表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まじない猫の恋模様  作者: 蒼河颯人
5/6

第5話 迷子

 ある日、あたしは柳都に怒られてしまったの。

 つい品物であるお茶碗をけっとばして割ってしまったの。


「お店に入ってきたらだめって言ったでしょう!!」


 転がったお茶碗は真っ二つになっちゃった。 

 しょんぼり。うなだれたってどうにもならない。

 割れた破片をばたばた片付けている柳都を見ながらため息をついた。

 ごめんなさい。柳都。あたし、やっぱり単なる厄介ものだわ。

 ただでさえお仕事で忙しい彼に手間ばかりかけてる。

 あたし、人間だったら良かったのに。

 人間なら両足で立ってお手伝いできるし、言葉を話せる。

 でも、あたしは猫だから。

 言葉が伝わらないし、気持ちも伝えられない。

 柳都の本当の気持ちを知りたいのに、分からない。

 あたし、本当は柳都とずっと一緒にいたいけど。このままだと邪魔なだけね。


 あたしはお店から外に出て、そのまま真っすぐ道路を歩いてみた。みじめな気分から抜け出すために、気晴らしのお散歩するの。そんなあたしの傍を自転車がチリンと音を立てて走ってゆく。

 どれだけ歩いたのだろうか。

 こんな距離、久々に歩いた気がする。


 すると、ごろごろ……と変な音が聞こえてきた。

 あたしのお腹の音じゃないわね。

 空を見上げると、鼻の上にぽたりと水滴が落ちてきた。


 うそ。今日のお天気は雨だなんて聞いていないわ!


 途端、桶をひっくり返したような雨が降ってきたの。

 あわてて近くの建物に雨宿りしようと思ったけど、軒がない。

 結構歩いて来たから、今どこを歩いているかも分からない。

 雨で匂いが消えて、お家にも帰れない。


 ああ、どうしよう……!

 あたし迷子になっちゃった!


 あちこち歩き回って、やっと屋根がある場所を見つけ、あわてて入り込んだの。

 立て看板みたいなのがあるけど、何が書いてあるのか分からない。

 いすのようなものが置いてあるから、その下に潜り込み、ぶるると身震いして水気を飛ばした。

 泥だらけ。

 時々大きな車が止まっては水しぶきを上げて走り去ってゆく。あれはバスというものかしら。

 お空は真っ黒。雨はどんどんひどくなってゆく。


 これからどうしよう……。


 ぼんやりしていたら、聞きたくてたまらなかった声が耳に飛び込んできたの。


「ディアナ! 心配したではないですか……!」


 柳都は傘を放り投げ、ベンチの下で小さくなっていたあたしを抱き上げてくれた。いきおいすぎて額が輝く眼鏡の縁とぶつかって痛かったけど。


「みゃうっ!!」


 柳都、ごめんなさい。

 あたしがいたら迷惑ばかりかけちゃうだけだよ。

 顔をもっと見たいのに、ぼやけて見えない。 


「あなたは私の大切な猫です。大事なパートナーです。勝手にいなくならないで下さい!」


 何て言われたのかよく分からないけど、お腹の底からぞくっときた。

 彼は泥のついた顔で何も言わず、あたしを強く抱き締めてくれたの。


 冷たい雨を、妙に温かく感じたわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ