか…?)

実際は食堂のおばちゃんにお礼を伝えて、怪訝な目をされるだけだろうが

と、そんな風にいつものように一人で食堂でお昼を食べていると、食堂の入り口から女子の会話が聞こえてくる


「え、想君が食堂に来るなんて珍しいね!」

「ああ、一回来てみたくてね」

「一人なの?言ってくれたら一緒に食べたかったなー、でも次授業なんだよねー」

「いや、私は食べるのが遅いから一人でちょうどいいんだ、でもありがとうね」


そんなやりとりをして入ってきたのは大学の有名人の神谷想だった。

十頭身は有りそうなスタイルに、服装は黒を基調モード系でまとめており、いるだけで周りの空気が変わる。

かなり顔が整った美人だが、服装と話し方も相まって男性的な雰囲気もあり、大学の男子からも女子からも絶大な人気を誇っている。

学校一の有名人は食堂でご飯なんて食べるのかと思ったが、それはこちらの勝手なイメージを押しつけすぎているなと思い直す。

あんな美人だって食堂でご飯も食べるし、自販機で売っているメーカの悪ふざけとしか思えないジュースを、好奇心に負けて思わず買ってしまうこともきっとあるだろう

(ちなみに昨日の僕の話だ、さつまいも味のジュースを買って飲みきれずに捨てた)。

そんなふうに一人納得して、また食事に集中する。

一通り食事を進めて、明日はオクラの巣ごもり卵も食べてみようかと思いを巡らせていると、唐突に声をかけられる。


「ちょっとトレー寄せてもらっていい?」

「え、ああ」

「いやあ、食堂って初めて来たんだけどいろいろあるし安いんだね、今度からたまに来ようかな」

「…結構メニューは多いね」


あまりの事に反応できず普通に返事をしてしまったが、改めて正面を見るとあり得ないことが起きている。

神谷想が目の前に座っているのだ。

どういうことだろうか、当の本人はさして気にした様子もなく食事を始める。

何かを食べるというのは、多少なりとも人のクセが出るモノだが、神谷の食事姿は教科書に載せてもいいくらい無駄がない。

ずっと見ていられそうだが、そうもいかない。


「えっと、神谷?」

「うん?」

笑顔で神谷がこちらを向く。何か用か?と聞こうと思ったが、向けられた笑顔がまぶしすぎて躊躇する。

「いや、あー、えっと、お茶とかはあそこで入れられるよ」

「あ、なるほどセルフサービスなんだ、ありがとう。ちょっととってこようかな。」


神谷がお茶を取りに言っている間に考える。

一体なぜ神谷想が自分の目の前でご飯を食べているのだろうか。

今までほとんど話したことも無いし、接点もない。

正直怪しい壺を売りに来たとかじゃないと辻褄が合わないくらいだ。

いや本当に壺を売りに来たんじゃなかろうか、ジャブを売っておくか…

戻ってきた神谷にそれとなく話しかける。


「なあ」

「ん、なんだい?」

「僕はこの世で一番嫌いな造形物が壺なんだ」

「うん?」

「昔は水をためておいたり有用性があったかもしれないが、現代において何の実用性もない。そのくせやけに大きくて場所をとるじゃないか。」

「うーん、そうかな」

「うまく美術品にジョブチェンジできた気になっているかもしれないけど、今の若い子たちはみんなおかしいと思ってるよ」

「今の若い子って、ずいぶん大きな主語をつかうなあ」

「少なくとも僕は壺が嫌いなんだ、僕の前では絶対壺の話はしないでくれよ」

「私の人生の中で話題に上げようとおもったことがないよ。…ふふ、今まであまり話す機会が無かったけどやっぱり面白い人なんだね」

冗談だと思われたのか、神谷は気にもとめていない様子だ。

何の動揺もなく食事を続けているところを見ると、とりあえず要件は壺ではなかったらしい。

では別の角度から探ってみよう

「食堂に来るなんて珍しいな、普段来ないよね」

「うん、そうなんだ。普段はお弁当を持ってきているんだけど、今日はちょっと準備できなくてね。コンビニで済ませてもよかったんだけど、せっかく食堂があるなら一回来てみたくて」

確かに入ってきたときにそんな話をしていたか

「そしたら荘司君がいたから、せっかくならご一緒しようと思ってね」

「すごいフットワーク軽いな、僕たちそんなに接点無いだろ」

「接点無いことはないよ、英語と第二外国語の授業も一緒だし」

「…まあそれはそうだけど」

その二つは確かに神谷と同じ授業だが、認識されていると思っていなかった。

「それに高田君に少し話も聞いていてね」

「ああー、高田と知り合いなのか」

「高田君と知り合いじゃない人の方が少ないと思うけどね」

高田と書いてコミュ力と読むみたいな男だ。確かに高田なら神谷と知り合いでもおかしくない。

「荘君は頼りがいが有って、困った人をほっとけない人だと聞いているよ」

「荘君はやめてくれよ…」

「じゃあ荘ちゃん?」

「…神谷、結構悪いやつだな」

えへへと神谷がいたずらっぽく笑う。

本人としては意図していないだろうが、なかなかの破壊力のある笑顔にたじろぐ。

もともと話を聞いていたとはいえ、いきなりほとんど話した事が無いクラスメイトとご飯を食べようとするなんて大した胆力だ。

神谷くらいになると拒否とかされたこと無い人生なのかも知れない。

結局神谷がご飯を食べ終わるまで、なんやかんや話していたがなかなか楽しかった。

くやしいが、この見た目で愛嬌もあるなら普段の人気も納得だ。

「いやあ、荘君って話しやすいね、ついいろいろ話しちゃった」

「僕も何というか、楽しかったよ。…おっともう三限が始まる時間だな、次授業あるんだっけ?そろそろ行こうか」

そう言って食器を持って行こうとしたが、神谷は座って何かを考えているようだった。

「ん?どうした」


「…ねえ荘司君、実は相談をしたい事があるんだ」


ここから意外と長い物語が始まる

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