恋愛の顛末はだれかの思惑で成立している
恋愛の顛末はだれかの思惑で成立している。過去を振り返れば、僕は誰かの演出で付き合うことになっていた。じゃあ別れた時はどうだったのかと云うと、それが僕のトラウマになっている……。
「ふぁ~~~~あっ、今何時だ?」
飲んだ次の日だから、やたら目覚めが良い。いつものように習慣で、枕元にあるリモコンでテレビを付けた。
テレビ画面の右上の時間表示は10時35分。テレビには3人の女の子がキャピキャピしながら、地元のイベントを話題にしていた。
今風な茶髪の中に一人だけ、サラサラの黒髪、小さな顔に反比例して、よく動く大きな瞳と形のいい唇、そんな愛らしい表情に釘付けになった。
「あれ、薬師寺さん?! ホントにテレビに出ってたんだ!!」
ベッドに下からすっとんきょんな声が聞こえた。
昨日、バイトが終わった後、家に帰るのが億劫だと僕の下宿に泊まった山岡コウキだ。
岡島大学に入って、最近じゃ一番つるんでいる友人だ。ジャニーズばりのイケメンなのに、恋愛に対しては面倒くさがりで積極的じゃないところが俺と馬が合う。
僕が恋愛に奥手なのには理由があるんだが、とりあえず思い出したくもない。もっとも、それ以来そんな機会は一度もなかった。
そういうわけで結論からいうと、地方国立大学の岡島大学、通称岡大に入って1か月。女と縁がないまま、ゴールデンウイークに野郎と一緒にバイトで過ごして、さらに絆が深まったって、こんな絆はいらんわ!!
「なに、コウキ(山岡のあだ名)、起きたん?」
「いや、この女の子、俺たちのクラスの子なんだ。薬師寺天女さん。ローカル番組のアシスタントをしているとは聞いていたんだけど……。実際、俺もテレビに出ているのを見るのは初めてなんだけど……」
そう言いながら、指差した女の子はさっき俺が見惚れていた女の子だ。元々、この番組のスポンサーである老舗百貨店岡島屋の娘に頼まれて、一緒にテレビに出ているらしい。
だから、出演するコーナーは岡島屋とそれがある商店街のイベントの紹介がメインということだ。美人なんで、ロケなどの出番もどんどん増えているらしいけど、学生ということもあって、生出演は土曜日のこのスタジオの時間帯だけとのことだ。
「美人と同じクラスでうらやましいことで、もう声掛けたんか?」
「自分からは行かないぞ。そんなの弱みにしかなんねえ。束縛されるのがいやだからな」
「お前がモテるから、付き合った女が、気が気じゃなかっただけだろ?」
「俺がそんなにモテるわけないじゃん。なのに浮気だなんだって付きまとわれて、挙句に架空の女を創って嫉妬まで……、俺は部活や勉強で忙しいんだって」
「……(自分がイケメンだって自覚がないやつは)、今はバイトで忙しいけどな」
「それは、あのパチンコ屋が……」
コウキは博打(パチンコと麻雀)好きだが弱い。ちなみに僕はそこそこには強い。コウキが負けた分、僕が勝たせてもらっているのかもしれない。まあ、イケメン税としてモブの僕に納めることで世界はバランスを取っているのかも知れない。
「じゃあ、その薬師寺さんとはなんの縁もないか?」
「俺はな、でも、ジュンキ(安野純樹のあだ名)は席が隣同士だからな。なかなか積極的だぞ」
「ジュンキか~」
ジュンキはコウキと同じ地元の高校だ。コウキ繋がりではもう一人天野タクミというやつがいて、この三人、どいつもこいつもイケメンで、俺から見たら、女には苦労しないと思うんだ。
タクミ(天野タクミのあだ名)に至っては、ファッション雑誌のモデル企画で全国第4位になって、よその女子大生が岡大まで見に来るのに、高校時代から彼女一筋らしくて、僕たちとつるむ時も彼女同伴だ。