なんやかんやでやっと着いた
なんやかんやでやっと着いたペントハウス。
入り口で、予約を告げると、僕たちの席は真ん中のステージ正面奥の席に案内された。
ここは歌をリクエストすると、ステージのところにテーブルの番号が表示され、ステージに上がって歌が歌えるパブなのだ。
適当に席に座ると、とりあえずナマとアテを注文する。メニューはビアガーデンと似た感じだ。ただし、さすがはパブでカクテルはノンアルコールを含め充実している。
そんな感じで始まった飲み会。
特に自己紹介もなく、唐突に乾杯をすると、すぐに話が弾みだす。まあ、六人中四人は同じクラス、大学の違うユカさんも女の子二人とは高校の友達だ。
そういうわけで、分かっていたことだけど、僕だけが輪から外れていた。
そんな中、タクミとその彼女の光明寺ナオミがやって来た。
この二人、実は空気を読むタイプだ。すぐそばに座って僕のボッチ飲みを救ってくれた。すると、タクミ狙いのユカさんも僕の隣にやって来た。順番にナオミ、タクミ、僕、ユカさんの順だ。
慎重に言葉を選ぶタクミを促して、ユカさんとタクミの会話が弾むように繋ぎ役に徹しているナオミ。
これぞ、王者の余裕?! タクミがナオミと別れることなどミジンコもない自信が溢れている。
そして、ジュンキとコウキはいつものように、ステージで流行りの歌を歌い出した。
そうなると、僕たちのテーブルが注目を集めたりするのだ。
いつものことだけど、このペントハウスはコンパの一次会に使われていることが多い。初対面の男女のグループは、まだまだ相手を値踏みしている状態だ。そんな状態にアイドル顔負けのコウキやジュンキがステージでパフォーマンスを見せれば、目の前の男たちがつまらなく見えてくるのは仕方がない。
今回は、さらに周りの男から敵認定されている。それは、このテーブルにいる女の子たちがめちゃくちゃ可愛いからだ。
そんな四面楚歌の中、ナオミのリクエストでコウキがついに伝家の宝刀を抜きやがった。
ステージの端に飾りで置いてあるアコースティックギターを店のスタッフの許可を得て、ステージに持ち出したのだ。
そして、ステージでいきなり弾き語りを始めた。曲は「乾杯」だ。声質はやんちゃ系の歌手の声に似ているし、雰囲気も合っているし、ギターは上手いし、この雰囲気で口説かれて落ちない女はいないんじゃないかな?
ああっ、クソが!! 神に贔屓された者たちよ!!
まあ、こんな雰囲気になったところで、いつものように僕は周りのテーブルに気を配る。
実は僕は一浪していて、こいつらよりは一つ年上だ。先輩らしく僕はこいつらの防波堤になるのが仕事だ。
そういえば、ジュンキがトイレからなかなか帰ってこない。嫌な予感がする。
僕はそっと席を立ち、トイレに向かった。
男子トイレでは僕の予感の通り、ジュンキと知らない男が揉めていた。
俺は二人の酔っぱらいの間に、ジュンキを護るように体を割り込ませた。
「まあ、まあ……」
そうやって聞き出したのは、ジュンキがトイレのドアを開けた時に、この男がそこにいてドアが当たったらしい。
ジュンキは謝ったらしいだけど、その謝り方が気に食わないらしい。
相手は岡体大(岡島体育大学)の空手部だと名乗っている。(この大学なら、脳筋の武闘派か~、岡体大の空手部だと僕の高校時代の連れが特待生で入ってたな。奴の名前を借りるか……)
「お前ら、鬼島ってやつ知ってる?」
「はあっ、なんで岡大が偉そうに鬼島先輩の名前を出してるんや!!」
「いや、高校時代の部活の連れだから、推薦で岡体大に行ったはずだけど……。まさか、もう中退してる? ケンカか後輩いじめで? アイツ得意だったからな」
「ま、まさか、先輩の鬼島さんの知り合いですか?」
「ああっ、僕も空手やってて、鬼島とはインターハイで全国ベスト4を成し遂げた仲なんだ。困った時は助けてもらったし、二人でよく後輩をしごいて楽しんだもんだよ」
そして、僕はその男の肩を掴んで耳元で囁く。