こうして、僕が薬師寺天女っていう女の子を
こうして、僕が薬師寺天女っていう女の子をテレビに出ているのを見て認識してから、一月後、六月一〇日が僕と彼女の交際記念日になったのだ。
アマネさんから告白された日は、三時限以降は二人の選択科目が違ったし、僕は大学が終わった後はすぐバイトで、下宿に帰って来たのは夜の九時前になった。
そして、僕はそこで初体験を迎えたのだ。
いや、付き合ったその日にエッチまで行くほど、僕は女慣れしてないし、彼女の貞操観念だって崩れてはいない……はず?!
スマホに彼女から電話が掛かって来たのだ。でも、女の子から電話が掛かってきたこの快挙に、僕は気の利いた話一つできない。
女の子を楽しませる話題なんか思いつかない。なぜなら、今までそんな話題に触れことが無かったから。
だから、彼女から一方的に話すだけ……、でも、さすが岡島テレビのレポーター、話題が豊富だ。特に商店街のおすすめスイーツに力が入っている。
僕が今度一緒に食べに行こうと言ったらすごくうれしそうに「うん」と答えていた。
やっと電話を切ることができてほっとした。
女の子からの電話がこんなに疲れるとは……。だって、つまらない奴と思われないように話題を探すのは、神経を使う。
今日は上手く乗り越えただろうか? そんな自己嫌悪を抱く。
いつ愛想をつかされるかと脅える僕に、電話やメールが頻繁に掛かってくる。
ある日、メールで「明日の昼、第二学食で会いましょう」が来た。このシチュエーションは?! 思い出した、彼女から告白された日から、いつの間にか一週間が過ぎていた。
気が付けば、彼女と面と向かって合うことを避けていた。
「了解」
そう返事をした後、あの日の出来事を鮮明に思い出し、恥ずかしさでベッドの上で、のた打ち回ることになったのだ。
◇ ◇ ◇
次の日、第二学食に行くと、テラスのベンチに腰掛けた彼女がいた。
いつもはスカート姿の彼女が、ハーフパンツにTシャツの上にニットパーカーとアクティブな恰好をしている。
そして、僕に気付くと、立ち上がり手を振りながら僕の方にやってくるのだ。
「一週間ぶり!! やっと会えたね」
「はい。選択科目が合わないし、バイトがあるし」
「もう、レン君って、そればっかり。まあいっか! じゃあ、レン君の部屋に行こ」
「な、なんで?! ここで昼を食べるんじゃないの?」
「わたしは三時限が休校になったの! だから、三時まで暇になっちゃって。別にいいでしょ。レン君は次の授業、よくサボってるんでしょ」
これから、僕の部屋に来る?! 意味わかっている? 二人っきりなんだよ?
僕は是非を答える前に、彼女さんは駐輪場の方に歩き出した。
慌てて彼女に付いていく。そして、追いついて並んで歩きだす。
「レン君、バイクはどこに止めてるの?」
「えっ、教養棟の前だけど……」
「後ろに乗せてよ。バイクの後ろに乗るのは初めてなの。珍しいよね、この時期にバイクの免許を持ってる岡大生って。いつ免許を取ったの?」
そういって、しまったという風に、口を塞ぐように両手で抑えた。
僕が一浪していることに気を使ったみたいだけど……。僕は高校一年の時から免許を持っているし、彼女は二輪の免許の種類なんか知らないだろうけど、僕の乗っているバイクは125㏄未満の小型で二人乗りで映えるようなカッコいいバイクじゃない。パワーも無いし……。
「僕は田舎の高校だから、バイク通学がOKだったんだよ。ただし、小型だけどね」
「じゃあ、高校の時から二人乗りしていたんだ。女の子とかも?」
「二人乗りは学校で禁止されてたな。通学以外で使うのもダメだったし」
「でも、レン君って、そんな校則、守ってないでしょ?」
「まあ、連れが連れだったしね」
「空手部だったけ? 色々とやんちゃしてそう……。インターハイベスト4だし」
「あれ、アマネさんにその話したっけ?」
「ジュンキ君から聞いたの」
「ああっ、アイツからね。僕が一浪だっていうのもジュンキから?」
「うん。その話を聞いて、レン君に興味を持ったの」
そう話すと、彼女は止めていた足を動かし再び駐輪場を目指して歩き出した。
ああっ、正統派美少女の彼女は、アウトロー的なやつに惹かれるというやつか? 僕は岡体大の鬼島を思い出していた。アイツなら彼女の期待通りなんだろうけど、僕は付いていくタイプ。一人じゃ何もできないザコキャラだ。
また一つ、僕の中で不安が大きくなった。