表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/53

僕は第二学食のテラスに向かって急いでいた

 僕は第二学食のテラスに向かって急いでいた。そしてテラスまで後三〇メートルというところで、ゆっくりとした足取りに変えて、呼吸を整えた。


 もう、彼女はテーブルに座っていた。


「待たせてごめん」


「私も今来たところ……」


 アマネさんが僕を見つけて立ち上がったって手を振っている所に、再び駆け出して……、まるで、恋人同士が待ち合わせていたような挨拶を交わした。


 僕から伝えなきゃ……、そう思うのに言葉がでない。それどころか、やっぱり揶揄われているんじゃないかって内心ビビッている。


 普段なら道化ピエロの役なんて、自分から買って出るのに……。


「えっと、レン君、好きです。私と付き合ってください」


 彼女はそう言って、頭を下げた。僕がビビってたばかりに……、彼女に言わせてしまった。

 そんな後悔が僕の頭をぐちゃぐちゃにする。

「ぼ、僕はアマネさんを試すようなことを言って、そ、そんなことを言って貰える資格なんてないんです!!」

 そんな言葉が口をついて出た。あーあっ、これには彼女もドン引きだろう。


 元々、僕には過ぎた人だから、クールに構えてやり過ごすなんて出来はしなかった。思いが暴走して行き違うのは仕方ない……。


 僕が彼女に背を向けて行こうとした。


 と、そこで、背中にしがみ付かれた。


「まだ返事を聞いてません。勇気を振り絞ったんだから、ご褒美があるんですよね」


 僕は、背中に彼女を感じつつ、うつむいたまま、返事をする。とても、向き直る勇気なんて持ち合わせていないから。


「はい」

 僕の言えたのはその一言だけ。


 僕たちはこの瞬間に、付き合うことになった。


 僕はそのまま、彼女に押されるまま、学食を後にした。


 そして、しばらく押されるままに、校舎の裏までやってきた。


「あーっ、恥ずかしかったです。まさかレン君から抵抗されるなんて想定外です」


 そう、本来の僕はちょろいのです。彼女があまりに美少女だから……、疑り、拗らせ、盛大に自爆した大馬鹿野郎です。


「ごめん。僕から言うはずだったのに……、自分の気持ちをぶつけて、結論はアマネさんにゆだねるつもりだったのに……。僕が決着をつける格好になって、不安にさせたよね」


「うん。すごく不安だった。ジュンキ君からは難しいじゃないかって言われていたからね」


「また、ジュンキか! アイツの言うことは当てにならないよ。悪意はないけど、信用ないから。アイツの感覚は一般人からは相当ずれてる」


「あ~っ、それは分かる。いきなり話し掛けられたけど、こっちの警戒とか初対面とか全部無視だもんね」


「だろ、僕らの出会いもそんなもん。自分の好奇心や欲望に忠実で、相手のことなんか関係ない。一周回って尊敬に値するんだけど……」


「迷惑だけど、やさしいよね」


「おせっかいだけど、頼りになる」


 ジュンキの悪口の言い合いで、やっと、僕は彼女の方に向き直れた。


「アマネさん。これからよろしく」


「私たち付き合っているんだから、アマネでいいです。私もレンって呼んじゃうから」


「急には無理だよ。アマネさん。僕はこれからどうすればいい。なにせ、女の子と付き合ったことって無いのと同じだから」


「へえ~っ、遠回しに言ってるけど、レン君って女の子と付き合ったことがあるんだね。あっ、私もレン君って言っちゃてる。お互い慣れるまではそれでいいか?! ジュンキさんの話だと、きっと女の子と付き合ったことがないって確信してけど」


「小学生のことだからね」


「なるほど、初恋の経験はあるんだ」


「あれを初恋っていうのかどうか?」


「でも、そんなことよりこれからの事よね。私たちは付き合うとして、手始めに食事をして、三時限の授業に出ないといけないよね」


 彼女はそう云うと、カバンからお弁当箱を取り出した。


「レン君の分のあるわよ。そこのベンチで食べましょ」


 そういって、僕に弁当箱を差し出した。


 参った。僕が彼女の告白を受け入れるのは予定調和。僕は彼女の手のひらの上で躍らされていただけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ