翌朝、目を覚ますと、コウキはすでに起きていた
翌朝、目を覚ますと、コウキはすでに起きていた。伝えたくてうずうずしていたんだろう。僕が目を覚ますと、興奮したように言ったのだ。
「俺、アマネさんの胸を揉んだんだよ。結構、大きいんだ。手のひらいっぱい」
やっぱり、あの体勢の時にどさくさに紛れて……。かっとして、喉元に熱いものが走った。昨日の酒が逆流して吐きそうだ。
だけど、そんなことをおくびにも出さないで、僕は冷静に言葉を返してた。
「なに、そのラッキースケベ。もう、アマネさんと付き合うしかないんじゃねぇ」
「だよな、あの中でも、ダントツの美人だし、行くっきゃないよな」
「ああっ、応援してるから。あそこまで、無防備になるんだから、アマネさんだって、コウキのこと満更でもないと思う」
僕は起き出して、冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを取り出してグラスに注ぐ。
そうして、地元テレビのタレントギャル、アマネ攻略法をバイトの時間までコウキと議論したのだ。
◇◇ ◇
あのコンパから1週間、コウキどころかジュンキからも音沙汰がない。暇があれば、僕の下宿に入り浸っていたのが嘘のようだ。
大学でも避けられているようで、合同授業の体育や第二外国語も出てこなかった。
アマネさんやユウナさんとは目が合っても、頭を下げるだけでそれ以上の進展はない。僕が話しかければいいだけなんだけど……、そんな勇気も出てこない。
僕も今日は授業をさぼって、下宿の隣に住んでいる武田が借りてきたビデオを一緒にみようと僕の部屋にやって来た。武田の部屋には50インチのテレビがあり、DVDが100本以上本棚に並んでいる映画オタクだ。
もっとも洋画ばかりで僕の趣味とは全然合わない。ところが、今日借りてきたのは古いカンフーもの、僕の好みにドンピシャで、この主役の俳優に憧れて、僕は空手を始めたのだ。
久しぶりに見て、手に汗を握っていたところで、突然、ドアが開けられ、二人の男女が入ってきたのだ。
「おっす、チュン!! やっぱ、下宿にいたか? あれ、授業をさぼって映画鑑賞か! AV鑑賞じゃなくよかったよ」
「こんにちは。お邪魔します」
ジュンキは僕の許可を得る前に、ずんずん入ってきて、ベッドの上に座る。ジュンキについてきたアマネさんも同じように、ジュンキの隣に座って、部屋を見回している。
アマネさんの服装は、真っ赤なジャケットに大きなバックルが付いたベルトを巻いた真っ赤なタイトスカートのミニ。
バブル時代のボディコン真っ青な出で立ちに、唇は真っ赤な紅を引いている。派手なギャルを演出した色気がダダ洩れで、僕はまともに彼女を見ることができない。
因みに僕の部屋は、3階の階段を上がった最初の部屋だ。ドアを開けるとすぐに2畳ほどの台所、その奥に6畳のワンルームだ。
そして、カジュアルこたつを中心に、南の出口近い壁に武田、西の壁にもたれかかって映画を見ていたのが僕。僕の正面の東の壁にテレビ台があって、北の壁に沿ってベッドがある。
そのベッドの上にジュンキとアマネさんが並んで座っているのだ。持ち主である僕でさえ、そんなシチュエーションは経験したことが無かったのだが……。
「何の用?」
「いや、アマネに、どこでデートするって、聞いたら一人暮らしの下宿が見てみたいって言うから」
「はあ~っ、お前らいつから付き合いだしたの? って言うか、ユウナさんは? 何で僕の部屋に?!」
何の用で来たのかと思ったら、デートだとぬかしやがった。いやまあ、そういうタイプだとは知っていたけど……。そう認識してからは疑問詞の連発だ。
「誤解を与えたならわりぃ! 別に付き合ったわけじゃないんだ。ユウナがアマネの話を聞いてあげてっていうから。で聞いたら、男の一人暮らしの部屋が見てみたいって」
「ほおぅ、男の一人暮らしなら、お前の部屋でもいいだろうが!」
「あっ、ダメダメ。あそこは俺とユウナの愛の巣だから」
こういうことを臆面もなく言える奴だ。
「ごめんね。突然来ちゃって。今日、大学で見なかったなら……。そんな話をしたら、ジュンキ君がチュンのところに行ってみるって? どおせ,サボっているだけだからって」
「昨日は徹夜で麻雀を打っていたから。今、起きたところで……、まあ、サボっても大丈夫な授業だったし……。武田が面白そうなDVDを持ってきたから……」
「武田って言うのは、正面に座っているメガネ掛けた映画オタクね。武田、こちらの美少女は同級生の薬師寺天女さん」
僕がしどろもどろになっていたので、ジュンキが話を繋いでくれる。
「そうなんですか? これってすごく古い映画ですよね?」
「はははっ、アクション全体が好きだから……、昔はCGとか使わないで、役者が体張ってたからリスペクトしてて……」
アイドル顔負けのアマネさんの問いに、武田も緊張してるみたいだ。